呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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九話

 

 

 あれから一ヶ月が経過した。優羅はひたすら鍛練を重ね、己を磨き続けた。型を覚え、体の使い方、力の特徴……。本を読み、獅鬼に教わり、体に直に叩き込んでいった。

 もちろんその反動は確かにある。

 慣れない数日は筋肉痛に悩まされた。しかしそれは体が鍛えられ、成長している証だ。

 

「筋肉痛? ふん、それは誰もが通る道だ。そら、今日もやるぞ」

「…………」

 

 泣き言は口にはしていないが、優羅の様子を見て容易に察したのだろう。だが獅鬼は甘やかすようなことはしなかった。そして優羅もそんなことは望んでいない。

 痛む体に鞭を打って毎日鍛練を重ねていった。

 

 

 そうして日々を過ごした結晶は、少しずつ優羅の中で大きくなっていったのだ。

 

 

 ○

 

 

 変わっている。

 外見的にはあまり変わっていないように見えるが、以前と比べれば大きく変化している。

 

 まずは力。

 鍛練を始める前にひたすら腕の筋肉を鍛え続けた。そして二週間前からは足の筋肉も鍛え始めた。アタシの足の速さには男も気づいていたようで、腕立てに慣れてくると足のほうも鍛えるように、ということで追加させたのだ。

 これにより、オデッセイブレイドを握り締めて振り回す、という事に関してはもう問題なくなった。構え方も男に言わせればよくなってきている、ということらしいから、これを扱うことに関しては問題は解消されることになる。

 

 次に体力。

 この基礎鍛練を続けていれば、少しずつついてくるのは必至。更に続けて体も動かしているため、体力も前に比べるとついてきていることを実感した。

 しかしハンターとしてやっていくなら、今以上の体力が必要らしい。でも8歳にしてはなかなか体力はあるほうにはなったか、というのが男の弁だった。

 

 そして格闘術。

 何度も何度も繰り返して体に染み込ませた型。しかし叩き込まれたのは基礎だけ。まだ最初の一ヶ月だから当然のことだろう。でもそれだけでもアタシにとっては大きなことだった。

 未だにあの男に一発も当てられないけど、成長を実感しているだけでもいいことだ。

 

 またボウガンに関することを聞いてみると、それは後回しとの事だった。確かに的を狙って狙撃する、というのが普通のボウガンの鍛練だ。しかし実際に撃ってみせると、動かない目標に撃つのはもう問題ないと言われてしまった。

 実際ジェイドストーム以外のライトボウガンも持たされたけど、すぐに使いこなしてしまった。ヘビィボウガンはアタシの力では構えられなかったため、アタシはライトボウガンを使っていくことに決まった。

 動かない目標に狙撃する鍛練は必要ない、となれば、次に狙うものは当然決まっている。

 

 モンスターだ。

 

 狩場では奴らは動き続ける。辺りを警戒する時などは立ち止まるが、戦闘に入ればアタシを狩るために動いてくる。そんな奴らを狙い撃つことこそが、本当の意味でのライトボウガン使いといえる。

 モンスターと戦うならばクエストを受けなければならない。でも今は、アタシの体をハンターとしてやっていくために鍛えていることが課題のため、ボウガンに関することは後回しにする事になったというわけだ。

 

 そして今日、いつものように朝食を終えると、男は仮面の下からアタシを見据えてこう言った。

 

 

「そろそろクエストに行くか」

 

 

 ここから本当の意味で、アタシは狩人(ハンター)となる。

 

 

 支部の掲示板へと向かい、男はざっと依頼書を眺めている。アタシはあらかじめ、ランポスとジャギィの戦闘経験があることは告げてある。

 ランポスはまあ、機転を生かして狩ったようなものだ。

 そしてジャギィはたぶん、アタシの中にある悪魔とやらの声に従っただけ。ドスジャギィもいたし、ただ戦ってただけではアタシは死んでいたと思う。だからあれは本当の意味でアタシの実力で勝ったようなものじゃない。

 今のアタシならばあるいは普通に戦えば勝てるかもしれない、という感じがした。

 いや、それだけじゃない。

 今ならばあのドスジャギィにだって……。

 

「…………」

 

 そんなアタシを横目で男が見下ろしていたことなど、アタシは気づいていなかった。やがて男がクエストを決めたのか、そっと掲示板へと手を伸ばした。

 

 手にしたのは……「ドスジャギィ討伐」。

 

「……」

 

 ホントに選びやがった、こいつ。

 多少の驚きがあったが、アタシはそれを表に出すことはしない。でも雰囲気を察したのだろうか。男が小さく笑みを浮かべてアタシを見下ろす。

 

「嫌ならばただのジャギィ討伐に切り替えるが?」

「…………いや、それでいい」

 

 あの時勝てなかった相手。

 その相手と戦える。

 

 ……そうだ、あの時の雪辱を果たすいい機会といえる。

 

「ではこれでいいな?」

「……」

 

 それにアタシは頷いた。

 男が依頼書を持ってカウンターへと向かっていく。受付嬢に判を貰い、これでクエストは受注された。

 宿に戻ると男がアタシに振り返った。そのままアタシの腰にある二つの武器を示してきた。

 

「……ああ、ちなみにだが」

「……?」

「武器はどっちかにしろよ? クエスト中は一つの武器しか使ってはいけない決まりがある」

 

 ……それはわかっている。アタシの周りにはハンターがいたから、そういうことは耳にしている。

 

「で、どっちを使う?」

「……今回はオデッセイブレイドを」

「そうか。ならばジェイドストームを預かるぞ」

 

 これはギルドが決めた規定。それに違反すればギルドナイトによる懲罰が待っているという。生憎とアタシはそういうのは御免だし、それ以前に罪は既に犯している。だから捕まるわけにはいかない。

 そして今までの成長を確かめるならば、オデッセイブレイドがいいと思った。それにあの時手にしていたのもオデッセイブレイド。雪辱を果たすという意味でもこっちの方がいい。

 ジェイドストームを抜いて男に渡すと、それをローブの中へと入れていく。そのまま手を抜くかと思ったら、何やらごそごそし始めた。

 

「ならば今回はこっちだな」

 

 そう言いつつローブからいくつかの装備をローブから取り出してきた。

 アロイシリーズ。鉱石を主に使用した防具だ。

 鈍色を主とし、マカライト鉱石による青が映える。腰のものはスカート状であり、頭は額当てのようなものだった。それ以外は普通の鎧、という雰囲気をしている。

 しかしそれはアタシに合わせたのか随分と小さく、手にしてみると見た目に反して軽い。

 

「以前お前の身長などを測らせてもらったな? それで注文しておいた。ドスジャギィを相手にするならば、防具無しというのは無謀というものだからな」

 

 だからどこまで気を回しているんだこいつは?

 やけに準備が良すぎるんじゃないだろうか?

 でも男の言葉は正論だ。

 ドスジャギィはジャギィの群れを束ねるリーダー格。

 あの時盾で攻撃を防いだけど、その勢いを殺しきれずに後ろに吹き飛ばされてしまった。もし防御を失敗して直に受けてしまえば、間違いなく瀕死だっただろう。

 だからこそ防具が必要となる。男の準備はありがたいことだ。

 

「じゃあ付けてみろ。……ああ、手伝おうか?」

「……いらん」

 

 男が鎧部分などを持ち上げ、先行してアタシの部屋へと持っていく。頭や腕部分はアタシが持ち、男が出て行ったのを確認して着物を脱いでいく。

 続いて用意されたアロイシリーズを着こんでいくことにする。

 こうして装着してみるとわかる。妙に軽い。鉱石を使っているはずなのに、それを感じさせないほどの重量だ。

 何度か叩いてみると守りの硬さがあるのはわかる。でも軽い。

 

「…………」

 

 やはり子供のアタシに合わせたのだろうか。

 そんなことを考えながらアタシは隣の部屋へと戻っていく。

 

「ふむ、よく似合っているぞ」

 

 頭は額当てみたいなもののため、アタシの長髪はそのまま流れている。ゴムで縛って上げてもいいけど、めんどくさいからそのままにしておくことにする。今までだってそうしてきたから、何とかなるだろう。

 そこでアタシはさっきから気になっている事を聞いてみることにする。

 

「……これ、軽いけど」

「ああ、軽めに調整してもらった。その分強度が落ちてはいるが……まあ、大丈夫だろう?」

 

 重いままだとアタシの速さが生かせないから、こうして調整してもらったことはいいことだろう。まったく、やっぱり気を回しすぎだ。

 

「さて、クエストに行くとしようか」

「……ついてくるのか?」

「当然だろう。何かあったらどうするんだ?」

「…………」

 

 確かに男の言い分はわからないでもない。アタシの年齢を考えれば、ドスジャギィに挑むというのは無謀というもの。

 恐らくアタシがクエストを受ける制限として、男がついてくる、というのは含まれていただろう。つまりは何かあったときの保険というわけだ。

 

 そしてアタシたちはクエストが行われる孤島へと向かっていった。

 

 

 アプトノスの引く竜車に揺られること数時間。海へと繋がる道を渡り、ベースキャンプが用意されている一角へと辿り着く。

 南は丘、中央は肉食竜の巣や洞窟があり、北に行けば海に繋がる。これが支給品に用意されている地図で大まかに確認できることだった。男はテントを組み立て終えると支給品ボックスから携帯食料などを取り出してきた。

 

「そら、全てお前が持っていくといい」

 

 応急薬、携帯食料、携帯砥石……。しかも通常弾や散弾などもLv1だけどそこにあった。なにこれ、支給品でそういうの用意されているの?

 ギルドも気前がいいんだな。

 それらを受け取り、弾はローブにしまっておくことにした。

 これがあるから、弾を集めたり調合したりすることもこの先やりやすくなる。……癪だけど。

 更に男は気前よく砥石やペイントボール、閃光玉などをアタシに渡してきた。いや、ちょっと待て、いくらなんでも気を回しすぎじゃないのか?

 

「なに、閃光玉はたったの二つだ。どこで使うかはお前次第。よく考えて使え」

 

 ギルドで定められている閃光玉の持ち込み数は5個となっている。現地調合しても、5個以上持ってはならない決まりだそうだ。

 とりあえずくれるというなら受け取っておくことにする。使ってもいいし、使わなくてもいい。そういうことでしょ?

 なにはともあれ準備は整った。

 オデッセイブレイドを腰に挿し、アタシは地図を手に歩き出す。その数メートル後ろから男がついてくることになる。

 ローブは当然ながら脱いでおり、その下から現れたのはシルバーソルシリーズだとか。

 そして背負っているのは銀色に光るガンランス。名前は確かガンチャリオットか。銀火竜と呼ばれる火竜の素材から作られたガンランスらしい。龍属性を帯びており、龍殺しの武器の一つとのこと。……というか、たかがドスジャギィ相手にそんなものを持ってくるなという。

 しかしこいつが言うには……。

 

「いや、長くハンターをやっているもんでな。下位の武器がないのだ。手加減しようにも出来ん。作ってもいいが、めんどうだ」

「…………なるほど」

 

 だからと言って銀火竜の武器に防具、というのもどうかと思うけど。でもこれ以上突っ込む気にもなれなかったため、アタシはそのまま先に進む事にした。

 ベースキャンプを出ると、広がるのが岩肌に囲まれたかのような広場だ。奥には滝があり、そこから微かな川が流れている。

 そんな中をアプトノスが悠々と歩き、時折草を食んでいる。今回は用がないので、無視して進むことにした。

 さてどっちに行くか、だけど。地図によればエリア6がジャギィたちの巣になっているらしい。となれば、今回の標的であるドスジャギィはここにいる可能性がある。

 しかし基本的にこういう奴らのリーダーは定期的にエリアを走り回って見回りをしていることがある、という話だ。可能性的にはエリア6だろうけど、もしかすると今もなお走り回っている可能性がある。

 これは最近購入した肉食竜の事について書いてあった本による知識だ。

 そろそろクエストに行く事になるかもしれないと思い、予習ということで自腹で買ってきた。戦い方についてはある程度頭にある。

 となれば、先にジャギィたちを始末して、出来る限り集団戦をさせないようにしたほうがいいか。

 ……こんな風に思考できるのも、両親や村の大人たちがハンターだからだろうか。教えは受けていないけど、家に置いてあるハンターの本を読んだことがあるのが生きていた。自分でいうのもなんだけど、一人で過ごすことが多くてちょっと本の虫だった時代があるし。

 何はともあれ向かう先はエリア5。そこからエリア6に移動する事にする。

 

 移動するとすぐそこにジャギィたちが集まっていた。その数は四匹ほど。奥にはジャギィノスが丸まって眠っていた。どうやら巣の近くを警戒する一隊のようだ。ジャギィノスは……ただの日向ぼっこか?

 何にせよ、あいつらは狩ることにしよう。決戦で合流されるのはいただけない。

 しかしここも岩肌に囲まれているが地面に岩はなく、隠れる場所がない。つまり、出て行けばすぐに見つかるということだ。

 

「……まあ、いいか」

 

 見つかったとしても、攻撃を受ける前に仕留めればいい。アタシはオデッセイブレイドを抜き、それを握り締めて走り出す。アロイシリーズによって若干鍛練の時より速さが落ちるけど、基礎を積み重ねて身体能力を高めたおかげでそんなに変わらないのはありがたい。

 こんなところでも鍛練の成果が出ている。それを感じつつ、アタシは未だに辺りを警戒しているジャギィの一匹に後ろから襲い掛かって首を刎ね飛ばす。

 

「ギャルァ!?」

「ギャア、ギャア!」

 

 そこでアタシに気づいたらしいジャギィ三匹がアタシへと威嚇を始める。また、騒ぎに気づいたジャギィノスが眼を覚まして辺りを見回し、アタシに気づいて起き上がってくる。

 だがアタシは落ち着いてざっと位置を確認する。右に一匹、対面に一匹とジャギィノス、左に一匹。

 右から口を開けて噛み付いてきたが、それを右後ろに引きつつ回避し、回り込んで首元を突き刺し、切り払う。痛みに悶えるそいつを盾にしつつ、向かってくるジャギィたちの動きを観察。

 すると対面にいた奴がそいつを飛び越えて襲いかかってきた。

 

「……ふっ!」

 

 右へ転がってそれを回避すると、ゆっくりと回り込んでくるジャギィノスが見える。雌は体が大きいため、ジャギィと比べると移動スピードが遅い。その代わり体力が結構あるのが特徴だ。

 アタシに狙いを定めると、体を横に向けつつ足に力を入れ始めた。あの体勢を取ったということは、恐らく体当たりか。転がっていたために両手は地面に付いたままだ。ここからもう一度転がってもたぶん間に合わない。

 だったら盾を構えるしかない、と左手に嵌めているオデッセイブレイドの盾をジャギィノスに向ける。そのすぐ後にジャギィノスの体がぶつかり、アタシは何とか足に力を入れて踏ん張ってみせる。

 だけどやっぱりアタシの体は小さく、やがて後ろに転がることとなった。ドスジャギィと違って一気に後ろに飛ばされることはなかったけど、それでも転がってしまうのはアタシがまだ子供だからだろう。

 でもあの時とは違い、今はアロイ装備のおかげで痛みは軽減されている。それが救いだ。

 

「……はぁ、ふぅ……」

 

 すぐに顔を上げてジャギィたちを見据える。奴らは威嚇をしながらアタシを見つめており、一匹のジャギィは距離を詰めてきている。

 そこであいつはどこにいるのか、と何気なく視線を動かしてみると、岩肌の上に腰掛けてアタシを見下ろしていた。

 ……文字通りの高みの見物のつもりか?

 まあ、これはアタシの修行の成果を試す場であり、本当の意味でのクエストの狩りを覚えさせるためのものだから、それで間違いはないんだけど……。

 ……いいか。今はこいつらのことだ。

 真っ直ぐに向かってくる奴を見据え、オデッセイブレイドを構えてその場に待機する。正面から迫り、正面から噛み付いてくる。なるほど、正直な奴だ。

 だからこそ、避けやすいというのがわかった。

 体を横に移動させて噛み付きを回避し、がら空きになっている首元から体へとオデッセイブレイドを差し込んで切り払う。

 

「ギャァァッ!?」

 

 体を捻ってとどめとしてオデッセイブレイドを振り下ろし、これで二匹目を仕留める。残りは傷を負っているジャギィ、無傷なジャギィとジャギィノスか。

 しかし……体を鍛える前と比べれば何とかなっている。防具がついているという大きな差はあるけど、それでも呼吸があまり乱れていない。

 走り出してジャギィへと向かい、そしてジャギィはそこで初めてアタシに警戒を見せた。仲間が二匹も殺されたから当然のことか。

 だけど容赦はしない。傷を負っている奴を先に始末し、続いて反撃に出てきたジャギィノスの攻撃を回避しつつジャギィに傷を負わせていく。やがてそいつも始末すれば、動きが遅いジャギィノスとの一対一の戦いだ。

 落ち着いてやればこいつの攻撃は当たらない。それよりもあの男の攻撃の方が速い。それを何度も見て、受けていればある程度速さに慣れてくるものだった。……避けられるかは別だけど。

 攻撃して回避、攻撃して回避を繰り返してジャギィノスを追い詰めていき、やがてジャギィノスも倒れて動かなくなる。

 

「……ふぅ」

 

 一息ついて応急薬を飲み干す。ジャギィノスの攻撃は当たらなかったが、あの体当たりの影響と、ジャギィの反撃で少しだけ体が痛む。鍛えはしたけどまだまだアタシの体は成長期だ。

 空になった瓶をポーチに戻し、続いてジャギィたちから素材を剥ぎ取っていく。こいつらの素材で防具を作れば、正真正銘のアタシが作った防具になる。そうなったらこのアロイ装備はあいつに突き返す。ん、そうしよう。

 そう決めて素材を剥ぎ取っていくと、後ろから男が近づいてきた。

 

「どうだ? 体力の方は?」

「…………問題ない」

 

 結構動き回っているけど、まだ大丈夫だった。昔では考えられなかったこと。あの鍛練の積み重ねが生きている。

 

「ならいい。これからもクエストを重ねれば体力はついてくる。精進しろ」

「…………」

 

 それに頷いておく。

 

「さて、エリア6だが……」

 

 そう言いながら男がエリア6、岩肌によって道が狭くなっている方へと視線を向けた。

 

「なかなか集まっているようだな。ドスジャギィの気配はしないが、その数はかなりのものだ。行くのか?」

「…………」

 

 かなりのもの、か。となれば絶対にアタシには無理ということ。でも地図によれば回りこんでも時間がかかるだけ。時間短縮を図ろうと思えばここも通路の一つにしたいところ。

 となれば、掃除名目でエリア6に侵入するのも手か。こいつから閃光玉も貰っているし、1個使えば問題ないかもしれない。

 それに数がいれば装備も作りやすくなる。どれだけ使うかは知らないけど、多く持って帰っても悪くはない。いつか売って金にしても良し。

 

「……ふぅ。ならば俺も手を出すか」

「…………」

「なに、ただ見殺しにするよりはマシだろう?」

 

 元からそういう名目でついてきたのだから問題ない。

 アタシたちは揃って道を抜け、エリア6へと移動する事にする。少し歩けばその先の光景が見えた。視力がいいからどうなっているのかすぐにわかる。

 そこは高い岩肌、いや、山といえばいいのか。奥は山になっており、急斜面が見える。右手、左手には洞窟の入り口ら獅鬼ものが見え、そしてエリア6とはそんな広場を利用したジャギィたちの巣になっている。

 中心部分には岩があるから身を隠すことに使えるけど、この状況では意味を成さないだろう。

 何せ見渡す限りのジャギィとジャギィノス。合計二、三十はいるんじゃないだろうか?

 結構な規模の群れだったようだ。

 

 ――ちょっと待て。

 

 こんなものをアタシに行かせようとしたのか?

 こいつがついてこなかったら絶対に無理だろ、これは?

 獅子は仔を谷底に突き落とす、とか言うけど、これはそんなもんじゃないだろう?

 そんな意を込めて睨み上げてみるが、男は苦笑を漏らしてアタシを見下ろした。

 

「……ま、大丈夫だろ」

「……殺すぞ、テメェ?」

「まあまあ、落ち着け。その為のオレだ。それに、素材が多く手に入るから儲けものだろう?」

「…………」

 

 お見通しというわけか。それもまた癪だけど、今はそれを置いておくことにした。オデッセイブレイド抜いて構えると、男もガンチャリオットをその手に構えた。

 

「では行くか」

「…………」

 

 そしてアタシは走り出す。だがそれよりも速く男が前方へと向かっていく。

 いや、ちょっと待て。

 ガンチャリオット――もといガンランスは重量級の武器のはず。その重さによって動きは遅くなるはずだというのに……なんでこいつはあんなに速く動ける!?

 竜人族だからとか、そういうのは関係ないはずだ。

 実力は高いだろう、とは思ってたけど……アレはおかしいだろ?

 

「ふっ、ふっ」

 

 ガンチャリオットを振り回してジャギィたちを一斉に薙ぎ払い、トリガーを引いて奥にいる奴らを放射型の砲撃で撃ち抜く。追いついてジャギィ一体を始末している間に、男は回りに群がっている奴らを次々と始末していく。

 その動きはガンチャリオットの重さなど感じていないと思わせるくらい軽やかだ。飛び掛ってきた奴は左手の盾で受け止め、そのまま地面に叩きつけて体を捻る際に蹴り飛ばしている。浮いたところをガンチャリオットの先端で貫き、砲撃を行って奥の奴らもろとも吹き飛ばす。

 

 やっぱりこいつは規格外だ。

 

 普通あんな風にガンランスを扱わないはず。というか重量に負けて蹴り飛ばしなんて出来るはずもなし。どれだけこいつの身体能力が高いんだ?

 人間じゃない……ってそれ以前に人間じゃかったか。とはいえ竜人族って柄でもないだろう。アレは魔族の域じゃないのか?

 

「ギャギャ!?」

「ギャルギャル……!」

 

 こいつらからすればとんでもないことだろうな。

 突然住処に乱入され、一気に仲間たちが虐殺されているかのように思えるだろう。アタシだけだったならまだしも、こいつの場合は銀の嵐だ。ガンチャリオットを振り回し、時折装填して砲撃が繰り返される。

 多くいたジャギィたちの大半は当然のようにこいつが始末している。

 

 ――ガシャンッ!

 

 金属音がしてガンチャリオットが半分に折れ、薬莢が吐き出される。これもまた複製の魔法で弾を読み取り、新しく弾を装填させているらしい。これによってほぼ無限に弾が装填され続けるとのこと。

 空の薬莢が辺りに撒き散らされるが、すぐに粒子となって霧散していく。これによって自然が汚されることはない。技術でもたらされる自然汚染を、こういう対策で防いでいるとか。ボウガンの弾と違い、ガンランスの弾はほとんどの場合金属製だ。だからこそ複製の魔法がこうして生かされている、というより複製の魔法が本当の意味で役に立った場面らしい。

 やがてアタシが五匹のジャギィと二匹のジャギィノスを狩ったころ、それ以外の全てをあいつが仕留めてしまった。

 

「…………」

 

 いや、差があることは前から思ってたけど、これだけ圧倒的な差を見せられたら溜息も出ない。やっぱりこいつは規格外だ。うん、変人にして規格外。

 オデッセイブレイドをしまって剥ぎ取りナイフを取り出し、横たわっているジャギィたちから素材を剥ぎ取っていく。その間に男は辺りを見回してドスジャギィの気配を探っていた。

 こうして戦闘している間も奴は現れなかった。ということは少し離れたエリアを走り回っているということになる。だからこそこうして剥ぎ取りが出来るわけだが、はたしてどこにいるのやら。

 そんなことを考えながら剥ぎ取りを続けていると、男がアタシに近づいてきた。

 

「来たぞ」

「…………」

 

 それだけで充分だ。

 皮を剥ぎ取って剥ぎ取りナイフと共にしまい、オデッセイブレイドを抜いて構える。

 

「では、頑張るといい。オレは集まってくるだろう奴らを相手にしている」

「……わかった」

 

 その打ち合わせを終えると、エリア7の洞窟から奴が現れた。

 随分と久しぶりの対面だ。

 いや、あの時の奴じゃないのはわかっている。あの時の奴は狩られたのだから。

 でもアタシにとっては久々の対面に感じられる。

 ジャギィを数匹連れて現れると、周りの惨状を見渡して低く唸り始めた。自分の群れがこれほどまでに壊滅させられている。リーダーとしてこれほど腸が煮えくり返ることはないだろう。

 そのままアタシと男を見据え、地面を擦って威嚇を始める。そのまま息を吸い込み――

 

「ヴォァァアアアアア!!」

 

 ――戦いの始まりを告げる雄たけびを上げた。

 

 

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