二つの視線が交差する。男が挨拶をしてから既に数分。優羅は無言で男を見上げ続けている。
だがいつまでもこうしているわけにはいかないと思ったのだろう。立ち上がるとオデッセイブレイドに手をかけて抜き放つ。
それを見た男は微かに「ほう……」と呟いた。それから何の構えを取らずに優羅をじっと見下ろし続ける。
対して優羅はオデッセイブレイドを構えたままじっと男を見つめる。先ほど男は自分をハンターだと告げた。ならば武器を向けられようとも動揺するに足らない、ということなのだろう。
「……」
そして優羅は男へと斬りかかる。だが男は落ち着いたままその手を弾き、そのまま優羅を地に伏せてしまう。
「甘いな。やはりお前は基本がなっていない」
「……くっ」
「っと、まだ立とうというのか。なかなか負けず嫌いな奴だな」
暴れる優羅を軽く押さえつけてオデッセイブレイドを奪い取る。腕を解放したが、それでも優羅は殴りかかっていく。だが片手で軽やかにいなし、軽く足払いをかけてやると、簡単に優羅は転倒してしまった。
それを男は平然と見下ろし、優羅はそんな男をどこか悔しそうな顔で見上げている。
そんな様子に男はくつくつと笑い始める。
「…………っ」
「む? おお、気を悪くさせたか。すまんな」
しかし優羅は男を睨んだままだった。そんな様子にまたくつくつと笑い、男は軽く頷いた。
「くく……、いいだろう。益々興味が沸いたぞ、小娘」
「……」
「オレの名は獅鬼。お前は?」
「………………黒崎優羅」
少しだけ考え込み、優羅は名乗ることにしたようだ。その名を聞き、男が少しだけ驚いたような雰囲気を見せたのは気のせいだろうか。
ふと獅鬼は苗字を名乗らなかったことに気づいた。それには何か理由があるのだろうか。
そんな風な色合いで睨みつけてみる。
「……ふむ、まあいずれ名乗ろう。すまんな」
「…………」
「さて、オレがお前に近づいたのには理由がある」
そこで獅鬼は奪い取ったオデッセイブレイドを軽く弄り始めた。柄を握り締めて回転させたり、刃を指でなぞったりしている。
「お前を少々鍛えてやろう、かと思ってな」
「…………は?」
「鍛えてやる、と言ったのだ。今のまま堕ちていっても、お前はいずれ危険な状態になるだろうからな」
「…………」
いったいこの男は何を言っているのだろうか。
優羅を鍛える?
何が狙いなのかさっぱりわからない。
無表情の仮面が崩れて妙なものを見るような目で獅鬼を見上げている。
だがそれは予想していたことなのだろう。獅鬼は屈みこんで優羅と視線を合わせる。
仮面の下にあるその蒼い目がじっと見つめ、屈んだ際にはらりとローブの下から蒼い髪を覗かせる。
「オレとしてはお前がそのまま堕ちるのは好ましくないのでね。だから少しでもお前が正しく在ればいい、と思ってな」
「……何を言っている? アタシがどうなろうが、お前には関係のない話だ」
「そうだな。だがそれでもオレはお前に関わろうと思う」
「……消えろ。アタシは誰の手も借りない」
そう告げつつ目の前にいる獅鬼を振り払うようにするが、その手を掴まれてしまった。また睨みつけるが、そんなものが獅鬼に通用するはずもない。
「……離せ」
「断る。……まあ話だけでも聞いていけ」
そう言いながら手を掴んで立ち上がり、優羅を無理やり立たせてやる。そのままローブの下から簡易的な椅子を取り出して優羅に差し出した。
座れ、ということなのだろう。
それを無視していると続いて机を取り出し、料理まで出てくる。それをざっと並べ、夕食がそこに完成した。
「さあ、遠慮せずに食え。そして聞かせてもらおうか。お前がそこまで他人を拒絶するのか、をな」
「…………」
どうやら逃がしてくれないようだ。
さっきからの動きでわかる。自分はこの男には適わない。
もう他人に関わらない、と先日決めたばかりだというのにどうしてこうなった?
だが獅鬼からはあの男たちのように邪念が感じられない。それが何となくわかる。
しかし何を考えているのかもわからない。そのことを確かめる、という名目で付き合ってもいいかもしれない。
そう決め、優羅は無言で座って料理に手を伸ばす。
そして優羅はぽつぽつと語り始めた。
自分が変わってしまったあの日のことを。
○
全て話し終え、小娘は渇いた喉を潤すようにお茶を飲み干していく。
対するオレは小娘を見つめたままぐっと拳を握り締めていく。
あの野郎……よもやなにも知らぬ子供に何という仕打ちを……!?
奴め……そこまで堕ちたか!?
――いや、元から奴は壊れていたな。
奴のことを思い返して修正する。何にせよ奴は将来的なことを見据えてこの小娘を初期段階の覚醒に促したと見る。
このまま進めば奴の思い通りに殺人鬼になるだろう。
表情を変えずに相手を殺す。この地点で既にその領域へと向かっているだろう。これが殺人鬼の第一歩といえる。よもやこの時代にこうして出会うことになろうとは、本当に何が起こるかわからんな。
しかもまだ8歳だというのに、……ああ、そう考えると怒りがふつふつと湧き上がりそうだ。
だが奴の思い通りにはさせんぞ。この小娘は何としてでも引きずり上げてやろう。
「…………」
しかし本当に表情を変えんな、この小娘。それが殺人鬼候補としての特徴だとわかっているが、やりきれんな。あの小僧と小娘から聞いた話と全然違うではないか。これはあの二人に会わせるわけにはいかんな。下手をすれば三人の間で亀裂が生まれかねん。
あるいは、殺しかねん。そうなってしまえばこいつは本当に壊れてしまうな。それはいただけない。
というかオレは人の体を癒せるが、人の心は癒せん、ということを思い出してしまったではないか。この世に生を受けてから900年を超えたが、やれ困ったぞ?
さてはてどうするか。さっきから考えてみるが、いい案がぜんぜん思いつかないぞ。
こういうのはオレよりも月の方が向いているんじゃないだろうか。オレが引きずり上げてみようと思ってからたったこれだけの時間で挫折するのか。
まったく、本当にオレは不器用だな。これだから魔法が不得意で生まれてきたんだろうな。困ったものだ。
そんなことを考えていると、小娘がまたオレを睨みつけていることに気づいた。
「なんだ?」
「…………なぜアタシに関わろうとする?」
「……ふむ、そうだな」
まあそこは気になるところだろうな。だがこのことを口にするわけにもいかんからな。どう誤魔化すことにしようか。
「お前に興味を持った、からだな」
「……興味?」
「そうだ。お前は先ほど自分は『悪魔の子』と言われた、と言ったな?」
「…………」
悪魔の子。
なかなか言いえて妙な言葉だ。確かにその血統は「悪魔」と称しても間違いではない。なにせあの一族自らがそう称したのだからな。
だからその点に関しては問題はない。確かにショッキングなことだろうが、それは事実なのだから。
だがそう知らせるには状況と言葉が悪かった。順を追って知るべきことだというのに、ただただ責められるように伝えられたのだからな。
故に、この小娘に事実を伝えることはしない。もちろん、先祖が魔族だということも今は言わないでおくことにする。
「オレからすれば、そんな言葉に意味はない。お前は人間なのだからな」
そう、小娘は人間。それは間違いない。先祖がそうだった、というだけの話だ。
とはいえ血は目覚め始めているし、特徴としての名残は最初からあったようだが。
「加えて『死』を呼び寄せるということだが、これも然りだ。この世はいつだって誰かは死んでいく。今この時もどこかで誰かが死んでいるだろうし、昨日まで生きていた奴が突然死ぬ事だってある。お前が『死』を呼び寄せるまでもなく、その日死ぬ奴は死ぬのだからな」
「…………」
「呪い、ということだが、お前にそんなものはない」
「……どうしてそう言える?」
「オレはハンターであると同時に魔法使いだからな。そういうのは何となくわかるのだよ」
まあ魔法使いの前には「未熟」という文字がつくのだがな。
だがそれでもオレの目はそういうことに関しては視る目がある。小娘の闇は確かに存在しているが、呪いに関しては存在しない。恐らく小娘の血統に刻まれたものを視たことで勘違いしたのだろう。
それはそれは凄まじい「殺し」の血統なのだからな。まあ、堕ちる前は普通の狩人の血統だったのだが、それでも「殺し」の血統というのは間違ってはいない。
故に呪われているわけではない。だから「死」を引き寄せるわけがない。
偶然に偶然が重なっただけの話だ。とはいえ、二つの村が滅びたのは奴の策略か実験だろうがな。
「だからその老婆とやらの話は真に受けることはない」
「……だとしてもアタシは異質。殺しても心がざわつかない。アタシは、壊れた」
なるほど、自覚はしているのか。それが殺人鬼の領域に足を踏み入れた証。
過去に堕ちた者が正常に戻った記録はあまりない。落ち着いた、という話は聞いているが、殺人衝動が消え去ったことはないのだ。
オレが引き上げる、というのは落ち着かせる、ということだ。殺人衝動や冷静すぎる精神は残るが、無闇に殺しを起こすことがないようにする、という処置をするのである。
だが壊れた、と自覚しているならどうするか。
……どうするもこうするもない。それでもこの小娘を救わねばならん。
「だからオレが何とかしてやる、と言っているのだ」
「……」
「オレがお前の体を鍛え、お前の精神を矯正してやる」
「……手遅れ。アタシは既に人を殺している」
「……だから?」
その言葉に小娘は顔を上げて俺を見る。
「だからどうした?」
「……責めないの?」
「責める? なぜ? オレはそういうモノだということを知っている。だから責めることはない。それにオレは裁く者でもない」
「……」
「そしてそれを承知の上でお前を少しはマシな方へと治してやると言っているのだ」
そこで軽く笑みを浮かべて小娘を見つめてやる。
対する小娘はオレの言葉が意外なものだという風に見つめてきている。表面上は変わっていないが、そういう感情の変化が感じられる。
「だがそういう感情はある意味本能と言える。だからそこまで手出しは出来ないが、多少は抑えられるようにしてやる。それでいいだろう?」
「…………」
そこで小娘は目を閉じた。どうやら考え込んでいるようだ。
オレが言ったように、これはある意味本能に近い。だから堕ちた誰もが完全に回復することはないのだ。
小娘もこの歳でこの領域に踏み込んだことは残念なことだが、だからこそ治さねばならないのだ。
やがて顔を上げて小娘はオレを見据えた。
「……不本意だけど、よろしく頼む」
「うむ、任せろ」
「不本意」というのが小娘らしい。他人の手を借りたくないのに、こうして頼み込むのだ。だが、そうすることが出来ただけでも良しとしよう。
これで第一歩が踏み出せた。あとは出来うる限り小娘の闇を押さえ込んでみよう。
「……それで」
「む?」
「……アタシを鍛える、とか言っていたけど」
「ああ、それか。もちろん鍛えてやる。生き抜くためにお前に体術を仕込んでやろう」
先ほどのような輩がこれから先現れない、という保証はない。その体術を用いてまた殺しを行うだろうが、ただ戦闘不能にするだけに抑えられるよう武術を仕込んでやる。
またその体術は狩りをすることにも役立つだろう。だからオレは小娘にこう告げた。
「その前にこれから一緒に町に行くぞ」
「……なぜ?」
「くく、なぁに、お前に体術を教える前にやることがあるからな」
「…………」
その時の小娘の目は疑心に溢れていたが、後のお楽しみだ。
夕食を終えると物を片付けて共に町へと向かうのだった。
向かった先はハンターズギルドの支部の前だ。横にいる小娘は何故ここに来た、という風な視線を向けてきている。オレは軽く笑みを浮かべて扉を開けて中に入っていく。
真っ直ぐにカウンターへと向かい、受付嬢へと声をかける。
「いらっしゃいませ」
「……こういう者だ」
ローブの中からオレの身分証明書を示してやる。それを見た受付嬢は軽く息をのみ、何度かオレとそれを交互に見つめ、恭しく頭を下げた。そう畏まらなくてもいいんだが、しかしいつものことだ。
「そ、それで、なんの御用でしょう?」
「うむ、この娘をハンターとして登録したい」
「……ん、なっ!?」
そのことに小娘が驚いている。まあそうだろうな。予想していたことだ。
だがオレは話を進めていく。
「後見人はオレでいい。出来るか?」
「あ、はい、一応は……。でも、よろしいんですか? その子、まだ幼そうですけど……」
「問題ない。実力は確かだ。それにオレも仕込んでいく。だから登録を頼む」
「わかりました。少々お待ちください」
頭を下げて受付嬢が奥へと消えていく。
そしてオレは小娘へと視線を落とした。そこには不機嫌そうな顔でオレを見上げる小娘がいる。
「……どういうつもり?」
「どうもこうもない。お前、ずっと野良でモンスターを狩り続けるつもりか? そうしていては、いずれ捕まるぞ?」
「…………」
幼い子供がそうやっていつまでも一人で過ごせるはずもない。だが天涯孤独の身である小娘がハンターとして登録など出来るはずもない。
だからこそ今までずっとこうして過ごしてきたのだ。
だが、オレと出会ったのはある意味運命だろう。あの二人に続き、オレが後見人となってハンターとして登録してやる。そうすればクエストという形で狩りが出来る。
実戦はそうやって経験させていく。それ以外はオレが相手になって体術を仕込んでいく。
そうやっていけば、いずれこいつが一人でも行動できるようになるだろう。
また仕込んでいく時に精神面でも何とかできればいいのだが、それはその時に考えることにする。
「だからオレが後見人となってお前をハンターにしてやる。あとはクエストを受けてモンスターを狩れ」
「…………」
「武器に関しても、ハンターとなった方が都合がいいだろう? 不法所持で騒がれるのもめんどうじゃないのか?」
「……む、ぅ……」
正論を告げるたびに小娘の眉が動いている。言い返したいのに言い返せないもどかしさ、といった感じか?
「心配するな。このしばらくはめんどうを見てやる。仕込むと約束したからな。ついてこれるかはお前次第だが、なにか異論はあるか?」
「……ふん」
「ないか。なら登録を進めるぞ」
そこで受付嬢が戻ってきて少し困った顔でオレに近づいてきた。
「あの、か……獅鬼さん」
「ん?」
「前にも二人の子供をハンターとして登録しました?」
「ああ、したな」
「なんだか『またなのか』、ってマスターが溜息ついてましたよ?」
まあそうだろうな。ここまで話が届いているくらいだ。溜息つきたくなるのもわからなくはない。だがしょうがない。オレは何かと子供に縁があるようだからな。
「まあ大目に見てくれ。それで、登録する分には問題ないのか?」
「あ、はい。その点に関しては大丈夫です。獅鬼さんが推薦するなら問題ないでしょう、とのことですので」
そう言って書類をオレに渡してきた。それを受け取り、小娘と共にテーブルに向かっていく。ペンを渡し、必要事項を書かせていく。
黒崎優羅、8歳。誕生日、使用していく武器などを記入していき、オレがそれを確認して小さく頷く。
それを受付嬢へと手渡し、ここのマスターが判を押す。これで小娘はハンターと認められた。
普通ならば審査が行われるのだが、オレが推薦したということもあってすぐに認められることとなる。
これは特例、というものだ。
ギルドが認めた人物が推薦すれば、必要事項を書くだけでその日の内に認められる。
まあこれもオレがそういう一族の出身ということと、今までの功績からくるものだな。月には及ばないが、それなりに影響力はある。
さて、登録を完了させたから今日の宿へと移動することにしよう。小娘を伴ってオレたちは支部を後にする。
そして宿を取り、小娘が幼いということもあって同じ部屋に泊まることになった。だが個室は当然ながら別々だ。オレのハンターランクの高さが幸いし、それなりにいい部屋に泊まれることになった。
「ゆっくり休めよ。明日から修行だからな」
「…………」
その言葉に軽く頷き、小娘は個室へと消えていった。それを見送り、俺も個室に入って鍵をかける。
身を纏うローブを壁にかけ、仮面を取って素顔を露にする。
「さて、どうなることやら……」
色々な問題があるだろう。
小娘の闇と修行。
月と朝陽の件もあるし、最近確認された黒く染まった飛竜も気になるところだ。いったい奴は何を考えているのか。それを確かめねばならん。
「まずはシャワーを浴びることにするか」
小娘の気配を探り、出てこないことを確認するとオレは個室を出てシャワー室へと移動していく。
○
どうしてこうなった?
気づけばアタシはここにいる。
あの獅鬼とやらが現れてから何もかも狂っている。
だが、不思議とそれを受け入れている自分がいる。
前々からハンターにいつかはなった方がいいだろう、とは考えていた。しかしまさかこういう形で実現することになろうとは。
でもやはり考えてしまう。あの男、いったい何が狙いなのかさっぱりわからない。アタシを助けて何の特があるというのか。
単なるお人よし、というわけでもなさそうだ。何かの思惑があるはずだが、それがわからない。
それにアタシの知らない何かを知っていそうだった。恐らくそれを口にすることはないだろう。
何よりその素顔を見せない、というのが怪しい。素顔を見せないのは何かやましいことがあるのか、と考えたが、あの受付状の反応からそれなりに有名人らしい。それが益々わからなくさせる。
「……やめだ」
もう考えるのもめんどうになってきた。
あの男がアタシを鍛えると言うならば、ぜひ鍛えていただこうじゃないか。そうすればアタシはこの先生き抜ける確率が高まる。自分を高めていけるというならば歓迎だ。存分にその技術を吸収してやろう。
それは苦しい日々になるだろう。だが修行とはそういうものだ。
失敗や怪我を恐れていてはやっていけない。
元よりアタシはそういう中で生きていこうとしている。それもたった一人で、だ。
恐れる、という感情も忘れそうになっているが、それでも恐怖心は残っているだろう。この感情は生き物になくてはならないものだから。
だからこそアタシは恐れずに前に進まなくてはならない。一人で生きていくと決めた。そのために必要なものは手に入れてやる。
『恐れず行動しろ。出来ないことが恥じゃない。行動しないことが恥だ』
そんな言葉が思い返された。
昴の父親がいつもアタシたちに聞かせた言葉。
何かを得ようとするならば、何かをしようとするならば、そういう心構えを持つように、と聞かせた言葉。
壊れる前のアタシもそうやって自分を奮い立たせた。狩りを行う際も、戦おうとする際も、その言葉がアタシの中にあったからこそ立ち向かえた。
壊れてからはしばらく思い返さなかったが、何故か急に思い出された。これはまだアタシが完全に壊れていないからだろうか。
ベッドに横になって何気なく右手を伸ばし、何かを掴むように握り締める。
そうだ、掴み取るのだ。
生き抜くための力を。
今まで自己流で鍛えてきたのを、専門的に鍛えられるのだ。それは間違いなくいいことだ。
あの男の素性が気になるところだが、今は捨て置いてやる。怪しい人物だと断定すれば殺してやる。殺せるかは不安だが、殺してやるさ。
「……寝よう」
だが今は明日の為に眠ることにする。右腕で目元を覆ってアタシは深い眠りに落ちていった。
○
シャワーを終えた獅鬼は優羅の部屋の前で腕を組んでいた。
今の彼は素顔を晒しているが、それが優羅に知られることはない。扉は鍵がかかっており、優羅は既に眠っている。
考え込んでいる間もこうして優羅の部屋の前にいたが、彼女は気づくことなく眠ってしまった。
軽く息をついて獅鬼はそこから離れて自室へと戻っていく。
濡れた髪をもう一度タオルで拭き、ベッドに腰掛ける。そのままタオルを放り投げてベッドに横になり、優羅のことをもう一度考える。
果たしてどこまでいけるのだろうか。
そして敵の思惑通りにいかずに済むだろうか。
そんな不安があるが、やらねばならない。月と連絡は取れないだろうし、雷河には雷河の役目がある。
これは出会ってしまった自分の役割だ。
失敗など考えない。出来うる限りやってみよう。
そう決めて獅鬼も眠りに落ちていった。
その日、少女は