呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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5話

 

 

席を確保した彼らは着席して向かい合った。左側はライム、シアン、月が座り、向かいには黒いローブを纏った者と、赤いローブを纏った者が着席した。そして机の上には村長が座っている。

 

「さて、何から話そうかの」

 

 キセルを吹かしながら村長が両方を交互に見る。すると黒いローブのフード部分を脱ぎとり、その下から若い少年の顔が現れた。肩まで伸びた黒くはねた髪に黒く鋭い眼差しがライムたちを見据えている。

 そして隣に座っている者もまたフードを脱ぎ取った。現れたのは肩を超えた紅いセミロングヘアーにぱっちりとした青い目をした少女の顔だった。

 

「まずは自己紹介からだな。俺は白銀昴(しろがねすばる)。そして……」

「昴の幼馴染にしてパートナーの竜宮紅葉(りゅうぐうもみじ)。よろしくね」

 

 にっと笑って自己紹介をする紅葉。無表情に自己紹介をする昴とは対照的で、シアンは思わず二人を交互に見つめた。だが気を取り直して胸に手を当てて笑顔で自己紹介することにした。

 

「わたしはシアン・フリージアといいます! そしてこっちが幼馴染のライム・ルシフェル君です!」

「どうも、よろしくお願いします」

 

 ライムは多少恐縮したようにぺこりと頭を下げる。そんな二人を紅葉は興味深そうに見つめながら頬杖をついた。

 

「へぇー、あんたたちも幼馴染なんだ」

「はい、そうなんです!」

「なんか通じるものがあるかもね。あたしたち」

「おぉ~! なんか仲良くやれそうです!」

 

 手を合わせてとても嬉しそうにすると、シアンは紅葉へと手を差し出す。紅葉はその手を取り、二人は握手をする。そんな二人を穏やかに見つめていた月が最後に名乗る。

 

「そして私が神倉月。よろしく頼むよ」

「……珍しい人に会ったものだな」

 

 黒い目がちらりと月を見つめる。その視線を受けてやれやれと苦笑すると黄金芋酒が満たされたコップを手にして一気に飲み干していく。

 

「……ふぅ、やっぱり私のことを知っていたか」

「東方でも有名だからな。それに旅をしていれば嫌でも耳にする」

「なるほど。困ったもんだ、ははは。……っと、ベッキー。おかわりを頼むよ」

「はい」

 

 近くを通りかかったベッキーに空になったコップを渡すと彼女は厨房へと向かっていった。それを見送った月が昴を見つめて腕を組む。

 

「さて、話を聞くとしようかな」

「……そうだな。まず、俺たちは黒く染まった竜を探して世界を旅している」

 

 黒く染まった竜。昴はそう言った。

 

「とは言っても、伝説に語られるような黒龍なんてものじゃない。文字通り黒く染まった竜だ」

「なぜ探しているのかな?」

 

 月がそう問いかけると昴は目を閉じる。そしてゆっくりと目を開けてこう言った。

 

「俺たちの村がその存在によって滅ぼされたからだ」

「……え?」

 

 ライムが呆けたような声を漏らした。

 

「今でも思い出せる。黒く染まった体をしていたが、あれは間違いなくリオレウスだった」

「リオレウス?」

「そうだ」

 

 それは空から滑空しつつ紅蓮の炎を吐き出した。それによってほとんどの家が焼き払われた。着地と同時に巻き上がった風圧で様々なものが吹き飛び、更に炎が広がった。

 ハンターたちが村人を逃がす時間を稼いだが、生き延びたのは昴と紅葉だけだった。

 燃え盛る炎の中に存在する黒きリオレウス。

 今でも覚えている。それはもう、時々夢に見るくらいに。

 

「それ以来あたしたちは黒く染まった竜を探し続けた。生きるため、そして黒く染まった竜を討つためにハンターとなったの」

「東から西へ、西へ。ココット村の村長ならば、何か知っているのではと思ったが……」

 

 昴は無表情な顔でライムたちを見つめる。

 

「まさか、ここにきて実際に遭遇するハンターが現れるとは思いもしなかったな」

 

 そこで初めて彼は口元に小さく笑みを浮かばせて低く笑った。

 

「そうじゃの。儂も長く生きてはいるが、黒く染まった竜なんぞ聞いたこともありゃせん」

 

 キセルを吹かし、煙を吐き出しながら村長が呟く。眉に隠れた目を月に向けると、くいっとキセルを揺らす。

 

「月よ。お主はあれと戦ったのじゃろう? あれをどう見た?」

「……そうだね。あれは闇の魔法によってああなったと思われるよ」

「闇の魔法って……」

 

 ライムが口元に指を添えてうつむく。

 言葉の響き通り、あまりいい印象はない。

 

「闇の魔法は主に闇と心に干渉する魔法。まあ使用するにはそれなりの腕前が必要になるから、使える魔族は少ないよ」

「じゃあこれは魔族によるものだ、と?」

 

 自分もまた魔族であるライムがどこか悲しそうな顔で月を見つめるが、月は小さく首を振る。

 

「そうとは限らない。この現代、魔法は素養があれば人間でも竜人族でも魔法を使えるものがいる。だが、今は誰がどうしてこんなことをしたのか、は置いておくよ」

「お待たせしました」

 

 そこでベッキーが黄金芋酒の追加を持ってきた。

 

「ありがとう」

 

 お礼を言うとベッキーはまた酒場を回りはじめる。ハンターたちの注文を聞き、空いた食器を下げていく。それを見送り、少しだけ酒に口を含んで喉を潤すと説明に戻る。

 

「あの魔法は恐らく汚染、そして狂化と思われるね」

「強化?」

「いや、強化じゃないよシアン。狂化さ」

 

 アクセントを変えて言うと、シアンは少し考えこみ、そしてその顔が少しずつ青ざめ始める。

 

「……あの、狂化ってもしかして」

「そう。狂った状態だね。とはいえ、あのドスランポスは多少の理性が残っていたようだが。恐らくは完全に狂化していなかったんだろう。でも、狂化の特徴がある程度見えたから、たぶん狂化で間違いないと思う」

 

 狂化とは文字通りその対象を狂わせるものだ。狂うことによって理性とリミッターを外し、一時的に身体能力などを増加させる。これによってただ戦いに溺れるものとなりはててしまう、恐ろしい魔法である。

 遠い昔、戦争が行われていた時代では、この魔法によって多くの狂戦士が作られたと記録に残っている。

 

「そして汚染はあの外観の変化だね。あのドスランポスは黒く染まっていった。あれは汚染の独特の特徴さ。恐らく汚染することで狂化の効果を増幅させよう、という魂胆だったんだろう。だがあのドスランポスは何故か完全に狂化に染まりきらなかった。恐らくは多少なりとも戦いというものに思惑があるドスランポスだったのかもしれないね」

 

 そう締めくくると黄金芋酒をどんどん飲み干していく。

 一方昴は月の説明を頭の中で反芻しながらあの時の事を思い返していた。黒く染まったリオレウスは向かってくるハンターもろとも逃げ惑う村人を焼き殺したり、狂ったように翼や尻尾を振り回したりしていた。近づいてくるハンターたちを何度も何度も振り払いつつ、火炎を吐き出して焼き尽くしていたように思える。

 あんな行動は通常のリオレウスには見られないものだと、近年リオレウスと戦うことで知った。つまり、理性なく暴れまわった結果があれだということ。コップを満たす自分の顔はひどく落ち着いて無表情だったが、胸の中では激しく煮えたぎる炎を感じていた。

 

「……」

 

 そんな昴の頭をそっと撫でる紅葉。

 

「……」

「大丈夫?」

 

 優しく何度も撫でられていると、その炎は少しずつ落ち着いてくる。小さく笑みを浮かべると紅葉もうなずいてにっと笑った。

 

「ならよし」

 

 長いこと一緒にいるせいか表に出さないまでも、昴が強い怒りを感じていることを感じたのだろう。だから何も言わずにこうして落ち着かせてくれる。昴はそんな紅葉のありがたさを感じつつ、さらに気持ちを落ち着かせるために酒を少し飲む。

 

「……ふぅ。さて、これからのことだが」

「そうじゃのう。お主の目的である黒く染まった竜……、面倒じゃから仮の名として狂化竜、と称することにしようかの」

 

 狂化した竜。なるほど、実にわかりやすい仮の名だ。

 

「ああ、それでいい」

「狂化竜についてじゃが、今回儂らが初めて知ったことじゃ。故に今のところはほぼ情報はない。じゃが、ここで滞在することで新たな情報が入手できる可能性もあるやもしれん」

「……確かにそうだな」

「私も私の情報網を利用して情報を集めてみることにするよ」

 

 月もまた長く生きた竜人族。長く生きることで彼女なりの情報網が構築されているだろう。

 

「儂も他の村や街のギルドに問いかけてみることにしよう。お主らも世界を回っただろうが、もしかすると聞き逃したことがあるやもしれんからの」

「ああ。よろしく頼む。今までは協力を取り次げなかったから感謝する」

 

 やはりこんなことは信じられないことだったのだろう。協力を得られなかったから今まで自分の足で世界を回り続けるしかなかったようだ。

 

「さて、私は明日から世界を回ってみることにしよう」

「ほう。よいのかの?」

「ああ。これは放置できないことだからね。一刻も早く解決できるよう、私も協力しよう。何かわかれば連絡するよ」

「うむ。よろしく頼むぞ」

 

 うなずいて立ち上がると、椅子にかけてあった蒼いローブを身に包む。

 

「……ああ、村長。出るときに黄金芋酒の瓶を頼むよ?」

「……ちゃっかりしとるの、お主」

「貰うものは貰うのが私のやり方だからね。じゃ、これで失礼するよ」

 

 軽く手を挙げるとライムとシアンが立ち上がって頭を下げる。

 

「月さん、今日はありがとうございました」

「お世話になりました!」

「ああ。これからも頑張るといい」

 

 微笑して応えると身を翻して彼女は酒場を去っていった。

 

「さて、お主らは明日からこの村に滞在するんじゃの?」

「ああ。そうしようかと考えているところだ」

 

 昴がうなずくと村長が右手の親指を立ててライムとシアンを示した。

 

「どうじゃ? この二人をお主らのチームに加えてやってくれんかの?」

「え?」

「へ?」

 

 ライムは呆けて、シアンは首をかしげて村長の言葉に反応した。昴はそんな二人を見つめ、そして村長へと視線を移す。

 

「この二人はまだまだ新米でのう。じゃが親は親でなかなかの腕前を持っていたハンターじゃ。これから先伸びる可能性はある思われるんじゃの。どうじゃ? この二人を育ててくれんかの?」

「…………」

 

 昴が目を細めて二人を見つめる。ライムはそんな視線を受けて緊張したような顔をするが、シアンは紅葉と目を合わせて嬉しそうな顔をする。紅葉もまたシアンを見て笑顔になっている。どうやら紅葉としては二人を加えることに関しては異論はないようだ。

 あとは昴なのだが、無表情で二人を見つめている。

 

「…………」

「……う」

 

 その鋭く黒い目を受け続けてライムが冷や汗をかいている。そしてその視線はシアンへと向けられた。

 

「…………」

「じ~~」

 

 だが流石はシアンなのだろうか。逆に視線を向けてきた。二つの視線が交差し、場が沈黙に包まれる。

 

「…………」

「じ~~」

「…………」

「じ~~~~」

「…………ん」

 

 折れたのは昴の方だった。気のせいか隣に座っている紅葉が冷ややかな目で昴を見つめている。どこか不機嫌オーラを纏っているため、それも含めて昴が微かに冷や汗をかいている。

 そして咳払いを一つすると小さくうなずいた。

 

「いいだろう。二人を迎えることにしよう」

「……あ」

「ホント? ホントですか!?」

「ああ。構わん。めんどうを見てやる」

「やったぁぁあああ!! ありがとうございます!!」

 

 立ち上がって全身を使って喜びを表現している。そのまま紅葉の隣に移動して頭を下げる。

 

「紅葉さん、改めてよろしくお願いしますね!」

「うん。よろしくね」

 

 紅葉も立ち上がって手を差し出した。その手を両手で掴み、ぶんぶんと上下に振る。一方昴はライムの方をじっと見つめていた。

 

「あ、えと、よろしくお願いします?」

 

 なぜか疑問形になり、首を傾げてしまうライム。それに対して昴はまた小さくうなずき、そっと手を差し出した。

 

「ああ。よろしく頼む」

「……はい! よろしくお願いしますね」

 

 差し出された手を取り、昴とライムも握手を交わす。村長はそれを見届け、どこか満足そうにうなずいた。

 

「さて、ここにチームが結成されたわけじゃが、このチームをギルドに登録せねばならん。エレナ」

「はい」

 

 カウンターから一枚の紙を手にしてエレナが近づいてきた。それはチーム登録書だ。チーム名にそれに参加している4名の名前の記入欄がある。エレナが昴にペンを差し出し、頭を下げてカウンターへと戻っていく。

 

「あたしたち、チームでやっているときに一応チームとして登録してあるんですよね」

「む? そうなのか?」

「ええ。『吹雪(ブリザード)』という名前で」

「『吹雪(ブリザード)』? なんでそんな名前なんです?」

 

 なぜか紅葉の隣に座ったシアンが首をかしげた。

 

「それはあたしたちが一応魔法を習得しているから。あたしが風で、昴が氷。氷と風を合わせて吹雪が起こる、ということで『吹雪(ブリザード)』って名前にしたのよ」

「え!? お二人とも魔法を使えるんだ!?」

「あくまで基本だけどね。そんなに多くを使えるわけじゃないよ」

 

 二人の耳は人間のものだ。恐らく先天的に才能があった人間、ということなのだろう。

 

「……名前はめんどうだから『吹雪(ブリザード)』のままでいいか?」

「あ、はい。構いません」

「わたしもいいよー」

 

 二人も同意したためチーム名は『吹雪(ブリザード)』ということになった。リーダーの所には白銀昴と記入され、続いて竜宮紅葉、シアン・フリージア、ライム・ルシフェルと記入されていく。それを村長に手渡すと、さっと確認を終えて懐から判子セットを取り出した。判子が押されるとこれでこのチームの結成が認められることとなる。

 

「ここに『吹雪(ブリザード)』の新たなる結成を認める。以後、精進するように」

「はい」

「オッケー、そんちょー」

「よろしくね」

「よろしく頼む」

 

 村長の言葉に全員がうなずいた。机から飛び降りた村長はそのままカウンターへと向かい、跳躍して腰掛ける。紙をエレナに渡すと、またキセルを吹かし始めた。

 

残った4人はこれからどうするかを話し合うことにすると同時に、チーム結成を祝って料理を囲むことにした。支払いは昴が全額持つことになり、ライムは遠慮しながらもいただき、シアンは大いに喜んでいただくこととなる。

 

「明日はお前たちの実力を測らせてもらう。クエストは明日の依頼状況に応じることにする。……安心しろ。死ぬようなクエストは選ばんから」

「は、はあ……」

 

 無表情で言われても困る、といった風な表情をしながらサラダを食べるライム。隣ではシアンがご機嫌な様子でアプトノスのステーキを食べていた。

 

「……ま、今日が最後の晩餐というわけで可能性もあるやもしれんが。ふふ……」

「「……え?」」

 

 その言葉にライムだけでなくシアンも手が止まって昴を見つめる。

 

「…………冗談だ」

 

 だから無表情でそんなことを言われても困る、とライムに加えてシアンもまた思いはじめた。そんな昴に紅葉が力強くはたく。

 

「……っ!」

「はいはい、新米ハンターさんなんだから、冗談とはいえあまり脅迫しないようにねー。ああ、大丈夫、大丈夫。心配はご無用だからね」

「「…………」」

 

 なんなんだろうか、この二人は、と少しばかり思い始めたライムとシアンであった。

 気を取り直して食事を進めていくと、使用している武器について話すこととなった。

 

「僕は片手剣のサーベントバイトを、シアンが双剣のチーフシックルを使用しています」

「へえ。片手剣と双剣か。……うん、シアンは小柄だから速さに自信があるのかな?」

 

 シアンの体を見つめながら紅葉が推測すると、ステーキを租借しながら彼女がうなずいた。ビールで流し込むと白い歯を見せながらうなずいた。

 

「はい! 結構自信ありますよー! そしてその速さで攻撃を避けつつ斬り込む! これがわたしの戦い方です!」

「ライムはお手軽だから、って感じかな?」

「あはは……、まあ、そんな感じですね。はい」

 

 少し恥ずかしそうに頬を掻きながら答える。そんな彼をじっと見ていた昴がコップに手をかけながら問いかける。

 

「お前、魔法は使えるのか?」

「え? 魔法ですか?」

「ああ。お前は魔族なんだろう?」

 

 酒を飲みながら言うと、ライムは小さくうなずいた。

 

「確かに僕は魔族です。でも、そんなに魔法が使えるってわけじゃないんですよ」

「そうなのか?」

「ええ。ちょっと昔から魔法を使うとどうも体調を崩してしまいまして……。ですから自主的に魔法を封じてるんです」

「そうか……」

 

 そんな理由ならば仕方ないだろう。狩場でそんなことが起きればそれだけで死に繋がる要因にしかならない。ならば使わないほうが賢明だ。

 

「お二人は武器は何を使ってるんですか?」

 

 フォークを口に咥えたまま問いかけると、紅葉が目を細めて腕を組んだ。

 

「ふふ、何だと思う?」

「ん~……、昴さんはイメージ的に太刀かな、って思うんだけど」

「おぉ、正解」

 

 大げさに驚きながら拍手すると、昴は喜びながらどこか誇らしげに胸を張った。

 

「……まあ、昴はわかりやすいかな。うん」

「悪かったな」

「で、あたしは何だと思う?」

 

 紅葉の体格は一般的な女性な身長だ。細腕で活発そう、となれば軽めの武器でそれなりに威力があるような感じがした。

 

「……わたしと同じ双剣ですか?」

「あー、残念。違うんだなーこれが」

 

 苦笑しながら肉を切り分けて口に運ぶ。シアンはどこか悔しそうに唇を尖らせると、興味深そうに身を乗り出した。

 

「で、正解は何なんです?」

「ハンマー」

「……へ?」

「だから、ハンマーよ。あたしの武器は」

 

 思わずシアンは紅葉の顔とその細腕を交互に見つめた。そしてぶんぶんと首を振る。

 

「いや、それはないでしょー」

「ホント、ホント」

 

 そう言いながら腕を突き出した。そのまま腕を触ってみると、女性らしく白く柔らかな感触がシアンの指に伝わってくる。

 

「この腕であのハンマーを振り回すって無理ですよ~」

「さて、それはどうかな?」

 

 不敵に笑いながらぐっと力を込める。その瞬間柔らかな感触が強靭な硬さを持つそれに変わった。思わず触れている腕を見てしまうほどの変化。

 恐る恐る顔を上げて紅葉を見つめる。得意げな顔で笑みを浮かべている顔から、にこやかなそれに変わると軽く首をかしげてウインクしてきた。

 

「……ね?」

「……うん。凄い変化でした……はい」

 

 思わず敬語を使ってしまう程の変化だったようである。

 そんな二人を横目で見ながら、昴はボソリとライムに呟いた。

 

「女は怒らせると怖いぞ。気をつけるんだな」

「……は、はい」

 

 神妙な顔でうなずくライムだったが、昴の肩にぽんと優しく手が置かれる。

 

「はいはい、昴。聞こえてるからね」

「…………」

「とりあえず、一発いかせてもらうよ」

 そして宣言通り、再び力強く頭がはたかれたのだった。

 

 酒場から出ると村長が用意してくれたという宿泊施設へと向かうことになった。二人のハンターランクは食事をしている間に届けられたという。すると、二人のハンターランクはそれぞれ32だということらしい。

 所謂上位ハンターだった。とはいえ上位ハンターになりたてであり、装備はまだまだ上位仕様になっていないとのこと。しかし上位ハンターともなれば、宿泊施設もそれなりに豪華だ。

 

「じゃ、また明日ね」

「はい。おやすみなさい、昴さん、紅葉さん」

「おやすみなさーい」

「……ゆっくり体を休めろよ」

 

 最後に昴が体を気遣うような言葉を言うと、二人は大きくうなずいて自宅へと戻っていった。それを見送ると中へと入り、用意された部屋へと向かっていった。

 部屋に入るとローブを脱いで壁へと掛ける。ローブの下には二人の私服があった。

 出身地が東方ということもあり、二人の私服は東方のものだった。

昴は藍色の和服に黒い羽織という上から下まで暗い色合いでで統一された和装をしている。対して紅葉は桜の柄があしらわれた動きやすそうな和服に明るめの赤い羽織という明るい色合いで統一されていた。

 ソファに深く腰掛けた昴はぼうっと天井を見上げる。紅葉は備え付けの冷蔵庫からジュースを取り出し、昴の前に置くと彼の隣に腰掛ける。

 

「……やっと、見つけられたね」

「ああ。長かったな」

 

 そう、長かった。二人の旅が始まってから早くも10年。

 村が滅びたのは二人が8歳の時。それからハンターとなったのがわずか9歳。理由は生きるためだった。ただ働くだけでは生きていけなかった。目標が目標のため、早いうちに経験を積むべきだと決めた二人は1年後にギルドへと入り、ハンターとなった。

 怪我を負うのはいつものこと。大怪我をしたこともあれば、死に掛けたことも何度もあった。それでも二人は立ち止まらずに前へ前へと進み続けた。西へ西へと進んでいき、同時に経験を積んで成長してきた。

 そして今日、ようやく情報を得ることが出来た。表には出さないまでも二人は大きな喜びを感じていた。一つの情報が入手できたのならば、そう遠くない未来新たな情報が手に入るだろう。

 昴はそんな予感がしていた。

 ココットの英雄と呼ばれた村長の人脈と、『蒼天の戦乙女』と呼ばれる月の情報網ならば、何かに引っかかってくれるかもしれない。元々は村長の人脈を頼って来たのだが、まさか月までここに滞在しているとは思いもしなかった。これは嬉しい誤算である。

 ジュースを飲み干すと、立ち上がってベッドへと向かう。

 

「もう寝るぞ。お前も疲れただろう」

「うん、そうする」

 

 紅葉もまたジュースを飲み干してベッドへと向かう。それぞれのベッドで横になり、昴が備え付けのランプの火を消した。

 

「じゃ、昴。おやすみ」

「……ああ、おやすみ」

 

 目を閉じれば溜まった疲れが押し寄せてくる。眠気もまた包み込むように現れ、二人の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

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