Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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前回の話で『保険』についての説明を忘れていたので追加しておきました。申し訳ありません。
ここでザックリ一言でまとめると、暁は「完全神柱」っていうあらゆる攻撃半減アイテムを持ってました。それが『保険』です。


次の標的への備え

ひとしきり笑ったこいしは「…………で、どうするの?」と尋ねる。

その質問に顎をさすって思案しながらジョーカーは答える。

 

「永遠亭に戻ろうかとも思ってたんだが、心配かけさせるなって言われた直後に死にかけました! ……とか言ったら鈴仙に何されるか…………」

 

彼は話しながら若干顔色が悪くなり、身震いする。友好的だった勇儀とは違って、鈴仙は身内なだけ遠慮や容赦がない。

永遠亭に戻ることをやめるべきか慎重に考え、結論を出す。

 

「……いや、やっぱり永遠亭には戻ろう。色々とやらないといけないことがある。だけど、あくまで何事もなかったというスタンスでいこう。お前も頼むぞ」

「全部秘密にしておくってこと?」

「そういうこと。こんなこと知られたら何されるかわからなくて怖い」

「はーい。……隠してたことが後でバレた方が怖いんじゃないかなぁ

「助かる。それじゃあ早速戻りたいんだが……」

 

ジョーカーの頼みを承諾した彼女は自分にしか聞こえないくらいの声で呟いた。

そんなことはつゆ知らず、了承を得てひとまず安心したジョーカーは辺りを見渡す。

 

「……正規の出入り口じゃないから方角も何もわからないな。上から見ればわかる、か?」

 

彼は地面を蹴って飛び上がる。こいしも同じくふわりと浮き上がる。

地上を離れた二人は高さ約30メートルまで上昇、現在地の検討をつける目印になるものを探す。

 

「うーん……俺はまだ幻想郷の地理に詳しくないからよくわからないな……」

「お兄ちゃんは外の世界から来たんだっけ。ならわからなくてもしょうがないねー」

「永遠亭以外だと香霖堂か人里くらいしか知らないからな…………ん? あれ、そういえば……まだ正式な自己紹介とかしてなかったよな?」

 

不意に気づいたジョーカーがこいしを見ると、彼女はこくりと頷いた。

 

「そうだね。でもお兄ちゃんについてだいたいのことはもう聞いてるから、今さら自己紹介とかはしなくていいよ」

「悪いな。会った時から色々とありすぎてすっかり忘れてた」

 

うっかりしていた、と苦笑いするジョーカー。

おおかた、永琳あたりに聞いたのだろう。

 

「それより帰り道を探さないと。飛べれば楽だけど、目立ちたくないから歩くんでしょ?」

「面倒だけどな。それでもペルソナを部分的に使えるようになったことで、前よりは楽になった。脚だけ強化すれば一見は普通に見えるし、移動も速くなるから」

 

その言葉に「そうだね」と同意したこいしは遠くの山を指差して「あ、多分あれは妖怪の山だよ。あれが目印になるんじゃないかなぁ」と言う。

「妖怪の山か。じゃあ永遠亭の方角は……」

「ここから妖怪の山が右に見えるように真っ直ぐ進めばだいたい合ってる、かな?」

「そうか」と頷き、ジョーカーは浮くのをやめてゆっくり降下する。

 

着地した彼はこいしを見上げる。

 

「俺は森の中を走るから、こいしは上で飛びながら誘導してくれ。その動きにあわせてついていくから」

「地上からだと見えないもんね。わかったー。飛行のペースは抑えるけど、見失いそうになったら声かけてね?」

「頼む。じゃあ行こう」

 

その言葉を聞いたこいしは空を滑るようにして移動を開始し、その下でジョーカーは駆け出した。

 

途中で遠回りするしかない地形があったり、野良妖怪に襲われたりと多少の紆余曲折はあったものの、次第に見覚えのある風景が増えはじめ、やがて二人は迷いの竹林まで到着した。

 

地底にむかったのは朝だったが、戻ってきた時刻はちょうど太陽が天頂に差し掛かる頃だった。

 

竹林に着いても本来なら永遠亭の住人、もしくは妹紅がいないと永遠亭にはたどり着けない……のだが。

 

「うまくいったな」

「お兄ちゃんが見つけられなかったら私の能力で無意識を辿ってなんとかしようと思ってたけど、必要なかったね」

 

二人は永遠亭の前に立っていた。

 

「お兄ちゃんの『サードアイ』は覚妖怪(わたしたち)のとは違うけど、便利だねぇ」

「いつも使ってるわけじゃないからつい忘れそうになるけど、こういう時のための能力だからな」

 

——サードアイの力で竹林の中の足跡を辿り、永遠亭までの道を探す。

 

そんなジョーカーの思いつきの策の結果だ。

 

「それじゃさっさと入ろう。俺は永琳のところに用があるけど、こいしはどうする?」

「うーん……お兄ちゃんの部屋で待ってるよ」

「わかった」

 

彼らは会話しながら永遠亭の敷地へ足を踏み入れた。

 

 

「おかえりなさい。話はついた?」

「はい。物腰も低くて、丁寧な応対をしてもらえました。こいしの外泊許可もあっさり下りました」

 

永琳の部屋でざっと報告を済ませる。

無論、勇儀については全て伏せたままだ。

 

「それで、また頼みがあるんですが」

「あら、今度は何かしら?」

「本格的に飛ぶ練習をしようと思うんですが、そのために三半規管を鍛える必要があると思いまして……永琳の能力でなんとかできませんか? 『三半規管を鍛える薬』なんてものが無理なら酔い止めみたいなものでも構わないので」

 

暁が思い出すのは鈴仙と突発的に行った組手。

 

あの時ジャイアントスイングで酔った自分が、空中を上下左右に飛びまわって無事でいられるとは思えない。

飛ぶ技術と並行して体の改造も進めていかねばならない。

 

「三半規管を鍛える、ねぇ。これまた妙な注文だけど、できるわよ。 でも何も三半規管に限る必要はないでしょ? どうせなら欲張りなさいな」

「欲張れ? 例えばどんな風に?」

「『肉体の性能を底上げする薬』、とか? 『寝ている間に最強になれる薬』みたいなものを言われたらさすがに困るけど」

「ははっ、そんなものまで作れたらそれこそ神の所業ですよ」

 

おかしそうに笑う彼に自分の能力を侮られたように感じた永琳は少しむっとして反論する。

 

「一応、能力の適用範囲内ではあるのよ? でもそんな薬の製法は私でもわからないし、仮に知っていても材料がないわ。強力な薬には相応の材料が要るからね」

「それはつまり、『三半規管を鍛える薬』や『肉体の性能を底上げする薬』の製法は確立されてるってことですか。ものすごい守備範囲の広さですね」

 

感心したようにそう言って、彼は頭を軽く下げる。

 

「それじゃあ永琳の言った薬でお願いします。完成までどのくらいかかりますか?」

「すぐにできるわよ。急ぎで作れっていうなら今から作るけど」

「いえ、今日は他にもやりたいことがあるので急ぐ必要はありません。夕食の時にでももらえますか?」

「ええ、わかったわ。じゃ、後でね」

「はい。失礼しました」

 

暁は一礼し、永琳の部屋を後にして自分の部屋に戻った。

中でゴロゴロと寝転んでいたこいしは彼の姿を見るなり跳ね起きる。

 

「よっ、と! これからどうするの?」

「まずは実験、その後で訓練だ。お前にも手伝ってもらうぞ」と言った暁は、「実験? 訓練?」と首を傾げるこいしを小脇に抱え、もう片方の手で床に置いていたバッグを持つ。

 

「わわ、わ!」

「やっぱり軽いなぁ。すぐ下ろすから暴れないでくれよ」

「う、うん…………なんか、動物にでもなった気分……」

 

持ち上げたこいしの軽さに驚きながらも、暁は部屋から外に出る。

 

中庭に面する縁側に着くとこいしを下ろし、靴を履く。

彼はきょとんとしているこいしを手招きし、中庭へと出ていく。

不思議そうにしながら、彼女も素直に中庭へと出る。

 

「なになに? いったいなにするの?」と尋ねるこいし。

彼女の質問に「ちょっと待ってくれ……お、コレだ」と言いながら暁が取り出したのは、一本の刀だった。

しかし、その刀は本物ではなく——

 

「——()()()? お兄ちゃんはこんなもの持ち歩いてるの?」

「俺のものじゃなくて仲間の一人のものなんだけどな。予備を預かってたんだ」

 

彼はそう言いながら鯉口を切り、刀身を確認する。

そして斬れ味を一切感じさせないその鈍い光を見て頷き、おもむろにこいしに刀を差し出した。

 

「この刀に触ってくれるか?」

「え?」

「これが実験なんだ。試しにこの刀に触ってみてくれ。危なくはないから」

 

こいしは暁の意図を理解できないながらもその言葉に従い、おそるおそる刀の柄を握った。

そのまま黙って柄を握り続けるが——

 

「…………何も起きないよ?」

「そうみたいだな。協力してくれてありがとう。もう離していいぞ」

 

何かを確認したのか、満足そうな表情の暁は怪訝そうにするこいしの顔を見て説明する。

 

「今のは、無意識を操るこいしにもこの武器が使えるのかっていう実験だったんだ」

「…………どういうこと?」

 

ますます怪訝そうにするこいしに微笑み、暁は刀を持つ腕だけに怪盗服を纏う。

 

その瞬間。

 

「……わっ!?」

「な? わかったろ?」

 

——地味で無骨だった模擬刀が突如、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

目を丸くして驚くこいしに悪戯っぽい笑みを浮かべて種明かしをする。

 

「これは認知によって姿を変える武器なんだ。無意識を操るお前ならあるいは……と思ったんだが、やはり俺たちペルソナ使いにしか反応しないみたいだ」

 

暁はそう言いながら鞘から刀身を引き抜く。

その刃は先ほどとはまるで違って、冷たく鋭い光を放っていた。

 

「——()()。それがこの刀の銘だ。綺麗だろう?」

 

言葉を紡ぎながら正眼に刀を構える。

しばらくその状態で静止したかと思えば、動きを確かめるようにゆっくりと振り下ろし、また静止。

やがて息をついて腕を下ろす。

そして鍔鳴りの音とともに納刀、腕の変身も解き、元に戻った無骨な模擬刀に視線を落としながら独白する。

 

「……………やはり見様見真似の付け焼き刃に過ぎないな。俺の主力の二本は伊吹萃香のところ、そして残った一本はデメリットが大きい。仲間の武器に頼ろうかと考えたはいいものの、これじゃダメだ。今の俺じゃあフォックスには遠く及ばない」

「…………」

 

傍で見ていたこいしの素人目には堂に入った構えのように思えたが、彼からすればかなり不満のある動作だったらしい。

これで見様見真似だと言うのだから恐ろしい。

 

「弾幕ごっこに必要なのは飛行技術だけど、いつ戦うことになるかはわからないのは身に染みてわかってる。この際、自分の武器が使えない状況を想定した訓練だと思って仲間の武器を借りて鍛錬しよう」

「……それが、さっき言ってた訓練?」

「そういうことだな。怪盗稼業だけじゃなくて飛行と武器、そしてペルソナと同化して動く訓練……やることも山積みだ」

 

彼女は暁がバッグから次々と武器を取り出していくのを興味深く観察する。

金棒、鞭、ナックルダスター、斧。

持ち歩くには物騒なものばかりを地面に並べていく。

それを見たこいしはつい呆れ声を漏らす。

 

「こ、これ全部使うつもりなの?」

「一通りなぞるくらいはするつもりだが、さすがに極めようとまではしないさ。所詮付け焼き刃だからな」

「それでもかなり大変だね…………頑張ってね」

「頑張るよ。あ、だけどお前に構ってやれなくなるけど、いいか?」

「お兄ちゃんの訓練を見るのも面白そうだからオッケー! 飽きたらあのお姫様にでも遊んでもらうし!」

「そうか」

 

輝夜とこいしが遊ぶ姿を想像する暁。

何をするかは想像がつきそうでつかないが、なんとなく仲良く遊んでいそうなビジョンは見える。

 

「だから気にせず修行に集中してね!」

 

暁は彼女の応援に頷き、再び怪盗へ変身する。今度は腕だけの変身ではなくて全身だ。

 

薄緑を構え、脳内にいつも見てきた仲間(フォックス)の動きを再現し、それをトレースするように体を動かす。

乖離する理想と現実を擦り合わせるように、何度も何度も同じ動作を繰り返す。

 

途中まで感じていたこいしの視線もそのうち感じなくなった。言葉通り、輝夜のところにでも行ったのだろう。

 

 

一人になったジョーカーはやがて他の一切を忘れ、修行へと没入していった。

 

 




お待たせしました。
前回の更新と今回の更新までの間に買った本、なんと22冊です。……はい。言い訳ですね。ごめんなさい。

更新のペースというか、執筆が遅れると如実に文章が書きにくくなるのを実感します。やはり「継続は力なり」は真実ですね。至言だと思います。

皆さんはアトラスのアンケート答えましたか? まだの方は是非やってみてください。ただし時間のある時に。かなり時間がかかります。

今回はSYUGYOUパートですね。特に面白みもない。
更新を待たせた挙句話が進まないということに非常に罪悪感を覚えるので、次はなんとか早く更新したいです。
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