「問題はそれだけじゃない」
「まだあるんですか…………」
嫌そうな顔をする暁。それに対して霖之助は諭して聞かせるように語る。
「むしろこちらの方が問題だ。喧嘩云々は笑い話にならなくもないし、標的になるのは基本的に妖怪たちだ。頑丈だし、そうそう死ぬこともない。さほど気にしなくていい」
「結構ぞんざいな扱いですね……」
「まあそれはさておいて聞きたまえ。……いいかい? 原因を突き止めてから動くわけでなくとも、原因の推測くらいは誰だってする。当然、魔理沙もさしあたっての目星はつけている」
「……まあ、そうでしょうね。……それで、その目星とやらはいったい誰なんです?」
(目星と言っても全員ハズレなんだけどな……)とは思ったが、口にはしなかった。
「とりあえず四、五人ほど怪しんでいる相手がいるらしい。まずは冥界の管理者、西行寺幽々子。これはさっきも言った通り、以前彼女が引き起こした異変と今回の異変は一見同じだから至極当然だね」
「なるほど」
つい先ほど言葉を交わした相手を脳裏で想起しながら相槌を打つ暁。
「永遠亭の主、蓬莱山輝夜。彼女もまた異変の元凶となったことのある前科を持つし、その能力で時に干渉することもできる。これも候補の一人だね」
「吸血鬼が住まう紅魔館で働く従者、十六夜咲夜。これまた時間に関わる能力を所持している。とはいえここまで大規模に能力を使えるとは聞いたことがないし、そこまで怪しくはないかもしれない……と、魔理沙は言っていたね」
そこでいったん言葉を区切り、お茶を啜って一息つく霖之助。
「…………幻想郷そのものを管理する妖怪、八雲紫も候補に入っていた。なにせ思考も存在も謎めいた相手だ。どんな意図で何をやるか予想もつかないし、やった後でもわからないことも多い。それにこんな異変を引き起こせるだけの力も持っている」
「…………」
霖之助が語った異変の元凶の候補。それを聞いていた暁は僅かに違和感を覚えていた。
西行寺幽々子と八雲紫はわかる。片や立派な前科持ち、もう片方も疑われるのももっともな妖怪だ。……だが、輝夜ともう一人がその候補に挙げられるのはやや不自然ではないか? 表面上、今幻想郷に起きている異常は「季節が冬のままである」ことだけ。ならば……そう、例えば雪や氷、あるいは冬そのものに関係する妖怪の方が真っ先に疑われてしかるべきなのでは──
「────そして、あと一人」
「!」
霖之助が口を開いたことで思考が中断される暁。
「異変が起こったと同時期に現れ、堂々と予告をして物を盗んだかと思えばその持ち主の原因不明の不治の病を治し、人とも妖怪ともつかない謎の存在……………」
「………………」
「そう。
眼鏡越しの視線が真っ直ぐにぶつかる。
「はっきりと口にはしていなかったが、魔理沙は間違いなく君を──正体不明の“怪盗”を元凶じゃないかと睨んでいる。まあそれも当然だろうね……僕だって知らなければあまりに胡散臭すぎて疑うしかないよ」
「…………なる、ほど」
思いがけないと言えば思いがけない、しかし、心のどこかでなんとなく予期していた言葉をすんなりと暁は受け入れた。
「問題というのはここでね。『君が異変の根幹に関わっている』という一点を抜き取って見ると、まったくもってその通りなわけだ。正しくはないが、間違いではない」
「ええ、そうですね」
「故に、おそらく魔理沙は君のもとまでたどり着くだろう。君こそが元凶であるという勘違いを抱えたまま」
霖之助は言葉を区切った。そして眼鏡をおもむろに外し、服の袖でレンズを拭きながら何度目かになるため息を漏らす。
「君は自分の力を取り戻すため、この幻想郷を巡ってその存在を誇示しなければならない。それがひいては外の世界にいるという君の敵を倒し、全てを解決するための道のり…………そうだね?」
「…………はい」
暁は噛みしめるようにゆっくりと頷く。
「……しかし、異変解決を目指す魔理沙は確実にその障害となる。なにせ、最終的には君を倒すことが目的となるんだからね。知っているかはわからないが……この幻想郷における弾幕ごっこというのは単なる決闘というだけでなく、ある種の
「格付け…………」
「そう。弾幕ごっこで強いというのは幻想郷において、それだけで一目置かれる要素だ。例えそれが貧弱で、襲われたら人間にすら勝てないような取るに足らない妖怪であろうとも、弾幕ごっこが強いならその妖怪は“強い”。……そういうことになる」
暁は霖之助の滔々とした語り口に引き込まれる。
「……無駄に長い話をしてすまないね。要するに、君が弾幕ごっこで魔理沙に負けてしまうとその時点で格付けがされてしまう……ということを懸念しているんだ、僕は。それは、あまり好ましいとは言えないだろう?」
「…………そう、ですね。それだけで何が決まるというわけではないかもしれませんが……」
「ああ。君がやりたいのは自分を実力者であると幻想郷の住人に認めさせること。なら、その過程で誰かに敗北するのは悪影響しかないだろう」
ようやく霖之助が難しい顔をしていた理由をはっきりと理解した暁。そして彼自身も突如降って湧いた問題で眉間に皺が寄る。
「なるほど…………うーん…………」
「……もちろん、僕もなんとかやめさせようとはしたんだが……さすがに異変解決をやめろと言うわけにはいかないし、かと言って君に無断で事情を明かしていいわけもない」
レンズが綺麗になったのを確認した霖之助は眼鏡を掛けなおした。
「さらに事情を明かした後に魔理沙がどう動くかもわからない、なんとか言いくるめられないか……と、まあ色々考えているうちに、あの子はこっちの話なんてほとんど聞かずに飛び出していったわけだ」
と、肩を落とした霖之助は疲れを滲ませた声色でそう締め括った。顎に手をやってしばし考え込んでいた暁はややあって頭を下げる。
「…………すみません、俺のために苦労をかけさせてしまいました」
「気にするな。どのみちああなった魔理沙が止まるとも思えない。次また来た時に一応、説得を試みようかとは思うが……」
「……いえ、大丈夫です」
暁は芯の入った声ではっきりと断った。
「結局のところ、俺が幻想郷を巡る間に彼女に負けなければいい話です」
「……本当にそれでいいのかい? こう言うのもなんだけど、弾幕ごっこにおいての魔理沙は、この幻想郷の中でも間違いなく屈指の強者だよ?」
確認する霖之助の問いに真剣な眼差しを向けて返答する。
「無論、極力そんな事態にならないようにはするつもりですが……出会ってしまったとしても負ける気はないです。見つかる前に目的を達成するか、もしくは正面から勝ちに行くか。どちらにせよ、それくらいこなせないようなら力を誇示したところで意味がない」
「…………そうかい。君がそう決めたのなら僕からはもう何も言うことはないよ」
霖之助は頷いて、暁の意思を尊重する姿勢を示した。暁は黙って頭を下げ、おもむろに立ち上がった。
「…………それでは、俺もそろそろお
「菓子も出せずにすまなかったね。あいにくと切らしていたんだ。次来る時までには準備しておく……と言いたいところなんだが、君はしばらくここには近づかない方がいいだろうね」
霖之助は申し訳なさそうにそう言った。
「僕と魔理沙はなんというか……昔からの知り合いでね。あの子が連絡も無しにいきなりここに来るなんてしょっちゅうだし、今日もそうだった。異変解決に動くからお前も気をつけろ、とわざわざ言いに来たんだ」
「……ああ、それで『戸締りに気をつけろ』と」
「聞いていたのかい。まあそういうことだ。異変解決に専念するならここに来る理由は薄いはずだが、万が一ばったり出くわしたりしたら面倒だろう?」
「さすがにそれは勘弁願いたいですね……わかりました。ではもし用事があれば、鈴仙あたりに頼むことにします」
「そうしたまえ。…………くれぐれも気をつけるようにね」
「はい。お邪魔しました」
そう言って暁は香霖堂を後にし、永遠亭に戻った。未だにご立腹だった鈴仙に必死で頭を下げ、輝夜と永琳にてゐも呼んで事情を説明し、彼女たちの了解を得たところでその日は終わった。
「────というわけで、彼女を異変の元凶と思った霧雨魔理沙嬢がここにやってくるかもしれないということを野暮用ついでに一応伝えにきたというわけだ」
片手で幽々子を示しながら、自分の正体や目的、外の世界の出来事についてはボカしたり省略した説明を暁は締め括った。
長い説明を聞き終えた妖夢は顔を両手で覆い、憂鬱さを全面に出した声で暁に確認する。
「……ええっと、色々よくわからないけどつまり? 季節が変わらない異変を解決するために魔理沙さんがここにやって来て暴れるかもしれないから気をつけろと?」
「そうだな」
「………………………………」
完全に炬燵に突っ伏して動かなくなった妖夢から放たれるどんよりとした負のオーラ。それを感じとって暁はややたじろぐ。よく聞くと「掃除……」「後片付け……」などという単語が漏れ聞こえてくる。
声をかけていいかもわからないその様子に戸惑った暁は助け舟を求めるように幽々子を一瞥し、視線が合う。
声には出さず(どうすれば……)と目で尋ねる暁に対してにっこりと笑い、ウインクしてみせる幽々子。そして皮を剥いた蜜柑を口に放り込んで一息で嚥下し、口を開いた。
「妖夢、そんなことを今考えていても仕方ないでしょう?」
「…………それはそうですが……しかし……」
「どうにもならないことを考えて気を滅入らせるなんて時間の無、駄! そんな暇があるなら剣をとって稽古でもなさい」
「…………! ……そう、ですね。申し訳ありません。おっしゃる通りです」
幽々子の言葉に反応した妖夢は目に光を取り戻して体を起こし、頭を左右に数回振る。……気持ちを切り替えたとも、現実から目を背けたとも言える。
「…………よし。やるわ! ……ファントム! 昨日言った言葉通り、早速付き合ってもらうわよ!」
「…………」
「ねえ、聞いてるの?」
「! ………………あ、ああ。わかった」
ファントムと名乗った経験はあれど呼ばれるのはこれが初めてだったため反応が遅れる暁。心なしか自棄になった様子の妖夢はそんな彼をおいて一足先に庭に出ていく。
これで本当にいいのか、と視線を向ける暁に「いってらっしゃ〜い」と幽々子は手を振ってみせる。続いてこいしも「頑張ってねー」と呑気な応援をしながらこちらに目もくれず、一心不乱に蜜柑を次から次へと口に運ぶ。
「…………」
別に何もおかしいことはないのだがどうにも釈然しない思いを抱きつつ、暁も炬燵から抜け出して妖夢の後を追った。
P5DとP3Dめっちゃ楽しみですね……アレンジ曲聞くのも、専用のアクターを用意したっていうダンスを見るのも両方。特にP3Dは色々特別ですよね……初めての3Dモデリングだし。早くやりたいですね〜〜