Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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そういえば、地味な部分なのですが。
地の文では怪盗姿の主人公を「ジョーカー」、主人公を知る人からは「暁」としています。
人称が変わっているように見える部分は、視点主の違いによるものです。



Chapter:2 The First Step
第一の標的:人里


「あやややや……どうにもネタが無いですね……何か面白いことが起きてたりしないでしょうか」

 

そんなことをぼやきながら、凄い速さで空を飛んでいる者がいた。

黒い翼を生やした彼女は、烏天狗の少女——射命丸 文(しゃめいまるあや)である。

文々。(ぶんぶんまる)新聞』という新聞を自費出版し、自らその記者となっている奇特な人物だ。

 

彼女はいつものように新聞のネタを探している途中、偶然出会った人物に「人里にでも行けば?」と言われ、人間達が住む人里までやって来ていた。

 

人里の門の外で地上に下りる。

町中で好き勝手に飛び回るのは迷惑だという良識からくる行為だ。

 

顔見知りである門番の人間達に会釈し、そのまま門の中へ入っていく。

人里はいつも通り……いや、いつも以上に賑やかだった。

そこら中には何やら興奮したように話しあう人々がいた。

 

「……これは当たりかもしれませんね」

 

何かイベントがあったのかもしれない。

ほくそ笑んだ彼女は人混みの中をすり抜け、ひときわ人だかりが大きなところを目指す。

 

かなり手間取ったが、なんとかその人だかりの中央に位置どることができた。

 

「…………ふぅ。いやー、この賑わいぶり。きっと大きなイベントがあったんですね! いや、もしかするとこれから始まるとかかも! 誰かに詳しく話を聞きたいところですが……」

 

キョロキョロと辺りを見渡す。

すると近くにいる誰もが、とある一点を見ていることがわかった。

彼女もそちらに視線を向けると、そこには大きな立て札があり、何事かが書かれていた。

 

「ん、なになに……」

 

————『稗田家に侵入した盗人について、何か情報を持つ者は稗田家まで。ご協力をお願いします』

 

「…………は? 盗人?」

 

文は拍子抜けした。

なんだ、ただの泥棒騒ぎか。稗田というと、確か里の中心となる名家だったか。

————そういえば、昔そこの当主と話をした。転生を繰り返し、歴史書を書いているとか。

確かにそんな場所での盗みなら騒ぎにもなるかもしれないが…………

 

(……思っていたより、インパクトが薄いですね。ま、事件は事件ですし、記事にはなりますか)

 

もっと大々的なイベントか何かを期待していた彼女としては、いささか落胆してしまったのを否めない。

とはいえ大事な記事のネタを獲得したことも確かなので、そこまでがっかりもしていない。

とりあえず誰かに取材しようかと思案していたところ。

 

「お! あんた、新聞記者の天狗さんじゃないか! さすがに耳が早いな! もう聞きつけてきたのか!」

 

こちらのことを知っているらしい男に話しかけられる。名前は思い出せないが、何かの機会で前にも取材をしたことがあったはず。

 

「聞きつけた、というよりたった今知ったところですけどね。このことについて記事にしようかと考えていたところです」

「なぁんだ、あんたも今知ったのか。じゃあ何か新しくわかったわけじゃないんだな。——この、()()とやらについて」

 

文は残念そうに言う男にピクリと反応する。

 

「…………今、なんとおっしゃいました?」

「へ? いや、あんたも俺達同様、今知ったのか、って」

「いえ、その後です」

「後? ……えーっと、()()とやらについて何か新しく……って、な、なんだ?」

 

身を乗り出さんばかりに詰め寄ってきた文に引け腰になる男。

 

「怪盗? 今、怪盗と言いましたね?」

「あ、ああ。昨夜、稗田家に突如現れた賊がそう名乗ってたと聞いたが」

「盗人が自分でそう名乗ったと?」

「おうよ。俺も直接見たわけじゃないから詳しくはわからないが、見たってやつらに話を聞いたもんで」

「その話! 私にも教えてください!」

「お、おお……わかった、わかった。教えるから。だから、ちょいと離れちゃくれないか」

「あっ…………し、失礼しました。少し興奮してしまい……」

 

ずいずいと近寄ってくる文の迫力に後ずさりしていた男だったが、我に返った彼女が数歩後ろに引いたことで息をつく。

 

呼吸を整えた彼が語ることを逐一漏らすことなく、メモに書き込んでいく文。

 

 

・夜中に大きな音が轟き、驚いた近くの住人が外に出ると、稗田家の屋根の上に立つ者がいた

・夜中なのにその男がはっきり見えたのは、空中から光線が伸びていて、その男を照らし出していたから

・その男を見上げていると中から出てきた稗田家の人間が賊を捕らえろと叫んでいたので、その男が盗人だとわかった

・賊は一人だった

・それなりに背丈があった

・その賊は『夜分失礼する、私は怪盗だ』などと見上げる群衆に告げた

・その声は男のものだった

・顔立ちは仮面をしていてわからず、服装も見たことも無いような格好だった

・しばらくそうして群衆に姿を晒していたが、唐突に光線が消え、男の姿も見えなくなった

・稗田家の者が何人も松明を持って集まってきたが、その時には既に賊の姿は無かった

 

 

「…………そんで今、皆が大騒ぎしてるってわけさ。これでいいかい?」

「ええ、ええ。ありがとうございます……!」

 

語り終えた男に礼を述べながら猛烈な勢いでメモを書いている文。

聞いたことを全て書くと、顔を上げて男を見る。

 

「その盗人が何を盗んだかというのは、ご存知ですか?」

「いいや、知らねぇ。稗田の人らに聞いてるやつらも大勢いるが、知らぬ存ぜぬで通されてるらしい。何やら、かなり大事な物っぽいと噂はされてるがな」

「なるほど、なるほど。そうですか……」

 

そのこともメモし、目まぐるしく思考を加速させる文。

先ほどまでとは違い、爛々と輝く目。

やる気に満ちたその様子に、男は嬉しげな表情を見せる。

 

「おっ! その様子じゃ、いろいろと調べて記事にしてくれると期待しててもいいのか?」

「えぇ、えぇ。もちろんですとも……ふふ、ふふふ、これはなかなか燃える事件ですね……! この射命丸文が全力で取材し、全貌を明らかにしてみせましょう!」

「おお! 頼もしいね! いっつもあんたの記事はデタラメ半分だったりどうでもいい内容だったりで、誰一人として、これっぽっちも期待してないけど、今回ばかりは食いつくだろうな! 無論、俺もだ! 楽しみにしてるぜ!」

「…………そ、そうですか。その、頑張ります、はい」

 

笑顔のままさらりと吐かれた毒にちょっとだけ心が折れそうになる文だったが、なんとか持ち直し、笑顔を返す。

若干口元が引き攣っていたが、男はそれに気づかず、頷いた。

 

頑張れよ、と言い残して立ち去る男の背中を眺め、手元のメモを再確認する文。

 

「久しぶりの特ダネ、逃す手はありません! いやぁ、今日ここに来てラッキーだったなぁ。また今度、()()()()にお礼言わないと」

 

そう言って彼女は脳裏に先ほど()()出会った、永遠亭に住む少女を思い浮かべながら、メモをしまう。

 

とにかくもっと詳しい話が聞きたい。

被害者である稗田家で話を聞こう。

 

彼女は記憶を探り、稗田家のある場所を思い出しながら歩き始めた。

 

 

 

一方その頃、狙い通りに文を誘導できた鈴仙は永遠亭へと戻りながら、思案していた。

 

(守矢神社に新薬を売る名目で妖怪の山に行って、あの烏天狗を待ち伏せる……なんて雑な作戦だったけど、案外うまくいったなぁ。これで暁のことが記事にされることはほぼ間違いないでしょ。なかなか順調ねー)

 

思った以上に簡単だった、と彼女は笑う。

 

(『文々。新聞』……だっけ? あれを暇潰しがてらに購読してたり、あの天狗が勝手に押し付けていく相手はそれなりの人数がいるはず。記事になれば()()の知名度は高くなる。そうすれば、暁の仕事も楽に…………って、そこまでは私が心配することでもないか)

 

余計な思考を振り払い、まっすぐ前を向く。

 

(とにかく、早いとこ帰って報告しよう。うう……冬の風はやっぱ寒い……!)

 

ただでさえ気温が低い上に、高速で飛行するのは凍えるほど寒い。

かじかむ手をこすりながら、彼女は急いで永遠亭へと戻っていった。

 

 

永遠亭に着き、中庭に降り立つと、そこでは暁と輝夜が距離をとって対峙していた。

二人は鈴仙に気がつき、声をかける。

 

「おかえり。イナバ、首尾は?」

「上々です。あとは結果を待つだけですね」

「ありがとう鈴仙。助かるよ」

「気にしないで。……それより二人はなにを?」

「昨日ので俺の力もちょっとだけ戻ってさ。まだペルソナを変えることまではできないけど、少なくとも【アルセーヌ】のポテンシャルは引き出せそうになったから、ちょっと確認を……と思って」

「そうそう。だから私が弾幕ごっこの相手を務めよう、ってわけ。ま、能力無しのお遊びだけど」

「なるほど、そういうこと……ん?」

 

二人の説明に鈴仙はいったん納得し頷くも、暁の話には腑に落ちない点があり、首を傾げる。

 

「ポテンシャルを引き出せそう? 前までは違ったの?」

「ああ。本来なら使える技も使えなかったし、能力自体もかなり低下しててさ。……まあ、ここ数日で発見したことなんだけど」

「なるほど。じゃあ今なら本来の実力で動けるわけね」

「その通り。それじゃ、輝夜さん。よろしくお願いします」

「はいはーい。それじゃ、まずは適当に撃っていくわねー」

 

鈴仙の疑問を解消して、暁は輝夜に向き直り、一礼する。それに応え、おもむろに右手を彼に突き出す輝夜。

 

その無造作な動作に合わせ、色鮮やかな光弾がいくつも暁へと飛来する。

 

未だ変身もしていない彼がそれを喰らえばかなりのダメージを負うことになる。

一瞬焦り、彼の方を見る鈴仙だが、その表情を見て力を抜く。彼自身はその弾幕を見てもなんら緊張する様子もなかったのだ。あの様子なら、見守っていても大丈夫だろう。

 

 

そして、その考えは正しかった。

 

 

着弾する寸前、もはや見慣れた蒼炎が彼を覆い隠し、そこに光弾が殺到する。

しかし、既にそこに彼の姿は無く、光弾は空を切ってどこかへと外れていく。

 

どこに行ったのかと鈴仙があたりを見渡すと、先ほどいた場所より数メートルほど横に、怪盗姿の彼が立っているのを見つける。

 

(…………速い)

 

蒼炎が目くらましになったのもあるが、動作がまったく見えなかった。

 

「…………うん、バッチリですね。外にいた頃と変わらずに動けます」

 

自分でも確認するように、手を握って開くことを繰り返す(ジョーカー)

彼の申告に、驚いた顔で輝夜は言う。

 

「……ここ数日とはまるで動きが違うわね。今のやつ、昨日までのあなたなら直撃してたわよ?」

「え、ちょっと。ちゃんと手加減してくださいよ。もし俺の動きが戻ってなかったらどうするつもりですか」

「うーん……まあ、その……その時は、看病してあげるわ」

「…………非常に悔しいですが、それなら良いと思ってしまったので、もういいです。…………続けましょう」

「ふふん、そうこなくっちゃ! いくわよー?」

 

構えなおす彼に、さっきとは比べものにならないほど速く、そして多量の弾幕を放つ。

 

鈴仙は今度こそ見逃さないように、暁を注視する。

 

弾幕が迫る中、少し体を曲げて前傾姿勢になった。

次の瞬間。

 

彼の体がブレた。……いや、違う。ブレたように見えただけだ。

彼はただ、前に飛び出しただけ。

それだけの動きが、目で追いきれないほど、速い。

 

そのまま弾幕の間をすり抜け、地面を蹴って宙返りしたジョーカーは輝夜の後方へ華麗に着地する。当然、弾幕は掠りもしていない。

 

「「なっ…………!」」

 

輝夜と鈴仙の声が重なる。

注視していてなお、動作の起点がわからないほどの速さに目を見開く鈴仙。

いくらなんでも速すぎる。

幻想郷最速だというあの烏天狗にはいくらか劣るものの、ただの瞬発力でここまでの速度が出せるものなのか。

 

輝夜も想像以上の暁のスピードに驚いていた。

『永遠と須臾を操る程度の能力』を持つ輝夜。突き詰めれば、一種の時間停止すら可能となるその能力の特性を生かし、彼女は瞬間移動じみた超高速機動を行うことができる。

自分が高速で動く以上、相手の動きを見ることにもそれなり以上に長けている。

そんな輝夜ですら、彼の初動を見切ることは困難だった。

あの動きに合わせようとするなら、自分も能力を使って時を加速させるしか無い。

 

(でも、それはルール違反。この弾幕ごっこはあくまで暁の調子を確認するだけ。こっちが能力を使ってたら意味が無い……とはいえちょっと本気でやりたくなってきたわね…………!)

 

彼の動きに触発された輝夜は好戦的な笑みを浮かべ、振り返る。

彼はこちらに余裕の笑みを返してくる。

そして。

 

————クイ、クイ。

 

と、手招きで挑発。

それを見た瞬間、彼女は自分の顔に青筋が浮かんだのを自覚した。

 

「ふーん……そう。そういうことしちゃうんだ…………弾幕ごっこの練習が始まってから、一度も私に触れることすらできてないのに、そういうことしちゃうんだー…………」

「ひ、姫様? なんか、いささか冷静さを失ってるように見受けられますが……」

「……暁、そんなことをするだけの覚悟はできてるんでしょうね? 今なら取り消せば許してあげる。私は寛大だからね」

 

輝夜の表情から危ういものを感じた鈴仙が宥めようとするが、それを完全に無視して、輝夜は暁にニッコリと微笑む。

ただし、額には青筋を立てている。

 

それに対してジョーカーは少しの沈黙を挟み。

 

 

————フッ。

 

 

と、その言葉を鼻で笑った。

さらに怒りを煽りたてるその行動に、輝夜は手加減の一切を躊躇なく投げ捨てることを決断。

額の青筋が増えた彼女は俯き、若干震える声でぼそりと呟く。

 

「能力は無しって言ったけど…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………!?」

「姫様!? いくらなんでもそ——」

 

バッと顔を上げた彼女の手には既に一枚の符が握られていた。

慌てる鈴仙が何かを言おうとするが、時既に遅し。

 

 

「『永夜返し−上つ弓張−』…………!!」

 

 

彼女がそう唱えると同時。

無数の弾幕が全方位へと撒き散らされ始めた。

先ほどまでの弾幕が児戯に見えるほどの量と密度で。

 

鈴仙はそれ以上何も言わず、即座に踵を返して建物の中へと走る。背後から弾幕が迫るのを感じながらも全力で駆ける。

飛び込むようにして縁側から部屋へと転がりこみ、扉を閉める。

その扉に何発もの弾幕が着弾し、ものすごい音を立てる。それを必死に押さえながら、鈴仙は冷や汗を流す。

 

「あ、あっぶな…………! ギリギリセーフ…………!」

 

一瞬だが、本気で身の危険を感じた。

弾幕ごっことわかっていても、反射的に逃げてしまうほど、輝夜は弾幕に力を込めていた。

 

(暁、どんだけ怒らせたの……終わった後、死んでたりしないでしょうね……)

 

心配はするが、かといって外に出て実際に確かめるほど勇気は無い。

そもそも暁の自業自得でしかないので、あまり心配する気も起こらない。

 

 

……なんでこうなってしまったのか。

 

 

現実逃避ぎみに考え始める鈴仙はぼんやりと思い返す。

この二週間をどう過ごしてきたかを————




ちょっと趣向を変えて、回想形式からのスタートです。
ペルソナ5も途中までは回想で進んでいたし、一度試しに。
おそらくこれ以降は使わないと思いますが……

あとアルセーヌの詳細をば。
所持攻撃スキルは物理属性攻撃(ブレイブザッパー)呪怨属性魔法(エイガオン)全体呪怨属性魔法(マハエイガオン)
他には戦闘開始時に一定時間攻撃力上昇(マハタルカオート)防御力上昇(マハラクカオート)速度上昇(マハスクカオート)、氷結吸収、祝福吸収。

パラメータは速度極振りのMAX99で他の数値は適当。とにかく先手を取るのに特化。
速度極振りに速度上昇(スクカジャ)の状態なのでやたら速いわけです。
一定時間が経過すると速度上昇の効果が切れるので、そうなると速さは数段落ちます。
それでも速度だけに特化させているので充分に速いですけどね。
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