呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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4話

 

 

「ガルル……!」

「黒く染まったドスランポス、か。なかなか異質じゃないか。いったい誰がこんなことをしたんだろうね?」

 

 数度オベリオンを振って付着した血を払いながら呟く。黒いドスランポスはじっと月を見つめて隙を伺っていたが、チラッとライムとシアンを見つめた。

 

「二人とも、そこから移動を。私の後ろに回るといい。そしてエリア10へと移動するんだ」

「は、はい……」

 

 月がすり足で二人の前へと少しずつ移動しつつ言うと、二人は黒いドスランポスを見つめながら移動していく。

 

「ギャオワッ!」

 

 だがそれを許しはしなかった。走り出して二人に飛びかかろうとする。だがその前にオベリスクを盾にしながら月が出る。

 

「おっと、いけないな。ふんっ!」

 

 盾にしたまま前に押し出すと黒いドスランポスの体が後ろへとのけぞる。そのまま右手に持ち直して片手で薙ぎ払うが、すぐに体勢を立て直した黒いドスランポスは跳躍してそれを飛び越す。着地と同時に身を低くして突進してきた。

 

「むっ!?」

 

 後ろにはまだ二人がいる。これをかわすわけにはいかなかった。そのため左手に持ち直すと同時にまたオベリオンを盾にする。強い衝撃が月の体を襲うが、地面を踏みしめてここをこらえる。

 

「……やはりドスランポスにしてはなかなかの筋力だね。これはアレと見ていいのかな?」

「ギャルル、グルァア!」

 

 オベリオンの奥から唸り声が聞こえる。ひしひしと伝わってくる壮大な敵意と殺気。それに月は苦笑するしかなかった。

 

「月さん!」

「大丈夫ですか!?」

 

 背後からシアンとライムの心配そうな声が聞こえてくるが、振り返らずに応える。

 

「大丈夫。君たちはさっさと離れるんだ。もたもたしていると、クックも……」

「クワッ! クワァア!」

 

 そう言っている間にイャンクックの鳴き声が聞こえてきた。もたもたしているとすぐにでもこちらにやってくるだろう。

 

「……やむを得ないな。ドスランポス、場所を変えようか」

 

 そう呟くと再び黒いドスランポスを押し返す。そのまま側面に回って跳躍し、その横っ腹めがけて回し蹴りを放った。

 

「グッ、グルァアア!?」

 

 突然のことに黒いドスランポスは困惑したままエリア9へと繋がる坂へと飛ばされてしまった。その光景は流石にライムもシアンも唖然とするしかなかった。

 

「ここは任せたよ、二人とも。何とかイャンクックを討伐するんだ」

「……あ、は、はい」

 

 正気に戻ったライムが慌てて頷いた。その脇にさっきまで浮遊していた荷車が着地する。

 

「では頑張って。私はあのドスランポスを押さえておくよ」

 

 そういい残して彼女はエリア9へと向かっていった。残された二人はまだ少し呆然としていたが、視界の奥にイャンクックが見えるとハッとして立ち上がる。

 

「ドスランポスは月さんが何とかしてくれるし、わたしたちは本来の目的を達成しないとね、うん」

「そうだね、うん」

 

 突然のことで混乱続きだったため自分に言い聞かせるようにうなずく二人。ポーチから砥石を取り出したシアンは素早く刀身を磨き上げて切れ味を戻す。混戦によって砥石を研ぐ暇がなかったため、所々刃こぼれしていた。

 ライムもまた砥石を使用して切れ味を戻し、回復薬を飲み干す。更に残っていた携帯食料を口にし、なんとか呼吸を落ち着かせる。

 

「クワ! クワワ!」

 

 準備を終えた二人の前にイャンクックが突進を始める。

 

「じゃあこれを最後にするよ!」

「オーケー!」

 

 シアンの言葉にライムが呼応し、そのくちばしから逃れる。そして生まれた隙を逃さずに足を斬りつける。

 

「クワ! クワァア!」

 

 尻尾を振って足元のライムを振り払おうとするが、身を低くしてそれをやり過ごして距離を取る。

 

「せい、やあっ!」

 

 前に回ったシアンがすかさず胸元を斬りつけて離脱する。離れているライムより近くにいるシアンから仕留めようとイャンクックはシアンを標的とした。その背後でライムが隙を伺っていると、何かを思い出したようにポーチに手を入れて探り出す。

 

「……そうだ、あれがまだあったはず」

 

 そして見つけたもの。それはシビレ罠だった。地面に設置することで使用する罠の一つ。敵が掛かればその麻痺の力によってその動きを止めてしまう罠だ。落とし穴と比べれば効果時間が短いが、設置の時間が短く、場所を選ばないという利点がある。

 うなずいたライムは距離を取ってそれを地面に設置した。設置音がすると中心部から微弱な電気が放出され始める。

 

「シアン! こっち!」

 

 手を振って呼びかけると、ライムの足元を見てシアンがうなずいた。イャンクックを引き付けながらシビレ罠へと近づいていく。そしてシビレ罠を飛び越すとイャンクックの体が痙攣し始めた。

 

「グ、グワァア!? グ、グオォア……」

「よし! チャンス!」

 

 すかさず鬼人化をして前から乱舞を始める。ライムも足元を狙って何度も何度も斬りつける。するとイャンクックの耳が少しずつ垂れ始めた。

 

「弱ってる、弱ってるよ! もう少しだよ! 頑張ろう!」

「うん!」

「グ、グ、グォオ……」

 

 甲殻や鱗がはがれ落ち、肉を切られて出血が酷くなってもなお二人の手は止まらない。やがてシビレ罠の効果が切れると、イャンクック足を引きずりながら移動を開始した。

 

「逃がさないよ!」

 

 シアンがポーチから閃光玉を取り出し、ピンを抜いてイャンクックの目の前へと放り投げる。目を閉じると同時に闇の中に強い光を感じるとともに、イャンクックの悲鳴が聞こえた。

 

「ここで決めるよ!」

 

 再び前に立ち、剥き出しになっている肉をめがけて再び乱舞をする。ライムもまた鱗がはがれ落ちている足にサーベントバイトを突き立て、斬りつけていく。すると、その巨体を支える力が抜けたのかイャンクックの体が転倒した。

 

「グオッ! グオォォ……!」

 

 その声は最初の頃に比べて弱々しい。だが手を抜くわけにはいかない。ライムの腕は何度も斬りつけ、そして何度もその天然の鎧に刃が弾かれてきたため、もう痺れるような疲れを感じていた。体がもう悲鳴を上げている。

だが疲れようとも振るい続けなければならない。まだ戦いは終わっていないのだ。

 

「ふっ、ふっ、このっ……!」

 

 だから斬る。斬り続ける。

 この怪鳥イャンクックを狩るまでは。

 

「これで、終わりっ!」

 

 そしてその叫びと共に勢いよく振り下ろされた二振りの刃。それはイャンクックの顔を縦に切り裂いた。

 

「ク……オ、オォオ……」

 

 弱々しい断末魔の叫びを残し、イャンクックは絶命した。

 しばらくライムは呆然と立っていた。イャンクック絶命したというのに、その実感がまだ沸いていなかったのだ。

 

「……ふぅ」

 

 一息ついたシアンがチーフシックルの刀身に付着した血を振り払って腰に戻し、呆然としているライムの肩を優しく叩く。

 

「終わったよ。お疲れ様」

「……終わったんだ……」

 

 そう呟くと同時にライムの腰が抜けた。地面に弱々しく座り込んで大きく息を吐く。

 

「あ、はは……。だめだなぁ……。今更震えが来たよ」

「しょうがないよ。誰だって最初はそうだもん。飛竜最弱~なんて言われてるけど、クックだって立派な飛竜だからね。その存在感や威圧感に当てられない新米ハンターはいないよ」

 

 穏やかに笑ってシアンが言うと、微かに苦笑しながらライムもうなずいた。

 

「さ、剥ぎ取っちゃおう。立てる?」

「……うん」

 

伸ばされた手を取って立ち上がるとイャンクックの剥ぎ取りに掛かる。だがその素材を剥ぎ取っている途中でライムはハッとして顔を上げる。

 

「……そうだよ、まだ終わってない」

「え?」

「月さんとあのドスランポスが残ってるよ」

 

 そうだ。自分たちがイャンクックと戦う時間を稼ぐために彼女は一人で戦っている。ドスランポス程度のものならば、彼女にとっては苦にはならないだろうが、あれはただのドスランポスではない。

 大丈夫なのだろうかとエリア9方面に視線を向けると、強い衝撃音が聞こえてきた。

 

 

 数分前のこと。エリア9では二つの影が相対していた。

 一つは月。オベリオンの柄に手をかけながら、ゆっくりと距離を取って隙を伺っている。

 一つは黒いドスランポス。身を低くして唸り声を上げながら、襲い掛かる隙を伺っている。

 彼はこの月という存在に多少の驚きを感じていた。よもや跳躍して自分の腹を蹴り飛ばし、あそこからここまで飛ばしてくるとは思いもしなかった。よく見れば、人間にしては耳が尖っている。つまり人間じゃない。

 人間じゃないから、あんな芸当が出来るのか。

 それは否。竜人族だろうと魔族だろうと、そう簡単に出来ることじゃない。強靭な脚力がなければそんなことは不可能だ。

 

「グルルル……」

「どうした? 来るならさっさと来るといい」

 

 挑発しているがそれでも彼は来ない。だが逆に月にとってはそれでいい。これは時間稼ぎでもあるのだから。あの二人がイャンクックを討伐するまでの時間稼ぎ。ランポスたちはリーダーがこっちに飛ばされたためにこちら側へと移動してきた。

 辺りを見渡せば自分を取り囲むようにしてランポスたちが威嚇をしている。ランポスは戦闘時にはリーダーの周りに集まる傾向にある。それを利用してランポスたちもまたエリア3から移動させたのだ。

 全ては月の思惑通りに事が運んでいる。あとは、時間を稼ぎつつこの黒いドスランポスを討伐するのみ。

 

「来ないのなら――」

 

 気を高めて柄を握り締める手に力が入る。

 

「――こっちから行くよ?」

「グルァアアアア!!」

 

 月が来ることを感じ取ったのか黒いドスランポスが雄たけびを上げた。それに呼応してランポスたちも泣き声をあげて月へと接近していく。

 

「ふんっ!」

 

 オベリオンを抜き取ると同時に体を捻ってその場で1回転する。遠心力をつけて薙ぎ払われたオベリオンにより、接近していたランポス6匹が体を分断されて絶命する。

 だがそれは同時に隙が大きい攻撃でもある。それを逃さない黒いドスランポスではなかった。人とは比べ物にならない速さで月へと接近し、くちばしを開けて牙を向ける。

 だが月は更に回転してオベリオンを振り上げた。

 

「ギャオワッ!?」

 

 それは野生のカンだったのだろうか。黒いドスランポスは首をのけぞらせた。そのまま首を下げていれば勢いよく振り上げられたオベリオンによってその首が飛んでいただろう。

 しかも月はそのまま手を離してオベリオンを放り投げる。

 

「……ふっ!」

 

 再び体を捻り、そのまま右手を開いてのけぞっている黒いドスランポスへと打ち付けた。

 

「ガ……グァア……!?」

 

 強い衝撃を受けてその体が後ろへと吹き飛ばされる。

 

「ギャオ! ギャオ!」

「ギャア!」

「む?」

 

 残っているランポスたちが機を見て飛び掛ってくる。そのうちの1匹が右肩へと噛み付いてきたが、リオソウル装備ではその程度の攻撃ではびくともしなかった。だが数が多ければ鬱陶しいことこの上ない。

 

「ふん、はっ!」

 

 振り払って肘を打ち、左腕と足を振り払ってランポスたちを薙ぎ払っていく。肘を打たれたランポスはその衝撃で首の骨が折れてしまい、泡を吹いて絶命した。

 それと同時にオベリオンが落下してきて地面に突き刺さる。

 

「グルル……」

「ギャオ、ギャオ!」

 

 とても人とは思えない光景にランポスたちが戸惑いを感じる。今までのハンターならば肉弾戦など行わなかった。誰もが武器を使用し、戦ってきたというのに、この女はなぜこうまで強いのか。

 そして細道の奥から疾走してくる黒いドスランポス。

 

「ギャルァアアアアア!!!」

「……ふっ」

 

 今なら避けようとも問題ない。ギリギリまで引きつけて寸前で横にすり抜ける。そのまま突き差さっているオベリオンを抜き、片手で構える。大剣というものはかなりの重量をしているはずだが、彼女は平然としている。

 

「グルルアアァァ!!」

「やれやれ、完全に頭に血が上ったか。あちらももう終わるようだし、こちらも終わりにしようか」

 

 そう言いながらオベリオンを背中に戻した。だがその手は柄を握り締めたまま。そして月の気は先ほどよりも高まりつつある。

 

「グルル……グルァアア!!」

 

 一瞬だけ恐れを感じたがそれを振り払って黒いドスランポスは走り出す。それを見据え、月はオベリオンを抜き放つ。あと少しでドスランポスの牙が月へと届こうというところに振り下ろされたオベリオン。高まった気によって威力を上乗せされた抜刀の一撃は強い衝撃を生み出した。

 力強く叩き潰す力と本来の切断の力、カウンターの要領で与えられた力によって、その死体は両断されつつも潰されていた。

 

「…………」

「ギャ……ギャオ! ギャオ!」

 

 呼吸を整えながら佇んでいる月と、リーダーの死体を見つめていたランポスたちは一斉に森の奥へと逃げ出した。

 

「……ふぅ、これは報告しなければならないな」

 

 その死体を見つめながら月が呟いた。オベリオンを背中に戻してエリア3へと向かっていった。

 

 

 結果的にはクエストは達成された。クエストターゲットであるイャンクックは討伐され、そして乱入してきたドスランポスも討伐されたことで追加報酬が出ることとなった。死体はギルドが回収することとなる。その際にライムが回収員にドスランポスのことについて話そうとしたが、月がそれを止めた。

 この件はココット村に帰り、村長を通して報告することにする。こんなことは一概には信じられないことのため、きちんと整理して報告したほうがいい、というのが彼女の考えだった。

 二人はうなずき、この件は保留された。

 ライムの初めての飛竜戦は、そんな信じられない衝撃をもたらしながら幕を閉じることとなった。

 

 ココット村に戻ってきたのは日も暮れたころ。荷車から降りて真っ直ぐに酒場へと向かうことにする。月を戦闘に酒場へと入ると、エレナが笑顔で出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。結果はどうでしたか?」

「……ああ、成功したことは成功したよ」

 

 微笑することなく答える月に何かを感じたのだろうか。エレナが笑顔から真面目な表情へと変わる。

 

「少し村長を借りたい」

「村長でしたらあちらで客人と話しをしておりますが」

 

 見ればカウンターに座っている村長と会話している二つの人影があった。

 

「村長。月さんが話があるそうです」

「む? おぉ、帰ったか。……少々待ってくれんかの」

 

 客人の二人にそう断りを入れると、黒いローブを纏っている者が小さくうなずいた。

 カウンターを歩きながら近づいてきた村長に近づいて月が小さな声で話し始める。

 

「実は……」

「……ふんふん。…………む? それは本当かの?」

「ああ」

 

 村長は月を見上げ、そしてなぜか背後にいる客人二人を見つめる。

 

「……ふむ、これは数奇なる巡りあわせかの」

「どういうことだい?」

 

 月が首をかしげると、村長が二人を呼び寄せた。

 

「実はの、この二人がその黒く染まった飛竜を探している、と言っておっての」

「……なに?」

 

 

 

 

 

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