呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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六話

 

 

 黒崎優羅が黒崎優羅でなくなった日から早いもので三日たった。海沿いの道から東へと向かい、草原を歩き続けていた。見渡す限りの草の絨毯。時折木が生えたり、岩が転がっていたりとしているが、基本的には何もない。

 今日の昼食であるアプトノスの肉を焼き、あの村で手に入れた飲み物を手にする。

 村は全焼し、村人は全て死んだ。その事実を優羅は知らないが、今となっては何の感情も浮かばなくなってしまっている。あの瞬間から、優羅の中で何かが壊れ、他人は己の境界線の外へと位置づけた。境界線の外に位置するものは興味の対象にならない。

 これが優羅の中で決定付けられてしまったのである。

 焼けた肉にかぶりつき、飲み物を飲み進めていく。ものの数分で食事を終え、さっと後始末をする。こんな状況で呑気に食事をするほど馬鹿ではなくなった。

 手に付いた油を舐め取り、ポーチから調合書を取り出して勉強を開始する。回復薬の件については覚えたので、後ろの腰に下げているジェイドストームに横目で確認する。ならば弾の調合についても覚えていくことにした。

 基本の通常弾Lv2の欄を確認してみる。カラの実とハリの実を素材としており、これらはそこらで普通に手に入る代物だった。実際にいくつかカラの実を拾っておいた。

 あとは調合するものを手に入れればいいのだが、ポーチの容量の問題もあるので弾は限定されるだろう。となると、使う弾は通常弾Lv2に決定された。

 ジェイドストームがこの弾が通常弾Lv2を速射出来る、という点でも採用できる。ハリの実も丁度いくつか拾ってあるので早速調合してみることにした。

 カラの実を割り、その中へとハリの実を入れていく。ある程度入れるとその実を回転させて固くなった所で手を離す。いくつかの種を作ったところでしばらく様子を見てみる。

 調合書によれば種が出来れば、二つの実の粒子が反応を起こして性質を変化させるらしい。カラの実に含まれる粒子は元より弾丸に変化できるようになっている。調合するものに応じて粒子も微妙な変化を見せるということのようだ。

 数分後そっと種を見てみる。持ち上げたそれは失敗作だった。他の弾を確認すると、二つ失敗で一つが成功していた。

 

「……ん、よし」

 

 成功したそれを確認し、調合の手順を思い返す。何度か繰り返していけばいずれ完全に調合できるようになるだろう。まだまだこれからだ。

 出来上がった弾をポーチに入れ、失敗作は地面に埋めておく。これもいずれは自然の中で変化していくだろう。

 準備を終えて優羅は立ち上がり、草原を歩き始める。その際目に付いたカラの実とハリの実を回収していく。またはじけクルミも目に付いたので、これも回収しておくことにした。調合書によればこれを調合すると散弾Lv1になるらしい。集団戦を行う小型の肉食竜の牽制には充分だろう。

 そんなことを考えながら少しずつ東へと向かっていく旅は続いた。

 

 しばらくして集めた素材を弄りながら休憩する。

 出来上がった弾は通常弾Lv2、散弾Lv1。他に弾は作らなかった。通常弾Lv1はジェイドストームを貰った際に入れたままにしているので、撃つ弾がなくなるという件に関しては問題ない。とはいえやはり威力に関しては不安がある。

 ランポスの牙も弾の素材になり、貫通弾Lv1が作れるようだが、今は置いておくことにする。いつか売り払うか、武器などの素材になる可能性があるためだ。

 またこのジェイドストームは三段階まで強化されていたようで、それなりに火力はある方だ、という説明を受けていたのを思い出す。さらにサイレンサーまでついてあるので、狙撃に関しても問題ない。

 またスコープがなかったが、これも気にしないでおくことにした。元より優羅は目がいいので、スコープは必要ない。

 あとは試し撃ちをしてみることにする。出来上がった弾は果たして使えるのだろうか。

 通常弾Lv1を取り出し、通常弾Lv2を装填する。目標は離れたところにある岩。その中心に先ほど拾ったペイントの実をぶつけてマークをつける。これが標的になるのだ。

 ジェイドストーム構え、銃口を向ける。癖を思い出し少し修正。

 あとは引き金を引くだけ。

 ジェイドストームの中で粒子が反応を起こし、複製を発動させて四つの弾が先に射出される。最後に実弾が射出され、ペイントをつけた場所へと狙い通りに着弾する。

 

「……」

 

 複製が発動したことから、調合は大成功を収めたことを実感する。

 次は散弾Lv1。これを装填し、同じように岩に向けて構え、引き金を引く。弾が射出され、少し進んだところで炸裂して小さな破片をばら撒く。

 その全てが岩へと着弾し、散弾Lv1も調合成功を実感した。

 ここで少し考える。

 遠距離はジェイドストーム、近距離はオデッセイブレイドを使用し、切り替えながらこの先戦っていけるだろう、ということを。弾に関してはこのように素材を採集し、調合していけば問題ない。

 自らの調合の腕を上げる、という名目でも悪くはないだろう。腕が上がれば、他の調合に関しても滞りなく進めることが出来るはずだ。

 自画自賛するようだが、自分の視力の良さもあいまってこの「ライトボウガン」という武器は合っているんじゃないだろうか、と考えてしまう。この通り防具もつけていないため、攻撃を受けるのはいただけない。だからこそ、やられる前にやる、というのは決して悪いことではないはずだ。

 

 何故ならば、この世界は狩るか狩られるか、なのだから。

 

 ジェイドストームを見つめ、優羅は決意する。

 ボウガンの腕を上げていこう、と。

 

 

 旅の途中で一つの町にやってきた。それなりに大きな町であり、港があることからどうやら船が出ている町らしい。その中には西の大陸へと向かうものもあるようだが、このしばらくはその便はないようだった。

 だが優羅にとってはどうでもいいこと。金はあるが、こんな子供が一人で船など利用できるはずもない。

 人通りの多い道をすり抜けるように歩き、辺りを見回していい店がないかを探してみる。食材、書物……。欲しいものはそれなりにある。

 食材は言わずもがな。生きていくために必要なものだ。

 書物はこれから生きていくに当たっての知識の吸収だ。今買うとポーチを圧迫する。それでもいつの日か必要な知識を求めて買いにくることもあるかもしれないため、タイトルを覚えるというのは悪くはないだろう。

 あとは空間魔法を施された鞄でもないだろうか、と考えてしまう。値は張るだろうがこれから荷物が増えるかもしれないので、この一つで持ち歩けるものが増えるのはいいことだろう。

 そう考えながら道を歩いたが目ぼしいものがない、と結論付けた。ならばもう用はない。

 このまま町を立ち去ることにしよう。

 

 

 ○

 

 

 む?

 この気配は……シュヴァルツの。

 こんな所で遭遇しようとは、驚きだな。

 どれ……どこにいる?

 

「……ほう? あれか」

 

 思わず呟いてしまう。

 見た目は人間と変わりはない。恐らく先祖がシュヴァルツに連なるもの、ということなのだろう。

 だがその様子から見ると、どうやら良くない方向に転びそうだな。

 あれはいずれ殺人鬼に成ってしまいかねん。

 まさかとは思うが、奴が何か手を出したか?

 だとすると、あの小娘は奴の駒になりそうだな。それはいただけない。

 何も知らぬ小娘をいいように使わせるなど、このオレが許さん。

 どれ、少し様子を見守ってみることにしようか。

 

 

 ○

 

 

 町の出口へと向かう途中、妙な輩に出くわしてしまった。酒瓶を持っており、加えて連れている男は袋に酒瓶がいくつも入っている。

 こんな真昼間から酒盛りとは、いいご身分だ。

 その男たちが優羅にぶつかり、いちゃもんをつけてきた。

 

「おいおい、嬢ちゃん。気をつけな?」

「…………」

 

 赤く染まった顔を優羅めかせ、濁った目で優羅を見下ろす。ガタイは少し小太りで、余分な肉が服の下から出ている。しかし腕はなかなか鍛えられており、それなりに戦いが出来る、という感じがする。

 しかしハンター、というわけでもなさそうだ。その身を包むのはただの私服。モンスターの素材を使用した防具というわけではなさそうだ。武器も持っていないので間違いない。

 そういう風に分析していると、男が手を伸ばしてきた。それをかわし、なんの感情もなく男たちを見上げる。

 さて、どうするか、と考えてみる。だが最終的には一つの結論に至ってしまった。

 そういう風に考える辺り、自分はどうやら本当に変わってしまったようだ。だがそれを拒絶する心はない。

 どうせ自分はあの時心が壊れたのだ。そう自覚してしまえば問題ない。

 そっぽ向いて路地のほうへと歩いていく。

 

「おい、待てよ!」

 

 狙い通り男たちが追いかけてくる。そして優羅は一目散に路地へと走り出した。

 

 しばらく走り、路地の奥のほうへと到着する。そこで立ち止まり、優羅は男たちへと振り返る。そこには下卑た笑みを浮かべた男たちがいる。

 

「おうおう、嬢ちゃん。こんなところに逃げ込むなんて、その気があるのか? ああん?」

「…………」

 

 しかし優羅は揺らがない。背中側の腰にはジェイドストームがあるため、オデッセイブレイドは左側の帯に挿してある。

 男たちは酔っているせいか警戒心を持たずにそのまま近づいてくる。それを見据えて優羅はオデッセイブレイドを抜き、一息で男に近づいて跳躍する。その首目掛けてオデッセイブレイドを振るい、そのまま切り裂く。

 頚動脈を斬られたことでその首から大量に出血し、男はゆっくりと地面に倒れていく。

 

「……ん、なっ!?」

「こ、こいつ……!?」

「…………」

 

 着地した優羅は血に濡れたオデッセイブレイドを構え、無表情で男たちを見据える。そして走り出して男たちへと接近し、手を伸ばしてきたその腕を切断し、そのまま脇腹を切り裂く。

 

「ぐ、あああぁぁ!?」

 

 優羅は小さいために跳ばなければ殺せるほどの一撃を与えることは出来ない。オデッセイブレイドの切れ味はいいが、致命傷を与える位置を狙わなければ殺すことは不可能だ。

 そして今の優羅に出来ることはただ走り回って斬るだけ。体術も武術も合ったものじゃない。

 それでも一人、二人と殺し、残る二人を前にする。

 

「て、てめぇ……、ふざけやがって……!」

「……」

 

 異質な優羅を見て少しだけ体を震わせているが、それでも逃げない辺り優羅を子供と侮っているようだ。二人揃って走り出し、何とか優羅を捕まえようとしている。

 だがそれでも捕まることはなく、男たちは痺れを切らして回し蹴りを放った。それを身を屈めて回避し、一気に踏み込んで切り上げる。そのまま服を掴み、引き寄せて胸を穿ち、横へと切り払う。

 

「が、ふ……」

 

 あと一人。

 そこで少しだけ油断したのだろう。背後から蹴り飛ばされ、道に転がってしまった。

 

「くっ……」

「ここまでだなぁ……嬢ちゃん。舐めた真似しやがって……!」

「……っ」

 

 迫り来る男を見上げ、優羅は目を細める。

 己の心臓の音が聞こえるほど冷め切った感情と精神。危険が迫ってきているのに、何故自分は落ち着いていられるのか。

 やはり自分は壊れてしまったのだろうか。

 

 ――いや、それでいい。

 ――剣を構えろ。

 

 自分の中からそんな言葉が浮かんできた。それに従ってオデッセイブレイドを構える。

 

 ――さあ、敵を見据えろ。

 ――お前はソレの扱いが本能に刻まれているのだから。

 

 これは何なのだろうか。

 これが、悪魔の囁き、というものだろうか。

 まあ、どうでもいい。

 今はこいつの始末が先決だ。

 

 ――さあ、狩れ(ころせ)

 ――狙う場所と体の動きは、自然と浮かんでくるだろうさ。

 

 優羅の紅い目の中に揺らめく何かが浮かんできた。

 それは黒い炎のようなもの。瞳の中にそれが浮かんでいる。それは細まり、まるで蛇のような瞳孔を作り上げた。

 そのまま自然と体が動き、向かってくる男の足を回避する。振り上げられた足ではなく、地面に付いている足を切り払い、痛みで男が転倒した。

 転倒した男に飛び掛り、その心臓目掛けて刃を突き立てる。

 

「がっ、あ、あぁ……」

 

 心臓を貫かれて男の目が見開かれる。震える腕を優羅に向けようとするが、優羅はギロリと男を睨みつけたまま、オデッセイブレイドをぐりぐりと動かしてねじ込んでいく。

 それによって男の目に生気が失われていき、やがて命の灯火は消え去った。

 

「……」

 

 物言わぬ肉塊となった男からオデッセイブレイドを抜く。その際に血が噴き出したが、それを見ても心は揺れなくなった。

 やはり自分は壊れた。

 これだけの血を見た上に、手が血に濡れたというのに何故心が揺れないというのか。

 

「……まあ、いいか」

 

 そんな言葉で締めくくってしまった。

 続いて血に濡れた手をどうするか、と考える。そこでそこに転がっている酒瓶に目がいった。栓を抜いてその酒で血を洗い流していく。今はこれくらいでいいだろう。見えなくなればそれでいい。

 残りの酒はいただいていくことにする。飲み物は貴重だ。酒、という点で異常だろうが、まあ我慢して呑んでいけばいいだろう、と結論付けることにした。

 袋を持ち上げ、優羅はこの路地を後にしていった。

 

 

 ○

 

 

 ……ふむ、なかなかのものだな。

 足元には死体となった酔っ払いども。斬られ、穿たれ、とシンプルだが、それでも人は死ぬ。子供と侮った結果がこれだ。

 だが子供といえども、表情を変えずに人を殺すとは、なかなか危ういものだな。

 一体何があったのやら……。

 まあ、今はこの死体どもを何とかするか。

 オレは死体を一箇所に集め、ローブから数枚の札を取り出す。

 

「結界、構築」

 

 それによってオレの周りに結界が張られ、これから起こることを秘匿する。続いて他の札を取り出し、死体たちに貼り付けていく。

 

「炎上」

 

 その言葉に従い、札から炎が発生して死体たちを焼き払っていく。

 魔法が得意ではないオレはこういう支援がなければ行使することが出来ない。やれやれ、困ったものだな。

 まあそんなに気にすることでもないか。オレには体術があるのだから。

 燃え盛っていく死体を見つめながらオレはこれからのことを考える。

 やはり、何とかしなければならないな。

 オレが出向くとしよう。

 炭化した死体を見下ろし、結界を解いて路地から離れることにした。

 

 

 ○

 

 

 気づけば夜になっていたようだ。少しだけ眠ろうと思ったが、思った以上に眠ってしまった。

 アタシは顔に乗せていた調合書を少し取り払って夜空を見上げる。

 空には満月が浮かんでおり、それを眺めてみる。

 満月の空を見上げても心は揺れない。景色を楽しむ、というのもなくなったようだ。

 昔は月が輝いていたときはそれなりにいい気分になったのに、そこまで変わったか。

 そんなことを考えていると、誰かが近づいてくるような感覚がする。

 視線を動かしてそちらを視界に納めると、確かに誰かが近づいてきていた。

 

「…………」

 

 赤いローブを纏った誰かだった。夜の闇で少し見えづらいが、顔には黒い仮面をつけていた。つまり素顔が見えない。加えてフードを被っているためにますます怪しい。

 

「……」

「どうも、初めまして、というべきか」

 

 男の声だった。突然の挨拶だったが、やはり怪しい男だ。

 アタシはそいつを見上げて目を細める。

 

「…………誰?」

「オレか。しがない旅人さ。だが、そうだな。付け加えて言うならば――」

 

 そいつは仮面の下でうっすらと笑みを浮かべる。

 そしてそいつはこう口にした。

 

 

「――オレは狩人(ハンター)さ」

 

 

 それが、後々まで縁があるアタシと赤衣の男の出会いだった。

 

 

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