今回の番外編は本編として組み込むべきか悩んだ結果「こんなことがあったかもしれない、あったらいいな……」くらいの立ち位置になっています。理由は、本編として描写するにはやや根拠の弱かったりあやふやな設定になっているからです。
立ち位置としてはこの作品の二次創作……三次創作? いやでも一応コレ自分の作品だし……2.5次創作? くらいになるんですかね?
…………とにかく、そんな感じです。以上の旨を承知の上でご覧ください。
追記:サブタイを少し変更しました。
一人の小柄な少女が寝台に腰掛けている。
少女は虚空の一点を見上げるようにして動かない。何もないはずの場所を見つめる彼女は確固たる何かを観察するように時折視線を動かす。
やがて。
「凄い」
ポツリと一言呟いた。
そして意識を集中させるように目を瞑った少女は何かを掴みとるように手を
「——————!」
驚いた表情で振り向く。
視線の先には何も無い。部屋の隅にできた影があるだけだ。
しかし少女は確信を持ってこう口にした。
「………………
————影が、揺らめいた。
「————『まずは、深層まで沈みきった意識を表層まで引っ張りあげる。その後、意識と無意識を調整してバランスを取り戻させる』」
「…………具体的にはどうするの?」
「『引っ張りあげる方はこっちでやる。バランスの方はお前がやれ』…………って、ええ!? いきなりそんなこと言われても無理だよー!」
「……はい?」
突然横を向いてそこにいない誰かに話しかけるようにする少女に怪訝そうな顔を向ける永琳。
「あ、えっと、こっちの話で……だ、だからやれって言われても困るよ。この人の元々の……個性? 波長? ……みたいなのも知らないんだし……」
「…………あなた、いったい——」
「ねぇ!」
少女を問いただそうとした永琳の声は前のめりになった鈴仙によって遮られた。
向き直った少女に鈴仙は必死な表情で尋ねる。
「元々の波長がわかればなんとかなるの?」
「え? うーん……どうだろ。多分いける、かなぁ。私の能力はそこまで意識的に使うものじゃないから繊細な作業はむいてなくて…………」
「私がやる!」
「え?」
「元通りになるように意識の波長を操作すればいいんでしょ? 私がやるわ。だから手伝って。操作自体はできても意識と無意識そのものをどうこうするのは私一人じゃできない、だから!」
「こら、落ち着きなさい」
焦りのあまり少女に詰め寄る鈴仙の首根っこを掴んで引き戻す輝夜。
目を白黒させる少女に微笑み、しゃがんで視線の高さを合わせてから口を開いた。
「ウチのイナバがごめんなさいね。……聞かせて。今の提案で暁を戻すこと、できる?」
「えっと…………うん。できると思う。……私もこんなことするのは初めてだから自信は無いけど…………」
「それで充分よ。ありがとう」
困惑しながらも答えた少女の言葉を聞いてすっくと立ち上がった輝夜は振り返り、永琳と鈴仙の二人を交互に見る。
「さ。準備はいい?」
二人はその問いに顔を見合わせ、揃って頷く。
「…………気になることは色々とありますが、今は暁の方が重要ですしね」
「は、はい! やってみせます!」
彼女らの意思表明を確認した少女はおもむろに話を切り出す。
「…………じゃあ、まずは試してみよう。ね、兎のお姉さん。ちょっとこっち来てくれる?」
「え、わ、私?」
「そうだよ。早く早くー」
手招きする少女に従って鈴仙はおずおずと前に 出た。すると少女は鈴仙の後ろに回り込み、いきなりその背中に飛びつく。
「わっ! い、いきなり何を」と思わず身じろぎしそうになった鈴仙の肩にしがみつき、「いいから動かないで。掴めないじゃん」と少女は軽い調子で言った。
諦めて大人しくなった鈴仙の背中から少女は手を出して前を指差す。
「ほら、見える?」
「見える……って、何が? 竹藪?」
「……むぅ、これじゃダメか…………」
鈴仙の反応に不満がある様子の少女は首を捻り、今度は手をブンブンと上下に振ったりぐるぐる円を描くように動かす。
自身の背中に乗る少女の奇行に困惑する鈴仙、同じく困惑しながらそれを眺める輝夜と永琳。
しばらく色々と試していた少女はやがて何か得心がいったようにして、鈴仙の頭に生えた兎の耳をむんずと掴んだ。
「きゃっ!? ちょっと!」
「しー! 静かにして! 集中できない!」
そして、彼女の後頭部に自らの額を押し当てるようにして動きを止める。
そんな少女の様子をなんとか視界の端に収めようと鈴仙が必死に横目で後ろを伺おうとした瞬間、彼女はパチリと瞬きをする。
自分の正面——数歩分ほど離れたところに、薄ぼんやりとした透明な輪郭のようなものが見える。不定形であやふやなその輪郭を捉えようと彼女はジッと目を凝らす。
すると、波打つようにして決まった形を持たなかったその輪郭は次第に凝集していき、やがて人のような形に————
「————ここだっ!」
「ひゃぁぁっ!?」
背中の少女にいきなり耳元で叫ばれた鈴仙は思わず飛び上がり、勢いよく後ろに振り返る。
少女はいつの間にか鈴仙の背中から離れ、地面に降りていた。
どこか満足げな表情を浮かべた少女に対して鈴仙は抗議する。
「い、いきなり大声出さないでよ! びっくりしたじゃない!」
「ごめんごめん。仕方なかったんだよ。許して?」
「許して、じゃないわよ! そもそも今の一連の流れにいったいなんの意味が」
「「————鈴仙」」
「あった…………はい? なんですか?」
少女に弄ばれていたように感じた鈴仙は少女に不満をぶつけようとしたが、重なった輝夜と永琳の自分を呼ぶ声に反応し、二人を見る。
だが自分を呼んだはずの二人は自分に目もくれず、違う方向に視線が固定されている。
つられて鈴仙もそちらに目をむけ————絶句。
三人の視線の先、そこには。
「————ようやく終わったか。とっとと始めるぞ。こんなことに時間をかけてる場合か」
赤いペストマスクで顔を覆い、おとぎ話に出てくる王子のような格好をした少年が佇んでいた。
少女と同様、前触れもなく突然姿を現した何者か。三人がそれに反応して行動を起こすより、少年が動く方が先だった。
顔のペストマスクに手をやり、無造作に剥ぎ取る。
すると。
どこからともなく噴き上がった影が少年を覆い隠し、その影から踏み出すようにして少年が再び姿を現わす。
黒いバイザーに黒装束。一瞬で変貌した少年の姿を目撃した輝夜達は驚愕する。
それが初めて見る、理解のできない光景だったから————
「今のは——————!」
「おい、お前ら」
驚きの声を漏らした永琳を遮るようにして全員に背中を向けた少年が声を出す。
「始めるぞ。構えろ」
「はい? いったい何を——」
少年は反射的に聞き返そうとした鈴仙を気にもとめず、自分から離れたところで仰向けに寝かされたままの暁を見る。
そして彼のほうへと手を伸ばし、その場で唱えた。
「——————〈
——刹那、その一言に呼応するように意識も無いまま輝夜によって時間を止められているはずの暁が目を大きく見開く。
同時に蒼炎が迸るように溢れ出し、あっという間に彼の体を覆い隠す。そして、蛹を包む繭のようになったその状態からどんどん膨れ上がり、巨大化していく。
際限なく続くかと思われた繭の膨張は次第に速度を落とし、直径がおよそ十数メートルほどになる頃には完全に止まり————破裂した。
降り注ぐ蒼色の火の粉。
その中から姿を現したのは誰がどう見ても到底人間とは呼べない異形だった。
ベースは人の形をした巨躯。腰からは一対の漆黒の翼が生え、背中には硬質な輝きを放つもう一対の水晶、あるいは軽金属のような翼。しかし、そのどちらもが途中で折れ曲がったり捩れたりしている。体に見合ったサイズのそれらは真っ直ぐに伸ばされた状態であれば全長6〜7メートルにも及ぶであろうことがわかり、存在感をひしひしと示している。
胸部には埋め込まれるようにして三つの仮面があった。仮面の一つは黒く、残り二つは白い。
頭部はジョーカーが召喚していた【アルセーヌ】に酷似しているものの、顔は全体がひび割れており原形をとどめていない。
両手と両足からは何本もの鎖が垂れ下がりジャラジャラと音を鳴らす。
その巨躯からは目に見えない力が放射されているようにも感じられ、見る者だけではなく周囲全体に影響を及ぼすような禍々しさがある。
——総評すると、【アルセーヌ】をより大きく、より歪にしたような存在だった。
そんな怪物を見上げていた少年はバイザーに覆い隠された口角を曲げて笑みを作る。
「…………おいおい、これまた随分と愉快な姿になったもんだなぁ? 『心の怪盗団』の名が泣くぞ? ——ジョーカー」
「………………………………」
少年の言葉に反応して顔をそちらに向けた怪物——否、ジョーカーは声を発することなく静かに佇む。
数瞬の間、見つめあう両者。
————裂帛の気合いとともに少年が叫ぶのと、ジョーカーがその巨大な腕を振り上げるのは全くの同時だった。
「来い! 【
「————————ッッ!!!!」
振り下ろされたジョーカーの剛腕は少年を叩き潰す前に空中で止まる。
少年の目の前に突如として現われた、道化師のような格好をした存在が受け止めたからだ。
腕を振り下ろそうとするジョーカーの力と、それを阻む道化師の力は拮抗する。そこにジョーカーのもう片方の腕も振り上げられる。
「チッ!」
舌打ちをした少年は跳び退り、浮遊していた道化師も忽然と消え失せる。
それを一瞥すらせず、少年は苛立たしげに輝夜達に少女を加えた四人へ振り向く。
「何をボサッとしてやがる! さっさと手伝え! 俺一人にやらせる気か!?」
その悪態で思わぬ事態に硬直していた三人はハッとする。そして真っ先に鈴仙が少年に食ってかかった。
「い、いったい何したのよアンタ! つか誰よ! どっから湧いて出てきたのよ!」
「今更何言ってやがる! コイツの意識を引っ張り出すって言っただろうが!」
「引っ張り出す……って! どう見ても暴走してるじゃない!」
「そうでもしないとコイツが起きないからだろ! ごちゃごちゃ文句言ってんじゃねぇ!」
「もっと丁寧にやりなさいよ! ——ていうかアンタ、暁と同じ能力でしょ、今の! いったいどういうこと!?」
「だからいちいち説明してる場合かって————!!」
鈴仙と言い争う途中で背後をふり仰ぐ少年。その顔に影。すぐそこにジョーカーの振るった腕から伸びる鎖が迫っていた。
それを超人的な反応で上体を反らすことで回避し、叫ぶ。
「【ロキ】! 〈デカジャ〉ッ!」
少年の言葉に応えて再び虚空に現われた道化師——【ロキ】がジョーカーにむかって手を翳す。透明な光とともにガラスの割れるような音が連続して響いた。
途端に目に見えてジョーカーの動きが鈍くなる。鈍くなるとは言っても動作がやや遅くなっただけではあるが。
会話を続ける暇も無く、ジョーカーの相手をする少年。
縦横無尽に駆けながらジョーカーを翻弄する少年を眺めながら輝夜達に声をかける少女。
「ねえねえ、手伝わないの?」
「…………えーっと。とにかく、あの状態になった暁を大人しくさせろってこと? よね? 多分」
「……でしょうね。聞きたいことが積もる一方ですが………………ひとまず、全部後回しか。————うどんげ! あなたも!」
「へっ? は、はい! わかりました!」
「まとまった? じゃあ行こう! 表象『夢枕にご先祖総立ち』!」
言うなりスペルカードを取り出して元気よく唱える少女。彼女の周囲から無数の光線が発射され、互いに交差するようにしながらジョーカーへと殺到する。
少年と向き合っていたジョーカーは少女達に背中を晒していたため気づくのが遅れる。その間に光線は回避不可能な距離まで到達していた。
そのまま光線がジョーカーに突き刺さると誰もが予想した。————が、そうはいかなかった。
ぎこちなく羽撃くように動いたジョーカーの上側の翼に当たった光線はそのまま四方八方に乱反射され、ものによっては撃った本人へとそのまま跳ね返ってきた。
「うわっ! 跳ね返ってきた!」
驚いた少女は慌てて宙に浮かび光線を躱す。そこにも何本か飛んでくる光線を飛び回ることで避け続ける。
輝夜や永琳、鈴仙も流れ弾ならぬ流れ弾幕を躱してそれぞれの技を使用する。
「ごめんね暁。ちょっと大人しくなってもらうわ……! 難題『仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-』!」
「私は足止めを! 天丸『壺中の天地』!」
「『マインドドロッピング』! からの……『リップルヴィジョン』!」
輝夜の周囲から放たれる光線に光弾、そして星の形をした弾幕がジョーカーへと押し寄せ、永琳のスペルによってジョーカーの周囲を囲むようにして別の光弾が現れる。身動きを制限された状態のジョーカーへ輝夜の弾幕に加えて永琳の無数の弾幕も殺到する。
さらに鈴仙の拳銃を模した手から上空に弾丸が撃ち出されクラスター爆弾のように破裂、散弾となってジョーカーに降り注ぎ、だめ押しで輪っか状になったビームも発射された。
ジョーカーは先ほどと同じく翼で光線や光弾を反射するものの、三人が同時に発動した弾幕の物量は圧倒的。その全てを反射することはできないし、反射したものも次から次へと迫り来る弾幕と打ち消しあって消滅する。
————結果。
数え切れないほどの弾幕がジョーカーに命中し、耳をつんざく轟音とともに爆発が起こった。
もうもうと煙が立ち込め、ジョーカーの姿が見えなくなる。
やった。これで終わりかどうかはまだわからないが、少なからずダメージは入ったはずだ。
そう思った一同が少し気を緩めたところに、
「——バカか! そんな程度でコイツが止まるわけないだろうが!」
「え…………」
煙を突き破るようにしてジョーカーが飛び出てくる。鈍重そうな外見とは裏腹の素早さに対応しきれず、ジョーカーから一番近くにいた鈴仙は自分に直撃する軌道を描く巨腕を見て恐怖の色を目に宿す。ただの人間より多少は頑丈な彼女でもあれを受けて無事ではいられないだろう。
「まずっ…………! イナバ!」
咄嗟に鈴仙にむかって手を伸ばす輝夜。普通に引き戻すのでは間に合わない。また能力を使って時間を—————
(——————え?)
「〈テトラカーン〉ッ!」
——————バギィィィンッ!!
少年の叫びを塗り潰すような轟音が空間を疾り抜けた。
ジョーカーの剛腕が鈴仙に直撃し——直後、
衝突の瞬間、ぎゅっと目を瞑った鈴仙は予想していた衝撃が全く無いことに疑問を抱き、おそるおそる目を開く。
「…………あ、あれ? なんともない?」
自分の体を見下ろして呆気にとられたように呟いた彼女の前に体勢を立て直したジョーカーの影が落ちる。
「——だから、よそ見してる場合かって言ってんだろうが!! 〈ヒートライザ〉ァッ!!」
鈴仙とジョーカーの間に割って入るようにして【ロキ】が出現。その全身が赤く輝いた次の瞬間、思いっきりジョーカーを蹴り飛ばす。
その蹴りの威力は凄まじく、ジョーカーの巨体を数メートル後方へと吹き飛ばした。
殺意すら感じさせる叱咤を鈴仙に飛ばした少年は自身のバイザーに手をやると、瞬時に王子のような格好へと再び変貌した。
「【
【ロキ】と入れ替わるようにして召喚されたのは大きな弓を背負った全身甲冑の騎士のような存在、【ロビンフッド】。
【ロビンフッド】が手を伸ばしてジョーカーを指し示すと、立ち上がろうとしていたジョーカーはがくんと膝を地面につける。
すかさず【ロビンフッド】は背中の弓を手にして矢をつがえる。引き絞られた弦の緊張が最高まで達した瞬間、
「射殺せ!〈メガトンレイド〉!」
物騒極まりない少年の命令に従って矢を放つ。
一秒にも満たない間にジョーカーとの距離を詰めた矢は頭部へと命中し、貫通こそしなかったものの盛大な衝撃を叩き込む。
ぐらりとジョーカーの体が傾ぐが、倒れる前に止まる。ゆっくりと体を起こしていくジョーカー。
ほとんど痛痒のないその様子を驚きもせずに見ていた少年は忌々しげに舌打ちをした。
(……チッ……やっぱこうなるか……ペルソナ能力者に『
少年は視線を周囲に巡らせる。
(…………空間が干渉を受けて歪み始めてるな。ここら一帯がパレスになりかけてる。欲望の核が無い以上、おそらく最後まではいかないだろうが…………支配権はコイツにある。とはいえシャドウもいないし実害は無い、か?)
同時に、輝夜も同じことに思い当たっていた。
(…………さっき私の能力が
「…………永琳、イナバ。先に言っておくわ。現状では私の能力は自分の加速くらいにしか使えない。今この空間を支配してるのは暁よ。そこんところを頭に入れておきなさい」
「! …………わかりました」
「………………」
「…………イナバ? 聞いてる?」
返事をしない鈴仙。
訝しんだ輝夜と永琳がそちらを見ると、鈴仙は俯いたまま拳を握りしめていた。彼女はギリッ、という歯軋りの音とともに震える声を出す。
「誰が、ここまで、運んできたと思ってんの…………? いきなりあんな状態になってて、私がどれほど心配したか…………それなのに…………それなのに………………!」
——勢いよく顔を上げた彼女は瞳を爛々と赤く輝かせていた。
「危うく死ぬとこだったじゃない!! いくら理性を無くしてるからって許さないわよ!! ボッコボコにしてやるから覚悟しなさいっ!!!!」
「「ちょ、待っ————!」」
言うなりジョーカーにむかって飛んでいく鈴仙を慌てて引き止めようとする輝夜と永琳。だが、もう遅い。
【ロビンフッド】の攻撃を受けながらも止まらないジョーカーは大振りの一撃を放つ。それを少年が操る【ロビンフッド】は受け止めようとしたのだが……
「短視『
「な————っ!?」
「!?」
そこに鈴仙がいきなり乱入してきた。上から落ちてくるようにしてジョーカーの目の前に自分の姿を晒した鈴仙。
信じられないものを見る目を彼女にむける少年。さすがにジョーカーもこれには意表を突かれて思わず目の前の鈴仙に意識がいく。
そして、彼女の赤く輝く瞳を正面から直視した。
「——————!!!?」
声にならない声を発したジョーカーは後ずさりし、自らの頭部を両手で押さえる。まるで激しい頭痛に襲われている人間のような仕草だった。
そこに遠慮容赦の欠片も無く、即座に追撃を入れようとする鈴仙はスペルカードを掲げ、朗々と唱えた。
「幻爆『
彼女の体から生み出されるようにしていくつもの大小様々な赤い玉が周囲に撒き散らされる。それは彼女の能力を凝縮させた『精神爆弾』。
(おい待て…………! ふざけんな———ッ!?)
空間を埋め尽くして溢れかえるほどの量になったそれらを見上げた少年は本能的にその危険性を察知。頰を軽く
——少年が地面を蹴ったその瞬間。
『精神爆弾』は一斉に爆発した。
それぞれの爆風と衝撃波が互いに重なり合い、加速度的に膨れ上がる。精神に作用するはずの爆弾は物理的な破壊力を伴って一気にジョーカーを呑み込み、耳を
累乗に増大したその威力は圧倒的だった。
爆発の余波だけで捲り上がった地面。三人での同時発動弾幕に勝るとも劣らない程、鈴仙一人が行った破壊は凄まじかった。
その光景を見て少しは溜飲を下げたのか、満足そうな表情になる鈴仙。
そんな彼女に殺意を滲ませながら少年は怒声をぶつけた。
「ふざけんなよこのコスプレバニーッ!! いきなり割り込んできて見境なく爆弾ばら撒きやがって! 危うく巻き添えだ! 手伝えとは言ったが邪魔するならお前から消すぞ!!」
「なっ、こっ…………コスプレバニーですって!? これは自前の耳よ! 即刻取り消しなさい! それにそもそも、あれくらい言われなくても避けて当然よ、当然!」
「自前だぁ!? そのイタいコスプレみたいな耳がぁ!? はっ! 冗談はその格好だけにしろ!」
「はぁ!? そんなメルヘン王子様みたいな格好してるアンタに言われたくないんですけど!?」
ジョーカーそっちのけで口論を始めた二人。輝夜はその様子を見やりながらこわごわと傍らの永琳に尋ねた。
「…………ねぇ、イナバってあんなにアグレッシブな感じだったっけ? なんか性格変わってない? 前まではもっとこう……引っ込み思案というか、なんというか……あんまり見ず知らずの人間にグイグイいけるような子じゃなかったわよね?」
「そう、ですね…………」と困惑した面持ちで永琳も頷き、同意を示す。
「……暁の面倒を見させてる影響かしら。いったい何をどうしたらこんな風に……」
「…………まあ、良いんじゃないでしょうか? あの子も成長してるってことですよ」
「成長?」
「うどんげは良くも悪くもあまり自己主張してこない性質でした。てゐくらい打ち解けていて、なおかつ自分と対等に近い立場の相手じゃないとあそこまで自分を晒せない。それが今ではあんな風に自分から…………立派な成長でしょう」
「…………むぅ、そう言われるとそんな気もしてきたような……」
納得はしきれないものの、微笑ましそうな表情の永琳につられて輝夜はもう一度少年と鈴仙に視線を戻す。
「あ゛ぁ!? 殺すぞ!!」「やれるもんならやってみなさいよ! 暁ともども沈めてあげる!!」
「……………………」
「……………………」
「………………成長、なのよね?」
「………………だと、思います……」
そう答えた永琳の頬を一筋の汗が伝った。
本当はこの話にまとめたかったんですが下手したら文量が倍に膨れあがりそうだったのでやむなく分割。あまりお待たせするのもよろしくないような気がするので……
今回の話はジョーカーが意識不明になっていた時の裏側についてですね。
色々説明が足りないとは思いますので、感想にて質問していただければなんでもお答えします。