不可侵のギアス 《完結》   作:ツルギ剣

30 / 35
 酸味と苦味がいっぱい


血 の 味

 

 

 

 

 銃声と同時に、体が傾いだ。

 

 

 

 硬く冷たい感触、尻餅をついた。頭を揺さぶられたためか、目が覚めた。

 意識が戻った。急に全ての景色が、意味を持ち始めた。無理に切られていたスイッチが戻り、再起動させられた。

 

 何が起きたのか……。私はなんで、こんな場所にいるのか? ここで何をしていた?

 目が覚めると、目の前に誰かが横たわっているのが見えた。ブリタニア製の白いパイロットスーツを着た少年/日本人、うつぶせになっていて顔がわからない/誰なのかわからない。でも、苦しそうに悶えている/呼吸が荒く乱れている。生命がとめどなく抜け落ちていく有様、何らかの重傷を負っているのだろう。ソレはよく知っている、忘れることなんてできない、頭に刻み込まれていた。

 白いスーツが真っ赤に染まっている。そのシミはドンドン広がり、地面に水たまりを作っていた。鉄錆に似た臭いがあたり一面に充満し、包み込んでいった。

 おもむろに、両腕に目を向けた。湿った感触が気になった、自分からもその臭いが漂っていた。見るとそこにも、同じものがべっとりと張り付いていた。血に濡れていた。―――返り血に濡れていた。

 

 頭の奥底に押し込めていた悪夢が、蘇った。

 

「うぁ……ぁ……、あぁあぁぁーーー―――!!」

 

 死んだ兄/殺された兄/処刑された兄/私を庇って殺された兄、見捨ててしまった兄。

 目の前の誰かが、その時の兄にダブった。

 

 

 

 私の生涯における痛恨の誤ち、取り換えしようもないミス。レジスタンスに入った当初、リーダーでもある兄に認めてもらいたくて、深追いしすぎてしまった。仲間の制止を振り切って、さらなる戦果を上げようと爆弾を仕掛けに戻った。皆ビビりすぎだ/あの程度の損害じゃ意味がない、私は違う勇敢だ/もっとブリタニアを懲らしないと意味がない。私が、私と兄さんが日本を解放するんだ!

 

 ……迂闊だった、仲間の危惧は正しかったのだろう。私はブリタニアの警察に見つかった。

 逃げ惑う私、鳴り響くアラーム/愉しみが込もった怒号、向けられた多数の銃口。逃れられない、私を追い立てて楽しんでいる。このまま逃げ続ければアジトに案内するようなもの、もし降伏でもしたら皆を危険に落とし込んでしまう、立ち向かえば殺される。私は死を覚悟した。

 

 助けに戻った兄が、私を庇って撃たれた。

 うつ伏せに横たわった兄の姿、とめどなく零れ続ける鮮血、赤く染まる両腕。どうにもできず呆然と泣いていると、兄は走れと命じた。自分を置いてすぐにここから離れろ、と。でなければ、お前までブリタニアに殺される……。

 そんなことできるわけがない。縋り付くが、兄はソレを振り払った。弱りきった体に鞭打って私を振り払った。それでも離れないでいると、警察の声が聞こえてきた/仲間が戻ってきた。―――兄は戻ってきた仲間に命じて、私を引き離した。

 

 その後兄はどうなったのか、私は知らない。捕まったテロリストがどういった目に遭うのか、おおよそながら知っている。死んだほうがマシだと思うような悲惨な毎日だ。だから、すぐに息を引き取ったのなら幸運だろう。捕まって生かされでもしたらと思うと……、考えたくない。仲間の情報を搾り取られ、人である最低限の尊厳すら奪われる、拷問される。そして名誉ブリタニア人として矯正される、洗脳される。仲間を裏切りブリタニアの犬に変わる、変えられる。

 その後もレジスタンス活動が続けられたことを考えると、兄は私たちの秘密を守り続けてくれたのだろう。その命が消える最後まで、守り続けてくれた。今の私がいるのは、生きているのは、兄のおかげだ……。

 それなのに私は、また、同じ誤ちを繰り返した。

 

 

 

 過去と今がゴチャゴチャになって、混乱していた。両手の血がまるで、自分のせいだと思えてしまう、そんなはずはないのに……。震えが収まらず、わけもわからず絶叫した。せずにはいられなかった。

 これは一体、何の冗談なの? 夢なら覚めてよ、こんなものを見せないで! アレは私のせいじゃない、コレは私のせいじゃないッ! あんな、あんな誤ちなんて……。これを防ぐために頑張ってきた、あんな取り返しの付かないことはもうゴメンなの。振り払いたい、前に進みたい! だから私は、私は―――

 

「―――カレン、よくやった」

 

 顔を上げる。零れる悔恨から現実に、引き戻された。

 

 見上げるとそこには、よく見知った顔があった。ここにはいないはずの少年/アッシュフォード学園の同級生=ルルーシュ・ランペルージ。その彼は何故か、敬愛している人と同じ格好をしている。

 

「君のおかげで俺は、先に進める」

「ルルーシュ? なんで、どうしてここに……?」

 

 思い出そうとするも、思い出せない。思い出せるはずなのに、霞が掛かって掴めない。

 ここに来た記憶がなくなっている。この遺跡に入って息を潜めていたところは覚えているのに、そこから先が思い出せない。なぜ目の前にルルーシュがいるのか、なぜもう一人の誰かは撃たれて倒れているのか、なぜ私はこんな場所で尻餅なんて付いているのか……。

 

 ルルーシュは答えず近づいて来る。見知らぬ場所/異状事態/ありえるはずのない格好をしているというのに、ソレを感じさせないいつもどおりの/学園にいるときと同じ表情で。目の前のことは全て、悪い夢かと思えてしまう。

 だけど、その手には銃が握られていた。握っていることに違和感を感じさせない=使ったことがある、それも武器として本来望まれた形で。その異物のおかげで、すぐに立ち上がれた。警戒心に従うことができた。

 危険などどこにもない、でも身構えていた。ルルーシュを睨んだ、何かあればすぐに対応できるように。言い知れぬ悪い予感に胸の中がざわめいていた。

 

「最後にもう一つ、質問があるんだ。聞かせてくれないかな?」

「何を、言って―――」

 

 最後まで言い切れず、途切れた。

 

 意識は再び、麻痺した。

 

 

 

 何も考えられない。ただ、幸福なだけ。訳も分からず/訳など必要でないほど、多幸感で頭の中が一杯になっていた。

 ルルーシュに従うことに、無上の至福を感じていた。その御言葉以外に大切なものなど、どこにない。

 

「今でも、ゼロへの忠誠は変わらないか?」

「はい」

「お前に銃を向けたのにか?」

「はい」

 

 澱みなく答えた真意に、ルルーシュは目を丸くした。

 

「……そうか。それは、残念だな」

 

 一瞬だけ目を伏せるも、すぐに顔を上げた。

 そして、銃を向けてきた。ピタリとこちらに、銃口を定めている。

 撃たれる、避けなければ、殺される。今すぐに……。そんな危機感など、湧いてこない。

 

「さよならカレン。君は、優秀な兵士だった―――」

 

 酷薄に顔を歪めると、引き金に力を込めた。

 

 

 

「―――目を覚ませ、紅月カレン!!」

 

 

 

 銃弾が飛び出る寸前、倒れていた少年が/スザクが叫んだ。

 

 不意打ちの雄叫びに、ルルーシュとともに注意を逸らした。

 私は同時に、目覚めた。叫ばれた私の名前で、至福が崩れ去った。頭の中が急に、晴れ渡っていく。

 カチンと、心と体が噛み合った。

 

「―――はっ! ……私、今まで何を?」

 

 せき止められていた情報が/心が、一気に流れ込んでいた。

 私は何者なのか、私は今どこにいるのか、私は何をしようとしているのか/やらなければならないのか。先まで何が起きたのか、隠されていた記憶は何だったのか、目の前のルルーシュが誰だったのか。その彼に私は、何をされたのか。それなのにどうして今、無事なのか……。全て思い出した。

 ルルーシュの顔が、驚愕で固まった。私の変容を/元に戻ったのを見て、目を見開いている。

 だけど、居着いたのは一瞬だけ。すぐに驚きは脇に捨てて、目的を果たそうと行動した。―――狙いを定め直し、引き金を引いいた。

 

 考えなし/反射的だった。気づいたら脇に飛んでいた、ギリギリで避けた。

 銃弾はあらぬ方向に飛んでいった。

 

 避けた私を追いかけ、もう一度狙いを定められる。今度こそ止めを刺そうと。だけど同時に私も、銃を構えていた。本能的に/腕が動くままにして、差し向ける。

 互いに銃を向けあった。

 

 ほんの一瞬、こちらが早かったのだろう。

 私の撃った銃弾が、ルルーシュの肩を穿った。

 ルルーシュは、撃たれた衝撃と痛みに耐えかねて、銃を取りこぼした。体をよろめかせ、鮮血を噴出させる。くぐもった悲鳴があげられた。

 

「―――私……、私が、撃ったの?」

 

 油断なく銃口を向けながらも、プルプルと震えて定まらない。止めようにも芯から震えているのか、止められない。

 自分のやったことが信じられない。私はなぜ、こんなことをしている/した? なんでルルーシュを/ゼロを撃ったの? 撃たれそうだったから、殺されそうだったから? 命懸けで守り抜こうと誓ったはずなのに、たったそれだけで私が!? この私が、こんなことを―――

 

 己の行動に戸惑っている間、激痛を押してルルーシュが動いた。銃を拾おうと手を伸ばそうとした。

 させじとまた、引き金を引いた。伸ばした手と銃の間に、銃弾を撃ち込んだ。

 

「う、動かないでッ!」

 

 声には動揺が露わになっていたが、銃の牽制はソレに左右されたりはしない。ルルーシュは伸ばした手を引っ込めて、私を睨みつけた。

 

 冷徹を形にしたかのような視線、寒々しいまで無機質な瞳。銃口を前にしても微塵も揺らがない。気圧される……。

 向けられたソレに耐えかねて、銃を差し向けた。両手で固く握り締めて、銃口をガッチリと固定した。脅すための武器ではなく、視線で殺されないための護符として前に差し向けた。

 

「―――それで? どうするんだ、カレン? 俺を撃つのか?」

 

 私の怯えを見抜いたのだろうか。銃などまるで意に返さず、静かに問いかけてきた。

 

「黙って! そこから動かないで、手を挙げろ!」

「撃つのか撃たないのか、はっきりしろ!」

 

 混乱が収まらない私をよそに、ルルーシュが迫ってきた。

 強気な姿勢のまま、まるで立場が逆になったかのように、話を続けていく。

 

「迷っているのなら、そのまま消えろ。ここから出て行け。お互い時間は惜しいだろ? 早く租界に戻った方がいい―――」

「約束したわ、ゼロを連れて帰ると! 皆にッ!」

 

 意気に飲まれんと、叫んだ。

 考えずに出てきたソレだが、今の私にピッタリと嵌るものだった。お腹の中にストンと落ち着く。……そう、それこそが、私かここに来た理由だった。他を全てかなぐり捨ててでも、やらなければならないことだった。

 

「あなたが始めたことでしょ? あなたが皆を巻き込んだ、皆あなたを信じた。ケジメは付けてよッ!」

 

 泣き叫ぶ寸前の罵倒。吐き出し終わると、涙がこぼれそうになった。

 なんでこんなことになったのか、こんなことになるなんて思わなかった。見つけることができたのなら、すぐに解決できると思った。ゼロが日本人を、私の信頼を裏切ったりはしないと思ったのに! 彼は救世主なんだって、信じてたのに。こんな真実なんて、考えたくもなかった! こんなはずじゃ、なかった―――。

 様々な想いが胸の中で渦巻いた。後悔と怒りと不安で気が狂いそうになる。この気持ちにどう決着を付ければいいのか、わからない。何が正しいのかわからない。相手に答えを丸投げするなんて、どうかしている。こんなことになっているのにまだ、彼にすがりつくなんて……。

 私の懇願は、一蹴された。

 

 

 

「―――俺の目的が叶わない限り、ゼロは戻らない。絶対にだ」

 

 

 

 拒絶の言葉に、凍りついた。

 最後の望みは、儚くも消えた。

 

「ゼロは君たちの求めに応じて、指導者になった。ブリタニアと対決出来るだけの力を与えた。代価を求めたことはなかった。―――今がその時だ」

 

 冷たく言い放ったその言葉を、黙って聞いた。

 甘えを断ち切られて、冷静さが戻ってきてくれたからだろうか。取引を持ちかけているんだと、すぐに理解できた。私が/日本人がゼロを必要としているのなら、ソレに恩義を感じているのなら/これからをそうして欲しいと願うのなら、それ相応の代価をよこせと。

 感情が麻痺してしまったのだろうか。ふざけるな、なんて撥ね付ける気は起きなかった。言うとおりだ、なんて納得してしまった。あるいはただ、どうとでもなれと自暴自棄になっていたのかもしれない。ここから/知ってしまった事実から逃げ出したかっただけ。この重荷を振り落とせるのなら、何でも構わなかった。

 

 答えの代わりに、銃口を下げた。

 下に目を向けるとスザクが、小さく呻いていた。

 

「…………どうしろと?」

 

 力なく返事をするとルルーシュは、口角を釣り上げて笑った。

 

 

 

「スザクを殺せ」

 

 

 

 ―――息を、飲まされた。

 何? コイツは一体、何を言っているの?

 

「…………なんで、そんな必要が?」

「そいつが、ゼロにとって邪魔者だからだ」

 

 間髪入れずに返してきた、単純明快な答え。言葉を失う。

 

「スザクの目的はゼロを殺すこと、ゼロの目的はクーデターを成功させること。お前と紅蓮が敗北して使えない以上、俺が直接相手をするしかない。被害を最小限に抑えるためにも、な。指揮権の移譲はそいつとの戦いに集中するため、戦線離脱は味方に動揺と被害を広げさせないため。全ては秘密裏に行わなければならなかった。……そういう筋書きだ」

 

 暗に私の力量不足を含ませていた。お前ができなかったから、俺が尻拭いをしてやっているんだ。こんな目に合わされたのは、お前にも責任がある……。

 ふざけないで!

 

「冗談じゃないわ! そんな、そんなことで皆が、納得するわけない―――」

「ここでそいつを殺せば、その戦果を持っていけば後はどうとでもなる。

 幸い、今のそいつならお前でも殺せるぞ。確実にな」

 

 沸騰している頭の中でも残っていた冷静な部分が、告げた。……正しいと。

 そのカバーストーリーは有効だ、スザクさえ殺してしまえば。ゼロ以外には成し遂げられず、クーデターの成功には不可欠だ。スザクはずっと黒の騎士団にとって目の上のたんこぶだった、彼の恐ろしさは皆知り抜いていた、おそらくこれからも脅威であり続けるだろう。彼を排除したのなら戦域から外れた言い訳は成り立つ、少しは不満が残るだろうがソレを押しつぶすに足る戦果だ。どうとでもなってしまう、ここの真実は隠せてしまう。何事もなかったかのようにルルーシュは/ゼロは、黒の騎士団に戻れる。私がここで殺せば、事実を黙っていさえすれば……。

 穢らわしい考えだ。思い浮かべるだけでも不愉快になる。

 

 顔を歪めながら、ルルーシュを訝しんだ。簡単にそう言ってのける彼が、信じられない。

 

「……スザクはあなたの親友なんでしょ? それなのになんで、殺せなんて言えるのよ?」

「できなければ消えろ。俺を殺したいのなら命を賭けろ。……今お前が選べるのは、それだけだ」

 

 肩からの流血で顔が白くなりかけながらも、毅然として言った。私の迷いを断ち切ってきた。

 何もできずここから逃げ出すか、自殺覚悟でルルーシュに報いを与えるか、スザクを殺してゼロを連れ戻すか。……私が欲しかった選択肢は、どこにもない。何をしても納得しきれない、傷をつけられる。

 

 もう一度スザクを見下ろした。鮮血を流しながら、自ら流した血の池で悶えている。なんとか逃れようと体を動かすも、指先ほどしか動かない。重要な臓器を傷つけてしまったのだろうか、苦悶とともに血泡を吐き出している―――。

 本来ソレは、私にもたらされたものだった。

 ルルーシュの銃弾は私を殺そうと放たれた、何もできなかった私はただ殺されるだけだった。避けることなどできなかった。スザクは私を庇い、身代わりになった。ゼロを殺すチャンスを、みすみす手放しながら、私を助けることを優先した。

 スザクはゼロを殺すつもりなどなかった。生かして捕らえるつもりだったのかもしれない、あるいは別の目的があったのかもしれない。どちらにしても、ルルーシュが用意した言い訳にはいっぺんの真実も含まれていない。……私だけはそれを知っている。目を背けることは、できない。

 

「私にはそんな、そんなこと……。できるわけがない!」

「助けてもらったからか?」

 

 胸が抉られた。的確に急所を抉ってきた。飛び出そうとした言葉は、ソレで押さえつけられた。

 

「そんな甘い考えは捨てろ。間抜けだったと考えるんだ。今までナイトメアを使って散々殺し合ってきたのに、生身で向かい合ったら怖気づいた。命を助ければ心変わりするとゼロを裏切ると、見くびった。侮ったんだ。……そう考えろ」

 

 ソレは、私の心の奥底に潜んでいる悪魔の囁きだった。

 もし私がゼロを助ける道を選んだのなら、するであろう心の防壁/罪悪感を麻痺させる毒。あまりにも醜いいいわけだ、聞くだけで吐き気がする。今はまだ形にもなっていないそれを、先にえぐり出された。見せつけて教えた、自分はソレを知っていると。その苦しみを知っている、誰にも言うつもりはない、辛いのなら周りの人間にはそう思わせてやれる。お前自身にもそう思わせてやれる、騙し続けてやると……。

 滲ませたであろうその気遣いは、まさしくゼロのモノだった。目の前にいるルルーシュはゼロだった。それをようやく、悟った。

 

 罵倒する気は、なくなっていた。代わりに悲しさが/寂しさが/やるせなさが、こみ上げてきた。

 ルルーシュはゼロだった。ゼロは信じた今までどおりの人だった。でも私たちは、もう今までと同じ関係には戻れない。ただ命懸けで盲信しているだけでは、すまされない。夢を見続けてさせてはくれない。

 私は、迷子になった。兄を見捨てたあの日に、あるいはもっと前かもしれない。レジスタンスに入る前の日/まだ日本が壊れ兄が戦いに趣いたその日、不安に怯え泣き暮らしていた少女に戻っていた。

 

「…………なんでよ? なんで私がそんなこと、しなくちゃならないのよ?」

「ソレがお前の望みだからだ。これからもゼロを黒の騎士団で働かせたいのなら、覚悟を見せろ。……それができないようでは、ゼロとともに歩む資格はない」

 

 すがりつこうとする手を、突き放してきた。

 ゼロとともに歩み資格、私が欲しかったもの。でもそれは、私の望んでいたものではなかった。甘えは許さず、取り返しのつかない傷を背負うこと、二度と治ることがなく血を噴き出し続けること。……ソレは、破滅へと繋がっている。

 私はそんなこと、望んでいない。

 

「さぁ、選べカレン。……迷っている時間は、ないぞ」

 

 尻込みしている私を促すように、迫ってきた。その顔を見てみると、青白く今にも倒れそうほど衰弱していた。

 これ以上血を流し続ければ、ルルーシュは死ぬ。彼の心臓が止まれば、胸の爆弾が破裂する。その爆発でこの遺跡は崩壊する。爆発と崩落の二重の攻め手を防ぐ手段はない。今すぐ決めなければ、諸共の自滅へと流れてしまう……。

 

 今すぐに、選ばなくてはならない。どんな結末が待っていても。

 でも、私が望んでいたのは……、戦い続けてきた理由は……、求めていた未来は―――。

 

「……私、私は……。私はただ―――」

 

 ―――幸せだったあの頃を、取り戻したかっただけだ。

 

 

 

 ……何も、浮かんでこなかった。全てを満足させる方法は、浮かんできてくれなかった。

 代わりに出てきたのは、目を背けてきた真実だ。

 

 私にルルーシュは、止められない。

 気づいてしまった。私は、リフレインで幸せな過去の妄想に浸っていた母と、何も変わらない。現実を見て戦って勝ち取って、付けられた傷を乗り越えていたフリをしていただけだ。自分を騙していただけ、麻薬の代わりに銃とナイトメアを使ったに過ぎない。誰よりもたくさんソレを使ってきた、もはや切っても切り捨てられないほどに、依存していた/中毒になっていた。自分で背負わず他人に押し付けただけ、ゼロに丸投げしていただけだ。その歪が、日本人の大量虐殺を引き起こした。これから世界中を戦乱に叩き込もうとする。……これでは麻薬の方がマシだ。私はこんなこと、望んでいなかった。―――それでも、引き金を引いてしまった。

 私は、責任を負おうとしなかった。私には、ルルーシュを撃つ資格がない。

 

 構えていた銃を下ろした。力が抜け落ち、項垂れた。

 私は何も、選べない。私は敗残兵だ。

 

「…………フンッ! やはり無理か」

 

 そんな私をルルーシュは、冷たく見下した。石ころでも見るかのように、示していた興味を失っていた。

 私に敗北を、突きつけてきた。

 

「カレン、先の賞賛は取り消そう。

 お前は、半端者だ。ブリタニア人にも日本人にもなりきれない、卑怯な裏切り者だ。ソレは生涯変わらないことだろう」

 

 後ずさりして離れながら、呪いの言葉を告げられた。何も言い返せず、胸の奥底に染み渡っていく。

 その言葉は、私の根幹に刻み込まれた。

 

 ポタポタと血の尾を引きながらも、石壁までたどり着いた。赤く染まった手を壁に付ける。

 背をあずけると、吐息をひとつ漏らした。

 

「じゃあな、二人共。もう会うことは、ないだろう―――」

 

 ゆっくりと目を瞑り、見開いた。

 その瞳には、言い知れぬ力が。何処かで見たことがある光を帯びていた。

 

 

 

 その光に反応するように、背後の石壁も輝き始めた。

 

 

 

 刻まれた不思議な文様が輝き、閃光を放つ。目がくらむほどの凄まじい光の奔流。遺跡すべてを光に満たしていく。

 その光に覆われ、ルルーシュの姿もかき消されていく。どこか彼方へと、消えていく―――

 

「―――ルルーシュゥッ!!」

 

 ガバリと、雄叫びを上げながら身を起こしたスザクが、ルルーシュに発砲した。

 

 銃弾は発光現象の中に、ルルーシュを穿つ。逃げようとする彼に食らいつくように、飛び込んでいった―――。

 

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 当たったのか外れたのか、見えなかった。着弾した音も聞こえなかった。

 

 眩い光が消えた後、そこには、ルルーシュの姿はなかった。

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。