不可侵のギアス 《完結》   作:ツルギ剣

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エピローグ 騎士から魔王へ


 

 

 

 赤い少女の/カレンの後ろ姿を見送った。見えなくなるまで/ひとり取り残されていると、彼女の残した言葉が胸の中で木霊していた。

 

 

 

「―――生き残れ、か……。まいったね」

 

 ソレが一番面倒なことなのに、簡単に言ってくれる……。苦笑しながらつぶやいていた。

 

 生きるつもりなんてない、生きれるとも思えない、殺されない保証はどこにもない。

 自分が自分で/枢木スザクである限り、世界中が敵になる。敵以上の殺し屋だ、誰も味方などいない。そもそもそんなモノ、持ち合わせた覚えもなかったけど……。今日ソレが、確定してしまった。

 俺は世界から、弾かれた。

 ここに生きていることが/生まれたことすら間違いだった。そう断じられる。ソレが正当であると証明するために殺される。だから弁明など聞いてくれない、結果を得たあとでなければ聞く耳を持てない、死人は喋れないからこの懺悔に意味はない。一刻も早く、自分たちの世界から俺という異物を切り離そうとする/しなければならないから=正さなくてはならないから。あのような殺戮の饗宴をもたらしたモノ達は、人ではないがために。

 俺は人を、辞めなければならない。

 今の俺が生き続けるためには、ソレが絶対不可欠だ。人であることは許されない/人でなしで在らねばならない。それでも、世界から爪弾きにされても、ソコで生き続けなければならない。絶え間なく摩擦し、キシミをあげ続ける。不和と闘争しか生み出せない、寄生していると言うしかない生き方だ。誰かの幸福には到底、なりえないだろう。……そんな人生に、一体何の価値があるんだ?

 俺はここで、潰えるべきだった。

 父さんの意志を継ぐと意気込んで戦ってきたのに、得られた結果は正反対の虐殺。世界の誰よりも/己よりも大切だと想っていた彼女をこの手に掛けたのに、のうのうと生き残っている。敵をとろうとここまで追いかけてきたのに、後一歩で取り逃がしてしまった。撃たれて瀕死になってそのまま潰れれば良かったのに、そうはならなかった。生き残った。理由は……、わからない。あのまま終われたらどんなに良かったか、どうしてなのかわからない。わからない、わからない―――。

 それでも俺は、生きなければならない……。ゼロの割れた仮面の前へと、体を引きずっていった。

 

 《生きろ》、《生きろ》、《生きろ》―――!!

 無理矢理動かして生じた激痛が、問答無用でそう訴えてきた。それ以外の余分なものは痛みで燃やし尽くす。どん底を底抜けて沈みこもうとする心を引っ張り上げると、叩き倒し目を覚まさせてきた。

 その叫び声が、答えだろう。その力強さが答えた。……今はソレだけでもいい。

 息を荒げながらも何とかたどり着くと、地面のソレを手元に手繰り寄せた。

 

「……まさか俺が、ゼロになるなんてな」

 

 皮肉げに苦笑しながら、ひとりごちた。

 今までずっと敵対してきた、間違っていると思っていた。必ず自分の手で捕まえて、法の明るみに引きずり出し裁く。そうすることに迷いなどなかった、勝利のためなら何をしても許されるなどあってはならない。今もその考えは変わっていないが……、わからなくなった。自分の中の『正しい自分』と『今の自分』が噛み合っていない/正反対でもある。コレ以外の生存方法など考えられないが、コレは今までの自分と全く違う。拒絶してしかるべきものなのに、腹の奥底では納得していた。―――今までの生き方はもう、通用しない/できない。

 何もないはずの真っ暗な面の奥から、侮蔑の眼差しが垣間見えた。

 

 胸から騎士のエンブレムを外した。

 麗白な翼の生えた両刃剣/ブリタニア皇族の守護者の紋章、この命に代えても守りぬくと誓った誓約の証。手に取って見下ろした。

 

「すまないユフィ。俺はまた、君を―――殺す事になる」

 

 汚れ一つ無いソレを、そっと、地面に置いた。

 

 彼女を殺さない選択はありえた。

 ナイトメアから出て生身を晒したのなら、無力化するのは不可能じゃない。目と鼻の先まで接近できたのなら、気絶させて拘束するだけで良かった。殺す必要は必ずしもなかった。だけど俺は、そうしなかった。彼女と相対した瞬間、殺さない選択よりも殺す方を優先した。言い訳なら何とでもできる、あのまま野放しにしたらどれだけ危険なのか鑑みたら正しいとも言えよう。あの時の彼女は血に飢えた魔女だった、阿鼻叫喚の地獄の中を法悦しながら踊れる人外だった。そんな将来の禍根をいち早く絶った、日本と日本人を救うためにも。そのために彼女の将来を切り捨てた。共に生きて贖罪を支えて、生き直す可能性を潰した。

 限界だった、もう耐えられなかった。

 アレはゼロ/ルルーシュによって強制されたことだ。そのことはわかっている。彼女の意志ではない、彼女はあんなこと望んでなんていなかった。でもギアスの力には抗らえない、やるしかなかった。全ての責任はゼロにある。……本当にそうだったのか? あの殺戮劇を、彼女は止められなかったのか? 本当に心の奥底から、虐殺などしたくないと命令を弾くことはできなかったのか? ―――遂行してしまう前に命を絶つ、その解決法だけは残されていた。

 アレが彼女の本性だった。

 責めるべきことじゃない。日本人は彼女にとって異民族でしかない、同族でもない人達のために命を捨てろなどと要求できない。もし俺にブリタニア人を虐殺しろとのギアスをかけられたら、自殺はできなかったことだろう。誰であってもできない/させるわけにもいかない。アレは仕方の無いことだった。でも……観てしまった、彼女の顔を。ギアスに突き動かされた、正気を失っただけの顔ではなかった。瞳の奥底に、確かな意志を感じ取れた。アノ顔を作ったのはギアスだけではなく、いや、逆にギアスを瞬時に受け入れ利用し己で己を改造した。彼女自身の手に寄るモノだった。

 俺がそうであったように、彼女も同じような呪いに侵されていた。

 彼女は虐殺を防ぎたかったわけではなかった。ただ、今まで培ってきた倫理観/規範に従っただけだった。誰かから言われた「このようにあれ」「これこそが正しい」との命令を忠実にこなしていただけ。物心つく前からとり憑かれたためか他に類を見ない彼女の才能故か、命令を遂行するためには己の精神すら書き換えて今までの自分をスッパリと切り捨ててしまえる。意志強固に/冷酷である必要はない、虫が捕食者から逃げるための自切と同じ本能だ。既に、ゼロにギアスをかけられる前に、ギアスに匹敵する呪いに染め抜かれていた。その呪いこそが彼女の本性になるまでに。……だから、日本人の虐殺を厭うことなどあり得ない。彼女は彼女でありながら虐殺者として、矛盾なく生きられる。生きてしまえる。

 俺は彼女に、そうあって欲しくなかった。

 鏡を見ているようだった。彼女のあの有様は、俺にも訪れていたかもしれない似姿だった。見たくも見せたくもないすぐにも消してしまいたいのに、決して剥がれずその度に強固になってしまう醜悪な業。だから、止めなくてはならなかった。飲み込まれたら二度と浮かび上がれない、引っ張り出すための己を消してしまったがために、飲み込まれたことすらわからなくなる。でも、ソレが抱えていた業だとしても、他人が幸せであれとの祈りから始まったものだ。悲しみや不幸を撒き散らすためじゃなかった。だからためらう必要はなかった、だから祈りのままで在り続けた、だからあんな姿にはなりたくなかった。だから、だから―――

 誰かが止めなくてはならなかった。その役は、他の誰にも譲りたくなかった。

 

「……僕は、君の騎士に、ふさわしくなかったよ」

 

 最後にそっと指でなぞると、名残惜しげに離した。……もう、コレを持っているわけにはいかない。

 代わりにゼロの仮面に目を向けると、掴み上げた。

 

 立ち上がり顔を上げると、その瞳に赤い光を宿らせた。

 ギアス/超常の力/これからの俺に無くてはならないもの、……あるいは呪いか? 彼女の命の代わりに得てしまったモノ、祝福とはとてもじゃないが言えない。

 踵を返すと、その場から去ろうとした。もうここに戻ってくることも、ないだろう……

 

 出口に向かって一歩踏み出した。

 その瞬間風が、ふわりと一陣、頬を撫ぜた。

 

 

 

 

 

『―――祈っています。どうか貴方が、幸せへとたどり着けますように』

 

 

 

 

 

 背後にあるのは巨大な石壁だけのはず、なのに、確かに聞こえた。誰かの濃密な気配もする。

 その声に驚き、急いで振り返った。

 

 振り向くとそこには、眩いばかりの白光が溢れていた。柔らかいが光量が凄まじいのか、視界がかすまされた。たまらず瞼を細め腕で遮る、何も見えない……。

 でも、光の中に確かに見た。いた。見間違いようはない。彼女の姿を―――。

 

 

 

 ―――後光を背負った姿はしかし、ひとときの夢。

 何も言えずにただ見入っていると、光は薄れていった。徐々に徐々に光が遠ざかっていくと、彼女の輪郭もおぼろげになりやがて……、消えた。初めから、何もなかったように……。

 跡には、奇妙な文様が刻まれた石壁が、そびえているだけだ。

 

「―――ありがとう、ユフィ」

 

 そこにはもう誰もいない、彼女が幻でなかった証拠はどこにもない。それでも、感謝が口から出てきた。

 閉ざされた壁の奥、手を伸ばせば届きそうなのに決して届かない彼方。そこで彼女は、微笑んでいた。……そんな気がした。

 

「……さよなら」

 

 短く別れを告げると、翻して出口へと向かった。

 足取りは、少しだけ軽くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。そして今までご愛顧、ありがとうございました。
 これにてこの物語は、幕を閉じさせてもらいます。

 当初の予定では、ここまですぐにたどり着けるはずだったのに、気づけばあと少しで3年……。一応プロットとラストシーンは考えていたものの、展開は遅々として進まず。途中で挫けそうになったり他の作品に浮気したり。アニメでは1時間ほどで語ってくれたのに、これだけ伸ばしてしまうとは……、自分の力量不足を痛感させられました。
 始めるのは簡単だけど、終わらせるのは非常に難しい。しかも、一応終わりとしたものの、出した問題のほとんどを解決してないような……気がしないでもない。これで終わっていいのか、不安は残っています。ただこの物語は、スザクとユーフェミアの『あの時』を書き換えたIFストーリー。書き換えで起こった二人と二人の関係性の変化は描けたと思われるので、ここで終わりを良しとしました。……他のキャラ達のことはうっちゃってもいいかなぁー、と。

 重ねて、今までありがとうございました。
 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
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