何かを背負った者は、逃げてはならない。

これは一人の脱走者の、決意の物語。

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カッコイイ青ニートを書きたかったのだよ


脱走者

 

脱走

一概にこれは、不名誉な言葉だ。

曰く心が弱い者が行き着く場所であり、曰く、仲間を何とも思わない者が行う事だと。

そもそも、騎士道、というか戦いにおいて、『逃げる』という行為自体が懲罰ものなのは誰でも知っている。

何故って?

死から逃げるからさ、それは、死ぬ事を怖れて仲間を捨てるからさ。

要は、自分勝手って事だ。

でもよ、俺はこう考えるわけだ。

死が怖くない人間なんているか?

何故不死人が嫌われているか考え直せよ?死にすぎたら亡者になる、考える器官がぶっ壊れちまうんだ。

何故壊れるか、死っていうのが、耐えきれない程悍ましい経験だからさ、だからこそ、俺は逃げる。

死にたくないんだ、もう放っておいてくれ。脱走者、そう呼ばれても良い、構わない。

それに何よりーー

 

 

 

ーー騎士なんざ、こっちから願い下げだ

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…しかし、此処は本当に静かな場所だな…」

 

祭祀場の階段に、俺は腰掛けて座っている。火継ぎの祭祀場と呼ばれる此処は、酷く退屈で色が無く、だがどこか安らげる場所だ。

そして同時に、俺たちにとって忌むべき場所でもある。

薪の王を名乗るルドレス…だったか、まぁ名前はどうでもいいが、そいつの話によると、曰く「薪の王を玉座に戻せ」だそうだ。

 

全くイカれてるよな?

 

薪の王ってことは、要はめちゃくちゃ強い奴を倒して更に強くなった、いわば「神殺し」を「殺した」奴らだ。

そいつらを倒して、薪を戻せ…無理難題に過ぎる。

そう、無理難題なんだよ俺たちにとっては、だから此処で座して待つ。

何の変化もおこらねぇが、何か悪い事が起きる様な事も無い、あるのは安らぎだ…。

心地よい、そう俺は率直に感じる。

別に誰かに戦えと言われた訳じゃないんだから、当たり前だよな。

 

「灰の方」

 

そう考えふけっていると、黒いドレスとそれに少しでも似合わせようとした装飾が施された目隠しを付けた女、「火守女」と呼称される女が、不意に話しかけてきた。まぁ、大体の話の内容は察せられる。

 

「どうか、お考えなおし下さい。火継ぎも、その為の巡礼の旅も放棄なされては…散っていった灰の方たちが報われません。もう一度巡礼を…」

 

ほらな、思った通りの内容だ、返答はもちろん

 

「断る」

 

「何故です…?貴方はお強い、不思議な、火の力を感じます。そんな貴方が何故…」

 

「アンタにはわからないだろうし、分かられたくも無いね。もう放っておいてくれ、俺は旅を辞めたんだ」

 

「待ってください!灰の方…!あぁ、何故…」

 

 

 

 

「…フン、俺には、関係無いんだよ」

 

話に決着を付け、祭祀場の外に出る。雄大で壮観な風景だが、悲しみと滅びを感じさせる山々を眺めながら、墓に向かう。

祭祀場から出て左側に、その墓を作った。…心折れた俺が出来る、せめてもの手向けだ。もう長年使っていない彼奴らの剣を側に突き立て、祈る。不死人とて、祈りは忘れないさ。

 

「なぁ、お前ら…俺は正しいよな?

お前らが苦しむ事に何の意味も無かったのなら、せめて、何の変化も起こらない日常を、繰り返した方が良いんだ。

それが、平和って奴だろ?なぁ、お前ら…」

 

 

 

ファランの不死隊

 

聞いた事は不死人ならあるだろう。

名うての不死人を集め、鍛え、火を継ぐ為に長い巡礼を果たした、精鋭集団。

そして同時にそいつらは、深淵から生まれた化物を狩る事を生業とする、「深淵の監視者」であり、遥か昔の神話の、狼の騎士の後継である。彼らは正に不死人達の英雄であり、「薪の王」足り得る存在だった…ってのがまぁ、知れ渡ってる物語だ。

だが、実際は違う。

俺は、俺達ファランの不死隊は、火を継ごうとなんてしなかった。する予定もなかった。俺たちは狼騎士の名の元に、化物を人々の為に狩っていた。それは、俺たちの生きがいであり、俺たちの使命だった。他の奴らはあんまり喋らない奴らだったが、皆、他人を思える良い奴らだった。

 

だが、力を持った集団の末路なんて、良いもんじゃあない。

 

最初は英雄と感謝されていた俺たちだったが、次第に人々から避けられていった。

俺たちを見て不吉の象徴だ、といった声が聞こえてきたと思ったら、何時の間にやら、深淵の化物から力を受け取った化物の集団だと罵られるようになり、終いには、無視だ。

それでも俺たちは戦った、使命の為に、自らの為に。そう、ずっとずっと言い聞かせて。

 

 

だから、その最後は、悲惨だったよ。

 

 

俺たちは人々から強制的に火継ぎの旅に「行かされた」

人々からせがまれた俺たちは、それが嘘であったと分かっていても行かざるを得なかった。もう、使命だとか、生きがいだとか、そんな事関係なく、害虫の様に追い払われた。

 

「人々からの願いだから」

 

そう言い聞かせるのが、どれだけ哀れだったか、今でも心が痛む

 

そして最初の火の炉に行き、火に包まれ、永遠の痛みに苛まれながら、あいつらは薪になった。

…俺は、その場に居なかったが

 

何が報われたのか?

 

何の為に戦っているのか?

 

ーー俺には、分からなかった

 

 

 

 

 

「嫌な記憶を、思い出しちまった…」

 

祈りを辞め、何時もの場所に戻る。

鍛冶屋が武器を鍛える音が、風のささやかな音が、篝火の火が少しだけ燃えている音が、何時もの通りに聞こえる。

何も変わらない、そう思っていたが、今回はそこに、一つ異音が混じる。いやでも聞こえる様な、良く響く音が

 

「鐘が…鳴ったのか…ハハ」

 

祭祀場の鐘が鳴る、その時に、「火の無い灰」と呼ばれる存在が墓から蘇る。要は俺みたいな、昔に火を継ごうとした愚か者や、約束を果たせなかった奴の事だ。まぁその力は殆ど失われて、辛うじて残り火を使う事でその残滓が少しばかり復活するだけだがな。

いや、もっと正確に言うなら薪にも何にもなれなかった不死人と言った方が適切か。薪になっても、大して火が変わらなかった奴やたどり着けなかった奴とかだ。今や火継ぎの旅は只の忌まわしい儀式に成り果ててしまったしな、昔々は使命を果たす為に大王グウィンを倒して、ただ一人の騎士との「約束」の為に火を継ぎ、薪の王になったというが、今はそんな崇高で儚い意志は存在しやしねぇ。あるのは、ただの使命感だけだ。

 

そんで、時間が少し経ったのち、一人の騎士がやって来た。正確には騎士の格好をした獣畜生かもしれないが、火を継ぐのに本人の性格やらなんやらは関係ない、強ければいいからな。

ふと見れば、騎士が此方に近づいてきている。まぁ会話の為だろうな。

久々の話し相手だ、相手が火の無い灰じゃなければ、これ以上ない暇つぶしだったんだがな。

どうせ自分のしたい事とか、約束だとか、そんな話を延々聞かされるに違いない。そんな奴がここに戻ってきた事は正直言って少ない。

うんざりするが、聞くだけ聞いてやるか…

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、使命の話ではあった。だけど他と違うのは、あいつは火を継ぐ事が使命なのだと言った。

…今まで火継ぎを使命だと言った奴は誰一人としていなかった。火継ぎが苦しいと知ってか知らずか…。

とにかく、あんな奴は初めてだった。

 

「驚いておられるのでしょう、灰の方」

 

ふと気付くと、側に火守女が近寄って来ていた。逆に言えば側に寄られても気づかないくらい考え込んでいた、か。

 

「ふん…確かにああいう奴は初めてだが、それだけだ。所詮彼奴も呪われた火の無い灰の一人にすぎやしない。心折られておしまいさ」

 

「…果たしてそうでしょうか」

 

火守女が少し何時もより穏やかな笑みを浮かべてそう言った後、俺の側から立ち去っていった。あの女のあのような笑みは、初めてだ。

 

「どうせ、あいつも同じさ。どうせ、な…」

 

俺は、いつも通りに墓へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、あんた、先客かい?」

 

そういう気さくな声がして、青い珍妙な奴隷帽子とみすぼらしい服を身に纏った男が話しかけてきた。

…なるほど、あいつの仕業か。

 

「お前、何者だ?」

 

「あぁ、すまない、自己紹介がまだだった。儂は不死街のグレイラット。しがない盗賊だよ、よろしくたのむ」

 

盗賊…盗人が一体どんな使命があるんだか、いい奴そうだが、余り関わらないに越した事は無い。手を差し伸べてくるが、もちろん無視だ。

 

「それでお前…ここに盗賊が何の用だ?火継ぎか?物盗りか?フン、馬鹿らしい」

 

そう言うと、グレイラットは少し慌てた様子で口を開く。

 

「いやいや、儂は火の無い灰じゃあ無いんでね。亡者でもないが、使命も無い。ここに来たのは、まぁとある騎士さんに牢屋から出してもらってね、ついでに厄介事を頼んじまったから、その恩返しって所さ」

 

「恩返し…ねぇ」

 

馬鹿馬鹿しい。

恩を返すだのどうのこうの言っている場合では無かろうに。

盗賊だと言うのなら、尚更だ。

 

「まぁ兎に角だ、あんたも立派な剣持ってるし、火の無い灰って奴なんだろう?だったら儂の店を贔屓にしてくれよ、盗品とはいえ、良いものが揃ってるぜ?ハハハ!」

 

「フン…気が向いたらな」

 

そう店を開く事を伝えると盗賊は祭祀場の奥へと消えていった。

…あいつも長生きはしないタイプだ、他人の為に生きる奴は、何時だって早死にする。俺たちがそうだったのだから。

しかしあの騎士とやらは盗賊を檻から出す程のお人好しらしい、全く放っておけばいいのによ…。自分が悲しむだけだ。

 

 

暫く…いやそう感じただけだが、俺が座っていると、騎士が帰ってきた。「冷たい谷の番犬」を倒し、不死街へと到着したらしい。

何とまぁ、よくやるこった。

それから暫くすると、包帯のような物をグルグル巻きにして身体につけたような奴がやってきた。

…いや、彼奴らは知っている、「巡礼者」と呼ばれる奴らだ。薄汚い亡者の国、ロンドールからやってきた得体の知れない不気味な奴らだ。

関わらないに越した事は無いが…

 

「あぁ、灰の方ですかな?祭祀場に住まわせて頂くには挨拶をさせていただきましょう。私はロンドールのヨエルと申します。死にかけの身ですが、どうぞよろしく…」

 

話しかけられてしまった…いや、焦るな。こいつらは何を考えているか分からない、無視だ無視。

 

「あぁ、今は余り機嫌がよろしくないようですな。失礼しました、私は祭祀場の左手奥におりますので用があれば何なりと申し上げて下さい。

 

 

…フン、心折れた哀れな亡者めが」

 

最後に何か聞こえたが…まぁ聞こえなかった事にしておこう。亡者で結構だ。

…そう亡者で結構だ、彼奴らの様に深淵に呑まれてしまうよりよっぽどマシな様に思える。いや遥かにマシだ。

だと言うのに、何故俺の心はモヤモヤしているのだろう?まさか今更脱走した事を悔いているのか?

だとしたら最悪じゃないか、そうなら俺はどっちつかずのクソ野郎だ、それだけにはーー

 

「なりたくない、そうだろう貴公?」

 

気付けば俺の正面には怪しい銀仮面を付けた貴族風の男が居た、何と言うか、気味の悪いオーラを纏っている。また怪しい奴が絡んできやがったよ

 

「…口に出てたか?まぁ良い、あんたもそうだろう?誰だって亡者にはなりたくない筈だ」

 

「亡者にはなりたくは無い…だが貴公の様に生きながら死んでいる屍にもなりたくは無いがな」

 

こいつ…嫌味な野郎だ。文句を言いに来るだけなら話しかけてこないで欲しいね。

 

「だから俺が貴公に生きる意味を与えてやろう、ほら、これを受け取りたまえよ」

 

そう言って銀仮面の男が差し出してきたのは、ひび割れている赤い、人の怒りや悪意全てを凝縮したような真紅色をしたオーブだった。

そしてこれについては不死人なら誰でも知っている、これは「殺し」の道具だ。闇霊となり、世界に侵入して残り火を奪う。そんなイカレ野郎共御用達のアイテム、糞みたいな道具だ。

 

「テメェ…生憎そこまで腐っちゃいねぇんだよ、さっさと俺の前から消えてくれ」

 

俺は脱走者、はぐれ者だ。だがだからと言って道を外れる事だけは絶対しないと決めてるんでな。

 

 

 

 

「フン、道を外れる覚悟すらない

か…ファランの不死隊が聞いて呆れるな、貴公のような落ちこぼればかりだから深淵に呑まれたのか、よく分かったよ」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の身体が剣を握りしめクソ野郎に斬りかかっていた。いや、誰が我慢出来るだろう。彼奴らを馬鹿にされて、どうして我慢する事が出来る…!

だが俺の剣は奴に届かず、奴が持っていたショーテルに食い止められていた。

 

「ほう貴公、何のつもりだ?死に急ぐ必要もあるまいに…」

 

確かに俺は腐れ野郎で最悪の野郎だ、意気地も無く度胸もない愚か者だ。薪の王にすらも、彼奴らの苦しみを代わってやる事すら出来なかった、終わらせてやる事すら出来なかった。だから彼奴らは苦しんでる、今もまだあの聖堂で死ぬ為に殺しあっている。彼奴らは未だに苦しんでるんだ、そんな可哀想なまでに愚直で高貴で使命感があって、世界を救う覚悟がある奴らを

 

「テメェみてぇなクソ野郎が…知ったような口を聞くな…!」

 

ショーテルを弾き、距離を取らせた後担いでいた盾…ファランの不死隊ならば持つはずの無い盾を持って、奴に対峙する。距離を取った奴はまるで遊んでいるかのようにショーテルを回し、弄んでいる。…かなりの強者、それでいて人殺しだ。俺じゃ勝てないかもしれないが、やるしかない。剣を振ったのは俺だ、だから俺が奴を斬りとばす。

 

「貴公、やはり良い目をしている…。俺と似通った、しかし俺にはもう無い目だ…ククク」

 

何かを喋っているが気にしない、俺は盾を構えながら奴に突撃していく。奴の武器は小型だ、盾受けも十分に可能だし、何より油断をしている。

盾でブチかまし、奴の体制を崩す、そこに間髪いれずに右手に持った剣、バスタードソードを右から左に薙ぎはらう。だが奴は崩れた体制からレザーシールドに付いていた受け流し用の丸い突起で俺の剣を受け流す、

ならばともう一度横に薙ぐが奴はそれを屈んでかわし、ショーテルで切り上げる。隙を突いた確実な一撃…更には盾を掻い潜って俺の身体に傷を付けてきた。厄介な事に、俺の強者という見立ては当たっていたらしい。

ならばと俺は叩きつけを放つ、バスタードソードは短めの大剣が故に隙が少なく扱いやすい。叩きつけはいわばブラフ、この後で奴の命を頂く。

思い通りに奴はそれを横に躱す、だが読んでいる。俺は少し姿勢を低くしながらバスタードソードを下段で薙ぎはらい、更にそこから上段切り、上段切り、突き、逆袈裟斬りと何度も剣を振るう。だが奴は、それすらも読んでいるかのように盾で受け、ショーテルで受け流し、身体を翻して躱していく。

 

「クソッ!ジッとしてろクソ野郎!」

 

怒りに身を任せた大上段からの叩きつけ。当たれば一撃で終わる、そんな一撃だがやはり奴は難なく避けてショーテルで俺の肩口を切り裂く。

更に言えば大上段からの叩きつけで剣がめり込んで抜けない。所謂やっちまったってやつだ。

 

「甘いな貴公、そんなチグハグな剣では俺は倒せん」

 

奴が蹴りを放ち、俺をよろめかせる、繰り出されるのはショーテルからの圧倒的な連撃。上段、中断、切り払いからの切り上げ、回転切りからの空中回転切り。盾すらも意味を成さぬ連撃に俺は盾すら弾かれ、無手になった所を奴に切られ、蹴り飛ばされた。

硬い灰色の地面に無様に転がる、情けない、口上をした上でこれか。

怒りよりも、悔しさが滲み出る。

彼奴らの悔しさに比べたらまだまだな筈なのに、どうして俺はこんなにも頑張っているのだろう。彼奴らの為になんか、ならないというのに。

 

「誰かを守る為に心すらも奮い立たせ立ち向かうか。やはり貴公は俺に似て、しかし全くの別物だ」

 

「テメェみてぇなクソ野郎に…一緒にされたくはねぇよ…!」

 

盾を拾い、立ち上がる。ここで折れる訳にゃ行かない。血反吐を吐いて身体が消えるまで立ち向かうまでだ…!

剣はめり込んだまま、奴の足元にある。あれをどうにか出来れば…

 

「剣が欲しいか、貴公?ならばくれてやる」

 

思考していると奴が剣を蹴り飛ばしてこちらに渡して来た。…何の意図があるかは分からん

 

「その盾…貴公の戦いに合っていないぞ、ファランの不死隊は盾を持たぬのだろう?その折れた心の証を捨て去らなければ、俺には一生勝てん」

 

そう言って奴は手招きをしてくる、分かっている、盾など捨て去らなければいけないのは。だがこれが彼奴らへのケジメなのだ、二度とファランの不死隊と、彼奴らが俺と同族なのだと語らない為にも。

だが今こそは、今だけは…

 

「オオオオオォォォォオ!!」

 

盾を投げ捨て、両手でバスタードソードを拾い、全速で奴に斬りかかる。薙ぎ払いに見せかけた下段切りで奴の足を切り、引いた奴に更に踏み込んでいく。剣を正面に構え、姿勢を低くしてショーテルを受け止める。ショーテルは盾を掻い潜る為に鉤状になっている、ならばそこに剣を引っ掛け、ショーテルを止める!

 

「グウッ⁉︎」

 

そこからの全力の切り上げでショーテルを弾き飛ばし、奴の身体を下から上に切り裂く。堪らず奴は後退したが予想済み、距離を走って詰め、回転切りで盾の表面を切り裂く。

もう少し、もう少しで彼奴らに示しが付く。

奴には攻撃の手段も防御の手段も無い、俺のーー

 

「貴公の、負けだ」

 

 

 

 

めちゃくちゃ体が痛み、硬い地面から起き上がる。死んではいないか…だが俺は負けた。

突きを放つ瞬間に、奴の右手にはショーテルではなく、杖が握られていた。その突きは躱され、俺はその杖から放たれた巨大なソウルの大剣で一文字に切り裂かれた…。奴は最初から本気は出していやがらなかったって訳か。

 

「さぁ、殺せよ。俺はテメェに斬りかかって、俺は負けた。惨めだな、あぁ全く惨めだよ」

 

思わず俺の口から乾いた笑みが溢れた。涙は、出ちゃいないが。

 

「…貴公、何かを背負い、そして立ち向かおうとしていたのだろう?

ならば、俺は貴公を殺さんよ」

 

「いいから殺せよ、俺は生きていても何も出来んさ」

 

「仲間を馬鹿にされたから立ち向ったのは、貴公がまだ諦めていないからだろう?…逃げるのはやめろ、俺の様に、使命に立ち向かえ」

 

使命…俺の使命か…。

 

「俺は薬指のレオナール、声無き女神に仕える女神の騎士だ。俺は女神を守る為に女神を殺しに行く、だから貴公も、貴公の仲間がこれ以上苦しまぬ為に殺して来い」

 

「俺にそんな事が出来るわけないだろうが…」

 

こいつは何を買いかぶっているんだよ

 

「貴公にはまだ確たる意志があった。少々手荒にはなったが、赤いあのオーブを渡したのは言わば貴公の目覚めの手助けだ、あとは貴公自身が考えろ。同じ使命を、成さねば成らぬ事を背負った身としてな…あぁ、後俺は侵入はしておらんよ、豚共とは違うんでな」

 

レオナールと名乗った貴族被れは、そう言って祭祀場の奥に行ってしまった。…この戦いで、俺は盾を捨てることが出来た。自分の弱さを捨て去る事を…。迷ってはいる、だがずっと前から心の何処かで考えていた事だ、だったらーー

 

「ーー終わりにするか、なぁお前ら」

 

 

 

 

戦いが終わって何日か後にあの騎士がやってきて、不死隊を倒したと言っていた。とても良い事だったが俺の世界の彼奴らはまだ苦しんでいる。

墓に手を添え、眼を閉じる。…此処まで来るのに、随分と時間がかかった。

 

「すまんなお前ら、待たせた。終わらせに行くから待っていてくれよ、永遠の苦しみから解き放ってやるからな、だから…待っていてくれ」

 

バスタードソードは崖の上から捨て、墓に突き立っていた大剣ーーファランの大剣を抜く。腰にしまっていた歪な形状をしたダガーを左手に持つ。

土を踏み抜く音が響き、風が吹き抜ける音と共にマントが揺れる。

 

 

 

 

墓には、折れた心である盾を供えて、俺は旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか…お前」

 

篝火から転送されてきたあの騎士が、俺に対峙している。…あの騎士は最終的には全ての玉座に薪を戻した、正に王殺しになっていた。いや、なれるだろうとは思っていた。なにせ火継ぎの使命を果たす為にやってきた灰だからな。

 

「許すなとは言わない…竜の力を、俺にくれ」

 

彼奴らを倒した聖堂で俺はそう騎士に言い、全速で駆けていく。

旅立って後、俺は因縁を終わらせ、人食いを殺し、孤独な巨人を倒した後、ロスリックの王すらも倒した。

だからこそ気づいてしまった、このまま火継ぎをしてもまた同じ事が繰り返されるだけだと。彼奴らの様に苦しむ奴らが出てしまうだけだと。

 

「古龍の頂」

 

そう呼ばれる伝説の地に、古龍の力を手に入れられる二つの石があると聞いた。あの不死の力があれば、火は永遠に燃え盛り、もう二度と苦しむ奴は居なくなる。だが時空の流れがおかしいロスリックでは、その石は時空の歪みにより別の時空に分かれてしまったらしい。

俺はその片割れを入手したが、問題はもう一つ目だ。

あの騎士が、それを入手してしまいやがった。恩義が無いと言えば嘘になる、彼奴は本当にいい奴で、真っ直ぐな奴だ。俺が決心ついたのはあの騎士のお陰でもある、火継ぎが使命なんて変わり者はいなかったからな。でも竜の力を手に入れるには、あいつを殺して奪うしかない、誰も苦しまぬ為に、奪うしかない…!

 

「ォォォォオアア!!」

 

ファランの大剣で騎士に斬りかかる、特大剣に匹敵される程重い刀身故に、騎士を仰け反らせ、後退させる。咄嗟に騎士はローリングで続く短剣での二連切りを避け、逆に手に持つロングソードを袈裟斬りに振るう。だが甘い、この歪な短剣はその歪さから剣の刃を受け流せる様にも出きている。ダガーの鉤の部分に剣を引っ掛け、弾く。その無防備な胴体に、大剣を突き立てる…!

 

「ーーーー!!」

 

騎士が痛みに唸るが、突き立てられた剣を咄嗟に抜き、俺を蹴る事で距離を取る。騎士はエスト瓶を口にして、傷を癒していた…邪魔する気は無い。これは俺の私闘、騎士からすればいい迷惑だ。だが手加減じゃあない。俺もエスト瓶を一口飲み、体制を立て直す。

 

「まだまだ、行けるな?」

 

俺は最初と同じく全速で駆ける、流石に騎士も読んでいるからか低く盾を構え衝撃に備えている。

だが、ファランの大剣の真価は短剣とのコンボではない。言わば「狼の狩り」とも言える、変幻自在の剣技だ。

騎士の盾にあえて飛び込み、ダガーを掠らせる、その勢いのままダガーを地面に突き立て、自分の身体を捻らせて短剣を軸に旋回、遠心力で力が更に加わった大剣が奴の背面を切り裂いた。騎士が直剣を振り向きざまに振り下ろしてくるが、それを短剣での軸の位置を変えていなし、左に旋回して騎士の脚を切り裂く。

 

「終わりだ!」

 

旋回した勢いで短剣を抜き、上空に飛び上がる。不死隊の狼の剣技、その中でも最高の威力を持つ一撃。

かの騎士アルトリウスが得意としていた空中回転切り、その全力を騎士に叩き込む。

辛うじて盾で受け止められてしまったが、盾の金属が弾け、欠けている。盾が破損した、それに気づいたのか騎士は盾を、序でに武器も変えた。俺たち不死隊にとって、酷く見憶えのある武具に。

 

「俺を…殺人鬼としてでなく、深淵の監視者として殺してくれるのか」

 

騎士がその身に纏ったのは、正に狼騎士アルトリウスの装備だった。

深淵狩りの大剣に大盾、そして群青に濡れそぼった銀と蒼の鎧。

 

「ーーーー」

 

騎士は話す、貴方を倒すなら、この装備が相応しいと。

だったら、こっちも全力を出さなきゃな。

短剣でフェイントをかけつつ、大剣を隙を見て振るう。横に二連切りの後に叩きつけ、それを回避して斬り込んできた深淵狩りの大剣を大剣の柄で受け止め、剣を受け流しつつ全力の突きを放つ。

騎士は吹き飛ばされたが直ぐに体制を立て直し、大盾を構えながら突進してくる。

ローリングで切り上げを回避し、短剣で横に切り裂いた後すぐさま大剣を叩きつける。しかし大盾で防がれた後にバッシュを食らい、怯んだ所に腹部に強烈な突きを食らう。猛烈な攻めと堅実な守りを見事に騎士は一体化させている。

まるで本当にアルトリウスと戦っているようだ。

短剣を軸に盾の裏に回り切り裂くが、後手に深淵狩りの大剣で防がれ

る、返す騎士の薙ぎを屈んで避け、短剣を騎士の肩に突き刺し、引き切る様に抉りながら飛び、騎士の頭部を通過して背面を大剣で切り裂く。

そして俺はすぐさま大剣で突きを放ったーーしかし滑る様に懐に潜り込まれ、低い姿勢からの回転切りで脚を切り裂かれる、激痛だが、耐えるしかない。

勝機と睨んでか間髪入れずに空中縦回転切りが繰り出される、全体重に地球の重力まで加算された重すぎる一撃に、大地は砕かれ、受け止めてしまったダガーが弾け飛んだ。

ならばとダガーを捨て去り、左手を地面に突き刺し軸にして旋回。一旦離れようとするが騎士は距離を離す事を許さない。騎士の大剣から放たれる薙ぎ払い、突き立て、切り上げを何とかいなす。

 

「そろそろ…決着だ…!」

 

竜の力がいる。私欲の為に、だが人類の為に、苦しんだ彼奴らの為に俺は戦う、左手が剣で切り飛ばされた、だが行ける、逆に俺は騎士の大盾を蹴り飛ばし、浮き上がった所で左腕を断ち切る。

隻腕同士の戦い、俺は先程からエストを飲んでいない、だがこれは私闘で「死闘」なのだから、これでいい。

雄叫びをあげ、剣を騎士に向けながら突撃する。最後だ、これで最期なんだ。

大剣を握る腕に全身全霊の力を込めて、騎士に、岩をも穿つ突きを俺は放ちーー

 

 

 

 

ーーそしてその剣は騎士の肩を突き刺し、騎士の深淵狩りの大剣は俺の心臓を貫いていた

 

 

 

 

例え丈夫な不死人でも、心臓を壊されれば問答無用で死ぬ。ソウルが俺の身体から漏れ出し、騎士に吸収されていく。もう、痛みは無かった。

これでいい、奴が竜の力を持つのは、正しい事だ。きっと火を継ぐか、或いは火を消してくれる。

騎士があんまりにも哀しげに見つめるものだから、俺は何だか悲しくなる。別に俺の親族でもないのに何でそんなに悲しめるんだか。

俺は私闘に付き合ってくれた事の礼を言いたくて、騎士に近づく。もう身体に力が入らないが、これだけは言わなければならない、これだけは。

騎士の肩を掴み、顔を見据える。新しい時代を作る者の顔を、静かに見つめる。

 

 

「お前が竜なら、悪くない…」

 

 

目が霞んで、感覚が無くなる。礼を言いたかったのに、何だか皮肉っぽくなっちまった。

あぁ、悪くない、本当に悪くない。

あいつが竜になるのも、死ぬのも。

火の無き灰は使命を遂げれば灰に帰る。俺は自分の、彼奴らを終わらせたいという使命を果たし、竜の力を騎士に渡す使命を果たした。

最期の大仕事だったと我ながら思っちまう。そうだろ?こんな事滅多に無い。

段々暗闇に包まれていくが、深淵よりかは随分と優しい闇だ、心地よい。

 

 

 

 

 

じゃあな、「薪の王」さんよ

 

 

 

 

 

 

脱走

これは一概に不名誉な言葉だ。

だが時にその汚名を返上する為に奮起する奴も居る。

何かから逃げるのを止めて、立ち向かう事をする奴が居る。

いつか、きっとそうなる。

そうなった時から、自分を知り、心を知れる。俺はそうだった。

だからこそ言える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの為に立ち上がれるなら、心なんざ折れてないのさ

 

 




連載の方の更新がまた間が空きそうだったので、気晴らしに書いた短編をちょっと投稿してみました。どうだろう、読むに耐えるだろうか?

ダクソ3DLC第二弾が待ち遠しい...

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