呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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十八話

 

 

 町に戻りギルドに報告を終えるとさっさと準備を整えて町を出て行く。支部にあの女ハンターがいるのかと思ったけれど、いなかったのが幸いだった。たぶんいたら絡まれてたかもしれない。

 何はともあれ次の町へと向かう事にしよう。アタシは門をくぐって町を後にした。

 その際何か慌しく町へと向かっていく奴がいたけど気にしない事にする。あの格好からして各地に情報を伝える奴って感じだったか。

 ……何かあったのだろうか?

 

 

 ○

 

 

 その様子を見守る七禍はある建物の上に腰掛けていた。何かと高い場所から見下ろすのが好きらしい。ちらりと視線を横に移せば、ある鍛冶屋が目に映る。その建物の中を見通せば、二人の男女がいるのが確認できた。

 

「……ふふ、この出会いも必然。一つの枷が外れたのも良し。今のあなたたちの役目は終わったわ」

 

 うっすらと冷笑を浮かべて視線を動かせば、一人の男がその鍛冶屋へと飛び込んでいくのが見えた。その表情はひどく慌てた様子。何かの事件が発生したと思われるが、七禍はそれでも冷笑を浮かべている。

 ぶらぶらと足を動かしながら事の次第を眺めるようで、傍から見れば歳相応の子供のようだが、その目はまったく笑っていない。

 傍観者らしく起こりうる事を眺め続け、ただただ満足するか、飽きるか。あるいは予定調和だと納得するか。

 ただそれだけなのだ。

 

「それにしても、あの子もやってくれるわね。ここでそれを促すなんてね」

 

 頭の中に浮かんだ一人の人物。恐らくこの件の裏にはその人物が関わっているだろう。

 あの人物が動くなど、この数百年はなかったはず。自分と同じく平行世界や異世界を漂流していたというのに、一体どういう心境の変化があったのだろうか。

 それともただの気まぐれなのだろうか。

 ……あるいはこの世界の“彼女”に思い入れでもあったのか。

 

「何にせよ、少しは面白くなるかしら? ……ふふふ」

 

 

 ○

 

 

「大変だ!」

「おう? いったいどうしたんでぃ? そんなに慌ててよ」

 

 店に飛び込んできた男へと首をかしげながら店主が尋ねると、息を切らしながらも呼吸を整え、顔を上げて伝える事を伝える。

 

「数十年ぶりの魔族狩りだ! 各地で役人達が動き出してる!」

「なんやて? いったいどういうことなん!?」

「わかんねえ。なんか最近この国や東方で不穏な噂が流れ出してるんだが、それが影響しているのかもしれない」

 

 その噂は各地の古龍が動きを見せ始めたとか、飛竜たちが暴走を始めたとか様々なものだ。目立つのは飛竜たちの襲撃の頻度が上がっているとの事。ハンター達が討伐に向かってはいるも、既に村や町が壊滅していたり、ハンター達が全滅したりという結果になっている。

 この事は国も危機感を募らせており、一体何が起こっているのかと懸念と共に、そういう話が噂となって広まる。だが噂は噂だと地方では多少の楽観があった。情報の伝達が行商人などによるものだけであり、仕方がないといえば仕方がない。しかし壊滅した場所の付近では警戒があったものの、数日後にはその場所も壊滅する事で情報伝達がストップした事も含まれている。

 

「でもだからって、なんで魔族狩りに直結するんや!? ウチらがなにをしたっちゅうねん!?」

「国のお偉いさんは古い考えを持ってるからな。あれじゃねえのか? 九尾だとか冥蛇龍だとかの一件に、魔族が関わっていたという話が生きているのかもしれねえ」

「んなアホな……。まだあの話を信じている馬鹿がおるんかいな?」

 

 九尾は人に化ける事で国の中枢に入り込み、内部から国を破壊する。化ける技術は魔族のそれを凌駕している。老若男女、三種族を問わないばかりでなく、モンスターにまで化けてしまう為、見破る事は不可能とまで言われたほどだ。

 その多くは美女と言われており、王をたぶらかして滅亡へと追いやった記録があるという。

 最終的に国を滅ぼす際は、伝えられている通りの九つの尾を持つ狐となるらしいが、その実態は語られている通り不明。燃え盛る街の奥にその影を見た者が絵に残したのが始まりという。

 その九尾の話が伝わるようになってから長い年月の後。一人の学者がこう言った。

 

 九尾とは魔族が変化した姿である。

 

 モンスターがあそこまで巧みに人族に変化できるはずがない。しかし実際に九尾は変化を得意とし、その真の姿を見せない。その存在が伝わっているのに、幻のように現れては消えていく。

 モンスターとして追っているからこそ見つからないのではないか、という仮定がなされたことで浮かび上がった可能性。

 それは、九尾は魔族が変化した姿ではないだろうかということ。

 人が人に変化し、最終的に九尾の姿を見せ付けることで人々の記憶に強く残らせる事で、国を滅ぼしたのは自分ではなくモンスターであると認識させた。

 魔族からすれば自分達を侮辱するような説であり、人々にとってもあまりにも突拍子もない説。だがどこか完全に否定できないような説。

 そして冥蛇龍に関しては奴を呼び寄せる何かを魔族は持っているのではないか、という説が浮かび上がった。魔法の中にはモンスターを拒絶する魔法があれば、呼び寄せてしまう魔法もあるという。結界の一つにそれが実際にあるのは魔法の書物に記されている。

 それもまた何も知らぬ者からすれば突拍子もない説だ。モンスターを拒絶する結界ならわかるが、何でわざわざ呼び寄せるような結界まであるというのか?

 その説を唱えた学者はこう答えた。

 

 結界の範囲内の者たちを殺す為だ。

 

 付け加えられた事として、その魔法は闇に属する魔法の一つだという。誰かを殺す為に開発された拒絶の反対の効果を持つ結界魔法。連鎖するように行使されるのは生贄(サクリファイス)などの闇魔法。実際に存在する魔法なのだから、作られたからには理由がある。そう学者は説明した。

 そして学者は魔族の中にはモンスターと共存する一族も存在することも挙げた。アプトルたちだけではない。達人ともなれば飛竜すらも使役する。リオレウスの背に乗って空を駆る魔族が存在しているのだということを説明した。

 だからその使い手以上の実力を持てば、冥蛇龍を呼び寄せてしまう事も不可能ではないだろう。そういうことらしい。

 この二つの説が、昔の華国の学者達に広まり、それが魔族に対する疑惑を持たせる原因となった。そしてこれは数年後に行われた「魔族狩り」へと繋がる事となる。太古の戦争で各地に散っていった魔族たちを見つけては虐殺していく事件は瞬く間に華国全域へと広がり、多くの魔族が殺されたという話だ。

 そして同時に魔族たちが華国に対して憎しみを持った事件でもある。国内の魔族は東西へと散り、華国にはほとんど魔族はいなくなった。

 月日が流れるにつれて二つの説は信憑性の薄い説だという結論が下され、二人の学者は国内を混乱させたという罪によって追放処分を受けたという話だが、定かではない。少なくとも魔族からはいい印象を持たれていない為、もしかすると彼らの手によって秘密裏に暗殺された可能性も否めない。

 数世代を経た今となっては魔族に対する偏見は多少は落ち着いてはいるものの、まだどこかしこりがあるのが現状だ。そう簡単に血なまぐさい一件の影響が消えるはずもない。

 そんな一件から長い時を経た今、再び魔族狩りが行われようとしている。これは店主達にとっては信じがたい現実。一体国は何を考えているというのか。

 

「ここは……いや、華国は危険だ。東方かロックラックに逃げたほうがいいぜ!」

「…………」

 

 男の言葉に店主は歯噛みする。

 魔族狩りとなれば自分家族も対称だろう。妻は有翼種の魔族。娘は混血による竜魔族。しかもまだ幼い子供達だ。魔族狩りとなれば混血といえども対象だろう。幼い命をむざむざと散らせるわけにはいかない。

 守る為には男の言う通り国外へと逃亡するのが手だろう。恐らく数年はこの華国に戻る事はない。つまり長く滞在できる場所へと逃げるのが吉だ。

 

「……西へ行こう」

「西? ロックラック? それともドンドルマ?」

「ドンドルマに行くのも手だろうが、また別の場所がある」

「どこや?」

「中央の避難所、ポッケ村だ」

 

 

 方針が決定してからはその動きは迅速だった。急遽店じまいをした後、持って行く荷物を整理していく。空間収容術がかけられたローブにどんどん物を詰め込んでいくのだ。店主は鍛冶に必要なものを、女性は持っている武器と防具を入れていく。

 そして日常生活に必要なものと、娘達の荷物も収容していく。

 三人の娘も突然の出来事に動揺を隠せない。

 しかし両親の様子から何かが起きたんだろうと幼いながらも感じ取った。長女が二人を抱き寄せ、安心させるように何度も撫でてやっている。

 すべての準備が完了し、家を出た時はもう深夜だった。図らずも夜逃げという形になってしまった。

 身なりはいつもの私服にローブ。荷物はほとんどローブの中に納めてある為、手ぶらに近い状態になっている。走る分には日常と変わらない状態のため、逃げる時に苦にならないだろう。そして店主の両肩には双子が、女性の背には長女が背負われている。

 子供がまだ幼いために、人間離れした疾走速度を持つ二人の速さについていけないだろうという懸念があったため、このような形になったのだ。

 辺りの気配を窺うように店主と女性は何度か視線を動かすと、二人は我が子を乗せたまま走り出す。本気に近い力で疾走する二人は一気に道を駆け抜け、数分後には門を通り抜けていた。

 それから街道を走り続け、向かう先は華国南西の国境。そしてその先にある砂漠の街ロックラック。恐らく役人達も国を越えるであろう魔族達を捕らえる為に、国境を封鎖しようと動いている事だろう。だが裏道も存在するはずだ。

 それに砂上船が出るのは何もそこだけではない。他にも砂漠の町は存在する。様々な可能性と方法を模索し、なんとしてでも華国を脱出してやる。

 その目標を胸に秘め、鍛冶屋の一家は夜の闇に消えていった。

 

 

 ○

 

 

 華国の国境付近。

 どうやら巷で話題となっている魔族狩りとやらが行われているらしく、アタシはしばらく国境付近の町に足止めされていた。どうも最近の暗い話題は魔族が動いているのではないかという結論が国の中枢で下されたらしく、こうして二ヶ月ほど経った今でも行われている。なんとも馬鹿馬鹿しい話だ、と思ったけど、過去にも魔族狩りが行われたことがあるとのこと。

 そういう訳で、華国を出るには少しめんどうな手続きがあるらしく、仕方がないので手続きを完了させるまでこの近辺をうろつくしかなくなってしまった。

 あの町を出てから二ヶ月。華国を南西へと進みつつ町を回り、時にクエストを受けて金稼ぎと経験積みを行っていた。クルペッコだけでなく、ボルボロスやロアルドロスとの戦闘も経験し、防具の強化も行った。

 でもそろそろ他の武器や防具も欲しいところだ。しかし気を惹くものがない。

 ジェイドストームは確かに撃てる弾が豊富だ。しかしその分他のライトボウガンと比べて火力が若干劣っている。強化しているとはいえ、後々火力不足に陥る可能性がある。

 火力を求めるんだったらヘビィボウガンがいいだろうけど、そうするとアタシの利点である速さがなくなってしまう。

 そのジレンマもあって、未だにジェイドストームから変えられずにいる。

 そして今は町外れに移動して購入した本を広げている。

 購入したのは「華国武術」や「気について」など。華国もまた独特の体術や武術が存在するという。それを学ぶ為に余裕のある金で購入してきた。

 読んでいくにつれてなるほど、と新たな世界を知ることが出来る。本というものはいいもんだな。震脚の考え方とかアタシには新鮮だ。でも一回だけアタシは見た事がある。

 確かドスファンゴと戦った際にあの男がドスファンゴを止める前にやっていたアレがそうなのだろう。

 他には八極拳とかそういうのか。特徴からして子供のアタシでも習得すれば結構立ち回れそうかな。でも近距離において行使される格闘術らしいから、中距離への切り替えとかの技術も考えて体に覚えさせていこう。

 

 そんな事を考えてから数日後の夜。

 アタシは密林の中で息を潜めていた。木の幹に背を預け、ジェイドストームを構えて呼吸を整えている。

 

「…………ふぅ」

 

 夜の帳が下りた今、木々に囲まれたこの密林は視界がかなり悪い事だろう。常人ならこんな中で動くとなれば慎重になるはず。

 しかしアタシは夜目が利いていた。以前までなら目を凝らして動いていただろうけど、今のアタシならば昼の時と比べて少しだけ慎重になるくらいの変化だ。

 ブナハブラが飛び回っていようとも視認出来るほどの余裕がある。まああの独特のピンクの色合いは夜になろうと少しわかりやすいんじゃないだろうか。

 それにここは川がある。そのほとりではルドロスと呼ばれる海竜種が数匹たむろしていた。ロアルドロスと戦った際に回りに群がってきたから、多く倒している。もちろんその素材は頂いているが、使い道といえば防具くらいなものか。ボウガンにも使えるだろうけど、アタシの琴線を刺激しない。

 となれば売って資金にするくらいしかないだろう。結局はそういう結末に至ってしまう。

 ……それは置いておくとして、今は奴に気を配っておくとしよう。

 奴は数十メートル先でアタシがいる方へと視線を向けている。完璧な位置までは把握していないようだけど、この方向にアタシがいることはわかっているらしい。

 漆黒に染まった羽毛に、たてがみのように広がった頭の毛。深い紺にそまった嘴は鋭く尖り、蒼い目がじっとこちらを見ている。

 首から胸にかけては膨らんだような蒼い毛が生え揃い、それ以外は全て漆黒。紺の足の先にあるのは、嘴と同じく鋭く尖った蒼い爪。

 その風貌は猛禽のそれに近いだろうが、その視線は今すぐにでも狩るような雰囲気はない。まるでアタシの出方を窺っているかのようだ。

 

 ヤタガラス。

 

 それが奴の名前だ。

 夜の密林で主に見かけられる鳥竜種の一種であり、ランク的にはクックたちより少し上くらいか。だがそれは幼生ならばの話らしい。完全に成長しきった個体ならば、飛竜に匹敵するほどの実力を内包するといわれている。

 夜に活動する夜行性の飛竜で、闇に溶け込むような漆黒の体毛をしているのが特徴だ。嘴や爪の形状からわかるとおり、攻撃的な部類に入る飛竜だが、少し捻くれた性格をしている。

 それは相手を観察し、その生命力を感じ取る力があるということだ。

 奴らは頭がいいらしく、相手の攻撃パターンを学習していくという研究結果が出ているとのこと。その為幼生ならばそれほど驚異じゃないけど、成長した個体ならばその学習した結果を反映させてハンターと対峙するため、危険度が上がっているということらしい。

 また敵を夜の闇へと誘うように距離を測りながら移動する習性があり、弱りきった相手ならば積極的に攻撃を加えていくという狡猾な戦い方をする事でも知られている。

 まるでハンターを暗い未来や闇へと誘うかのような性格をしている事から、誘夜鳥(ゆうやちょう)という異名を付けられている。

 

「…………まだ戦えるって感じか」

 

 さっきまで別のエリアで一戦交えたけど、あまり攻撃してこなかった。その習性の通り、アタシの動きを観察するかのように動き回っていた。

 つまり殺るなら最初の内に一気にダメージを稼いだほうがいい。短期決戦が奴との戦い方だろう。長期戦になれば二つの意味でアタシが不利だ。

 一つは攻撃手段を覚えられて回避される確率が上がってしまうこと。

 もう一つはアタシはガンナーなので、弾には限度があるということ。

 この二つの要因によって、アタシはどう戦うかをこうして考える事になっていた。

 

「クルル……」

 

 ふと、ヤタガラスが小さく唸る。木の陰からチラッと視線を向ければ、目を細めて軽く視線を動かしていた。アタシを改めて探そうとしているようだけど、息を潜めて隠れているアタシをまだ見つけられていないらしい。

 まだ考える時間がある。

 あの時クルペッコにしたように罠を仕掛け、状態異常にして……という連鎖をしてみるか。それなら一気にダメージは与えられそうだ。

 それに鍛え続けた今なら拡散弾Lv2を撃てるようになっている。また今回の場合なら、調合する暇はあるかもしれない。まだまだ観察を続けている今ならば、別のエリアに移動して調合し続ける事も出来るだろう。

 

「……よし。だったらさっさとやるか」

 

 ポーチから落とし穴を取り出し、木の幹からアタシから見てヤタガラスの右側へと回り込むように飛び出した。

 

「クルッ?」

 

 その気配を感じ取ったのか、それとも足音に気づいたのか、ヤタガラスの視線がアタシへと向けられた。

 アタシが今相手にしているのは、当然のように幼生。しかしその大きさはクルペッコと比べると少し小さめだ。しかしそれでも奴は飛竜の一種。その力は人族と比べれば大きな差がある。

 だからといって臆するわけにはいかない。初見でボルボロスやロアルドロスも倒せたんだ。お前もまたアタシの道の踏み台にしてやるよ……!

 

「……ふっ」

 

 ヤタガラスから少し離れた所に落とし穴を設置し、ピンを抜く。こういうやり方は何度かやっているし、罠師のスキルでよどみなくしかけることが出来た。円形に広がっていくネットを確認しつつジェイドストームを取り出す。

 弾は既に装填してある。銃口を向ければヤタガラスは少しだけ警戒したように身構えた。どうやら少しだけ学習しているらしい。そんなヤタガラスから今度は左側へと回り込むように走りながら、ジェイドストームの引き金を引く。

 すると銃口から一つの弾が射出され、少ししていくつもの小さな破片をばら撒く。

 装填したのは散弾Lv2。散弾Lv1よりも多くの破片をばら撒くのが特徴で、結構牽制に使える。今まで使わなかっただけにこれには奴も驚いているようだ。

 普通の飛竜ならただ唸るだけだろうけど、ヤタガラスは相手の出方を窺う習性がある。その為想定外の攻撃がくれば思考が乱れてしまう。そうなれば動きが少し止まってしまうのだ。

 それを見逃すほどアタシは初心者じゃないつもりだ。ジェイドストームを右手で持ったまま腰に当てて押さえつけると、ポーチに左手を伸ばして小タル爆弾を取り出し、腰元で導火線を擦る。火がついたのを横目で確認し、ヤタガラスの顔の右側へと放り投げてやる。右目付近まで弧を描いて宙に舞う小タル爆弾が爆発すると、ヤタガラスは大いに仰け反り、たたらを踏みながらその体を左へと移動させてしまった。

 

「ク、クエ……クエエェェ!?」

 

 となればどうなるか。さっき設置した落とし穴へと吸い込まれるように落ちてしまった。

 うん、狙い通り。そういう風に引っかかってくれると思っていたよ。

 ならば始めるとしようか。迷いなく麻痺弾を装填し、落とし穴でもがいているヤタガラスへと射出していく。装填と発砲を繰り返し、ようやく麻痺状態になってくれた。こうなればあとはこっちのもの。

 ここで一気にダメージを与えて瀕死へと追い込む。それが一番望ましいし、短期決戦に繋がる。容赦の欠片もなく、拡散弾Lv2とLv1、徹甲榴弾Lv2とLv1を次々と装填しては射出。

 

「クエッ……ケエエェェ!」

「……む?」

 

 今までずっともがきながらも被弾していたヤタガラスが少しだけ息を吸ったかと思うと、嘴から黒い煙を吐き出してきた。

 

「……っ!?」

 

 広がっていく黒い煙を見ていると、アタシは思わず鼻を押さえてしまった。それほどまでに鼻をつくような刺激臭。

 少し考えて図鑑に書かれている事を思い出す。ヤタガラスは腐敗した死体をも食料にしてしまう。ヤタガラス自身に悪影響はないが、その腐敗臭は自身の内部に溜め込み、敵へと吐きかけることで撤退を促したり、怯ませたりするという。例え匂いに耐えられる、または遠くに離れていても、その黒い煙がヤタガラスを覆い隠してしまう。

 黒いのは恐らく自身の属性の指針が闇属性だからだろう。その闇の粒子が集まっているが故に、腐敗臭のガスが黒く染まっていると学者が結論付けたという。

 

「……くそっ」

 

 その匂いはアタシにはきつい。たまらずアタシは匂いがマシになるだろうと距離を離してしまった。それを感じ取ったのか、煙の中でヤタガラスの動きが激しくなった気がする。

 

「……ちぃ……!」

 

 どうやら麻痺が解けかけているらしい。いや、煙を吐き出した時点でもう解けてしまっていたのではないだろうか。アタシは散弾Lv2を装填して煙の中へと射出する。

 命中はしているようだがそれでもヤタガラスはもがき続ける。煙は相変わらずヤタガラスを隠しているため、アタシの目を以ってしても完全に視認出来ていない。

 強い風が吹いた。

 それは煙を吹き飛ばすほどの風圧であり、その中から黒い影が舞い上がる。

 主に胸元が傷ついているヤタガラスだ。あまりにももがくため、顔を狙うのはアタシの腕ではまだ無理だった。目を潰そうとも考えたというのに、それを阻止するためなのか、はたまたただもがいていただけなのか、ぶんぶんと顔を動かし続けていたのだ。

 そのくせ視線はアタシからほとんど外していない。幼生だというのにこいつはやはり相手を観察する心構えがある。

 

「クルル……!」

 

 空中に停滞したままアタシを見下ろすヤタガラスは、その蒼い目を細めている。その体を支える為に羽ばたかれる翼はクルペッコと違い、黒い羽で覆われている。それはまさしく鳥そのもの。こういった翼を持つ鳥竜種は、他に例を挙げれば白毛鳥ヴァニクスなどがいるという。

 しばらく睨み合っていたけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。高さ的にはまだアタシの射程内。貫通弾Lv2を装填して銃口を空へと向けてやる。だけどヤタガラスは今まで以上に翼をはばたかせてどんどん高度を上げていく。

 逃げるのか?

 そう考えている間に奴の気配はこのエリアから消え去り、どこかへと移動していった。

 

「…………」

 

 ジェイドストームを下げて腰に戻し、アタシは一息つく。

 何にせよ去ったのならば次の手を準備する時間があるということ。使い切った拡散弾の調合とか、落とし穴の調合とかすることが出来る。

 木の幹にもたれかかりながら座り、必要なものを取り出して早速調合にかかる。ヤタガラスとの戦闘で他のモンスターの影はない。夜ということで視界は悪いけどそんなことはアタシには関係ない。

 手早く調合を完了させ、アタシは立ち上がってペイントの匂いを辿ってヤタガラスを追う。望むならば、次のエリアで討伐したいところだ。

 

 向かった先は密林エリア7。左手には川があり、右手には飛竜たちの巣がある崖がある。

 そして奥には洞窟エリアへと向かう穴が空いており、その近くにヤタガラスは佇んでいた。川の方を向いているということは、川の水でも飲んでいたのだろうか。

 

「…………」

 

 息を潜めて後ろに回りこむように移動していると、ヤタガラスが小さく体を震わせた。

 

「……クルル」

 

 何かを感じ取ったかのようにきょろきょろと辺りを見回している。

 気配でも感じ取ったか?

 それとも……足音? アタシの匂い?

 

「クルッ?」

 

 そしてアタシがいる方へと首を動かした。

 ……まさか、ジェイドストームの火薬の匂い!?

 嗅覚が優れているという記述はなかったけど、もしかすると自身に打ち込まれていく弾や、発砲する際に漂う匂いを記憶したのでは、と考えれば何となく納得してしまう。

 

「クルルッ!」

 

 一度翼を広げて小さく何度か羽ばたくと、少しだけ胸毛が膨らんだ。そしてその嘴から、またしても黒い煙が吐き出された。しかし今度は周囲に広がるのではなく、アタシへと真っ直ぐに向かってくるような動きを見せている。

 

「……ちっ」

 

 直線状ならばかわす分には問題ない。でも撒き散らされる匂いが鬱陶しい。少しだけ呼吸を止めてヤタガラスの左側へと回り、装填した貫通弾Lv2を射出。

 だけどヤタガラスはそれを横に跳ぶ事で回避した。その際に翼を広げ、また何度か小さく羽ばたかせる。

 

「クルァアッ!」

 

 何をするかと思えば、そのまま強く羽ばたくと同時に飛び跳ね、足の爪を立ててアタシへと落下してきた。

 

「――っ!」

 

 アタシはジェイドストームを手にしたまま地面を強く蹴り、左へと跳ぶことでこれを回避する。肩から入って体を回転させつつ起き上がれば、さっきまでアタシがいたところが奴の足によって少し陥没していた。

 爪の部分は他よりも少し深く抉れている。ああやって得物を捉えると同時に傷つけるのだろう。

 だが何よりも考える事は一つ。

 奴はついに直接攻撃に移ったこと。

 すなわち、観察する時間は終わった事を意味している。

 

「……来るか」

 

 身構えるとヤタガラスが軽くジャンプし、その鋭い嘴を連続して振り下ろしてくる。これは鳥竜種が多用する攻撃の一つ。でもさっきの足技と同じく進路さえわかっていればかわすのは簡単な部類。少し距離を離し、横に回り込めば簡単にかわせる。

 貫通弾Lv2をさっと装填し、がら空きになっている横っ腹へと撃ち込んでやれば、その目がじろりとアタシを睨みつけてくる。

 

「クエッ!」

 

 すると体を捻り、尾羽を振り回してくる。その長さはあのクルペッコよりも長い。だいたいロアルドロスの尻尾と同じくらいか。鞭のようにしなるほどではないにしろ、この一撃を受ければただではすまないんだろうな。

 風切り音を立てて目の前を通り過ぎていく尾羽をやり過ごし、隙だらけな背後からどんどん撃ち込んでいくことにする。とはいえ貫通弾は2発しか装填出来ないんだけど。

 でも少し慣れてきた今では2発を装填するのは最初に比べれば随分と早くなっている。空になると同時に素早く装填して引き金を引く。射出された弾は背中から胸へと進出していくだろう。

 しかしその攻撃を受けてもヤタガラスは止まらない。ぐっと引いた左の翼をアタシへと打ちつけようとしてきた。

 

「……くそっ」

 

 尻尾よりも射程が長く、そして翼だけに横に広い。左腕で顔を庇うようにしたまま後ろへと跳ぶが、それでも先端部分が左腕に当たってしまった。ただそれだけで子供のアタシは腕に強い痛みを感じ、大きく後ろへと飛ばされてしまう。

 

「……くっ……なっ!?」

 

 受身を取ろうとしたところでヤタガラスは追い討ちをかけるように体を捻り、右の翼を振り下ろしてくる。それはまるで剣を振り下ろしているかのような鈍い光を放ち、浮いているアタシを叩き切るかのようだ。

 

「……終わらせない……!」

 

 咄嗟に一つの弾を装填し、振り下ろされる翼を狙って引き金を引く。すると発射された際の反動で更にアタシの体が後ろへと下がってしまう。おまけとして支えた左腕がビリビリと痺れるけど、振り下ろされた翼からやり過ごせたのは大きい。

 

「……うっ、くぅ……」

 

 背中から地面を転がってしまうけど、生き延びられたので良しとする。この程度の痛みなどどうということはない。

 すぐに起き上がってジェイドストームを構えてヤタガラスを見据える。振り下ろされた翼は地面を叩き割る、というより斬られたような跡を残していた。どうやら翼を覆う羽は剣のような鋭さを持っているらしい。幼生でこれなら、成長しきった個体ならどれほどのものになるのか。

 ……やめだ。そんな事は実力をつけてから考えよう。今はただこいつを狩る(ころす)のみ。

 

「……さて」

 

 弾を装填してヤタガラスの出方を窺うことにする。怒り状態にはなっていないようだけど、油断は禁物だ。さっきまでずっと攻撃せず、アタシを観察し続けていたのだから、攻撃パターンがまだほとんど把握できていない状態にある。

 これは初見なのだからあとどれくらい奴の持っている攻撃パターンがあるのか、アタシにはまだわからない。図鑑にはだいたいの情報と生態しか書かれていない。それに例え書かれていたとしても、実際に目にしないとわからない事だって多い。

 だからこそハンターは習うより慣れろ。実戦でこそ成長するのだから。

 

「クルァアッ!」

 

 大きく翼を広げ、少しだけ浮かぶようにして滞空し、今度は両の爪を立てて飛び掛ってきた。

 

「……くそっ」

 

 そんな風に飛び掛られては逃げるしかない。今度は右へと疾走した後、全力で跳ぶ。

 しかしヤタガラスは着地せず、強い風圧を起こしたまま滞空状態へと移行した。

 

「クルル……!」

「……ふんっ!」

 

 バサバサと音を立てて低空飛行をするヤタガラスへと引き金を引く。少し上の方を狙って撃ったため、着弾点は胸あたりになった。羽ばたいた際の風圧に負けるか、と懸念したけど、何とか当たったようで何より。

 

「すうっ……カアアァァ!」

 

 すると大きく息を吸い、またあの黒い煙を吐き出した。とたんに広がっていく煙と異臭。

 鼻を押さえたくなるのを我慢して回り込むように移動するけど、その反対側へとヤタガラスが移動していくような感じがする。

 煙によって姿は見えないけど、羽ばたく音とあの気質が丁度アタシの反対側にいるような感じがするから間違いない。

 経験による効果か、はたまたあの時の異変によるものか。飛竜が持つ強い気配を少し感じられるようになっている。

 そして黒い煙はヤタガラスが巻き起こす風圧によって少しずつ移動していっている。完全に吹き飛ばすほどの力で羽ばたいていないのは、奴の狙い通りなのだろうか。

 何にしてもこの匂いは慣れようとは思わないし、慣れたくもない。

 

「……ならば」

 

 奴が姿を消してこちらに一矢報いようというならば、アタシにだって考えはある。視界に干渉する一手はヤタガラスだけが持っているわけじゃない。アタシたちハンターもまたこの一手がある。

 空気の動きが変わった。

 

「クエエェェ!!」

 

 煙の中から急襲をかけるかのように飛び掛ってきた。足の爪を立てて攻撃するのではなく、体全体を使っての突進のようなもの。

 それならば良し。

 左手でポーチから取り出した一つの玉を手にすると親指でピンを抜き、指で弾いて少し後ろの上方へと打ち上げてやる。

 一瞬後、辺りの闇を照らすには強すぎる眩い光が発生した。

 

「クアァァッ!?」

 

 これほどの闇に慣れてしまっている目にはこの光はきついだろう。夜行性なヤタガラスには毒かもしれない。勢いよく滑空していたのに、視界に突如として発生した光によってバランスを崩し、そのままアタシの横数メートル先に墜落してしまった。

 それほどまでに閃光玉は効果抜群だったらしい。

 さて無防備になっているへと一気にダメージを与える事にしようか。

 まずは拡散弾Lv2、続いてLv1、その次は徹甲榴弾!

 体だけでなく、顔にも容赦なく弾の洗礼を浴びせてやる。それによって左目付近が裂傷を負い、ほぼ視界が閉ざされる事となってしまったようだ。黒い毛は自身の血によって赤黒く染まり、紺の胸毛は爆発を負い続けた事で所々抜け落ちている。その下からは血を滲ませながらも焼け爛れたかのような皮がうっすらと見える。

 とはいえこの闇だ。普通は見えないかもしれないけど、アタシには見えてしまっている。普通の飛竜は甲殻があるからこういう傷を負うのはあまりないかもしれないけど、こいつは普通の鳥に近しい飛竜。だからこそこういう傷を負ってしまう。

 

「グルァ、クルルォォァ……!」

 

 ふらつきながらも立ち上がろうとするヤタガラスからは、まだ闘気は消えていない。生命力は少なくなっているけど、まだ瀕死という感じがしない。ならば内部から追い込むとしようか。

 毒弾を取り出して装填し、間髪いれずにヤタガラスへと撃ち込んでやる。それも所々焼け爛れた皮の部分にも撃ち込むことで、更にダメージを稼ぐ事にする。

 

「ク……クエエエェェ!!」

 

 遂に臨界点を突破したらしい。アタシを睨みつけて甲高い声で威嚇してきた。

 強い気迫がアタシを貫いてくるが、アタシはぐっと堪えて毒弾を撃ち続ける。確かにこいつは飛竜だけど、幼生でもある。その殺気はまだマシな方だった。

 威嚇を終えたヤタガラスはそのまま走り出し、アタシへとその嘴を振り下ろそうとしている。

 ならばとアタシはポーチに手を伸ばし、またしても玉を取り出した。それを構えると、アタシから数メートル離れた所で急に踏みとどまった。それだけでなく目を閉じて顔を背けている。

 なるほど、さっきの閃光玉を警戒しているということか。

 でも残念。

 アタシは一気にヤタガラスへと近づき、手にした玉を地面に叩きつけてやる。すると玉が破裂して中から紫色の煙を立ち上らせた。

 

「……っ!? クエェッ!?」

 

 それを吸い込んだヤタガラスが体を痙攣させ、たたらを踏み始めた。それを感じながらアタシは奴の股下を滑りつつジェイドストームの銃口を上へと向け、その腹へと徹甲榴弾Lv2を着弾させてやる。

 空の薬莢を排出しつつ貫通弾Lv2を装填し、背後で爆発するのを聞くとすぐさま反転。横っ腹を貫くように貫通弾を撃ち出す。

 先ほどの玉は毒けむり玉。毒テングダケと素材玉を調合する事で作られる代物だ。主に虫退治に使われるものであり、破裂すると微弱な毒物質を含んだ煙を発生させる。

 ヤタガラスがこれを吸う事で毒になったのは、これの毒にやられただけじゃない。それ以前に毒弾で毒が体を蝕みつつあったからだろう。

 そして無防備に吸ってしまったのは、ヤタガラスが閃光玉を警戒していたからということもある。普通の飛竜ならあそこまで警戒心を剥き出しにはしないだろう。反応を示すなら何度か閃光玉にやられてからだと思う。

 でもヤタガラスは相手を観察し、その対処の仕方をすぐに考えてしまう。それを逆手に取らせてもらった。知能が高い事が仇となったのはなんとも皮肉なものだ。

 

「ゲフッ……グ、クルル……!」

 

 ……ふむ、意外と毒に対する耐性が弱いのだろうか。妙に反応が鈍い。生命力も急激に弱まりつつある。もしかするとババコンガと同じく人工の毒には弱いのかもしれない。腹に当てた徹甲榴弾の効果もあり、傷ついた腹から結構な量の血が流れ落ちている。どう見ても瀕死だ。

 ヤタガラスは大きく翼を広げ、息を吸い始める。またあの煙を吐こうというのか。ここでそれをするということは、また逃げる算段か?

 でもそうはいかない。

 小タル爆弾を取り出すと、火をつけずにヤタガラスへと勢いよく投げつけてやる。弧を描いてヤタガラスへと向かっていくそれへと狙いを定め、一発装填した弾を射出。

 

「ケエエェェ!!」

 

 そして吐き出されるあの黒い煙。その数秒前に弾は小タル爆弾へと着弾し、黒い煙の中へと消えていく。次いで聞こえてくる二つ(・・)の爆発音。ヤタガラスの悲鳴と共に、爆風が黒い煙を吹き飛ばしてしまった。

 撃った弾は徹甲榴弾。恐らく狙い通りなら顔面近くで爆発し、その爆発に連鎖するようにして小タル爆弾も爆発しただろう。目の前で爆弾が爆発すればきついものがある。小タル爆弾だけならまだしも、徹甲榴弾の爆発音を至近距離で聞き、閃光玉ほどではないにしろ視界を塗りつぶすかのような爆風が目を潰す。

 ああ、これはひどい。自分でやっておきながらひどいものだ。

 でも心に波は発生しない。今のアタシは酷く冷静だ。感情を忘れ去ったかのように落ち着いている。

 

「……締めようか」

 

 宣告。

 狙いはその頭。爆発によって顔もまた損傷を受けている。今ならば問題なく貫ける。

 アタシの目はしっかりと目標を見据え、もがき続けるヤタガラスにこれが中る光景が視えている。

 迷いはない。

 

「……これで終わり」

 

 静かな音が響き、弾はヤタガラスを貫いた。

 

 

 町に戻り、早速報酬を受け取る。今回の収入はなかなかおいしい。素材もそれなりに入ったし、鍛冶屋にでも向かってヤタガラスの素材から作れるものを確認してみる事にしようか。

 そうと決まれば善は急げ。近くにある鍛冶屋へと足を運ぶ事にする。

 時刻は昼。国境付近の町とはいえ、今の現状では旅人はあまり見かけられない。誰もが足止めされることはわかっており、出国者はいるだろうけど、入国者の数がほとんどいない。

 長い手続きを終えて入国したとしても、最近の華国はピリピリしている状況。魔族狩りの影響は他国にも与えているらしく、他国の商人やハンターの姿は少なくなってきている。

 まったく面倒な事になったものだと思いつつ鍛冶屋の扉を開けて中に入る。

 そして出されたリストを確認し、ヤタガラスから作られるものを見てみる。

 そうして眺めた中で気を惹かれるものはと考えると、はたしてそれは見つかった。

 

 小烏(こがらす)

 

 部類は片手剣だけど、その形状は東方の小太刀に近い。黒い刀身にシンプルな形状をした片刃の剣と、鉱石を使用した下地の上に黒い毛を覆わせた盾。東方出身ということもあったせいなのか、アタシはそれにかなり惹かれてしまっていた。

 思い浮かぶのはオデッセイブレイド。これはあのハンターから無断で奪ったもの。つまりは他人のもの。でもこれを作れば、自分の力で手に入れた剣が持てる。

 切れ味は落ちるだろうけど、これは間違いなくアタシの剣となる。

 

「……これを」

「小烏っすか? 素材はあるんですかい?」

「…………」

 

 アタシを見て首をかしげる店主。当然だろう。アタシのような子供がヤタガラスの素材を持っているとは思えないようだ。

 しかしちゃんとあることを示す為、使用する素材を並べてやる。ついでにアタシのギルドカードも見せてやった。となれば文句はなくなったらしい。

 

 数時間後、アタシはアタシの剣を手に入れる。

 これが本当の意味でのアタシの剣。

 使うとするならば――やはり自衛の為の殺しだろうな。

 

 

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