呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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五話

 

 

 村はやはり海が近くにある所にあった。所謂漁村と呼ばれるものだ。

 海に面しており、船がいくつか並べられている。網が編まれてあったり、水揚げされた魚が干されていたりと、漁村らしい光景が見られるが、優羅にとっては初めて見るものばかり。

 向かった先は女性の自宅であり、早速お古の着物を戴くことになった。

 

「はい、この中から選んでね」

 

 タンスの奥から出されたいくつかの着物を並べられ、優羅は戸惑いながらも一応目を通していく。

 

「あ、遠慮しなくていいのよ。気にしないで、好きなのを選んでいいから」

「…………」

 

 柔らかく微笑まれ、断るに断れなくなってしまった。

 そしてもう一度着物を眺め、選んだのは藍色の着物だった。今まで着ていた着物は処分することになる。そのボロボロな着物は、今までの優羅の日々を表しているかのようだった。

 その日は女性の家にお世話になることになった。暖かな食事を頂き、ふかふかのベッドで眠ることが出来た。その暖かさと柔らかさに包まれ、久々に安らぐ夜を過ごしたのであった。

 

 次の日の朝、優羅は出会った二人と一緒に朝食を頂いていた。その味は今までの食事と比べるまでもない。何となく懐かしい、と思える家庭的な味わいだった。

 

「えっと、優羅ちゃん、だったかな?」

「……」

 

 女性の問いかけに優羅は頷く。

 

「村がレウスに焼かれたって話だったけど……」

「……」

 

 それにも頷いた。

 人付き合いが苦手な優羅は、そう簡単に打ち解けることは出来ない。一宿の恩義がある女性だが、それでも気軽に話すことが出来なかった。

 

「今までずっと一人でやってきたのかい?」

「……」

 

 男性の問いかけにも頷く。

 そのことに二人は驚いたように息を漏らした。

 

「防具もないのに……凄いね」

「…………」

 

 今まで生きてこれたのはある意味運がよかったからともいえる。飛竜に出会ってしまったら、そこで優羅は終わっている。

 戦ったのがランポスとジャギィだけ、というのもあるし、何とか戦えた、というだけでも奇跡的だろう。

 また優羅が小柄だったのも関係しているかもしれない。相手が優羅へと攻撃する際に体勢を低くすることで頭が下がり、それは同時に急所を狙うチャンスにも成り得た。加えて相手の攻撃が優羅に当たり辛かった、ということも関係しているだろう。体当たりを多用されたら状況が変わっていたかもしれないが、それもまた運が良かったのかもしれない。

 

「……ねえ」

「……?」

「ボウガン、使ってみる?」

「……え?」

 

 それは突然の提案だった。

 

 朝食後、その家の裏に回ってみる。

 そこには女性が使用している鍛練の一角が広がっていた。奥には木で作られた的が置いてあり、手前には構える場所に白い線が引かれている。

 女性が優羅のために一つのライトボウガンを持ってきてくれた。

 それは翠色の鱗がついたシンプルなライトボウガンだった。

 ジェイドストーム。

 水竜と呼ばれるガノトトスの亜種、翠水竜の素材で作られたライトボウガンである。

 その特徴は通常弾Lv3と滅竜弾以外の弾が装填出来るという幅広い装填範囲だろう。この一丁で大抵のモンスターを相手に出来る、といっても過言ではない。

 また通常弾Lv2に速射機能がついており、一発で五発撃てるのも特徴だ。

 女性が言うには、防具がないならガンナーとして行動してみるのもありじゃないか、ということらしい。

 ガンナーの特徴は遠距離からの攻撃にある。相手の攻撃射程外から攻撃するため、あまり攻撃を受けることはない。時に気づかれずに相手を倒し、時に奇襲を仕掛ける先達になる。

 一発一発のダメージが小さいが、それでも遠距離から攻撃できるという一面は大きい。幼い優羅にとっていい武器になるんじゃないだろうか、ということだった。

 だが女性はこうも告げる。

 

 ここで暮らしたらどうだろうか。

 

 無理に旅を続けるんじゃなく、ここで暮らしていけばいい。めんどうは自分が見てあげる、と女性は告げた。

 だが優羅はそれに首を振る。自分は探している人がいるから、その相手を見つけるまでは止まれないと答えた。

 そしてジェイドストームを受け取り、通常弾Lv1を装填する。これは弾自体に複製の魔法が掛かっており、この一発が装填されると弾の前に弾が作られる。これによって弾が壊れない限りは周りの粒子を集めて弾を作るため、無限の弾が完成された。

 だがこの一発は基本中の基本の弾であり、威力に関しては全部の弾の中で最低ランク。加えてこの複製の魔法は他の弾には適合しなかったために、無限の弾はこの弾だけになってしまった。

 こんなところでも使えない魔法だ、と嘆かれた複製の魔法である。

 ジェイドストームを構えて銃口を的に向けてみる。そして引き金を引くと的の隅に命中した。

 

「……」

 

 銃には癖がある。そう昴の母親が言っていた。

 彼女はヘビィボウガンの使い手であり、よく鍛練として的に向かって撃っているのを見かけた。そのことを思い返して一息ついてジェイドストームを構える。

 この銃の癖を把握するため、もう一度銃口を的に向けて引き金を引いた。今度は円の線に命中した。

 

「…………」

 

 もう一度修正して引き金を引くと、更に中心に近づいた。その様子に見守っていた女性は驚きを隠せない。普通この歳でここまでライトボウガンを扱えるようなものではない。

 引き金を引いた時の反動、火薬が爆発した時の音で怯んでしまうはずだ。しかし優羅はそんなことはなかった。それはヘビィボウガンを撃っている様子を見たことがあり、それに慣れているからなのだが、それを女性は知らない。

 そして反動に関しては、通常弾Lv1では反動はほとんどない。

 加えて何故か優羅のライトボウガンの構える様が綺麗に見える。これに関しても昴の母親がライトボウガンを持っていたこともあったからであり、彼女の構え方を真似してみただけ。

 

「……」

 

 そして引き金を引くと、今度は中心に命中した。

 優羅の視力の良さもまた関係しており、たった4回で中心を捉えてしまう。

 その様子を見て優羅は内心でこう思ってしまった。

 

 自分の武器はライトボウガンが合っているのだろうか?

 

 視力がいいというのは何となく自分でもわかっていた。こうして構えてみてわかる。的がしっかりと見えるし、癖もすぐに見破ってしまった。

 しかしガンナーは金が掛かるという話だ。弾がなければボウガンは使用できない。これは逃れられないガンナーの宿命。攻撃に使う弾を集めるために金が掛かる、そういうことだ。

 だが弾は調合でも作れる。調合書もあるから、素材さえ集まれば弾は作れるだろう。Lv1の弾はそんなに難しくないし、素材も比較的楽に集められる。

 しかし問題はもう一つある。

 それは弾がポーチを圧迫するという点。今の優羅にポーチを圧迫させる要因は作りたくない、というのが本音だ。

 彼女のポーチは素材を入れるためのものではない。金と食料を入れるためのもの。

 でも少し考えてみてもいいかもしれない。そう思い、もう一回引き金を引いてみる。

 弾はまた、中心に命中した。

 

 昼になると女性と一緒に村を回ってみることになった。その際に新しい飲み物を購入することにした。ジュースを数本選び、金を支払おうとすると女性が代わりに支払ってくれた。

 

「……え?」

「ここは私が払うね」

「……あ、いえ、そんな……」

「いいのいいの。これも何かの縁だし。……ね?」

 

 軽くウインクをされ、もう何も言えなくなってしまった。

 それから昼食として女性に魚を使ったものを奢られ、二人は広場に移動することとなった。

 初めて食べるものだったが、なかなか美味しかった。また一つ、新しいレシピが頭の中に入っていく。

 

「優羅ちゃんってこれからどうするの?」

「…………また、どこかへ」

「……そう。でも、やっぱりその歳で旅をするっていうのは」

「……決めたことですので」

 

 女性の言葉に乗せるように優羅がそう告げる。

 自分と同じように昴と紅葉もどこかにいるはずだ。確証はないが、優羅はそう信じていた。自分がこうして生き続けている。ならば二人もどこかで生きている。

 そんな風に思っていた。

 控えめながらも決意を固めている優羅の表情に、女性はまた驚きを隠せなかった。まだ8歳だというのに、こんな表情をするなんて。

 今まで何があったのか気になるところなのだが、それを追求する気にはなれなかった。優羅の性格からして話そうとしないだろうし、何より辛いことがあったことを掘り返すこともないだろう。

 

「……うん、じゃああのボウガン、優羅ちゃんにあげようか」

「……え?」

「お姉さんからの餞別。それで優羅ちゃんの旅に役立てるなら、嬉しいことはないよ」

「……でも、それって」

 

 武器の譲渡などは普通許されないことだ。一定の価値以上の素材のやりとりも禁止されており、違反すればギルドナイトに逮捕される。

 モンスターの素材がそう易々とやりとりされれば、実力以上の装備がさっさと作れるため、それでは意味がないために禁止されている。それの完成形であるものも、当然ながら禁止だ。親子ならばまだ黙認されるが、他人同士のやりとりとなればそれは違反行為である。

 

「ま、秘密ってことで。何かあればお母さんから貰った、ってことにすればいいよ」

「……はぁ」

 

 オデッセイブレイドが父親ならば、ジェイドストームは母親から、ということか。

 奇しくも別々の人になったが、これでまた一つ嘘が増えた。同時に、罪も増えた。

 だが女性の厚意を無碍にする気も浮かばず、その日優羅はジェイドストームを手に入れることとなった。

 

 

 だが、その日はそれで終わることはなかった。

 

 

 日も暮れてきたころ、二人は女性の家に戻った。ジェイドストームを頂いた後、そこに村長である老婆が現れたのである。

 

「あ、お婆ちゃん。こんにちは」

「おお、こんにちは。……って、おや? 見かけないか、お…………」

 

 女性から優羅へと視線を移した老婆の目がゆっくりと見開かれていく。次第に体が震え始め、女性と優羅はどうしたのかと首を傾げた。

 

「お、お主……、お、おお……」

「……?」

「お婆ちゃん? どうしたの?」

「……や、闇が……なんという……」

 

 闇、とはどういうことだろうか。

 それを女性が聞こうとすると、老婆は女性を見上げて切羽詰ったように叫んだ。

 

「その子を連れてついて参れ……!」

「え? あ、うん……」

 

 二人は老婆に従ってついていくことにした。

 向かった先は老婆の自宅だった。中に入ると、老婆は一つの部屋に向かう。

 そこは占いをするための小道具が揃っており、机の上に一つの水晶が置かれている。

 

「お主、名はなんという?」

「……く、黒崎優羅……」

「ふむ……」

 

 名を聞いた老婆は意識を集中させ、両手で水晶を囲んだ。何かを呟き続け、気を込めていくと少しずつ水晶が輝いていく。

 しばらくしてそれは少しずつ変化を見せ始めた。

 水晶の中心に黒いもやが現れたのである。

 

「お、おお…………!?」

「え? なに?」

「お主……まさか、悪魔の血を受け継いでいるのか……!?」

 

 悪魔?

 悪魔とはあの悪魔のことか?

 だがその疑問を感じる前に老婆が汗を流して水晶を見つめる。

 

「な、なんという、闇……! お主は『死』に魅入られておる……!」

「……え?」

「こ、これほどの『死』の気配は久々に見るぞ……! これもまた、悪魔の血の呪いなのか……!?」

 

 いったい何を言っているのかわからない。

 優羅は体が震え始めた。

 老婆の言葉だけでなく、この部屋の空気にも押し潰されそうだった。

 

「お主の周りは『死』が溢れている、ということよ……。お主、少し前に村を滅ぼされんかったか?」

「……っ!?」

 

 優羅の頭の中に燃え盛る村が思い返された。

 次々と死んでいく村人たち。燃えていく家々。

 そして黒く染まったリオレウス。

 

「お主の闇は『死』を引き寄せる。これからもそれは逃れられん。これは一種の呪いじゃ……! 悪魔の血、故の呪い……! お主は……悪魔の子じゃ……!」

「……!」

「お、お婆ちゃんっ! 何てことを言うの!?」

 

 女性が優羅を抱き寄せて老婆に叫んだ。

 だが優羅は呆然としたまま体を震わせている。

 

 呪い。

 『死』の呪い。

 

 老婆の言葉が頭の中に繰り返される。

 自分は『死』を引き寄せる。

 だから……死んだ?

 

 みんな、死んだのか?

 

「……ッ!」

 

 居たたまれなくなって優羅は走り出した。

 

「優羅ちゃん!」

 

 女性が呼び止めようとするのも構わず、老婆の家から飛び出した。

 だがすぐに立ち止まって辺りを見回す。

 

 ――なんだ、この気配は……!?

 

 異質な気配が優羅のセンサーに引っかかっていた。

 未熟なセンサーだろうが構わず引っかかるほどの気配。だがそれはいつか感じたことがある気配だった。

 家の中から飛び出してきた女性もこの気配に気づいたようで、冷や汗を流しながら辺りを見回している。

 そして二人は揃って空を見上げる。

 

「…………え?」

 

 ソレが見えた。

 未だに忘れることが出来ないその姿。また体が震え始める。

 

 なんで、なんで……!?

 

 なんでアレがここにいるんだ……!?

 

「グワアアアアァァァ!!」

 

 空からかの咆哮が響き渡る。

 その咆哮に村人たちが空を見上げ、そして絶句した。

 

「黒い、リオレウス……?」

「お、おおおお……」

 

 女性の呟きと老婆の掠れた声が漏れてしまう。だが優羅は体を震わせて狂リオレウスを見つめていた。

 

「悪魔じゃ、悪魔の使者じゃ……! そこの娘が『死』を引き寄せたのじゃ……!」

「…………優羅、が……?」

 

 呆けたような声で呟きながら老婆に振り返る。老婆は震える指で優羅を示していた。女性もまた信じられないような目で優羅を見つめている。

 

「これでわかったじゃろう……。お主は『死』に魅入られておる……! 悪魔の血統であり、お主自身もまた『死』を呼び寄せる女子(おなご)なのじゃ……! お主は、悪魔の子なのじゃ!」

「…………」

 

 その言葉に周りにいた村人たちも優羅を見つめた。

 その目は総じて一つの色を持っていた。

 

 異質なものを見るような目。

 

 その目で見られてしまい、優羅はまた体を震わせ始める。

 

「グワアアアァァァァ!!」

 

 だが村人たちは狂リオレウスの咆哮でまた現実に戻され、逃げ出すように走り出した。だが狂リオレウスが放った火炎弾により、家々が焼かれ始める。

 あちこちで悲鳴が聞こえはじめ、狂リオレウスの咆哮がまた響く。

 だが優羅は震えたまま虚空を見つめていた。

 

 あの目。

 異質なものを見る目。

 それが頭を埋め尽くしていた。

 自分を助けてくれ、色々と世話になった女性までもがそんな目で見てきた。

 

 『死』を呼び寄せる。

 だからこうしてあの黒いリオレウスがまた現れた。

 また死んでいく。

 命が消えていく。

 

 誰のせい?――お前のせいだ

 村のみんなが死んだのは何で?――お前のせいだ

 あのハンターが死んだのは何で?――お前がそこにいたからだ

 何であの時追い回されたの?――お前が異質だからだ

 何で、そんな目で見るの?――お前が悪魔だからだ

 

 

 優羅は、わたしは……異質なの?――そうだ

 わたしは……だれ?――悪魔の血を引くものだ

 

 

 みんなを殺してしまったの?――そうだ

 わたしが、悪いの?――そうだ

 

 

 紅葉はどこにいるの?――死んだよ

 

 昴はどこにいるの?――奴も死んだ

 

 

 わたしは……あたしは……

 

 

 

 

 一人なの?――そうだ

 

 

 

 

「………………は、はは……」

 

 乾いた笑いが漏れてきた。

 紅い目から涙が流れるが、そんなもの気にならない。

 

「……悪魔、か……」

 

 周りは既に炎に包まれている。

 自分の周りには誰もいない。どうやら村人たちは逃げ出していったようだ。あの老婆もそこにいなかった。

 

「……優羅は――」

 

 ゆっくりと顔を上げてまた乾いた笑いを漏らす。

 そのまま彼女は、その言葉を紡いだ。

 

 

 

「――アタシは、独りだ」

 

 

 

 その言葉が、何故かすとっと胸の中にしっくりと納まった。

 それだけ納得できる言葉だった。

 あの日から一人で過ごしてきた。

 そしてこれからも一人だろう。

 

 自分は悪魔の子らしい。

 だからみんなあんな目で見てきたのだ。助けてくれたあの人もまた、あの目で見た。

 そしてあの時自分は追い回されたのだ。たぶん、これから先もどこかであんな目にあうだろう。

 

 なぜ?

 

 自分が悪魔だからだ。

 

 いいだろう。

 

 そんな風に言うのならば、もういらない。

 

 他人の手を借りるのはもうやめだ。

 自分は一人で生きてやる。

 

「…………ああ、それでいい、か」

 

 一息ついて目を閉じ、そして開く。

 そこにあったのは冷たい眼差し。先ほどまであったおどおどしたような弱気な眼差しはなくなった。

 涙は流れているが、表情というものが消え去っている。

 

「……泣くのは、今日で終わり。明日からは、もう泣かない」

 

 そして優羅は走り出した。

 まずはここから逃げ出してやる。

 

 悪魔の子らしく死ね?

 

 ――冗談じゃない。

 

 無様に足掻き続けてやる。

 そして生き続けてやろうじゃないか。

 それで誰か死ぬというならば、知ったことじゃない。

 もう他人なんて興味なくなった。

 自分を見る目など、もう興味ない。

 

 アタシが『死』を引き寄せたというならば、お前たちがアタシを『殺』した。

 

 弱気な黒崎優羅はここで『死』んだ。

 ここにいるのは、『死』に抗い続ける悪魔の少女だ。

 

 

 ――そういうことでしょ?

 

 

 進路を立ちふさがるように一人の男が飛び出してきた。

 

 ――邪魔だ。

 

 優羅はポーチに手を伸ばし、ボロピッケルを取り出した。走ったままそれを振りかぶり、男へと投げつける。

 

「う、うわっ!?」

 

 男の肩にそれが突き刺さる。ボロボロの刃を持つピッケルだが、それでも人の肩に突き刺さるだけの力はある。それで男の足が止まり、優羅はオデッセイブレイドを抜き放つ。

 

「――っ!」

 

 すれ違いざまに跳躍し、宙返りしつつ胸から首へとオデッセイブレイドで切り裂いた。

 

「が、はっ……!?」

 

 なるほど、こんな風に扱うのも悪くはない。

 咄嗟に浮かんだ斬り方だが、これからも使ってみるか。なら、足も鍛えよう。

 そんなことを考えながら着地し、優羅はまた走り出す。後ろでは優羅に斬られたことで、男が血を流しながら死んでいた。

 

 この日、優羅は殺人を犯した。

 

 だが優羅はそんなことは気に留めない。

 彼女からすれば道を阻む敵を狩っただけにすぎなかった。

 そう、優羅にとってあの瞬間から他人=敵となった。

 自分を異質な目で見る他人は敵。

 

 悪魔らしく、そしてハンターとして狩って(ころして)やろうじゃないか。

 

 そう決めた。

 

 積み重ねられていく罪は悪魔の証。

 さぁ、罪を重ねて生きていこうじゃないか。その果てにあるのは、たぶん、地獄だろう。

 

 だが構いやしない。

 大地に還る頃には、アタシという人格は既に死んでいるだろうから。

 

 その日、少女は独りとなった。

 

 

 ○

 

 

 燃え盛る村の中、一人の影が現れる。

 傍には死体となった狂リオレウスがいる。闇は抜け、その闇が影の手に集まっていた。

 

「……ふん、これくらいしかないか」

 

 それを握り締めると男の手に吸い込まれていく。

 

「まだまだ研究を重ねていくことにしよう」

 

 そして顔を上げ、辺りを見回す。

 同時に思い返される一人の少女。思わず口元に笑みが浮かんだ。

 

「それにしても、よもやこんなところであの血統に出会うとはな。……いや、外見は既に人間のものだったか。くっくっく……埋もれた血統とはいえ、少しずつ目覚めてきているようだな」

 

 それは優羅。

 彼女の血筋を彼は見破っていた。

 

「くっくっく……それにしてもいい煽りっぷりだったぞ。いとも容易く堕ちていったな。お前は使える駒だった」

 

 足元に倒れているのはあの老婆。

 優羅を悪魔と呼んだ老婆の死体を見下ろし、彼は笑みを深くしながらその顔を蹴り飛ばした。全身焼け爛れたそれは、それだけで首が体から離れてしまう。

 

「これでまたあの小娘の闇は深くなっただろう。この先どのように化けるか、楽しみなことだ。くっくっく……!」

 

 そして彼は狂リオレウスだった死体に手を伸ばした。

 

Space control(空間、制御).Gate open(門は開かれる)

 

 すると死体の足元に黒い裂け目が現れ、リオレウスを飲み込んでいった。数秒後にはそこには死体はなくなり、黒い裂け目もまた消えてしまった。

 

「さて、行くとしようか。また四季に嗅ぎ回られるのもやっかいなものだが、まあいい。あの男に出来ることなど限られているというもの」

 

 軽く鼻を鳴らして男はそこから立ち去った。

 後に残されたのは、未だに燃え続ける村と、数多の死体だけだった。

 

 

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