Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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神は言っている——ここで死ぬ運命であると——

地霊殿を出た暁はさっき出会ったばかりのさとりについて考えていた。

どんな相手かと構えていたのが、実際には物静かでまともな妖怪だった。

やはり噂というのはあてにならないのかもしれない。

 

(……いや、今回はちょっと違うか。どうやら彼女は俺の心を読めなかったらしいし、読めていたらどうなっていたかはわからない。それに、さっきの少女をペットにしてるって事実に変わりはない。…………しかし、ペットって……)

 

彼は緩めそうになったさとりへの警戒心を引き締めなおす。

 

……実のところ、さとりのペットである燐は火車という猫の妖怪であり、本来なら猫の姿をしている。

彼がその状態を見ていればまた違う印象を抱いていたかもしれないが、人間形態しか知らず、こいしもそこの説明を暁にすることを忘れてしまっているため、結局その誤解はまだ続くこととなる。

 

隣を歩くこいしは、難しい顔で考えこむ暁の袖をクイクイと引っ張る。

 

「ね、ね。挨拶も終わったし、地底観光しようよ! どこ行きたい!?」

「…………とりあえず帰りたいかな……」

「だーめ!」

「だよなぁ…………」

 

嘆息する暁。

せめて、被害をなんとしても最小限にしようと思考を回転させる。

 

「……せめて、行くなら誰もいないところがいいな。あまり賑やかなところには行きたくない」

「静かなところってこと?」

「誰もいないなら別にうるさくても構わない」

 

人混みを嫌がる引きこもりのような自分の発言に苦笑いする暁。

怪盗団の仲間にも元引きこもりが一人いたが、まさに今の自分と同じような発言をしていた。

 

「なるほどー。それならちょうどいいところがあるよ! 間欠泉地下センター! あそこにはお姉ちゃんのペットのお(くう)一人しかいないし、今は施設が壊れてて稼働もしてないはずだから、ぴったりでしょ!」

「間欠泉地下センター……?」

「そう! お空の力で核融合を制御してるところ!」

 

彼女の言葉に思考が一瞬停止する。

 

(…………!? ……か、()()()!? 幻想郷の技術水準云々って話はどこに!? 第一、そんなエネルギーで何をしてるんだ!?)

 

 

カルチャーショックを受けて固まる暁にお構い無しに、こいしはふわりと浮かんで彼を見下ろす。

 

「そうと決まれば早速行こ! もたもたしてるとおいてくよー!」

 

有言実行とばかりに彼女はその場に暁を残してそのまま飛んでいく。

 

「………………あっ! ま、待てって!」

 

このままでは彼女を見失ってしまう、という段階になってようやく再起動した彼は慌てて彼女の後を追った。

 

 

 

飛ぶ彼女を追いかける暁は、やがて巨大な建造物を目にする。

こいしは近代的な造りのその建物の前に降り立ち、こちらを振り返って大きな声で呼びかけてくる。

 

「これが間欠泉地下センターだよ! おっきいでしょ!」

「……ああ。大きいな。地底なんて場所でどうやってこんなものを……」

 

ようやく追いついた彼はそう答えながらその建造物を見上げる。

地霊殿と同じか、さらに大きく見える。

 

「この中にお空がいるはずだから案内してもらおう! 人間がここを案内されるのは多分初めてだよ。よかったね!」

「そうか、それはよかった」

 

腕を引っ張るこいしに生返事をしながら依然として見上げ続ける暁。

こいしもその反応に気を悪くすることもなく、ぼんやりしている暁をグイグイ引っ張っていく。

彼はこいしに引っ張られるままに上の空のままで建物の中へと歩いていった。

 

 

案の定、中も外見と同様に近代的なデザインだった。

久々に現実世界に戻ったような気分になりながらこいしに手を引かれ続けていると、不意に彼女が声をあげる。

 

「あ、おーい! お空ー!」

 

彼女の視線の先には大きな翼が生えた少女の姿があった。

こいしの呼びかけに反応し、その少女はこちらに振り向く。

 

「うにゅ? …………あ! こいし様!」

 

タッタッタッ、と軽快な足音とともに駆け寄ってくる少女。

……よく見ると、かなり印象的な少女だ。

 

背中には大きな黒翼、片足にはずいぶん重そうなブーツ。

胸元には赤いクリスタルのようなものがあり、極め付けにはその右腕。

明らかにアンバランスな多角柱の物体が装着されている。ブーツもそうだが、重くないのだろうか。

 

彼がお空と呼ばれたその少女を観察していることには気づかず、二人の少女は和気藹々と会話を始める。

 

「お久しぶりですこいし様! こんなところにわざわざ来るなんて、どうしたんですか!? あ! もしかして遊びに来たとか!?」

「違うよー。あ、違うとも言えないのかな? 今日はここを案内してもらおうと思って!」

「案内ですか? ふっふっふ、任せてください! 隅から隅までお見せします!」

 

少女は胸を大きく叩いてそう豪語する。

……と思いきや首を傾げた。

 

「……でも、どうして今さら? ここができてからもうずいぶんと経ちますよ?」

「今日は私だけじゃないからね。お兄ちゃんの地底観光も兼ねてるの」

「お兄ちゃん? …………わ! に、人間!? こいし様が誰かと、それも人間と一緒なんて!」

 

ようやくこちらに気づいたらしい少女は大袈裟に驚いたポーズをとった。

 

(…………そういえばヤマメさんもそんなこと言ってたような。普段のこいしはいつも一人で行動してるのか)

 

だからこそ、自分とあちこちに行くのが楽しいのかもしれない。

そんなことを考えながら少女に一礼する。

 

「どうも。その……………………『お兄ちゃん』です。………………よろしく……」

 

……なんと間抜けな自己紹介だろうか。

つい流れで言ってしまったが、途轍もなく恥ずかしい。いや……それ以前に、こんな自己紹介が通じるはずが————

 

「ど、どうも! 霊烏路(れいうじ) (うつほ)です! よろしくお願いします、お兄ちゃん! 私のことは好きに呼んでください! さとり様やこいし様にはお空って呼ばれてます!」

「えっ」

 

今の自己紹介に疑問を持った気配すらない。

素直…………というより、なんだろう、疑うこと自体を知らないような、そんな感じがした。

 

ガバリと頭を下げた少女——空は暁に左手を差し出す。

握手を求められていると理解した彼は、予想外の事態に瞬きしながらその手を握る。

さほど力は入れずに握る彼とは対照的に、空はめいっぱい力強く手を握り、ブンブンと上下に勢いよく振る。

 

「こいし様のお兄ちゃんと会えるなんて光栄です! 初めまして!」

「あ、うん。こちらこそ……」

 

ニコニコと笑う空の勢いに気圧されながらも、とにかく頷く。

 

「ちょうど今日は施設の壊れてた箇所が修理されるんです! ラッキーですね! 稼働してる間は入れない場所も見れるし、稼働する瞬間も見れますよ!」

「そうなのか。それは確かにいいタイミングだったみたいだな」

 

あまり乗り気ではなかった暁だが、彼女の言葉で興味が湧いてきた。

一種の職場見学だ。それも、核融合施設なんてロマン溢れる場所の。

秀尽学園の職場見学で行ったテレビ局は酷く退屈だった上に、案内する人間もやる気がなかった。

 

しかし今回は違う。

興味が尽きない場所を、やる気に満ちたこの少女が案内してくれると言う。

ここはお言葉に甘えさせてもらおうか……

 

「…………じゃあ、頼もうか。よろしく、空」

「はーい! 任せてください、お兄ちゃん!」

「あ、お空ずるーい! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよー?」

「こいし様のお兄ちゃんなら私のお兄ちゃんでもあると思います!」

「……なら、二人のお兄ちゃんだね!」

「ですね!」

「三人しかいないのに本当に賑やかだな…………」

呼び名を訂正しようかとも思ったが、ヤブヘビになりそうなので諦める。

彼は飛びついてきたこいしをもはや慣れた手つきで肩車し、お空と並んで歩きはじめた。

 

 

地底の暮らしや彼女達についての話を聞きながら、間欠泉地下センターの各所を巡る。

 

「——なるほど。核融合のエネルギーで地底全体を暖かくしてるのか。で、普段は高温で近づけないけど、ここから地上へと繋がってる……と。なかなかド派手な暖房だな」

「そうですね。私の『核融合を操る程度の能力』は余計な放射線とかは撒き散らさないようにできるので、安全かつ超便利です!」

「ははっ、名前からして強力そうな能力だってすぐわかるな」

「そうですよ! 私の火力は最強です!」

 

胸を大きく張って自慢げに言う空。

笑いながらその隣を歩く彼はすっかり彼女とも打ち解け、気を許していた。

そんな彼の頭上から、肩車されたままのこいしが空に尋ねる。

 

「ねえ、壊れた箇所の修理っていつ頃始まるの? だいたいのところは見て回ったし、そろそろ稼働してるところを見たいなぁ」

 

その言葉ではたと何かに気づいたように立ち止まる空。

 

「そういえば、そろそろ修理が始まってもおかしくない時間のはずですね。あれれ?」

 

彼女はそう言いながら首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる。

 

「…………もしかしたら忘れられてるのかも? こいし様、お兄ちゃん、ちょっと行ってきますね!」

「行くって、いったいどこに——」

「では、失礼します!」

 

暁の言葉を最後まで聞かずに、翼を広げた空はすごい勢いで飛んで行ってしまった。

狭い屋内にも関わらず何かにぶつかったりすることもなかった。

 

(……やっぱり地獄鴉っていうだけあって飛ぶのが上手だな。…………いや、弾幕ごっこをする者にとってはこれくらいできて当然なのか?)

 

彼はその飛行技術に感嘆するとともに、まだまだ慣れない自分の身一つでの飛行を思い返す。

あれほどの滑らかな動きをするにはかなりの練習がいることだろう。

今後のためにも早めに習熟しておかないと…………

 

「ね、お兄ちゃん?」

「ん、どうした?」

 

こいしは考え事をしている彼の頭をポンポン叩いて注意を引く。

 

「お空はどっか行っちゃったし、戻ってくるまで外で遊ぼ? 鬼ごっことか!」

「…………そうだな、いいぞ。だけど二人しかいないのに鬼ごっこでいいのか?」

「うん!」

「わかった。じゃあ行こうか。ルールはどうする?」

「えっとねー…………」

 

のんびりと会話しながら二人は間欠泉地下センターを出て、時間を潰しながら空を待つことにした。

 

 

二人はしばらく鬼ごっこをするも、次第にこいしも飽きてきた。空がなかなか帰ってこないのだ。

仕方がないので、暁は違う遊びをして時間を潰すことを提案した。

 

「だるまさんが……………………」

「…………」

「…………転んだ!」

「!」

 

暁が振り返った瞬間、ピシッと固まるこいし。

両手を挙げ、片足で立つという不安定な体勢にも関わらず、微動だにしない。

数秒その状態が続き、再び彼女に背中をむける。

 

「だるまさんが……転んだ!」

 

今度はバレエのようなポーズをとっている。

「だるまさんが転んだ」を二人でやっているだけだが、はたから見れば何をやっているかさっぱりわからない。

 

単に止まるだけではつまらないと言って、こいしは自分で難易度を上げて暁に挑戦しているのだ。

勝率はちょうど半々。

ここで勝つ! と彼女が強い意気込みを見せていた、その時。

 

「あ、こいし様ー! お兄ちゃーん! お待たせしましたー!」

 

空がようやく戻ってきた。

二人は顔を見合わせて、ゲームを中断する。

 

「遅ーい! いったいどこ行ってたの?」

「すいません、修理してくれる大工さん達のところに行ってました。どうやら今日の仕事を忘れてたみたいでー」

「仕事を忘れるなんてお空しかやらないと思ってたけど、そんなのが他にもいたんだね!」

「あ、ひどい! 私だってそんなに忘れたりしてないですよ!」

 

彼女はからかうようなこいしに頬を膨らませて抗議する。

そこに暁が後ろから肩を叩く。

——何故か、青ざめた顔で彼女がやってきた方向を凝視しながら。

 

「…………空。その大工っていうのは……()()か?」

「うにゅ? ……あ、そうですよ!」

 

暁が指差していたそれを見て、元気よく答える彼女と対照的に、彼の顔にはじわじわと絶望の色が広がる。

 

彼が見たもの、それは————

 

 

「……ったく、酒ばっか飲んでて仕事忘れるなんて馬鹿がこんなにいるなんてね」

「はは、面目ねぇ!」

「すいません、俺らに付き合ってもらって」

「いやぁ、しかしまさか姐御が手伝ってくれるとは! どういう風の吹き回しで?」

「暇だっただけだよ。ほら、くっちゃべってないで仕事を…………ん?」

 

 

 

絶対に会いたくないと思っていた存在。

 

————()()()()だった。

 




なんとか今日中には更新できました。

視聴してる幻想入りシリーズが一気に二作も更新来たんです、許して……
気になる人はニコ動のタグで「p4幻」と「東方地底伝」で検索してください(ダイマ

地底伝は「Undertale」を知ってる人向けですね。
アンテ知らない人は実況動画とかもあがってるので是非観ていただきたい。同じくニコ動にあがってますので…………あの感動をより多くの人に知ってほしい。
どうでもいいことですが、自分がこのSSを書きはじめたのはp4幻がきっかけで、東方そのものを知るきっかけになったのは東方地底伝、ひいてはアンテです。
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