(……本人には絶対言わないけど、まあ……うん。悪くはなかったわね。……あ、あくまでそれなりだけど!)
誰に何を言われたわけでもないが、内心で言い訳のように繰り返す鈴仙。
その時の表情はやや緩んだものだったが、次の瞬間には憂鬱そうなものに変化する。
(……それがどうして、こんなことに…………)
ため息を漏らす彼女の背後には、連続して轟音を響かせる引き戸があった。
そして聞こえてくる叫び声。
「ええい、ちょこまかと! さっさと当たりなさい! 『永夜返し -寅の三つ-』!」
「ハハハハハッ! 今の俺にはそんなんじゃ掠りもしないぞ! 〈マハエイガオン〉!」
「ああ……もう! なんなのよ! 一日でいきなり強くなりすぎでしょ! なんで今のが当たらないのよ! つか何よその技! 任意の空間に出現する即時発動魔法とか避けられないじゃない! 不可能弾幕よ! 反則、反則!」
「だから迎撃にしか使ってないだろ? 仮にこれで攻撃するにしても、ちゃんと離れた空間を起点にして方向を指定して発射するさ! それなら文句無いだろ?」
「無いわよ! 無いけどムカつく! 絶対落としてやる!」
「ハハハ、やってみろ!」
…………そしてさらに酷くなる流れ弾幕。
もはや暴風が吹き荒れているかのようにガタガタと震える戸をなんとか背中で押しとどめる。
(暁も大概だけど、姫様ももう少しこっちに気を配って欲しいんですけど! なんで私が一番ピンチなのよ! 何もしてないのに!)
頭を抱える鈴仙。
「そらっ!」
「昨日よりは高くなってるけど、言ったでしょ! そんなんじゃ私まで届きは——って、えっ!? 嘘っ!?」
「…………! ハッ、どうだ輝夜! ついに届いたぞ…………っ————!?」
「…………え?」
そんな声が彼女の耳に届いた途端、あれほどうるさかった流れ弾幕がパッタリとやんだ。
鈴仙は耳を塞いでいた手を恐る恐る離し、依然として閉まったまま静かな戸を見て瞬きする。
(…………どうしたのかしら? 終わったのかな?)
身構えながら少し待っていても、やはり弾幕が再開される様子はない。
鈴仙は思い切って戸を開き、外の二人を探す。
(……いた。何やってるんだろ)
鈴仙から離れたところで地面に立ち、うつむいている輝夜の姿を発見する。
よく見えないが、輝夜のむこうには暁もいる。だが何故か倒れているらしく、うつむいているように見えた輝夜はそれを見下ろしていたようだ。
二人のもとに歩いていく。
「……姫様が勝ったんですか?」
「……いや、それが……」
「……………………」
輝夜は煮え切らない返事をし、うつ伏せで倒れている暁を驚きと呆れが混じった表情で眺める。
首を傾げた鈴仙も同じく暁を見下ろす。
二人に見下ろされる彼は沈黙したまま身動きひとつしない。
「…………どういう状況ですか」
「……私のところまでジャンプでこようとしたから、そのぶん私も上に浮いたのよ。そしたらいきなり、あのペルソナとかいうのを空中に出して、自分の足場にしてさらに跳んできたの。反応しきれずに動けなかったわ」
「そうですか。それから?」
「私の腕に触った後地上に着地して、自動追尾してた弾幕を避けようとしてたみたいなんだけど……いきなりガクッと体勢を崩して…………」
「…………で、この有様ですか」
輝夜の説明を聞いて、暁へと注ぐ視線の温度が下がる。
やられるにしても、それはさすがに間抜けすぎではないだろうか。昨日のことを思い出して「悪くなかった」とか考えていた自分が馬鹿らしくなってくる。
ジョーカーは鈴仙の視線が冷たくなったのをなんとなく察知し、倒れたままノロノロと反論する。
「別に、こけたとかじゃなくてだな…………時間切れになったというかだな…………」
「はあ? 時間切れ? なんの?」
「
「…………身体能力の低下についていけなかったと」
「…………そうですね…………」
力無く頷くジョーカー。
鈴仙と輝夜は顔を見合わせ、また視線を彼に戻し、同時に口を開く。
「「情けないわね」」
「……………………」
その言葉にとどめを刺され、ジョーカーは完全に地面に突っ伏し、再び沈黙した。
「…………もう大丈夫?」
「まあ、なんとか……」
時間が経って精神的にも肉体的にも受けたダメージがある程度回復し、立ち上がる。
既に変身は解いた状態だ。
「ぷぷ、暁ってばダッサ〜。ま、やっぱ私にはまだまだかなわないってことかしら?」
「はは、何を仰るやら。あんだけ『触ることもできてない』とか余裕かましといてあっさりやられてたのは誰でしたっけ? ん? 誰でした?」
「…………まだ痛い目みないとわからないのかしら……………?」
「ハッ! 相手のミスに救われただけのお姫様にそんなことできますか? 今度はミスなんてしないですよ。大人しく負けを認めたらどうです?」
「…………」
「…………」
空気が一気に張り詰める。
ニコニコとする輝夜に挑発的に笑う暁。
一瞬の停滞。そして双方が無言で構え——
「はいストップー! もう終わり!」
——ようとしたが、割って入ってきた鈴仙に阻止される。
「姫様、いい加減にしてください! 流れ弾幕が多すぎです! 扉が師匠の結界で補強されてなかったらとっくに壊れてますよ!」
「だって、暁が」
「言い訳しない! これ以上騒ぐと師匠にも怒られますよ! だいたいですね————」
「…………」
長々と鈴仙に説教をされる間、輝夜は子供のように頬を大きく膨らませ、抗議の意思を無言で示す。
しばらく説教をし、とりあえず納得はさせられた、と鈴仙は今度は暁に説教をしようと振り返る。
「姫様にもまだまだ言い足りませんが……暁も! わざわざ姫様を煽るような——って! 逃げるな!」
「……チッ、もう見つかったか」
こっそりと後ずさりして二人から距離をとっていた暁は鈴仙に見咎められ、舌打ちする。
「子供か!」
「説教される覚えはないからな。あと外の世界では十七歳は一般的に未成年、つまり子供だ。よかったな鈴仙。勉強になったろ?」
「なんでアンタが偉そうにしてんのよ! それくらい知ってたわよ! 今のは皮肉よ!」
「なんか疲れたな。昼寝でもするか。鈴仙も一緒にどうだ?」
「話を! 聞きなさいよ!! しないわよ!」
「じゃあ昨日手伝ってくれた礼もまだだし、香霖堂にでも行くか?」
「え? うーん…… どうしよ……それなら人里のあの店とか? いや、どうせならあの店もいいかな……」
ふてぶてしく開き直り、逆に自分のペースに巻き込もうと適当なことを言う暁。
まんまとそれに乗せられ、すっかり本題を忘れる鈴仙。
その瞬間、輝夜と暁の間でアイコンタクトが交わされる。
ほんの一分ほど前までやりあっていたのをすっかり忘れたかのように二人は息の合った連携を見せる。
「…………あ、鈴仙、後ろ」
「え? 後ろ?」
鈴仙は不意に呟いた暁に反応し、つい後ろを振り向く。
「(……輝夜!)」
「(仕方ないわね……私の手を掴みなさい!)」
「…………? 別に何もないけ——なぁっ!?」
鈴仙が暁に向き直ると、そこには暁の姿はおろか、輝夜の姿もなかった。
そして鈴仙からかなり離れた場所、縁側の戸が勢いよく閉まる。
普通に考えればこの一瞬であんなところまで逃げきれるはずが……いや、違う。
「姫様の能力使ってまで逃げるな! どんだけ説教されたくないのよ! それにお礼の件についての話も終わってないわよ! 待ちなさい!」
鈴仙は二人を捕まえて一発強烈な弾幕を叩き込むことを決意し、駆け出した——
「……鈴仙は輝夜の方に行ったか。すいませんね、輝夜。俺は貴女の犠牲を忘れません…………」
けたたましい足音が離れていくのを聞き、自室に戻った暁は安堵のため息をつく。
わざとらしく輝夜を心配するような言葉を吐き、目を瞑ること数秒。
「さて、それじゃこれから何をしようか」
茶番をあっさりとやめ、今日の予定を考える。
(…………そういえば、昨日の桐箱の中身をちゃんと確認してなかったな。あの紙、なんだったんだ?)
そこに思い至ると、昨夜机の上に置いてからまだ触ってもいない桐箱に目をやる。
(……一応確認だけしておこうか。人里の有力者が管理する書類なら、何か重要な情報とかがあるかもしれない。……もし個人的な手紙とかなら見るのはやめよう)
彼は桐箱を手にとり、蓋を外す。
中に隙間なく詰まった紙のうち一枚を適当に選び、抜き取る。
そして、その紙を流し読みしはじめるが————
(…………? これは……?)
紙は手紙ではなかった。が、そこに書かれていた情報に眉を顰める。
流し読みをやめ、真剣な顔で紙を眺めだす暁。
すぐにその紙の内容を読み終え、次の紙、また次の紙とどんどん抜き取って読み続ける。
やがて桐箱に入っていた最後の紙も読み終わる。その紙は他のものと少し異なる種類の情報が書かれていたが、それは他の紙のものと同じか、それ以上に重要な情報だった。
「…………」
いつしか彼の表情は険しくなっていた。
脳が高速稼働を始める。
しばしそのまま思考に没入し、これから行うべきことを組み立てていく。
「…………やっぱり、あそこだな」
結論を出し、彼は桐箱の中に紙を全て戻し、また元の場所に置く。
そして足早に部屋を出ていった。
「…………あ」
「ん? ああ、暁。どうかした?」
部屋を出てから一番に出会ったのはてゐだった。
鈴仙を探すつもりだったが、その前に彼女に頼んでみてもいいだろう。
「これから香霖堂に行くんだけど、二時間ほどしたら帰ってくるから、その時竹林の前で待ち合わせとかできるか? 行きはともかく、帰りは案内してほしいからさ」
「えー? いきなりだね。うーん、どうしよっかなー」
てゐはわざとらしく考える素振りを見せる。
「あ、でもあいにくとその時間は空いてないかなー。今日の料理当番、私だからさー」
「そうか。じゃあ仕方ないな」
「うん。鈴仙に頼めば?」
「……さっき怒らせたばかりだからあまり気は進まないけど、そうするよ。どこに行ったかな……」
そう言って踵を返す暁に、てゐは声をかける。
「よくわかんないけど、それならあいつに頼めば?」
「あいつ?」
「ほら、いるじゃん。この竹林に住んでて、ココまでの道案内もできて、しかも常に暇してるのが」
「? …………あ」
その言葉でとある一人の顔が思い浮かぶ。
確かに彼女なら頼みを聞いてくれるだろう。
「早速行ってくるよ。ありがとう、助かった」
「ん。なんだか知らないけど頑張ってー」
そうして暁が永遠亭を出て数分。
うろ覚えの記憶を頼りにしばらく歩いていると、目的地が見えた。
彼はその家を無事に見つけられたことに安心して近寄っていく。
扉をノックし、数日前と同じように中に呼びかける。
「すいませーん。来栖暁ですー。
それに少し遅れて返事が聞こえる。
「……はーい、ちょっと待っててくれー」
すぐにパタパタと足音が近づいてくる。
そしてガラリと扉が開き、彼が探し求めていた人材が顔を出す。
「いらっしゃい。遊びに来たのか?」
「そう言いたいのはやまやまなんですが……ちょっと妹紅さんにお願いしたいことがありまして」
永遠亭以外で竹林に住むただ一人の存在——藤原妹紅。
暁は彼女に道案内をしてくれないかと相談する。
「——つまり、香霖堂の帰り道の案内をしてほしいと」
「はい。もしよければお願いできないかと……」
「うん、いいよ」
申し訳なさそうにする暁に妹紅は即答する。
「暇だしね。今からついていくよ」
「え? や、そこまでしてもらうのは……」
「いいからいいから。どのみち今日は人里に行くつもりだったし、それまで私の暇つぶしに付き合うとでも思ってくれ。さ、行こう」
「……は、はい。ありがとうございます」
あっさりと了承をもらった上、親切すぎる申し出を受けて戸惑う暁だったが、歩きはじめた妹紅に慌ててついていく。
一方的に迷惑をかけていることにやや緊張気味になっていたが、彼女から話題を振られるのに応じて雑談をするうちにそれも次第に消えていった。
久々の人間との会話が楽しげな妹紅。
暁も彼女との会話を楽しみながら、香霖堂までの道のりを過ごした。
「いらっしゃい。今日は珍しい人を連れているね」
「こんにちは霖之助さん。こちらは……」
「藤原妹紅だ。今日は暇つぶしがてら道案内をしてる。私自身は特にこの店に用はない。あるのはこっちだ」
妹紅は自己紹介をしながら暁を前に押す。
「これはこれは。僕は森近霖之助。このしがない店の店主をしているよ。噂だけは聞いているよ、竹林の案内人さん。……それで、暁はなんの用だい? また地図が必要に?」
「…………人里について、もう少し詳しい話を聞きたくて。特に、
「……ふむ、なるほど。わかった。あがっていきたまえ。長い話になるだろうから。藤原さんはどうする? 君も聞いていくかい?」
「……やめとこう。さほど興味もないし、私が聞く内容でもなさそうだ。私は人里に行ってくるよ。暁、悪いけどやっぱり二時間後の待ち合わせってことでいい? 場所はこの店で」
「もちろんです。……すいません」
「気にすんな。じゃ、また後で」
暁の話があまり人に聞かれたくない部類のものだと察した妹紅はそう言って店を去っていった。
彼女の思いやりに頭を下げ、暁は霖之助に向き直る。
「…………では、お願いします」
「ああ。それじゃ、ついてきてくれ。お茶でも出そう」
霖之助に続き、彼は香霖堂の奥へとあがっていった。
今回はぜんっっぜん面白くないですね。
話を繋げるのにどうしても必要だけどすごいつまらない内容に。内容が無さすぎてサブタイにも困りました……
次の更新ではちゃんと話を進められると思うので、何卒……!