銃声と同時に、体が傾いだ。
硬く冷たい感触、尻餅をついた。頭を揺さぶられたためか、目が覚めた。
意識が戻った。急に全ての景色が、意味を持ち始めた。無理に切られていたスイッチが戻り、再起動させられた。
何が起きたのか……。私はなんで、こんな場所にいるのか? ここで何をしていた?
目が覚めると、目の前に誰かが横たわっているのが見えた。ブリタニア製の白いパイロットスーツを着た少年/日本人、うつぶせになっていて顔がわからない/誰なのかわからない。でも、苦しそうに悶えている/呼吸が荒く乱れている。生命がとめどなく抜け落ちていく有様、何らかの重傷を負っているのだろう。ソレはよく知っている、忘れることなんてできない、頭に刻み込まれていた。
白いスーツが真っ赤に染まっている。そのシミはドンドン広がり、地面に水たまりを作っていた。鉄錆に似た臭いがあたり一面に充満し、包み込んでいった。
おもむろに、両腕に目を向けた。湿った感触が気になった、自分からもその臭いが漂っていた。見るとそこにも、同じものがべっとりと張り付いていた。血に濡れていた。―――返り血に濡れていた。
頭の奥底に押し込めていた悪夢が、蘇った。
「うぁ……ぁ……、あぁあぁぁーーー―――!!」
死んだ兄/殺された兄/処刑された兄/私を庇って殺された兄、見捨ててしまった兄。
目の前の誰かが、その時の兄にダブった。
私の生涯における痛恨の誤ち、取り換えしようもないミス。レジスタンスに入った当初、リーダーでもある兄に認めてもらいたくて、深追いしすぎてしまった。仲間の制止を振り切って、さらなる戦果を上げようと爆弾を仕掛けに戻った。皆ビビりすぎだ/あの程度の損害じゃ意味がない、私は違う勇敢だ/もっとブリタニアを懲らしないと意味がない。私が、私と兄さんが日本を解放するんだ!
……迂闊だった、仲間の危惧は正しかったのだろう。私はブリタニアの警察に見つかった。
逃げ惑う私、鳴り響くアラーム/愉しみが込もった怒号、向けられた多数の銃口。逃れられない、私を追い立てて楽しんでいる。このまま逃げ続ければアジトに案内するようなもの、もし降伏でもしたら皆を危険に落とし込んでしまう、立ち向かえば殺される。私は死を覚悟した。
助けに戻った兄が、私を庇って撃たれた。
うつ伏せに横たわった兄の姿、とめどなく零れ続ける鮮血、赤く染まる両腕。どうにもできず呆然と泣いていると、兄は走れと命じた。自分を置いてすぐにここから離れろ、と。でなければ、お前までブリタニアに殺される……。
そんなことできるわけがない。縋り付くが、兄はソレを振り払った。弱りきった体に鞭打って私を振り払った。それでも離れないでいると、警察の声が聞こえてきた/仲間が戻ってきた。―――兄は戻ってきた仲間に命じて、私を引き離した。
その後兄はどうなったのか、私は知らない。捕まったテロリストがどういった目に遭うのか、おおよそながら知っている。死んだほうがマシだと思うような悲惨な毎日だ。だから、すぐに息を引き取ったのなら幸運だろう。捕まって生かされでもしたらと思うと……、考えたくない。仲間の情報を搾り取られ、人である最低限の尊厳すら奪われる、拷問される。そして名誉ブリタニア人として矯正される、洗脳される。仲間を裏切りブリタニアの犬に変わる、変えられる。
その後もレジスタンス活動が続けられたことを考えると、兄は私たちの秘密を守り続けてくれたのだろう。その命が消える最後まで、守り続けてくれた。今の私がいるのは、生きているのは、兄のおかげだ……。
それなのに私は、また、同じ誤ちを繰り返した。
過去と今がゴチャゴチャになって、混乱していた。両手の血がまるで、自分のせいだと思えてしまう、そんなはずはないのに……。震えが収まらず、わけもわからず絶叫した。せずにはいられなかった。
これは一体、何の冗談なの? 夢なら覚めてよ、こんなものを見せないで! アレは私のせいじゃない、コレは私のせいじゃないッ! あんな、あんな誤ちなんて……。これを防ぐために頑張ってきた、あんな取り返しの付かないことはもうゴメンなの。振り払いたい、前に進みたい! だから私は、私は―――
「―――カレン、よくやった」
顔を上げる。零れる悔恨から現実に、引き戻された。
見上げるとそこには、よく見知った顔があった。ここにはいないはずの少年/アッシュフォード学園の同級生=ルルーシュ・ランペルージ。その彼は何故か、敬愛している人と同じ格好をしている。
「君のおかげで俺は、先に進める」
「ルルーシュ? なんで、どうしてここに……?」
思い出そうとするも、思い出せない。思い出せるはずなのに、霞が掛かって掴めない。
ここに来た記憶がなくなっている。この遺跡に入って息を潜めていたところは覚えているのに、そこから先が思い出せない。なぜ目の前にルルーシュがいるのか、なぜもう一人の誰かは撃たれて倒れているのか、なぜ私はこんな場所で尻餅なんて付いているのか……。
ルルーシュは答えず近づいて来る。見知らぬ場所/異状事態/ありえるはずのない格好をしているというのに、ソレを感じさせないいつもどおりの/学園にいるときと同じ表情で。目の前のことは全て、悪い夢かと思えてしまう。
だけど、その手には銃が握られていた。握っていることに違和感を感じさせない=使ったことがある、それも武器として本来望まれた形で。その異物のおかげで、すぐに立ち上がれた。警戒心に従うことができた。
危険などどこにもない、でも身構えていた。ルルーシュを睨んだ、何かあればすぐに対応できるように。言い知れぬ悪い予感に胸の中がざわめいていた。
「最後にもう一つ、質問があるんだ。聞かせてくれないかな?」
「何を、言って―――」
最後まで言い切れず、途切れた。
意識は再び、麻痺した。
何も考えられない。ただ、幸福なだけ。訳も分からず/訳など必要でないほど、多幸感で頭の中が一杯になっていた。
ルルーシュに従うことに、無上の至福を感じていた。その御言葉以外に大切なものなど、どこにない。
「今でも、ゼロへの忠誠は変わらないか?」
「はい」
「お前に銃を向けたのにか?」
「はい」
澱みなく答えた真意に、ルルーシュは目を丸くした。
「……そうか。それは、残念だな」
一瞬だけ目を伏せるも、すぐに顔を上げた。
そして、銃を向けてきた。ピタリとこちらに、銃口を定めている。
撃たれる、避けなければ、殺される。今すぐに……。そんな危機感など、湧いてこない。
「さよならカレン。君は、優秀な兵士だった―――」
酷薄に顔を歪めると、引き金に力を込めた。
「―――目を覚ませ、紅月カレン!!」
銃弾が飛び出る寸前、倒れていた少年が/スザクが叫んだ。
不意打ちの雄叫びに、ルルーシュとともに注意を逸らした。
私は同時に、目覚めた。叫ばれた私の名前で、至福が崩れ去った。頭の中が急に、晴れ渡っていく。
カチンと、心と体が噛み合った。
「―――はっ! ……私、今まで何を?」
せき止められていた情報が/心が、一気に流れ込んでいた。
私は何者なのか、私は今どこにいるのか、私は何をしようとしているのか/やらなければならないのか。先まで何が起きたのか、隠されていた記憶は何だったのか、目の前のルルーシュが誰だったのか。その彼に私は、何をされたのか。それなのにどうして今、無事なのか……。全て思い出した。
ルルーシュの顔が、驚愕で固まった。私の変容を/元に戻ったのを見て、目を見開いている。
だけど、居着いたのは一瞬だけ。すぐに驚きは脇に捨てて、目的を果たそうと行動した。―――狙いを定め直し、引き金を引いいた。
考えなし/反射的だった。気づいたら脇に飛んでいた、ギリギリで避けた。
銃弾はあらぬ方向に飛んでいった。
避けた私を追いかけ、もう一度狙いを定められる。今度こそ止めを刺そうと。だけど同時に私も、銃を構えていた。本能的に/腕が動くままにして、差し向ける。
互いに銃を向けあった。
ほんの一瞬、こちらが早かったのだろう。
私の撃った銃弾が、ルルーシュの肩を穿った。
ルルーシュは、撃たれた衝撃と痛みに耐えかねて、銃を取りこぼした。体をよろめかせ、鮮血を噴出させる。くぐもった悲鳴があげられた。
「―――私……、私が、撃ったの?」
油断なく銃口を向けながらも、プルプルと震えて定まらない。止めようにも芯から震えているのか、止められない。
自分のやったことが信じられない。私はなぜ、こんなことをしている/した? なんでルルーシュを/ゼロを撃ったの? 撃たれそうだったから、殺されそうだったから? 命懸けで守り抜こうと誓ったはずなのに、たったそれだけで私が!? この私が、こんなことを―――
己の行動に戸惑っている間、激痛を押してルルーシュが動いた。銃を拾おうと手を伸ばそうとした。
させじとまた、引き金を引いた。伸ばした手と銃の間に、銃弾を撃ち込んだ。
「う、動かないでッ!」
声には動揺が露わになっていたが、銃の牽制はソレに左右されたりはしない。ルルーシュは伸ばした手を引っ込めて、私を睨みつけた。
冷徹を形にしたかのような視線、寒々しいまで無機質な瞳。銃口を前にしても微塵も揺らがない。気圧される……。
向けられたソレに耐えかねて、銃を差し向けた。両手で固く握り締めて、銃口をガッチリと固定した。脅すための武器ではなく、視線で殺されないための護符として前に差し向けた。
「―――それで? どうするんだ、カレン? 俺を撃つのか?」
私の怯えを見抜いたのだろうか。銃などまるで意に返さず、静かに問いかけてきた。
「黙って! そこから動かないで、手を挙げろ!」
「撃つのか撃たないのか、はっきりしろ!」
混乱が収まらない私をよそに、ルルーシュが迫ってきた。
強気な姿勢のまま、まるで立場が逆になったかのように、話を続けていく。
「迷っているのなら、そのまま消えろ。ここから出て行け。お互い時間は惜しいだろ? 早く租界に戻った方がいい―――」
「約束したわ、ゼロを連れて帰ると! 皆にッ!」
意気に飲まれんと、叫んだ。
考えずに出てきたソレだが、今の私にピッタリと嵌るものだった。お腹の中にストンと落ち着く。……そう、それこそが、私かここに来た理由だった。他を全てかなぐり捨ててでも、やらなければならないことだった。
「あなたが始めたことでしょ? あなたが皆を巻き込んだ、皆あなたを信じた。ケジメは付けてよッ!」
泣き叫ぶ寸前の罵倒。吐き出し終わると、涙がこぼれそうになった。
なんでこんなことになったのか、こんなことになるなんて思わなかった。見つけることができたのなら、すぐに解決できると思った。ゼロが日本人を、私の信頼を裏切ったりはしないと思ったのに! 彼は救世主なんだって、信じてたのに。こんな真実なんて、考えたくもなかった! こんなはずじゃ、なかった―――。
様々な想いが胸の中で渦巻いた。後悔と怒りと不安で気が狂いそうになる。この気持ちにどう決着を付ければいいのか、わからない。何が正しいのかわからない。相手に答えを丸投げするなんて、どうかしている。こんなことになっているのにまだ、彼にすがりつくなんて……。
私の懇願は、一蹴された。
「―――俺の目的が叶わない限り、ゼロは戻らない。絶対にだ」
拒絶の言葉に、凍りついた。
最後の望みは、儚くも消えた。
「ゼロは君たちの求めに応じて、指導者になった。ブリタニアと対決出来るだけの力を与えた。代価を求めたことはなかった。―――今がその時だ」
冷たく言い放ったその言葉を、黙って聞いた。
甘えを断ち切られて、冷静さが戻ってきてくれたからだろうか。取引を持ちかけているんだと、すぐに理解できた。私が/日本人がゼロを必要としているのなら、ソレに恩義を感じているのなら/これからをそうして欲しいと願うのなら、それ相応の代価をよこせと。
感情が麻痺してしまったのだろうか。ふざけるな、なんて撥ね付ける気は起きなかった。言うとおりだ、なんて納得してしまった。あるいはただ、どうとでもなれと自暴自棄になっていたのかもしれない。ここから/知ってしまった事実から逃げ出したかっただけ。この重荷を振り落とせるのなら、何でも構わなかった。
答えの代わりに、銃口を下げた。
下に目を向けるとスザクが、小さく呻いていた。
「…………どうしろと?」
力なく返事をするとルルーシュは、口角を釣り上げて笑った。
「スザクを殺せ」
―――息を、飲まされた。
何? コイツは一体、何を言っているの?
「…………なんで、そんな必要が?」
「そいつが、ゼロにとって邪魔者だからだ」
間髪入れずに返してきた、単純明快な答え。言葉を失う。
「スザクの目的はゼロを殺すこと、ゼロの目的はクーデターを成功させること。お前と紅蓮が敗北して使えない以上、俺が直接相手をするしかない。被害を最小限に抑えるためにも、な。指揮権の移譲はそいつとの戦いに集中するため、戦線離脱は味方に動揺と被害を広げさせないため。全ては秘密裏に行わなければならなかった。……そういう筋書きだ」
暗に私の力量不足を含ませていた。お前ができなかったから、俺が尻拭いをしてやっているんだ。こんな目に合わされたのは、お前にも責任がある……。
ふざけないで!
「冗談じゃないわ! そんな、そんなことで皆が、納得するわけない―――」
「ここでそいつを殺せば、その戦果を持っていけば後はどうとでもなる。
幸い、今のそいつならお前でも殺せるぞ。確実にな」
沸騰している頭の中でも残っていた冷静な部分が、告げた。……正しいと。
そのカバーストーリーは有効だ、スザクさえ殺してしまえば。ゼロ以外には成し遂げられず、クーデターの成功には不可欠だ。スザクはずっと黒の騎士団にとって目の上のたんこぶだった、彼の恐ろしさは皆知り抜いていた、おそらくこれからも脅威であり続けるだろう。彼を排除したのなら戦域から外れた言い訳は成り立つ、少しは不満が残るだろうがソレを押しつぶすに足る戦果だ。どうとでもなってしまう、ここの真実は隠せてしまう。何事もなかったかのようにルルーシュは/ゼロは、黒の騎士団に戻れる。私がここで殺せば、事実を黙っていさえすれば……。
穢らわしい考えだ。思い浮かべるだけでも不愉快になる。
顔を歪めながら、ルルーシュを訝しんだ。簡単にそう言ってのける彼が、信じられない。
「……スザクはあなたの親友なんでしょ? それなのになんで、殺せなんて言えるのよ?」
「できなければ消えろ。俺を殺したいのなら命を賭けろ。……今お前が選べるのは、それだけだ」
肩からの流血で顔が白くなりかけながらも、毅然として言った。私の迷いを断ち切ってきた。
何もできずここから逃げ出すか、自殺覚悟でルルーシュに報いを与えるか、スザクを殺してゼロを連れ戻すか。……私が欲しかった選択肢は、どこにもない。何をしても納得しきれない、傷をつけられる。
もう一度スザクを見下ろした。鮮血を流しながら、自ら流した血の池で悶えている。なんとか逃れようと体を動かすも、指先ほどしか動かない。重要な臓器を傷つけてしまったのだろうか、苦悶とともに血泡を吐き出している―――。
本来ソレは、私にもたらされたものだった。
ルルーシュの銃弾は私を殺そうと放たれた、何もできなかった私はただ殺されるだけだった。避けることなどできなかった。スザクは私を庇い、身代わりになった。ゼロを殺すチャンスを、みすみす手放しながら、私を助けることを優先した。
スザクはゼロを殺すつもりなどなかった。生かして捕らえるつもりだったのかもしれない、あるいは別の目的があったのかもしれない。どちらにしても、ルルーシュが用意した言い訳にはいっぺんの真実も含まれていない。……私だけはそれを知っている。目を背けることは、できない。
「私にはそんな、そんなこと……。できるわけがない!」
「助けてもらったからか?」
胸が抉られた。的確に急所を抉ってきた。飛び出そうとした言葉は、ソレで押さえつけられた。
「そんな甘い考えは捨てろ。間抜けだったと考えるんだ。今までナイトメアを使って散々殺し合ってきたのに、生身で向かい合ったら怖気づいた。命を助ければ心変わりするとゼロを裏切ると、見くびった。侮ったんだ。……そう考えろ」
ソレは、私の心の奥底に潜んでいる悪魔の囁きだった。
もし私がゼロを助ける道を選んだのなら、するであろう心の防壁/罪悪感を麻痺させる毒。あまりにも醜いいいわけだ、聞くだけで吐き気がする。今はまだ形にもなっていないそれを、先にえぐり出された。見せつけて教えた、自分はソレを知っていると。その苦しみを知っている、誰にも言うつもりはない、辛いのなら周りの人間にはそう思わせてやれる。お前自身にもそう思わせてやれる、騙し続けてやると……。
滲ませたであろうその気遣いは、まさしくゼロのモノだった。目の前にいるルルーシュはゼロだった。それをようやく、悟った。
罵倒する気は、なくなっていた。代わりに悲しさが/寂しさが/やるせなさが、こみ上げてきた。
ルルーシュはゼロだった。ゼロは信じた今までどおりの人だった。でも私たちは、もう今までと同じ関係には戻れない。ただ命懸けで盲信しているだけでは、すまされない。夢を見続けてさせてはくれない。
私は、迷子になった。兄を見捨てたあの日に、あるいはもっと前かもしれない。レジスタンスに入る前の日/まだ日本が壊れ兄が戦いに趣いたその日、不安に怯え泣き暮らしていた少女に戻っていた。
「…………なんでよ? なんで私がそんなこと、しなくちゃならないのよ?」
「ソレがお前の望みだからだ。これからもゼロを黒の騎士団で働かせたいのなら、覚悟を見せろ。……それができないようでは、ゼロとともに歩む資格はない」
すがりつこうとする手を、突き放してきた。
ゼロとともに歩み資格、私が欲しかったもの。でもそれは、私の望んでいたものではなかった。甘えは許さず、取り返しのつかない傷を背負うこと、二度と治ることがなく血を噴き出し続けること。……ソレは、破滅へと繋がっている。
私はそんなこと、望んでいない。
「さぁ、選べカレン。……迷っている時間は、ないぞ」
尻込みしている私を促すように、迫ってきた。その顔を見てみると、青白く今にも倒れそうほど衰弱していた。
これ以上血を流し続ければ、ルルーシュは死ぬ。彼の心臓が止まれば、胸の爆弾が破裂する。その爆発でこの遺跡は崩壊する。爆発と崩落の二重の攻め手を防ぐ手段はない。今すぐ決めなければ、諸共の自滅へと流れてしまう……。
今すぐに、選ばなくてはならない。どんな結末が待っていても。
でも、私が望んでいたのは……、戦い続けてきた理由は……、求めていた未来は―――。
「……私、私は……。私はただ―――」
―――幸せだったあの頃を、取り戻したかっただけだ。
……何も、浮かんでこなかった。全てを満足させる方法は、浮かんできてくれなかった。
代わりに出てきたのは、目を背けてきた真実だ。
私にルルーシュは、止められない。
気づいてしまった。私は、リフレインで幸せな過去の妄想に浸っていた母と、何も変わらない。現実を見て戦って勝ち取って、付けられた傷を乗り越えていたフリをしていただけだ。自分を騙していただけ、麻薬の代わりに銃とナイトメアを使ったに過ぎない。誰よりもたくさんソレを使ってきた、もはや切っても切り捨てられないほどに、依存していた/中毒になっていた。自分で背負わず他人に押し付けただけ、ゼロに丸投げしていただけだ。その歪が、日本人の大量虐殺を引き起こした。これから世界中を戦乱に叩き込もうとする。……これでは麻薬の方がマシだ。私はこんなこと、望んでいなかった。―――それでも、引き金を引いてしまった。
私は、責任を負おうとしなかった。私には、ルルーシュを撃つ資格がない。
構えていた銃を下ろした。力が抜け落ち、項垂れた。
私は何も、選べない。私は敗残兵だ。
「…………フンッ! やはり無理か」
そんな私をルルーシュは、冷たく見下した。石ころでも見るかのように、示していた興味を失っていた。
私に敗北を、突きつけてきた。
「カレン、先の賞賛は取り消そう。
お前は、半端者だ。ブリタニア人にも日本人にもなりきれない、卑怯な裏切り者だ。ソレは生涯変わらないことだろう」
後ずさりして離れながら、呪いの言葉を告げられた。何も言い返せず、胸の奥底に染み渡っていく。
その言葉は、私の根幹に刻み込まれた。
ポタポタと血の尾を引きながらも、石壁までたどり着いた。赤く染まった手を壁に付ける。
背をあずけると、吐息をひとつ漏らした。
「じゃあな、二人共。もう会うことは、ないだろう―――」
ゆっくりと目を瞑り、見開いた。
その瞳には、言い知れぬ力が。何処かで見たことがある光を帯びていた。
その光に反応するように、背後の石壁も輝き始めた。
刻まれた不思議な文様が輝き、閃光を放つ。目がくらむほどの凄まじい光の奔流。遺跡すべてを光に満たしていく。
その光に覆われ、ルルーシュの姿もかき消されていく。どこか彼方へと、消えていく―――
「―――ルルーシュゥッ!!」
ガバリと、雄叫びを上げながら身を起こしたスザクが、ルルーシュに発砲した。
銃弾は発光現象の中に、ルルーシュを穿つ。逃げようとする彼に食らいつくように、飛び込んでいった―――。
◆ ◆ ◆
当たったのか外れたのか、見えなかった。着弾した音も聞こえなかった。
眩い光が消えた後、そこには、ルルーシュの姿はなかった。
長々とご視聴、ありがとうございました。
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