Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、そして速さも足りていたけどなにより筋肉が足りなかった

「いらっしゃい。……おや、珍しい。君は確か永遠亭の……鈴仙さん、だったか」

「どうも。買取をお願いしたくて来ました」

「なるほど。わかったよ、品物は……その荷車に積まれたものだね。後ろの彼は?」

 

鈴仙と暁は香霖堂に到着し、中から出迎えた店主、森近 霖之助(もりちかりんのすけ)の応対を受けていた。

 

「彼は、その…………永遠亭で面倒をみることになった人間です。ここに荷物を運ぶのを手伝ってもらいました」

(実際はほとんど全部彼がやったんだけど…………)

 

 

竹林を歩いている間は変身したままだった暁は、人目につく可能性があるため、竹林を抜けて開けた場所に出て以降、変身を解除して手押車を押していた。

これからのことを考えると、無闇にあの姿を晒すのはマイナスでしかないだろう、という考えからだったが……そうなると当然、【アルセーヌ】に押させていた方の手押車が問題となる。

 

その問題は鈴仙が押すことですぐに解決する。力仕事は無理とは言ったものの、彼女もまたこの幻想郷の住人であり、人ならざるものである。道程のほとんどを暁が押し、残っているのはほんの少しの距離。これくらいなら彼女でも押して行くことはできる。

 

結局鈴仙の手を借りることになったことを悔いていた暁に対し、気にすることはないと言いながら、彼女には一つの懸念があった。

そして、その懸念は的中する。

 

 

「服装からして、里の人間ではないね。もしかして、外来人かい? ……なにやらずいぶんと疲れているように見受けられるが……」

「あ、あはは…………」

「……………………」

 

心配そうな霖之助と乾いた笑いを浮かべる鈴仙が揃って見る先。

そこには息も絶え絶え、汗だくで倒れ伏す暁の姿があった。

 

 

ペルソナ能力を解いた彼はそれなりに体を鍛えているだけの男子高校生。

なんだかんだ言っても、平時はただの人間なのだ。一人であの重さを運ぶのは相当な負担だっただろう。

 

暁自身、ペルソナを解除すればそうなることは目に見えていたので、自身の能力を補助する技を使ってからペルソナを解除しようとしたのだが————

ここにきて、『ペルソナを変更できない』という問題が再び鎌首をもたげた。

 

【アルセーヌ】に覚えさせている中に補助の技は無いため、彼はごく自然に他のペルソナに切り替えようとし、直後その事実を思い出す。

 

元来、ペルソナを切り替えるということは不可能だ。一人が持つペルソナは一つだけ。それが原則。

だが彼は少しばかり特別で、そのルールからは逸脱していた。

 

『ワイルド』。

 

複数のペルソナを宿し、切り替えて扱うことができる例外的な存在。

その特性を活かし、彼は様々な難敵を打倒してきたのだが……幻想郷に来てから、その特性は封じられているようだ。

 

彼自身、理由はわからない。……いや、なんとなく見当はついているが、まだそれを確かめることはできない。

 

ともかく、どうしようもなかった彼は仕方なく自分の身一つで手押車を押すことを選択し、そして疲労困憊していたというわけだ。

 

 

「君、大丈夫かい?」

「…………」

 

ゼェゼェと喘ぎながら頷く暁。

どこからどう見ても大丈夫ではない。

 

「……というか、鈴仙さんも君もかなり埃まみれだね。大方、この荷物の山は大掃除でもして出てきた不要品、といったあたりかな?」

「す、鋭いですね。その通りです……待って下さい。埃まみれ? 私も?」

 

ズバズバと見事な推理を披露する霖之助に感嘆しかけた鈴仙だったが、その言葉の中に聞き逃せない指摘があった。

慌てて自分の体を見下ろし、霖之助の言ったことが事実であることを知る。

 

「うわ……本当だ、埃まみれ……最悪…………」

「ちょっと動かないでくれ。払ってあげよう」

 

そう言って懐からハンカチを取り出した霖之助は、しかめ面になった鈴仙の肩に手を置く。そして少し時間をかけて念入りに埃を落とし、一歩下がる。

 

離れた場所から上から下までを一通り見て、頷く。

 

「うん。目に見える範囲ではもうついてないよ」

「ありがとうございます。うう、帰ったらお風呂入ろう……」

 

彼女は霖之助に感謝しながらも、まだ引きずっている。

一人の女性として、全身埃まみれだったというのはやはり許容し難いのだろう。

 

「なんだったらウチの風呂に入っていくかい? たまたまちょっとした事情で、ついさっき沸かしてあるんだけど」

「そ、それは…………! ……いえ、遠慮しておきます」

 

親切心から出た霖之助の言葉に思わず揺らぐが、さすがに自制心を働かせて辞退する。

 

「ふむ、そうかい。なら君はどうだい? 埃まみれの上に汗だくだし、そのままというのも気持ち悪いだろう。僕がこの品物の山を鑑定している間に、汗を流してくるといい」

「あ、ありがとう……ございます……すいません、お借りします…………」

 

暁もなんとか喋ることができるまでには回復した。が、霖之助のその助け船を見過ごすほどの余裕は無い。

ヨロヨロと体を起こす。

 

「埃と汗でなかなか凄いことになってるね。適当な服を見繕っておくから風呂上がりにはそれを着るといい。ほら、上だけでも脱いで」

「何から何まで…………お世話になります……」

 

暁はそれに応じ、今まで着ていたパーカーやシャツを脱ぎ、まとめて霖之助へと渡す。

服を脱いだことによって露わになった暁の上半身は、よく鍛えられておりガッチリと引き締まっていた。

服の上からではわからなかったその肉体美に一瞬目を奪われた鈴仙は我に返り、すぐに視線を逸らす。

 

(ふぅん……あんな風になってるんだ…………)

 

永遠亭を訪れた患者の上半身を見る機会は何度かあったが、こうも鍛えられた異性の体は初めてだ。単純な物珍しさと、普通そうに見える暁が鍛えていたという意外性に興味は抑えきれない。

結果、彼女は男性二人に気づかれないようにしながらチラチラとそちらを伺うという行動を選択した。

 

霖之助は暁を連れて店の奥へと入っていった。

その後いったん霖之助だけが戻ってくるが、店の棚から若干ヨレたジーンズと長袖のシャツを取り、また店の奥へ消える。

少しすると水音が聞こえはじめ、霖之助が帰ってきた。

 

「さて。それじゃ、査定に取り掛かろう。鈴仙さん、ちょっと手伝ってもらえるかな? ……鈴仙さん?」

「へっ? あ、はい! わかりました!」

 

未だ脳裏から消えぬ暁の上半身に、いろいろとボーッと考えこんでいた鈴仙は慌てて荷車からガラクタを下ろしだす。

霖之助は不思議そうに首を傾げたが、特にそこには触れずにその作業に参加した。

 

 

「いやぁ、さすがは月の姫君が暮らす場所だね。なかなかのモノがこうもゴロゴロ出てくるとは。滅多にお目にかかれないような逸品も数点ある。これ全部を死蔵してたのかい?」

「そうですね。物置に入れたまま何年になるかわからない物の方が多いです」

「もったいないなぁ。他にまだ残りはあるかい? あるなら是非とも見てみたいんだけど」

「今日持ってきたのは物置の半分程度なので、同じくらいの量をまた明日にでも持ってきます。明日の都合は大丈夫ですか?」

「問題ないよ。うん、今から楽しみだね」

 

霖之助と鈴仙は雑談を交わしながら彼が査定し終えるまでの時間を過ごす。

やがて霖之助は全ての品を鑑定し、そろばんを取り出して計算をする。

 

「なかなかいい買い物になりそうだね。まとめて買うのと、明日持ってきてくれるものへの期待込みで…………これくらいでどうかな?」

「結構多いですね。それでお願いします」

 

霖之助が提示した金額で鈴仙が快諾し、取引は成立した。

鈴仙は現金を受け取り、金額に間違いはないか一枚ずつ確認しはじめる。

そこに風呂から上がった暁が姿を現した。彼はさっき霖之助が持っていったジーンズとシャツを着ており、手には畳んだ自前のズボンを持っていた。

 

「本当にすいません、お風呂に入れさせてもらった上に、服まで貸していただけるなんて……」

「気にしなくていいさ。君のおかげでこちらもいい買い物ができたからね。それはサービスだ。取っておいてくれ」

「え!? いや、それは申し訳ないですよ。だってこの服も商品でしょう? それなら代金支払いますよ」

「いいからいいから。その代わり、明日またそちらに残っているという品を持ってきて欲しいんだ」

「そんなことでいいならもちろん構いませんよ。……ごめん鈴仙、待たせたか?」

 

霖之助との会話がひと段落し、鈴仙に声をかける。

鈴仙は手の中で数えていた金から、暁に視線を移した。

 

「大丈夫。まさに今終わったとこだから」

「そうか、ならよかった。…………ん、手に持ってるそれは……」

「ああコレ? 見てよ、かなりの額になったわ。あんな埃まみれのガラクタの山でも馬鹿にできないわね……って、何? どうしたの?」

 

彼女はいつの間にか難しい顔をしていた暁に首を傾げる。

 

「やっぱりそれ、お金か」

「は? 何言って…………ああ、そうか。そういうこと」

 

彼の表情の理由を察し、納得する鈴仙。

 

「そうよ。外界と幻想郷では通貨が違うわ」

「そうだったのか……じゃあどのみち、俺は霖之助さんに代金は払えないな……」

 

その会話を聞いていた霖之助は自分の推測が正しかったことを知り、口を開いた。

 

「やはり君は外来人だったか」

「あ、はい、そうです。あんな状態だったんで言い忘れてました………すいません」

 

申し訳なさそうに謝る暁に首を横に振り、気にしていないことを示す。

 

「構わないさ。それより、外のお金自体は持ってるのかい?」

「ええ。 今はありませんが、永遠亭に置いてます」

「なら明日来る時にそちらも持ってくるといい。僕は外の通貨にもそれなりに通じていてね。両替してあげるよ」

「え、本当ですか! それは助かります」

 

暁にとって霖之助の申し出はかなりありがたいものだった。

これから幻想郷で活動していく以上、どうしても金は必要となっていくだろう。今のままでは、それを全て永遠亭に負担させることとなってしまう。

 

それは彼の良識と矜持が許さない。

 

「ではまた明日、よろしくお願いします」

「今日はいろいろとお世話になりました。ありがとうございました」

 

鈴仙と暁は頭を下げ、香霖堂の外に出る。

 

「気をつけて帰るんだよー」

 

店前まで出てきて見送る霖之助に再度礼をして、二人は永遠亭へと帰っていった。

 

 

 

その後永遠亭に到着し、風呂に入る鈴仙と別れた暁はひとまず寝床を作ることにした。

うんざりするほど余っているという布団と毛布、枕を永琳から受け取り、確保した床のスペースに敷いていく。

一分ほどで完成した寝床。

彼は満足げに一人ウンウンと頷き、試しに寝転ぶ。

 

快適。

 

その一言に尽きる。

柔らかく、そして暖かい。

その感触に浸る彼は不意に眠気がのしかかってくるのを感じた。

 

 

最後の決戦に挑む緊張感。ずっと死闘を繰り広げ、巨大なメメントスをひたすら走り続けた疲労。

そして、聖杯に敗北したというショック。仲間を失う恐怖。自分が消える絶望。いきなり幻想郷にきてしまった混乱。そしてまた戦闘。

人と出会えた安心。彼らに境遇を話すとともに蘇る自責の念。見えた一筋の希望。

最後にダメ押しでさらに追加された肉体的な疲労。

 

極限状態に追い込まれ、張り詰めていたものがこの瞬間一気に緩んだ。

そんな彼が眠くなるのは無理もないことで————

 

 

次の瞬間、気絶するように深い眠りへと落ちていった。

 

 

夢すら見ない、深い眠り。

自分の現状すら忘れられる安寧の中で微睡んでいた。

——だが、何かが聞こえる。

 

「……! …………!」

 

遠くから響くような、何か。

その正体を確かめようと、鉛のように重い瞼を必死に持ち上げようとする。

思い通りにならない体を疎ましく感じながら、彼の意識は次第に浮上していき————

 

「——起きてってば! 夕飯できたわよ! 食べないの!?」

「おわっ!?」

 

耳に届いた叫び声で跳ね起きる。

 

目を瞬き、その声の発生源を見る。

鈴仙だった。

 

「まったくもう。何回体を揺らしても呼びかけても全然起きないんだから……お腹減ってるでしょ? 食べないの?」

 

どうやら、自分を呼びに来てくれたらしい。

 

「あ、ああ……いただくよ。わざわざ手間かけさせてごめん」

「やれやれ……早く起きなさい。姫様を待たせることになるでしょ」

「悪い。今、起きる…………」

 

半分眠ったままの意識を無理やり引きずり出し、なんとか体を動かす。

だが一度眠りに入った体は、蓄積された疲労を思い出してしまったようで……

 

「ち、ちょっと! どうしたの!? 大丈夫!?」

 

立ち上がりかけた瞬間、崩れ落ちてしまう。

慌てて駆け寄ってきた鈴仙の手を借り、ふらつきながらまた立ち上がる。

 

「…………ちょっとばかり、疲れてるだけだ。問題無い」

「どこがよ! 足元も覚束ない状態じゃない!」

 

無意味な強がりは一瞬で看破された。

なんとか立つことはできたものの、彼は既に体が不安定に揺れていた。

そのまま廊下の壁に手をつき、ヨロヨロ歩きながら母屋へと向かおうとする。

 

「ああ、もう、そんな状態でどうすんのよ……!」

 

見かねた鈴仙は彼の腕をとり、自分の肩を貸す。

 

「……………………助かる」

「しっかりしなさいよ……まったく、なんで私がこんなことしないといけないのよ……」

 

ブツブツと文句を言いながらも、心配そうに暁の様子を伺う鈴仙。

彼女に支えられながらなんとか母屋につき、そこで待っていた永琳や輝夜に驚かれ、心配される。

彼女達に頭を下げ、用意されていた食事を半ば無理やり詰め込み、また鈴仙の手を借りて離れへと戻る。

 

扉を開き足を踏み入れ、自分の寝床まで進むと同時。

 

倒れこむようにして彼は眠った。

今度は鈴仙もそれを妨げることはせず、毛布をそっとかけてやり、その場を静かに去っていった。




アホみたいなサブタイつけるの楽しくなってきました。
クーガー兄貴は本当にカッコいい。アニメ界三大兄貴はグレンラガンのカミナ、スクライドのクーガー、三人目が空位のままだったはず。あの二人に並ぶのは相当ハードル上がるよなぁ……

無茶苦茶疲れて半端な時間眠っちゃうと、起きた時ものすごい体が重くなるんですが、私だけじゃないと信じたいです。あと全然話進んでなくてすいません……
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