不可侵のギアス 《完結》   作:ツルギ剣

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 原作沿いの話ですが、少しだけ会話文を盛っております。


ゼロ
過去から の 刺客


 

 

 

 倒壊し瓦礫の山と化した要塞、政庁。地盤が一瞬にして溶解したことにより崩れ落ちた、ブリタニア帝国が誇る最後の砦。だが今は、幾百もの瓦礫の山でしかない。

 

「―――それが、お前の正体だったのか、ゼロ」

 

 突然の倒壊に巻き込まれて数十メートル落下。通常なら圧死か墜落死なはずだが、この女は生き残った。コーネリアは生き残ってみせた。

 だが、無事では済まされなかった。

 騎乗していた《グロースター》は全壊し、もはや巨大なスクラップだ。形を留めているだけでも奇跡。なんとかコックピットを、パイロットを守るだけで精一杯。とても戦闘行為など出来るわけがない。

 

 傍まで降り立つと、歪んでしまったハッチをこじ開けた。そして中から、コーネリアを引きずり出す。こちらがつまみ出すまでもなく、こぼれ落ちるようにして外に体を投げ出してきた。

 現れたその体は、満身創痍。顔面は蒼白、腹部から真っ赤な血液が流れ落ちては軍服を汚していた。手足は地面に投げ出したままで、瓦礫に背を預けるだけで身動きすら取れなくなっていた。

 まだ生きてはいるが、傷が内蔵に達しているかもしれない。折れた骨が傷をつけているのかもしれない。早急に治療が必要な重傷だろう。……今は願ったりもない状況だ。

 

「お久しぶりです、姉上。8年ぶりですね」

 

 ガヴェインから降りて、コーネリアの前に立った。

 もはや相手は指一本動かせない。抵抗したところで負けはしないし、させるような隙など見せない。距離さえ保てば何の問題もない。ナイトメア越しでできるのならそれが一番なのだが、そこまで便利な力じゃない。この身を晒す必要がある。

 何より、教えなければならなかったから。目の前の女が、いったい誰に負けたのか。誰と敵対していたのかを。

 ゼロの仮面を取り去り、素顔のままコーネリアの前に立った。

 

「……ナナリーのために、こんなことを?」

「はい。私は今の世界を破壊し、新しい時代を作る」

「そんな世迷言のために、クロヴィスを殺したのか。ユフィまでも! 母は違えど、我らは姉弟だというのに―――」

「その兄妹たちのおかげで、私とナナリーは全てを奪われた。母を、家を、名前も全て」

 

 冷静に、かつ事実だけを告げるように。

 そのことでもう激することはない、過ぎ去ったことであり飲み込んできたことだ。その無力は受け入れて、克服した。報復を終えた今では、怒りなど湧いてこない。

 代わりにコーネリアの方が、顔を沈ませていた。

 

「……あの時、お前たちの危難を救ってやれなかったのは、私の至らなかった罪だ。だが、取り戻したいというのならば、やり方はあったはずだぞ」

 

 形のよい眉を顰めて搾り出すように懺悔してきた。

 ……懺悔? 自分で言ってみたが、そんな馬鹿なことがあるのか? もう一度彼女の顔を見てみた。

 身体の苦痛から来る苦悶とは違うもの、……悔恨? 目を凝らしても、見えてくるのはそれだけ。戦略家であっても曲がったことを嫌う彼女の気質では、嘘ではないだろう。疑いはない。疑いはないのだが、意表をつかれた。憎悪や復讐心なら心構えは出来ていたが、それは予想外だ。

 覚悟が揺らぐ。もし目の前の彼女が本当だったのなら、もっと別の結末があったのではないか……。だが、腹に力を込めると思い出した。もう俺は、後に退けないことを。仮定の話など何の価値もない。

 

「欲しいモノがあるなら奪い取れ、強者は全てを許される。力こそが正義である、弱者には生きる権利すらない。……我らの父が、そう教えたはずですよ」

「私は、違う!

 弱肉強食は世の理なれど、私の信念は違う。断じて!」

「信じられませんよ、あのユフィですらああなのでしたから」

「ユフィはあんな―――ック!」

 

 重傷を圧倒するような気迫はしかし、長くは続かなかった。ゴホゴホと咳込みながら、血を吐き出す。耐えられず体を折り曲げながら、それでさらに苦痛が増してくる悪循環に陥りながら。

 その弱々しい姿に、一瞬哀れみを覚えた。今までずっと圧倒してきた敵が、いつも傲慢なほど正義感が篤い姉上が、こんなにも弱った姿を目の前で晒している。すぐにでも手折ってしまえるほどに儚い。強大な敵であったからこそ、今のその姿を見るのは忍びなかった。

 だけど、目を逸らすことはできない。してはいけない。コレをやったのは、間違いなく俺なのだから。勝者として敗者には、毅然として敗北を告げなければいけないだろう。

 

「奪える者からは骨の髄まで奪い尽くす。それが、皇族の本性なんですよ」

「……お前たちのは命は、奪っていない」

「ただ生かされているだけ、あなた方の手のひらの上で。そんなもの、死んでいるのと何も変わりません」

 

 そう断言すると、コーネリアの瞳から色が消えた。おそらく俺と同じように。説得など無駄だと理解したのだろう。

 ならばもう、話は終わりだ。旧交を確かめる必要はない。そろそろギアスの記憶消去範囲を超えてしまう、ここが限界だ。

 隠していた左目を表した。

 

「……どうやら、これ以上の問答に意味はないようだな」

「ええ、そのとおり―――」

 

 

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが問いに答えよ」

 

 

 

 命じるとともに力の奔流が、ギアスが、コーネリアに放たれた。絶対遵守の暴力が、彼女を縛り上げていく。

 カチリと、彼女の中で全てが組み変わった。ただの一瞬で、彼女の顔から意識の色が漂白された。俺への絶対的な忠誠を根本に据えた、完璧な奴隷へと変貌した。

 

「……何を聞きたい?」

 

 感情のこもらない声で、語りかけてきた。

 いつものギアス、ユフィの時のようなイレギュラーは起こっていない。今コーネリアは、完全に俺の支配下にある。

 ようやくここまでたどり着いた。8年間の雌伏は余りにも長かった。ここまでこれたのは、ギアス以上の奇跡なしでは到底考えられない。だが、感慨にふけるのはまだ早い。まだたどり着かなくてはいけない場所が、この先にある。

 

「8年前、私の母マリアンヌを殺したのは貴女ですか?」

「違う」

「ならば、犯人は誰か知っているか?」

「知らない」

 

 想定外の返答、コーネリアが知らないだと? 偽っているのかと疑う。

 だが、ギアスは絶対だ。嘘など付きようがない。彼女ですら、あの事件の黒幕にたどり着けなかったということか? それとも真実を知ることを途中で放棄し、表向きの当たり障りのない『事実』を受け入れたということか?

 どちらであっても、えぐり出さなくてはならない。

 

「……その時貴女は、母の警護担当でしたね?」

「そうだ」

「ならば犯人を見たはずだ。なぜわからない?」

「警備から外されたから」

「誰にだ?」

「マリアンヌ様に」

「母さんに!?」

 

 予想外の返答、考えにすら及ばなかった答えだ。

 あまりにも矛盾している、おかしすぎる。

 

(母さんは殺されるのを知っていた? ならばなぜ、俺たちを避難させなかった? 警護を下げなければならない相手だったというのか、それならば親しいか位の上の誰かということになるが、皇妃である以上皇帝以外でそんなことをする必要はない。

 ……奴が殺したということなのか? いやしかし、そんなことをする必要がどこにある? 母さんが皇妃として収まっていた以上、奴の地位も権力も財力すらも脅かす存在にはならない。むしろ協力関係だ。他の皇妃たちにそそのかれるような間抜けでも、弱い立場でもない。暗殺する必要がどこにもない。

 だが、だったらいったい誰が、あんなことをできる―――)

 

 思考が堂々巡りする。答えと噛み合わない。今ある情報だけでは導き出せない。

 さらなる謎に焦りながらも、続けて尋ねた。

 

「……貴女はあの事件のことを調べていたはずですね。犯人の目星はついているのではないですか?」

「わからなかった」

「わからないはずがないだろう! 皇妃を宮殿で白昼堂々と殺したんだぞ、皇族か貴族の誰かが手引きしなければできないことだ! そんな大それた力と目的を持っている奴は限られているはずだ、答えろ!」

 

 命じるとコーネリアは口を開く。だが、何も答えない。黙ったまま、答えることができない。

 ギアスの条件のひとつ、できないことはできない・知らないことは答えられない。物理的に無理だったり知識を持っていなかったとしたら、命じても黙したまま何の行動をとらない。ただし、親友・家族・仲間などの信頼に基づく無意識の除外は排除されている。俺への絶対的な忠誠から全てを省みるため、例え彼らと誇りを裏切ることになろうともバイアスなしの論理的な答えしか口に出さない。

 そのギアスが証明してしまった。コーネリアには、黒幕の糸口すらわからなかったということを。

 

 奥歯をギリリと噛み締めた。まさかここまで来て、たどり着けないとは……。

 怒りを収める、八つ当たりをしても仕方がない。目的を変えることにした。

 

「殺しに使った銃器はどこのものだった? どうやって宮殿に持ち込んだ、どこに捨てられたんだ?」

「わからない」

「弾痕と銃弾はエントランス中に、母さんとナナリーの体にもあった。わからないはずがないだろうが!」

「中東・東欧・アフリカのテロリストたちに、EU連合と中華連邦が使っていたものまで混じっていた。ブリタニアと敵対関係にあるというだけで、共通点が見いだせなかった」

「……ならば監視カメラは? 宮殿内にはどこにも設置されていたはずだな、そこに犯人は写ってなかったのか?」

「写っていなかった。映像は消されていた」

「馬鹿な、安全保障局のものも消えていたのか!?」

「そうだ」

 

 安全保障局のデータは、皇帝ですら一存で消去・改竄等できない。それが絶対の不可侵であることが、王政のブリタニアであっても民主的で自由な気風が消えないでいる証拠だ。国の原動力であって、逆説的に王制を王制たらしめている。

 予想はしていたが、執拗なまでの手の込みようだ。

 だけど、必ずどこかに穴がある。殺しを、それも皇妃殺害など隠しきれるわけがない。

 

「……カネの流れはどうだ? 母さんが殺されて得をした者、そいつと関係して利益を得られる殺しができる奴らは!? 宮殿の衛士の監視網を突破できる殺し屋は、限られてくるはずだ」

 

 切り口を変えると、コーネリアは答えようと口を開く。が、言葉は出てこない。

 

「……それは調べていないのか、クソッ!」

 

 コレだけの大掛かりな偽装である以上、一人では不可能だ。手駒がいる。それも、信頼できる数人だけでは足りない。金や地位などを餌に働かせた者どもが必ずいる。先のコーネリアへの問いかけ上、そんなわかりやすい利益のための事件ではないらしいが、黒幕へのとっかかりにはなる。見返りを得た以上、何かしら汚い仕事を請け負ったはず。一つ一つはただの断片だろうが、継ぎあわせれば陰謀の全体像はみえてくる。真実への迂回路としてはコレが最短ルートだろう。

 だが、コーネリアはソレを知らない。彼女の地位と性格上調べないはずはないが、やらなかった。―――できなかった。

 彼女は犯人ではなく、母さんを殺す動機やソレを隠さなくてはならない理由もない。つまり、させてもらえなかった。戦地にでも送られたため追求できなかった。させなかった存在がいる。

 

「…………他に調べてる奴は?」

「皇帝陛下に頼まれて、シュナイゼル兄様が」

「皇帝がシュナイゼルに? 奴らは事件に関与していないのか?」

「わからない」

「奴らが知らないはずないだろうが、自分たちの庭なんだぞ。

 隠蔽工作の可能性はあったのか? 奴らは誰を庇ってい―――」

『おい、ルルーシュ! 今すぐ戻って来い!』

 

 話の腰を折られて、思わず見上げた。これからだというのに、邪魔をしてくるとは……。

 だが、ガヴェインのスピーカーから聞こえてくる声は、いつものCCらしくない。慌てている? このクーデターとて始終つまらなそうに見下ろしていた彼女が? あの冷血な魔女が、一体何に―――。

 

『お前の妹が攫われた! すぐに駆けつけなければ取り戻せなくなるぞ!』

「……何かと思えば、ふざけた事を言うな! 学園に配置した黒の騎士団の包囲から逃れられるわけ無いだろうが」

『違う、そいつじゃない! 別の奴が攫っていった』

「ならば連絡があるはずだ。ナナリーを連れて隠密に動くなど不可能だからな」

 

 アリも通さない検問を敷いているわけではないが、車椅子の盲目の少女を見逃すほどザルではない。周りは戦場ですぐさま消息を絶てるが、そこから先は銃弾と爆弾の嵐だ。ナナリーを人質にとろうにも、己の命すら守れない状況下だ。仲間が到着するまで、学園の中に潜んでいるしかない。そして、俺の記憶と考えが正しければ、ナナリーを捕らえている女に仲間などいない。ブリタニア軍の援護などない、いるはずがない。

 

「冗談に付き合っている暇はない。今はコーネリアを捕虜にして、本陣に―――」

『神根島だ! ここから一番近い門はあそこだ、転移するならあの島しかない!』

 

 神根島。その一言で、犯人が常識から外れていることを悟った。

 ギアスを知っている奴、それもCCと同じ程に。そして、俺の知らない超常現象を操作できる敵だ。……ナナリーが狙われる理由は、多分にある。

 だがなぜ、なぜこのタイミングなんだ。なぜ今、彼女を攫う。……いやソレはわかっている。俺が、特にCCが傍にいないからだろう。この戦いが始まって以来ナナリーは、無防備極まりない状況にあった。そこを突かれたんだ。何に変えても守ると決めたのに、この体たらく……クソッ! だけどこんな、こんなことは想定できない。完全に俺の能力範囲外だ。

 常識的に考えれば、馬鹿げた妄想。だけど俺は、非常識が確かに存在している事を知っている。ソレと敵対関係になるかもしれないと、考えてはいたはずだ。CCは俺がまだ知らないことを知っている、わからないことが分かる。彼女の感覚を信じるべきだろう。

 しかしそうなった場合、俺は、全てを捨てなければならない。今まで積み上げてきたものを、やっと手が届くかも知れない真実を手放さくてはならなくなる。加えて彼女は、完全に俺の味方になっているわけではない。目的のために、俺を裏切る可能性は充分に残っているのだ。

 信じるべきか無視するか。決断を迷う。

 

『私にはわかるんだ! 今はまだ精神だけだが、身体の転移までされたら手が出せなくなる。時間がないぞ!

 妹はお前の目的なのだろう、ならば信じろ!』

 

 

 

『―――ポォールゥ・ハイルゥー・ブリタァニアァ!!』

 

 

 

 大音声の号令が、一面に響き渡った。思わず耳を押さえた。

 吹き付ける粉塵、腹に響くような機械の駆動音、空気を焼くイオン臭。声が放たれた背後、巨大な気配に振り返った。

 

 そこにあったのは、飛行型の巨大ナイトメア。数本の巨大な刺を生やした鉄球、色違い・サイズ違いのウニといった様相。その後頭部辺りから、パイロットであろう男が突き出ている。

 羽や推進装置が見当たらないのに、巨体を宙に浮かせている。体に幾重もの走っている光の線、ガヴェインの六枚羽にも同じ光が走っている。おそらく《フロートシステム》を使って飛んでいるのだろう。見たこともない異形のナイトメアだ。

 

「……何だコイツは!」

「何と! そこにいらっしゃるのは、殿下。それにぃ―――ゼロ様!」

 

 コーネリアから俺に視線を合わせると、奇声を発してきた。そしていきなり、感極まったかのように両手を祈るように組んだ。

 その声、姿、ブリタニアの騎士の青いパイロットスーツ。それらからかつて見た、倒した男を思い出した。

 

「なんたる行幸ッ、数奇、運命ぃッ!!」

「オレンジか!?」

「お!? ……おぉ、オ、おれ、オレ、オのレぇ―――」

 

 叫ぶといきなり、狂いだした。怒り狂うのではなく、バグでも起きたかのような狂気じみた動き。人間のそれとは明らかに違う。

 状況は全くわからないが、味方ではありえない。ならば、敵だ。すぐに排除しなければならない障害だ。差し出されたガヴェインの手を伝って、コックピットに乗り込んだ。

 それと同時にオレンジが、一気に正常に戻った。

 

「お願いします!! 死んでください!」

 

 目に正気を戻すと、奴も己をコックピットブロックに収納していった。

 まだコーネリアには聞きたいことが山ほどある。今この時を逃せば、二人きりになる機会を作るのは難しいだろう。黒の騎士団たちにギアスの存在がバレる、それだけは避けなくてはならない。

 だが、敵が駆けつけてしまった以上全て後回しだ。

 

『私は、帝国臣民の敵を倒せ! それこそが、忠義ッ! 騎士ッ! ならばこそ、私こそがッ!!』

「コーネリアの確保を―――」

『ポォールゥ・ハイルゥー・ブリタァニァ!!』

 

 わけのわからない奇声を叫び散らしながら、突進。体当たり。コーネリアを掴もうとしていたガヴェインは押され、引き離され―――宙に吹き飛ばされた。

 凶悪な重力が、体を縛り上げていく。

 

「クォッ!!」

『せさせず、させじ、許すまじぃ!』

 

 叩きつけてくるような奇声、どんどんとコーネリアから引き離されていく。政庁の外へ、市街地へと吹き飛ばされていく。

 もはや戻れない。こいつを潰しても親衛隊が駆けつけてきてしまう。せっかくの捕獲の機会だったのに……失態だ。

 オレンジ風情に、邪魔をされるなんて。

 

「ええぃ! 邪魔をするな!」

 

 気持ちを切り替えると、《フロートシステム》を作動させた。

 

 

 

 戦う、オレンジを排除する。まずはそれから。そして―――、ナナリーを助けに行く。

 もう迷っている暇はない。CCを信じるしかない。一刻も早く、彼女のもとに駆けつけなくてはならない。

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

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