どうして、このアッシュフォード学園に司令部を置かなくてはならないのか、わからない。
私たちの目的はブリタニアの政庁を占拠して、コーネリアを捕らえることにあったはず。この場所は、武装も抵抗もすくない安全な場所だろうけど、だからこそ二の次にしたって構わないはず。無視してもいい。司令部は、通信施設が備わっている市街区か防衛に適した軍の駐屯所に置けばいいことだ。学園地区にそれを置く理由がなんなのか、わからない。
でも、私は疑わない。それがゼロの命令である限り、忠実にそれをこなすだけだ。彼なら必ずこの戦いを勝利に導いてくれるはずだから。その命令が間違っているなんてことはありえないことで、従うことに迷う段階は遠の昔に過ぎ去っていた。例え目の前に、偽りであっても同じ時間を共有した生徒会の皆がいたとしても。その彼らに銃を向けるとしても、今まで偽ってきたことがバレてしまったとしても。今は信じるべき時で、戦ってなんとしても勝たなくてはならない時だ。
それなのに、私ときたら……。
「―――探せ、この学園内にいる。遠くへは行けないはずだ」
ゼロが静かに、命じてきた。
どうして彼女にこだわるのか、わからない。
人質は多いに越したことはないけど、全員を捕らえておく必要はない。捕らえておく黒の騎士団の労力を考えれば、少ないほうがいい。今重要なのは、まだこちらの手に落ちていないブリタニア政庁であってコーネリアだ。そして、ブリタニア本国からの援軍だ。今はこちらが優勢になっているけど、時間が経てばそれもひっくり返る可能性はある。この戦いは時間との勝負で、どんな犠牲を払っても一刻も早く片付けなければならない綱渡りだ。たった一人、それも車椅子の女の子なんて見逃したって構わないはず。
私にとって彼女は、ここにいる生徒会メンバーと同じ特別なブリタニア人だけど、今はこの戦いと仲間たちのことを優先する。……そう決めた。
「だけどゼロ……、これ以上人手は駆り出せない。たった一人の学生の捜索よりも、司令部の設置を急がないと―――」
「わかっていないようだなカレン。これは最優先事項だ。……二度も言わせるな」
言われて、歯噛みした。言外に示されている叱責に、恥ずかしさと情けなさがこみ上げてくる。
学園制圧に手間取ったのは、予期せぬ強敵がルート上に陣取っていたから。あのナリタの戦いで、私の紅蓮二式の右手を打ち抜いて破壊した見えざるスナイパーだ。まさか主戦場から外れた僻地に陣取っているなんて、わからなかった。てっきり崩落に巻き込まれていたか、ランスロットともども防衛隊には配備されていなかったかだと甘く見積もってしまった。
その奇襲によってゼロ番隊の半数が使い物にならなくなった。本来与えられていた二つの任務を同時にこなせなくなってしまった。政庁陥落のための布石をはることを優先して、この学園地区制圧は隊員をほかの部隊から補充してから行うことにせざるを得なかった。その補充を待つために、遅れが生じてしまった。
仕方がないこととは言え、結果的にはこうやって占拠することができたとはいえ、遅れたことは事実だ。例え仲間を守るためとはいえ、それと同時にこなせなかったのは部隊長である私の責任だ。見込みがあまかった。ゼロの命令を完璧にこなせなかったことは、どんな言い訳もできない事実。向けてくれた信頼に答えられず、情けなく悔しい。
何も言い返せず俯いて、こみ上げてくるものに耐えていた。
「な、ナナちゃんをどうするつもりなの!?」
自分の失態にうつむいていると、怯えながらも生徒会メンバーが、シャーリーが言った。
怖くて震えながらもこういうことを言ってしまえるのが、彼女の魅力であって同時に弱点だ。こんなことを考えなしに言えば矛先が向いてしまうということに、彼女は気づいているのだろうか。例え知っていようと知らないであろうとも、ここは黙っているのが得策だった。
叫びたい気持ちをグッと我慢していると、案の定ゼロの注意はそれでシャーリーに向けられた。
「居場所を知っているなら答えてくれ。どこにいる?」
ゼロが、問いかけてきた。
その冷たさに、ゾッとする。
友人だった彼女に向けられたそれは、答えいかんによって何でもする呵責なさを感じさせるもの。私に向けられたのなら一向に構わなかったが、それが彼女に向けられたのだとすると話が違ってくる。もし彼女が下手な抵抗をしてしまった場合、仮に私の予感が当たってしまった場合、私はどうすべきなのか全くわからない。見捨てる選択なんて出来そうにないが、助け切ることができるかはわからない。そもそも助ける理由が、黒の騎士団の『紅月カレン』である私にはどこにもないはずだから。
シャーリー共々息を飲んで黙っていると、ゼロの片手が上がった。
(銃を構える合図―――)
すると、この場に立ち会っている黒の騎士団のメンバー全員が、一斉にシャーリーへと銃口を向けた。
日頃の訓練の成果。ゼロ直属の部隊には、このように迅速に彼の命令をこなすための反射行動を身につけさせられる。いくつかの、他人にはわからない暗号めいたジェスチャーがあって、それを見たら躊躇いなくその命令をこなせるように訓練される。
はじめは皆、そんな軍隊の真似事を馬鹿にして訓練にも身を入れていなかった。俺たちはレジスタンスで、軍人じゃないと。だけどゼロが、着々とブリタニアにダメージを与える成果を出して騎士団の規模が大きくなるにつれて、皆の考えが改めさせられた。組織編集も行われて、もと日本軍人が騎士団に加わったことも大きい。騎士団はただのテロ集団ではなくて、反乱軍である認識を持つようになった。皆そんな訓練にも、身を入れるようになった。
私もそれを見て反射的に、手に持った小機関銃を腰だめにしようとした。だけどそれを、すんでのところで抑えた。
「……頼んでいるうちに言って欲しい。どこにいる?」
いくつも突きつけられた銃口に、状況を再確認。言葉が出ない。
「彼女をどうするつもりなの?」
生徒会長のミレイが、怯えて口も開けないシャーリーに代わって言った。さすがの彼女も、その表情は厳しいものに変わっていた。
「保護するだけだ。今の黒の騎士団は、そこの男のように、昨日のブリタニアによる虐殺で非常にナイーブになっている。私はすべての構成員を把握しきれているわけではなく、今のブリタニア軍には避難民を受け入れる余裕もない。ブリタニア人だとわかれば何をされるかわかったものではない」
「ひっでぇなゼロ! 俺はこれでも優しい方だぜ。ブリキの軍人とは違って女子供には手なんて出さねぇっての!」
玉城が言った。相手が近くにいるというのに無駄に大きな声で、いつもながら直情的に。
「……さっきそこの学生を殴ろうとしたのは、私の幻覚か?」
「あんなことしでかしてくれたブリキの学生が、いっちょまえなことカッコよく言ってくれるから、本当かどうか試しただけさ。
お前さえよければ、続きをやってやるぜ」
肩をすくめながらそう言うと、リヴァルを見ながらにやりと口の端を歪めた。
玉城は決してサディストというわけではない。考えるより先に拳が出てしまうタイプの人間だ。不安を胸の奥にグッと押し込めて耐えることよりも、周りに喚き散らして発散する類の人間だ。一匹狼を気取ろうとするけど、いろいろ文句を言いながらも面倒みはいい。私もどちらかというそういう性格なので、理解はできるがどうにも馬が合わない。ただ、今は亡き兄の親友の一人であって子供の頃から互いに見知っている仲でもあるため、それなりに付き合っていられる。決して、人を痛めつけて喜ぶような人間じゃない。
でも、今は違う。ブリタニア人に対しては違う。まだ小さなレジスタンスでしかなかった時期は子供の頃から知っていた彼だったが、黒の騎士団として規模が大きくなって部下を多数持つようになると変わっていった。変わらざるを得なくなった。ただのいきがったチンピラでしかなかったのが、落ち着いた凄みというものを時々見せてくるようになった。自分の力と敵と主がはっきりとわかって、喚き散らすことをやめた。殺戮の限りを犯したブリタニア人と同じように、残酷であることを良しとする。
私にもその手の気持ちが十分理解できるが……、どうしても彼ほど踏み込めない。彼ほどはっきりと白黒つけることができない。目の前にいる生徒会の皆を、あの虐殺を犯したブリタニアの軍人たちと同じに見れない。今は、彼のように見るのが正しいというのに。
一触即発の危険な空気が漂っているのを察知したのか、ミレイが沈黙を破った。
「ブリタニアの軍人が連れて行ったわ―――」
「ミレイ、やめろ! ナナリーを危険にさらしてどうするんだよ!」
「黙ってろガキ!」
なおも何か言い募ろうとするリヴァルの頭に、玉城は銃口を向けた。
「せっかくミレイちゃんがお前のためにその気になってくれてるんだぞ、静かにしてろよ。……それとも黙らせて欲しいか?」
「やれるもんならやってみろよ! 銃でも持たなきゃ俺たちと向き合えない腰抜けやろうが!」
リヴァルの激昂で、何かが切れる音がした。玉城の顔から余裕の笑みが消えた。
一瞬、嫌な沈黙が流れた。
次に来るものを止めようと口を開こうとするも、間に合わなかった。
「―――そうかいそうかい……。それじゃぁ、遠慮なくッ!!」
「学園の地下倉庫に向かっているはずよ!」
銃底を振りかぶり今にもそれを叩きつけようとするその時、すかさずミレイが止めた。今まで見たことがない必死の表情。
ギリギリのこの場所で、どうにか皆の安全を図っている。いつもはおちゃらけた不真面目な人だと思っていたが、いざとなったらちゃんと会長してる。あのリヴァルですら、いつもの頼り無さ・情けなさを払拭して矢面に出てきた。それに比べて、何かしらの行動を移せずただ黙ったままの自分がひどく情けない。揺れ動いている胸の内を隠すのに必死だ。自分たちが正しいのか、迷ってしまう。
そして戸惑いは、隣のゼロもまた同様だったらしい。
「ブリタニア軍人、だと……。誰だ? いつ来た!?」
「騎士候のヴィレッタと名乗っていたわ。銀髪で色黒の、女の軍人。あなた達がくるのと入れ違いでここから出て行ったわ」
ミレイが簡潔に言うと、ゼロの顔に緊張が走った。
もちろん、黒い仮面とマント越しでは表情や仕草など見えはしないのだけど、もう随分と付き合いは長い。彼も人間だ。作戦が佳境に入った時、予測を大きくうわまわったりでもしたら、緊張し目の前の出来事に集中する。醸し出している空気がそれを告げてくる。―――今は、危険な状況だと。
聞くやいなや、生徒会室の扉へと踵を返した。
「……ゼロ?」
「ここはお前たちに任せる。後の指示は―――」
何か指示を告げようとすると、バタンッと勢いよく扉が開かれた。
「ゼロ! ランスロットがきたぞ!」
扇さんが入ってくると同時に言った。
その報告に緊張が走った。
予期していたこととはいえ、奴は黒の騎士団にとっていつも厄種だった。最新鋭の高機動なナイトメアで乗り手の技術も一流。なによりどういうわけか、こういう最悪な時にこそ現れて牙をむいてくる。厄介極まりない相手だった。
加えて、その乗り手が疑うことなく日本人だとわかればその顔が鮮明にわかってしまうことは、至極戦いにくい。躊躇いなく引き金を弾けるかどうかは、わからない。そもそも、そこまで追い詰めきれるかどうかも危うい。
だけど今回は万全だ。倒すための準備も計画も整っている。足りないのは、私の覚悟だけだ。そしてそれは、紅蓮に乗れば問題ない。いつもそうだったように、操縦桿を握れば気持ちが切り替わってくれる。迷うことはないだろう。
心配なのはただ一つ。扇さんの報告に舌打ちしそうになったゼロだ。そんなもの見えも聞こえもしないが、わかってしまう。彼がこの状況を快く思っていないことを、建てたプランを放棄するか否かの段階まで追い詰められているということを。
それが私を不安にさせる。
◆ ◆ ◆
不眠不休の作業も、これで終わり。
「―――ユーフェミア様。私が必ず仇を、ゼロを討ってみせます!」
極度の疲労から眠ろうとする頭と瞼を、この合言葉でたたき起こしてきた。
―――私のたった一人の、お姫様……。
私の中にあった理想の女性像が、現実に現れたかのような人。いつもいつも、言葉にできない何かに怯えてビクビクしていた私を救ってくれた人。強くて綺麗で凛々しい、私のお姫様。ユーフェミア皇女殿下。
同い年だなんて、とてもじゃないけど思えなかった。私なんかとおんなじものがあるなんて、とてもじゃないけど考えられなかった。彼女は嫉妬なんか感じさせない、羨望しかない眩しさで満ちていた。触れることや見ることすら躊躇わせるのに、そうしたくてたまらなくさせる。何に変えてもそうしたくなる。
だから、彼女が自室に私を受け入れてくれたことが、たまらなく嬉しかった。昔、化学の元素表を見たときにも似た感動が、それ以上のものが溢れてきた。世界の真理の一端がその原子の配列の中にあるという事実、誰もが気づくことすらできない神秘の異世界を私だけが覗き見したようなワクワク感。こんな私でも、巨大な世界とつながっているんだという安心感。あんな眩しい人に触れられるということに、泣きたくなるほど感動した。……実際その時、泣いていた。
私には不釣合いな彼女のお召し物を着せてくれたのみならず、友達と言ってくれた。生徒会の皆には悪いけど、初めて誰かにそう言われた気がした。今までずっと感じてきた寂しさが、その一言が埋めてくれた。
悩みを打ち明けてくれた。私の直感だけど、たぶん誰にも言っていない胸の内。皇女として、エリア11の副総督として何も出来ないでいる自分。ただのお飾りでしかないんじゃないかという不安と、それを払拭できない自分の小ささへの苛立ち・無力感。いつしかそんな自分まで、嫌いになってしまうほどに。
それは私にとって、とても馴染み深い考え。馴染みすぎて、そういう星の下に生まれてきたんだと思うほど。みすぼらしくて当たり前、周りの人に怯えたり妬んだりするのは当たり前。だって私は、そういう人間だから。そんなことを当たり前にできてしまう人間だから。わざわざ耐えたり辛くなったりする必要すらない。嫌だと嫌っても、これが私なんだから逃げようがない。―――でもそれは、ユーフェミア様には似合わない。
彼女は、陽の光の下にいなくてはならない人だ。
(それなのに、あの男が―――)
膝に置いたパソコンを打つ指が、自然と強くなる。
先の合言葉だけでは足りない場合は、指先を噛んではその痛みで目覚めさせた。そのためほとんどの手の指が赤く、さきからは血がにじみ出ていた。叩くキーボードも、ボタンにつけられた文字がかすれるほどに染められている。それらはもう乾いて固まってしまっている。……もうこのパソコンは、使い物にならないかもしれない。
あとは、どのタイミングで点火するか入力するだけ。スパナとドライバーを使って直接操作する作業は、終わっている。理論通りの爆弾に仕上げるためには、この演算が難しい。少しでも間違えれば、期待通りの爆発は見せてくれない。一つでも計算式を間違えれば、全て水の泡だ。
でも、それももう終わった。
「これで完成……」
ふぅとため息をひとつ。とりあえずは、満足いくものが出来上がった。
「ユーフェミア様。これでゼロを、あなたを殺したこの場所を全部……、吹き飛ばせます」
今は亡き彼女に向かって、最後の報告。達成感がやってきて、久しぶりに顔がほころんだ。
だけど同時に、ドッと疲れもやってきた。頭の奥底に座っていた鈍痛が、眠りに落とそうと気力を奪い去っていく。
「……だめよニーナ、まだ目を閉じちゃダメ! これからが大事なんだから!」
ブルブルと頭を振って、襲ってくる眠気を払った。
そして再び顔をキツく締めた。
「ゼロ。これでお前を―――」
「いいや。それでは爆縮が足りないよ」
突然、人の声がした。
「誰!?」
有線で繋がった爆弾のスイッチを差し向けながら、言った。
作業するだけの最低限の電灯しかつけていなかったことが仇になった。ナイトメア・ガニメデの周囲以外にはほとんど何も見えない。閉鎖空間であるため、声も反射して発せられた場所がわからない。コツコツと床を叩く音だけが、反響する。
「黒の騎士団なら聞きなさい! 私の手には今、このトウキョウ租界を丸ごと消し飛ばす爆弾のスイッチがある。これを起動させられたくなかったらゼロを、私の前に連れて―――」
「そこにあるものは不発弾だよ」
今度はわかった。そちらに視線を向ける。
だけど、暗がりから現れたのは一人の子供。ブリタニアの貴族がよく着ている、礼装を身にまとった子供。それも、ただの貴族では着れないような礼装。膝下まで届くかのような褪せたブロンドの長髪をマントのようになびかせながら、近づいてきた。
「……こ、子供?」
「爆発しない爆弾では脅しにもならない」
足音が消える、止まった。その姿がはっきりと目に映った。
学園の中等部の学生なのか、迷い込んでここまで来てしまったのだろうか。それにしてもその服はなんなのか。学園には貴族出身の子供がいないわけではないけど、普段からそんな堅苦しいものを身につけている学生はいない。着る機会もほとんどない。
それに何よりその落ち着きよう。ぎゃくにこちらを不安にさせてくるものだ。見た目は自分より一回りは小さな子供でしかないのに、まるで老人のような佇まい。柔らかく笑いかけているように見えるが、その実毒蛇に睨まれているかのような本能的な恐怖を引き出してくる。
黒の騎士団ではない。それはわかった。でも、ただの学生じゃない。間違ってここに来てしまった子供ではありえない。その確信に満ちた佇まいは、何かしらの意図を持ってここに来ていることを悟らせる。
警戒しなければならない。その直感に従って、反射的に叫んでいた。
「そ、そんなわけない! サクラダイトだって使ってるんだから!」
「ナイトメアのエンジンを起爆装置に転用するのはよく考えたと思うけど、点火の計算が甘いんだ。正解を導き出すためにはまだまだ検証が足りない。君の思った通りに正しく起爆させられないよ」
第二の衝撃。どうして目の前の子供が、そんなことを言えるのか。なんで……、どうして?
指摘されて、自分の頭の隅に残った冷静な部分が正しいと囁いてくる。その声で強がりが剥がれてしまって、怯える。手に持っているスイッチが、言われたとおり本当に何の役にも立たないものに思えてしまう。
それを確かめたくてたまらなくなってくるが、できない。今これを離したら自分には、何もなくなってしまう。ゼロへの復讐を果たすこともできない。
「でも僕なら、それを正しい爆弾に変えることができる。その力が僕にはある」
再び近づいてきた。ためらいなく。
そして、その手に持ったモノをこちらに向けてきた。
「僕の名前はVV。そして、ありがとうニーナ・アインシュタイン―――」
バンっ
向けられたのが銃だとわかった時には、その破裂音が耳に届くと同時に頭がガクンッと後ろへのけぞった。そして、後ろのシートにぶつかってバウンドすると、反動で膝下のパソコンに顔を突っ込んだ。
ガチャンッと床に、それが落ちたのが見えた。そこにツーっと、真っ赤な筋が引かれて丸く広がっていくのも、見えた。
そこでようやく、自分が撃たれたことに気づいた。
「君の大量殺戮兵器によって、僕らは目的を果たせるだろう。君の復讐も叶えてあげる」
先ほどの子供の声が聞こえる。興奮も怯えもない、穏やかな落ち着きのままの声音。
不思議と痛みはない。脳には痛覚が存在しないというのは知っていけど、本当に痛くないのには驚いた。助けを呼ぶ声は出せないが、まだ視覚も聴覚も機能していることにも。
「あとは、もう一つのカギを手に入れて僕らの力の簒奪者を殺せば事は成る。……互いに食い合ってくれることを願うだけだね、シャルル」
子供の声。近くには他に誰もいなかったはずだけど、傍にいる誰かに話しかけているかのよう―――……。
もう少し聞いていたいけど、視界が白く霞んできた。耳にはキーンという電子音に似た音が鳴り響き、それ以外の全ての音が遠くへだたっていった。そして、その音すらも静まっていく。
もうなにも見えない、聞こえない。
(ごめんなさい、ユーフェミア様。私、敵を、討てなかったみたいです……)
悔しさで胸が詰まると、最後に一つ、冷たい感触が頬に流れた。
長々とご視聴、ありがとうございました。
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