呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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二十四話

 

 

 新年を迎えて数日後、アタシはようやくここに訪れることになった。

 大陸一の街と呼ばれ、なおかつハンターズギルドの総本山とも呼ばれる街。

 

 ドンドルマ。

 

 ここには恐らく千は下らないだろう数のハンターが集い、日夜多くのクエストが届けられ、消化されていく。

 一般人の数も馬鹿にならず、恐らくは万は下らないだろう。流石は中央と呼ばれる地域の更に中心部にあり、同時にハンターズギルドの総本山。だからこそ人が集まり、それが街を栄えさせる要因の一つになる。

 そして南にある港からは西方や東方への船も動いているため、貿易も盛んだ。世界中の物が届けられて市に並び、そこから更に中央各地へと届けられる。あるいは行商人によって辺境の村にまで移動する事もある。

 最後に大老殿があるということも大きな要因だろう。ここが総本山ということはここに多くのギルドナイトが存在しているという事。各地の被害を受けて彼らは出動していくという話らしいが、同時に違反を犯した罪人やハンターの処刑も行うとのこと。

 そしてここにやってきたハンター達によって道具や素材がやりとりされ、ギルドだけでなく市でも金が動き、そうやって街は栄えていく。

 

「……さて」

 

 まず向かう先はギルド本部。ここで登録しないとクエストを受けようにも受けられないし、宿もハンター割引が出来ない。他にもハンターに対するサービスがあるという話だから、まずは登録することが必須。

 ギルド本部に入り、真っ直ぐに受付に向かうと受付嬢らしい女が笑顔を浮かべて話しかけてくる。

 

「いらっしゃいませ。ハンターズギルドへようこそ!」

 

 金色の長髪に赤い目をした女だった。まだ10代だろうと思われるが、こういう女もここで働けるらしい。いや、若いからこそ受付嬢に相応しかったりするんだろうな。

 アタシはただ一言用件を告げる。

 

「……登録を」

「はい、かしこまりました。ではこちらに必要事項を記入してくださいね」

 

 差し出された書類に書くべき事を書いていくと、受付嬢がチェックを済ませてそれは受理される事となった。

 

「はい、これで大丈夫です。サービスは今日から受けられますが、クエストを受けられるのは明日からになりますのでご了承くださいね」

 

 なるほど、ここには他の村や町とは違ってハンターの数が馬鹿みたいに多い。だからこそ受理が完全に済ませられるまで時間がかかるという事なんだろう。

 まあ別に構わない。ここまでの旅の疲れのこともあるし、そういうのは気にしない。

 じゃあ早速宿の確保に向かおうと考えていると、アタシの記入した書類を眺めていた受付嬢が「……ふむ」と小さく呟いた気がした。

 

「もしかして、あなたが噂の『孤高の銃姫』さん?」

「…………」

 

 その通り名を呼ばれてアタシは立ち止まり、肩越しにその受付嬢へと振り返った。

 その反応でわかったんだろう。受付嬢は少しだけ驚いたような表情を浮かべ、また微笑を浮かべて小さく小首をかしげる。

 

「あ、図星でしたか? こうして会えるとは光栄です。……あ、私はセレナと申します。以後よろしくお願いしますね」

 

 なるほど、流石はハンターズギルドの総本山。ハンターの通り名や情報は自然と集まってくるらしい。東方で伝わっていたはずのアタシの情報もやってくるとは、少しだけ驚きだ。……あるいはこの数ヶ月でのハンター業で伝わったのかもしれない。

 何にせよハンターに関する情報は早竜や気球によってここに運ばれている、というのは容易に推測できる。

 

「ふふ」

「…………」

 

 何にせよあの笑顔を前にするのはアタシ的にはきついものがある。正直居辛い。

 だからこそアタシは無言を貫き通すしかなかった。

 

 そしてハンターズギルド本部を出る際、どこかで誰かがアタシをずっと見ているかのような気がした。

 しかし肩越しにその視線を探ろうとしたものの、人が多い関係でその主を見つけ出す事は出来なかった。

 

 

 宿を確保すると、次に向かったのは図書館だ。

 このドンドルマにはギルドにハンターの情報が集まるけど、同時に各地の情報やモンスターの情報、そして事件の詳細なども集まってくる。アタシが持っているモンスター図鑑は数年前のもの。つまり更新された分の情報をアタシは知らない。

 モンスターに関する情報は年々変化していくらしい。新たな生態や情報に加え、新種や亜種の存在が確認されたりするという話だ。だからこそ出来るハンター達は常に新しい情報を確認する。

 そしてアタシもまた生き残るために情報を必要としている。だからこうして図書館へと足を運び、その目で本を漁って情報を得る。

 このドンドルマの図書館の規模は馬鹿みたいに大きい。街の規模に合わせたかのように建物は広く、そして使われている素材もなかなかのものらしい。聞けば純粋な強度を得るために砦蟹シェンガオレンの甲殻を、書物が燃えないようにするための耐火素材に雄火竜リオレウスや炎王龍テオ・テスカトルの甲殻を使っているとか。

 それだけの守りをしているだけあって、納められている書物も他の街にないようなものまであるとか。例を挙げれば重要な歴史書や貴重な魔法書もあるらしい。

 歴史書はともかく魔法書まであるとは驚きだ。獅鬼に聞いた話では魔法書は一般で知られるような魔法を記された本はそれなりに出回っているが、上級魔法や禁忌の魔法などの書物は数が少ないという話らしい。

 それについては何となくわかるが、付け足して口にしたのはこうだ。例え入手できたとしても理解できなければただのゴミであり、つまりは宝の持ち腐れということ。例えば空間魔法の書物が手元にあったとして、これは本当に理解するには苦労するものであり、だからこそ使い手が少ない。自分もその一人に名を連ねようと手に入れたはいいが、結局理解できなかったためにまた別の人物の手に渡った事例もあるらしい。

 そしてここにはそんな魔法書の原典や写本が並んでいるとのこと。

 魔法書について有名な人物として獅鬼が名を挙げたのがルナ・フォックスという人物。こいつは遠い昔に存在した魔法使いであり、様々な魔法を行使しただけでなく、その知識を本にした人物として有名らしい。

 しかし人物像としては不明な点が多いとのこと。こいつが残した魔法書が後の魔法学に大きな影響を与えたらしく、現在知られている魔法の基礎はこのルナ・フォックスが残した魔法書によって確立されたものが大半だ、というのが魔法学の通説となっている。

 とはいえアタシが見たいのは魔法書じゃない。モンスターの情報が載っているモンスター図鑑などが見たいのだ。

 案内板に従って本棚を移動していき、ようやくモンスターに関する書物が並ぶ本棚へと辿り着いた。ざっと本棚に視線を巡らせて最新版の図鑑を探し出し、いくつかの書物とともに一つの席に移動する。

 まずは図鑑。分厚い本を開いてすぐに目を通す事にする。

 

「…………ふむ」

 

 目次を確認するといくつかの新種が発見されているらしかった。

 ドンドルマの南東の奥や、ゴル砂漠の岩山地帯を超えた先にある峡谷の調査が進むにつれて、生態系も明らかになってきたらしい。そこに存在するモンスターは峡谷という苛酷な環境に適応し、他の地域と比べて強さが比じゃない程だとか。

 そして発見されたのは二種類の竜種。

 呑竜パリアプリア。分類は飛竜種。魚竜に近しい顔つきやぬめった表皮、独特の尻尾をしている。常に空腹であり、呑み込むように物を食べるところから呑竜と呼ばれる。

 肉を好むため罠肉設置が効果的かと思われたが、その毒は受け付けず平気な顔で行動を続けていた。だが常に涎らしき液体を口から撒き散らしており、罠肉を口にした際に怒るか色が変化したため、何かの関係があると思われる。

 そんなパリアプリアだが、その素材にあまり価値はない。武具には使えるが、単体の売値も低いと判断された。

 しかしパリアプリアを解体した際、その胃袋の中にあらゆる素材が呑み込まれていることが判明。またそれらを吐き出させる事も可能ではないかという推測もなされ、恐らくこの個体の狩猟目的はこれにあるだろうという見解がなされる。

 が、ただ討伐しただけでは奴の胃液によって奴自身の体が溶けてしまう。胃袋の中身を改めたければ吐き出させるのが一番だとか。

 次は舞雷竜ベルキュロス。飛行能力が特化しており、低空飛行やホバリングを可能とする飛竜種。帯電能力が備わった翼からは尾のように伸びた触手が伸び、先端が尖っているために攻撃やアンカーのような役割を果たしている。

 またこのベルキュロスは知能が発達していると考えられ、その行動や攻撃手段が個体ごとに変化しているという推測がなされているが、峡谷という苛酷な環境に加え、ベルキュロス自身も強力な飛竜のために調査は難航している。

 更にその帯電能力もフルフルとはまた違った方法によるものと考えられているが、これも調査が進んでいない。謎が多い飛竜である。

 

「……峡谷、ねえ」

 

 別の書物に記されていた説明によれば、峡谷とは地殻変動によって隆起した大地が長い年月をかけて風雨や河川に浸食されたフィールドであり、独特の地形を生み出した世界である。

 谷間を吹きすさぶ風には時折強風も混ざり、地形の関係もあって崖が多いのも特徴らしい。そして洞窟も存在し、そこでは他では見られない鉱石が存在する可能性があるという。

 モンスターを強固にさせる環境が取り巻く峡谷は、人族にとっては猛威を振るう自然の牙となる。その二つの要因があるからこそ調査は難航し、まだまだ解明されていない謎がそこにある。

 そして当然ながら峡谷のクエストも出回り始めているが、その難易度により受けられるのは上位ハンターからとされている。つまりまだ下位であるアタシは峡谷のクエストを受けられないという事になる。

 まあ別に構わない。こうして見た限りではアタシにはまだ無理だろうという予感がする。少し前の雪山での戦いでも下手をすれば負傷していた可能性もあるのだから。だから無謀な戦いは挑まない。もう少し修行してから臨む事にするさ。

 あと発見された新種として牙獣種のオルガロン。通称響狼。見た目としては大きな狼、といったところか。

 また火竜と同じく雌雄で姿が異なり、雄は銀の混ざった漆黒の毛並みと額にある角飾り、そして長い牙を持つ。付けられた名はカム・オルガロン。

 雌は純白の毛並みと背中の赤いたてがみ、雄より短い牙が特徴で、付けられた名はノノ・オルガロン。

 雌雄一対で行動する習性をもち、遠大な狩猟ルートを周回しているといわれている。その存在は昔から確認されていたようだが、その習性によって調査が難航していたらしい。だが近年沼地でその姿を捉え、ようやく調査が進んだ事でこうして図鑑に載る事が出来たという。

 発せられる咆哮には周辺に棲む生物に甚大な影響を及ぼすと考えられ、これが響狼と呼ばれる由縁とされる。

 以上が新たに発見、調査が進んだモンスターの情報。

 別の書物にはこれらのモンスターから取れる素材や、それを用いて開発可能とされた武器や防具のリストが掲載されていた。

 

「……ん?」

 

 オルガロンから作られる防具、神楽シリーズをどこかで見たような気がした。でもこれは1、2年前に完成されてリストに載ったもの。しかもこの大陸を周回ルートとしているオルガロンが東方に現れたという報告はないという。時期的にアタシはロックラックにいたはずだ。どこかで見たことがある、なんてことはあるはずがない。

 でもアタシはこれをどこかで見たことがある。しかもかなり前に。

 

「…………ああ、あの時だ」

 

 いつか華国にいた時の事、アタシに話かけてきた物好きな女がいたかと思う。そいつが身につけていた装備がこの神楽シリーズだったような気がする。

 でもそんな事はありえないはず。

 理由は明確。時期が合わない。

 だがアタシの記憶が正しければあれは間違いなくこの神楽シリーズ。

 

「…………いったいどういうこと?」

 

 大きな疑問が浮かんだけど、それはもうずいぶんと過去の話。それも華国での出来事。

 たぶん二度と会うことはない。だからもう気にする必要はないだろう。

 きっとあれだ。存在だけは確認されていたから、裏で狩猟して作ったものに違いない。

 

 ――で、あいつの名前はなんていったっけ?

 

 

 ○

 

 

 ほう? あの小娘がドンドルマに来たのか。

 なるほど、あの時の小娘がようやく、か。あの女の(げん)は正しかったという事か。

 くっくっく……あそこでシュヴァルツの血統を持つ者に会うだけでなく、刺激を与えて覚醒を促したはいいが、本当にこのドンドルマにやってこようとは。

 

「……流石は稀代の魔女、というわけか。恐るべき女よ」

 

 この我が唯一認めた女。感嘆せざるを得なかった女。

 そして――我の目的を達成させる域を見出すきっかけになった女。

 いったいどこまで見えているのか。いや、見えていた、だな。

 あの女は死んだ。所詮は人間だったということだ。実に才能溢れる魔女であり、人間にしてはよく出来た女だった。

 全てを語る前に奴は死んだ。

 しかし事態はあの女の言の通りに進んでいる。このままいけば我の願いは叶うだろう。

 種は既にばら撒かれつつある。後は朝陽が上手く立ち回ってくれるだろう。

 だがまだまだ研磨が必要だろう。狂化竜はまだまだ高める事が出来よう。

 その果てには……くく、我はようやく越える事が出来る。

 

「くく、実に楽しみな事だな……くっくっく……!」

 

 

 ○

 

 

 何はともあれこれで全ての駒が揃ったということになる。

 盤上に並んだ駒はそれぞれの位置に待機。残りの三年を思うがままに過ごすであろう。

 あの者も先が見えてきたことだろうて。これによって運命が変わることは……くく、ないだろうな。

 どうせいつかは起こること。どの世界でもこの事象は絶対に起こるのだから。

 大事な事はこの事象の先に起こること。そしてその果てにあること。

 単純に考えればその要因に関わること全てを排除すればいいのだが、そうするのもつまらない。だからこそ此方は、菜乃葉は傍観者としてこの世界を眺め続けている。

 しかし此方はそれだけでは面白くないという事で、こうして駒になりきっているわけなのだが、くっふふふ……。

 

「それにしても随分と成長したものよな」

 

 黒崎優羅。シュヴァルツの血を持ちながらも人間と混ざり、そして人間として代を重ねた黒崎家の娘。その根源にはシュヴァルツの血が眠っていたが、それを開花させる前に抑えこみ、ただのハンターとして生涯を終えてきた者達。

 それがあの一件で優羅の中で目覚めの時を迎える。そこからが運命の分岐点。

 殺人鬼として堕ちていくか、それを制御しつつも成長していくか、あるいは殺人鬼としての本能が爆発して身の破滅へと向かうか。

 

「……だが幾つかの結末は消えた。菜乃葉の望む展開にはなっているのだろうな、ふっくっく……」

 

 他人に興味を示さない菜乃葉が唯一興味を示す小娘。あ奴の事情を知ればなるほど、納得は出来ようが、感情が磨耗している今の菜乃葉が今更あの小娘に興味を示すというのも面白い事よな。

 ……とはいえ此方も人の事は言えぬか。

 ……ああ、そういえば三年というともうすぐアレが奴に救出される頃合か? どれ、ちと覗いてみる事にしようか。

 

 ――――

 

 ――

 

 なるほど、変化はなかったか。となると、ふむ。アレもそのまま真っ当に育つという事か。……まあ、それでいい。そうなれば上手く駒として立ち回ってくれよう。

 

「……やれやれ、此方もまだ甘いところが残っていたか」

 

 此方の場合もまた今更。長い時を生き続けた此方が、どうして今更あのような者に対して気を向けなければならぬのか。

 それはやはり菜乃葉が一つの世界に留まり、幾多の平行世界を眺め続けている事を知ったからであろうな。様々な世界を渡り歩いたあの菜乃葉が、どうして今更故郷の世界に舞い戻り、過去へと遡り始めたのか。

 その理由を知ったときはそれもう衝撃といえよう。あの菜乃葉がそのような事を考えようとは、今の菜乃葉を知るものならば誰もが考える事はないであろうて。

 そして立ちはだかる最大の敵は恐らく白皇(はくおう)夢幻(むげん)は……まだ許容するだろうが、白皇ならばその方法次第で菜乃葉の邪魔をするだろう。

 

「だが、それもまた良い退屈しのぎにはなるだろうて。だからこそ此方もそれに付き合おう」

 

 ヒトの幻想は奇跡となって叶うのか。あるいは世界の運命を前にして屈するのか。

 あるいはヒトの願いが集まり、運命となって立ちはだかるのか。

 それをただ観劇するのは此方の性に合わぬ。

 故に此方もまた役者となろう。

 血で血を洗い、狩り狩られる世界で織り成す物語。

 願いを叶えようとする者達とその願いを砕こうとする者達。

 今はまだそういう未来に巻き込まれる事を知らぬ者達。……そう、優羅もまたその一人。

 知らず知らずその道へと足を踏み入れている――否、全てはあの日から始まったと言えよう。シュヴァルツの覚醒への道だけではなく、この物語に関わる道の始まりでもある。

 そしてそれはアレもまた同じ事。奴に拾われたならば自然とその道に足を乗せる事になる。……他にもまた道はあったが、これが一番アレにとって自然な流れとなるのは……ふん、奇妙な運命よな。

 だが奇妙で結構。所詮出生の時より数奇なる生涯を歩む事はもはや運命といえよう。

 

「――そう、此方のようにな」

 

 くく、此方の場合はある意味最悪と言えようがな、くっふふふ……。

 

「さて、と」

 

 ドンドルマへと飛ばしていた意識の欠片を呼び戻し、此方は椅子から立ち上がる。休憩時間はこれで終了。部屋を出て仕事場へと戻れば交代する相手が此方に気づいた。

 

「あ、じゃあよろしくね」

「うん、お疲れさま」

 

 入れ替わるようにして席につくと、早速数人のハンターがやってくる。

 これがこの世界での此方の演じる役者。数年も続ければ慣れてくるものだが、やれやれ、どうにもこれは此方には合わぬな。だがやりきらねばならないだろうて。

 今まで様々な人物に成り代わり、様々な人物を演じてきたのだ。これが出来なくて愚痴るなど此方のプライドが許さぬ。

 だから今日もまた演じよう。

 笑顔を見せていつものように挨拶を口にする。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 残りは三年。

 さて、一体どうなることやら。

 

 

 ○

 

 

 流石はドンドルマというだけはある。数多くのハンターがここに集まり、己を高めるために数々のクエストをこなす街。クエストボードに並ぶ依頼書を眺めれば実に様々なものがあることがわかる。

 下位のものをざっと見ればハンターランクにあわせて分類されており、1から10、11から20、21から30という具合に三つのボードに分かれている。

 そして31からが上位とされており、その上位のクエストはまた別のクエストボードに張られている。

 今のアタシのランクは25。今年15歳になることを考えれば結構高いほうだろう。とはいえアタシは滞在型じゃないから、もしかすると今の世の中だと14、5歳で25というのは少し遅れてきているのかもしれない。

 それに25とはいえどもこのランクで戦える角竜ディアブロスや鎧竜グラビモスという大型とまだ戦闘経験はない。ああ、あとは轟竜ティガレックスも一応戦えるんだったか。

 中型は戦えるけど大型を相手にするには武器と経験がまだ甘いと自覚している。死にたいならこれらのクエストを受けて特攻すればいい。でも死にたくないからアタシはまだ受けない。

 そしてグレネードボウガンもいいけど、そろそろ速射機能を搭載したライトボウガンが欲しいところだ。技術が進歩していくにつれ、ライトボウガンには速射機能に対応したライトボウガンが増えてきた。

 火力が足りないライトボウガンにとって、この速射機能は火力を底上げするにはいいものとなる。でもやはり数が少なく、そして作ろうと思えばその素材となるモンスターを討伐しなければならない。そしてそのモンスターがまたレベルがなかなかのものばかり。

 頭の中に記憶している速射機能を搭載したライトボウガンを並べていき、撃てる弾などを考慮する。そして目の前に並んでいるクエストをざっと眺めていき、アタシはしばらく思考を続ける。

 恐らく数分はそうやっていたんだろう。

 倒せるか否か。これから使っていけるか否か。アタシに合っているか否か。

 これらを繰り返し、アタシはそのライトボウガンに決定した。あとはそれを作るための素材を入手するため、その飛竜を倒すわけだが、今のアタシには無理だろう。

 まずはその原種である二種類の飛竜に慣れていくことから始めよう。

 

「……よし、行くか」

 

 手にしたクエストは「雌火竜リオレイア討伐」。何度か他の村や町でも戦った事はあるが、果たしてドンドルマで処理されているクエストでのリオレイアはどんなものだろうか。

 これを倒せなければ亜種である桜火竜リオハートは倒せないだろう。だからこそこいつで力試し。依頼書を受付に持って行き、そして受理。

 さて、宿に戻っていったん準備してくるか。

 アタシは本部を出て宿泊している宿へと向かう事にした。

 

 数分後に準備を終えて宿を出たアタシはこの街の早竜小屋へと向かっていた。その際食事をするための店が並ぶ通りを歩いていると、所々に張り紙がある事に気づく。チラッと流し目でそれを見るとこう書いてあった。

 

 「アリーナにてコンサートを開催! 日程は○月×日~△日。20時より開演!」

 

 アリーナとはこの街の大広場から数分かけて歩いた場所にある建物の事で、ここでは様々な催しが行われていると聞いた。出演するのは結構有名な歌姫らしく、数日かけてコンサートが行われるらしい。

 でもどうでもいい。歌なんてものには興味がないし、気を惹かれることもないだろう。

 しかし周りの様子を見れば誰もがコンサートの事について話をしている奴ばかり。やはり出演している歌姫効果なのだろう。話題となるには充分な実力があるらしい。

 そんな事を考えていると、少し先にある店から叫び声が聞こえてきた。

 

「うおおぉぉぉぉおおおお!?」

「悪魔だ!! 『紅い悪魔』がいるぞ!!!」

「逃げろおおおぉぉ!!」

「…………は?」

 

 一体何事だとそっちに視線を向ければ、酒場から数人の男が逃げ出してくるところだった。店は騒然となっているらしく、物音が相次いで聞こえてくる。

 そして今度は女の叫び声が聞こえてきた。

 

「だぁぁぁれが『紅い悪魔』だごるぁぁああああ!?」

 

 本当に何事だとアタシはその酒場を見つめてみる。

 すると少しして窓を突き破って飛んできたのは木製の椅子や丸テーブル。あるいは酒だったり、皿だったりコップだったり。そして別の窓からは人だったり。

 

「うわぁっ!?」

 

 何の関係もない一般人たちへと飛んでくるそれらは、当然ながら歩いているアタシにも飛んでくる。

 

「……ふっ」

 

 だがそれを身を翻しつつ跳躍し、逆に店に戻すようにして蹴り飛ばしてやる。こんな道端に散らかすのもめんどうなことだろう。だからこそ返してやらないと。

 しかしまぁ真昼間から近所迷惑というものだな。こんな時間から酔っ払うとは、どうにも酒に弱い奴がいるらしい。それにキレていたのは声からして若い女と考えられる。詳細はわからないけどあれだけの暴れっぷりを見せ付けるとは、酔うと相当性質が悪い女だろうな。

 もし同伴者がいるならば、さぞかしめんどうで辛い思いをしているだろうさ。同情はしないが、一応合掌しておくとしよう。

 軽くローブをはたいてアタシはまた歩きだし、足早に早竜小屋へと向かう事にした。

 

 そしてアタシはリオレイアを討伐し、出発してから一週間後にドンドルマへと戻ってきた。

 その日は奇しくもあのコンサート最終日だった。

 

 

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