一発目の銃弾で、俺たちは再会した。
二発目の銃弾は、俺たちの決別を告げた。
そして、三発目の銃弾で、俺は―――独りになった。
◆ ◆ ◆
スザクの放った銃弾が俺の、ゼロの仮面を割った。
亀裂を元に左右に剥がれ落ちると、素顔が晒された。CCと桐原以外には誰にも、晒したことのない素顔が。
「―――なんで、どうして……」
カレンがその場でヘタリこんだ。張り詰めていた何かが、彼女自身が塗り固め続けてきた信念/嘘が剥がれてしまったのか、スザクに銃を向けていた鋭さは消えていた。
彼女が抱いていたゼロのイメージ像はおおよそ予想は付いている。亡き兄に似た姿だ。つまり、あるはずのない幻影だ。中の見えない仮面であるからこそ成り立った望みだ。素顔を晒した瞬間、それは消え失せる。彼女の忠誠心はその程度で途絶えてしまう、儚いものだ。
ただ、彼女の頭の中にあったゼロの「素顔」と俺は、全く違っていたということなのだろう。あるいは、身近な人間であるはずがなかった、ということか。改めて見直してみれば、ヒントはいくらでも見つけられたはずなのに。隠し切ろうにも、これだけ長く近くで命まで預けたりしていたら、ボロの一つや二つは出てしまったのかもしれないのに。ブリタニアの警察が作ったゼロのプロファイルも読んだはずなのに、ずっと考えないようにしてきたのだろう。過去を/幸せな家が奪われたことを/兄が殺されたことを、受け入れきれてはなかった。―――力なく、空虚な眼差しで俺を見つめ続ける。
「……信じたくは、なかったよ」
そう言うとスザクは、さらなる厳しさとともに睨みつけてきた。目だけ射殺すかのように。だけどそれは、人の枠内に収まっている感情だ。先までの冷徹さは、人とは思えない無機質さは消えていた。
それは、喪失感を隠すためだったのかもしれない。俺にもそんな経験がある、目の前の相手にソレを教えられた。
俺はソレを受け入れるのに、ユフィを壊すまでしなくてはならなかった。それまでは未練がましく考え続け、空虚を埋めようとした。無意味な作戦まで実行してしまった。たった数瞬の間だけで向き合えるのは、どれほどの胆力の成せる技なのだろうか。この切り替えの潔さは、俺にはないものだ。あるいはただ、それだけ怒りに満ちている、ということなのだろうか。冷静なのか復讐心で目が曇っているのか、どっちだ……。
胸の内で、苦笑がこぼれた。親友だったはずなのに、そんな区別もつけられない。
「そんな、ルルーシュが……」
「そうだ、俺がゼロだ。黒の騎士団を率いて、神聖ブリタニアを打倒し、世界を変える男だ」
宣言すると、カレンの顔がさらに悲痛で歪んだ。
「あなたは、私たち日本人のことを利用していたの? 私のことも?」
「結果的に、日本は解放される。文句はないだろ?」
切って捨てると、息を飲まれた。止めを刺されたかのように凍りつく。そして、固まった顔に一筋、涙がこぼれ落ちた。
これが現実だ。これが現実なんだよ。理想を抱けば/過去を忘れられず今を生きられないのなら、待っているのはこんな結末しかない。彼女はただ、俺の目的を知らず/知ろうともせず勝手に自分の望みと同じだと勘違いした。幸せだった過去に戻れると、取り戻せるんだと。彼女自身、ほかの日本人全ても、未来に何も願っていなかった。だから俺の願いだけが通った、誰も願っていないのだから当たり前だ。時は過去には戻らない。
絶望に染まった表情/裏切られたとの戯言/流れ落ちた涙、そんなものに一体何の価値があるんだ? 俺はお前たちの願いを叶えるためだけに現れた、正義の味方なんかじゃない。わかってしかるべきことだった。
冷たくカレンを見下ろしていると、おもむろにスザクが口を開いた。
「……早く君を逮捕すべきだったよ」
「気づいていたのか」
皮肉げに笑った。やはりな……、とは言えないか。流石にソレは難しすぎるだろう。
俺につながる証拠は全て隠してきた、俺=ゼロだと辿れる道はなかったはず。誰もわかるはずがない。でもスザクなら、コイツならわかっていた。他人の意図を/特に俺の意図を迅速に正確に見抜く天性の直感が、奴にはある。残してしまったかもしれない僅かな違和感から、ゼロへとたどり着くことはできるかもしれない。そう言えるだけ、お互いのことを理解している。驚くほどのことじゃない。
「確信はなかった。だから否定し続けてきた。君を、信じたかったから……」
今となっては、もう遅すぎた。取り返しはつかない、無意味な懺悔だ。無駄だ無駄だなにかも無駄、時間の無駄だ。そんなものでは何も、誰も変えられはしない。肩をすくめて一蹴した。
ただ、嘘は言ってはいないだろう。直感を否定してくれる決定的な証拠を探そうとした。誰にも相談せず一人で……。ならば、図らずも奴は、俺の活動を幇助したということになるのだろう。
だったら俺は、感謝すべきなんだろうな。お前が喋らなかったから、俺はここまで来れた。ブリタニアの/皇帝の/あの男の喉元に、牙を突き立てられるまで強くなれた。感謝しないといけないな。
さらに口元を歪めて、笑った。
「だけど君は、嘘をついたね。僕とユフィに、ナナリーにまで」
「ああ、そうだ。そのナナリーが攫われたんだ」
「え?」
零れでた戸惑いに、安堵と舌打ちが出た。
ナナリーの誘拐にスザクは関与していない。奴は俺を捕まえるためにここまで追いかけてきただけ。奴から敵の正体を探ることはできない、敵は未知数のまま。だけど繋がりがないのなら、協力させる糸口がある。スザクを味方につければ、ナナリー救出の成功率は極めて高くなる。
「スザク、一時休戦といかないか? ナナリーを救うために、力を貸して欲しい」
下手に出て助力を請うた。親友に心から、頼みこむようにして……。
騙すだけじゃない、真実も含まれている。幾分かは望みも有るだろう。叶うのならすべてが丸く収まる、ナナリーを助けられる。必ず助け出せる。
そう、これは窮地なんかじゃなかった。むしろ好機だった。スザクがここまで追いかけて来ることは、俺が意図したことじゃない。敵にとってもイレギュラーな存在だ。俺やCCへの対策はしていても、スザクに対しては無防備なはず。俺が一人で立ち向かっていては敗北したかもしれない、ナナリーを助け出すことなどできはしなかっただろう。ギリギリの崖っぷち、落ちる寸前で現れた逆転のチャンスだ。何としても、掴まなくてはならない。
だが、俺の望みは、儚くも切り捨てられた。
「俺とお前、二人いればできないことなんて―――」
「甘えるな!」
腰だめにしていた銃を胸の前まで上げた。伸ばした手を振り払うように、銃口を差し向けてきた。
思わず舌打ちがこぼれてしまった。……懐柔は、無理か。
「その前に手を組むべきだったのは、ユフィだった。君と彼女が力を合わせれば、世界を―――」
「全ては過去、終わったことだ!」
「過去……」
厄介なことになった。スザクを味方につけられないのなら、ナナリーの救出は困難なものになってしまう。一人では難しすぎるが、やるしかない。
もはやスザクは敵だ。役に立たないなら害だ、切り捨てるしかない。だが急がなければ。早々に始末をつけなければ、ここで終わってしまう。
「お前も父親を、ユフィまで殺したんだろ? 懺悔など、後でいくらでもできる―――」
「いいや、お前には無理だ!」
血を吐くように叫ぶと、差し向けていた銃口がプルプルと震え出していた。ソレを両手で押さえ込み、狙いを定め続ける。
俺の言葉が、奴の逆鱗に触れたのだろう。対立は決定した。もはやどちらかが滅びるまで決着はつかない。最後の堰を切ってしまった。―――望むところだ。
「お前は最後の最後で裏切った。皆から、日本人から託された想いを、全て! お前の願いは叶えさせない!」
「馬鹿め、理想だけで世界が動くものか!」
「皆そのために命を賭けた! お前のためなんかじゃないッ!」
「俺が作った、俺が鍛え上げた、俺でなくてはできなかった! だから全て俺のものだッ! ……どう使おうが俺の勝手だろうが」
皮肉げに最後、付け足した。
沸騰していた空気が、一気に静まった。臨界点を超えて感知できないほどにまで、高まってしまったのだ。耳が痛くなるような/息を飲まされるような静けさが、張り詰めてきた。
「―――手を挙げろゼロ。でなければ、その頭にぶち込むぞ」
スザクの瞳は再び、無機質な冷徹さで染まっていた。両手の震えも収まっていた。
次が最後、最終勧告、話し合いは終わり。言うとおりにしなければ、言った通りの事が起きる。イエスかノーか他はない、その選択肢だけ突きつけてきた。
どちらを選んでも終わる。彼我の武力差は埋められない、対決も避けられない。俺はここで終わる、負ける、ナナリーが死ぬ―――。
だったらもう、躊躇ってはいられない。
胸に取り付けていた装置のスイッチを、入れた。
「……そうかよ。ならば、撃ってみろ! ―――」
宣言すると、マントを押し広げて晒した。
「―――流体サクラダイトをな!」
淡い光を放っている、手のひら大のバッチ。中央の小さな三角形の入れ物から、三本のアンプが伸びている。ある起爆コードを受信したら、それらが中央のサクラダイトに混ざる。決して混ぜてはならない二つ、小型の/携帯用の自決装置。俺の切り札だ。
「俺の心臓が停止したら爆発する。この量が爆発すれば間違いなく、生き埋めで死ぬ事になるだろうよ」
脅しが利いたのか、スザクは引き金を引かずに俺を睨み続けるだけ。
ブリタニアの貴族のように、毒の入った指輪というのも考えた。もはや何の手立てもなく敵の虜囚になるまで負けが込んだ時、誇りと秘密を守るために自殺する。囚われた後に処刑されるのならまだいいが、また生ぬるい牢獄の日々に押し込められるのは二度とゴメンだ。死んだほうがマシだ。だが、ただ死ぬだけではダメだ。最後に一矢報い無ければ気が収まらない、ナナリーに繫がるこの身の処分もしなくてはならない。爆弾なら、その全てを満たしてくれる。一石二鳥の切り札だ。
「取引だ。お前にギアスを教えた奴の名を答えろ。そいつとナナリーの関係は―――」
「それで? たったそれだけで、俺が従うとでも思っているのか?」
中断されたことに訝しんだ。小動もしていないスザクの態度に、たじろがされてしまった。
この爆弾の意味を、理解していないのか? そこまで阿呆なのか? ここにいる皆を殺すことができる生殺与奪の権利がある、最も強い権利を持っているのがこの爆弾だ。俺に向けている銃には、脅しの効果がなくなった。撃てば皆共倒れになるだけ、相打ちになるだけ、死ぬだけだ。そんな結末は誰だって、避けたいはず―――……。
失念していた、何て失態だ。背筋にどっと嫌な汗が流れた。目の前の相手がスザクだったということを、思い出した。
「俺にお前のギアスは、もう効かない。手駒を使おうにも、ここにいるカレンは思うようには動いてくれない。この距離なら、そんな爆弾で防御しようが何をしようが、俺には紙くず同然だ。
俺が近づくのをここまで許してしまった。それだけでお前は、終わりなんだよ」
傲然とそう言い放つと、見下すかのように睨みつけてきた。
スザクらしからぬ強気、だけど同時にしっくりもきていた。そこには、8年前/まだ子供だった頃の奴の姿が被って見えた。家の喪失/父殺しの罪に苦しめられずに、真っ直ぐ成長した姿。そうであったであろう姿だ。
一体何が起きたのか……。見せられた変化に戸惑った。俺の理解を超えた何かを奴は手に入れた、俺の全てを破綻させてしまうであろう何かを。そのことでさらに不安を掻き立てられた。だが、探りだす術はない。そんな時間もない。形にならない不安は脇に置いて、まずは卑近な問題に目を向けなくてはならない。
スザクの言ったとおりだ。こんな状況になった時点で、俺は敗北していた。スザクと一対一になること、逃げ道がないこと、交渉が不可能だったこと。そうなってしまったら、どんなことをしようが俺は奴に勝てない。理屈じゃない説明もできない、でも確かなこと、絶対に避けなければならない致命打だった。……我ながら、頭に虫がわいていたとしか思えない。目も当てられない愚策だ、もう挽回することもできない。
だが、一つだけ光明は残っていた。灯ったと言ったほうがいいかも知れない。俺は忘れていたが、スザクの言葉で思い出した。この場を切り抜ける最後の手を。
「……確かにそうだな。お前のバカみたいな身体能力を計算に入れてなかったよ。
だがな、こうすればいいだけだろ―――」
銃を取り出すと、自分の喉元に銃口を向けた。
「これならば動けまい」
俺の脅しに、無言が返された。眉をピクリとさせただけで、動けない。
コレでスザクを撃ちたいが、弾き飛ばされてしまう可能性がある。奴の超人的な身体能力が、不可能を可能にしてしまう。だがそれでも、俺との距離は一足飛びで詰められるものじゃない。銃弾の方が早い、一発なら確実に放てる。だがよけられたら終わりだ、奴は避けてしまうだろうからすでに終わりだ。スザクを撃つ選択肢など初めから存在していなかった。
射撃の精度が身体能力と同じレベルだとは、限らない。低いものであるはずだ。名誉ブリタニア人は銃を持てない、せいぜいが模造品だけ。実戦で使ったことはない、射撃訓練などさせてもらえない。ランスロットのパイロットとなった後は是正されたかもしれないが、射撃のために割ける時間はわずかだ。いくらスザクであっても、銃を手足のように使うまで完熟させてはいないはず。今の俺との距離なら、体のどこかに当てれるのが関の山。向けられた銃をピンポイントで当て、さらには握った手から剥がすなど不可能だろう。
ただ、そうは言ってもスザクだ。俺の常識を超えた何かが/戦闘における才能が、奴にはある。油断はできない、最悪を考えなければならない、ここでは/奴の間合いの中なら尚更だ。―――手に持っている銃は、俺に向けてこそ生きる。
空気はより張り詰めたものになっていく……はずだったが、逆に少しだけ緩んだ。決死の覚悟の俺とは正反対に、スザクの敵意が薄れていた。現れた時から一貫して向けられてきた鋭さと冷たさが急に、納められていく。
「もう一度だけ聞くぞ、ルルーシュ。なぜユフィと手を組まなかった? いや―――
―――組めなかったんだ?」
静かな問い掛けに俺は、今度こそ固まってしまった。
「お前のことだ、ブリタニアの裏切りを演出するにしても、あそこまではやらなかったはず。ギアスを使ってユフィに自分を撃たせるのが、当初の思惑だったんだろう。そうするつもりで彼女との対談に望んだ―――」
動揺が表に出ないよう、必死に隠した。目を逸らしたいが、そうすれば答えを言っているようなものだ。向き合い続けるだけで抉られるが、耐えなければならない。罪の告白など、そんなことは……できない。やってはいけない。
「―――でも、そこで彼女の意志を聴いた。ただの名誉欲からでも、戦略上の都合からでもない、彼女自身の意志をな。彼女は本気で、今までの全てを賭けて、ブリタニアと日本の両国の平和を願っていた。皆が幸せになれる道を示してくれた。
お前は、彼女の真意を知った。ただ奪い取るためではないと知った。……ギアスは、使わなかったはずだ」
証拠のない推測、他人が聞いたらただの妄想だと言ったことだろう。だけどスザクは、向けた眼差しには確信がこもっていた。真剣そのもので、己の推測を疑っていない。まっすぐに俺を見据えていた。俺の答えを待っている。
「……なぜ、そう思う? あれこそが俺の目的だったと、思わなかった?」
「俺の知っているルルーシュは、そうする。あんなことができるほど、安いプライドの持ち主ではないからだ。……妹の幸せを、誰よりも願っていたルルーシュはね」
最後に、柔らかく付け足した。先までの突き放すようなトゲトゲしさは消えて、再会した時の穏やかさをもって……。だが、その言葉の奥には、今までで最も厳しい問いかけが込められていた。
今のお前は、どうなんだ? 本当にナナリーのために行動しているのか? 勝手な望みだけで暴れているだけではないのか、「ナナリーのために」を免罪符にすれば何もかも許されると思っているのか? そんなことナナリーが許すと思うのか、背負わせるつもりか? また彼女に嘘をつくのか、嘘を重ね続けるのか? そんなこと、一体いつまで続けるつもりだ―――……。
答えられないまま、黙って見つめ続けた。
「ここには、僕とカレンしかいないよ、ルルーシュ」
止めを刺された。心臓が凍りついた。
お前の言うとおりだ、俺のせいじゃない。アレは事故だった。はじめはギアスを使うつもりだった、でも話を聞いて協力する気になった、俺はユフィに負けたんだ。あんなことをするつもりなんてなかった。あんな虐殺なんて、求めていなかった。ただの不幸な、偶然だったんだ―――。
抑え込んでいた罪悪感が、飛び出そうとした。喉元までせり上がり、溢れそうになった。……でも、寸前でこらえた。
アレは事故だったが、それでも俺がやったことだ。ギアスの暴走などわからなかったが、その危険性は承知していた。全てをなかったことにすることはできない、ギアスは一度かけたら取り消せない。ユフィは日本人を殺し続ける、根絶やしにするまでか自分が死ぬまでずっと。だから、俺にできることは、その絶対性を軸に計画をたて目的を遂げるだけだ。罪の告白をしたところで、誰も何も、帰っては来ないから。
目を瞑り、もう一度ソレを臓腑の底へと沈ませた。もう二度と、浮かび上がってこないように……。
騒いでいた心が静まり返ると、目を開けた。そして―――、微笑んだ。
「スザク。やっぱりお前は、8年前から変わってないな」
事この期に及んでも、俺を許そうとするなんて。その機会を与えてくれるなんて―――。
なんて甘いんだ。
訝しるスザクをよそに、叫んだ。
「―――カレン、俺の質問に答えろ!」
呆然と事の成り行きを聞き流していたカレンが、ビクリと反応した。力なく見つめていた銃から、俺に目を向け直した。怒りと怯えと無力感が入り混じった視線を、向けてくる。
まだ、欲しい反応はきていない……。でも今なら、仮面のない今なら必ず、できるはずだ。
「……何を、言って―――」
「お前にとってのゼロとは、なんだ?」
戸惑いを質問で被せた。カレンは当然、訝しるだけ。意味がわからないと、俺が何を意図しているかと疑問符を浮かべるだけ―――。
だが、変化が訪れた。望んでいた変化。
カレンの顔から突然、全ての人らしさが消えた。
「―――私たち日本人の指導者。この命を賭けるに値する、何よりも大切な人」
無感動だが淀みない答えに、口の端を歪めて笑った。作戦が成功した。スザクの顔は、驚愕で染め抜かれている。
ギアスの命令は、対象者が死ぬまで永続的な効果を発揮する。命令対象でない時、時間や場所・行動などを限定すれば、その時以外は普段通りに戻る。命令の遂行中は意識が消え記憶にも残らため、自分がなにをしたのかは後になってから気が付く。
カレンにかけたギアスは、「俺の質問に答える」こと。効果中はどんな質問であれ秘密であろうとでも、ペラペラと喋る。彼女の仲間のことも、死んだ兄のことも全て。ソレはゼロとして、黒の騎士団として共に活動し始めてから、気をつけるように心がけてきた。ギアスは便利ではあるが、何度も使えばバレてしまう。何をしたかはわからないが意識は飛ぶので、違和感に気づいてしまう。彼女が気づかなくても周りが気づく。極力カレンには質問をしないようにした。
だが、いくら注意を払ったとしても、付き合いが長く親密になってくればボロが出る。何度か危ういことをしてしまった。後で気がつき冷や汗を流れたものだ。彼女には何事もなかった、だからこそ気づくのにも遅れてしまった。ギアスが効いている様子はなく、彼女のまま答えるだけだった。
はじめは、ギアスの効果が一度限りのものだったと思った。あの場で終わったのだと。でも、後にやった検証実験で、時間指定をしない限りほぼ永続的な効果を発揮するとわかった。カレンにかけたギアスにはソレはない、俺の質問には無制限に答えてしまうはずだった。―――そう、「俺」の質問には。
彼女は、俺がゼロだとは知らなかった。別人だと認識していた、わかったのはつい先ほどだ。俺でない人間の質問にギアスは反応しない。でも、ゼロの仮面は剥がれた。スザクが壊した。俺はそれでカレンの忠誠心を失い、追い詰められた。だけど代わりに、ギアスの力が蘇った。カレンを絶対支配下に置くことができ、逆転した……。
胸の内で嗤った。嗤うしかない。なんという運命のいたずら、悪運の強さなんだ。
「そうか。ならば、ゼロのために死ぬことはできるか?」
「はい」
「例え、ほんの少しの時間稼ぎだけであっても、ゼロの命令には従えるか?」
「はい―――」
「よせルルーシュ、彼女を巻き込むな!」
罠にかかった。慌てふためくスザクを見て、勝利を確信した。
スザクはギアスのことを知っている。その威力も心得ている。そして、自分とカレンにはもうギアスは使えないことも感づいていた。相対した時、俺が真っ先にギアスを使わなかったのがその証拠だ。カレンを差し向けて足止めに使うことをしなかったのも。問答無用で殺しにかかるのが上策だった。言葉では説明できないかもしれないが、奴の戦いの嗅覚はソレを確実に嗅ぎ取っていたはず。もし仮にギアスを使えたとしたら、奴も初撃の奇襲で俺に致命傷を与えたはずだ。ギアスを使う時間など与えてくれなかったことだろう。……そうでないのだから、こんな場所で追い詰められているのだが。
だけど、奴は知らない。ギアスには永続的な効果があることを、命じた言葉で支配力が限定されることを。
一度かけてしまえば、トリガーの形は違ったものになる。ソレは奴の警戒の範囲外だ、どうしても見過ごしてしまう。自分に対する敵意ある命令でなければ、反応のしようもない。カレンはただ、俺の質問に答えているだけなのだから。でも、間違いなくギアスの効果は発揮している。その異常な姿が見せられた。スザクは今こう考えていることだろう、「カレンはギアスの支配下に置かれてしまった。すぐに俺を攻撃してくるはず」。
その通りにしてやろう。
「カレン、ゼロとして命じる。俺のために―――」
「ルルーシュッ!!」
悲鳴じみた雄叫びを上げると初めて、スザクの警戒が外れた。視線と銃口がカレンに向かおうとした。
あぁ、なんて愚かなんだ……。
この期に及んでもアイツは、皆を救おうとする。切り捨てない、何一つ手放そうとしない。自分を削る道を選んでしまう。……なんて、愚か者なんだ。
喉元に向けていた銃口を、カレンに差し向けた。
「―――死んでくれ」
目の端で捉えたのか、スザクの顔が驚愕で凍りついた。
だがすぐに、俺の意図に気づいた。本能か直感で気づいたのだろう、考えるよりも早く体は動いていた。射線に割ってはいろうとする。―――それが奴の敗因だ。
俺は躊躇わず、引き金を引いた。
長々とご視聴、ありがとうございました。
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