Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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FF15の出来に対するイライラとかもう一方の作品がうまく書けない息抜きとかでいつのまにか一話分完成してました。
——13章作ったやつ、俺は許さんからな——
『とあるラジオの声優の発言より抜粋』
フルプライスのゲームがアレでクリスマスもお相手いないとかほんとつれぇわ……


住人達との邂逅

「幻想、郷…………?」

「あー……なんて説明するかな……」

 

困惑する少年に対して何やら歯切れが悪くなる女性。

妙に古風なもんぺ姿にたくさんのリボンを結んだ彼女には、少女とも成人とも判別がつかない独特の雰囲気があった。

そしてその雰囲気と表情はまさしく「困っています」と全力で主張していた。

 

「(…………この女性は‘‘本物’’なのか? じゃあここはパレスじゃない……? いや、それとも……)」

「ん? 何か言ったか?」

 

つい考えを口から漏らしてしまったらしい。

首を傾げる女性に慌てて首を横に振る。

 

「……いえ、何も——ッ」

 

唐突に走った痛みに少年は顔を歪めた。

どうやら気づかないうちに左腕を少し斬り裂かれていたようだ。

 

「お、おい、怪我してるじゃないか。すぐ手当てしないと」

「だ、大丈夫です。これくらいなら——」

 

すぐ治せる。

そう言おうとしたのだが……

 

「いや、ダメだって。菌が入って膿んだりしたらどうするんだ。ちょうどいい。私についてきな」

「え、いや、えっと……」

 

本当に大丈夫なのだが、と少年は思った。

しかし彼女はこう続けた。

 

「…………その、まあ色々と説明も必要だと思うが……こんなところで立ち話ってのもなんだし、場所を移した方がいい だろ?」

「今から行くとこは薬とかも豊富にあるし、私よりも話をするのが上手いやつもいるんだけど……」

 

それを聞いて彼は思案する。

相手の好意を無碍にするのも忍びない。

薬や治療をわざわざ受けるのは気がひけるが、ここにずっといる訳にもいかない。現状の説明をしてくれる人物がいると言うのなら悪くない。

 

「……えっと、はい。わかりました」

 

結局少年は女性の提案を承諾した。

それを受けて女性もふっ、と表情を緩ませた。

 

「そうか、ならいい。あとそこに落ちてる荷物、お前のか?」

「へ? 荷物? ……あ」

 

 

 

————そして。

出会ってから少し時は経ち。

 

「……足元、気をつけろよ」

「ええ、ありがとうございます」

 

二人は竹林の中を進んでいた。

先導する藤原 妹紅(ふじわらのもこう)と名乗った少女——少なくとも外見はそう——に少年も大人しくついていく。

彼の右肩には先ほど彼女が見つけた少年の荷物(バッグ)がかかっていた。

更に今の彼は荷物の中にあった自分の眼鏡をかけていた。

 

 

「…………」

「…………」

 

沈黙が続く。

落ち葉を踏みしめる音だけがあった。

さらには、

 

「………………」

(…………気になるな)

 

チラチラと妹紅からの視線を感じる。

そちらに目を向けても決して視線が交わることは無いが、間違いなくこちらを見ているだろう。

 

思えばこの一年の中で視線を感じない日の方が少なかったくらいだ。

そう考えればさほど気にすることでもないかもしれない。

ただ、彼女からの視線には日頃感じていた嫌悪や侮蔑といった負の感情が一切無かった。それが逆にむず痒くなる。

 

(……自分のことながら嫌な慣れだな……)

 

彼は自嘲気味にそんなことを考えていた。

 

 

 

歩くこともう数分ほど。

先導する妹紅の足音が止まった。

 

「着いた。ここが目的地、『永遠亭』さ」

「…………永遠亭、ですか」

 

そこには大きな屋敷があった。

立地は悪いが、それを差し引いてもこれだけ立派ならかなりの富豪が住んでいるのだろう。

名前からは旅館か料亭のような印象を受けるが、薬が豊富と言う彼女の言葉にはそぐわない。

 

妹紅は玄関と思わしき扉へ近づき、数回ノックをした。

少しすると、屋敷の中からパタパタと足音が聞こえてくる。

ガラリと扉が開いた。

出てきたのは一人の少女だった。

しかし、ただの少女ではなかった。

 

(う、ウサ耳……!?)

 

彼女の頭に生える大きな兎の耳。

あまりに存在感のあるソレに少年は困惑する。

 

(…………コスプレか何かなのか?)

 

そんな彼の様子に気づかずに少女達は会話を始めた。

 

 

「はい、どなたですか……うわっ」

鈴仙(れいせん)ちゃんか。ちょっといいか?」

「なんでアンタが……何? また姫様と喧嘩しにきたの? やめてよ、どうせてゐのやつは逃げるし後始末は私がさせられるんだからね!」

「い、いや違うって。別にアイツと喧嘩しようって訳じゃない。人を拾ってさ。しかも外来人だ」

「は? 外来人? なんでこんなところに……」

 

そこで初めてウサ耳の生えた少女は少年の方を一瞥する。

しかし少年はウサ耳に気をとられていてそれどころではなかった。

沈黙している少年を訝るように見て、ウサ耳少女——鈴仙——は再び妹紅に視線を戻した。

 

「……それで? 結局なんで来たの?」

「…………あいつ、外来人にしては妙な術を使っていたんだ。魔法……とも違う気はしたが」

「術? どんな?」

「なんだかよくわからないモノを召喚して戦っていた。あと本人が変身する」

「…………アンタ何言ってんの?」

「いや、本当なんだって! ああ、もう、説明がしにくいな……!」

 

会話がヒートアップしていく。

その一方。

 

(やはりそういう趣味なんだろうか……そうであれば、俺はどう対応するべきか。偏見を持たれる苦痛はよくわかっているつもりだ。ならやはりスルーが正解か? ……いや、正面から褒めるべきか?)

 

少年は至極どうでもいいことで葛藤していた。

 

 

 

「……つまり、なんだかよくわからない人間だけど怪我もしてたし説明も兼ねて師匠のとこに連れてきた、と」

「…………そういうことだ」

 

時間もかけてなんとか言葉をまとめて必死に説明しようとしたことを鈴仙にザックリとまとめられた妹紅は疲れたように肩を落とした。

 

「そう。わかった。とりあえず外来人の患者ってことね。師匠に伝えてくるから少し待ってて」

「ああ、頼んだ」

 

そんなやりとりの傍ら、少年はふと自分の傷の存在を思い出した。

 

(そういえばまだ治してなかった。今のうちにこっそり治しておこう)

 

その考えと同時に、音も無く一瞬で黒づくめの怪盗服姿に変貌する。

それは妹紅が形容したように、まさしく『変身』だった。

こちらに意識をむけていない妹紅を念のため警戒しながら彼は小声で呟く。

 

「(【イシュタル】、〈ディアラハン〉)」

 

——————しかし。

そこに何か変化が起きることはなかった。

 

(…………!?)

 

口を抑え、動揺の声が漏れないようにするだけの分別は辛うじて残っていた。

だが今の出来事は相当の衝撃を彼に与えた。

 

(よ……呼び出しに(、 、 、 、 、)失敗した(、 、 、 、)……!?)

 

過去に一度として無かった失敗に混乱する。

もう一度試してみようとするが——

 

「…………ん?」

「……!」

 

何かを感じたのか、不意に妹紅が振り返った。

反射的に変身を解除し、素知らぬふりをする。

不思議そうな表情の妹紅を無言のまま見つめかえしていると、彼女はハッと我に返った。

 

「…………あ、いや、その……わ、悪い」

「いえ、別に……」

 

頬を赤らめて謝る妹紅に対して、動揺を引きずってややつっけんどんな返答をしてしまう少年。

それを気にしたのか、妹紅は申し訳なさそうに少し俯いてしまい、自然と上目遣いになる。

そして少年の方も、自分の動揺が見透かされるのを恐れてその視線を直視できない。

 

竹林を歩いていた時とやや異なる種類の気まずい空気がその場を支配していた。

 

二人ともがいたたまれないこの空気を破壊してくれる何かを期待する。

そしてその何かはすぐにやってきた。

 

「お待たせ。師匠の許可も出たわ。早く入りなさい……って、何してんの?」

「あ、あー、そうか! それは良かった! じ、じゃあ行こうか!」

「そ、そうですね。お邪魔します」

「んん…………?」

 

なんだかやけに慌てているような気がする。

そう感じた鈴仙は何かあったのか質問しようかと一瞬思ったが、やめた。

そこまでするほど妹紅にも、この見知らぬ外来人にも興味は無かった。

 

「……じゃあ、私は先に行くわよ」

 

それだけ言い残し、彼女は屋敷の中へと引っ込み、それに妹紅と少年もやや早足で続いた。

 

 

長い廊下をしばらく歩いた後、数多くあるうちひとつの部屋に通される。

和室であることと静謐な空気とがあいまって、自然と正座になる少年。

妹紅は彼から少し離れた場所で壁にもたれ、腕組みした状態で立っていた。

 

案内をし、師匠を呼んでくると言って鈴仙が立ち去ってから1分ほど。

静かに障子戸が開く。

 

そこから入ってきたのは鈴仙と二人の女性だった。

鈴仙は立ったまま、彼女達はゆっくりと畳に座り、少年を観察し始める。

 

おそらく二人のうち一人は鈴仙の言う‘‘師匠’’なのだろう。

だがもう一人はいったい何者なのか。

彼はそんな疑問を抱いた。

 

真っ先に口を開いたのは二人のうち背が高い方の女性だった。

 

「それで、どこを怪我してるの?」

「……あ、その、左腕を」

 

唐突すぎて反応が少し遅れたが、なんとか返答はできた。

 

それを聞いた女性は少年の左腕をゆっくり掴み、顔を近づける。

マジマジと傷跡を眺め、頷いた。

 

「鈴仙、3番と17番に包帯をお願い」

「わかりました、師匠」

 

女性の言葉にそう返し鈴仙は部屋を出て行った。

少年はそのやりとりから情報を読み取る。

 

(なるほど。この人が‘‘師匠’’か)

 

この女性——銀髪に帽子を被り、赤と青が入り混じった服の——が鈴仙の師匠なのだろう。

傷跡から何かを把握した様子を見るに、医者かそれに近しい立場の人間か。

 

(ならここは病院か薬局みたいな場所、か?)

 

彼は限られた情報から推測を組み立てる。

 

その脇で妹紅は嫌そうな顔をしてもう一人、黒髪の女性に声をかけていた。

 

「なんでお前がここにいるんだよ、輝夜(かぐや)

「あら、ここは私が住んでる場所でしょう。私がいることに何の疑問があるかしら?」

「疑問と不満しか無い。いつも部屋にひきこもって、ここに来る患者になんてまるで興味ないくせに何で今日に限ってきてる? 第一、お前——」

 

妹紅は何かを言いかけたが、途中で思いなおしたようにその言葉を飲み込む。

それを見てクスクスと笑う、輝夜と呼ばれた少女。

 

「別にー? たまたま永琳(えいりん)のところにいたらイナバがやって来て、妹紅が変な外来人を連れてきたなんて言ったのよ。あなたがここに人を案内してくるのはいつものことだけど、わざわざ上がっていったりせずにすぐ帰るじゃない。それに外来人が来ることなんて滅多に無いし、少し気になって見物しに来たのよ」

「……………」

 

彼女の言葉に何かを反論することもなく、妹紅はその端正な顔立ちを歪めて黙りこみ、輝夜はそれをニコニコとしながら見つめていた。

 

 

少年はその間に戻ってきた鈴仙とその師匠に傷の手当てをされていた。

鈴仙が少年の腕を固定し、もってきた薬のうちひとつで患部を消毒すると、もうひとつを‘‘師匠’’が丁寧に薄く延ばして塗っていく。

彼が予想していた傷に薬が沁みる時の痛みはほとんど無く、拍子抜けした表情でおとなしく処置を受ける。

 

やがて腕に包帯を巻き終え、鈴仙とその師匠は満足そうに頷いた。

鈴仙は数歩後ろに下がり、扉の前に佇む。

 

「これでよし」

「そうね。どう? 腕をゆっくり動かしてみて。痛みはない?」

「はい、全然ありません。ありがとうございました」

 

こわごわと腕を曲げ伸ばしして支障が無いことを確認し、彼は感謝を述べるとともに頭を下げた。

対する女性は特に表情を変えることもない。

 

「いいのよ。これが仕事でもあるから。それより…………」

 

一拍おいてこう続く。

 

「あなた、外来人なのよね?」

「外来人、というのがここでないどこかから来た人間を指すのであれば、そうですね。俺は外来人です」

「その認識で間違ってないわ。ふむ、そうね」

 

と、彼女は思案するように言葉を切る。

そして何事かを決意した表情で少年に向きなおった。

 

「わかった。じゃあ私からあなたの現状について少しばかり話をさせてもらうわ」

「…………はい、わかりました」

 

少年も緊張した面持ちで居住まいを正し、話を聞く姿勢をとる。

 

 

 

女性は語った。

 

この場所が『幻想郷』と呼ばれる場所であること。

幻想郷は現実世界では存在できない神仏怪異の類や存在を忘れさられた者達が住む場所であること。

現実と幻想郷とは『博霊大結界』という結界で守られていること。

幻想郷の中で起きる揉め事を解決する手段として『スペルカード』というものを用いた一種の決闘があること。

稀に少年のように外部から幻想郷へ流れつく人間がいること。

 

それを聞き終えた少年は考えをまとめるために俯いた上で片手で顔を覆っており、その表情を他者が窺い知ることはできなかった。

しばらくそのまま黙りこくる彼をその場にいる全員が静かに見守っていた。

 

 

やがて少年は顔をあげた。

 

 

「……なるほど。だいたいのことは理解しました」

「そう。それは重畳。…………それで? こちらと同様、あなたのお話も私達に聞かせてくれる気はあるかしら?」

「……………………」

 

淡々と質問する女性。

彼はその質問にすぐ答えることはなく、膝の上で強く拳を握りしめた。

その感触を確かめるように二回、三回と同じことを繰り返し。

フッ、と息を吐いた。

 

「…………もちろんです。ただ……」

「……何かしら?」

「…………かなり長い話になると思います。できるだけ簡潔にまとめるつもりですが、自身を語る上で欠かせないことも多いので」

「そんなことか。全然構わないわよ。あ、だけど……」

 

彼女は後ろに座る輝夜をチラリと一瞥した。

それに気づき、輝夜も口を開く。

 

「私も暇つぶしがてらにここに来たし、長いならそれはそれで好都合よ。あなたはどうなの、妹紅?」

「……私は最初からそのつもりだ。色々と尋ねたいことはあるが、話を聞けばそれもわかると思うしな」

「ふーん、そう。イナバ、あなたは?」

「私は……別に、どちらでも……」

 

今度は鈴仙にむかって尋ねる輝夜。

 

……しかし、イナバとは何だろうか。

鈴仙というのが名前で、イナバというのが苗字なのか?

 

彼は小さな疑問を抱く。

その疑問は、

 

「いえ、せっかくだからウドンゲも聞いていきなさい。念のために、ね」

「……はい、わかりました」

 

というやりとりで更に膨らむ。

 

鈴仙? イナバ? ウドンゲ?

………………。

…………今は考えないでおこう。

 

「全員問題ないそうよ。それじゃ、お願いできるかしら?」

「ええ、わかりました……それでは」

 

少年は滔々と語り始める。

 

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