Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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It's a beautiful day outside.
Birds are singing,flowers are blooming...
On days like these, kids like you...

Should be burning in hell.


Chapter:3
甘美なる闘争


いつものように賑わう人里。

しかし、今日の人々の表情は普段より興奮したものであり、彼らの話す内容も異なっていた。

 

「おい、読んだか?」

「稗田家に入った賊のことか? 当然だろ」

「盗んだものをもう一度忍び込んでわざわざ返してたんだろ? すげぇよな」

「犯人は誰だ? 妖怪か?」

「妖怪ならもっと簡単に逃げれるだろ。確か、走って逃げてったんだろ?」

「じゃあ人間か。誰だ? そんなバカをやるようなやつがこの里にいたのか」

「誰だろうなぁ。あー、くそ! もっといろいろ知りたいぜ!」

 

往来にいる誰もが怪盗の話題でもちきりだった。

そして、笑いを堪えながらそれを眺める二人がいた。

 

「ははは、見ろよ鈴仙。文句なしに大成功だな」

「まったくね。まるでお祭り騒ぎよ。こんな騒ぎを引き起こしてる当人が自分の隣にいるって思うと変な気分になるわ」

 

道を歩きながらそう話す暁と鈴仙。

彼らは自分の目で人里の様子を確認しにきていた。

 

(……ま、調子には乗れないけどな。こういうのに浮かれると痛い目を見るってのはうんざりするほどわかってる)

 

楽しそうな表情から一転、醒めた目になって苦々しげになる暁。

大きく深呼吸し、気分を切り替える。

 

「…………っし。じゃ、とりあえず打ち上げだな! 鈴仙、適当な店に案内してくれ。奢るよ」

「ホント!? じゃ、高くて普段はなかなか行けない甘味屋でもいい!?」

「好きなだけ食べてくれ。永琳達にもお土産買わないとな」

「やった! じゃあ早く行こ! こっちこっち!」

 

暁の申し出に鈴仙は喜色満面で先導する。

彼も鈴仙のその様子を見て苦笑しながら、彼女の後についていった。

 

 

甘味屋にはたくさんの客がいて大賑わいだった。

なんとか空いていた席を確保し、ワクワクとしながらお品書きを手にとる鈴仙。

彼女の隣に座った暁はぼんやりと周囲を見回して時間を潰していた。

 

しばらくぼんやりしているとようやく鈴仙も頼むものを決めたらしく、近くの店員を呼びとめて注文する。

彼は特に口を挟まず、彼女が注文するのに任せていた。

そして運ばれてくる数々の注文した品。

彼女はそれを見て目を輝かせる。

 

「わー! この店でこんなにいっぱい食べられるなんて! ありがと、暁 ! 今日はとってもいい日ね!」

「おお、ずいぶんと頼んだな。団子、あんみつ…………え? か、かき氷? 冬なのに? 寒くないか?」

「そのためのこのお汁粉よ! かき氷で冷えた体をお汁粉であっためる! 最高の贅沢よね〜!」

「……そ、そうか。いや、お前が食べられるなら良いんだけどな。えっと……だいたいこれだけあればお土産代も足りる、か?」

 

代金をおおまかに計算し、それにいくらか上乗せして鈴仙に金を渡す。

 

「俺はどれを買って帰れば喜ばれるかわからないから、鈴仙が選んでおいてくれ」

「え、いいけど……暁は食べないの?」

「そのつもりだったけど、なんか見てるだけで胸焼けしてきて……そこの団子、一本だけでいいからくれるか?」

「ん、どうぞ。これから何するの?」

「とりあえず人里を歩いてみるよ。しばらくしたらここに戻ってくるから」

 

鈴仙から団子を受け取り、踵を返す。

 

「わかったわ。いってらっしゃーい」

 

背中にかけられた彼女の声に手を振ることでこたえ、彼は甘味屋を出た。

左右をキョロキョロとし、どちらにむかって歩くか思案する。

 

(……稗田家は左だな。行ってみるか? ……いや、彼女は通してくれるだろうが、家の人間に怪しまれるのは間違いない。正面から行くのはダメだな。かと言ってさすがに昼間から忍び込むのは厳しい。…………うん。今日は適当にぶらついてみよう)

 

そう決めて暁は甘味屋を出て右の方向へ歩き出した。

 

 

「————はあ、はあ……」

 

彼は息を切らしながら石段を一歩ずつあがっていく。

ぼんやりと歩いているうちに、いつのまにか人里を抜けていた暁は、山の中に続いていく階段を見つけた。

 

……頂上から景色を見下ろしてみようか——

 

なんとなくそんなことを思いつき、彼は石段を登ることにした。

最初は筋トレがてら駆け上がっていたが、石段は予想以上に長く、途中で息切れしてしまった。

どうやらまだ自分の筋力では、この石段は走破できないようだ…………

 

…………ようやく石段を登りきり、大きく深呼吸する。

 

「スー…………ハァ。いやぁ……なかなか手強かった。けど、トレーニングには有効かもな……」

 

薄く滲む汗を袖で拭い、呼吸を整える。

そしてたった今登ってきた後ろの石段を見下ろす。

 

…………とんでもなく、長い。

 

かなり上まで登ってきたらしい。

そして————

 

「……………………おぉ」

 

見晴らしのいい景色に思わず感嘆する。

人里を一望するどころか、遠くの山まで何も遮るものがない。

科学技術が発展していない幻想郷は空気も澄んでおり、景色を味わうには絶好の条件が揃っている。

 

どこかから鳥の囀りが聞こえてくる中、暁は瞬きも忘れてその景色を眺める。

と、そこで。

 

「…………あ、忘れてた」

 

右手に視線を落とす。

走っている間も歩いている時も、ずっと握っていた団子は一つも落ちず、きちんと串に刺さったままだった。

 

その三つのうち一つをパクリと頬張る。

 

優しい甘みが口の中に広がる。

 

(…………美味しい)

 

彼はもぐもぐと咀嚼しながら後ろに振り返る。

石段が何に繋がるものだったのかをまだ確認していなかったことを思い出したのだ。

 

そこにあったのは、神社だった。

 

(……神社? …………確か、どっかで聞いたような…………あ)

 

引っかかるものを感じた暁は記憶を探り、そして目を見開く。

 

(ま、まさか博霊神社……!? 確か、結界を管理してる巫女がいるとかいう……え、マズくないか? すぐ逃げるべきか……!?)

 

思わぬ事態に動揺し、登ってきた石段に足をかける。

が、そこでもう一度振り返る。

 

(…………いや、待てよ。その割には人の気配がないな。俺がここで立ってる間も声の一つもかけられなかったし……ひょっとして、留守なのか?)

 

本殿の様子を窺うが、特に何の物音も聞こえてこない。

彼はひとまず冷静になり、神社へと向きなおる。

 

これからどうするべきか、しばし思案する暁。

 

(……せっかくここまで来たんだし、お賽銭くらいは入れていこうか。どうせ幻想郷を出る時にはお世話になることは確定してるんだし。で、帰ろう。その頃には鈴仙も食べ終わってるだろ)

 

そう結論づけ、スタスタと本殿に近づいていく。

近づくにつれ、もし誰かが出てきたらどうしようかという緊張も強まるが、賽銭箱の前に立つまで誰一人として現れなかった。

 

彼は財布を取り出し中を覗く。

どれくらいの額にするか悩みかけるが面倒になり、所持金全額を賽銭箱に放り込む。

 

(よし。じゃあ帰ろうか)

 

踵を返し、鈴仙のもとに————

 

 

「————律儀だね。この神社に賽銭を入れていく奴は初めて見るよ」

 

 

ピクッ、と小さく肩が跳ねる。

振り返ることなく、背後に尋ねる。

 

「…………おや、人がいらっしゃいましたか。誰もいないかと思ってましたが」

「あはは、まあそれもあながち間違いじゃない。人はいないよ。ここの巫女もしばらくは帰ってこない」

「…………これは異なことを。あなたがいるではありませんか」

「いやいや、嘘じゃない。嘘は嫌いだしね。ここにヒトはいない。だって私は————」

 

 

()だからね」

 

 

ゆっくりと背後を振り返る。

そこにいたのは徳利瓢箪を持つかなり小柄な少女。

だが、彼女に生えた()()()()が何より雄弁に、彼女が人間ではないのだと語っている。

ゴクゴクと瓢箪から何かを飲み、満足そうな笑みで口を拭う。

 

「……鬼、ですか。この目で見るのは初めてですね。やれやれ、今日はいい日だ」

「はは、喜んでもらえて光栄だね」

 

カラカラと笑う少女——鬼に、暁は笑顔で一礼する。

 

「いい思い出になりました。それでは——」

「待ちなよ。私ともう少し話でもしていかない?」

 

彼の言葉を遮り、鬼は瓢箪に口をつける。

 

「……ふぅ。誰かと話すってのも酒の肴になるもんだ」

(…………中身は酒か。見た目幼い女の子、飲んでいるのは酒……犯罪臭が凄い)

 

現実逃避気味に考える暁。

…………なにやら嫌な予感がする。

 

「酒の肴でしたら、この団子を差し上げましょうか? 一つ食べてしまったのですが、よければ……」

「お、いいの? それじゃ、もらうよ」

 

ニッコリと笑い手を出す鬼。

ゆっくりと彼女に歩み寄り、その手に団子を置く。

彼女は一息に二つの団子を飲み込み、酒を流し込む。

 

「……プハァッ! うまい! 最高だね!」

「それはよかった」

 

愛想笑いしながら彼女から差し出された串を受け取ろうと片手を伸ばす暁。

 

——ガシッ。

 

鬼はもう片方の手で暁の出した腕を掴む。

 

()()()、酒の肴にはもっとイイものがあるんだ」

「…………」

「それはね…………」

 

無表情になる暁と対照的に、鬼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

()()

 

 

彼女の手を無理にふりほどくようなことはせず、彼は掴まれた腕を下ろす。

 

「…………恐ろしいことです。私のような非力なただの人間には、鬼のお相手など務めることはできません」

「まあまあ、話はまだ終わってないよ」

 

鬼はおかしそうに笑う。

 

「……ここの巫女は基本的にぐうたらでね。自分から動こうとすることはほとんどない。けど、今のあいつはずいぶんと真面目に働いてるらしい。これは相当凄いことなんだ。よほど重要な仕事をしているか、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()。どちらにせよ、滅多にない」

 

唐突に感じる話を黙って聞く暁。

 

「あ、『密と疎を操る程度の能力』っていうんだ。私が持ってるのは。人や物を(あつ)めたり、反対に散らしたりすることもできる。あんたが誰もいないと思ったのはその能力を使って私の存在を散らしてたからさ」

「…………」

「でね? 昨日、天狗が出してる新聞を拾ったのさ。……これまたずいぶんと面白い内容だったよ。珍しく、ね。怪盗…………だっけ? 興味が湧いてさー。会いたくなったわけ」

 

下から暁の顔を覗き込む鬼。

 

 

「だからね? 『()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

鬼はスッと目を細める。

 

「あの巫女が真面目になるくらいの何か、そしてそのタイミングで起きた妙な事件…………怪しいとは、思わない?」

「…………」

「……………………ねぇ」

 

 

お前、何を知ってる?

 

 

————刹那、噴き上がる蒼炎。

 

「!?」

 

鬼は掴んでいたものが消えるような感覚と、その衝撃的な出来事に動揺し、一瞬思考が停止する。

その隙を突いて彼は後ろに飛び退る。

 

「…………驚いた。人間だと思ってたんだけど、違ったか」

「……違いませんよ。れっきとした人間です」

 

ジョーカーは体を軽く動かしながら訂正する。

 

「人間ねぇ……? 変わった能力を持ってるもんだ。手品のタネ、教えてもらえない?」

「…………なら、こう答えておきましょうか。『タネも仕掛けもございません』」

「へえ、そう。……面白い。ちょっと遊んでもらおうかな」

「…………」

 

好戦的に吊り上がる鬼の口角。

ジョーカーは右手にナイフ、左手に拳銃を構えて臨戦体勢に入る。

 

 

「鬼の四天王、その一角。伊吹 萃香(いぶきすいか)

「…………ただの怪盗、ファントム」

 

 

名乗りをあげる鬼——萃香に合わせて名乗るジョーカー。

 

「とりあえず逃げられないよう、動けないようにしてからじっくり話を聞くことにするよ。かかってきな、()()

「…………行くぞ、()

 

底冷えする眼光を放ち、ジョーカーは地面を蹴る。

鈴仙が目で追うこともできなかったその初動を、しかし萃香はしっかりと捉えていた。

正面から突っ込んでくる彼を迎え撃つつもりで萃香は右拳を振り上げるが……

 

「なっ!?」

 

いきなり後ろから何かに突き飛ばされ、たたらを踏む。

よろめく彼女、その右腕にジョーカーは躊躇なくナイフを振るう。しかし、その刃は肉を割ることなく、表面を薄く裂いただけに終わる。

萃香の想像を遥かに超える頑丈さに目を見開くが、すぐさま距離をとる。

 

そして左手の拳銃を無造作に撃つ。

破裂音とともに飛来する数発の銃弾。

それを萃香は避けることもせず、正面から受ける。

全弾命中。

だが…………

 

「…………やれやれ、驚きっぱなしだね。今のタネも聞くことにしようか」

「…………チッ」

 

無傷のままの萃香に舌打ちするジョーカー。

銃弾は彼女の肉体を貫通することなく、全て弾かれた。

これでは牽制にもならない。

 

拳銃をしまい、左手にもナイフを持つ。

普段はしない変則的な構えだ。

 

「(…………スカルやノワールの銃なら、あるいは)」

「ん? 何か言った?」

「……いや、何も」

「そうかい。…………ふふ、ふふふ。久々に滾ってきたよ……殺す気はない。でも、殺す気でこい!」

 

萃香の雰囲気が変わり、圧力が増していく。

本気、ということだろう。

 

(…………だったら)

 

こちらも、新たな(本来の)チカラを見せてやろう。

 

「【——】、〈()()()()()()〉」

「————ッ!」

 

彼が何事かを呟いた瞬間、気配を感じて萃香はバッと後ろを振り向く。

だが、既にそこには何もいなかった。

さらに。

 

「ぐっ…………!? なんだ、力が……!?」

 

一瞬襲う急激な脱力感。

全身から力が抜ける。

それを気合いで堪え、彼女はジョーカーを睨む。

 

(…………力が半端にしか出ない。これもこいつの能力か)

 

自分の身体能力が低下していることを直感で理解する。

半端な力と言っても、鬼の肉体。

人間がまともにやりあうことなどできない。

それでも、萃香はもう油断しない。

彼女の本能が告げているからだ。

 

——この人間は強い、と。

 

「……〈チャージ〉、〈ヒートライザ〉」

「…………準備はいいかい?」

 

 

何かしらの手段で自身を強化している。

それを理解しながらも、彼女は手を出さずにそれを見守っていた。

 

理由は至極単純。

この怪盗の全力を見たくなったからだ。

 

先ほどの不意打ちや、自分にかけられた弱体化に怒ることはない。

戦いの最中に油断していた自分が悪かったのだ。

戦いが始まる前に毒を盛ったりするような行為とは違う。戦う者として正当な権利だ。

 

 

「…………ああ」

「それじゃ、今度はこっちから!」

 

萃香は今出せる己の全力を拳に込める。

そして、能力を発動させた。

 

「さあ、()()!」

「!!」

 

自分の方へ相手を萃めることによって、強引に引き寄せる。

萃香へと引っ張られる力を敏感に察知したジョーカーはその力に逆らわず、風のように疾る。

振り抜かれる直前の萃香の拳めがけて、自分の速度と引かれる力を乗せた飛び蹴りを放つ。

 

 

————ドゴォッッッ!!!!

 

 

まるでトラックとダンプが衝突したような轟音。

萃香は渾身の拳を真っ向から弾かれ、ジョーカーの方も体ごと後ろへと吹き飛ぶ。

 

萃香はすぐに前を見据え、ジョーカーも地面に叩きつけられる瞬間受け身をとって転がり、低い体勢で構える。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

一瞬の静寂を挟み。

言葉も無く激闘が始まった。

 




Do you wanna have a bad time?

萃香との戦い、それも本気のバトルが必要だったのでこういう形に。
ここからの話の展開的にできるだけ早く戦う必要があったので。
「いい日」を強調したのは前書きのネタを使いたかったのもありますね。
わかる人は少ないと思いますが……
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