「――97、98、99、100……」
カウントしながら腹筋を続けて100回、これで基礎は終わった。その前には走りこみと腕立てを終えている。呼吸を整えつつ流れた汗を布で拭き取っていく。木の枝にかけているローブから飲み物を取って水分を補給し、その下に置いてあるものを手にした。
今日作ったアタシの剣。布を首元にかけて両手でそれを握り締め、右手でそれを鞘から抜き取った。
ヤタガラスと同じく主に黒く染まった刀身は鈍い光を放っている。オデッセイブレイド程ではないにしろ、右手にずっしりとくるような重さが、これが本物の剣である事を語っている。
材質鉄鉱石やマカライト鉱石。そこに熱によって溶かされたヤタガラスの羽が、鉱石へと溶け込んでこのように漆黒に染まっているとか。まあそういう話はアタシにとってはどうでもいいこと。
鞘を置いて小烏を構える。
「…………」
意識を集中させれば周りの状況など気にならなくなる。元よりここはあの町から結構離れた場所だ。しかし国境近くというわけでもない。目を凝らせばあの町が見えるといった場所であり、人の集落と自然の掟が定まっている世界の境界線、といった具合の位置にある。
岩山がアタシの後ろ数メートル先にあり、それは国境を越えてロックラックがある砂漠地帯まで続いているという話だ。つまりここを伝っていけば国境は越えられるだろうけど、そうすれば後々面倒な事になるのは明白。
今回は鍛練をするということで、身を隠すには都合がいいだろうとここに来ただけの話。
近くに生き物の気配はない。ならば存分にこれを手に馴染ませる為の鍛練が行えるだろう。
「――ふっ!」
突き出しから引いて下からの斬り上げ、身を捻って振り下ろし。想定した敵を動かしつつアタシもそれに合わせて動いていく。
剣術に関しても一応本は買ってある。ハンターに関する片手剣や双剣などの武器の扱い方、というものじゃない。一般人に伝わっている自衛や相手を倒す為の剣術。さすがに国の軍に伝わるものまでは得られなかったけど、前者に関しては一応本があったため購入しておいた。
アタシは確かにガンナーとして行動しているけど、どうも本能に従ってあのオデッセイブレイドを振るうだけで簡単に人を殺せるようだ。どこを斬れば一瞬にして殺せるかがわかるらしい。
つくづくアタシという血統は性質が悪いようだ。どういう血統なのかはまだ知らないし、“もう一人のアタシ”とやらも教えてくれない。
でもただ剣を振るうより、ちゃんとした流れに沿って剣を振るったほうがマシだろうと考えた。だからこうして資料を手にし、その知識を得て鍛練を行う。
「――はっ、ふっ、……ふっ!」
小烏を振るうたびに自然に口から呼気が漏れる。オデッセイブレイドという経験があるからこそ小烏を振るう分には問題ない。あとはこれを扱う慣れと、剣術の問題。
それから時折休憩を挟みつつ、アタシは小烏を振るい続けた。
太陽がそろそろ西へと沈みかけ、夕暮れになる頃。アタシはもたれかかった木から立ち上がる。鍛練は数分前に終了し、体を休めていたところだった。
それにしても自分のことながら驚きだ。前から思っていたことだけど、体力回復の早さが以前よりも早くなっている気がする。あれだけ腕を動かして小烏を振るっていたというのに、右腕の疲れがもう和らいでいる。
これもまた血統の影響だというのだろうか。そんなことを考えてもあの声は答えることはない。あれから一度も奴は現れず、アタシはただ実力を磨き続けるだけ。
まあこれが普通なんだろう。自分の中に問いかけても答えは返ってこない。これが他の奴らの“普通”であり、答えが返ってくるアタシが“異常”。
さて、帰るか。そう考えて荷物を纏め、ローブを纏った時、何かが近づいてくる気配がした。
モンスターじゃなく人の気配。それも子供らしきものが二人こっちへと走ってくるような気配だった。
「…………?」
なんで子供がこんなところに走ってくるのだろうかと考えながらそっちに視線を向けてみる。するとアタシの目が異常な光景を捉えた。
確かに子供らしき影が二つこっちに向かって走ってきている。その背後数メートル先に数人の大人が追いかけるかのようにこっちにきているのだ。よく見ればあれはアプトルじゃないだろうか。それに騎乗して追いかけているのだ。
「…………何事?」
そんな言葉しか出ない。
なんで大人がアプトルに騎乗して子供二人を追いかけているのか。
子供はどちらもローブを纏って素顔が見えない。対する大人は姿が見えてくるとその正体が何となくわかってきた。
あれは華国の警備隊のようなものだ。国に属する兵、といった感じだろう。そんな奴らが子供を追いかける。
盗みでも働いたのか、と考えたが、ここ最近の時期のことで最も考えられる事といえば一つしかない。
あの二人は魔族だろう。
距離が縮まるにつれて二人の気質も視えるようになってきた。その色合いは人間のものじゃない。だからといって竜人族かと訊かれてもわからないし、魔族と訊かれてもわからない。
両種族ともあまり会った事がないし、しっかりとその色合いを覚えているわけでもない。以前会ったあの二人や、子供を思い出したけど、あの時はこういう目を持っていない時だったからわからない。
そんな事を考えているともうそこまでやってきている。このままでは巻き込まれるのは必至。
さてどうするか。
あまりめんどうな事には関わりたくないんだけど。
「捕まえたぞ!」
「は、はなせ!」
というか捕まってるんだけど。
するともう一人の子供が懐に手を入れながら兵達を睨むかのように身構えている。
「
「はっ、出来るわけないだろう? そら、大人しくしろ!」
さま? 様?
主従関係? 子供が?
…………どこかのいいとこの坊ちゃんか?
なんだってこんな所にいるんだ?
そんな事を考えながら成り行きを見守る形になっていると、当然のようにアタシに気づいた奴がいた。
「む? そこの者! 何をしている?」
「…………」
さて見つかってしまったわけだけど、どうしようか。
すると隊の中の一人がアタシを見て顔色を変えたような気がした。すぐに隊長らしき人物へと近づいていく。
「――――」
「……なに? それは真か?」
「……はっ。信じられないのですが」
「ふむ……。そこの者、ローブを取って素顔を見せてみろ」
素顔を見せろ? ……それは出来ない相談だな。
だがローブを取るくらいなら……まあいいか。どうせガルルガキャップで素顔は見えない。
アタシはローブのフードの部分だけ取ってやる。すると現れるのはガルルガキャップに隠されたアタシの顔。それを見たとき兵達の顔が少し驚きに彩られる。
まあわからなくもない。子供がハンター装備をしているなど思いもしなかっただろう。
「…………耳が見えないな」
そんな呟きが聞こえた気がした。耳って何だ?
「だがお前の
「はっ!」
隊長の命令に応えるように声を上げると、兵達が一斉にアタシへと向かってきた。その数だいたい十数人。アプトルに騎乗したまま一気に接近してくる。
ふむ、目撃者を抹殺するって感じじゃないな。視線を動かせば捕らえられている二人を手にしているのも二人。
「……まったく、めんどうな」
呟きながら小烏を抜く。
よもや早くも実戦で使う事になろうとは思いもしなかったけど、来るというならやるしかない。
この身を守る為、生き延びる為、アタシは再び人族の命を
日常から戦いへと意識が切り替わり、アタシの気質が変化していく。揺らぎない
「なっ、きえ……!」
驚きの声を漏らした兵の首を切り落とし、宙返りしながら倒れていく肩に手を置いてブレーキをかける。これで一人。
「な、に……!?」
「…………」
兵達の間に動揺が走るのを感じながら冷静に位置を確認。アタシの目にはあまり意思を感じられないだろうが、湧き出る異常な空気は感じられたのだろう。
「ギャ、ギャアッ!?」
「こ、こら、落ち着け!」
野生の勘か、それとも本能からの叫びか。アプトルたちが慌てたように暴れ出している。そうなれば隙だらけ。狙ってくださいと言っているようなもの。
ここから跳躍して近くの兵へと移動。同じように首を斬ることで命を狩る。二人。
そこから休みなく移動し、今度は額に刃を突き刺して殺す。三人。
「え、ええい、何をしている!? 相手は子供だぞ!」
「…………」
なにやら隊長が喚いているようだ。完全にアタシを舐めていたらしい。それを確認しつつ、横から迫ってきている兵を確認。そこで左手をローブに入れて一つの武器を手にして取り出した。そのまま振りぬいて下から斬り上げるようにして兵を斬る。
「なっ……!?」
「…………」
もう一つの剣があったとは思いもしなかったのだろうか。
まあ子供がハンターが手にする片手剣を両手に構えるなんて想像もできないのか。しかもアタシが手にしているのは片手剣でも結構重量がある代物。
右手には小烏、左手にはオデッセイブレイド。
本来二つがセットになることのないものだけど、アタシはこれを両手に握り締め、双剣のようにして構えている。
「ひ、怯むな! どうせ扱いきれるものじゃない! 我らは訓練を積んだ者。子供に負けるようなことはないはずだ!」
「応っ!」
鼓舞するような言葉に兵達は士気が上がったらしい。さっきよりも気迫というものが変わっている気がする。
一人が槍らしきものを構えて突き出してくる。リーチの問題でアタシはただ守りに回るしか出来ない。でもその動きは見えている。これくらいならすぐに対処可能。
「……っ!」
直線の動きをする槍の射線から回避し、体を捻りながら双剣と化した小烏とオデッセイブレイドを、円を描くようにして切り払う。材質の問題か、あるいは人相手に使う武器と、竜を相手にする武器とじゃ切れ味に差があるのか。
オデッセイブレイドが槍を切断し、小烏がその兵の体を切り裂いた。再度体を捻り、傍を通り過ぎつつ横っ腹と左胸を斬ることでとどめをさす。
「…………ん、よし」
結構いけるもんだな。普通は負けると思うけど、これもあの男との鍛練の成果だろうか。剣を構えなおして複数接近してきた兵を見据えると、少し足に力を入れて一気に地を蹴る。
「速い、が、これくらいならっ!」
一人は反応したらしい。手にした剣を立てて振りかぶったオデッセイブレイドを受け止めてきた。そこでもう一人の兵が隙を突くように斬りかかってくるが、小烏を構えることでそれを防ぎ、そのまま受け流すようにしてその攻撃を無効化する。そして一端距離を取り、回り込むように移動して跳躍。
当然ながらそれを防ごうと身構えるけど、アタシはそのまま斬り込まない。跳躍した高さもそれほどじゃない。すぐに着地して体を捻って二刀で両足を切り払い、バランスを崩したところでオデッセイブレイドを突き上げる。
兵の身を守る鎧は鉱石類を使用しているようだけど、それではこのオデッセイブレイドの刃を防げない。これは飛竜の鱗をも斬ってしまう程の切れ味を持つ上位の片手剣。ぬるい鉱石ではただ斬られるだけだ。そして斬るだけでなく突く力も備わっている為、最後の一突きで兵は死んだ。
残った兵も問題なく始末し、アタシは付着した血を振り払うように二刀を横に振る。そして目を細めて残りの兵を見回せば、隊長の顔色がどんどん悪くなっていくのがわかる。
「有り得ん……子供がなぜこうも……。やはりアレは……っ!」
隊長がアタシを見て何かぼやいているけど、気にしない事にする。それに子供二人を捕まえている二人が妙な動きをしている。……ふむ、気に食わないな。
そんなアタシの予想通りというべきか、あの二人の兵が腰に挿している剣を抜いて子供へと向けた。それを確認し、隊長がアタシへと叫ぶようにして声をかけてきた。
「そこの者、止まれ! これが見えんのか!?」
「…………」
「どうせ仲間を救出する為に抵抗しているのだろう? 実にいい話ではないか。だが、子供にしてはその動きは有り得る事ではないな?」
隊長がアタシへと気に食わない笑みを浮かべてくる。周りを見ればアプトルから下りた兵達がじりじりと近づき、包囲網を狭めてきていた。
「さすがは化け物だ。人間の皮をかぶった化け物、それが貴様らよ。そうだろう? 子供だというのに躊躇いなく人を殺し、そうやって無表情に佇んでいられるのだからな。それが異常でなくてなんだというのか。それが人間でなくてなんだというのか」
「…………」
「貴様は……化け物だということだ!」
「…………だから?」
異常だってのはとっくに知っている。今更他人に言われたからといってどうということはない。アタシの心は揺れる事はない。
「……アタシはアタシのやりたいようにやるだけ」
そう言い放ちオデッセイブレイドと小烏をローブに戻す。何をするかと警戒した奴と、好機だとアタシに向かってくる奴にわかれてしまった。
だがアタシは動じずにローブに手を入れてジェイドストームを取り出した。弾は既に装填してある。狙うのはただ一つ。
銃口を隊長に向けると当然のように兵の何人かが隊長を守るように動き出した。隊長自身も身を守るかのような動きをしはじめたが、残念ながらアタシが狙っているのはそんなもんじゃない。
「…………」
移動しながらすぐに銃口の向いている先を変えてやる。
「なっ!?」
向いた先は子供二人を捕まえている奴。引き金を引いてすぐにもう一人へと照準を合わせて引き金を引く。狙い通りに装填されていた貫通弾が兵の頭を貫き、二人を死へと追いやる。
「えっ……」
「……?」
解放された二人は気の抜けたような声を漏らす中、隊長は何が起こったのはようやく頭が追いついてきたらしい。
「くそっ、嵌めおったな!?」
いい大人がこんな子供だましにひっかかるのもどうかと思うんだけど、まあこれはこれでいいとしよう。弾を散弾に変えて装填し、解放された子供二人へと駆け寄りつつジェイドストームを後ろへと向ける。
どうせ牽制だ。当たろうが当たるまいが関係無しに引き金を引いてやる。
「おのれ、貴様ぁ……!」
いらだちも限界なのか、腰に挿している剣を抜き放つ。
「…………」
無言で貫通弾を装填して銃口を向けてやれば、隊長もどうなるかはわかってるんだろう。しかも人質はアタシの後ろにいる。
そして子供二人はアタシの後ろに回って隠れるかのようにしている。それはそれでいい。邪魔にならないようにしてくれればいいのだから。
「ちっ、おい、お前達! 何人か支部へ向かい、連絡を入れてこい!」
「はっ!」
それはそれでおいしくないな。狙いを走り去ろうとしている奴に向けて引き金を引くと、動いているにも関わらず狙い通りに額を撃ち抜かれて死亡した。だがそれが隊長にとっての好機となる。
銃口が自分に向いていなければ恐れるに足らない。このまま近づいてアタシを斬ればいいのだから。
「死ねぃ、化け物おおぉぉぉぉ!!」
「…………」
ぬるいな。
モンスター、飛竜に比べれば人族の何という弱さ。
兵だの隊長だの、そんな肩書きなんて関係ない。重要なのはその実力、秘めた力。
ああ、弱い、遅い。
ジェイドストームを離し、小烏をローブから抜く余裕さえある。
つまりどういうことかというと――
「……死ね、ザコが」
――奴が剣を振り下ろすよりも早く、跳躍したアタシの小烏が奴の体を斬ったのが早かった。
「が、は……」
「…………ふん」
アプトルから落ちたそいつはまだ息があるようだ。苦しそうな表情をしながらアタシを見上げているそいつを、アタシは何の躊躇いもなく、容赦もなく頭へと小烏を振り下ろした。
それがとどめとなり、隊長は死亡する事となる。
「隊長が、やられた……」
「なんなんだ、あいつは……!?」
「…………」
そういえばまだいたな。生かしておくのもめんどうか。
殺しておくか。
そう考えた時、視界が少し赤く染まった気がした。
――だったらアタシがやろう。
久しぶりに響いたあの声が聞こえたとき、またしても意識が切り替わってしまった。
――さて、久しぶりな表の世界なわけだけど。
――奴らを
なにやら嬉々とした様子だけど、やっぱりこいつは殺しを好んでいるのだろうか?
ローブの中に右手を入れて閃光玉を取り出したけど、これは相手がモンスターだからこそ効果があるんじゃないのだろうか。人相手だとこれが何かわかっているから目を閉じられて終わりだ。
――そんなことはわかっているさ。
――だからこうしてやる。
冷笑を浮かべつつ左手を前に出すと、おもむろに指を鳴らした。すると兵達が集まっている所が小さく発火し、一瞬後に爆発が起こる。
「ぎゃあああ!?」
「ぐあぁっ!?」
「…………なに?」
今、こいつは何をした?
指を鳴らして一点を爆発させた?
まさかそれは火属性魔法だというのか?
「おい」
混乱している兵達に何気なく呼びかける“もう一人のアタシ”。その呼びかけは本当に何気ないもので、恐れを抱いたかのような表情を浮かべて兵達はアタシの方を向いた。
向いてしまった。
彼らの視界には宙に舞う一つの玉がある。
気づいた時にはもう遅い。それは強い光を放ち、辺りを包み込んでしまった。
ちなみに後ろにいる子供二人は、気を利かせたのかローブを広げて視界を隠してしまっている。
何にせよ兵達は目を潰された事でその場から動けずにいる。明らかに隙だらけなその様子を見て、またもや冷笑を浮かべている。
――それじゃ、皆殺しにしてきますか。
その言葉通り、数分後には辺りに無残に転がる兵達の死体が現れる事になってしまった。生き延びた兵は誰もおらず、あの二人を追っていた者たちは文字通り皆殺しにされる事となった。
さて、どうしたものか。
こうして降りかかる火の粉を払ったはいいけど、死体がこうして残るというのは望ましくはない。人里から離れているとはいえ、ここもまだ完全な自然に属する世界というわけでもない。モンスターがやってくる時期もわからないから死体処理が確実というわけでもない。
そしてもう一つの問題はというとこの二人。
状況的には救出してしまったということになったわけだけど、同時に殺人現場に居合わせてしまったという事にもなる。それはそれでめんどうだ。
「あの……」
「……ん?」
「たすけてくれて、ありがとうございます」
「…………」
そう言って顔を隠しているフードを取り、丁寧な仕草で頭を下げてくる。
黒い髪に青い目をしたあどけなさが残る子供の顔は、本当にこいつが幼い子供だっていうことがわかる。
そして特徴的なその耳は獣のような形をしている。簡単に言えば猫的なものだろうか。少し斜め上に伸び、先端が尖った形をしている。竜人族と比べれば少し太く、ちょっと長いくらいか。
「
「……気にするな」
同じようにしてフードを取って頭を下げてきた小娘に対し、アタシは素っ気無く答える。
そいつの髪もまた黒髪で、腰くらいまであるかという長髪だった。少し見えた垂れ目な瞳の色は深い緑色だったか。
そして耳の形は隣にいる小僧と同じ。髪の色も同じという事はやはり同じ一族の魔族と見ていいだろう。そしてさっきの呼び方からして、小僧は一族の族長の息子で、小娘はそれに仕える者って感じか?
それにしても、この場はかなり血にまみれているというのに二人は臆した様子がない。慣れているんだろうか。
そんな事を考えていると小僧の方がじっとアタシを見上げている事に気づいた。
「……おねえさん、ハンターなのでしょうか?」
「…………ああ、そうだ」
「そう、ですか。やっぱりハンターって凄いんですね……」
「海さま。またそんなことを言ってるんですか? 空たちはそんな肩書きなんていらないんですよ?」
「それはわかってるんだけど、ね……」
ふむ、曰くつきか? だとしてもアタシには関係ないからどうでもいいことだ。
さてこいつらをどうするか?
殺すならこのまま小烏で首を斬るか、心臓一突きで終わりだ。こんな事を冷静に考えているあたりアタシは終わってる。本能が殺意だっていうのは本当だと実感するひと時。だからといって動じる事はない。もう慣れてきてしまっているのだから。
「…………」
軽く握り締めている小烏をぶらぶらと弄りながら考えていると、背後から誰かが近づくような気がした。一体誰だと軽く振り返れば、岩肌から姿を現したのはアタシにとって驚くべき人物だった。
「……ふむ、血の匂いと死体を感じてやってきてみれば、まさかお前だったとはな」
「……お前……」
「久しいな、小娘」
そこにいたのはあの時と変わらず赤いローブを身に纏い、仮面をつけているあの男だった。