呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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48話

 

 

 月たちが北門へと向かい、ラオシャンロンとの戦闘が始まった頃合。

 紅葉、ライム、シアン、焔は西門へと向かっていた。距離的にいえば西門の方が近かったためである。石畳を駆け、ひしひしと感じる狂化竜たちの気配と殺気を肌に受けながら彼女たちは走り続ける。

 その途中、数人のギルドナイトと遭遇することになった。その中にレインとサンがいる。

 

「……む? 君たちは」

「あ、レインさん」

 

 レインが気づいて振り返り、シアンが声を漏らす。彼らも装備を整えており、戦闘体勢に入れるようにしていた。レインが紅葉と向き合って問いかける。

 

「もしや西門へと向かうつもりかね?」

「ええ。奴らが来たんでしょ?」

「そうだ。だがこの先はわたしたちの隊が付いている。西門付近にも父たちの部下が付いているから、これ以上の人手はいらないぞ」

 

 その数は四、五十人らしい。加えて感じ取っていたハンターたちも数人入っており、正直いってこれ以上増えても困るらしい。ならば他の門へと回って欲しいとのことだった。

 

「……報告によれば南門にも確認出来ているそうです。出来ることならば、貴女方にはそちらに回っていただきたいのですが」

「……仕方ないわね。じゃああたしたちはそっちに回りましょ」

 

 南門もギルドナイトの隊がついているが、こちらに比べると少ないほうらしい。月が警戒したのは東西からの挟み撃ちのため、西門に多くの人材を回した結果だそうだ。

 となれば紅葉たちに南門に回ってほしいというのは納得できることだった。ならば方向転換して南門へと向かうことにする。

 

「じゃ、あんたたちも頑張って」

「うむ。健闘を祈るぞ。竜宮紅葉」

 

 紅葉たちを見送ったレインとサンは西門の方を見やる。迫ってくるのは狂化竜たち。

 

「……では、上に上がることにしようか」

「はい、兄さん」

 

 それぞれローブから一つの武器を取り出し、建物の上へと移動することにした。

 

 

 ○

 

 

 南門では狂リオレウスが三頭、狂リオレイアが四頭侵入していた。

 狂リオレウスの一頭は褐色、二頭は蒼色が微かに見え、狂リオレイアは二頭ずつ緑色と桜色が微かに見える。

 つまりシエルR1、シエルB2、ガイアG2、ガイアH2の軍勢ということになる。

 また一頭のガイアHの背にスノーが乗っており、シエルBの背にキングチャチャブーと数匹のチャチャブーが集まって乗っている。

 当然ながら南門は騒然としている。だが上からの報告を受けていたために、すぐに体勢を整えて迎撃の準備をする。バリスタの準備は昨日の深夜に完了させた。あとは弾を込めて発射するだけだ。

 更に魔法使いを待機させ、魔法を撃つ体勢に入る。そしてギルドナイトの一人が全体を見回し、狂化竜を見据える。

 

「撃てえええぇぇぇ!!」

 

 その言葉に従って一斉にバリスタの弾が空を切る。対して狂リオレウスたちは火球を撃ち出して迎撃する。だがそれを逃れていくつかの弾が狂リオレウスたちに命中する。

 またバリスタに命中しなかった火球も南門へと向かっていく。だがそれは魔法使いが展開した火の守りによって南門に命中することはなかった。

 そして守りだけでなく攻撃を行う魔法使いもいる。それらを用いても狂リオレウスたちは止まらずに南門へと迫ってくる。

 

「くっ、バリスタはここまでだ! それぞれ一時退避! 武器での戦いに切り替えるぞ!」

「了解!」

 

 一定の距離まで入ってこられればバリスタを撃ち続けるのは危険である。街中へと退避してそれぞれの武器を構える。

 南門は戦場へと切り替わった。

 

 

 それらの動きを眺めていたスノーは、白いローブの中から愛刀である黒刀【参ノ型】を抜く。

 何気なく横を見ればキングチャチャブーたちが盛り上がっている。部下のチャチャブーたちがシエルBの背中でテンションを上げているらしかった。

 そのまま被っている奇面を揺らして音を奏で、武器を構えて踊り始めた。奇怪で軽快な音を立てながらチャチャブーたちが共に踊りまわり、これからの戦いの為に気分を高めていく。

 首を揺らし、軽快なステップを踏み、その場で回って最後に決めポーズを取る。すると不思議なことにスノーたちに力が宿った。

 

「……ほう?」

 

 奇面族には代々伝わる踊りがあるという。これらは狩猟笛のように様々な効果をもたらす、という研究報告があったらしいが奇面族だけに調査は思うように進んでいない。

 だからこれは疑問視されていたが、どうやら本当のようだ。

 

「ま、悪くはないか。さて、行くか」

「グワアアアアァァァ!!」

 

 街に侵入すると同時にシエルR、B、ガイアG、Hが一頭ずつ地上へと降りていく。スノーが乗っているシエルBはそのまま飛行を続けて街の中心部へと向かっていく。

 そのシエルBから立ち上がり、少しだけ助走して降りていく狂リオレイアの背へと飛び降り、そのまま建物の屋上へと着地する。

 そこにはガンナーらしいギルドナイトが待機しており、突然現れたスノーに驚いていた。

 

「幕開けといくか。まずは、一人」

 

 そう呟いて驚いている間に一息で距離を詰め、その首を刎ね飛ばした。

 作戦では改革派は生かし、保守派を殺す、ということだが、そんなことはスノーには関係なかった。

 彼女としては敵=殺す、の図式が成り立っている。

 なぜならば彼女は敵を斬る殺人鬼なのだから。

 その紅い目が細められ、次なる敵を探す。内から来る衝動は止まることはない。

 ただ斬る、斬り続ける。

 

「……さて、久々に何人斬ることになるのかね」

 

 しかし彼女は無表情だった。そこに喜びがなければ悲しみもない。怒りもなければ敵意すらもない。殺人を行おうというのに殺意すらもない。

 屋上から飛び降り、目に付いたギルドナイトを見据える。その顔はどこから紛れ込んだのか保守派の者だった。

 だがやはり何の感情もない。上から降ってきたことに驚く間に、その者を袈裟斬りにして切り伏せる。これで二人。

 そのまま走り抜けて三人、四人と辻斬りをするように切り捨てていく。

 それはただ機械的に殺人を行っているだけだ。だが彼女の心の中では何かが満たされているかのようだ。

 それが彼女の殺人衝動。

 あの日から始まった「殺人鬼」としての彼女の在り方だった。

 

 

 ○

 

 

 南門を目指すハンターたちの中に紅葉たちも存在している。だがそれを防ぐように空から一頭の狂リオレイアが舞い降りてきた。

 

「よ、避けなさい!」

 

 紅葉の言葉に従って建物の陰へとそれぞれ身を隠す。街での戦闘のため、このように隠れる場所が多いのは利点だ。だが人が作りし建物など、自然の壁をなぎ倒していく飛竜たちにはいずれ壁にすらならないだろう。

 その気になれば建物ごとハンターたちをなぎ倒せるのだから。

 すぐに戦闘体勢に入り、己の武器を構えていく。

 

「あたしが頭に回りこむわ。ライムはアイテム補佐、シアンと焔は翼をお願い!」

「わかりました!」

「りょーかいしました!」

「……了解」

 

 デスヴェノムモンスターを構えて狂リオレイアへと走り出す紅葉に続くように、インセクトオーダーを構えたシアンが翼へと向かう。焔はローブを広げて手を入れ、次々と爆弾を取り出していく。

 ずらりとならんだのは大タル爆弾に大タル爆弾G。

 その顔ぶれに、近くにいたライムが冷や汗を流した。

 

「ふんっ!」

 

 自分よりも大きいはずの大タル爆弾Gを軽々と持ち上げ、前にいるシアンの背に声をかける。

 

「おい、ちびっ子! そっちじゃなく反対側に回りなさい!」

「ちょ、わたしより小さい子にちびっ子って呼ばれたくないよっ!」

「うっさいわ、ちびっ子! 巻き込まれたくなかったら走りなさい!」

「……なんだろう、このやり取り?」

 

 今は戦闘中だというのになぜか笑いが漏れるやり取りに苦笑し、ローブから硬化笛を取り出して吹き鳴らす。これである程度は守りがよくなるだろう。

 シアンも焔たちとは反対側の方、左翼へと回り込み、紅葉も頭に接近してデスヴェノムモンスターを振りかぶる。

 

「おらああぁぁ!」

「グアアァァ!?」

 

 頭を殴ることで狂リオレイアの動きを止め、その間に焔が大タル爆弾Gを振りかぶって右翼へと投げつける。軽々と持ち上げたり投げつけたり、見た目に反してなかなかの怪力のようだ。

 

「グワアアアアァァァァ!?」

 

 響く轟音と悲鳴。

 大タル爆弾Gは狙い通りに右翼へと命中し、大きなダメージを与えた。

 すぐさま置いてある大タル爆弾Gを持ち上げ、怯んでいる間に投げつける。狂化竜に容赦などいらない。それによって右翼がボロボロになり、飛行に支障が出るようになった。

 だがまだ置いているものがある。大タル爆弾があと二つ残っているのだ。それを両手で持ち上げ、交互に右翼と体に投げつける。

 かわそうとするのを紅葉が頭を殴りつけて止め、そして二つの爆弾が爆発した。先ほどよりもマシな爆発と音だが、それでもダメージは大きい。

 そこらのアイルーたちよりも容赦のない爆弾の扱い。月が言っていた頼りになる、というのは本当のようだ。少し予想よりも斜め上に頼りになる、なのだがそれでも大きな戦力というのは間違っていない。

 これで終わるかと思ったら、ローブから己の武器らしいものを取り出す。

 取り出されたのは黒猫の頭。ローブからそんなものが出てきたことにライムがぎょっとする。

 だがそれはれっきとした武器。

 くろねこハンマーと呼ばれる鈍器の武器だ。体に合わぬその大きなものをぐっと握り締めて構える焔は、ライムの視線に気づいてギロリと睨みあげる。

 

「……なに? その目は?」

「あ、いえ……」

「ふん、まあ何となくわかるけどね。でも焔の武器は普通のハンターと変わりはない。……ま、アイルーにしては怪力ってのは自覚してるから、ツッコミはお断り」

「……了解しました」

 

 軽く首を揺らし、足踏みすると、くろねこハンマーを構える。

 

「じゃ、あんたもせいぜい支援を怠らないように」

「はい、いってらっしゃい、焔さん」

 

 ライムに見送られて焔も走り出し、足元に潜り込んで体を回転させて連続してくろねこハンマーを殴りつける。アイルーからすれば重量があるだろうハンマーだが、それを感じさせない軽快な動きだ。

 

「グアアアァァ!」

「おらっ、おらあぁ!」

 

 噛み付いてくる狂リオレイアからステップで回避し、力を込めてデスヴェノムモンスターを上下左右に振るう。爆弾のダメージがある上に、何度も頭を揺らされている。これによって狂リオレイアはその場に留まったままで戦うはめになっている。

 やがて狂リオレイアは頭のダメージがたまって転倒し、その場でもがき始めた。このチャンスに紅葉はデスヴェノムモンスターを構えて力を溜めていく。

 シアンもまた鬼人化を解放して左翼を連続して斬り続け、焔も足から胸へと移動しつつ体を回転させていく。

 ライムはこの間にポーチからシビレ罠を取り出し、狂リオレイアの足元に移動して素早く設置する。

 

「はああぁぁぁ!!」

 

 そして力を溜め終えた紅葉がその頭に一気にデスヴェノムモンスターを振り下ろし、その堅い甲殻を叩き割った。

 

「グワアアアアァァァァ!?」

 

 砕けた甲殻の下から肉が露になり、下から血が噴き出してくる。何度も打ちつけたことでヒビが入っていた甲殻が今の一撃で割られたのだ。額から血を流した狂リオレイアが起き上がり、紅葉へと反撃を行おうとしたが、足元にあったシビレ罠を踏んでしまい、今度は体を痙攣させてしまうことになる。

 焔はくろねこハンマーをローブへとしまい、再び大タル爆弾を取り出して足元に設置していく。最後に小タル爆弾を設置し、それらを起爆させた。

 

「ゴアアアアァァァ!?」

 

 甲殻を吹き飛ばすその一撃に包まれて狂リオレイアが転倒する。足元を何度も殴られたうえに爆破されたのだ。転倒するのは当然の結末。

 加えてデスヴェノムモンスターの毒が回り始め、力が入らなくなっているのも関係している。爆弾による攻撃を受け続けるに加えて毒による内部からのダメージ。更に頭を揺さぶられ、とどめとしてくろねこハンマーによって麻痺らされてしまう。

 爆弾から始まった紅葉たちの一方的な展開により、狂リオレイアは追い詰められていくことになる。

 

「シメるよ!」

「おっけーです!」

 

 転倒と麻痺によって動けない狂リオレイア。頭へと再び渾身の一撃を放つために紅葉は力を溜めていく。シアンも再び鬼人化し、今度は剥き出しになっている胸元へと回りこんで乱舞を開始した。

 爆弾が効いており、鱗が吹き飛ばされて肉がそこにある。それを狙って何度も斬り続け、どんどん血を流していく。

 

「おるぁぁぁああああ!!」

 

 とどめとなるのは紅葉の一撃。先ほど打ち込んだ場所へと再びデスヴェノムモンスターを振り下ろし、それによって狂リオレイアは絶命した。

 死体となった狂リオレイアを見据え、焔は小さくうなずいた。

 

「狂リオレイアにしてはまだ甘い方ね。たぶんこいつは元々下位のリオレイア」

「そうなんだ。……でも焔の爆弾が強すぎると思うんだけど」

 

 硬い甲殻だろうがお構い無しに吹き飛ばす爆弾の連続。これがあったからこそ紅葉たちはこうして一方的に戦うことが出来た。言い換えれば焔がいたからこそここまでの戦いが出来たといってもいい。

 あとは狂リオレイアにとってこの道が狭いということだろう。それによって走り回れず、近づく紅葉たちには噛み付きか振り払いでなければ対処できなかった。飛ぼうともしていたようだが、最初の爆弾によって右翼が潰されたのも大きい。

 何はともあれ、これで狂化竜の一頭が落ちた。他の狂化竜たちを倒すために紅葉たちは再び走り出す。

 

 

 ○

 

 

 道を走るのは三人のハンター。その背後の空から狂リオレウスが飛行しながら迫ってくる。それはスノーを乗せていたシエルB。彼らを見つけたことで敵とみなし、攻撃を開始したのだ。

 

「黒いレウスってどうなんだよ……聞いてないぜ!?」

「……ノグル、少し黙るです。うるさいです」

「いや、だから俺はレグルだって」

「……この状況だってのにいつも通りだね」

 

 後ろを走る黒髪の女性が苦笑する。緊急伝令が発令され、待機していた三人は一応飛び出して街を走ってみた。すると空からあの狂リオレウスが現れてしまい、レグルとセアラが走り出してしまった。

 そして女性も走り始めると狂リオレウスが追跡を開始し、今に至ることになる。だがいつまでも逃げ続けられるものでもないだろう。いつかは体力が切れてしまい、追いつかれるのは目に見えている。

 

「レグル君、君の力であれを落とせないかな?」

「……閃光ですか?」

「そうそう。いつまでも逃げ続けても何も変わらないからね。腹を括ろうじゃない」

「……まあやってみますよ」

 

 チラッと肩越しに狂リオレウスを見上げ、右手を額に当てて力を込め、一つの白い珠を作り上げる。立ち止まって振り返ると同時に、それを撃ち出して狂リオレウスの眼前に届かせる。

 

「ふんっ!」

 

 伸ばした右手をぐっと握り締めるとそれが強い光を放ち、狂リオレウスを地面に墜落させた。

 これはレグルの魔族が身につけた能力。レグルの血統にはゲリョスの因子が混ざっており、ゲリョスの閃光を操る力と、ゴム質の皮に近しい皮膚によって打撃に強くなっている。

 閃光はレグルが粒子を操って一つの球を作り上げ、額、正しくは脳から放たれる波動を珠に当てることで閃光効果と同じ性質へと変化させる。この波動は粒子に影響を与え、使いこなせれば珠を作り出さなくても光を放つことが可能になるという。

 しかしレグルはまだ子供のため、種となる珠を作るところから始めなければならない。

 

「よし、それじゃあ行くよ!」

「……はいです、ベルベルさん」

「……ベルゼラ、だからね?」

 

 女性、ベルゼラが苦笑しながら背負っている夜刀【月影】を抜き放つ。漆黒に染まる刃を狂リオレウスへと向け、ベルゼラは一気に疾走する。その速さは優羅に迫るものがある。あるいは彼女よりも速いか。その速さを乗せた一太刀を顔から首へと横薙ぎに斬り、そして右翼を切り伏せる。

 それに続くようにセアラがエメラルドスピアを構え、レグルがツキサシを構える。そして二人は同時に走り出して狂リオレウスへと疾走する。そのままランスを構えたまま走り続け、顔から体へと連続してランスのダメージを与えていく。

 右翼に回ったセアラはエメラルドスピアを回転させて内包されている水を溢れ出させ、ぐっと棍を握り締めて振り下ろす。同時にセアラの体に電流が走り、それは棍から矛先、そして水へと伝わる。

 水流によるダメージに加えて電流のダメージが加わり、右翼に多大なダメージを与えることとなった。

 セアラの血統にはフルフルの因子が混ざっている。これによって細胞が発電機能を持ったのだ。作り上げた電気を使って攻撃するだけでなく、電場を作って周囲の状況を察知することも可能となっている。

 己の電気を攻撃にするため、セアラの武器は自然と水属性となったらしい。そうして辿り着いたのがエメラルドスピアだ。

 先ほどの一撃では止まらず、続くようにして回転させて外殻を斬るだけでなく再び水を作り、今度は突き上げて翼膜を貫く。続けて電流を流して周囲を電熱で焼き上げる。

 その時狂リオレウスの背中の上をベルゼラが回転しながら飛び越え、同時に夜刀【月影】で背中を切り裂いていく。眼前に着地した彼女は振り返ると同時に切り払って狂リオレウスの両目を潰した。

 

「グアアアアァァァァ!?」

 

 転倒していたために切り払うだけで容易に両目を潰せたのは僥倖だろう。また夜刀【月影】はナルガクルガの鋭い翼を使用しており、切れ味は抜群。堅くなった顔の甲殻に止められずに振りぬけたのも大きい。

 痛みに暴れる狂リオレウスだが、すぐに体を硬直させる。セアラが展開させた電気の網に囚われ、麻痺に近しい状態になっている。レグルとベルゼラが触れないように電流を操作しており、その技術の高さから恐らくは今までもこうして飛竜の動きを止めたことがあるようだ。

 このチームは主にこの役割で行動していた。

 レグルの閃光で相手を止め、セアラが電流を用いてダメージと同時に麻痺を誘発させ、ベルゼラが敵を切り伏せる。

 それぞれが役割を持ち、それによって今までクエストを成功させてきた。

 今回の敵は異質ということもあるが、根本的な役割は変わることはない。

 だがそれによって発生した問題もある。

 思った以上にこの狂リオレウスの甲殻が堅いのだ。ベルゼラの夜刀【月影】なら多少は問題なかったが、レグルのツキサシとセアラのエメラルドスピアでは時折弾かれてしまう。

 これはこの狂リオレウスが、リオレウスの亜種である蒼火竜であることが関係している。

 亜種である蒼火竜、リオソウルは原種と比べれば数段高く堅くなっている。それが狂化によって更に堅くなっているのだ。ツキサシとエメラルドスピアでは弾かれるのは当然のことだろう。

 レグルは己の武器が通用しないことを悟り、ツキサシを背に戻してベルゼラの後ろへと回り込む。それを横目で確認しつつ、ベルゼラは夜刀【月影】に気を纏わせていく。

 目の前には血涙を流している狂リオレウス。それを見据えて気を高めていき、気刃斬りを放つ体勢に入っていく。

 

「グルル……!? ァァァアアアア!!」

 

 高まっていく気質に感じるものがあったのだろう。セアラが起こす電気による麻痺を気力で振り払い、目の前のベルゼラに火球を打ち出そうとする。

 

「遅いよ」

 

 だがそれより早く、ベルゼラは気刃斬りを放ちつつ顔の横を通り抜けていく。そして左翼を二撃、三撃と斬りつけることで切断し、切り口から血が噴き出した。

 

「ガアアアァァァ!?」

「はああぁぁ!」

 

 振り返りざまに一刀を振り下ろし、胸を逆袈裟斬りにする。それによって首から傷が作られ、更に血が噴き出すこととなった。

 

「ガアアアア!? グア、グオオオアアアア!?」

 

 最後の抵抗なのだろうか。狂リオレウスが今まで以上に暴れだし、右翼付近にて電気を発生させていたセアラが巻き込まれる。

 

「セアラっ!」

 

 そこにレグルが駆け寄り、セアラを守るように盾を構えて前に出る。セアラは盾を持たずにエメラルドスピアを両手で操るタイプだ。なので守るとするならばエメラルドスピアを盾にするか、その足で逃げるしかない。

 

「くっ……」

「レグル……」

「だから、レグルだって言ってんのに……! ……って合ってるし!?」

 

 時折迫る尻尾と翼を盾で防ぎながらいつもの言葉を口にする。

 暴れる狂リオレウスは己を斬った者であるベルゼラへと顔を向け、火球を撃ち出すが、背後に跳躍して建物の壁に足を付け、そこから更に跳躍して夜刀【月影】を構える。

 ベルゼラの血統はナルガクルガの因子が混ざっている。これによって尋常ではない速さと、木の幹や建物を蹴っての三角飛びなどの体術を得意としている。また夜目だけでなく相手の温度を感じ取り、それを頼りに生物を判別することも可能としている。

 

「これで……終わりだ!」

 

 頭上からの斬り下ろし。それが決定打となり、狂リオレウス、シエルBは倒されることとなった。

 魔族としての能力と、G級太刀であり、最高ランクの切れ味を持つ夜刀【月影】によるダメージを前には、狂リオレウスはなす術がなかったようだ。

 亜種としての甲殻の堅さに加えて狂化による硬化も確かにあった。しかしベルゼラの太刀の技術の高さも加わった夜刀【月影】では、少ししか防ぐことが出来なかった。

 

「大丈夫かい?」

「……はい。私は問題ないです」

「俺も問題ないぜ」

「そう、よかった」

 

 二人の無事を確認したベルゼラが軽く微笑する。

 だがここで戦いが終わったわけではない。それぞれ武器を研ぎ直し、次の狂化竜へと移動を開始する。

 向かう先は現在混戦状態になっている南門。しかしそんなことになっているなど彼らは知る由もなかった。

 

 

 ○

 

 

 切り捨てた数はもう十を超え、現在十三人。街の中心部へと向かうたびに改革派から保守派が増えてきている。どうやら保守派が連絡を受けて出動してきているようだ。

 ギルドナイトでは改革派より保守派の方が数が多いと聞く。ならば次第に保守派が増えてくるのは当然のことだろう。

 切り捨てた数の中の二人は普通のハンターだ。狂化竜に対処するために出向いてきたようだが、その姿を確認した時につい切り捨ててしまった。装備からして下位のハンターだったらしい。どうでもいい。

 ここは戦場。一々切り捨てる相手のことを気にかけることもない。

 黒刀【参ノ型】に付いた血を、紙を取り出して拭っていく。そして砥石を取り出して切れ味を戻していく。その間にもセンサーを広げて誰かいないかと探してみる。

 そこでガイアHと戦闘しているらしいハンターとアイルーを感じ取った。その中で一人の気配を感じ取り、スノーの紅い目が細まる。

 

「……あの時の奴か」

 

 ライム・ルシフェル。

 彼とは何かと縁がある。

 ミナガルデの二度目の出会い、そしてドンドルマにて三度目の出会い。よもやこうして手にかけるときがくるとは、人生何が起こるかわからないものだ。

 アキラからの報告によればクロム・ルシフェルは未だに見つかっていないとのことだが、彼はもう死んだのだろうか。

 

「……まあそっちの方はどうでもいいか」

 

 今はあのライムのことだ。あの時の覚醒には驚いたが、己の血を完全に扱いきれていない。「狩る者」にも「殺す者」にもなりきれていないライムなど恐れるに足りない。

 

「さて、斬りに行くか」

 

 準備を完了させたスノーは表情を変えずに走り出す。

 向かうは紅葉たち『吹雪(ブリザード)』。

 彼女たちの下に白き殺人鬼が訪れようとしている。

 

 

 ○

 

 

 放たれる火球を回避するように建物の影に身を潜める。狂リオレイア、ガイアHとは真正面から出会ってしまったために、こうして隠れるしか出来ない。次第に石畳が割れ、建物も火球によって窪みや溶解が生まれてくる。仕方がないので路地を通って回り込もうかとも考えてしまう。

 

「出鼻を挫かれたわね……」

「では、僕が……」

 

 そう言いながらライムが閃光玉を取り出し、少しずつ建物の陰から顔を出す。火球がやんだところを狙い、ピンを抜いて狂リオレイアへと放り投げる。すぐに陰に潜むと、強い光が発生して辺りを包みこんだ。

 次いで聞こえる悲鳴から目を潰されたことがわかる。

 

「ナイス! 行くわよ!」

 

 デスヴェノムモンスターを構えて紅葉が飛び出すと、反対側で潜んでいたシアンと焔も走り出す。手筈は先ほどと変わることはない。紅葉が頭を揺らし、焔が爆弾を使って翼を潰す。

 シアンは反対側へと回って切り続けることでダメージを稼いでいく。そしてライムはその後ろでアイテムの補佐だ。

 デスヴェノムモンスターを構えて疾走するが、狂リオレイアは視界を潰されたことで暴れ始める。目の前に敵がいる気配は感じ取っているようで、闇雲に火球を撃ち出し始めた。

 

「んなっ!?」

 

 これでは近づくこともままならない。建物の窓を叩き割って室内へと飛び込んでそれを回避し、もう一度狂リオレイアを見てみる。そこで火球が飛んできて慌てて中に戻り、壁をデスヴェノムモンスターで殴りつけて穴を作って脱出する。

 建物破壊?

 そんなもん、街中で戦闘すれば自然とそうなるから気にしないことにする、と紅葉は自己完結する。

 火球が連続して放たれる中、焔は体が小さいことを利用して走り抜けていた。ローブから小タル爆弾を取り出し、狂リオレイアの眼前に投げつける。火球が小タル爆弾に着弾して爆発し、狂リオレイアの鼻先を焼く。

 

「ガアアァァッ!?」

 

 突然のことに驚いた狂リオレイアに、今度は大タル爆弾を取り出して投げつけてやる。それも狙い通りに頭にぶつかり、そのまま爆発した。

 

「グアアアアアァァァ!?」

「ナイス、焔!」

 

 生まれたチャンスに紅葉が建物から飛び出して狂リオレイアへと向かっていく。デスヴェノムモンスターを構え、その顔へと勢いをつけて振り上げる。顎から穿たれた一撃に狂リオレイアが呻き声を上げ、反撃させまいと振り上げたそれを軽く跳躍して頭から叩き落す。

 顔が石畳に付いたことで、接近していたシアンがインセクトオーダーを構えて通り過ぎざまに頬を切り裂いていく。そのまま体の下に潜り込み、体を回転させて足から腹へと切り上げていく。

 インセクトオーダーの切れ味ならばある程度は通るようだが、それでも傷は浅い。やはり下位の武器では切れ味が足りないのだ。しかしそれも気を込めることである程度は突破できる。

 修行では気の初歩的なことを雷河から教わっている。シアンは気に対しては適合が見られたため、ちゃんと仕込めばインセクトオーダーの切れ味上昇などに使えるかもしれないと推測された。

 それによってインセクトオーダーでもある程度は刃が通るようになったが、それでも時折弾かれてしまう。しかしそれでもシアンはインセクトオーダーを振るい、右翼へと回り込んでいく。

 左翼についた焔はローブから大タル爆弾Gを取り出し、左翼へと投擲する。再びあたりに響き渡る轟音と、大きな爆発と爆風。ビリビリと空気が振動し、建物の窓が割れていく。

 

「グアアアアアァァァァ!?」

 

 顔をしかめながらも紅葉はデスヴェノムモンスターを振るい続ける。彼女とシアンの周りには風が渦巻いており、ある程度の音を流している。これで少しだけ轟音と悲鳴から身を守っているのだ。

 それでも完全に防ぎきれるものではないが、ないよりはマシ。少し離れた所でライムは再び硬化笛を吹き、続いて鬼人笛を吹く。吹いた後は流れを見守り、シビレ罠や閃光玉を使用するタイミングを窺う。

 だが背後から急速に迫る気配に気づき、慌ててデスパライズの盾を構えて振り返った。次いで襲い来る黒い刃。

 

「――ほう? 気づいたのか」

「あ、あなたは……!」

 

 そこにいたのは白いローブを纏った白い少女。『鮮血(ブラッディ)()白雪(スノー)』と呼ばれた人物だった。ギリギリと盾が音を立てており、いつまでも防ぎきれるものではない。何とか力を込めてそれを振り払い、数歩下がって距離を取る。

 スノーも黒刀【参ノ型】を構えて、軽く目を細めてライムを見据える。

 

「ふん、少し変わったな。鍛えられたか?」

「……おかげさまで」

「そうか。まあ私としてはどうでもいいんだが」

 

 そう言いながら黒刀【参ノ型】を握り締める。

 

「私はお前を斬れればそれでいいんだからな」

「……そう、ですか」

 

 少しだけ悲しそうな顔をし、ぐっと右手を握り締める。

 そこで背後で狂リオレイアと戦っているシアンがライムとスノーに気づき、紅葉に声をかける。

 

「紅葉さん! あの白い人が!」

「……んなっ、ライム!?」

 

 目を見開いてその状況を見つめる。紅葉はあの時正気じゃなかったので、スノーを見るのはこれが初めてだ。しかしシアンたちに話には聞いていた。

 黒刀【参ノ型】を操り、どこか危険な闇を孕んだ少女。

 そういう風に聞いている。対竜戦ではなく、対人戦に向いている、と獅鬼が判断しているくらいであり、ライムでは分が悪いことは明白だ。

 しかしこの状況では救出に向かうことは難しい。狂リオレイアを倒すには紅葉の火力も必要だ。ならば向かわせるならシアンの方がいい。

 

「シアン! あんたがライムに……」

「紅葉さん、必要ありません」

「……は?」

 

 だがライムは救出の手を拒んだ。

 そのことに紅葉たちだけでなくスノーも驚いた。いったい何を言っているのか、という風にライムを見つめる。

 

「……僕だって修行してきたんです。それに、この人とはもう一度話がしたいと思っていたんですよ」

「話、か。私としては話すことはないんだがな」

「あなたになくても、僕にはありますよ。なんだかあなたとは他人のような気がしないんですよね」

「……ほう?」

 

 そこで初めてスノーが微かに笑みを浮かべた。ライムの言葉が意外そうであり、純粋な驚きの色がそこに現れている。

 

「他人じゃない、か。……なるほど。だが、先ほども言ったように、私にはお前と話すことはない。何故なら私はお前を斬りに来たから。斬る相手と交わす言葉はない」

「それでもお話しましょう。話してくれないならば、無理にでも聞き出してみせます」

 

 そう言いながらローブの中に手を入れていく。

 その様子にスノーはやれやれと肩を揺らし、首を振る。

 

「頑固な……。だが話をするにしても、お前の武器では長くはもたないだろう? 話をしようにも時間が足りない」

「……いいえ、問題ありませんよ」

「……なに?」

「僕が使うのはデスパライズじゃありませんから」

 

 取り出したのは確かにデスパライズではない。

 そこから現れたのは鈍色の片手剣だった。

 

 

 昨日の夜のことだ。

 会議を終えて解散していく紅葉たちの中で、ライムは獅鬼に呼び出されて離れた場所に移動していく。

 

「獅鬼さん、何か御用でしょうか?」

「うむ、お前に渡しておくものがあってな」

「僕に?」

 

 そして獅鬼はローブの中から一つの片手剣を取り出した。

 オデッセイブレイド。

 上位の片手剣であり、水属性を内包した武器である。素材の中に一概にレア素材と呼ばれるものを二つ使用しており、なかなか入手できない片手剣として知られている。

 

「……あの、もしかして、コレ、ですか?」

「ああ、そうだ」

「……いやいや、こんなもの、僕に渡されてもっ!?」

 

 上位ハンターでないライムがこれを持つ訳にもいかないが、それ以前に武器の譲渡など違反行為。だが獅鬼はくつくつと笑い、無理やりライムに握らせた。

 ずっしりとくる重さだが、修行によって鍛えられたことで、少しだけ顔をしかめるだけに収まる。

 

「なぁに、これは元々オレのものではない」

「え?」

「これはな、ある少女から『礼』だの『報酬』だの『借りたものを返す』だの言われて強引に渡されたものだ」

 

 その時のことを思い返しているのだろうか。獅鬼は妙に面白そうな笑みを浮かべている。

 だがそれでもライムは少しだけ遠慮している。そんなライムに、獅鬼は笑みを消してじっと見下ろす。

 

「……小僧」

「はい?」

「お前の武器はデスパライズだけだろう?」

「……はい」

 

 サーベントバイトから順当に強化していったため、ライムの持っている武器はデスパライズだけ。他に武器は作らず、ずっとこれ一本で戦ってきた。所謂、愛剣と呼べるほどのものになっている。

 

「もし、あの時のようにスノーに出くわした場合、あの少女は恐らくお前を殺しにかかるぞ?」

「……そう、ですか?」

「ああ。あれは一種の殺人鬼だ。あの時殺し損ねたお前の前に現れる確率が高い。……いや、他の要因も孕んでいるやもしれんが、まあいい。とにかく明日、お前を殺しにかかるとオレは推測する」

 

 獅鬼は仮面の下からじっとライムを見据えている。その視線、その雰囲気から獅鬼は真面目に話しているのだとわかる。

 そしてその推測は恐らく当たるかもしれない。月や獅鬼たちの推測というものは、何故かそうなのだろう、と思わせる何かがある。

 

「デスパライズではまた武器を破壊される。そうなれば、今度は死ぬぞ?」

「…………」

「だから護身用に持っていけ、と言っているのだ」

 

 なるほど、とライムは納得する。獅鬼の言うことは正論だ。武器を破壊されてしまえばライムはなす術はない。

 いや、まだ魔法が残されているだろうが、魔法使いと剣士では魔法使いのほうが分が悪いことが多い。魔法を行使する前に接近されれば斬り伏せられるのがオチだ。

 加えてライムは魔法使いとしてもまだまだ未熟だ。そうなるのは目に見えている。

 

「それにそれはあの少女が使い込んでいるからな。今のお前でも充分に使えるのではないか?」

「……そうですね。なんだかしっくりとくるような……?」

「だがその剣は多くのものを斬り伏せている。加えてあの少女の気質も微かに残っているだろう」

 

 そう言われてライムはオデッセイブレイドを見つめる。すると刀身は少しだけ赤く染まり、柄には黒く揺らめく何かが視えたような気がした。

 何度か瞬きをしてもう一度見るが、もうそれは視えなくなってしまっていた。

 何故か悲しくなるような、そして心が揺さぶられるようなものだった。それにあの黒い気質はどこかで見たことがある気がしたが思い出せない。

 

「お前とは浅からぬ縁がある。だからお前ならば少しは使いこなせるだろう。それに、お前の血は前に言ったように、あのシュヴァルツの末裔なのだからな」

「……」

「まだお前ではその血を扱いきれんだろうが、それでも少しは引き出すことが出来ればあるいはスノーと斬り結べるやもしれんぞ?」

 

 狩る者、あるいは殺す者であるルシフェル……いや、シュヴァルツの血統。

 あの時は覚醒したものの、正気ではなかった。ある意味暴走といえる覚醒。あの感覚を制御することが出来ればスノーと戦い続けられる。

 だが今の自分に出来るのだろうか。そんな不安がライムを包み込んだ。

 

「今のお前は未熟だ。この数日で叩き込んだが、それでも足りないかもしれん。だが覚醒しようとしてもそれはそれで問題があるだろう。失敗して殺す者に堕ちることになれば、湧き上がる殺意は抑え切れんぞ。待ち受けるのは血みどろの未来だ。そうなりたくなければ、何としてでもそちらに堕ちることなく己の血統を制御しろ」

「……はい」

「怖いのならば、無理に呼び覚ます必要はない。お前は己のことを知るには遅かった。だが事情が事情だから無理からぬこと。だがそれでも呼び覚まそうというならば、心を強く持つことだ。それだけでもある程度は何とかなるやもしれん」

 

 そこで獅鬼は軽くライムの頭を撫でてやる。

 

「決めるのはお前だ、小僧。己の力で戦うか、あるいはリスクを覚悟で血を呼び覚ますか。あとは流れるままに事が進むだろう」

「……はい、わかりました。ありがとうございます、獅鬼さん」

 

 

 抜いたのはオデッセイブレイド。左手に盾を嵌め、鈍色の剣を握り締める。

 対するスノーはライムがオデッセイブレイドを持っていることに少しだけ驚いていた。だがすぐに冷静になって黒刀【参ノ型】を構える。

 

「なるほど、誰かから貰ったか。あるいは借りたか? 何にせよ、私と戦う覚悟はあったようだな」

「ええ。覚悟は既に出来ています」

 

 一度目を閉じ、呼吸を整えて見開く。ゆっくりと体勢を整え、スノーと向き合う形になる。スノーもまたライムの覚悟を見たことで呼吸を整えていた。

 そこにいるのは弱気な少年ではない。

 覚悟を決めた一人の戦士である。

 少しだけ予定が狂ったが問題ない。何にしてもライムを斬ることには変わりはない。

 

「……いいだろう。来い、ライム・ルシフェル。お前の覚悟とやらを見せてもらおう」

「いきます……!」

 

 ここに二人の魔族がぶつかり合う。

 

 

 

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