不可侵のギアス 《完結》   作:ツルギ剣

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置き去り の 奇跡

 

 

 

 

 トウキョウ租界から東京湾を抜け、太平洋へ。孤島が点在する海原へとガヴェインを飛ばした。ナナリーがいるかもしれない場所へ、連れ去られた場所とへと、戦域から離脱した。

 戦域から抜けるに際して、指揮権の移動を命じた。陣頭指揮は藤堂に全権を、負傷した扇の代わりにはディートハルトを、後方支援と後詰はカグヤへと集約させる。それで俺がいなくなった穴を埋めた。……埋めきれるわけはないが、ソレが最悪一歩手前の次善策だ。今の状況ではそれしかない。

 指示を終えると、顔を伏せた。一方的かつ理不尽すぎる立場の移行に、全員が不平不満を喚いてきたが全て無視。そのほぼ全てが正当な理由であり真っ当な疑問であった、悪いのは俺だ。本当の目的を伏せ続けてきた俺の責任だ。正当化の言い分には頭が回らないので、ゴリ押しするしかない。今まで積み上げてきた全てが崩壊してしまう。その焦りと怖れが、腹の奥底に苦く冷たいものを溜めていった。

 

(ナナリーがいなくなったら、俺は今まで何のために……)

 

 細く先の見えない綱渡りをさせられている気分だ。敵の手のひらで踊らされていて、勝ち目が全く見えない。ただ愉しませるだけの道化だ。それを思えば怒りが沸き起こって頭も回転してくれるだろうが、現状は冷え切っている。ナナリーを人質に取られ今にも殺されるかもしれない。その恐怖が身を竦ませ頭を回らなくさせていた。何も考えられない……。

 それでもガヴェインは、先に進み続けた。死地としか言えないような場所へ、俺を送り届ける。

 

(何のための独立戦争だ。ユフィまで犠牲にして―――)

「―――見えたぞ、神根島だ」

 

 CCの呼び声に、顔を上げた。

 水平線の先にポツンと、小さな島が見えた。本島から離れ置き去りにされたかのような孤島。忘れられそれゆえに人の手が入らなかった、太古の自然のままに在り続けている。古代の遺跡が取り残されている。……あそこにナナリーがいる。

 最悪な予想を頭から振り落とし、顔を引き締めた。強く怒りを滾らせながらも冷静に、睨みつける。

 

(取り返す、誰が相手だろうと。ナナリーを)

 

 決意を新たに、先を急いだ。

 そう。誰であろうと何があろうと、ナナリーを助ける。彼女にはこんな、血で血を洗うような世界に関わらせない。それを邪魔する奴らは何びとたりとも許さない。そのために俺は、修羅に堕ちたのだから。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 主戦場からわずかに離れた市街区、ランスロットに破壊された右腕を修理させていた。破壊したブリタニアのナイトメア・サザーランドの腕をもぎ取り紅蓮二式に移植。部下のナイトメアを使って、肩に腕を嵌めていった。

 純日本製とはいえ、ブリタニア製との互換性がないわけじゃない。まだ主力ナイトメアはブリタニアの模倣品・《無頼》である以上、紅蓮もそうする必要があった。手足が破壊されても他を継ぎ足せば戦える、完全なオーダーメイドだと資源供給が不安定な戦場では使い物にならない。ゲリラ戦を主な戦闘方法にしている黒の騎士団には、交換不可能な名品などお呼びじゃない。《輻射波動砲》が使えないのは大きなマイナスだが、紅蓮の機動力まで失われたわけではない。手足が揃えば戦える。まだ、ブリタニアをなぎ払うだけの力は充分に残っている。

 慎重に違う腕と肩を嵌めると、接続テストを行った。紅蓮から伝えられる違和感をMMIにより体感し、技術武官に伝える。私が操作しやすいよう微調整をしつつ、むき出しの接合部に装甲を貼っていった。戦う準備を整えていく。

 

 そんな最中、ありえない報告が舞い込んできた。思わず、耳を疑った。

 

「―――ゼロが、消えた? ……どういうことですか藤堂さん?」

 

 それは何かの比喩なのだろうか。通信が傍受されていることを恐れて、暗号めいた、私たちにしか読み解けない何かを伝えようとしてのことだろうか。そんなありえない、ありえてはならないことを伝えるなんて、何を言いたいのだろうか……。

 そんな現実逃避の思考は、沈黙によって崩された。

 ゼロは消えた、唐突に戦場から離脱した。指揮権を他に委ねて、どこか別の場所に消えた。何処に行ったのかは、誰にもわからない。今行かなければならない場所など、どこにもないはず。ここ以外に重要な場所など、一体何処に……。

 

「なぜこんな時にゼロが? こんな……、後一歩なのに」

『わからん。指揮権を私に押し付けて、どこかに行くとだけ。こちらから通信もできない』

 

 元軍人らしい淡白な返答に、頭が若干だけ冷えた。怯えるだけ守ってもらうだけ/不満をわめき散らすだけの女の子は卒業したのだ。今の私は、ゼロ番隊の隊長。黒の騎士団のエースパイロットであり、ゼロを守護する最後の盾だ。こんな時だからこそ、冷静にならなくちゃいけない。ソレができる奴だと信頼して、こんな大事を教えてくれたのだ。

 空転していた思考が、別の可能性を噛んで動き始めた。

 

「……応答しないだけですか? それとも、通信自体ができてない状況ですか?」

『応答しないだけだろう。ガヴェインの索敵と情報収集力は、租界全域をカバーできるほど巨大だ。撃ち落とされたなども考えづらい。……今はゼロのことは置いておこう。

 紅月、修理が終わり次第こちらに来てくれ。お前の力が必要だ』

 

 一瞬、何を言っているのかわからずほうけてしまった。ゼロの安否よりも重要なことなんて、何がある? なぜソレを脇に置いてしまえる? 藤堂さんともあろう人が、そんなこともわからないなんて……。

 私の戸惑いをよそに、更に訴えてきた。

 

『一気に畳み掛けて、コーネリアを捕縛する。確実に、万が一にも逃げられないようにな』

「ですが、ゼロは―――」

『時間が惜しい。捕縛次第すぐに横須賀の基地を奪う必要もある。政庁を倒壊した以上、ここではブリタニアの援軍に対して無防備すぎる』

 

 ほんの少しいらだちが混じったその声で、ようやく合点がいった。

 ゼロはいなくなった。だけど、クーデターはまだ終わっていない。まだブリタニア軍を滅ぼしたわけじゃない。海の向こうから援軍がやってくる。ここで勝利したとしても、やってきた援軍に蹴散らされてしまうのは必定。数は多いとは言え所詮は烏合の衆だ、装備は潤沢で訓練された軍人たち相手では手も足も出ない。ブリタニアの支配から日本を解放するなどできなくなる。ここが正念場、独立か再びの隷属かの分水嶺だ。果敢に突き進んでいかなければ、活路は開けない。

 藤堂さんたちの部隊に合流すべきだ。敵を蹴散らし仲間を守らなければならない。私と紅蓮がいれば、戦局はさらに確定的なものになるはず。そうさせないといけない。これからさらなる不安定要素がやってくる以上、余裕があるときに余裕を持たなければ擦り切れてしまう。戦いには大胆さが必要だが、戦略としては慎重に慎重を重ねて進まなければ勝てない。もしゼロがいたとしても、そう命じてくるはず……。だけど、割り切れない。

 

『……聞こえてるな、紅月。修理が終わり次第来てくれ』

 

 藤堂さんが促してくるも、返事は返せなかった。

 援軍に向かわなければならない理由はわかる。大きな視点/戦略的な考えはどうにも肌に合わずわからないことは多いが、これは理解できる。仲間がまだそこで戦っているのだ、いつ死ぬかも知れない戦場で。自分が行けば死ぬ可能性は低くなる。彼らとは生きて明日を、勝利を祝いたい。助けに行きたい気持ちは、十二分にある。

 でも、ゼロがいない。どこかに消えてしまった。私に進むべき道を示してくれた彼がどこにも、いない。ここで援軍に向かえば、ゼロを探しに行けない。

 仲間とゼロ。賭けてはいけない二つが、天秤に乗せられた。

 

(……ゼロ。私は、私はどうすれば―――)

 

 再び考えが空転した。何も考えられない、決められない。どうすればいいのか、何が最善なのかわからない。

 考えがまとまらなくとも、紅蓮の調整は着々と終わっていった。接続テストはオールグリーン、指先まで自在に動かせる。戦場で捨てられた廃品&突貫工事とは思えないほど正確な仕事だ。ラクシャータの教えを身につけたゼロ番隊の専属技官、頼れる部下だ。モニターにすべての調整が終わったサインが浮かんでいる。

 何の気もなしに見たモニターだが、奇妙なものが映っていた。ファクトスフィアが捕らえた情報を元に編まれた広域の外部モニター。身動きがとれない今、主戦場から離れているとはいえ安全地帯とは呼べない場所であるため、警報替わりにソレを稼働させていた。ソレが捉えた上空の映像、初めは小さな点でしかなかったが自動的に追尾してズームされた。粗がとれ、拡大された映像が映し出される。

 

「ランスロット? なぜアイツが、外へ―――!?」

 

 戦域から単独で離脱するランスロット、あまりにも不自然な行動だ。だけど、その意図に思い至ってハタと視界が開けた。奴がここを離れる理由は、ひとつだけだ―――。

 勢い込んで通信機に手を伸ばした。

 

「申し訳ありません、藤堂さん。私はゼロを追いかけます!」

『行方がわかるのか!?』

「ランスロットが戦域を離脱しているのを発見しました。今この場で奴が、ここをはなれる理由は一つだけ。―――補給部隊、接収した空輸機を私の所に回せ。最優先だ!」

 

 奴はゼロの居場所を知っている。どうやって知ったのかはさっぱりわからないが、わざわざ戦域から離脱するワケはほかに説明がつかない。奴にゼロの居場所まで案内してもらう。尾行が気づかれたのなら、そのときは刺し違えて奴を落とせばいい。アイツは私たちの、ゼロの敵であることは確かなのだから。ソレができるのは、私しかいない。私がやらねば、ゼロが危ない。

 

『待て紅月! 今お前まで消えれば戦線が不安定になる。奴のことは諦めろ!』

「ゼロの行動には何か意味があるはずです! 私たちにはわからない、何かが。行かないと―――」

『この状況下で最優先すべきは陣頭指揮をとることだ。それ以上に重要なことなどない! お前が抜ければ犠牲が増えるんだぞ』

 

 荒げられた叱責に、気勢が少しばかり抑えられた。

 ここで私まで抜ければ、クーデターの成功は危うくなる。黒の騎士団の、日本人皆の悲願が消えてしまうかもしれない。今私たちは、先の見えない綱渡りをしている。落ちたら、今まで以上に厳しい奴隷生活が、もっと最悪な家畜にまで落ちるかもしれない。私の行動は、私情でしかないのではないか? 皆の命と希望を預かる立場として、身勝手すぎるのではないか? そう、問われている気がした。

 しばし自問してみた。落ち着いて考え直してみる。

 藤堂さんの言い分は正しい、重要なのは今ここで戦うことだ。ここで負ければ全てがご破算になる。何としてでも勝たなければならない戦いだ。私は、ゼロに重点を置きすぎているのかもしれない……。でも、そう思わせるだけの何かがゼロにはある、ソレを示し続けてくれた。今回も何か、私たちの勝利に繋がる何かをもたらそうとしているのかもしれない。その期待だけは、間違いじゃない。

 

「……ブリタニアの援軍が上陸する前に、奇襲で牽制するためかもしれません。こちらがコーネリアを人質にしても、世界中にそれを喧伝して浸透させないと効果がない。交渉する暇を与えず、その事実ごと闇に葬る可能性がある。ソレを防ぐためかもしれません」

『それはティートハルトが用意している。ゼロもそのことは承知していたはずだ』

「政庁の破壊は不測の事態だったのかも。代案の用意はしていたんでしょうが、時間が足りない。それを稼ぐために、海上で足止めする必要がある。ガヴェインならソレができる、ガヴェインにしかできない。だから―――」

『ゼロが自分で動く必要はない。確かにガヴェインの性能なら単機でも達成可能だろうが、ソレは港を抑えてる部隊にもできることだ。指揮権を放棄してまでやることではない』

 

 抑制の取れた声で諭された。罵倒されるか呆れられるよりか、何倍もきつい。厳しい戦場で指揮を執りながらだと思うと、時間を割いてもらうのすら申し訳無さ過ぎる。手本にしたい生き方だ。話が通じない焦りや苛立ちよりも、そちらの方が心を押していた。

 だけど、だからと言って諦めるわけにはいかない。部下たちが呼び寄せた空輸機のエンジン音が、頭上で鳴り響いている。

 

「―――ゼロは、日本人のために私たちを導いてくれました。彼がいなければ私たちは、今もブリタニアの奴隷のままだった。ここまでは来れなかった。彼の力と業績は信頼するに値するものです。その彼が、必要だと判断し動いた。危険は承知で賭けに出た。

 ゼロ番隊の……私の役目は、ゼロを守ることです。それは何よりも、優先すべきことです」

 

 私の役目。それに全ては還元される。

 誰に命じられたでもなく自分で決めたこと。そうしたいと心の底から想ったことだ。ソレは巡り巡って、皆のため/日本のためになると信じ切れるからだ。迷いはない。

 

 私の宣言に藤堂さんは、しばし口をつぐんだ。背後で銃声と怒号が鳴り響いている。政庁を失い、敵も背水の陣だ。戦いはさらに激烈なものになっていた。

 そんな騒々しさをよそに小さなため息を漏らすと、諦めたかのように認めてくれた。

 

『―――ゼロと合流次第、すぐに戻れ。……間違っても、ブリタニア軍に捕まる真似だけはするなよ』

「行きます―――」

 

 そう言うやいなや、頭上で浮遊している空輸機にハーケンを放ち巻きつけた。紅蓮を釣り上げると、新しい右腕で機体を掴み接続した。コントロールをこちらに回す。

 エンジンを吹かし翼を動かすと、飛び立った。戦場から/租界の外へ、東京湾へと。水平線に消えようとしているランスロットを、その先に居るであろうゼロを見失わないように、追いかけていった。

 

 

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 アニメにはなかった通信ですが、ありそうな/あったであろう組み合わせだったので描いてみました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
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