“―――私のことは忘れて、自由に生きて”
それが彼女の最後の言葉。俺が聞き取れた彼女の遺言。今もそれが、耳に残っている。
腕の中で、徐々に消えゆく鼓動を聴きながら、それが残された。
何も守れなかった。彼女との約束を、果たせなかった。
絶対に守ると誓った。日本人をブリタニア人に示すためでも、枢ゲンブの息子だからでも、軍人としての責務からでもない。ひとりの男として俺は、彼女を守りたかった。守りきりたかった。この体も命だって、いらなかった。
もう自分の目の前で、この手で、誰かの命が終わるのは見たくない。そんなものはもう懲り懲りで、沢山で、いい加減終わらせたかった。終わらせる力があると、そんな未来がまだ今と繋がっていると、信じられた。彼女がそれを、繋いでくれた。
でもまた、そんなことを続けてしまった。この手で最も大切なものを、彼女を、終わらせてしまった。
今の俺に残されているのは、もう、その言葉だけだ。だから―――
「そんなこと、できるわけがない……」
胸の内からそれが、にじみ出てきた。
一発の銃声で慌てふためくグラストンナイツたち。そして、血に染まる彼らの主人たち。
そんな彼らの中で俺は、焼き付いたあの風景に引き戻されていた。
どちらも床に倒れたまま。一人は気絶しているだけだが、もう一人は、頭から致命的な赤を流していた。ダールトン将軍が、仕えているはずのコーネリア総督を捕虜に取りながら、自決した。自分の頭を、持っていた銃で吹き飛ばした。
倒れた二人を、グラストンナイツたちが介抱する。総督の無事を確保しながら、将軍の状態を看た。……その、絶望的な状況を。
誰かがその場に崩れ落ち、慟哭した。周囲の者も釣られて、嗚咽を漏らす。歯を食いしばりながら耐えているものもいるが、そこにあるものをまともに正視できていなかった。
他人からの又聞きでしか彼らを知らなかったが、その悲しみに暮れた様子は、彼らと将軍との繋がりがいかに強かったのかを物語っている。余りにも理不尽にその大切なものが奪われてしまったがために、ブリタニア軍の精鋭たれど感情を殺しきることができないでいた。俺はただ、そんな彼らを見ているしかなかった。
その一人が、俺の額に銃口を向けているのを、黙って見ているしかなかった。
「……いい度胸じゃないか、イレブン風情が。俺が引き金をためらうとでも? ―――だったら試してやろうか!」
額に銃口が押し付けられた。金属の硬さと冷たさが、額越しに伝わってくる。
俺にそれを向けているのは、日本人のような黒髪に浅黒い肌をもったグラストンナイツの一人だ。顔の凹凸や輪郭から判断するに、日本人やアジア人でもないだろうが、純粋なブリタニア人とは言えない若きブリタニア軍人。その彼が、茶色味がかった黒の瞳に怒りを滾らせながら、それを突き出していた。
今にも、引き金にかかった指に、力を込めようとしていた。
しかし、寸前でそれが止められる。額越しに小さく、ブルブルと震えているのが伝わった。握る力が強すぎて、感情のまま指先が動くのを止めようとするのに必死で、震えていた。でも、銃口は決して外していない。
「言え! お前は親父……将軍に、何をしたんだッ!」
弾丸を吐き出す代わりに、牙を剥き出しにしながら叫んだ。
言われて俺は、途方に暮れた。
(俺は彼に、何をしたんだ……)
胸の内で、自問した。……俺は一体、何ができたんだろうか。
俺の『力』は将軍を、救えたんだろうか?
「さっさと答えろ、枢木ッ!」
今一度、叫ばれた。
伝わる震えは、先よりも収まっていた。声にも、激情の中に冷静さが垣間見えていた。もはやそれは、最後通告だった。
だから俺も、答えようとした。
だけど、開いた口からは、何も出てこなかった。―――彼女の言葉が再び、耳に蘇ってきたから。
(君を忘れるなんて、死んだも同然じゃないか!)
奥歯を噛み締め、こらえた。この『力』のことは、決して、口に出さなかった。
彼らを信頼していないわけではない。ブリタニア軍人としての責務を、忘れたわけではない。もちろん、日本人としての復讐心に駆られてのことでもない。
この『力』に対する報復は、俺だけのものだったから。誰にもそれを、譲るつもりはない。これは俺が、俺だけが決着をつけれることだから。
ゼロへの報復は、俺だけが果たすものだから。
“――――――共に、生きろ!”
頭の奥底でまた、あの声が聞こえてきた。
でもその声は、今までと少し違っている。問答無用に俺を遠のかせることもない。
それもそうだ。
なぜならそれは、俺の願いそのものだから。排除する必要は、全くない。
「―――あなたでは俺を、殺せない」
俺のその言葉は、総督府の分厚い壁が突き破られる轟音によって、かき消された。まだ安全地帯であるここが、揺るがされた。
その異変にグラストンナイツたちは、動揺する。こちらの防衛網を突破して、敵陣がここまで攻めてきたのかと。いくらなんでも早すぎる。怯えと戦意を入り乱しながら、その震源域を見た。
そこには、第二の驚愕を顕にしていた。
瓦礫と粉塵をまとった白い巨人が、俺の背後に躍り出ていた。その手に光る直剣を、MVSの鋒を煌めかせながら。
短めでしたがご視聴、ありがとうございました。
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