呪われし血統と黒き竜   作:流星彗

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過去回想としては前回で終了ですが、こちらは番外の番外。
回想した時代において、たびたび登場した彼女の視点です。


二十七話

 

 

 ――――終わったか。

 

 世界の境界を越えて飛ばしていた意識を戻し、静かに瞼を開ければ慣れ親しんだ私の部屋がそこにある。私以外には誰もいない、私だけの世界。

 静かな和式の部屋とすぐそこにある庭園。鹿威(ししおど)しが時折鳴らす音が響くのが風流を感じさせる。実に落ち着く空間。私が作り、好む世界。

 でもそれだけではおもしろくないのが世の中の常。ただ一人でここにいるだけでは退屈に押し潰されるのみ。

 だからこそ私は、私達は世界を旅し、世界の流れを傍観する。

 

 故に私は「傍観者」。

 

 その世界で起こりうる物語を知り、様々な平行世界に渡ってそれぞれの物語を眺め続ける。

 平行世界とは奇妙なものでね、似たような世界があれば全く別の顔を持つ世界もある。似たような世界と言えども、微細な変化だけを残した似た世界もあれば、双子のように同じような展開を見せる世界もある。

 例えるならそれは一つの本を手に取り、読み進めることと同じ事。私にとって世界を眺めるという事はそれに等しい事。

 そして干渉して少しだけ手を加えるという事は、その本を読み終えた後、こうしたほうが面白いんじゃないかとその物語を基にした二次創作を作ることと同じ事。

 私にとってはこれらの事はそういう風に感じている。

 

 私がこの世界に戻ってきたのは、彼女の物語が見たかったから。

 そしてその先に起こりうる物語の行く末を見届け、果てにある結末が私が想定したものである事か否かを見極めるため。

 ……ふふ、おかしいと思うでしょう?

 古龍をも超える時を生きた私が、何故小さき子供である彼女の物語なんてものに興味を示すのか。

 それは秘密。

 言ってしまったらおもしろくないでしょう?

 でもあの世界に向かった私が彼女との関連性を多少口にしていたかと思うわね。そこから答えを導き出してみるのがいいんじゃない?

 

 

 さて、振り返ってみましょうか。彼女の物語を。

 そのお供は……そうね。今日はフラヒヤ酒を呑みながら振り返りましょうか。

 

 彼女の名は黒崎優羅。

 先祖をシュヴァルツとする人間の娘。かの大戦の後、人間と交わることで己の血を封じ込めようとした者達の末裔。代を重ねていく事で血は薄れたものの、その奥に眠る力は息づき続け、多少の力の残留を残した。

 でも己がシュヴァルツである事を多少なりとも残すため、姓に「黒」を残したのはやはり己の罪を刻み込むためかしらね。

 途中で再び魔族と交わる事で毒に関しては無効化する力を会得したけど、同時に再びシュヴァルツの血を刺激し、それは数代先の優羅に影響を与えた。

 でも彼女はそれを知らず、ただの少女として昴と紅葉と出会う。

 

 第一の転機は村の崩壊。

 味わった恐怖と絶望で己の中に潜む意識とシュヴァルツの血を少しだけ目覚めさせ、同時に炎のイメージが脳裏に刻まれる事となる。

 

 第二の転機は狂リオレウスとの再会。

 これによって自分が異質である事を再度認識し、心が崩壊。シュヴァルツの罪の象徴である殺人鬼側へと心が傾き始め、人に対する関心の薄れや精神の磨耗が始まる。

 そして道徳心が薄れ始め、罪を罪と感じなくなるのも特徴ね。人の定めたルールを無視し、ただ一つの生物としての本能のままに殺す。これが殺人鬼の特徴。それに足を踏み入れ始める。

 

 でもそれを止めるストッパーが神倉獅鬼。

 アレは私が用意した駒。

 様々な平行世界を渡り歩いて試算を行い続けた結果、アレを上手く使う事で私の導きたい結末に一番近づける事が判明した。

 だから私は獅鬼に近づき、アレに起こりうる事を伝える事で動くべき事を示唆してみせる。その結果あの二人と優羅に出会う事になる。

 ここで問題なのが獅鬼はあの村にも行かなくてはならないという事。つまり昴と紅葉も助けなくてはならない。でなければ私の目論見通りに物語が流れないからだ。

 優羅はどの道助かるけれど、昴と紅葉はあのまま放っておくと死ぬ。それでは私としては都合が悪い。……そう、色々とね、ふふふ……。

 そして獅鬼は優羅と出会い、彼女に色々と仕込む事で強化させてくれる。実力を上げ、心にも多少手を加えてくれたことで、華国で優羅は堕ちる事はなくなった。それが一番大きな結果といえるでしょうね。

 どうも運命の流れが悪いのか、あそこかまた別の場所で優羅は最終的に堕ちてしまうことが多かった。本能が優羅を刺激して堕ちるか否かを試しているからなんだけど、でもそれはシュヴァルツとしていずれは訪れる事。

 優羅はそれに抗うだけの精神を持っていないから、ほとんどの世界では堕ちてしまう。

 あの子もまた紅葉と同じ。強がってばかりいるけれど、心は本当に脆い幼い子供。ただ血筋の影響で、ああ振舞っているだけの少女なのだから当然といえば当然の事。それを自覚しようとせず、無視し続けたからあの日まで子供のままだった。

 

 それが第三の転機。

 コンサート会場で自分自身を見つめなおす。

 その頃までいくと記憶にも影響が大きくなり始め、昔のことをあまり思い出せなくなってくる事になる。それは個人差があるけど、殺人鬼候補のほとんどは関心の薄れと共に普通だった自分を忘れてくる。最終的にはこれが普通の自分なのだと認識し、更に堕ちていく事になる。

 優羅の場合は堕ちる事はなくなっているけど、それでも薄れ始めた記憶は止まる事を知らなかったようね。暗い未来を前にして心が屈しているから、記憶の崩壊を止められなかった。

 性質が悪いのは心が弱い事を自分が気づかず、認めていないということかしら。自分は強くなった。だからこの先もやっていけるのだという驕りが無自覚にあった。

 故にこの先の戦いのためにもそれに気づかせなくてはならない。

 でもこれもほとんど起こらない出来事(イベント)。何せ関心がないからコンサートに行く事もない。だから私が出向かなくちゃならなかったんだけどね、出だしはおせっかいな子がいたからなんとかなったわね。

 あとは足止めをしてあの三曲を聴かせてやること。そこまでクリアできれば、目的は達成できる。

 最終的には成功。優羅は自分の弱さを知る事が出来た。

 

 ……ふふ、でも優羅にとっては残念な事もあったわね。

 昴と紅葉。

 あの街にいたのに三人は出会わない。

 それも当然。

 

 私がそれを望まなかったから。

 

 出会うのは奴らとの戦いが始まってから。それまでは出会わせるわけにはいかないのよ。

 どうしてかって?

 

 おもしろくないからよ。

 

 それぞれ来るべき戦いのために自分達の旅を進め、自主的に強くなってもらう。協力するのはそれから。

 自主的に強くなる、というランダム要素があってこそおもしろい。これくらいは誤差の範囲内。だから私は三人があそこで出会う事を良しとしなかった。

 だって三年前の時点で出会ってしまったら、三人は三年後に凄まじいチームワークを発揮してしまうでしょう? それじゃあ他の駒達、例えばライム・ルシフェルとシアン・フリージアが霞むじゃない。あるいはその二人と出会わないまま戦いが始まってしまう。

 それでは意味がない。

 それにあの二人と出会わなければクロム・ルシフェルがあまり絡んでこなくなる。それでは全ての駒がドンドルマに揃う事はなくなってしまう。

 確かにこの中央という名のゲーム盤は存在し、駒も全て揃っている。

 それぞれに役割があり、それぞれの駒の動きによって物語は動いていく。でもその出だしの部分がなければ駒が動く事はなくなってしまう。

 つまり駒の必要性がなくなり、ゲーム盤から弾かれてしまう事になる。

 その駒の力が、他の駒で充分補えてしまうからだ。

 それがあの三人の結束。

 

 ――とはいえ、それが許されるのは終盤までだけどね、ふふ。

 

 欠けるのはルシフェル二人。つまりはシュヴァルツが二人。

 それでは足りない。

 だからこそあの二人も絡めていかなくてはならなくなる。その意味でも出会わせてはならない。

 

「――ふぅ」

 

 傾けていたグラスを机に置き、私は一息つく。

 こうして思い返すだけでどうやら瓶を一つ消費してしまったようね。久しぶりに呑むフラヒヤ酒もなかなか美味しいじゃない。じゃあもう一つ取り出すとしましょうか。

 何もないところからフラヒヤ酒を呼び寄せ、蓋を開けてグラスへと注いでいく。

 やはりこれはいいわね。あの子が好むというのもわかるわ。

 気が遠くなるほど長く生きているうえに、様々な世界を渡り歩いたけど、酒の中で一番美味しく感じるのはこのフラヒヤ酒だった。

 もちろん故郷の世界の素材を使用しているということもあるだろうけど、……ふふ、この私にも人の情がまだ残っているという事かしら。

 この世界の故郷は東方だけれど、東方の酒よりもこのフラヒヤ酒というのはやっぱりそういうことなのでしょうね。

 

 さて、次に考える事はやっぱりあの女狐かしら。

 まったく、こういう事に関しては本当に首をつっこんでくるのがあの()ね。しかも私の目的も何となく察しているみたいだし、やれやれとしか言いようがないわね。

 でもあの女もまた目的を定めて行動し始めたようだし、どうやら完全に私と遊ぶつもりのようね。

 それにしても、あの娘もまた人の心があったらしいわね。私の目に狂いがなければあの娘の目的は恐らくそういうことのはず。でなければあの子の運命を見直すために幾つもの平行世界を眺めるはずはない。

 たぶんあの娘は否定するでしょうけど、見方によってはあれはわかりやすい。

 つまり私達はそれぞれの目的を達成するために、この世界をゲーム盤として立ち会うことになったという事になる。

 しかもどういう数奇なる偶然か、あの娘の目的を達成するための条件が揃いつつあるのは私が目をつけた世界。幾つかの偶然と、私の手回しでこの条件は達成させられた。

 でもそれはあの娘も同じ事だったらしい。あの娘にとっても都合のいい世界になってきているのは私の目にもわかるほどになってきている。

 色々と手回しをしているようだけど、華国に関してはあの娘の領土ということもあり、あまりあの娘の行動が見えなかったわね。いったい何をしたのやら。

 それにしても、あの娘もこの物語に介入してくるなんてね……これは少し面白い事になりそうね。というよりも、既に役者の一人として紛れ込んでいる、と言うべきかしら?

 一体どういう気まぐれかしらね?

 

「…………ああ、なるほど」

 

 これだけ都合のいい世界へと進みつつあるこの世界。

 もちろん都合がいいというのは私でもあり、そしてあの娘でもあり。……ああ、駒たちにとってもある意味都合がいいともいえるかしら?

 でも最終的にあれらにとって都合のいい結末になるかは別ね。それは己の手で掴み取るしかないのだから。

 その結果次第で私達の目論みも変化する。

 しかも今回は私だけでなく、あの娘も介入してきた。自分自身も盤上に並んだ駒の一つとして。

 

「……でも、どうせ自分の目的を遂行するおまけとして楽しんでるんでしょうね」

 

 あの娘もまた退屈を嫌う。そしてこの世界に目をつけたのは私もいるからでしょうね。

 

 ……ふふ、ならいいでしょう。

 

 久しぶりのゲームという事ね。

 恐らく勝利条件はどれだけ自分の目的に結末を近づけさせるか。そしてここに集まった駒を上手く動かせばいいのだけど、もう既にゲームは始まっている。

 宣戦布告も何もない。手回しをお互い始めた時からゲームは開始を宣言されていた。

 あとは仕込みを受けた駒たちがどのように動くか、にかかっている。そう、ここからは人の意思の強さが運命を変える、といってもいいわね。

 

「あとは白皇かしら」

 

 あの(ひと)も出向いてくるような気がしてならないわね。

 それがあの女の役割とはいえ、それによって流れが変化する事も有り得る事。

 アレを相手にするのは今は自粛しなければ。確かに昔の私なら無駄に喧嘩を売りにいっていたかもしれないけど、今はまだ却下しなければならない。

 私はまだ死ねない。

 この物語を見届けるまでは死ねないのだから。

 

 私のこの呪いは昔の私をひどく苦しめた。今ではもう長い時を経てしまったから、自分で言うのもなんだけど達観している。だからもうどうでもいいモノになっている。

 でも昔はそうはいかなかった。

 そう考えると昔の私もまた弱かったらしいわね。こんな運命を受け入れられないと嘆き、喚き、そして自分の命を捨てようとした。

 

 それを許さない我が呪い。

 

 それにまた絶望し、無気力に過ごしたあの年月。……ふふ、ひどく滑稽だったでしょうね。その時はまだ白皇の存在は知らなかったから私は未だにこうして生きている。

 あの時ならば求めただろう白皇の存在が、今では私達の道の障害となる。他の世界でも存在を匂わせたのだから、このゲーム盤にもイレギュラーとして現れるでしょうね。だからこそそれに気をつけて進めなければならない。

 

夢幻(むげん)は放置しておいていいでしょうね」

 

 こいつは確か…………そう、ロックラック地方か東方のどこかにいたはず。最近姿を見ないから覚えてないけど、たぶんその辺りにいたわね。一体何を考えているのか知らないけど、今回のゲーム盤には関わってこないでしょう。

 

「……ふぅ」

 

 ゲーム盤――もとい、この世界を映し出している畳に仕込んだ術で、私に見せてくれる世界の境界の裂け目。あたかもテレビ画面とやらのように映し出されている光景(ヴィジョン)を眺めながら私は目を細める。私の横の台に置いてある瓶の中身はもうすぐ尽きようとしている。どうやら二瓶目も飲み干しそうになっているようだ。

 肘掛に頬杖をつき、正座していた足を少しだけ崩してみる。

 光景から幾つかの光の珠が浮かび上がり、目の前に停滞して形を成す。浮かび上がるのは私が選んだ駒達。

 

 神倉獅鬼。

 ゲーム盤の影で動き、獅子童雷河、焔、風花という駒を増やした男。

 優羅の師であり他人を嫌う優羅が唯一他人の境界線から外れた男。彼がいたからこそ今の優羅がいるといってもいいでしょうね。この男にはそれなりに感謝してもいいくらい。

 お前はいい駒だったわ。

 

 白銀昴。

 このゲーム盤の主役を張る男。そして優羅が愛した男であり、私にとっても縁のある人。

 この男は欠けさせてはならない。でなければ優羅の存在があやふやになる。

 だからこそこれからの成長に期待しましょう。充分な活躍を期待するわ。もちろん、そっちの方面でも、ね。

 

 竜宮紅葉。

 優羅にとって姉のような女であり、白銀昴の相棒(パートナー)。私にとっても少なからず縁のある人。

 この女もまた欠けさせてはならない。昴ほどでないにしろ、優羅の存在があやふやになるのだから。

 故にこれからの成長を期待しましょう。

 

 そして獅鬼が目をつけ、これからの流れに関わる者達。

 果たしてこの者達がどんな風に動いてくれるのか。

 最終的な結末を塗り替えるか否か。訪れる運命を前にして屈するか否か。

 

 運命というのはいつだって残酷。

 逃れられない運命もあれば、回避できる運命もある。

 

 今回は後者。

 それが出来るのはヒトの意志の強さ。

 実力とか行動とか、そんなものは二の次でしかない。

 それを打ち破らんとするヒトの意志がなければこれは変えることが出来ない。

 そして私が見たい結末は、その運命を打ち破った先にあるモノ。

 だからこそ期待させてもらうわよ、私の駒達?

 

 そして黒崎優羅。

 貴女のその結末も、ね。……ふふふ。

 

 

 

 

 ――なかなかの笑みを浮かべておるなぁ、菜乃葉よ。

 

 

「……あら、来たの」

 

 視線を動かせば薄く開かれた襖の先に小柄な少女が佇んでいた。

 背中まで届いた白い長髪をそのまま流し、後頭部には黄色いリボンが結ばれている。白い和服の上に金色の線である獣を描いた緋色の和服を着こなすその少女は、一目で見れば東方人と見間違えるでしょうね。

 でもこれで故郷がシュレイド地方なのだから詐欺師よね。今では華国を己の領土とし、時折訪れては好きにやっているらしいわ。どうでもいいけれど。

 部屋に入ってきたその娘は私の対面に腰掛け、何もないところから一つの瓶とグラスを取り出した。それは北風みかんジュースで酒を割ったもの。割ったのは別世界でいうところのチューハイという酒らしい。

 相変わらず子供っぽい酒よね。もう少しいい酒があるというのに、いつまで経っても成長しないわね。

 

「……なにか言いたそうだのう?」

「別になにもないわよ。……そうね、あえて言うならば、何しに来たの?」

「くっふふ、それは我主(わぬし)ならばわかるであろうて?」

 

 その酒を一口呑むと、左手を翻して白い毛を使った扇を取り出して自分をあおぎはじめた。その仕草や様子、その表情から推察するにやはりそういうことなのかしらね。

 

「改めて宣戦布告をしにきた、という事でいいのかしら?」

「然り。お互いそれぞれ思うところがあろう。ならばこそどちらが目的を達成できるのか、このゲーム盤を眺めつつ、時に弄っていこうではないか」

「……そう告げるのは今更な気がするけど?」

「………………」

 

 そう言うと、どこかバツが悪そうな表情を浮かべて視線を逸らし始めた。この様子、忘れていたわね?

 大方色々と弄っているうちに私のところに来る事を忘れた、という感じかしら? 本人としては既にしているつもりだったのかもしれないわね。

 やっぱりこの娘はどこか子供の色が残っているわね。どんなに変わってしまってもそれが残っている、というのはある意味貴重ね。私にはないものが残っている、それがどこか羨ましくあり、妬ましくある。

 この娘は昔からそういう存在だった。

 

「で? ルールはどうするの?」

「勝因は目的が達成できれば、でよかろう。逆に敗因は達成できなければ、と設定すれば良い」

「……それだとどっちも達成するか、しなければ、という要素が出てくるじゃないの」

 

 それじゃあ曖昧じゃないのかしら?

 そんな意図を込めてじっと見つめてやれば、「ふむ……」と呟いて何かを考えるそぶりを見せる。

 元々私達はこのゲーム盤で争う理由はない。どっちも退屈を紛らわせればいい、という心境だったし、私達の間にもしがらみはない。気ままに世界を渡り、起こりうる流れを眺めるしか用はないのだから。

 時々鉢合わせれば、この先の流れがどうなるかを予想して賭けをするなどして過ごす間柄だ。

 どれもこれも傍から見ればつまらない光景だろうけど、時に世界に入り込んでは裏から世界を弄り、何かを崩壊させたりするものだから性質が悪いでしょうね。そうやって滅ぼした国は一つや二つじゃないのだから。

 やがて何か思いついたのか顔を上げ、こう口にした。

 

「何もない。ただ久しぶりにこんな流れになった、あるいはこんな結末になった、と納得すればいい」

「……そう」

 

 自分達が手を加えてもこうなった、手を加えたからこそこうなった。

 幾多の世界で眺めた、あるいはそんな事があったのだと遠い昔に聞いた話との差を感じればそれでいい、とする考えか。

 私達が手を加えようが運命はそうそう変わることはないと、世界の理不尽さを実感するも良し。

 ヒトの意志はやはり裏から操ろうと変わらないものがあると、ヒトの弱さを見るのも良し。

 物語を見終わって感じる心は人それぞれというわけか。

 

「……なるほど、それも悪くはないわね」

「そうなった場合はこれはゲーム盤ではなくなり、ただの鑑賞機、ということになるがな。くっふっふふ」

「その時はその時よ。じゃあその方向でいきましょうか」

「うむ。……では」

 

 そう言ってグラスを掲げるその娘に応え、私もまたフラヒヤ酒を満たしたグラスを掲げる。

 

「では、ゲームを改めて楽しみましょうか」

「うむ。此方らの駒と、かの娘達の未来に」

 

『乾杯』

 

 お互いその身に似合わぬ冷笑を浮かべあい、そっとグラスを掲げた。

 

 

 人ならざる者達は世界の狭間で笑いあう。

 それは子供たちが見せる笑顔ではない。彼女らが心に秘めた思惑を孕み、かの世界の者達に対しての期待を込めた、見下すような笑み。

 訪れるであろうその時に何が起きるのかという多少の期待。

 そして対戦相手がどれだけの手回しをしたのか。それによってどんな変化があるだろうか。対戦相手が気にかける者がどうなるのか。

 それに対する笑み。

 

 長い付き合いをしている二人は、ただの友人というだけでは片付けられない何かがそこにあるだろう。

 何せ“手回し”をしたという事実は知っているし、見破っているが、どこまで干渉しているのかまではわからない。

 菜乃葉がその少女が華国で風花に接触した事を知らないように。

 その少女が、菜乃葉が獅鬼に接触した事は知っていても、優羅に接触して彼女に影響を少なからず与えた事は知らないように。そして昴と紅葉を優羅に出会わせないように弄っている事も知らない。

 目的は知られていても、その一手の一部はお互い知らないのだ。

 だから笑みを浮かべる。

 果たして自分の知らない場所でこいつはどんな手を打ったのだろうか、と相手の表情や心境の裏を探っている。

 何だかんだ言っても、これは彼女達にとってはゲームだ。

 世界を舞台とし、そこに住まう者達を駒とし、役者に仕立てて物語を弄って鑑賞している。

 果たしてそこまでして彼女達は何を望んでいるのだろうか。

 それは誰にもわからない。

 知るのは「白皇」と「夢幻」のみだろうか。

 

 何にせよ、彼女達の物語も改めて幕を開ける。

 正体もわからない彼女達は一体何を思う?

 その解は――まだ完全には見えない。

 

 

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