呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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四話

 

 あの一件から数週間。

 山の中を歩き、優羅は南へと進んできた。装備を売って金を手にしたが、一度も使ってはいなかった。それは村や町がなかった、ということもあったが、あの一件で優羅は人というものが怖くなったのだ。

 元々人付き合いを苦手としていた彼女であり、住んでいた村以外の人の集落に行った経験がない。

 つまり、外の世界をあまり知らなかったのだ。

 あの日のようにまた訳もわからず追い回されたらどうすればいいのか。

 そう考えると、村に行く気があまり沸いてこなかったのである。

 しかし数日も森で過ごすことで、もう着物もボロボロだった。体を洗い、着物を洗濯しても、今の彼女はとても小奇麗と言えるような容姿をしていない。

 とはいえ、着物というものは東方では私服に近しいほどのものだが、なかなか値が張るもの。子供用なら何とかなるかもしれないが、優羅は少し躊躇っていた。

 4万を超える大金を手にしているが、何となくこれを一気に消費する気にもなれなかった。

 それにまだ何とかなる、と思っていたので、優羅は新しい着物を買う気はなかった。今までやってこれたのだから問題ないし、新品を着てもすぐに汚れるだろう。

 加えて着物というのは森で動き回る際に裾を踏みつける可能性だってある。つまり、機動性が悪い。これも彼女が新品を着ることを躊躇う理由になっていた。

 

「……っ、っ」

 

 そして今、優羅は木の枝に腰掛けながらオデッセイブレイドを素振りしている。左手には今日のご飯である果物が握られており、時折口に運んでいた。

 何をしているのかと言うと、食事をしながらオデッセイブレイドに慣れようとしているのだ。

 オデッセイブレイドは優羅の手には少し重いため、毎日素振りをすることで腕の筋力をつけ、同時に扱いに慣れようと決めた。

 武器というものは扱い慣れていないと意味のないものだ。いざという時に使えませんでした、では死ぬ可能性がある。もちろん辺りを警戒した上で行っていることであり、素振りした後は右腕がしばらく使えない、というデメリットもある。

 しかし毎日続けることに意味はある。それは父親たちがハンターをしていることでよく知っていることだった。積み重ねていくことで体が作られ、次第に体がこれが普通と認識される。そうなれば優羅にもこのオデッセイブレイドが扱えるだろう。

 

「……ふぅ」

 

 今回のノルマを終えて鞘にオデッセイブレイドを納める。そのまま果物を齧りながら何気なく下を見下ろすと、そこを2人のハンターがアプトルに跨って通り過ぎていった。

 

「……?」

 

 アプトルはそのまま森の奥へと消えていき、見えなくなってしまった。

 あの様子から考えるに、たぶんこの先でクエストが行われるのだろう。だがあの先は優羅の進路であり、どうしたものかと考える。

 

「……行くしかないかな」

 

 元より自分の行く先など一つしかない。ならばここは変わらずに歩いていくしかなかった。

 

 数分後、ハンターたちのベースキャンプらしきものが見えてきた。とはいえ、1キロほど離れた先なので、優羅にハンターが気づくことはない。

 テントを張り終え、ハンターたちがクエストへと赴いていく。それを見送り、優羅はベースキャンプへと近づいていく。

 

「…………」

 

 置いてある青い箱。これは支給品ボックスと呼ばれるものだ。中を空けてみると、そこには応急薬、携帯砥石、携帯食料などが入っている。

 

「…………」

 

 しばらくそれらを見続け、優羅は目を閉じて考え込む。

 自分がやろうとしていることは盗みだ。応急薬は何かあった際に使用できるし、空いたビンは回復薬を入れるためのものになる。

 携帯食料があれば食いつなげるし、携帯砥石があればオデッセイブレイドの切れ味を戻せる。加えてボロピッケルまで入っていた。これがあれば少しだけ鉱石が掘れ、それを売り払ってまた金が手に入る。

 

「…………すみません、戴いていきます」

 

 誰に言うまでもなく、優羅は呟いてそれらを失敬してポーチに入れていく。

 更にテントには数冊の本が置かれていた。それを見てみると、調合書①入門編、調合書②初級編、と書かれていた。

 

「……これ、は……」

 

 これさえあれば、優羅は調合に関して学ぶことが出来る。震える手でその本に手を伸ばし、軽くページをめくってみる。

 まず前文がかかれ、そして回復薬の作り方が書かれている。もちろん他にもよく使う道具の作り方が書かれてあり、これさえあれば今ある素材で作れるものが作れるようになる。

 

「……すみません」

 

 悩んだ末、優羅はこの二冊も戴いていくことにした。

 ポーチに入れて足早にベースキャンプから離れていき、また一つ罪を犯したことを自覚する。

 だがそれは一つの言い訳で成り立つ。

 

 生きるため。

 

 しかし言い訳は言い訳だ。

 優羅は走りながら胸が痛むことを自覚する。

 これが罪の証。

 その痛みは忘れることがないだろう。それでも生きるために、優羅は走り続けるのだった。

 

 次の日の朝、朝食として携帯食料を口にしながら優羅は調合書①入門編を眺めていた。

 今日から調合に関して勉強をしなければならない。この本はポーチを圧迫するため、早いところ全てを記憶してどこかに破棄しなければならない。

 幸いハンターの娘というだけあり、文字は読める。まずはよく使うものにして、調合の基本といえる回復薬を覚える。

 薬草とアオキノコが素材だ。アオキノコの効果増幅の力を利用し、薬草の効果を高めた飲み物。それが回復薬だ。傷口に液体を染みこませたり、それを飲み干して体の内側から治療を試みたりする。

 

「……えっと」

 

 ゆっくりと文面を読み進め、それを頭に叩き込んでいく。残念ながら空き瓶がないため、今ここで作ることは出来ない。応急薬といえども、そう易々と使うわけにはいかない。

 本当に傷ついた時でないともったいないし、健康体に使ってどんな副作用があるかもわからない。だからいつか作るときのために、作り方だけでも覚えておく。

 何度も読み返して手順を読み進め、一息ついてそばに置いてあるコップに満たされた水を飲み干す。目を閉じれば回復薬の作り方が浮かぶほど読み返した。たぶん、これで覚えただろう。

 回復薬の次は回復薬グレート。回復薬にハチミツを混ぜることで更に効果を高めた一品だ。

 この一品で大抵のハンターの負う傷が癒されるといわれ、初心者から達人まで愛用されている。とはいえ、元が回復薬のため、全てを癒せるほどではない。秘薬と比べれば確かに質は落ちるだろうが、それでもハンターにとっては一番世話になる薬だろう。

 だが、調合するための素材であるハチミツはなかなかやっかいだ。

 いや、普通のハンターになればそんなに苦労はしないだろうが、今の優羅にとっては困る素材だった。

 ハチミツはランゴスタと呼ばれる蜂の巣から取れる素材。ランゴスタは巨大蜂と呼ばれ、アイルーほどの大きさをしている。尾にある針からは麻痺毒が染み出ており、それに刺されれば動けなくなるほどの毒とされている。

 これに関しては優羅には意味のないものだが、今の彼女にそれは知らない。

 だが問題なのはランゴスタは大抵2~4匹で行動しており、その羽は剣に等しい切れ味を持っている。それに切り裂かれれば、装備をしていない優羅にとっては致命傷になりかねない。

 

「……ハチミツは諦めよう」

 

 命は大事だ。勝てない戦いにわざわざ挑むほど愚かではない。それもただ素材欲しさで向かって死んでしまっては元の子もない。

 携帯食料のパサパサ感で口の中が寂しくなり、また水を飲みながらページをめくっていく。今日の朝食はこれで終了だ。しかし腹は少し膨れたような感覚がする。

 ハンターに支給される携帯食料は確かに量は少ないが、空腹を満たすだけのカロリーが取れる。加えて乾燥しているので長持ちするのが特徴だ。

 乾燥しているために水が欲しくなるのと、味気ないのが惜しいが、そういう食料だからしかたあるまい。

 本を閉じてポーチにしまい、優羅は立ち上がってコップを洗う。そして今日の旅を始める。

 

 やがて夕方頃になると海が見える場所までやってきていた。崖から赤く染まっていく海を眺め、優羅は言葉を失っていた。

 海というものを初めて見た彼女である。ずっと山の中で暮らしていたので、海まで出てきたことはなかった。

 何気なく遠くの海から、下の方を見てしまう。

 崖にぶつかる波。隆起した岩。

 ここから飛び降りれば間違いなく死ぬだろう。

 

「…………」

 

 死ぬか?

 いや、とんでもない。

 命を投げ出すなど有り得ないこと。

 まだ昴と紅葉に会っていない。二人はどこかで生きているはずだ。

 寂しいという感情はまだ残っているし、まだ夢の中で二人に会っている。今はそれで何とか寂しさを凌いでいる。

 もしかしたら死にたい気持ちがどこかにあるかもしれないが、生きたいという感情が多くを占めている。

 だからここから飛び降りることはない。

 崖から離れて優羅は再び歩きはじめる。再び森の中に入り、今日の夕食を探し始める。

 

 今日の夕食もまた数個の果物。それに加えてたんぱく質を取るためにアプトノスの肉を焼き、あの村で買ったジュースで腹を満たした。

 

 次の日の朝、海外線に沿って歩くことにした。海があるということは、この先のどこかに人の集落があるかもしれない。海の幸を取ることで生計を立てている集落があってもいいだろう、と推測したのだ。

 ということは行商人や旅人も訪れ、昴と紅葉がその中に紛れているかもしれない、という淡い期待もあった。

 その途中のこと、海に流れる川にアプトノスの群れが集まっているのが見えた。

 あの日狩ったアプトノスの肉が少しずつ消費されている今、新しく生肉を追加してもいいかもしれない、と考える。

 それは同時にあの中の命を奪うことにもなるのだが、それを躊躇っていてはこの先生きていくことは出来ない。

 

「…………」

 

 覚悟を決めてオデッセイブレイドに手を伸ばし、優羅は再び狩りに赴く。

 

 

 また一つの命が消えた。

 辺りにいたアプトノスたちはいなくなり、目の前に横たわっているアプトノスを解体していく。

 とはいえ、手にするのは生肉だけ。竜骨を手にしても今の優羅には意味のないこと。流れる血に眉を顰めつつ、数日食べる分の生肉を剥ぎ取っていき、生肉を納める袋に入れていく。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 手に付いた血を、そこで流れている川で洗い落としていく。

 流れる水に赤が混じるが、それを息を飲んで目を逸らす。いずれこの血にも慣れていかなくてはならない。でばければハンターとしてもやっていけない。

 充分に落としたところで布を取り出して手を拭く。

 そして辺りを見回すと、近づいてくる気配を感じ取った。その方へと視線を向けると、薄い水色と橙色の体色をしたトカゲのようなモンスターが近づいてくるのが見える。

 

「……あれは、ジャギィだったっけ」

 

 この東方地方で生息する鳥竜種の一種であり、ランポスと同じく小型の肉食竜として知られるモンスターだ。

 雌はジャギィノスと呼ばれ、ジャギィと比べると体が大きいらしい。雄のジャギィが巣から離れ、狩りをして獲物を持ち帰るという話だ。

 そしてランポスと同じく、集団で狩りをするのが特徴だ。恐らくこのアプトノスの血の匂いに誘われてきたのだろう。

 

「……」

 

 ここで戦いをするのは意味のないことだ。

 ちゃんとしたハンターでない優羅はジャギィの素材など必要ない。今逃げれば交戦しなくても済むだろう。

 無意味な殺生をしないことに越したことはない。

 立ち上がって川を渡り、優羅はその場を後にした。

 

 海岸線を歩くこと数時間。未だに集落は見えない。

 もしかするとこの先にあるのではなく、また別のところにあるのだろうか、という気がしてきた。目標がない優羅に、進路変更という選択肢が浮かんでくる。

 アテがないのだから仕方ないとはいえ、どうしたものかと考えてしまう。

 このまま進んでみるか、左折してみるか。

 自分は恐らく南に進んでいるのだから、左折するということは東に進むということになる。

 海の向こうには別の世界があり、そこでも多くのハンターが集まっているらしい。

 ハンターズギルドの総本山といわれる街も西の方にあるというらしいが、今の優羅にそんなものは必要ない。

 少し考え込んでいると、腹が鳴ったのを感じた。空を見上げれば太陽が随分高い位置にある。いつの間にか昼になっているようだった。

 

「……ご飯にしよう」

 

 そう決めると辺りを見回して食事が出来そうな一角を探してみる。

 すると大きな岩が見つかった。あの陰で食事をすればいいだろう。

 そう決めると少しだけ駆け足になってそこへと向かう。

 岩の陰に座り込み、ポーチから携帯食料を取り出し、コップとジュースを用意する。残念ながら近くに川がないので水を汲むことは出来ない。

 加えてもうジュースもこれで尽きてしまう。だから空いた容器に満たすための水も汲まなければならないだろう。

 使ったものは再利用する。これが生き抜くために必要なことだった。

 

「……いただきます」

 

 手を合わせて携帯食料を口に運んでいく。これもそろそろ尽きてしまうだろう。またハンターを探して失敬しようか、なんてことを考えながらオデッセイブレイドを抜き、右手で構えて素振りをする。

 右手の筋力が付いてきたのを感じる。今度は左手でも素振りをしてみようか、なんてことを考える。左手には盾を装備するのが片手剣だ。

 左手の筋力を鍛えておけば、攻撃を受けた際の衝撃に耐えられるだろう。

 

「……うん、いつかやろう」

 

 次の課題を決めつつ、ジュースを飲み干す。底に残った雫まで飲み干し、一息ついてオデッセイブレイドを見つめる。

 武器。相手を倒し、殺すための凶器。

 自分はたったの8歳。

 なんとアンバランスな組み合わせだろう。

 そのまま自分の右腕に触れてみる。あの頃と違って少しだけ力がついた腕。

 それが今まで積み重ねてきた結果。オデッセイブレイドを振るうために得た力。

 

「…………」

 

 こんな風に自分は変わっていくだろう。

 いずれ昴と紅葉に再会した時が少しだけ怖い。最近そんな風に考えてしまうようになった。

 

 変わってしまった自分を見て昴はなんて言うだろう――怖い

 変わってしまった自分を見て紅葉はなんて言うだろう――怖い

 

 そんな不安が優羅の中に芽生えてしまったのだ。

 生きるために殺した。

 生きるために盗んだ。

 そして生きるためにこうして武器を手にして鍛えている。

 村で暮らしていた頃の優羅が消えていく。

 そんな変化が自分でも怖くなってきた。

 

「……はぁ」

 

 思わず溜息が漏れる。

 だがすぐに顔を引き締めて顔を上げた。

 優羅の背後からいくつかの気配が近づいてきているのだ。そっと岩から顔を出して後ろを見てみる。

 

「……っ」

 

 見えたのは先ほどよりも多い数で走っているジャギィ。そしてその先頭には一際大きなジャギィがいる。

 ドスジャギィ。

 ジャギィとジャギィノスを束ねる群れのリーダーである。

 いったいなぜこんな所にいるのか。

 いや、そんなことを考えている暇はない。すぐにここから離れなければならない。

 

「……!」

 

 オデッセイブレイドを鞘に戻し、ジュースの容器もポーチにしまい、優羅は一目散に駆け出した。

 ジャギィならば何とかなるだろうが、数で攻められたら敵わない。

 ましてや群れのリーダーであるドスジャギィなんて出てこられれば、今の優羅には絶対に勝つことは不可能。

 食事が携帯食料で助かったかもしれない。普通の肉を食べていたら、消化している胃が刺激されて腹痛に見舞われただろう。

 そっと肩越しに振り返ると、ドスジャギィたちがぴったりと後ろにくっついてきている。どうやら優羅に気づいて追いかけてきているようだった。

 

「……く、は……」

 

 呼吸が荒くなるが構わず走り続ける。足が速かろうが、スタミナがあまりない優羅ではいずれ追いつかれるだろう。そうなれば待ち構えているのは死。

 肉食竜との戦闘はランポスしか経験していない。足元を見ても石なんてものは転がっていない。あの時のように石を投げて目を潰す、なんてことは出来ないだろう。

 ではどうしたらいい?

 逃げ切れるのか?

 それとも、戦うのか?

 戦ってどうするというのだ。こんな広々とした草原でどうしろというのか。

 もう一度後ろを振り返ってみる。

 少しだけ距離が詰まっているのは気のせいなのだろうか。

 いや、気のせいじゃないだろう。

 自分の体力のなさがここで表れている。それによってスピードが落ち、距離を詰められ始めているのだ。

 このまま逃げても意味はない。

 

 ――覚悟を決めろ。

 

 そう感じると、ドクン、と心臓が一つ高鳴った。

 

 ――狩れ。

 ――生きるために殺せ。

 

 少しだけ頭が冷える。

 そして反転してぐっとドスジャギィたちを見据える。

 数回肺に酸素を送り込んで呼吸を整え、オデッセイブレイドを抜き、左腕に盾を嵌める。

 

 ――生きるんだ。

 ――ここで死んでは、二人に会えない。

 ――ならば、この狩猟世界で生きるために……

 ――奴らを狩れ……!

 

 紅い目が少しだけ細められ、感覚が少しだけ鋭くなったような気がした。

 いったい何が起きているのか。

 そんなものに考えがいかないように遮断する。

 どうせハンターの娘だから、ハンターとしての血が目覚めただけのことだ。

 今はただ敵を見ろ。

 

 数は?

 ジャギィが6匹、ドスジャギィが1匹。

 

 どう戦う?

 周りのジャギィを殺す。

 あとはドスジャギィと戦えばいい。

 

 よし、生きる……!

 携帯食料を口に運んで少しだけ体力を戻しておく。これもまたすぐにエネルギーとなって体を動かしてくれることだろう。

 近づいてくるドスジャギィたちを見据え、優羅は駆け出した。

 

「ウォン! ヴォルゥルゥ……」

 

 向かってくる優羅を見て、ドスジャギィがジャギィたちへと指示を出した。だがそれを意に介さずにそのまま疾走し続ける。

 

「ギャア! ギャア!」

「ヴァウ! ヴァルル!」

 

 指示を受けたジャギィたちが飛び跳ねるようにして優羅へと近づいていく。爪を振り上げ、足と尻尾を振り回しており、更に優羅を囲むように移動していく。しかし優羅は目を細め、一番近くにいるジャギィへと近づいていく。

 

「……っ!」

「ギャルァ!」

 

 飛び跳ねると同時に振り下ろされた爪を回避し、下から切り上げるように右腕と胸を切り裂く。オデッセイブレイドの切れ味により、容易に右腕が体から離れていく。

 

「ギャアァァ!?」

「……はっ!」

 

 振り返りざまに首に刃を突き立て、そのまま横に切り払う。ジャギィの体は小型であり、優羅でも充分首に刃を届かせられた。それによって1匹が落ちる。

 立ち止まらずに刃を振って血を振り払って次のジャギィへと近づいていく。その際ドスジャギィの位置を確認し、一番離れているジャギィを選択した。

 今はまだドスジャギィを相手にする必要はない。飛び跳ねていたジャギィが着地と同時に噛み付いてくるが、体を捻って回避し、伸ばされた首に振り下ろす。それによって首を刎ねられて2匹目が落ちる。

 

「ヴォウ! ヴォウ!」

 

 仲間を2匹殺されたことでドスジャギィが更なる指示を下す。更に自分もまた動き出し始めた。こうなってしまうと危険が増してくるが、元より腹は括った。

 

 ――狩れ。

 

 残りの4匹は同時に襲い掛かってくる。囲むだけでなく、同時に攻撃しかけてくるように指示されたようだ。

 回りこんでくるジャギィの間を抜けるように接近してくるドスジャギィを前に、優羅は冷や汗を流す。小型のモンスターなら問題ないが、リーダーともなればその迫力も段違いになる。

 正式なハンターでない優羅には、その迫力は苦痛となる。

 

 ――だが臆するな。

 ――元よりお前は……

 

「ギャオ!」

「……ふっ」

 

 噛み付いてきたジャギィから後ろに下がるが、その後ろに回りこむようにジャギィが移動して飛び掛ってきた。

 

「……くっ」

 

 それも横に跳んで回避するが、そこにドスジャギィが接近してきた。

 大きく口を開けて噛み付いてきたが、今度は転がって回避する。だがそこに捻られた尻尾が迫ってきたため、盾を構えてそれを防ぐ。

 

「……く、あ……」

 

 その振動は幼い優羅の腕で支えられるほどではない。たちまち後ろに吹き飛ばされ、地面を転がってしまう。

 

「……ごほ、ごほ……」

 

 起き上がって咳き込みつつドスジャギィを見つめる。すぐにジャギィが集まって優羅に止めをさそうとしている。

 すぐに対処しなければ……。

 しかし痛んだ体が動きを阻んでしまう。

 根本的なことを言えば、優羅の体はまだ戦いに向くように作られてはいないのだった。

 もう、ダメなのか……?

 迫り来る死に歯噛みをする。

 まだ死にたくないのに……!

 だが手詰まりだ。自分がハンターとして戦うなど無理な話だったのか。

 

 だが救いの手が差し伸べられた。

 

 どこからか飛来した弾がジャギィを撃ち抜いたのである。

 

「……え?」

 

 見れば離れたところに二人のハンターがいた。

 一人は女性。ライトボウガンを手にしており、銃口をジャギィたちに向けている。

 そしてもう一人。男性が大剣を手にしてドスジャギィへと向かっていく。

 

「ヴォル……!?」

 

 突然の乱入者にドスジャギィが男性の方へと視線を向けてしまった。

 

「……っ!」

 

 それを狙って優羅は立ち上がり、1匹のジャギィへと斬りかかった。胸を斬り、そのまま刃を突き刺して切り払う。最後の1匹は女性が狙撃したことで死亡した。

 残るはドスジャギィだけ。

 

「おおおおぉぉ!!」

「ウォウ!?」

 

 振り下ろされる大剣にバックステップで回避すると、そのまま唸り声を上げて男性を威嚇する。その間に後ろにいた女性も新しい弾を装填しながら接近してきた。

 

「……」

 

 装備を見ると、それなりに腕の立つハンターだとわかる。

 男性はレウスシリーズにスパルタカスブレイド、女性はレイアシリーズにヴァルキリーファイアを手にしていた。

 どちらも火竜と呼ばれる飛竜を素材とした装備だった。

 女性が銃口をドスジャギィへと向けて引き金を引く。放たれた弾は見事にドスジャギィに命中し、いくつかの弾が命中するとドスジャギィは体を痙攣させて動けなくなった。どうやら撃ったのは麻痺弾のようで、その麻痺毒が全身に巡ったらしい。

 その顔面に立って男性がスパルタカスブレイドを構えて力を込めていく。俗にいう大剣の溜め斬りを放とうとしているのだ。

 1秒、2秒、3秒と力を込めていき、そして全力でそれを振り下ろした。

 

「はああぁぁぁぁ!!」

 

 麻痺しているドスジャギィに避ける術はない。顔を両断され、そのまま絶命してしまった。

 

「…………」

 

 これがハンターの実力。

 実際に目にするのは初めてだった。

 父親にくっついていったこともなければ、あの日もただ逃げているだけだったので、戦っている様子を見ていない。

 話に聞いているだけだったハンターの狩りを目の前で見てしまった。

 

「……ふぅ、大丈夫かい?」

 

 男性がスパルタカスブレイドを背に戻し、汗を拭いながら声をかけてきた。

 助けてもらったのだ、と気づき、優羅はオデッセイブレイドを鞘に戻しながら視線を彷徨わせる。

 少しして小さく頷くことで応える。

 

「……今の、オデッセイだったね? 君もハンターなのかい?」

「……いえ、これは、お父さんの形見、で」

 

 嘘だ。

 予め用意してあった答えを口にしただけ。

 優羅の服装を見て、ただ事じゃないのだと二人は気づいた。

 

「うちに来る? その服、もうボロボロでしょ? お古でよければあげるよ?」

「……え、と……」

 

 女性が屈みこんで視線を合わせ、優しくそう言ってくれた。

 どうしよう、と頭の中でいろんなことが巡っていく。だがいくら考えても断る選択肢が浮かばなかったので、それも小さく頷くことで応えた。

 

 そして優羅は二人についていき、一つの村に辿り着くことになる。

 

 

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