レイン達が村に滞在して数日。狂化竜が現れることなく日々が過ぎていった。
しかし普通のモンスターが何かから逃げるかのように近隣を通り過ぎていったり、海から魚の姿が見えなくなったりしている、という異変は起きていた。
これは嵐の前の静けさだろうとレインは考えていた。
何事もなければそれでいいのだが、今この中央で起こっている大事を耳にしている以上、何事もなく終わるはずはないだろう。
ギルドナイトの間でやりとりされている情報はレイン達にも影から届けられていた。
それによれば狂化竜が各地で出没し、様々な場所で猛威を振るっているとの事。一般人にも目撃されており、人々の間で大きな動揺と不安と恐怖を与えているという。
各地にギルドナイトが派遣されているとはいえその数には限度がある。彼らが向かわなかった場所で狂化竜が出没すれば、その付近の滞在型ハンターも動員され、狂化竜の撃退、討伐に当たっているという話だ。
事態は深刻化の一途を辿っている。
朝陽達の狙いはこれにあるのだろうと、あの時聞かされなくてもなんとなくわかってしまう。
各地で立ち上っている人々の負の感情と、狂化竜がもたらす闇の空気。
これがどんどん増えていけばどうなるか。
この中央は重苦しい空気に包まれていく事だろう。そしてそれが彼女達の力となる。
なんとしてでもこの状況を打開しなければならないが、生憎とそうはいかないのが現状だ。何せ狂化竜が一体どこから現れるのかわからないのだ。
世界は広い。
モンスター一匹、それも狂化竜を見つけるのも一苦労する。
この状況内では異質な空気を持つもの、大きな闇を抱えているものがそれに当たるだろうが、生憎とレイン達は魔法の才能が中級者程度しかない。広大な世界の奥まで意識を集中させ、その気配を探り当てる事は出来ない状態だ。
それにレイン達にはこの村を守らなければならないという任務もある。それを放棄して探しに出た場合、狂化竜でなくとも普通の飛竜が襲ってきた場合の防衛を放棄する事にも繋がってしまう。
だからこそこのまま待機するしかなかった。
そして今、レインは目を閉じて座り込み、瞑想状態に入っている。
現在浜辺ではサンとアルテが見張りをしている。待機しているのはレインとゲイル。そして今ゲイルはこの場におらず、店で食事をしているようだ。
その間レインは町の一角でこうして精神を落ち着かせるための瞑想を行っていた。
ゲイルの件では激情に駆られて剣を振るってしまった事もあり、もう二度とあのような戦いをしないようにと最近はこうして瞑想を行っている。
剣を振るうならば、そして弓を射るならば揺らぎない心で行ってこそ効果がある。心に波を発生させた状態で武器を扱えば、それにも影響を与え、思いもしなかった結果を呼び寄せてしまう事さえあるのだ。
あの時はまだ何とかなったものの、これから先の戦いでそうならないという話を否定できない。だからこそ心を落ち着かせるための瞑想。心を無にし、雑念を取り払うのだ。
「…………」
そうすると澄み切った気がレインを取り巻いていく。目を閉じる事で視界から入る村人たちの日常風景を遮断、無になった精神を集中させる事で耳から入る村人たち喧騒や空を舞うカモメたちの鳴き声を遮断。海から漂う潮の香りも山から流れる木々の匂いも気にならない。
今のレインは自然と一体化したかのように不動。
こうなったレインはどんな事にも動じる事はないだろう、と思わされる。そしてこのレインを邪魔する事もできないだろう。村人達は遠巻きにレインを見、そして立ち去っていく。
一部の村娘は「かっこいい……」や「素敵ね」と黄色い声を漏らしている。
確かにレインは瞑想している様だけでなく、普段の立ち振る舞いを見ても美青年という呼び方がしっくりくる。キリッとした顔で任務をこなし、幼い頃から修行をしていただけに実力も高い。
東方人とのハーフではあるが、スカーレット家出身の身。家柄も悪くないが、名家であることを鼻にかけないし、人付き合いも悪くない。
そんなレインがもてるというのもわからない話ではなかった。
「…………っ」
ふと、レインの眉がぴくりと動いたような気がした。いったいどうしたのだろうか。
しかしすぐにそれはなくなり、再び瞑想状態へと入り込みレインは再度集中を始める。
だがまた眉がぴくぴくと動き始めた。集中しているはずだというのに、一体どうしたのだろうか。
「……お、おぉ……」
漏れて出たような呟きがレインの口から聞こえてきた。
形のいい眉だけでなく体までぴくぴくと動き出しているではないか。
一体何がレインの中で起きているのだろうか。
「…………おぉおおおお、サンっ! ああ、何故だサンっ! 兄の愛を受け取ってくれぬのか、サンんんんっ!?」
その叫びを聞いたとき、遠巻きに見守っていた村娘達は揃って溜息をつき、そっと静かに離れていった。
残されたのは瞑想から離れ、座り込んだまま何かに悶えているレインだけであった。
それから数分後、食事を終えたゲイルがレインのもとへと訪れた時、彼の目に映ったのは何故か気の抜けたような顔をしているレインだった。
「あん? 瞑想していたのに何であんな腑抜けた顔をしてんだ?」
さっきのレインの心の中で起きた異変をゲイルは知らないが、しばらくレインの様子を眺めているうちに少しだけ事情を把握したようだ。
やれやれと溜息をつき、右手でそのはねた茶髪をぼりぼりと掻いてしまう。
「さすがはシスコン。最近の事が頭に浮かんじまったと……いやはや、どうしょうもないねぇ……」
レインのサンに対する愛情は幼い頃から度を抜いている。その様子を幼い頃から眺め続けていたゲイルは、最近のレインの行為を久しぶりに目の当たりにしている。それはこの数ヶ月の間アルテと入れ替わっているからなのだが、その光景は久しぶりでありながらも昔よりも結構進化している事に驚いた。
三時のおやつとしてヤングポテトのフライを食べさせるかどうかに始まり、疲れただろうということでマッサージをしてやろうか、というのはまだいいとして久しぶりに共に風呂に入ろうかというのは流石にどうかと思ったゲイルだ。
年齢的にも少々危ないのではないかと思われるのだが、レインにとってサンはまだまだ可愛い妹。だからこそ共に風呂に入るのはおかしくない、という図式がレインの中に
とはいえゲイルの妹分であるアルテは本来の年齢に反して精神的にはまだ幼い。その為今でも一緒に風呂に入ろうと誘ってくるのだが。そしてそれを苦笑いしながら受けてしまうのがゲイルである。
その現場を見てしまったからこそレインはサンに久しぶりにどうだと誘いをかけたのだが、結果は前述の通り。もしかすると自分達のせいでレインのシスコン度が加速しているのだろうかと思わないでもないゲイルだった。
そのせいなのか最近サンがジト目で自分を見ているような気がしているのだが、やはりそういうことなのだろう。レインをどうにかして欲しいのと、アルテを少し落ち着かせて欲しいという思惑が含んでいるとしたら、少しばかり考えなくてはならないと思いつつ、ゲイルはゆっくりとレインへと近づいていった。
「なに腑抜けてんだ、レイン?」
「…………む、ゲイルか」
普段ならばそれなりに近づけば気配や足音で気づくだろうが、妹の事で気が抜けていたレインは声をかけられるまで気づかない始末。どうやらサンに対する愛情はレインの心に多大な影響を及ぼすほど凄まじい。それをゲイルは改めて感じる事になった。
「まったく、お前がそんなんじゃあこっちとしては困るんだぜぇ? 俺様はギルドでは裏切り者扱い、アルテはあっち側の人間だったって扱いなんだからなぁ。リーダーであるお前が腑抜けてちゃ、色々とまずいんじゃねぇのかぁ?」
「……うむ、そうだな。悪かった」
「そんなにサンに構って欲しいのか? シスコンも程ほどにしねぇと、しまいにゃ変態だぜぇ? クッヒヒヒ」
「兄が妹を愛して何が悪いッ!?」
ニヤニヤと笑みを浮かべてからかいつつ、それくらいにしておけと止めようとしたのだが、間髪要れずに返ってきた言葉にゲイルは呆然としてしまった。
いや、何も悪い事はないのだが、何事にも限度というものがあるのだと心の中でツッコミを入れる。しかしそれを口にしたところでこの重度のシスコンには通用しないだろう。
そしてレインの言葉は恐らく全国ン万人のシスコン兄たちの心の叫びに違いない。そして実際にもレインは叫んでいた。その時周りにあまり人がいなかったのが幸いだろう。誰もがあの悶えた姿と腑抜けたレインを視界に入れないように離れていたのだから。
「……やれやれ、その愛情はある意味尊敬に値するぜ、クッヒヒ……」
「ああ、サン……、何故なのだ……昔はいつもわたしにくっついていたというのに。どうしてこうももどかしいのか……。わたしの何がいけないというのだ、サンんんんん……グハァッ!?」
「それしか考えられねぇだろうがっ! ちょっとは自重しろや、このシスコンボケがっ!」
またしてもうじうじし始めたレインを思わず殴り倒してしまった。綺麗に入り込んだ右ストレートはレインを吹き飛ばし、離れたところにあったタルの群れへとその体が飲み込まれてしまった。
「……おぉ、これがセルシィのツッコミか。なるほど、やった側になって何となく気持ちがわかったような気がするぜぇ、クッヒヒヒ」
自分の右手を見つめながらしみじみと呟けば、思い起こされるあの頃の記憶。アルテのことで色々とやっていれば近くにいたセルシウスが止めるために拳を振るって自分を殴り飛ばす。そして心配してきたアルテと、近づいてきたセルシウスによる凄みのある注意。
あのやりとりは恐らく普通に暮らしていた者達の日常の一部ともいえるだろう。あのやりとりをしているだけでも、自分は普通の少年だと何となく実感していたものだ。
だが自分とアルテはあそこから切り捨てられた。それによってただのゲイルとアルテになった……いや、自分は一時的なギルドナイト復帰ですんでいるのだ。そしてセルシウスは未だに殺人鬼としてあそこに残っている。
願わくばセルシウスもあそこからこちら側へと引き込んでやりたいところだ。あのライムも「セルシィ姉さん」と呼んでいたし、そう願っているだろう。しかし二人の関係が従姉弟である事まではゲイルも知らなかったが。
だが自分が復讐者であったようにセルシウスも殺人鬼としての道を歩んできた。その抱える闇は自分では比にならないほどだろう。朝陽よりはマシだろうが、命を殺すという事はセルシウスにとっての“普通”となっている。
あの闇をどうやって優しさと甘さの塊といえるライムが晴らしてやるのか。それが気になるところだ。
そんな事を考えていると、海の方から異質な空気が流れ込んでくるのを感じた。すぐに顔を上げ、神妙な表情で海を見つめる。空気が変わったのはレインも感じられたようで、体を埋めていたタルを吹き飛ばしながら起き上がっている。
先ほどまで空を飛んでいたカモメもいなくなり、自然の声はばったりとなくなっていた。
「……ゲイル」
「おうよぉ、ようやくお出ましのようだぜぇ」
「ならばすぐに戦闘態勢と避難勧告をしなければならんな」
「おうよぉ。……それとレイン」
なにかね、と視線を動かして問いかけてくるレインに、ゲイルは少しだけばつが悪そうな表情でぱたぱたと鼻の前で右手を動かした。
「その甘酸っぱい匂いどうにかなんねぇ?」
「君のせいだろうがっ!?」
「元はと言えばてめぇが自重しないせいだろうが!? つべこべ言わず一回顔を洗ってこいや!」
タルの中身はジュースだったらしく、それを被ってしまったレインはジュースまみれになっていた。上から下まで濡れているレインからはジュースの匂いを漂わせている状態になっている。
しかし中身が酒でなかっただけ救いだろう。度が高ければレインは酔ってしまい、戦力にならなかったはずだ。
「ええい、殴り飛ばしておいてよく言う……。サンとアルテもこの気配は気づいているはず。彼女たちも動いている事だろう。だから君は村人たちの方を頼むぞ!」
「おうよ!」
方針が決まれば行動は迅速に。それぞれ分かれて走り出した。
ゲイルは村を走りぬけ、村の中央にある鐘つきのやぐらへと向かった。そこには若い男がおり、走り寄ってきたゲイルに気づいてきょとんとした顔をする。
「ど、どうかしましたか? なにか……」
「緊急事態だ、鐘を鳴らせ! 海から敵がやってくるぞ! 村人たちに避難勧告しろ!」
「……っ!?」
その様子と言葉で充分だった。男はすぐにやぐらを登っていき、頂上に付けられている鐘を何度も鳴らしていく。そしてゲイルの近くにいた村人が付近の村人に聞こえるように大声で要点を叫び始めた。
「海から敵がくるぞ! 高台へと避難を始めろぉおおおお!!」
村の北西にある山の近くは高台になっている。例え海から波が襲ってこようとも、そこに登っていればまだ被害を受ける事はないだろう。
そして村は騒然とし始める。鳴り響く鐘と避難の言葉が広がっていき、村人たちは予め用意してあった荷物を手にして避難を始めていく。とはいえ子供などまだ状況を把握できていない者も少なからずいる。
そちらに関しては非戦闘員であるギルドナイトが避難の助力に赴いてきた。
村に派遣されたのはゲイル達のような戦闘員だけではない。実際に戦闘になった際、派遣された村や町の人々の避難誘導などを行う為の非戦闘員も必要になってくる。もちろん非戦闘員だからといって、全く戦えないわけではない。彼らを護衛するのもそのギルドナイトの勤めなのだから。
「……じゃあそっちは頼むぜ」
「……はっ」
やってきたそのギルドナイトへとそう告げると、少し遅れて礼が返ってきた。
ゲイルの事情はそれなりに知られている。だから両者の間ではちょっとした緊張感に包まれていた。彼はレインの部下でもあり、親しくしていた友人の一人。同じレインの部下にして裏切り者といえるゲイルが、レインと共に戦う事に関して不平があった。
しかし実力でいえばゲイルが上。欺いていたとはいえ、ゲイルはレインと共に何度も戦った事がある。だから命令はゲイルが戦闘員で、彼が非戦闘員に分けられてしまったのだ。
命令に背くわけには行かない為、不平は心の中にしまいこみ、自分の役目を遂行しなくてはならない。彼はぐっと拳を握り締めたあと、他の仲間たちへと指示を出していく。
村はこれより戦場となったのだ。
海から感じられる気配にサンとアルテは表情を強張らせた。妙な風が海から吹きぬけ、ざわりと肌を撫でていく。
嫌な空気だとサンは思う。ドンドルマであちこちから感じられた、狂化したリオ系統の気迫とはまた違った冷たい殺気。まさしく海からの魔物がこれからやってくるのだと空気が教えてくれる。
ちらりとアルテを見れば表情こそ真剣なものだったが、緊張したような気配はあまり見られない。それはやはり狂化竜の近くにいたことがある経験があるからだろうか。
13歳の少女とは思えないほどの胆力が彼女に備わっている。そして実力もまた自分と渡り合う程のものだ。戦力としては見た目に反して申し分ないほど、つまりは頼りになる仲間という事だ。
数日前までは敵対していた少女だが、ゲイルがこっち側にいる限りアルテは再び敵対する事はないだろう。そしてゲイルが再び敵対することは恐らくはない。その理由がもうなくなっているのだから。
だからアルテは信頼してもいいはず。これほどの純粋さを持つ少女が自分から闇討ちする事はないだろうから。一時はこの純粋さは演技かと考えた事もあったが、普段のアルテを見ている限りそれはないだろうと結論付けた。
「……アルテ」
「ん? なにかな?」
「何が来るのかわかりますか?」
「ん~……」
じっと海を見つめるその碧眼が細まっていき、その瞳に鈍い色が宿り始めた。
それに倣ってサンももう一度海をじっと見据える。
何かがいる、というより何かが近づいてきている気配がするのだ。そして奥底から立ち上るのは狂化竜独特の重たい闇の気配。それに包まれた何かが迫ってきているのは間違いないが、それが元々どんな竜だったのかがわからない。
アルテはあそこに所属はしていたが、狂化させる現場にはいなかったという。でも色々な狂化竜と会っていたのは確からしいので、その内の何かがわかればいい、とサンは考えていた。
ざわりと冷たい空気が変化した時、アルテは一息ついて言葉を紡ぐ。
「たぶん……だけど、海の
「海の……雷……?」
「うん。そしてそれから……大きな魚が逃げてきているよ」
大きな魚。
それを聞いたときサンの頭に浮かんだのは魚竜ガノトトスの姿だった。しかしあのガノトトスが逃げるほどの存在、海の雷。これが今回現れる狂化竜の正体らしいが、サンの頬に一筋の汗が流れ落ちた。
今想像しているものが本当に現れるならば、それも狂化しているならば、苦戦は必至ではないだろうか。
そんな事を考えていると、1、2キロ先の海面から黒い雷が幾つか海から立ち上ってきた。次いで聞こえてくる何かの悲鳴。あれはもしかするとガノトトスの悲鳴なのだろうか。
「……うん、あれ、食べようとしているよ」
「捕食、ですか……。こちらへ向かってきているのは間違いないのですか?」
「うん。大きな魚がこっちに逃げてきているからね。このまま戦うと思うよ」
その言葉を証明するかのようにガノトトスがサン達のいる浜辺へと接近している。しかしそれは攻撃する為の接近ではなく、アルテの言葉の通り「海の雷」とやらから逃げているだけだ。
そこに戦意はなく、生きる為に敵から逃亡しているだけに過ぎない。
「このままここにいれば危険ですね。アルテ、一時離れますよ!」
「うん!」
あの勢いのままこの浜へとのし上がって来たならば、ガノトトスの巨体に自分達が潰されかねない。だから一時離脱をする。
魚竜ガノトトスは他の飛竜たちと比べるまでもなく、その姿は巨大だ。もちろんラオシャンロンと比べれば小さいが、古龍種を除いた中ではトップクラスの大きさを持つ。
その顔を拝もうと思えば、見上げなければならないほどに巨大な魚と呼べる姿なのだ。
浜辺から離れ、後ろに広がっている堤防へと移動する。
その数分後、海から一つの姿が這い上がってきた。浜に泊めていた小船などがその巨体に潰されていく。しかしすぐにその巨体が海へと戻されていく。目を凝らせば海の奥に何かの影が存在しているのがわかった。
それがガノトトスを引きずり込んでいっているのである。ガノトトスもまた黙って引きずり込まれるわけにはいかないと、尻尾や体を動かして振り払おうとしているものの、再び発生した黒い雷がガノトトスへと浴びせられ、その動きが止まってしまった。
その体は水に濡れている上に、ガノトトスは雷属性を弱点としている。予測だが、逃げている間も何度か黒い雷に打たれたのだろう。そして何度も攻撃を受けた事で弱っている事も相まってその硬直は長く続く事となった。
その間にまた体が海へと引きずりこまれていく。ただ尻尾に噛み付くだけでなく、数度に分けて尻尾を噛み付き、少しずつ海へと引き寄せている。
その流れを見せられているサンとアルテはただ無言だった。生きる為に捕食する、それは自然の世界では当然のこと。その現場が目の前にあるというだけの話。
しかし相手は狂化竜。ただ捕食するだけだというのに、海から漂ってくる気配は冷たく鋭い。
聞こえてくるのはガノトトスの呻き声と、捕食している狂化竜の唸り声。
先ほどの一撃で全身が痺れているらしく、ただ呻くしかできないガノトトスは海へと完全に引き寄せられてしまった。
「…………」
固唾を呑んで見守る両者は、次の瞬間息を飲むしかなかった。
海に赤い色が広がり始めたのである。それだけであそこで何が起きているのかわかってしまう。
「……おぉ、こいつはいかんなぁ」
「あ、お兄ちゃん
そこでゲイルが到着したらしい。ボソリと呟いた言葉にアルテが反応して後ろを振り返った。ぽんぽん、と軽く頭を撫でてやりながら、ゲイルは視線を軽く動かしていた。
「……まだレインはいないか」
どうやらまだジュースの件を終わらせていないらしい。ならば食事をしている今こそ先手を取るチャンスといえるだろう。
「じゃあサン、頼むわ」
「兄さんを待たなくてもよろしいのですか?」
「ああ、ちょっと別件があって遅れる事にならぁ。あいつならいい所で奇襲を仕掛けてくるだろうさぁ。それにこのまま待ったところで状況に変わりはねぇ。奴は海にいてこそ本領を発揮しやがる。だから俺様たちという敵を見せてやる事で、ここから逃げださねぇようにしてやらねぇとな。つまりは俺様達を釣り針とし、奴を釣り上げてやるのよぉ……クッヒヒヒ」
ニヤリと笑みを浮かべたゲイルに一息つくと、サンはローブの中からブルーブレイドボウⅡを取り出して構える。そしてゲイルもローブから二振りの剣を取り出した。
金と銀の鱗が映えるその双剣の名は、ゲキリュウノツガイ。ツインハイフレイムが二段階強化された上位の双剣だ。これはこの村に来る途中の町でこの先の戦いのためにと強化したものだった。
そしてアルテは黒剣インセクトフェザーを取り出した。ギミックの音を鳴らし、その刃が翼を広げるかのように二つに分かれ、ダブルセイバーの形を取る。
その形状の剣を扱う為、同時にアルテの姿も大人の姿へと変化していった。相変わらずの鮮やかな変化の魔法。これほどまでの魔法を13歳で使うとなれば、両親のどっちかが変化の魔法の使い手ということになるだろう。
一体どういう出身だったのか気になるところだが、残念ながら今はそんな事を言っている場合ではない。それにアルテは孤児だし、彼女自身がそんな事を気にしていない。
「……では、いきます」
矢を番えて弓を引き絞り、その碧眼がゆっくりと細まって海に潜む狂化竜を見据えている。海の青とガノトトスの血という赤が混ざり合い、加えてガノトトスの巨体が浮いていることもあって狂化竜の姿を覆い隠していた。
「……っ!」
いつものような冷静な眼差しではなく、獲物を狩るような鷹の目がそこにある。響くのは弦が引かれる音のみ。風も波の音も、そして人の呼吸も狂化竜の咀嚼音もサンには聞こえない。
高められるは鋭い気。それが弓を引く右手に集められていき、そして番えられている矢の先端へと集められていく。
やがてその目が敵を捉えたらしい。一息ついたあと、貫通力を持った矢が空を奔る。真っ直ぐに海を目指して飛ぶ様は、知らない人が見れば妙な光景に見えるだろう。だが矢は狙い通りに獲物を狙って飛行している。
海へと飛び込んだすぐ後、海の中から何かの悲鳴が聞こえてきた。次いで何かの首がかすかに海面へと上がってきた。
その顔はワニを思わせるようなものだったが、狂化の影響で黒い鱗に覆われている。
「グルルル……!」
その紅い目がギロギロと辺りを見回し、自分に矢を命中させた敵を探している。食事を邪魔した不届き者を見つけ出し、殺してやる。そんな思惑が実によくわかる雰囲気をかもし出している。
だがその戦意が溢れ出ていればこっちとしては充分なものだ。
「そんじゃ、行くぜぇ!」
堤防から飛び出し、ゲキリュウノツガイを構えて宙を舞う。その双剣はツインハイフレイムの時より火属性を纏っている。ぐっと柄を握り締めれば金銀の刀身から高熱の炎が吹き上がってきた。それを振りかぶり、一気に振り下ろせば発生した炎が剣のように蠢いて狂化竜へと向かっていく。
「グッ……ッ!?」
二つの炎が交差し、辺りを警戒していた狂化竜の顔面を焼き切っていく。剣の素材がリオ系統の希少種といえる金火竜と銀火竜ということもあり、内包する炎の力は強い。その力を引き出して操作し、奇襲を仕掛けたゲイルに続くのがアルテだ。
外見的にはゲイルと同じく18歳の少女の姿をしている。宙に舞いつつ右手に構えた黒剣インセクトフェザーを回転させれば、風を切り裂く鋭い音が聞こえてくる。
「えーいっ!」
気の抜けたような声と共に風を纏った黒剣インセクトフェザーが回転しながら狂化竜へと向かっていく。狂化竜はその音に気づいて回避しようとしたが、首から体へと黒い刃が通り過ぎ、その黒い鱗を剥がしながら肉を切り裂いていく。
風の刃と回転する刃が組み合わさり、強固になった体だろうとも切り裂くほどの鋭さ。それは狂化竜と戦う際には重宝する武器といえよう。
「――
着地した後にその言葉を紡げば、海へと消えていった黒剣インセクトフェザーが海面へと飛び出し、アルテの手元まで戻ってくる。黒剣インセクトフェザーには何かの文字が微かな光を放っており、役割を果たしてそれが落ち着いていく。
この刻印があるからこそアルテ達は武器を投擲する事が可能であり、刻印が消えない限りあの言葉を紡ぐたびに手元へと帰ってくる。
「グルォ……、ゴォォオオオオアアァ!!」
食事を邪魔されただけでなく、体まで傷つけられた狂化竜は怒りをあらわにしてついに海から姿を現した。
黒く染まった鱗が全身に生え揃い、ワニのような頭には二本の角が生えている。白い皮をしていた体は鈍色へと変化し、長い首を辿って体へと視線を移せば、目に映るのは背中にある漆黒の突起。あれがこの竜を象徴する力の象徴。あの突起が帯電し、雷の力を行使する力を溜めるのだ。
そして全身には棘が揃っており、更に体の後ろへと目を移せばこちらもまた棘が生え揃った長い尻尾が見える。
これが東方で名が知られた海竜種の一種。海を行く者達の間で恐れられる存在である海竜を代表する存在。
海竜ラギアクルス。
これが狂化した存在として今ゲイル達の前に姿を現した。
口元は今までガノトトスの肉を喰らっていたせいか血に濡れている。べろりと舌で血を舐め取り、じっとゲイル達を見下ろしつつ観察している。しかし敵意は溢れ出ており、背中の突起がバチバチと電気を放っていた。
それに従って口元にも電気エネルギーが集まっていき、残っている血が蒸発するほどのエネルギーが溜め込まれていく。それを補助しているのが背中の突起。弾ける音と帯電音が辺りに響き渡っていく。
「来るぜ!」
ゲイルの叫びと同時に高まった電気エネルギーが弾丸となり、砂浜へと着弾した。そのエネルギーは砂を吹き飛ばすだけでなく抉り取っている。あれはただ感電するだけではないだろう。脆い装備なら簡単に貫通しかねないほどの力が秘められているようだ。
そしてその色合いは普通のものと違い、黒く染まっている。狂化の影響で作り上げられる雷エネルギーに闇の粒子が混ざり合い、このような変化を起こしたのだろう。そしてただ色が変わっただけでなく、闇の粒子が影響しあって電気エネルギーを微量に増強しているようだ。
もちろんゲイルとアルテは雷弾の射線が見えていたため回避する事は余裕だった。しかし回避したからといってそれで安全というわけではない。
まずは狂ラギアクルスを陸に上げなければならない。いつまでも海に居座られては攻撃しづらいものがある。
遠距離からの攻撃にも限度というものがあるのだから。魔法を行使するにも精神を使うし、体を巡る魔力を消費すれば気疲れがしてくるのだ。そうなれば体が動かしづらくなり、戦いに支障が出てしまう。
だからこそ陸に上げて実際に斬りに行かなければならない。中級レベルの魔法より、実際に体を斬ったほうが効率もいいしダメージ的にも大きい。
魔法は万能ではない。隙を突いた一撃や、弱点属性の魔法をぶつけるぶんしか出来ないことが多い。月レベルの使い手ともなれば数撃の大きな魔法で沈める事は可能だろうが、体術のレベルも高い為に彼女もまた武器を用いて戦う事を主としている。
何故ならば威力の高い魔法ほど周りの被害も大きい事が多いためだ。
つまり威力の高さとそれに伴う魔法の派手さは比例している。
だから純粋な使い手を除けば大抵の魔法ハンターは武器を手にして戦う。魔法はその戦いの補助に使われるのが現実だ。そしてゲイルやサンが大きなものを使おうと思えば、道具の補助を受けなければならないのもまた現実。
「じゃあこっちに来てもらおうかぁ!」
ゲキリュウノツガイを構えて両腕を後ろに広げたまま砂浜を走り抜ける。その反対側をアルテが走り抜け、挟み撃ちをするように狂ラギアクルスへと接近していく。
「ゴォォオオオ……グルォオオッ!」
長い首を動かしてゲイルからアルテへと薙ぎ払うようにし、牙を剥いて噛みつきを行う。しかしそれだけでは当たるはずもなし。それを埋めるように連続して雷弾が撃ち出されていく。
「うぉっとお!?」
足元に風を発生させて急上昇。それによって雷弾を飛び越え、がら空きの背中へと側面から接近する。それにラギアクルスは背中の突起こそ硬いが、火属性をよく通し、弱点としている。
狂化していてもなおそれは変わらないが、多少の耐性がついている。しかし通るものは通るので攻撃していて損はない。
「ハッハァァアア! 炎熱・大車輪んんん!!」
何故か技名を叫びながらその身を前へと回転させ始めた。同時に刀身から炎が噴き出し、ゲイルの体の周りに展開していく。それはゲイルの回転にあわせて回り始め、あたかも炎の車輪のような光景を作り上げる。
それが背中から一気に頭部へと駆け上がり、炎の車輪は熱と斬撃の共演を作り上げた。それは狂ラギアクルス体を坂としているかのように動いているが、これはゲイルが風魔法を同時に行使し、進路を調整しているからだ。よく見れば回転している炎の後ろ辺りが少しだけ連続して爆発している。これが上手く使えなければ車輪のように回転しながら攻撃できない。あらぬ方へと進み、隙だらけになってしまというデメリットがある。
しかしその分何度も相手の体を切り裂き、そのまま離脱する事が出来るというメリットもあるので、ゲイルだけでなく風魔法を使える剣士が会得している技でもある。でも傍から見た際の光景や、自身が回転してまで攻撃するという浪漫行為のせいか、使い手が少ないのもまたネックとされる。
何にせよ頭部から飛び出したゲイルは狂ラギアクルスの背後へと躍り出る。そこで回転を止め、両腕に力を込めてゲキリュウノツガイを構えた。
「ラギアがそっちに行くぜ、アルテ!」
「うん、了解!」
「グルォァァアアア!!」
自身を攻撃した背後にゲイルがいるため、狂ラギアクルスの意識は完全にゲイルへと向けられている。その為浜辺にいるアルテと、堤防でブルーブレイドボウⅡを構えているサンは眼中にない。
これが多くの狂化竜の欠点。
狂化はただ敵がいれば排除しようと行動する傾向にある。つまり敵を倒すことに意識が向いており、弱い敵がいればそれを優先的に攻撃していく。そしてそれを上回るか、同格の優先度が目の前にいる敵と自信を傷つけた敵。
己を傷つけた敵が近くにいれば怒りの感情が噴き上がり、始末しようと攻撃の手を強くしていくのだ。
傷つけられたとはいえ背中の突起は砕けてはおらず、その役割を失ってはいなかった。
再び帯電を始めて力を溜めていき、口元に雷エネルギーが集められていく。
しかしそれが溜まりきるよりも早く、ゲイルがその魔法を解放した。
「吹き飛べやぁぁああ!!」
体を回転させてゲキリュウノツガイを振るえば、圧縮された強風エネルギーが二つの弾となって狂ラギアクルスへと襲い掛かった。
「グ、グォォオオオオッ!?」
鈍色の皮に覆われた胸元へと弾が着弾し、二度の力に襲われて狂ラギアクルスは海から砂浜へと打ち上げられてしまった。
鈍い音を立てて砂浜を滑るようにして押し流され、波を防ぐ堤防まで滑っていく。狂ラギアクルスがどうなるかを予測していたサンは、ブルーブレイドボウⅡを構えたまま堤防を飛び降りて砂浜を走っていた。
「ふっ、はっ!」
堤防を突き崩して仰向けに倒れこんだ狂ラギアクルスへと、次々と貫通矢を打ち込んでいく。硬くなった鱗や甲殻とはいえ、繋ぎ目の隙間など狙える部分はある。だがそれでもダメージは微々たるものだろう。
ブルーブレイドボウⅡから繰り出される矢は無属性の貫通矢のみ。つまり肉を貫き通すその苦痛こそがダメージになる。だがその貫通力は体内に入らなければその力を発揮しない。外殻によってその推進力を失えば、ただの矢となるだけだ。
だからこそ力を込めて弓を引き絞る時間が必要になる。走り回りながら引き絞り、狙いを定めて矢を射る。その時間が必要になるため、連続性に欠けてしまう。それが欠点といえるだろう。
「……弓を変えますか」
呟いたサンはローブへとブルーブレイドボウⅡをしまい、別の弓を取り出した。緑の鱗に覆われた弓、クイーンブラスターⅢ。雌火竜リオレイアの素材を使用した上位武器であるこの武器は、毒効果を強化する力を内包している。
ポーチから毒ビンと呼ばれるものを取り出すと、先端の鏃付近へと取り付ける。すると蓋が開けられたビンから矢の先端へと中身の液体が少量吹き出した。ビンの中身が無くなるまで矢が番えられるたびにそれは継続していく。
これにより矢に毒の効果が付加されたことになる。
「では……ふっ!」
引き絞った弓から複数の矢が分散して狂ラギアクルスへと向かっていく。クイーンブラスターⅢは貫通矢と拡散矢の効果を矢に与える。拡散となると複製の魔法が微発動し、扇状に矢が飛んでいく。
その全ての矢に毒が染みこんでいる状態の為、矢が突き刺さった箇所から狂ラギアクルスへと毒が少しずつ注入されていくのだ。
「グルォ、グルォォォオオオオ……!」
呻き声を上げながら狂ラギアクルスはゆっくりと体を横倒しにし、何とか四肢で体を支えている。その間にも体力を削ろうとゲイルとアルテがそれぞれの武器を振るって狂ラギアクルスを傷つけていく。
ゲイルはスタミナの減少を抑える効果を持つ強走薬グレートを飲み干し、一気に加速をつけて狂ラギアクルスへと肉薄する。そのまま鬼人化を行い、まだ硬さが甘い腹へと乱舞を行う。
そこならばまだ乱舞によっていいダメージが期待できるだろう。実際皮が斬られる度に血が舞い、ズタズタになった部分を更に金と銀の残光が見えるほどの速さで切り刻んでいく。
そして舞い上がった血はそのまま砂に落ちるか、ゲキリュウノツガイの炎によって蒸発している。
一方アルテはゲイルの反対側に立ち、体と黒剣インセクトフェザーを回転させて剣の舞を踊っていた。彼女の周りには微量の風が渦巻き、それはアルテがステップを踏みつつ軽やかに回転すれば、それに伴って風も動く。
手にしている黒剣インセクトフェザーもまた彼女の両手を移動しながら回転。その刀身にも風を纏わせ、風の刃と黒剣インセクトフェザーの刃という二重の剣によってその剣舞が成り立っている。
それは血が舞い、肉が斬られる音を響かせているのに、踊り子はとても軽やかな動きをしている。冷たい殺気を放ち続けている狂ラギアクルスを前にしてもアルテは臆した様子がなく、恐怖で体を緊張させる事もない。
子供のような心をしているのに、精神力は予想外に強い。慣れてしまっているとはいえ、この凍てつくような殺気を前にして表情を変えないのは驚嘆に値する。
だが狂ラギアクルスもこのまま黙っているほど大人しくはない。傷つけられるたびに怒りが溜まっていき、それは背中の突起が再び帯電し始めた時から解放されてきている。
そしてそれは全身に帯びるほどに力強く帯電を始め、肉薄していた二人を自主的に距離を取らせる事となった。
だがそれでも帯電は止まらず、背中の突起はどんどん雷の粒子が集まっていき鈍い光から突起全体に広がる光へと変化していく。
それは狂ラギアクルスの怒りの表れ。そしてゲイル達を抹殺しようとする殺意の表れ。
「ゴォォ……」
ゆっくりと首を動かし真紅の瞳がギロリとゲイル達を見回した。目に見えて激怒という名の炎がその瞳に宿っている。
今の体勢はゲイル達に背を向けている状態。それから勢いよく尻尾を振り回し、ゲイル達を薙ぎ払うようにした後、体を捻って正面に向き直る。
そして大きく息を吸い込みはじめ、それに比例するかのように狂ラギアクルスの気迫も一瞬置いて膨れ上がった。
「グォオオオオオオオオオオオオン!!」
怒りと覇気が咆哮となり、大気を震え上がらせるほどの怒号と化す。その怒りの表れとしての熱気を殺気という冷気が打ち消すかのように砂浜へと広がっていく。
それを前にしてゲイルとアルテは涼しい顔をしているが、サンは少し厳しい顔をしている。これが二人とサンの差といえよう。慣れている慣れていないの件もあるが、やはり狂化竜との対峙経験の差があるのがここに出ている。
だがそれを振り払い、得物を握り締めてじっと狂ラギアクルスを見据えている。
「グルォォオ……!」
口元からは白い息吹が漏れている。それがなくとも今の怒号と気配で怒り状態になっていることは充分に感じられるだろう。
狂化竜の怒り状態。
そこらの飛竜とは比べ物にならないほどの冷たい殺気と覇気が充満する中、三人はそれぞれの武器を構える。
「そんじゃあ、こっからが本番だぜぇ……! アルテ、サン、気張っていけよ!」
「うんっ!」
「……はい!」
海竜の得意とする領土、海から砂浜へと引き上げたならば、あとはこちら側の領分。一気に攻めて片をつけてやる、とゲイルが意気込んだ。
ここに第二の戦いが始まろうとしている。
陸に上げられたワニはただ狩られるだけなのか。
それとも自分の領土へと上げたことで余裕を持った狩人たちを逆に喰らうのか。
戦いはまだ始まったばかりだ。