かつてない敗北、そしておそらく、生涯最後になる敗戦。
『―――全軍突撃ぃ! 我らの勝利は目前だ!』
拡声器を使った号令/厳しい男の声=藤堂鏡志郎の声だ。味方を奮起するために、私たちを威嚇するためにわざと叫んだ。
周囲で鬨の声があがった。四方で沸き立ち押し寄せる。怒涛の勢いで、暴徒が=黒の騎士団が/イレブンたちが攻め込んでくる。
『何としても防ぎきれ! 一匹たりとも、奴らを攻め込ませるな!』
隣で負けじと、ギルフォードが鼓舞した。それに呼応するように、円陣を組んだ騎士たちも雄叫びをあげた。
だが、それは痩せ我慢だ。すでに我が軍は死に体だ。強固な要塞である政庁は崩れ落ち、その瓦礫を盾になんとかしのいでいるだけ。どこからでも攻め込める、勝敗は目に見えていた。もう、勝ち目がない。
それでも、口々から飛び出す雄叫びに、弱気な怯えはない。少なくとも聞こえない。最後の一兵になろうとも、手足が吹き飛ぼうとも戦い抜く、絶対に守りぬく。迫り来るイレブンの大群に負けじと、一騎当千の気迫を帯びていた。悲壮感など感じさせない。だが、それでも、覆せない戦力差だ。
彼らは命を投げ打ってまで、戦い抜く。全ては私への、忠誠ゆえに……。
『姫様には指一本触れさせるな! イレブン共に、我らの忠誠を見せつけてやれ!』
力強く鼓舞し続けるギルフォードだが、その言葉尻に小さな震えがあった。
これこそ騎士たる者の本分だ。主君を守るために命使うのなら、本望だ。ギルフォード個人は、常にそのように生きてきた。ここまで付き従ってきた部下たちも同じだろう。なれど、ともに戦場を駆け抜け命をあずけあった戦友たちを、絶死の淵に追いやらねばならない。指揮官として最悪の命令をくださなければならない。ただの時間稼ぎで、彼らの命には釣り合わない。それなのに誰もが、嬉々としてその命に従う。散っていく。一人また一人と、死んでいく。己の信念と忠誠に殉じたとは言い切れない。現状の理不尽と己の身の不甲斐なさに、血を流し続けていた。
それは本来、私が背負うべき責任だ。誰かに、ギルフォードに肩代わりしてもらうわけにはいかない。だが、暴徒たちに受けて立とうとするも、ナイトメアは全壊。血を流しすぎたのか、体は上手く動かせない。力も入らない。意識も朦朧として、思うように頭も働かない。……もう、戦えない。
絶望的な戦況、死んでいく忠実な部下たち、最後の頼りとしていた体は使い物にならない。援軍は、間に合わない。―――ここが限界だ。
「……もういい、ギルフォード。終わりにしよう」
弱々しくもそう告げると、ギルフォードが騎乗していたナイトメアの機首を向けた。
『何をおっしゃいますか姫様! 我らはまだ戦えます。例えこの身切り刻まれようとも、必ずや活路を見出してみせます!』
「そんなものは無い! 我らは敗北したのだ」
喝を入れようと凄むギルフォードに負けじと、強く諌めた。力みすぎたのか、ゴホゴホと咳が出た。喀血もすると、口の中に錆びた鉄の味が広がる。
そんな私の様子を、衛生兵は怯えたように見つめた。もはや人事は尽くし、あとは運に任せるだけ。歴戦の部下の一人だが、動揺を隠すことができないでいる。……つまり私の命は、風前の灯だということだ。
ギルフォードも、そんな私を見てオロオロとしていた。先の勢いは消え失せ、それでも全体の士気を落とさぬ程には堪えて、萎縮してしまったかのように見守っている。
己の身の不甲斐なさが情けない。だが、言い争う手間は省けた。続けて、この戦いを収束させる案を告げた。
「降伏する。奴らの目的は私だ。この身を差し出せば、お前たちの命だけは、保証されるだろう」
『……我らに、姫様を売れと? あのような野蛮な、イレブン共の手に?』
冗談じゃない。そんなことをするぐらいなら、死んだほうがましだ。抑えに抑えて問いかけてきたギルフォードの言葉尻から、そのような思いがにじみ出ていた。
それは同時に、ここに残っている部下たちも同じなのだろう。同じような、承服しかねるとの視線が、浴びせられていた。……彼らの主君としては、この上なく名誉なことだ。
だが、決断しなくてはならない。今すぐにも、まだ助けられるうちに、正しい決断を。被害は最小限に収めなければならない。
腹に力を込めなおした。
「幸い、向こうの指揮官は有能な軍人だ。いや、元軍人か……。あの暴徒の中でも、冷静な判断を下せることができるのは、確かだ。
今降伏すれば、これ以上戦いを続けることはないだろう。殲滅が目的ではない、最低限私だけでもいいが人質は多いに越したことはない。お前たちが決死で突撃してくれたことも効いてくる。これ以上我らを攻め立てれば被害はさらに大きなものになると、骨身に刻んでやった。武装解除して降伏しさえすれば、被害を最小限に収めるためにも、こちらの要望は通るだろう」
言い終えるとギルフォードは、顔を伏せ瞑目した。何も言い返せず黙っている。
希望的観測ではない、成功の可能性は充分にある。ただし、まだこちらに抵抗するだけの戦力/命が残っている限りは。これ以上の損耗が続けば、交渉にならない。唯々諾々と無条件に従うだけ、こちらの生き死にを奴らに委ねるだけになる。それは人質ですらない、奴隷だ。そうなっては何もか手遅れだ。今すぐに、決めなくてはならない。―――決めさせなければならない。
「コレは命令だ、我が騎士よ。今は生き延びて、再起を図れ」
出てこようとした諌言は、喉元で押さえ込まれた。押さえ込んだ。代わりに返ってきた張り詰めた沈黙が、ギルフォードにすべてを飲み込ませたことを悟らせてくれた。
少しばかり……いやかなり、卑怯な手ではある。このように命じてしまえば、彼らは従わざるを得ない。だが、それでも、彼らが助かるのならそれでいい。生き延びてくれさえすれば、それで―――。
近くの衛生兵に命じて、通信機を手元に寄せた。苦しげにもしっかりとシーバーを掴むと、全方位に向かって宣言した。
「黒の騎士団、ならびに日本人たちに告ぐ!
我らは降伏する。繰り返す、我らは降伏する。直ちに戦闘行為を止められたし!」
降伏の信号弾が空に打ち上げた。暴徒たちに見えるように、白い大きな旗をはためかさせた。
私の人生で、数多くの戦いで使ったことのないもの。使うはずなどなかったもの。使い方は知っていても、何度も見たことはあっても、まさか自分の番が来るとは思いも寄らなかった。
藤堂の、各分隊の隊長であろう者たちの静止の声が鳴り響いた。暴徒たちも戸惑いながら、矛を収めていく。徐々に喧騒が収まっていった。
奇妙な静寂が、あたり一面に広がった。この時初めて、行政特区の事件からずっと鳴り響き続けていた銃声と怒声が、静まった。……話が通った。
強ばり続けていた肩の力が抜けた。交渉の一番危うかった段階はクリアした、後は流れ作業のようなものだ。
気が抜けると、おもむろに顔を上げた。水平線の向こう、まだほんの先端でしかないが、太陽が顔を出そうとしていた。日の出前。冷たい薄靄が、いく筋もの日差しで払われている。あの光の中にもしかしたら、ブリタニアの援軍がいるのかもしれない……。
淡い期待は、すぐに打ち払われた。まだどこにも、援軍の姿は見えなかった。
周囲を囲む暴徒たちの中から、大剣を持った黒い異形のナイトメアが進み出てきた。ブリタニア製ではない、黒の騎士団独自の技術で作り上げたナイトメア。部下に肩を借りて立ちながらも、威厳を持って彼を見据えた。エリア11の総督として、ブリタニアの皇女して、最も有能な軍隊の将として。誇りとともに相対し続けた。
◆ ◆ ◆
埋めたはずの過去の亡霊が、ふたたび、目の前にやってきた。
『―――ゼロよ、懺悔は今!』
微妙に意味がずれた雄叫びとともに、特大のスラッシュハーケンを打ち込んできた。ブリタニア製ナイトメアの外部武装のルガーランス、その鋭角で巨大な三角錐の刃が二本。寸前で空に退避し躱すと、それらによって穿たれた地面はまるで爆裂でもしたかのように爆ぜた。盛大に土埃を撒き散らした。
間一髪で避けたが、反撃には移れない。させてもらえない。頭のネジが何本か外れているような敵だが、戦いにおいてだけはまともな思考を保っている。先の奇襲は躱されること前提の牽制らしく、ハーケンを戻しきる間もなく俺が退避した場所へと飛んできた。
舌打ちしながらも、追撃を防ぐためにスロットルを全開にした。フロートシステムの出力を最大にし、最高速度で空へと逃げる。有効であろう射程範囲から逃れるために、目的の遺跡から離れていった。
変則的な蛇行飛行で逃げ回り続けた。ロックオンされないように、ガヴェインのドルイドシステムが叩き出した回避運動と航路に従い飛び回る。後ろを取っている敵にも、狙いを定めさせない。
背後には正体不明の異形ナイトメア、アクロバティックに飛び回るガヴェイン、上下左右に撹拌され続けるコックピット。それは、安全性と先行きが確保されていないジェットコースターのようなものだ。座席には飛行の負荷を軽減する低反発素材が使われているが、焼け石に水だ。胃の中のもの全て吐きそうになる。幸い、食事は数時間前で栄養ドリンクだけ、固形物は食べていない。吐き出そうにも中身がなかった。今までこれほど乱暴な運転は、シュミレーションの中でも試したことがなかった。知識はあったものの、体験してみると想像を超えていた。無理にでも腹に食べ物を詰め込まなかったのは、最高の選択だったらしい。
そんな、お世辞にも快適とは程遠い中で、思わず愚痴がこぼれた。
「あと少しだというのに、邪魔ばかり入る―――ッくおぉ!」
放たれたハーケンの一つが、ガヴェインの肩をかすったのか……。急にガクンッとよろめき、機体損傷のアラームが鳴り響いた。
ランダム飛行を保ちながらも、すぐさま状況をチェックした。
いくらなんでも、高速飛行中にハーケンなど当たらない。ましてランダムに飛び回っているのだ。ドルイドシステムの加護がある以上、本物の天才パイロット以外では動きの予測などできはしない。一度戦ってみての感触だけだが、この敵性ナイトメアは中・近距離での殲滅戦を目的とした設計だ。巨大すぎるハーケンは、射出し遠くに弾き出すことができたとしても砲撃ではない。引き戻して何度も使う設計上、命中率も威力も中途半端だ。威嚇ぐらいにしか使えない。ガヴェインには、当たるはずなどないのだ。
モニターをチェックすると、原因がわかった。舌打ちがこぼれた。
「クソッ! コーネリアに受けた破損箇所か」
ルガーランスの突撃によってえぐられた肩部装甲、スタントンファーの雷撃によって焼かれた内部機構。積み重ねられた損傷で一気に、爆ぜた。バチバチとスパークが上っている。
戦闘用ナイトメアの常として、ほんの少しの損傷があったところで動作は阻害されない。精密機械らしからぬ安定性が、ガヴェインにはあった。だけどそれは、通常運転での話だ。本格的な戦いでは、まして同じ飛行型とのドッグファイトには、司令官機/空中砲台として設計されたため不利な空中戦には、耐えられるほどではない。無理やり動かし続けた歪が、ここに来て表に現れてしまった。
「エナジーも残り僅か。ハドロン砲一発が限界だぞ!」
「わかっている!」
打開策を見つけなければならない。今はこの程度だが、戦いが長引けばさらに被害が増えていくはず。機動力も落ちているため、早々に決着をつけないとまずい。
敵は奇声を上げながら責め立ててくる。射出されるハーケンを紙一重でよけ続ける。
(どうする、どうする!? あいつを撃退するのに、最適な方法は―――)
利用できるものを探すも、周りには何もない。あたり一面に広がる海原だけだ、空も晴れ渡っている。島にある何かを利用するも、敵を押しとどめる障害物はどこにもない。決定打になり得るものはどこにも、ない。
背筋に冷たいものが走った。絶望が忍び寄ってくる。今持ち得る情報と戦力でできることは、少ない。高速で空を飛ぶ相手にハドロン砲は叩き込めない。接近して駆動部を破壊するしかない。しかしソレは、敵が最も得意とする領域だ。攻撃の手を掻い潜って致命傷を与えられる操作技術は、俺にはない。倒せない……。
いや、一つだけある。こちらの勝利条件を低くすればいいのだ。防御を省みず犠牲を払って突撃する=相打ち狙い。それならば可能性はある。だがソレは、俺の最大の目的に反している。相打ちしたらナナリーを助けに行けない。誘拐犯の正体すら掴めていないのだ。この場は無傷で、少なくともこれ以上の損傷なしでことを収めなければならない。俺の無事が、ナナリーの安全に直結している。
「何か手はありそうか?」
「今考え中だ!」
「……その様子だと、無いというわけだな」
皮肉に顔をしかめた。今はソレを流せるほど余裕はない。一体全体、誰のせいでこんなことになっていると―――。
思わず漏れた不満で、気づいた。気づいてしまった。奴を倒しナナリーを助けに行くことができるプランが、それ以外にない方法が。頭の中でソレが浮かび上がっていく。
かぶりを振った。計算され形になろうとするソレを、振り払った。そんなことは論外だ。考えてはならないことだ。いや、だが、どうして? なぜ、これ以外にないのならためらう理由は? =どうしても/理由などない。だってそんなことになれば、彼女は……。
回避運動を続けながら、再度別の方法を模索し続けた。
だがCCは、同じ結論に至ったのだろうか。俺よりも先にソレに思い至ったのか。奇妙な落ち着きを持って続けた。
「ルルーシュ、私に一つ妙案がある―――」
『見よ! 私の素晴らしき、雪辱をぉーーッ!』
いつの間にか頭上に位置取られていた。見上げると、ハーケンの穂先を全て差し向けているのが見えた。
やばい、あの位置取りはやばい。打ち出されたハーケンは当たらずとも、海面にぶつかって水しぶきを上げられる。視界が塞がれ回避が鈍ってしまう。そうなれば、次の攻撃をよけられなくなる。行動が先読みされて、ふところに接敵させられてしまうかもしれない。
最悪なシナリオを回避するためにブースターを吹かそうした。蛇行をやめて直進でこの場を突っ走る。CCに指示しようとすると、ぐるりと視界が回った。
敵に背を向ける、ガヴェインの機首が海面に向けられた。
「何をするCC……。まさか!」
気づいた時には遅かった。
ハドロン砲が、海面に向かって撃たれた。
「よせ! それは―――」
俺の叫びを無視して、超高熱を浴びせられた海面が一気に沸騰した。巨大な水蒸気の柱が吹き上がった。
水柱の中、二体の巨大ナイトメアが飲み込まれていく。視界が全て眞白に染められた。
『くぅッ! 姑息、孤立、小癪ぅ!』
敵の奇声も、吹き荒れる水柱にかき消された。
高熱の白い濃霧の中、互いに完全に、姿を見失った。
「アイツは私が抑える! お前は脱出して、ナナリーの救出を」
「そのナナリーを連れて帰るのに、この機体が必要だ。自爆に使うなど許さんぞ!」
勢い込んでいたCCは、俺の制止に驚いたのかパチパチと瞬きした。そのような返事が帰ってくるとは思わなかったのか、俺が彼女の意図に気づいていたことに驚いたのか、その上で止めたことに戸惑っているのか……。だが、すぐに気勢を取り戻すと続けた。
「それ以外に奴は止められない。やるしかないんだ。帰り道は自分で用意しろ」
言いながらも、ガヴェインを移動させた。外は全く見えないが躊躇いなく動かしている。こうなることは予め知っていたため、モニターに撮される映像を可視光線以外のモノに変えていたのだろう。濃霧の中、敵には見られない中、どこかへと飛んでいく……。
どこか? 場所など決まっている、目を逸らしてはならない。=敵と相討ちするための死地だ。
彼女はここで、一人で、敵を道ずれにするつもりなんだ。
「……こんなことはやめろCC、らしくないぞ。こんな、自己犠牲みたいな真似は」
「知っているだろ? 私が不死身なのは。この程度で死ぬことなどありえないんだ」
「その苦しさを一番わかっているのはお前だろ!」
身を乗り出しながら叫んだ。
もうすでに、そうする以外にない。虎の子のハドロン砲を使ってしまった以上、ソレを最大限に生かさないといけない。時間だってない。今は水柱で姿を隠せているが、それもすぐに晴れる/敵に居場所がばれる。こんな言い争いなんてしている暇はない。
だけど、だからこそ意味がある。この瞬間でなければ、彼女は正せない。今までずっと抱えてきた過ちを正さなければならない。それができるのは今だ、今しかない。彼女が生きてきた数百年の歳月を飛び越えるには、ここで賭けるしかない。
「これ以上死ぬなCC。俺たちはたった二人の、共犯者だろ」
まっすぐに、CCの瞳を見た。互いに無言で、見つめ合う。
俺の想いに気づいたのか、彼女は顔を伏せた。
今取れる最適な方法、これ以外にない方法であることは分かっている。でも、今までと同じように、自分の命を軽視することは許さない。ソレを大切だと想っている俺を、踏みにじってくれるな。最後まで足掻け、諦めるな。……互いに意志は固く、どうすればいいのか揺らいでいる。
だけど、逡巡はほんのひと時だけ。小さく吐息を漏らすと、こわばっていた何かが抜け落ちていた。
「……ありがとう。でも、時間切れだ―――」
そう言うと、座席から身を乗り出してきた。
これでもまだわからないのか……。言い返そうとする俺の口を、そっと塞いだ。
柔らかくひんやりとした感触、そしてほんのりと甘い匂い。視界は全て彼女で占領された。……突然のことで、頭の中が真っ白になった。
邂逅はほんの一瞬。離れると目の前には、先の異世界で最後に見せてくれたものが、優しげな微笑みが浮かんでいた。
「―――勝てよルルーシュ。自らの過去に、そして、行動の結果に」
耳元で囁くようにそう告げると、コックピットのハッチが開いた。
水柱を抜け、島の小さな岬に移動していた。ガヴェインの手のひらが、コックピットに横付けされている。
思考停止から覚めると、もう一度CCを見た。そこには、先まで貼り付いていた暗さは剥がれ落ちていた。いつもどおり、傲慢なまでに不敵な彼女だ。
もう大丈夫だろう……。確信が得られると、ガヴェインから降りた。
「死ぬなよ、CC」
「誰に向かって言ってる」
そう言うと、ニヤリと笑った。
ソレを見て俺も、同じように微笑んだ。
「そうだったな」
最後に呟くと、ゼロの仮面を被った。CCはハッチを閉じた。
俺は振り返らず、遺跡へ走った。彼女も同じように、上空で独楽のように回転している亡霊に立ち向かっていった。
◆ ◆ ◆
朽ち果てかけた岩窟、長の年月を自然に食い荒らされた遺跡。かつてソコが、神聖な祭壇であった事だけは残っていた。これを作り上げたであろう人の手と臭いが消えたことで、逆にいっそう神聖さを際立たせている。
その中を一人走り続けると、直ぐに行き止まりに突き当たった。
身の丈の4倍はあるであろう巨大な石壁、ギアスの紋章が刻まれた扉。そのはずだが、どこにも継ぎ目や裂け目がない。ただのレリーフでしかないのかと、疑ってしまう。
天井にはかつて、俺が崩したであろう大穴がそのまま空いており、淡い木漏れ日を洞窟内に入れていた。そのおかげで全容ははっきりと見える。立ち止まって見渡してみた。何か、この壁を扉にする仕掛けがあるのだろう。
(入口にあったトラップは時間稼ぎだろう。目的は俺か。CCという線もあるが……)
傍で調べてみても、何もわからない。起動する気配もない。ここで考えているだけでは、何もわからないままだ。
わかっているのは、この先にナナリーがいるということ。どこぞの誘拐犯にとらわれているということ。……それだけで、充分だ。
意を決して近づいた。
「どちらにしても、まずはナナリーの安全を―――ッ!?」
銃声が鳴り響いた。壁の一部が爆ぜ、小さな石塊が弾けた。
遅れて、伸ばした手を引いた。ちょうど壁に触れようとしたその場所、ほんの十数センチ近くが穿たれていた。
こんな場所に、一体誰が……。振り返り確認しようとすると、先に声をかけられた。
「―――こちらを向けゼロ、ゆっくりとだ」
底冷えするような静かな声音、一息に心臓が握られたような錯覚に犯された。今まで色々な猛者と/海千山千の老獪と/無分別な狂信者たちと対決してきたが、ここまでの寒気を引き起こしてきた奴はいない。
だけどそれは、俺のよく知っている声。見知った男のもの。聞き間違いなどしない。
何より奴は、いつだって、最悪なタイミングで来る。
洞窟の暗がりから現れたのは、ブリタニアの白い騎士。日本の最後の総理大臣の息子、真のブリタニア皇族の騎士、俺のただ一人の親友。……いや、親友だった男。―――枢木スザク。
銃口と、それに比する冷たい眼差しを差し向けてきながら、近づいて来た。
長々とご視聴、ありがとうございました。
原作のこの時、ルルーシュとCCの最後の会話は、大好きなシーンの一つでできれば変えたくなったのですが、少しばかり変えました。ルルーシュともあろう戦略家が、CCの自爆戦術に気づかないわけがない。ソレを止めないわけがないと思い、変更させてもらいました。
感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。