Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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そういえば、いつのまにかUAがまさかの5桁の大台に。
読者のみなさん、本当にありがとうございます。
作品の感想をくれるのはすごく助かります。自分が思うように作品を作れているかの指標は、やはり読者の反応からしか得られませんので…………
9点評価くれ、なんてアホみたいなお願いを叶えてくれた聖人の方々にも頭が上がりません。

これからも頑張っていきますので、何卒応援のほど、よろしくお願いいたします。



プレゼントフォーユー

少し時間が経つと、鈴仙の言った通りあっさり立ち上がった暁に驚きながら、妹紅は彼にルージュを見せる。

暁は受け取ってもらえたことに喜びながら礼を言い、鈴仙と一緒に立ち去る。

 

去り際に妹紅から「別に迷惑とか邪魔なんて思ってないからな」と念押しされた彼は「ではまた来てもいいですか?」と返して承諾をもらい、いつになるかは未定の約束をとりつけていた。

 

 

そして今。

 

「…………」

「……鈴仙。未だに理由がわかってない俺に教えてくれ。なんでずっと黙ってるんだ? さっき言ったことが原因なら俺が悪かったから、機嫌直してくれよ」

「…………不機嫌になんかなってない」

(いや、なってるよな?)

 

見るからに不満気な鈴仙。

しかしそこを指摘しても怒らせるだけになると判断し、彼はその言葉を口にはしなかった。

 

「……そうか」

「…………」

「…………」

 

諦めた暁はこれ以上事態を悪化させないように自分も沈黙することを選ぶ。

そうしてしばらく黙々と歩いていると、鈴仙が口を開いた。

 

「…………ねえ」

「な、なんだ?」

「昨日、師匠に怒られた後にやった組手もどき。今からちゃんとした形でやりましょう」

「……え、え? 何故いきなり……いや、いいけどさ。俺、人を相手にした組手とかやったことないぞ」

 

困惑しながらも頷く暁の言葉に、前を歩いていた鈴仙が振り向く。

 

「はぁ? 適当な嘘つかないでよ。どう見ても素人の動きじゃなかったでしょ」

「嘘じゃない。木人を相手にしてただけで、人とは一度もしたことない。イメージトレーニングはしてたけど」

「なんでそれで私の動きに対応できるのよ……つくづく意味わからないわね……」

 

頭が痛くなるような錯覚を覚え、こめかみを押さえる鈴仙。

 

「…………とにかく、とっととやるわよ。ほら。構えて」

 

彼女は暁から数歩ぶん離れ、腰を落としてファイティングポーズをとる。

まだ戸惑いながらも暁も構える。

 

「えーと…………そもそも鈴仙は組手とかできるのか?」

「師匠から聞いてないの? 私は元軍人よ?」

「えっ」

 

不思議そうに聞き返された彼は驚愕のあまり表情が固まる。

 

「だから遠慮なくかかってきなさい。私も全力で叩き潰してあげるから」

「…………いやいやいや! 無理だろ! 元軍人相手にただの素人が勝てるわけ——」

「あなたはただの素人じゃないから大丈夫…………よっ!」

「————ッ!」

 

一足で距離を詰めてきた鈴仙の鋭いジャブを咄嗟に避け、間髪を入れずに迫るストレートを手刀で逸らす。

弾いているにも関わらず、手が少し痺れるほどの威力。

冗談でも遊びでもないと認識し、暁は鈴仙の次の挙動を冷静に観察する。

 

狙い通りに暁が本気になったことを感じとった鈴仙は小手調べを止めて、正真正銘の本気を出す。

 

 

暁は鈴仙が牽制に放つジャブをしゃがんで避け、そのままローキックで足を刈りにいく。それを跳ねて躱した鈴仙はその勢いを利用して空中前回りしながら右足で踵落とし。

横に転がり回避する暁。外した鈴仙もすぐに体勢を立て直して追撃にかかる。

体を低くした状態で瞬時に暁に近づき、その速さを乗せた掌底を鳩尾めがけて放つ。その一撃は腕を交差した暁にガードされるが、空いている左拳でガラ空きの脇腹にボディーブロー。

 

「グッ…………!」

 

暁は苦悶の表情で呻くが、バックステップ。仕切り直しを図る。

しかし鈴仙はそれを許さない。

 

「甘い!」

「…………チッ!」

 

バックステップに合わせて大きく踏み込んでハイキック。

暁は側頭部を狙ったそれを左手で掴み、動きを封じた状態で右手の突き。しかし鈴仙はそれを左手で相殺する。このままでは埒があかないと判断した暁は右手でも足を掴み、体を捻りながら一気に振り回す。

 

「わっ! ちょ、何すん————」

「こうするん、だよ!」

 

そうなると軽い鈴仙は必然的に浮き上がる。その瞬間、もう片方の足を右手で掴んで、そのままグルングルンと自分も回りながら振り回す。

俗に言う、ジャイアントスイング。

 

「わわわわわわ! や、やめ! やめて!」

 

さすがにこれには鈴仙も対応できない。

焦る彼女の声を聞いてニヤリとした暁はさらに回転の速度を上げる。

このまましばらく回り続けて降参を促すか、あるいは一気に手を離して放り投げようかと考えた彼だったが……不意に浮かんできた疑問があった。

 

(…………ちょっと待て。勢いに流されてつい普通に戦ってたけど、相手は女の子だぞ。女の子をジャイアントスイングして地面に叩きつけるって、一人の男としてどうなんだ…………?)

 

我に返った彼は、そのまま鈴仙を放り投げることを躊躇する。

先ほどまで普通に蹴ったり突いたりしようとしてきたことにはこの際目を瞑る。どれも結局彼女には当たっていないからまだセーフだ。

だからといって無理に回転を中断することもできない。

仕方なく、徐々に速度を緩めようとした彼は重大な問題に気がつく。

 

(……ヤバい、酔った……)

 

何度も回り過ぎて、彼の三半規管が耐え切れる限界を超えてしまった。

 

——このままでは吐く。今すぐ手を離して止まらないとダメだ。

——しかし手を離すと鈴仙がどうなるか。

——こうなったら…………!!

 

緊急事態に高速で働く彼の頭脳は一つの解を導き出す。

 

次の瞬間、怪盗へと変身した彼はそのまま手を離して鈴仙を放り投げる。

 

「ひゃあぁっっ!! …………え?」

 

悲鳴を上げて宙を舞う鈴仙をよろめきながら視界に収め、【アルセーヌ】を呼び出してキャッチさせる。

うまくキャッチできたのを確認したジョーカーはそのまま地面に倒れこむ。

 

そのまま喉奥からせり上がってくる吐き気を抑えこみながら、目を閉じて深呼吸し、一刻も早く吐き気が消えることを願う。

 

「スー……ハー……スー……うぷっ……」

「暁! だ、大丈夫?」

 

苦しげにする彼のもとに、【アルセーヌ】から下ろしてもらった鈴仙が駆け寄ってくる。

さすがにこれ以上組手を続けようとはせず、心配そうにしながら彼の背中をさする。

しばらくすると彼は変身を解除し、仰向けになる。

 

「…………ありがとう。おかげで楽になったよ」

「いや、私こそ助けてもらったし……なんでわざわざあんなことしたの? さっさと手を離していればよかったのに」

「……いやぁ、それは男としてやっちゃいけないことだと思って…………」

「…………はぁ? そんなこと気にしてたの? 組手やろうって言ったのは私だし、あれくらいじゃ怪我もしないわよ?」

「そういう問題じゃなくて、こう、意地とか矜持的な……?」

「途中まで普通に戦ってたのに今さら何言ってんのよ」

「返す言葉もございません…………」

 

呆れ顔の鈴仙の一言にぐうの音も出ない暁。

顔を片手で覆って居た堪れなさげにする暁に吹き出した鈴仙は、彼のもう片方の手を掴み、引っ張り起こす。

 

「ふふっ。ほら、立てる?」

「はい……」

「もう……くだらなすぎていろいろどうでもよくなっちゃったわよ……」

 

笑いながらそう言った鈴仙の言葉で、はたと何かを思い出した様子の暁。

 

「……そういや、なんで組手しようとか言い出したんだ?」

「…………」

 

途端に固まる鈴仙。

彼女は訝しげな暁と視線を合わせないようにゆっくり目を逸らす。

 

「……は、早く帰らない? 師匠も心配するとおも」

「そもそも不機嫌だった理由もよくわかってないんだけど」

 

なんとか誤魔化そうとする鈴仙を気にも留めず、首を傾げて何気なく呟く暁。

彼は自分の言葉で何かに思い当たったように、ふと目を見開く。

 

「…………ん? ……なあ、まさかとは思うが、組手をやろうって言い出した理由……()()()()()()()()()()()()()()……なんてことないよな?」

「……い、いやー? まさかぁ」

 

彼の言葉で笑う鈴仙。

しかしその顔には一筋の冷や汗が浮かんでいる。

 

「…………おい」

「……………………」

 

半眼になった暁はやや低くなった声を出す。

鈴仙はそれに返事をしないかと思えば——

 

「…………そ、そうよ!! その通りよ!! それが何か悪い!?」

 

一転、逆ギレを始めた。

 

 

「だいたい、なんでアイツにはあんな丁寧なのよ! 私に対してはすごい雑なくせに!」

「は、はあ? いや、妹紅さんは一番最初に助けてもらった相手だし、丁寧にもなるだろ。鈴仙に関しては自分から敬語止めろって言ってたじゃ」

「それに!」

 

反論を遮り熱弁する鈴仙。

 

「アイツにあんなのあげるなら、姫様や師匠とかにもちゃんと渡しなさいよ!」

「……お、おお……まあ、うん。そうだな。確かにその通りだ。永遠亭に帰ったらちゃんとわた」

「百歩譲って! 姫様や師匠に渡さないとしても! ここ数日ずっと手伝いしてる私には渡すのが筋ってもんでしょ! なんでアイツの方が先なのよ!」

「えっ」

 

続けて飛び出た彼女の暴論に思わず言葉が詰まる暁。

 

自分(そっち)の方が優先順位上なのか!? 従者としてそれでいいのか!?)

 

衝撃を受ける暁だったが、とにかく鈴仙の怒りを鎮めるためにひとまず頷き、同意の姿勢を見せる。

 

「わ、わかった。気が利かなくて悪かった。ちゃんと鈴仙にも渡すから、許してくれ、頼む」

「…………ふん。わかればいいのよ。わかれば。許してあげる」

「……あ、ありがとう…………?」

 

八つ当たりで組手を挑まれた挙句、かなり強烈なボディーブローを喰らった自分が謝ることになっている現状にどうにも釈然としない暁だったが、一応礼を述べる。

 

「……それで、鈴仙はあの中なら何がよかった?」

 

とはいえ気にしていてもしょうがない。

彼は気持ちを切り替えて彼女にそう尋ねる。

 

「何か気に入ったのがあればそれを渡すし、無かったなら他に渡せる物を探すけど……」

「ええと……残りは香水と、お香、リングとネックレス、花瓶……だっけ」

「それと扇子だな」

「ああ、それもあった。うーん、どれにしようかしら……」

 

特に決めてはいなかったのか、その場で考え始める鈴仙。

 

「…………じゃあ、リングがいいかな?」

「おお、リングか。ちょっと待ってくれよ……はいコレ。落とすなよ」

「ん! ありがと!」

 

満面の笑みで嬉しそうに受け取る鈴仙。

それを見て暁もほっとしたように笑う。

 

「そこまで喜んでもらえてよかった。なんでそれにしたんだ?」

「え? なんとなく、一番高そうに見えたから?」

「…………そうか。その……大事にしてくれよ」

「もちろん! 大切にするわ!」

 

鈴仙は先ほどと同じ笑顔のはずなのに、それを見てもどうにも心が晴れない。

大切にすると言ってはくれたが、何故だろう。

数日後、香霖堂の店先にこのリングが並んでいるような気がしてならないのは…………

 

不安と疑念が入り混じった視線を暁に向けられていることにも気づかず、嬉しそうに手の平の上のリングを眺めている鈴仙。

 

彼女はしばらくそうしていたが、眺めるのに満足したのか、それをポケットにしまう。

 

「……つ、つけないのか?」

「え? いや、つけたいけど姫様や師匠に見られたら何言われるかわからないでしょ。暁があの二人にも渡した後ならつけられるわ」

「…………そ、そうか……落とすなよ?」

「それ、さっき聞いたわよ」

「いやぁ、心配でさ……」

「私はそこまでドジじゃないわよ。それより早く帰りましょ!」

「ああ、うん…………」

 

充分納得いく説明を受けたはずなのに不安を拭いきれない暁だったが、上機嫌に歩き出した鈴仙についていく。

 

「誰かに贈り物とか貰ったのいつぶりかなー! たまーに、やってくる患者さんが何かくれたりするけど、私にというより『永遠亭』に対してだからなぁ。それもだいたいが果物とかだし」

「……そうか」

 

暁は道中ずっと鈴仙の話に相槌をうちながら、彼女を信じていいのか悶々とすることとなった。

 

 

 

「わざわざありがとう。大切に使わせてもらうわ」

「なかなかいい扇子じゃない。気に入ったわー。ありがとねー」

「いえいえ、喜んでもらえて俺も嬉しいですよ。それでは、失礼します」

 

そう言って二人がいる部屋を後にする暁。

永琳にはネックレス、輝夜には扇子を渡した。両方とも気に入ってもらえたようだ。

 

安堵しながら廊下を歩いていると鈴仙がこちらを待っていた。

 

「どう? 渡してきた?」

「うん。ネックレスと扇子を。二人とも喜んでくれたよ」

「そう。ならもうリングをつけても大丈夫かな」

 

そう言った彼女は早速ポケットからリングを取り出して、右手の中指にはめる。

 

ためすすがめつしながらニコニコと微笑む彼女を見て、ようやく安心した暁。

 

(本気で喜んでくれてるみたいだし、大丈夫だよな。売られるんじゃないかとか、失礼な考えだったな。反省しないと——)

 

「ねえ、暁?」

「……ん、なんだ?」

 

 

「参考までに、これいくらしたのか聞いてもいい?」

「……………………」

 

 

(…………し、信じていいんだよな…………?)




右手の中指に指輪をする意味は「行動力」「迅速さを発揮する」「直感力や行動力を高める」だそうです。
鈴仙はそれを知っていたわけではないですが、なんとなく彼女に必要な要素な気がしたので。

スキルぶっぱとかじゃなくてガチ格闘の描写は難しいですね……
無理のない動きを想像しながら頑張りましたので、もしツッコミどころが有ってもどうかスルーしてやってください……
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