呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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二十六話

 

 

「……さて」

 

 エリア4へとやってきたアタシは岩陰に身を潜めて目標を見据える。左腕の裏に装着しているチップから弾を取り出し、手にしているグレネードボウガンへと装填。

 後は……そうだな。懐に幾つかの投げナイフを仕込んでおくとしよう。

 これで準備は完了。

 

「……さあ、始めるか」

 

 こいつを狩って素材が揃えばいよいよ目標としている蒼桜の対弩が作れる。

 そう、今回の目標は蒼い空の王。

 

 蒼火竜リオソウル。

 

 奴は今、巣であるエリア5へと向かうための高台の近くでリラックスしている状態。亜種と化したことで、奴は原種であるリオレウスよりも飛ぶことが多くなっている。ならばまずはその翼をもがせてもらうとしよう。

 その前に緊急事態用としてペイント弾を撃ち込むことにしよう。そっと岩陰から狙いを定め、その首へと発砲。着弾した刺激にリオソウルが反応したようだが、辺りをキョロキョロするだけでアタシには気づいていないらしい。

 それもそうだ。そこから移動しつつ次の弾を装填しながらその後ろ側へと回り込んでいたのだから。

 

「……ふっ!」

 

 跳躍してその翼膜が見えたときに引き金を引く。弾は狙い通りに翼膜へと着弾し、四回爆発を起こした。

 

「ゴァアアアアア!?」

 

 突然左翼に発生した爆発にリオソウルが驚いている。その隙に着地すると同時に次の弾を装填。振り返ったその頭から貫くように貫通弾Lv2を二発射出。

 しかし微かに反応したらしく頬を掠めていっただけだった。でもその後ろにあった翼に着弾したので良しとする。

 だが完全にリオソウルに戦意を持たせ、戦闘体勢に入られてしまった。

 

「グァァアアアアアア!!」

 

 始まりを告げる咆哮を上げ、リオソウルが手始めとして低空飛行を開始する。そのままアタシに圧し掛かるかのように滑空を行うが、それを読んでいたアタシはすぐに横に疾走する。

 その際にポーチから打ち上げタル爆弾を取り出し、小さな火を発生させて点火させる。

 リオソウルの飛行ルートを目算してタル爆弾を発射させれば、アタシを狙って滑空しているリオソウルの左翼へと命中して爆発した。だがそれは小タル爆弾と同じような爆発力しかない。それだけでは火竜であるリオソウルに大したダメージにはならなかったが、多少の飛行力を削ぐ事ができた。

 それを確認しつつ疾走から跳躍。足元を爆発させて空中転進してグレネードボウガンをリオソウルへと向ける。銃口から散弾Lv2を射出する事で、頭上より左翼へと弾の雨を浴びせかけてやる。

 こんな動きが使えるのも獅鬼の仕込みと手本があったからだろう。空の王の翼をもぐには素早く翼に多くのダメージを与えてやる事。前から、後ろからだけではなく、上からもやることで翼膜へとダメージを与えてやる。

 アタシにはそれを可能とするための身体能力と空中移動法を持つ。

 これもまた修行による積み重ねの結果。

 

 アタシは一人。

 常に一人で行動するからこそ技術を追い求めた。

 組むならばあの二人。それ以外はいらない。

 

 あの二人がハンターをやっているとは限らないけど、アタシと同じで生きるための力と金を欲していたのならば、ハンターをやるのが近道だろう。

 だからたぶん、あの二人もハンターをやっているはず。

 そしてそこに混ざるためにもアタシは力を求めてやる。二人の足を引っ張りたくはないから。

 

 それまでは一人。誰とも組む気などない。

 

 その為の技術、力。これらの集大成を以ってしてリオソウルを狩る。

 

 膝を曲げて着地すると同時にチップから次の弾を取り出して装填。この間、実に一、二秒。それだけの時間で充分だ。

 どれだけ傷ついた?

 それを見据えるために顔を上げてリオソウルを見る。

 ……なるほど、最初の拡散弾の爆発である程度傷ついた翼膜が散弾によって破られてきているらしい。翼膜に通っていた毛細血管から血が所々流れ落ちている。

 

「グルル……!」

 

 それでも奴は空を飛べる。この程度の痛みなど慣れてしまっているという事だろうか。

 あるいは飛竜としての強い生命力によってもたらされる再生能力で、少しずつ翼膜が修復されているということもあるのかもしれない。

 いや、それ以上に強いのが飛竜としてのプライドか。

 こんな小さな相手に屈する事など出来ないというプライドがリオソウルを動かし、飛翔させる。伊達に「空の王」などと呼ばれているわけではないらしい。

 一定の高さまで飛ぶとそのまま停滞し、空から火球を降らせてきた。これがレウス系を相手にする時にやっかいなこと。その高い飛行能力を生かして空からの攻撃を多用する事で知られる。

 当然ながら飛行している間は剣士タイプはまったく攻撃できない。しかし気刃という技術があれば攻撃できるかもしれないが、それが出来なければただ逃げる事しかできない。

 そしてアタシは剣も扱えるけど、本職はガンナー。

 しかしあそこまで高さがあると少し調整しないと届かないし、威力もあまり発揮しないだろう。となると……アレを使うか。

 視界の端に映ったのは最初に隠れた岩――というより横に広がっている岩の高台。その確認をしている隙をついてリオソウルが火球を更に降らせてくるが、そういう事は想定済み。既に走り出したアタシの背後に次々と火球が着弾し、石つぶてと砂煙が巻き上げられる。

 背後から感じる火球の爆発によっておきた熱気を感じながら岩へと疾走し、その勢いを乗せて跳躍する。もちろんそれだけでも高さが足りないから足元を爆発させて推進力を上げ、岩の上へと着地した。

 

「グルルル、グァアッ!!」

「……ふっ!」

 

 ここに立てば当然ながら火球を撃たれれば逃げ場がほとんどない。それを承知の上で乗っている。

 すぐにリオソウルが火球を撃とうとしたが、その口元へと粒子を集めて爆発させた。その爆発に反応し、撃とうとした火球もまた連鎖して爆発を起こした。

 

「グルォッ!?」

 

 それによってリオソウルが怯んでしまい、それがアタシにとっての好機となる。羽ばたいている翼はリオソウルのその体勢によって見えている状態になっている。つまり翼膜へと攻撃できるという事。

 普通は高さの関係で届かない。でも今ならば届く。

 片膝を付いて体を支え、装填した通常弾Lv2を連続して撃ち出しつづけてやる。右手は引き金を引くことと、チップから弾を取り出して装填するという作業を素早く行い続ける。これだけの速さで連射させるには相当の腕の力を必要とし、同時に苦痛を味わう事になるが、慣れた今となってはあまり苦痛にならない。

 スキルの自動装填があればチップ自体を弾として装填させることを可能とし、この一連の流れを全部省く事が出来るけど、それに至る為には上位以上の素材を必要としている。

 でもそこに至る頃にはこれくらいの技術は持っていてもおかしくない。まあ持っているボウガンとかそういう関係で組み合わせるんだろうが、アタシには必要のないものだ。

 ちなみに通常弾Lv2を選択したのは、狙う場所が左翼の翼膜だからだ。リオソウルの翼膜は薄いがそれなりに強度を持っている。でも薄いからこそ貫通弾だとそんなに力を発揮しづらい。

 散弾を使おうにも高さと距離の問題があり、翼膜へと接近するまでの距離の途中で破片が散らばる恐れがある。それだと翼膜の一部、体の一部、そしてあらぬ方へと飛びかねない。

 徹甲榴弾と拡散弾だと弾の重さで下へと落ちていき、狙っている部分に着弾しない可能性が出てくる。それを防ぐための爆発による推進力を利用しようとしても、それは当てる部分を間違えれば爆薬に引火する可能性があるので元から却下。

 だから特に特徴を持たない無難な弾である通常弾Lv2を選択した。Lv1だと威力がなさすぎで選択肢に挙がらず、Lv3だと跳弾効果を持っており、あらぬ方へと跳ね返ってしまう効果を持っている。

 狙い所が良ければ別の場所に命中してダメージが更に期待出来るが、純粋な威力でいえばLv2の方が上だったりする。それに跳弾することで予定が崩れたりするため、アタシはあまりLv3を使わず、Lv2を多用している。

 とはいえ、それ以前の問題としてグレネードボウガンは通常弾Lv3を撃てないんだけどな。

 

「グルルルルッ!」

 

 左翼を連続して撃たれ続けた事で少しバランスを崩したようだけど、何とか持ち直している。その根性は大したもの――ん? 少し空気が変わったか。

 よく見れば足元に妙に力が入り始めている気がした。それに体勢を立て直すための力だけでなく、攻撃態勢に入るための力が翼に伝わり始めているように視えている。

 なるほど、反撃に出ようとしているな。

 そうとわかれば撃つ手を止めて回避体勢に入らなければ。リオソウルを視界に入れつつ立ち上がると、力強く翼をはためかせて両足を持ち上げていた。そのままアタシを捕らえようと急降下を行ったが、既にアタシはそこにはいない。

 岩が抉れる音が背後に響き、瓦礫が舞い上がって欠片が襲い掛かる中、アタシは宙を舞いながら前転して体を反転させていた。グレネードボウガンはリオソウルの胸元に狙いを定めており、アタシの右手は既に引き金へと当てられている。

 

「――――ふっ」

 

 今の自分を想像し、マスクの下で思わず口元に笑みが浮かぶのを感じた。引き金を引けば装填された徹甲榴弾Lv1が速射機能を発揮して二発放たれ、リオソウルの胸にそれぞれ着弾する。

 アタシはその反動で更に後ろに下がりつつ体を回転させ、右手と足で受身を取りつつ着地する。

 今のアタシはそれはもう異常な事をしていただろう。リオソウルの攻撃から回避しながらも空中で攻撃を行う。なんて人間離れした動きと胆力だろうか。

 でもこれも獅鬼の技術。

 その師の方が人間離れしているのだから性質が悪い。そしてそれを習得したアタシも異常。

 だがそれで結構。

 元から異常なのだからそれ以上異常になって何が悪い。目的を達成するためにアタシは自分を磨く事をやめはしないさ。

 上を見上げれば胸元に甲殻がこげた部分があるのがわかる。徹甲榴弾が爆発した跡だ。でもあそこにはまだそんなにダメージを与えていないから、あの程度の傷で済んだらしい。

 

「グルォァア……!」

「……む、降りるか」

 

 ならば手を変えるとしよう。さっきしまった投げナイフを三本取り出し、右手の指の間に挟みこむ。その先端には液体が染みこんであり、若干黄色く染まっていた。

 これは麻痺投げナイフ。麻痺毒を注入する事を可能とした投げナイフだ。

 グレネードボウガンは生憎と麻痺弾が撃てないから、こういうものを用意しないと麻痺させる事が出来ない。

 でもアタシはただこれを投擲させるだけでは留まらない。

 

「グルァァアアアア!!」

 

 岩の高台から跳躍し、アタシへと滑空してくるリオソウルをやり過ごしつつ、アタシは麻痺投げナイフへと気を纏わせていく。麻痺毒の影響を受けて淡い黄色に染まったオーラが麻痺投げナイフの刃に纏われ、アタシは狙いを定めてそれを振り抜いた。

 それによって麻痺毒の効果を内包した薄い気刃がリオソウルへと向かっていく。気刃はリオソウルの左部分を縦に切り裂くが、元が投げナイフということもあって気刃自体にそんなに威力はない。

 籠めた気が強ければ威力も増すだろうが、今の攻撃に威力なんてものは期待していないから問題ない。問題なのは染みこまれた麻痺毒がリオソウルに効果を発揮しているか否かだ。

 

 この世界には暗器を使う者がいるという。主に東方にいたという忍びが使用していたらしい。

 様々なものを懐に隠し持ち、状況に応じて取り出しては相手を攻撃――暗殺していたという話だ。もちろん普通の武器も扱い、主に小刀などの小さな刃を持ったという。忍びは暗殺を得意としていたために小刀を扱う技術や、投擲技術が高い。だがそれをただ使うだけでなく、その武器に己の気を籠めて攻撃する技術もあった。

 ロックラック地方を回っていた頃の事、刃の武器を扱うための修行をしていたアタシは、それに関連する様々な本を漁り、読破していった。獅鬼の教えを受けた後、単純な剣術だけでなく気の扱いに関しても色々あるはずだと考えたのだ。

 そして気を扱う本の中にその一部を発見したアタシは、これを投げナイフに応用できないかと考えた。

 数ヶ月の修行を経てアタシはその技術を我が物とした。これはその一部。

 武器に込められた効果を気に与え、それを気刃として放つ。調べてみれば気を扱う者達にとっては裏で結構知られている話らしい。

 本家の忍びの者は毒や麻痺の力を気に含ませ、影から放つことで気づかれずに相手へと注入したらしい。投げナイフや吹き矢とは違い、気を感じ取る技術がなければ回避できないからこそ、より暗殺に向いた技術とされたという。

 もちろん種を明かせばその“効果”というのは粒子の事。つまり粒子を操れなければ習得する事など不可能。

 だからこそ習得するには時間を有する技術の一つとされている。

 

 

「……はっ、ふっ……!」

 

 振り上げから体を回転させながらの右斜め振り下ろし。踊るように体と右手を動かせば、淡い黄色の軌跡を描きながら挟まれた麻痺投げナイフもアタシの気を受けて光を放つ。光はアタシの意思に従い、次々と気刃をリオソウルへと放っていく。

 その攻撃が十を越えたころだろうか。威力自体はそんなにないために、原種より甲殻が硬くなっているリオソウルは蚊に刺された程度にしか感じなかったのだろう。それが何度も続けば苛立ちは募っていくものだ。

 アタシへと振り返り、突進を始めようとしたのだろうか。地面を蹴って走り出そうとしたところで手にしている麻痺投げナイフを投擲。すると力を失ったかのように前のめりに倒れてしまった。麻痺毒が全身を侵したようだ。

 

「……さて」

 

 左手に持っていたグレネードボウガンを構える。チップから拡散弾Lv2を二発取り出して一つは咥え、一つは装填する。

 引き金を引いて射出すると反動が返ってくるが、それを堪えつつ素早く咥えていた弾を装填、射出。麻痺しているリオソウルは回避する事もできず、弾は狙い通りに左翼に着弾し、爆発が連続して発生した。

 悲鳴も呻きにしかならず、ダメージを受けていた左翼は今の二発で完全にいかれてしまった。その巨体を浮かせるには片翼では力が足りない。これで飛行することはほとんど不可能に近くなっただろう。

 「空の王」は地に落ちた。

  次はその目を潰す。徹甲榴弾Lv2を装填して左目へと撃ちこみ、次の弾を装填して右目も潰す。

 

「ゴァアアアアアアアア!?」

 

 両目を潰されてリオソウルが悲鳴を上げるが、アタシの攻撃は終わる事はない。

 翼を潰し、目を潰せば、あとはただの肉塊へと仕上げるだけ。貫通弾Lv2を装填して狙いを定める。頭から体へ突きぬけるルートか、腹から突き抜けるルートか。

 リオソウルが銃弾を弱点としている部位は腹とされている。だから腹を通るルートの方がダメージは期待できるだろう。しかし今は倒れこんでいるためそこが見えない状態。

 だから選ぶルートは頭から突き抜けるルート。

 貫通弾はグレネードボウガンには二発しか装填出来ないため、右手の動きはさっき以上に素早く動いている。常にグレネードボウガンは火を噴き、次々と貫通弾Lv2を吐き出し続けている。

 いくら甲殻が硬かろうと何度も同じところを貫かれ続ければ穴が空き、肉が露出していく。それを確認すると徹甲榴弾Lv1へと切り替え、その部分を狙って撃ち込んでいき、中から肉を爆破させる。

 拡散弾や徹甲榴弾で外殻を傷つけ、欠けた部分から貫通弾を撃ち込んで穴を作り出し、徹甲榴弾で内部から爆破させて大きなダメージを与える。

 潰すべき場所を潰した後は、これが主なアタシの戦術となっている。

 だがここまでやられればリオソウルもまた怒りを抑えきれなくなるのは必至。予想通りアタシを潰れた目で睨んで咆哮を上げ始める。その後口元から黒い息吹が漏れ始め、低く唸り出した。

 でも予想通りだからこそアタシは次の手をすぐに打つことが出来る。ポーチから落とし穴を取り出すと、怒りを通り越して激怒しているリオソウルが走り出した。

 その速さはあたかもリオレイアのような疾走速度を持っている。空を主な行動領域としているリオレウスは、地上を主な行動領域としているリオレイアよりも少し走る速さが遅い。それは亜種になっても変わる事はないが、怒り状態となったリオソウルの疾走速度はさっきまでと違ってかなり速くなっていた。

 

「……しかし想定の範囲内」

 

 横に走って跳ぶことでそれをやり過ごし、背後で通過するリオソウルへと無造作に爆発を連続して発生させてやる。だが怒りによってそんなものでは動じないらしく、少しブレーキをかけた後に転進し、再びアタシへと接近してくる。

 なるほど、原種があまりやらない転進しての突進も使うか。それによってまたリオソウルは攻撃の手を打ち続けることが出来る。

 だけどこっちにもまだ手がある。

 落とし穴を一端ポケットにしまい、ポーチから火薬草を取り出す。それを懐にしまってグレネードボウガンに弾を装填し、回避しながら撃ち込んでやる。地面を滑りながらリオソウルを見つめると、耳と鼻が微かに動きながらリオソウルがブレーキをかけている。

 やはり目を潰されていたのにアタシを追尾していたのは、そういう事だったらしい。怒りが高まっていてもまだ冷静な部分はあるようだ。

 また鼻を鳴らしながらこっちに振り返ったリオソウルに狙いを定め、再び火薬草を取り出して意識を固める。すると火薬草に粒子が集まり、熱を持ち始めた。そのまま前へと宙に舞い上がるように投げてやれば、火薬草から火が発生してリオソウルへと取り囲むように向かっていく。

 

「グルォ、グォオオオオ!?」

 

 突然自分の周りに発生した炎の熱にリオソウルが顔を上げて辺りをキョロキョロし始める。爆発はさんざんアタシが発生させたから驚くに値しなかったようだが、炎と熱は目を潰されているから反応してしまったらしい。

 その時間がアタシが次の手を打つための時間となる。ポケットに入れておいた落とし穴を前に設置することにする。その手際の良さは慣れだけの関係じゃない。

 東方で獅鬼に教えを受けた際に手に入れたお守りという道具がある。これは鑑定する事でこめられたスキルポイントが明らかになり、それを身につけることで装備に含まれているスキルポイントと合わさる事が可能となっている。

 つまり装備と装飾品だけでは足りないスキルポイントがこのお守りの後押しで条件を満たし、スキルが発動する事が出来るというわけだ。

 アタシが身につけているお守りは、罠師が発動できるだけのスキルポイントがあった。これにより罠を仕掛ける速さがかなり上昇している上に、調合する際にもほとんど失敗する事がない。幼いアタシにとっては実にありがたいスキルであり、今でも使える実に美味しいものとなっている。

 他に達人スキルを後押しするためのお守りを持っていたりするけど、クエストに応じて付け替える事で今まで切り抜けてきた。

 罠を仕掛け終え、後ろに下がって次の弾を装填する。

 続いて腰に下げていた角笛を吹き鳴らしてやる。これは飛竜などの大型モンスターに対して効果を発揮し、自分へと意識を向けて攻撃させる事が出来る。

 つまりどういう事かというと――

 

「グァアアアアアア!!」

 

 ――こういう事になる。

 炎の中から真っ直ぐにアタシへと突進を開始したリオソウル。あまりにも真っ直ぐなその動きにより、まるで穴に吸い込まれるかのようにその蒼い姿は落とし穴へと沈んでしまった。

 

「……終わりだな」

 

 宣告に近しい一言を告げ、アタシは引き金を次々と引いていく。体の内部からのダメージによって自分でも気づかないうちに体にガタがきているはず。そしてアタシとしては甲殻などをあまり必要以上に傷つけたくはない。

 今回欲しいのは甲殻などの外殻部分。蒼桜の対弩に必要な素材の一つ、火竜の骨髄は原種で鍛練している間に必要な分だけ集まっている。あとは亜種の素材だけであり、桜火竜は既に集め終えた。

 残るはリオソウルの甲殻。だから傷を多くして使えない部分を極力出したくはないのだ。

 狙うは頭、それも額。

 生物の逃れられない急所の一つ、脳。

 そこを守るための外殻を外すため、徹甲榴弾Lv2を連続して撃ち込んでいくことで、額の甲殻を文字通り破壊するかのように剥がしていく。続いて露出した肉の部分を、貫通弾で抉って貫いていく。

 これは文字通りとどめになる一手。その際に使用するのは貫通弾Lv3。グレネードボウガンはの貫通弾Lv3を装填出来ないけど、ガルルガシリーズに加えて装飾品の効果もあり、貫通弾が全て撃てるスキルが発動している。

 本当にスキルというものは大事だ。これによって有利にも不利にもなるからこそ考えさせられる。

 

「…………ん?」

 

 ……と、どうやら死んだらしい。

 額から血を流しているリオソウルは落とし穴にはまったままぐったりとして動かない。視る限りじゃ生命力も尽きたらしく、本当に死んだ事がわかる。

 

「……剥ぎ取るか」

 

 まるで事務的にアタシはリオソウルに近づいて剥ぎ取りを開始した。甲殻を必要な分だけ剥ぎ取り、続いて鱗を幾つかを剥ぎ取る。

 次に右翼に回り込み、傷の具合を確かめる。基本は翼爪を持ち帰るが、武器や防具によっては翼を丸ごと必要とすることもあるらしい。だからこの右翼を持ち帰ろうかと考えてみる。

 尻尾は落とし穴にはまっているから今は剥ぎ取れなさそうだな。ギルドが死体を回収する際に頂く事にしよう。運が良ければ逆鱗が手に入りそうだし、いずれ使う事になるかもしれないから貰うだけもらっておく事にしよう。

 ……こんなところか。

 持ってきていた発炎筒を点火させ、クエスト成功を知らせる。少ししてアイルーをはじめとするギルドの者達がやってきて死体の調子を確認した。少しして成功を認められ、死体回収が始まる。

 計画通り翼と尻尾、そして運よく逆鱗も手に入り、アタシはベースキャンプへと戻る事にする。

 

 必要素材が集まった事でようやく蒼桜の対弩が作れる。これでまたアタシの火力が上がる事だろう。それと引き換えに拡散弾が撃てなくなったけど、そういうのは小さな誤差だ。状況に応じてボウガンを変えればいいけど、たぶんこれから先は蒼桜の対弩を主な武器になるだろう。

 アタシはまた一つ上へと登れる。

 こいつの扱いに慣れれば更に経験を重ねられるから、大型飛竜に挑む事も出来るだろう。

 慎重だろうけど、これは生き残るためにも必要な心構えだ。

 アタシは生き残り、何としてでもあの二人に会わなきゃならない。だから強くなると同時に生き残らなくちゃ。

 

 こういう考えが出来るようになったのも、あの日の影響だろう。

 ああ、確かにアタシは少しずつ変わっている。そう実感していた。

 

 

 そうしてまた月日はめぐり、アタシは17歳になっていた。

 今日からまた旅が始まる。

 ドンドルマを拠点として力をつけたアタシは、この大陸を旅して回る事にした。

 それは最近妙な気配を感じ取り始めたからだ。不穏な空気が少しずつこの大陸に広がりつつある。誰もが気づいていないらしいが、アタシは気づいていた。

 そしてこの気配は遠い昔に感じたものと似ている。

 

 黒く染まったあのリオレウス。

 奴が放っていた雰囲気が、薄っすらとこの大陸に広がっていたのだ。

 

 もしかするとあの時の黒幕がこの大陸に現れたのかもしれない。あるいは再び活動し始めたのかもしれない。

 もしそうだとしてもアタシは深く関わる事はないだろう。場合によっては戦闘になるかもしれないが、藪をつついて蛇を出し、逆にアタシがやられるかもしれないからだ。そうなっては本末転倒。

 死に行くような真似はしない。でも用心するに越した事はなかった。

 あともう一つの理由としては昴達がもしこの大陸にやってきていたとすれば、もしかするとあのリオレウスに関連する何かを探しているんじゃないかと考えた。

 そんなことはないだろうと信じたいが、昴は妙にそういう事があれば調査をする人だった事をおぼろげに思い出した。

 あの時の真相を求めているとするならば、この空気を感じ取った時に関わりに行くんじゃないかと考えた。

 だからあの二人を探しに行く。

 この二つがアタシの旅の理由。

 それにアタシも上位ハンターの仲間入りを果たしている。ある程度こなしてはきたけど、装備を整えたりはしていない。旅している間に上位クエストがあれば、受けてみるのもいいだろう。

 少しずつ前に進めればいい。そして上にいければいい。

 今のアタシには心にそんな余裕があった。

 これも前向きになったからだろうか。

 

「……行くか」

 

 目標は見えた。後はそれに向かって進むのみ。

 ドンドルマを後にするために正門前へとやってくる。人は相変わらず多い。

 ドンドルマを訪れた者と、ドンドルマを去る者に別れて道を多くの人が歩いている。人ごみは苦手だが、大きな街だからこそこれは仕方のないこと。少しの辛抱だと思いながらアタシは歩き続ける。

 

 

 ――――ん?

 

 

 その時妙な気配を感じた。

 人ごみの中に紛れ込んだ異質な空気を持つ奴。

 アタシは顔を上げて視線を動かしてその空気を持つ奴を探してみるが、そいつはすぐに消え去った。いや、人ごみの中に消えていった、というべきか。

 人が多すぎるせいで判別がつかない。

 でもあの空気の残り香がアタシの中に残っている。

 

「…………まさかな」

 

 この残り香から考えられるのは――

 

 

 ――アタシに似て非なる存在、ということだ。

 

 

 でもアタシに似ている奴という事は、アタシと同じくどこか壊れた奴という事。

 そして同時に、アタシと同じくほぼ常に殺意を持っている奴という事。

 そんな異質な奴がそうそう同じ場所に現れるはずもない。だからアタシは気のせいだろうと切り捨ててしまった。

 

 本当にそれを持っている奴がいるとするならば、それはどれほど数奇な出会いだろう。

 同類は引き合うというけど、そんな同類が引き合ったらその結末は結構簡単に想像がつく。

 

 つまりは殺し合い。

 こんな街中でお互い異常なモノを発揮して殺し合うだろう。

 だからこそアタシはその考えを切り捨てる。そんなバカなことがあるはずないと。

 

 

 ○

 

 

「…………ふん」

 

 妙な気配だった。相手もそれに気づいたらしいな。

 でもこの様子だと気のせいだと考えたんだろう。私もそう思ったけど、どうやら気のせいじゃないらしい。

 それにしても驚いた。

 まさか私と同じ殺人鬼がいるなんて。

 そんな事を考えながら歩いていると、横から一人の人物が並んでくる。

 

「久々だな」

「……ああ」

 

 そいつは顔に仮面を被った奴、数ヶ月前に出会ったゲイル・カーマインという男。しかしこんな真昼間からここにいるという事は、もう一人の小娘……アルテミスだったか。そいつが変化を使ってこいつに成り代わっているのか。

 

「さて、これから朝陽様に会ってもらう。そこでこれからやる事を説明される。オーケー?」

「……ああ」

 

 口元は仮面に隠れていないが、普段のコイツには出さない声でそう言った。聞けばいつもはまた別の顔を見せて周りを欺いているらしい。まったくご苦労な事。

 ふと、ゲイルが低く笑い出す。

 

「素っ気無いねぇ……。ま、しょうがねぇといえばしょうがねぇか。クッヒヒヒ」

「……ふん」

「だがまぁやることはやってもらうぜぇ? お前さんの実力と異質さは確かに朝陽様の言うように俺様達にはいいものだ。これからよろしく頼むぜぇ」

「わかっている。私も私を満たせるものがあるならやらせてもらうさ」

 

 そう、私の心を満たすもの。

 それは「死」。

 空虚になった私の心を満たせるのは殺し合いと、それによって生まれる死。殺し合うことで生と死の狭間を感じ、そして相手を殺す事で「ああ、今日もまた私は生きている」と感じる事が出来る。

 ……ふっ、なんて異常。

 随分と私は壊れている。

 でもそれが私にとっての「普通」。

 「オレ」はあの時死に、「私」は今こうして空虚に生きている。あの日々の日常が死んだからこそ、この日々が私の日常となった。

 

 堕ちている?

 承知の上。私はそれを承知の上でこうしている。

 ハンター業もまた私を生かすための延長線でしかない。合法的に殺し合いが出来るからこそやっているのだから。

 そしてこいつらもまた私を生かすための延長線。

 心が満たされなければ切り捨てるのみ。満たされるなら、満たし続ける間は付き合ってやるさ。

 そうでなくなれば、その時はこいつらを殺すのみ。

 

 さあ、お前達は私の心を満たしてくれるのか?

 それを確かめさせてもらおうか。

 

 

 ○

 

 

 そしてアタシはドンドルマを出て旅を始める。

 以前から東から西へと来たのだから、また西へと向かってみようと考え、進路を北西へと向ける。ルートとしてはタイタン砂漠からシュレイド地方を目指す事にしよう。

 最終目的地はミナガルデ。そこで少し調べ物をしてみようじゃないか。

 以前見かけた異常の事もあるし、ドンドルマとはまた違った情報があるかも知れない。本当にこの大陸で異常が起こっているのか、それを確かめてみようと思った。

 

 あの二人に会うまではアタシは一人。

 でも構わない。

 それでこそアタシなのだから。

 

 「孤高の銃姫」は今日も一人、己の目的のために旅を続けよう。

 

 さあ行こう。

 アタシの旅は終わる事はない。

 

 

 ○

 

 

 話し終わった優羅は一息つくようにフラヒヤ酒を口にする。

 そして昴と紅葉は少し呆然としたように優羅を見つめていた。無理もないだろう。彼女が話した過去は二人が想像した以上に辛さを感じさせ、そしてぶっ飛んでいた。

 確かにそんなことがあれば人を信じられなくなるだろうし、そしてそんな修行をしていたらあそこまでの動きも納得できた。

 というか……

 

「あのコンサートの日、いたの!?」

「……ん?」

「いや……俺たちもあの日、いたんだが……」

 

 それもまた驚くことだった。二人もまたアリーナでコンサートを堪能していたのだ。しかし二人は座席にいたに対し、優羅は入口付近で聴いていた。終わった後もさっさと帰っていたため二人は会うことはなかった。

 

「……そうですか。それは……なんというか、巡りあわせが悪かったとしか」

「っていうか、あの日、確かセレナが優羅のことは何も知らないって言ってたのに……」

「……アタシにチケットくれたのは、そのセレナとかいう受付嬢だったんだけど」

「…………もしかして、アリーナで感動のごたいめーんって感じをしようとしてたの? あの人……」

 

 その真意は今ではもうわからない。なにせ彼女は死んでしまったのだから。紅葉もそれがわかっているらしく、少し苦い表情をしていた。

 

「……ま、今となってはあの日、昴と砂漠で会えたのだからよかったと考えている。あれもまたそれなりにいい再会の仕方だったんじゃないです?」

「ああ……まあ、そうかもしれないな。……結構きつい助けられ方をした覚えがあるが」

「ん? 結局どういう助けられ方したの? あたし、それ聞いてないけど」

「……腹パンで気絶させられたあとに運ばれた」

「ワーオ……なんでまた……」

 

 その前に容赦なく狂ディアブロスの目を潰しているし、かなり過激な救出の手だったろう。それは優羅も振り返れば過激だったと自覚している。でも仕方ないじゃないか。

 

「……あの時は離脱優先だったから。引っ張って連れて行くよりは担いで逃げたほうが楽だった。……あと、気絶していてくれたら手当もしやすかったというのもある」

「あー……うん、なるほど……」

 

 紅葉が頷いているが、昴からすれば少し苦笑するしかない。

 でも彼女が来てくれたからこそ切り抜けられた。左肩を貫かれはしたが、今では問題なく動かせているのも優羅の手当てがあってこそ。

 それに初めて組んだ狩りでもあり、彼女が鍛え上げられたことで発揮された規格外な動きをお披露目した狩りでもあった。昴が好きなディアブロスだったということも相まって、色々記憶に残る劇的な再会だったことは間違いない。

 

「……ま、あいつから教わった全てを教えられる気はしないけど、出来るだけやってみせるから」

「期待してるわね」

「……ん」

 

 こうして優羅の過去話は終わる。

 だが彼女の過去を知ることで離れている間の彼女を知ることが出来た。確かに心痛む話もあった。でも、知ることで彼女の心を和らげ、癒すことは出来るかもしれない。

 それに今の彼女は再会した当初よりも柔らかくなっている。人形のようだった彼女は少しずつ人になりつつある。それは間違いなく昴と紅葉がいたからであるのは間違いない。

 一時は闇に堕ちかけた幼き少女は今、求めていた二人と再会し、一緒に過ごすことで少しずつ光を取り戻しているのだ。

 「孤高の銃姫」と呼ばれた優羅はもう孤高ではなくなっている。

 いずれ新たな異名を手にする時が来るかもしれない。

 そんな期待を持ちながら、三人は就寝時間まで共に思い出話などに花を咲かせ続けた。

 

 

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