呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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6話

 

 目が覚めると視界に紅葉が映っているような気がした。朧げな視界がゆっくりと晴れていくと、じっと紅葉を見つめる。

 

「……ん?」

「おはよ、昴」

「……おう。……んん? またか、お前は」

 

 目を擦りながら起き上がると、寝ぼけた目で紅葉を軽く睨みつける。だが紅葉はそれに気にした様子はなく、むしろいいものを見た、といった風な表情をして立ち上がった。

 

「だってさー、いい顔で寝てるもんだからついつい見てしまうのよね」

「……つまらんもんを見なくていい」

 

 紅葉はほぼ毎日こうして寝顔を見てくる。昔は見てくるだけでなく色々といたずらをしてきたものだ。頭をかきながら立ち上がり、ローブの中に手を入れて替えの和服を取り出してシャワー室へと向かっていった。

 シャワーが流れる音が聞こえると同時に紅葉は冷蔵庫へと向かい、ジュースを用意した。少ししてキュッと締める音がし、シャワー室から黒い和服を着た昴が出てきた。

 

「はい、どうぞ」

「どうも」

 

 コップを受け取るとそれを一気飲みして大きく息を吐く。その間に紅葉もローブから替えの和服を取り出してシャワー室へと向かっていった。待っている間部屋においてある情報誌を取り出し、ソファに腰掛けて読み進めていく。とはいえ、大した情報はなくただの時間つぶしとなってしまった。

 数分後にシャワー室から出てきた紅葉にお返しとしてジュースを手渡すと、陽だまりのような笑顔を見せて「ありがと」と言ってきた。そのまま腰に手を当ててぐいっと昴がしたように一気飲みをする。

 

「ぷはぁっ!」

 

 そしてぐいっと口元を拭い、コップを掲げる。なんとも親父くさい仕草をしたため、慣れている昴といえども苦笑するしかなかった。

 

「じゃ、酒場にいこっか」

「おう」

 

 

 酒場に着くとまずは朝食を頼むことにした。朝ということもあってハンターの数はまだ少ない。二人の服装が純和風だったため、一瞬だけハンターたちの目が二人に向けられたが、気にした風もなく再び騒ぎ出す。

 昴はアプトノスの肉野菜炒め、紅葉は大食いマグロの塩焼きとサラダを注文した。そして二人のおかずの傍らには炊きたてのココット米が置いてある。

 

「では、いただきます」

「……いただきます」

 

 手を合わせて食事を開始する。アプトノスの肉野菜炒めは、肉はアプトノスの切り落としを、野菜は砲丸レタスやシャンゴーネギなどを使用している。最後にホビ酒を絡め、塩などで味を調えて完成だ。朝の眠気を覚まし、一日のエネルギーを取れるメニューである。

 しばらく食事を進めていくと入り口からライムとシアンが姿を見せる。二人はキョロキョロと誰かを探している。

 

「お二人さん。こっちこっち」

「……あ、紅葉さん!」

 

 呼びかける紅葉を見つけると、とても嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。

 

「おはようございます!」

「ん、おはよう」

 

 勢いよく頭を下げて元気一杯の挨拶をしてくる。そんなシアンの様子に紅葉は苦笑してその頭を撫でる。

 

「朝から元気すぎだね」

「元気のよさがわたしの取柄ですからっ!」

 

 気持ちよさそうな顔をしながら敬礼する。

 そして後ろからライムが現れ、二人に頭を下げる。

 

「おはようございます」

「おはよう、ライム」

「……おはよう」

 

 まだシアンの頭を撫でたまま紅葉が微笑し、昴はお茶をすすりながらチラッと視線を向けて挨拶する。そして首をしゃくって自分の隣を示す。何も言わないが恐らく座れ、ということなのだとライムは解釈した。

 

「じゃ、お邪魔します」

 

 小さく頭を下げると、昴は小さくうなずいた。そして対面には充分撫でてすっきりしたのかどこかほくほくした顔で紅葉が食事を再開し、ふやけたような顔をしているシアンがその隣に座る。

 

「朝食はもう食べた?」

「はい! 自宅で食べてきました!」

 

 この村に暮らしている二人ならば酒場で食べずに自宅で食べるのも当然のことだろう。

 

「じゃあもう少し待ってて」

「りょーかいしました!」

 

 

 朝食を終えるとさっそくクエストを選ぶことになった。昴と紅葉が掲示板の前に立ち、ライムとシアンは席で待つ。つまり二人は持ってくるまで何が行われるかわからないということになる。

 

「さて、どれにするか」

「簡単なものにしてあげてよ?」

「わかってる」

 

 選ぶのは星が1つのもの。それであの二人の力量がそれなりにわかるもの。昨日はイャンクックをやったようだから、イャンクックは一応除外するとする。となればドスランポスが挙げられるが、それも何となく除外するとした。

 そんな二人の様子をシアンは何度も視線を向けている。やはり何が選ばれてしまうのか気にしているのだろう。

 

「ねえねえ、何が選ばれると思う?」

「んー……たぶん僕たちの実力かチームとして行動できるか、のどっちかを見るためのクエストだと思う」

 

 実力ならあの二人がカバーしてくれるかもしれない。最初のうちは自分たちが新米ということもあって多少足を引っ張ってしまう。となれば、これからチームとしてやっていくために集団で行動するための心得がわかっているのかどうかを見るためのクエストが選ばれる可能性が高い、とライムは考えていた。

 恐る恐る視線を向ければ、腕を組んでじっと掲示板を見つめている昴が目に留まる。彼はいったい何を持ってくるのだろうか。

 そしてその時がやってきた。

 

「……ん?」

 

 一つの依頼書が目に留まる。内容を確認していると紅葉も視線の先にある依頼書に目を向ける。

 

「これでいくか」

「ん、いいんじゃない? 一応これはチームとしての力量を試せるし」

 

 紅葉も賛成し、その依頼書をとって席に戻る。近づいてくる二人を前に、いよいよだと心の準備をする。体はがちがちに緊張していたが、紅葉は柔らかく笑って席に着く。

 

「そんなに緊張しなくていいって。今回は討伐クエストじゃないから」

「へ? じゃあどんな……」

「これだ」

 

 依頼書が机の中心に置かれる。そこには『クリスタルハンティング!』という文字が書かれていた。

 

「これって……」

「そう。採集クエストってやつね。内容としては灰水晶の原石を納める、というもの」

 

 フィールドはこの村から南西へと進んだ場所にあるシン沼地。そこで原石を掘り出し、ベースキャンプまで持ち帰るのがクエストの流れだ。

 

「……なるほど。チーム戦を確かめるクエスト、ですね?」

「そうだ。知っていると思うが原石は壊れやすい。そして結構な重量を持っている。そのため持ち運ぶ際は両手が塞がる。つまり、襲われれば抵抗できない。そこで仲間が運んでいる奴を護衛する形になる。これほどチーム戦が出来るかどうか確かめるクエストはないだろう?」

 

 無表情な彼の顔がうっすらと笑みを浮かべる。それは挑発の笑みじゃない。

 出来るか?

 やってみせろ。

 そして、見せてみろ。

 そんな思惑が感じられるような笑みだった。自分たちは試されている。そう感じたライムは応えるかのように笑顔を見せてうなずいた。

 

「頑張ります!」

「わたしも、精一杯頑張らせてもらいます!」

 

 力強く返ってきた言葉に昴はまた微かに笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「では手続きをしてくる。お前たちは準備をしてこい」

 

 依頼書を手にしてカウンターにいるエレナへと向かっていった。後を追おうと紅葉も立ち上がるが、思い出したように指を立てて二人に忠告をした。

 

「あ、ピッケルとホットドリンクは忘れないようにね?」

「はい。わかりました」

「ん。じゃ、また後でね」

 

 ひらりと手を振って紅葉も離れていく。

 残った二人は準備をするために自宅へと戻っていった。

 

 自宅に帰った二人は早速持っていくアイテムを準備する。現在親がいない二人はライムの家で同居する形で生活している。シアンの自宅はもちろん健在だが、シアンの生活はほぼライムの家が中心となっていた。自室でアイテムボックスを漁っていたライムにシアンの声がかかる。

 

「ねえねえ、持っていくものってピッケルとホットドリンクと、あとは回復薬や砥石とかでいいよね?」

 

 ハンターとしての経験はライムより長いシアンだったが、物を運搬するクエストは初めてだった。ライムはしばらくアイテムボックスを見つめて唸っていたが、小さく首を振った。

 

「んー……、いや、一応ペイントボールとかも持っていくよ」

「そう?」

「うん。何があるかわからないし。一応シアンも閃光玉とかは用意しといてくれる?」

 

 今回は討伐クエストではないので、さすがに爆弾や落とし穴などはいらないだろうが、閃光玉は持っていておいて損はない、とライムは考えていた。

 

「うん、わかったよ!」

 

 元気よくうなずいたシアンはそのまま部屋を出て行った。ライムは再びボックスを漁り、閃光玉を取り出した。

 数分後、酒場の前に集まった四人は荷物を確認することにした。まずピッケルは必須品。これがなければ話にならない。そして洞窟の中は寒く、スタミナがどんどん奪われるためホットドリンクも持っていくことになる。

 ホットドリンクとは飲むことで体の中から暖める寒い地方での必須品となっている。多少強い辛味があるが、これを飲まなければ凍死する可能性もあるため慣れるしかない。

 一通り二人が持ってきたアイテムを確認した昴はうっすらと笑みを浮かべて小さくうなずき、懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。

 

「よし。じゃあ行くとしようか」

「はい」

「よろしくおねがいしまーす!」

「ん、よろしくね」

 

 荷車に乗り、昴がアプトノスの手綱を握り締め、一行はシン沼地へと向かっていった。

 

 シン沼地までは半日ほど掛かる距離だった。着く頃にはもう日が暮れているだろう。それまでの間、元気が有り余っているシアンは退屈でしょうがない。ライムとしてはバックに読書をするための本が入っているため、それを読むことで時間が潰せる。幼い頃から本の虫だったためにこれが暇つぶしの方法になったのだろう。

 一方シアンは見ての通りの元気娘だったため外で遊ぶことが多いアウトドア派だった。そのためこういう時間は話をして過ごすしか知らない娘なのだ。そのため紅葉が話し相手を務めることとなった。

 今は昴と紅葉が世界を旅していた頃の話で盛り上がっている。

 

「へぇー、そんなことがあったんですかー」

「そうそう。あれはちょっとひどいもんだったわよ」

 

 今は密林で大量発生したブルファンゴ討伐の話をしている。エリアを縦横無尽に駆け回る数匹のブルファンゴほどハンターにとってやっかいなことはない。1匹に気を取られていると背後から突進を受けて吹き飛ばされることはよくある話だ。そして起き上がるとまた他のブルファンゴに攻撃される。これの繰り返しで気絶したり、大怪我を負ったりしたハンターも多い。

 

「これから行く沼地というフィールドはファンゴもそれなりにいる可能性があるからね。気をつけてよ? 両手が塞がってるから、あれの突進なんて受けたら体は吹き飛び、手を離れた原石は地面へ落下して壊れてしまうからね」

「うわ~……」

 

 想像できる光景だったため、シアンの顔が嫌そうなものへと変わっていく。彼女もブルファンゴに対してはいい印象は持っていなかったのだろう。紅葉の話でさらに悪くなってしまったに違いない。

 それからも話は続いたが、紅葉が昴と交代して手綱を操ることとなった。昴は壁にもたれ掛かって眠り始める。手綱を操りながらも紅葉はシアンの話に付き合っている。今は二人が使える魔法について話題になっていた。

 

「んー、とはいってもさ。ホントに使える数は少ないよ? ねえ、昴」

 

 眠っている昴へと話を振ると、うっすらと目を開けて二人の姿を確認する。そしてシアンだけじゃなく、ライムにも見つめられていることに気づくと、小さくうなずいた。

 

「どんなことが出来るんです?」

 

 興味があったのだろうか。ライムが本にしおりを挟んで質問してきた。組んでいた右腕を伸ばすと手を返す。すると指の間に氷柱のようなものが挟まっていた。

 

「基本はこんなもんだ。俺の魔法は空気中の水分を凝結させる、といったものだな」

「へぇ~凄いですね!」

 

 シアンが興奮したように昴の手を見つめている。だが昴は首を振った。

 

「そんなに便利なもんじゃない。他にも地面を凍らせて足を止める、といった使い方ができるだろうが、俺の力量が足らずに範囲が狭いことや素早く避けられることも多い。あとは空気が乾燥しているところや高温の場所じゃ役に立たん」

「……砂漠とか火山、ですか?」

 

 ライムの言葉に昴はうなずいた。

 空気中の水分を利用しているのなら、乾燥していれば凝結させるものがなくなってしまい、魔法は不発に終わる。逆に雪山や水が近くにあればその魔法を思うように使えるということでもあるが、昴自身の力量も関係しているようだ。

 そしてさんさんと太陽が照らされる砂漠地帯や、マグマが煮えたぎる火山では氷を作ったとしても解けてしまって意味がない、ということなのだろう。

 なるほど、現実はそうは甘くはないということらしい。

 

「だから俺の使える魔法は使う場所が限られる」

 

 そう締めくくるとなるほどとシアンはうなずいた。そして紅葉へと視線を移す。

 

「じゃあ紅葉さんの風魔法ってどんなものなんですか?」

「んー、例えば加速」

「加速?」

 

 振り返らずうなずいて、説明に入る。

 

「あたしの場合は足元に風を纏わせて自分の移動する速さを上げることが多いな。あとは聴覚保護だね」

「聴覚保護って……あの咆哮を防ぐってやつ?」

 

 首をかしげるシアンに再度うなずく。

 

「あたしたちの周りに風を渦巻かせてある程度咆哮を遮断させる。これで何とかやり過ごすことが出来ることも多いんだ。けどあたしの力量を上回るほどの咆哮なんてやられたら、さすがに防ぎきれないけどね」

 

 そう言いながら苦笑するがそれでも凄いものだった。自分の出来うる限りのことをやっている。魔法が使えないシアンからすれば、とても凄いと感じることだった。

 

「ま、魔法ばっかり頼ってたら体が鈍るからね。それに疲れるしさ」

 

 魔法を使うと精神力などが消費されるといわれている。例え才能があったとしても人間にはかなりきついものがあることが多い。だから多くの術者は普段から使用を控えている。

 例えハンターが使えたとしても、大抵の者は使用を自粛することが多い。何故ならば魔法を使って危機を逃れたとしても、疲れが襲い掛かって動きが鈍ってしまえば元も子もないからだ。

 

 それからも色んなことを話し、お互いの事を知り合いながら過ごすうちに、いつの間にか日は暮れていた。

 

 

 シン沼地。沼から発生する霧に包まれたフィールドである。森の中は木々に覆われ、霧も加わって視界はかなり悪い。一方森の外に出れば視界こそ良好なものになるが、泥によって足場は悪い。もし泥に滑って体勢を崩してしまえば、それだけで状況がかなり悪くなってしまう。

 またこれから向かう洞窟は冷気によって冷え込んでおり、ホットドリンクがなければたちまち体温が低下して動きが鈍くなる。だがそこから取れる鉱石やクリスタルは人々に豊かさを与え続けた。

 ハンターたちにとって不利な状況が揃ってはいるものの、それでもハンターたちは己の力で切り抜け、クエストを成功させている。

 そんな沼地のベースキャンプもまた霧に包まれていた。どこか肌寒さを感じながらもテントを張り終えて薬品を撒き、支給品ボックスと納品ボックスを用意する。

 この赤い箱をした納品ボックスに洞窟で採取した灰水晶の原石を納めていくのだ。今回求められたのは3つ。慣れているハンターならば1、2往復で終了する。1往復の場合はもちろん、3人が運んで1人が護衛するといった形だ。

 昴と紅葉は纏っているローブの中に手を入れる。ついに二人の装備がお披露目となる。ライムとシアンはどこかワクワクとしたような表情で二人を見つめていた。

 黒いローブの中から現れたのは褐色の鞘だった。

 飛竜刀【紅葉】。雄火竜リオレウスの素材を使用した炎の太刀。そのままローブを脱ぐと、その下から彼が装備している防具が現れた。

 胸から下まで赤い皮を使用した防具。そしてローブに手を入れて頭の部分を取り出して装着する。フルフルDシリーズと呼ばれるフルフル亜種の素材を使用した防具だ。

 一方紅葉が取り出したハンマーはなんとも奇妙なハンマーだった。イャンクックのくちばしがそこにある。だが加工されており、持つ部分である棍も存在していた。奇妙だが、それは確かにハンマーとして見れるだろう。

 その名はクックジョー。イャンクックのくちばしに虫の体液などを使用して作り上げたハンマーである。そしてローブを脱げば彼女の装備もまたお披露目された。

 ザザミシリーズ。盾蟹と呼ばれるダイミョウザザミの素材を使用した赤く軽装な防具だ。盾蟹と呼ばれるだけあり、見た目に反してなかなかの防御力を持ち、加えてスキルによって更に硬さを増している。ローブの中から頭の部分を取り出して装着する。その際に髪を纏めて下ろされた髪が、ゴムによって両端で結ばれてツインテールになる。

 

「……なんていうか、チーム名が寒い印象だっていうのに、見た目がホットですね」

「まあまあ、それは言わない約束ってやつよ。うん」

 

 シアンの鋭いツッコミに苦笑しながら頭を撫でてやる。それだけでシアンの顔が緩んでしまった。支給品ボックスを漁っている昴の元へとライムが向かうと、無言で地図などを差し出された。

 持っていくものは地図、応急薬、携帯砥石、携帯食料だけだ。ボロピッケルもあったが、今回は必要ないだろう。

 携帯食料は全員に配られ、今回もまた応急薬と携帯砥石はライムとシアンに2つずつ渡された。配り終えたら次は地図を広げる。

 

「さて、原石はここにあるようだな」

 

 シン沼地のエリアは全部で11ある。そして指差された場所はエリア11だ。

 

「見たところ運搬する際のルートは二つ。2、5、10を通っていくルートと、3、6、10を通る道か。……よし、今回は真っ直ぐに往復することにするため、前者を通ることにする」

 

 昴の説明にライムとシアンはうなずきながら聞く。

 

「最初はお前らが掘って運べ。俺たちは後ろから付いていく」

「僕たち、ですか?」

「そう。早速テストをすることにするからね。どっちかが運んで、どっちかが護衛をする。ね、簡単でしょ?」

 

 二人は顔を見合わせ、そしてぶんぶんと首を振る。そんな笑顔で「簡単でしょ?」って言われても困るのだ。なにせ経験がない。そして道中聞いている限りでは簡単なんて印象は全くない。

 

「まあまあ。気楽にやっていけばいいから。そんな風にがちがちでやってると、原石落としちゃうからね。そしたらもちろんやり直しだよ?」

(は、ハードルを上げたッ!?)

 

 シアンが心の中で叫んだ。恐らく背後で響いている効果音は、ガーン! だろう。

 昨日から思っていたが、シアンは紅葉のことはSじゃないかと疑っていた。優しいお姉さん、という印象はあるのだが、それでも根本的にはS気質が潜んでいる。

 

(お姉ちゃんの皮を被った悪魔だよぅ……)

 

 そんな風にしおれていると、チラッと紅葉がシアンを見つめた。その顔がニヤリとあくどい笑みを浮かべたような気がした。

 

(あわわ……)

 

 そしてがくがくと震えるシアン。いったいどうしたんだろうとライムが紅葉と交互に見るが、ライムには紅葉の雰囲気が伝わっていなかったようだ。そんな様子を離れた場所で見つめていた昴はやれやれと溜息をつく。

 

「紅葉、ちゃんとケアしとけよ」

「わかってるって。ああ、よしよし。大丈夫だからね~」

 

 もはや定番となったのだろうか。今度は胸元に抱き寄せて頭を撫でる。ザザミの装備に阻まれているが、ふくよかな胸がそこにあり、その心地よさにシアンの顔がたちまちとろけ始めた。

 

「はわ~……」

「よしよし、いい娘だからね~」

 

 傍から見れば仲のいい姉妹に見えるだろう。ライムはなぜか赤面して昴の元へと駆け寄った。そして昴はまた溜息をつく。

 

「……ま、気にしないでおいてくれ」

 

 そう言って懐中時計を取り出して時間を確認すると、午後19時を回った頃合だった。夜でも活動するモンスターが徘徊し始める頃だが、二人に振り返って大丈夫だろうと判断する。

 それに軽くフィールドの気配を探ってみると、大きな気配は感じられなかった。大きな危険はないが、小さな危険があるかもしれない。だがそれを恐れて立ち止まっているようではこの先はやっていけない。

 獅子が子を谷底に突き落とすように、昴もまた新米ハンター二人を多少の危険に晒す。

  

 クリスタルハンティングが今始まる。

 

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