Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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昨晩、なんとなくランキングを眺めて新しく読むものを探していたらこの作品がのっていて目を疑いました。
どうすればいいかわからなくて若干挙動不審になりながら、とりあえずスクショ撮りました。
まさか自分の書いたものがランキングにのる日が来るとは夢にも思いませんでした。これも読んで下さる皆さんのおかげです。本当に感謝しかないです。

お気に入りも一気に増えて読んでくれる人も多くなったし、いやもうほんとありがとうございます。
お気に入りついでに9点評価とかしちゃったりしてくれちゃったりしても良いんですよ? 良いんですよ??


MMMM+MMMM=MMMMMMMM

永琳に翻弄されるあまり、自分が食器を持ったままだったことを失念していた暁。

気づくと同時に引き返し、台所を探しに向かう。

 

鈴仙があれこれ言いだす前に指していた方の扉を開くと、台所はあっさり見つかった。流しに食器を置き、再び自分の部屋へと戻っていく。

 

途中、鈴仙を見かける。

正気はまだ取り戻せていないらしい。

両手を合わせて彼女に平穏が訪れることを祈り、その場を離れた。

 

 

離れについた。

彼は腕まくりをし、残りのガラクタを引っ張りだす作業に入った。

しばらくは彼がガラクタを動かす物音だけが響く。やがてそこに近づいてくる足音が加わる。

 

「……本当に平気そうね。この薬もいらなかったかしら」

 

永琳だった。

彼女は言っていたとおり、疲労回復の薬と、水を入れた湯呑みを手に持っていた。

 

「あ、永琳さ……永琳。薬を持ってきてくれましたか。ありがとうございます。今飲んでも大丈夫ですか?」

「ええ。即効性は無いけど、少なくとも効き目は保証するわ」

「そうですか。じゃあ、いただきますね」

 

ガラクタを下ろして彼女に近寄る。

差し出された湯呑みを持ち、受け取った薬を口に入れて水で流し込む。

 

「…………ふう。これでよし、と」

「……ホント、必要無さそうだったけどね。無駄足だったかしら」

「いえ、決してそんなことは……!」

「まあ? 私の心配なんて? 『そんなこと』だったらしいし? 別に構わないんだけどね?」

「えと、あー…………その……あっ」

 

半笑いでチクチクと刺さるような嫌味を暁にぶつけていく永琳。

たじたじになる彼は思わず視線を逸らし、視界に入った自分のバッグに目を止める。

 

そういえば昨日、霖之助に両替の申し出を受けていた。

背後の永琳から逃げるようにして、バッグのもとに近づく。

ファスナーを開けて中を確認する。

 

「…………よし」

 

中身は外界で持ち歩いていた時そのままの状態だった。霖之助には現金はある、と言ったものの、よくよく考えてみれば、幻想郷に来て以来一度もちゃんと中身を確認していなかった。

眼鏡を取り出した時も中を覗いたわけではなく、外側についたポケットから取り出していた。

 

だが、とにかく中身は揃っている。

もちろん、現金も。

 

「……ちょっと。私を無視して何やってるの」

 

背後からかけられた声に背筋が伸びる。

 

「…………すいません、その、昨日香霖堂に行った時に外の通貨を両替してもらえるという話になりまして。ちゃんと現金も入ったままか確認を、と…………」

「……ふうん。で? あったの?」

「はい。所持金全額入ってると思います」

 

予想していた彼女を無視していた咎め立ては無く、内心胸を撫で下ろしながら答える。

 

「そう。良かったわね」

「は、はい。これで永遠亭(ココ)のお金に頼りきり、なんて事態は避けられます」

「……そんなこと考えてたの?」

 

永琳はちょっと驚いたような表情になる。

 

「ここにはお金なんて基本うなるほど有り余ってるし、あなた一人養うことなんて造作も無いことよ? なんなら一生いたところで何の痛痒ももたらさないわ」

「それじゃヒモじゃないですか……」

 

ゲンナリと嫌そうな顔になる暁。

彼のその態度に思わず笑う永琳。

 

「あははっ、ずいぶん殊勝な心構えね。あなたのそういうところ、素晴らしいと思うわ」

「褒めてもお金くらいしか返しませんよ」

「あら、なかなか言うじゃない。座布団差し上げましょうか?」

「布団をいただいてますから結構です」

 

軽口を叩き合う。

 

 

永琳は新鮮な感覚を味わっていた。

輝夜や鈴仙をからかうことや、イタズラをしたてゐにお仕置きをすることは前までもちょくちょくあったが、こんな風に冗談を言いあうなんてことは無かった。

こんなのは何年ぶりか——いや、ひょっとしたら永すぎる生涯の中でも初めてかもしれない。

 

 

そんなことを思いながら、彼女は心底楽しそうに笑っていた。

 

 

しばらく軽口の応酬を続けたあと、満足そうな表情をした永琳は息をつく。

 

「——それじゃ、そろそろ行くわ」

「はい。薬、ありがとうございました」

「いいのよ。昨日と同じように手押車でいいのよね? 鈴仙に持ってこさせるから」

「大丈夫です。よろしくお願いします」

 

そう言って暁が一礼すると永琳は去っていった。

 

「……さて。それまでにこっちも片付けておくとしようか」

 

暁もガラクタを運び出す作業を再開する。

昨日とは違い、埃の対処が必要ないのでスピードは段違いだった。

 

 

数分後、彼は全てのガラクタを運び出し、汗を拭っていた。

ちようどそこにガタガタと音を立てながら、鈴仙が手押車を持ってくる。

 

手押車を脇に置いた彼女は怒りと恨みが混じる視線を暁に送り、口を開いた。

 

「アンタのせいで師匠に拳骨喰らったじゃない! どうしてくれるの、このタンコブ!」

 

いきなり文句が飛び出てくる。

ズンズンと近づいてくる鈴仙の迫力に思わず後ずさりしかけるが、腕を捕まれて逃げられない。

そしてその握る力が強い。かなり強い。痛い。

 

「痛、痛いって、何だ、どうした——」

「どうしたもこうしたもないわよ! ほら、見なさいよコレ!」

 

と、そこで頭を下げ、頭頂部を暁に見せつける鈴仙。

 

目を瞬かせながらそれを見る暁。

 

 

頭頂部からピョコンと生える、彼女の耳。

二つある耳のその間、およそ中央に。

タンコブがあった。それも、立派な大きさを誇るタンコブが。

 

 

暁がそれを確認すると鈴仙は頭を上げ、ガクガクと彼の体を揺さぶりはじめる。

 

「ほら見た!? 見たでしょ!? 私がアンタのせいでおかしくなってるから、って、いきなり一撃よ! 師匠の拳骨は痛いんだからね!? すっごい痛いんだからね!?」

「わ、わかった。それはよくわかった。ごめん、ごめんって」

 

語る途中でその衝撃を思い出したのか、タンコブが痛み出したのか、はたまたその両方か。

涙目になりながら怒りをぶつけてくる鈴仙に対して何も言えず、暁はただ謝罪するしかなかった。

 

「うう……痛い、痛いよぉ……壁を殴ってたからその罰だ、なんて言って薬も貰えないし……」

 

タンコブをさすりながらしゃがみこむ鈴仙に、さすがに罪悪感を覚える。

何か償いはできないかと思案し——

 

「…………そうだ」

 

ガサゴソと自分のバッグを漁りはじめた暁。しばらく目当てのものを探すが見つからず、代わりになるものを探しはじめた。今度は少し手間取っただけで、何やらタオルとハンカチ、それにスプレー缶を取り出す。

そのハンカチを折り畳み、スプレーをハンカチに噴射する。すると、みるみるうちにハンカチが白くなっていき、固まっていく。

ある程度噴射し続けた後そのスプレーをバッグに戻し、ハンカチをタオルで包む。

 

そしてそれをしゃがむ鈴仙の頭にそっと置いた。

 

「ひゃっ!? な、なに!? つ、つめたっ……あれ?」

 

驚いた鈴仙がこけそうになるのを慌てて支え、タオルが動かないように片手で優しく押さえる。

鈴仙は暁の顔をポカンと見上げ、そのまま自分の頭の上に視線を向ける。

 

「……氷?」

「正確には凍結させたハンカチだけどな」

 

彼がしているのは打撲の手当て、アイシングである。

氷を入れた袋や冷却スプレーなどで患部を冷やすのが一般的だが、彼が持っているスプレーは()()威力が強すぎるため、直接冷やすのにはむかない。

そこでハンカチを凍結させ、タオルで包むことで間接的に冷やすことにしたのだ。

 

「…………気持ちいい」

「それは良かった」

 

目を閉じてその冷たさを味わう鈴仙。

暁はなんとなくその様子に喉をくすぐった時の猫——モルガナの様子を思い出し、和む。

 

しばらくその状態が続き……

 

やがてハッと我に返った鈴仙が立ち上がる。

自分がこの腹立たしい男に気を許してリラックスしていたという事実に顔が紅潮しかける。

暁の方は若干名残惜しそうな顔をする。モルガナを可愛がっているような気分に浸っていただけなので、鈴仙が離れてしまったことを純粋に残念に思う。

 

「こ、これは……その、感謝するわ。ありがと」

「いや、せめてもの償いだよ。冷やしなおす必要がでてきたらまた言ってくれ」

「わ、わかった。そうする」

 

何か文句を言ってやろうと口ごもった鈴仙だったが、ここは下手に墓穴を掘るより流した方が良いと判断し、簡潔に感謝だけを述べる。

残念がっていた暁も、あっさり気持ちを切り替えて彼女に言葉を返す。

 

 

「それじゃあ、俺はこれから香霖堂に行ってくるよ」

 

そう言って踵を返し、手押車をガラクタの山へ運んでいく暁。

その背中に慌てて声をかける鈴仙。

 

「ちょっと! あなた一人で行くつもり!?」

「え? ……まあ、そうなるだろ? 永琳さ…………は仕事があるだろうし、まさか輝夜さんにやらせるわけにいかないし」

 

不思議そうな顔で返答する途中、永琳の名前にさん付けしようとして口ごもる。が、鈴仙の前で呼び捨てにすることに躊躇する。結局、そこはうやむやで誤魔化して、彼は鈴仙を見る。

 

「違うわよ! 私がいるでしょ!」

「え、また手伝ってくれるのか?」

「うぐっ……そ、それは」

 

反射的に口にした言葉に切り返され、言葉に詰まった鈴仙。

彼女は悩む。

 

 

あれだけのことをされてまたコイツを助けるというのも腹が立つが、かといってコイツをこのまま放っておいていいものか。

昨日通った道を一人で迷わずに行けるかもわからないし、迷われたとしたら探すのも大変だ。

それに、無事に竹林を抜けたところでまた生身の状態で手押車を運ぶ必要がある。しかも自分がいないとなるとその負担は倍増する。

かといってやはり、素直に手伝ってやると言うのも————

 

 

「……あ、あんたがいないと、コレが溶けた時、新しく冷やせないでしょ!」

 

あれこれ考えた結果、自分の中で「タンコブを冷やすためだ」と折り合いをつけ、鈴仙は暁にそう言った。

 

「……確かにそうだな」

「だから、しょうがないでしょ。まったく…………」

「悪いな。……けど正直ありがたい」

 

盲点だったとばかりに頷く暁に言い訳がましく「しょうがなく手伝う」ことを強調する。

目を合わせない鈴仙にすまなさそうにしながらも、暁は少しホッとしたように肩を下ろした。

 

 

「…………じゃあ、ちょっと待っててくれ」

「…………ん」

 

少しの沈黙を挟み、彼は怪盗姿に変身する。鈴仙もそっけなく頷き、近くの縁側に座る。

 

 

ジョーカーが【アルセーヌ】の手を借りながら手押車にガラクタを全部載せ、その上に彼のバッグを置いたのを見てとった鈴仙は立ち上がる。

 

「終わった?」

「そうだな……ああ、大丈夫だ」

「じゃ、行きましょ」

 

スタスタと歩きだした鈴仙についていく。

 

 

昨日と変わり映えのない、まったく同じ光景を見ながら黙々と手押車を押し続ける。

鈴仙もそんな彼を時たま振り返り、速すぎると判断すると歩く速度を緩める。

 

適切な距離感を保ちながら、何事もなく二人は香霖堂に到着した。

 

 

「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」

「おはようございます。ちゃんと持ってきましたよ」

 

挨拶を交わす鈴仙と霖之助。

その隣で暁は昨日と同様に呼吸が荒くなっていた。ただ、昨日とは違って倒れるまではいかず、両膝に手をやって肩で息をしている状態だ。

 

「君もご苦労様。大丈夫かい? 昨日ほど酷くはないようだけど」

「はい……大丈夫、です……」

 

返事もできる程度には余裕があった。

 

「昨日預かっていた君の服、洗っておいたから。そこに置いてあるよ」

「何から何まで……すいません……」

「気にしないでくれ。自分の服を洗うついでだ。手間と呼べるものですらない」

 

霖之助に礼を言って、ヨロヨロと畳まれた服に近づき、バッグにしまう。

 

「じゃあ始めようか。鈴仙さん、今日も頼むよ」

「ええ、わかりました」

 

二人でガラクタを手押車から下ろす。

暁も手伝おうとするが、さすがに今のままだと役に立てないことはわかっていたので、おとなしく座って休んでいた。

 

 

「——よし、これで終わりだね」

「お疲れ様です」

「いやいや、こちらとしても半ば道楽だからね。楽しんでやらせてもらってるよ」

 

査定を終えた霖之助がそろばんを取り出し、パチパチと弾きだす。

 

「今日のぶんは昨日よりちょっと少なかったけど、珍しいものが多かったからね……これくらいかな」

「はい。構いませんよ」

 

提示されたのは昨日とほぼ同額だった。鈴仙は深く考えずに首肯する。

彼女も、そして永遠亭にいる永琳や輝夜も金銭にはさして興味はない。既に充分すぎるほどに持っているからだ。

永遠亭の薬もほぼ無料だったり、破格の安さで売っている。一種の慈善事業である。

 

「取引成立だね。……はい、確認してくれ」

「ありがとうございます」

 

これも昨日と同じように、渡された現金を一応確認する鈴仙。

霖之助はそれを見届けるより先に、暁の方へ振り向く。

 

「さて、それじゃあ次は君の番だね」

「あ、そうですね。お願いします」

 

しばらく休んだことによって回復した暁もその言葉に応じ、バッグをゴソゴソと漁りだす。

 

「えっと……あった。まずコレと……コレ。そんでコレとコレも」

「…………」

「あ、こっちにもあった。コレと、コレと……この()()を合わせて全部ですね」

「……………………」

「…………あの、どうかしました?」

「…………………………………………」

「…………」

 

空気が沈黙に包まれる。

離れた場所で金勘定をしていた鈴仙もその空気に顔を上げ、不思議そうな表情で霖之助の後ろ姿を見やる。

彼の背中ごしに見える暁も疑問符が浮かんだような顔をして霖之助を見上げていた。

 

「…………これ全部、君の所持金かい?」

「……? はい、これで全部です」

「いや、そうでなくて……」

 

酷く困惑したような霖之助の声にますます興味をそそられ、鈴仙は彼らのもとに近寄っていく。

 

 

そして、霖之助が見ていたものを理解し、絶句する。

 

 

「…………あの、私は外の通貨に詳しくないですけど」

「…………そうだね。君の考えはおよそ正しいと思うよ」

(…………二人とも、どうしたんだ……?)

 

霖之助と鈴仙のやりとりを首を傾げながら聞く暁。

その彼の手元には、たった今バッグから取り出した彼の現時点での全財産が置かれていた。

 

 

()()()()()

 

そう———()()()()

 

それが、彼の所持金だった。




I have much money, I have much money.
Uh! Much money much money!

……文法的にはおかしいけどmuch(マッチ)many(メニー)にしたら Many(メニー) money(マニー) many(メニー) money(マニー)で語呂よくなるんじゃね? つか頭文字全部Mだな!
————とかくっっっだらないことを思いついた結果が今回のサブタイとなりました、はい。……謝りません。

前書きにも書きましたが、この作品の読者が増えてます。マジでありがたいです。ところで、この作品を書くきっかけとなった動画シリーズの紹介をまだしてないという致命的なミスを思い出しました。せっかく読者も増え、多くの人に知ってもらうチャンスなので今回はそれを書くことにします。

名前をそのまま出していいかわからないので間接的な布教となりますが、ニコニコ動画のタグ「P4幻」で検索していただいて一番にヒットする動画シリーズです。言うまでもないことですが、どうか一話から視聴して下さい。
完成度も高く、非常に面白いので是非一度ご覧になって下さい。なんなら面白すぎて拙作の存在を忘れるくらいかもしれません。最悪それでも構いませんので、是非!
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