魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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最近かなり煮詰まって中々投稿までこぎ着けませんでした。



第十一話:一人一人が個性があり過ぎる話が脱線しまくる

「死体を隠す?」

 

 神楽は沖田の言った言葉に首を傾げる。

 沖田は、倉庫に転がっている死体をどこか人目につかない場所に入れようと神楽に提案したのだ。だが、神楽としては沖田の言葉は不可解だった。

 

「なんでアルか? お前らヤクザ警察共はいつも人斬ってんだろーが」

「まーな」

 

 と沖田は頷く。

 

「いつもなら人ぶった斬っても土方さんが尻拭いしてくれるんで、問題ねーんだが――」

「お前、少しはあのマヨラーに感謝した方がいいんじゃないアルか?」

 

 神楽はジト目を向けるがもちろん沖田は無視して話を続ける。

 

「とにかくだ。今回は土方の野郎に責任全部押し付けて終わりってワケにもいかねーようだしな」

「遠まわしげな話し方アルな。つまり何が言いたいネ?」

 

 沖田は周りに視線を向けながら話す。

 

「お前、転送装置で飛ばされてから、なにか違和感に気づかねーのか?」

「ん? あー、この辺海が近いアルな。私はそもそも海でまともに遊べないけどナ」

「お前、ホントガキだな」

 

 と沖田は呆れる。

 

「ンだと? オメェもガキだろうが!」

 

 ガン飛ばす神楽に、沖田は周りを見渡し続けながら説明する。

 

「今まですれ違った連中の服装、周りの建物の雰囲気、ところどころ似通ったところはあるみてーだが、間違いなく俺たちの知る江戸と違う点が多いんだよ」

「なに言ってるアルか……。飛ばされてた場所がただ単に別の町だってだけの話だろ?」

 

 そこまで言うと神楽は口元を押さえる。

 

「え? もしかしてお前、別の世界に飛ばされているとでも思ってるアルか? プププッ。痛い妄想も大概にするヨロシ」

「とりあえずお前死ね」

 

 口元抑えて自分をおもっくそバカにするチャイナ。対し、沖田は若干イラつきを見せながらもボリボリと頭を掻き、説明を続ける。

 

「どこの地域行ったって建物の外見はほとんど変わんねーよ。もちろん服装もな。だけど、あのガキ共の服装を見てみろ」

 

 沖田が親指で後ろを指した方には、なのはたち三人と定春がいる。アリサが執事の鮫島という男に電話をかけて話している途中だ。ちなみに三人は、とっくにコスプレ衣装から着替え、神楽が会った時の白い学生服に戻っていた。

 

「まー、見たことない服アルな。だけど何か変なとこあるアルか?」

 

 首を傾げる神楽。その様子からあまり深く疑問には思ってないだろう。

 沖田はため息混じりに呆れた声を出す。

 

「おめーはホント鈍いな。あんなファッション、江戸の町見回りしている俺でも見たことねェよ。あいつら以外のこの町にいた連中の服も含めてな」

「おお! そう言えば!」

 

 神楽の驚く声を聞きながら、沖田はなのはたちに視線を向ける。

 

「あの三人も寺子屋通いの連中だが、あんな包みも……あの、なんだ? よくわかんねェ死に装束みてーな服装しているガキなんざ、尚更見たことねーよ」

「確かにそうアルな」

 

 神楽はなのはたちの服装をじっくり観察する。

 スカートと上着が合体したワンピースような、白一色に統一された袖の長い服。確かに沖田の言った死に装束みたいな感じではある。彼女たちが近くに置いているカバンも、神楽が今まで会ってきた様な寺子屋のガキ共とは違って、なんて言うか、裕福というか、気品があるというか、豪華な感じが窺い知れた。

 

「ま、ここまでこの俺が説明してやったんだ。もう俺が言いたいことも分かったろ?」

 

 沖田の言葉に神楽は腕を組んで頷きながら答える。

 

「つまりなのはたちは死人ってことアルな」

 

 むずんと神楽の頬を右手で鷲掴む沖田。

 

「お前、死に装束の部分しか理解してねーじゃねーか」

「ぶっちゃけ、お前は何が言いたいアルか?」

 

 ほっぺを鷲掴みされた神楽は口をタコのようにしながら呆れ顔で聞く。沖田は顔を離してから答える。

 

「つまり、ここは俺たちの常識が通じる場所じゃねーってことだ」

「常識……」

 

 神楽はジト目を沖田向ける。

 

「それをお前が口にするのはどうかど思うネ」

「なに言ってんでィ? 常識を知っているからこそ、常識のある奴のルールもモラルも粉々に破壊するまで追い詰める楽しみを実感できるんじゃねェか」

「真顔でなに恐ろしいこと口走ってるアルか!! おめェは警察じゃねー! 人の皮かぶった悪魔ネ!」

「まあ、とにかくだ。下手したら俺たちは誘拐犯の野朗をぶっ殺した罪で、豚箱にぶち込まれるかもしれねェだろ」

「なんでそうなるアルか? あのロリコンイカレ野朗の首を持ってったのは私たちじゃないネ」

 

 神楽の言葉に、沖田はめんどくさそうに頭を掻きながら説明する。

 

「つっても、ここに来る警察のヤツらはそんなこと分からねーだろ? あのガキ共も煙のせいで、誰があいつの首と胴体を離したのか見てねーんだしな。状況証拠的なモノ考えれば、俺たちが犯人てことになるだろ」

「はッ? なに言ってるアルか?」

 

 と言って、神楽は沖田の刀を指差す。

 

「捕まるのは物騒な刀持ったお前だけネ。私のような見るからに可憐な美少女はそもそも論外。捕まるのはお前だけアルから、とっと自首しろヨ~」

 

 そう言って神楽は手をぶらぶら振りながら、なのはたちの元に歩いて行く。すると沖田は顎に手を当てながら言う。

 

「もしくは、お前んとこのデッケェ犬っころが首を食いちぎったって線もあるな。そしたらお前の犬は保健所でガラスケースの中に入れられて、薬嗅がされて永眠――」

「オラァ! とっと死体を山にでも海にでも隠しにいくぞコラァ!」

 

 神楽は態度を180度変え、倉庫にある死体を回収しに行く。そんな神楽の様子を見て、しめしめといった具合に沖田はニヤリと口元に笑みを浮かべ、後を追う。

 すると突然神楽が、

 

「し、死体が消えてるネ!」

 

 驚きの声を上げ、それを聞いた沖田も「なに?」と怪訝なそうな表情を浮かべてすぐさま倉庫に入る。

 倉庫に入ってみれば、首のない死体のあったであろう場所にはなにも残っておらず、少しドロっとした緑色の液体しか残っていない。後はほんのかすかに湯気が立ち上っているのみだ。

 

「なにアルか? この緑色」

 

 緑色の液体が気になったであろう神楽が手を出す。

 

「待ちな」

 

 すかさず沖田が神楽の腕をガシっと掴み、緑色の不審な液体に触れるのを阻止する。

 

「こんなワケのわからねェもんに無闇に触れんじゃねーよ。にしても――どうやら(やっこ)さんが俺たちの手間を省いてくれたみてェだな」

 

 

 

「……………………」

 

 自分を心配してすぐさま駆けつけて来た、目の前の父と兄の姿を見たなのはの目は、ハイライトがOFFになっていた。

 

「い、いやなのは……」

「こ、これはその……」

 

 なのはの兄である高町恭也(きょうや)と父の高町士郎(しろう)は、普段と全然違う姿だった。

 兄がルイージ、父がマリオの格好(コスプレ)。兄と父は、妹であり娘でもある存在の冷めた視線を受け、居心地が悪そうにドッと冷や汗を流している。

 

 捕まっている時に親友のアリサから聞かされた、『マリオで自分たちを助けに来る』という話はやはり本当だったのではないか? となのは思い始めていた。

 

 兎にも角にもやって来た警察が、気絶して動けない犯人たちのお縄を頂戴。なのはたちの保護と事情聴取をする形で誘拐事件の幕は閉じた。

 

 

 港町に集まった警察たちや野次馬の中、神楽、沖田、なのはを倉庫の屋根から見ている影が、一つ。その右手には、口から血を流し、無様としか言いようがない死に顔の男の頭が、掴まれていたのだ。

 

 

 

 

 警察署から出てくる沖田――その腰に刀は差していない。

 事情聴取を受けた沖田は腰に差した刀について訊かれ、模造刀と言って誤魔化そうとした。が、結局誤魔化しきれるワケもなく、免許すら持ってない彼は刀を没収されてしまう。

 そして、神楽と沖田は誘拐犯から少女三人を救った功労により警察から感謝状を贈呈。

 沖田は本物の刀を携帯していたことに対する罰則受けることになるはずだったのだが、誘拐犯逮捕の功労を考慮され、厳重注意だけで済んだ。

 

「――って、あんた結局警察の人間じゃなかったじゃない!」

 

 警察署の前でアリサは自称警察だった沖田に文句を言っていた。本当は沖田も真選組隊士の一番隊隊長という立派な(?)警察の一人なのだが、〝こっち〟の警察ではない。

 自分を騙した沖田にアリサは憤慨しているようだ。それに対して、沖田はめんどくさそうに答える。

 

「そうでも言わねェとお前、あの時俺のこと信じなかっただろ?」

「いや、警察と言っててもあたし、あんたの発言を信じなかったわよ?」

 

 とアリサは白い目を向ける。

 

「やだねェ、おめーみたいな純粋じゃねェガキ」

「あんたみたいなヤツが純真な子によからぬことを考えるんでしょ? 疑り深いくらいが丁度いいのよ」

 

 そんな沖田とアリサの言い合いを眺めているのは、アリサの同級生二人と、その家族たちに、中国服の少女とデカイ犬が一匹。

 

「ニャハハハ。なんだか沖田さんとアリサちゃん仲良しさんになっちゃったね」

 

 なのははニコやかに沖田とアリサの姿を眺め、

 

「う~ん、そうかなぁ? わたしには犬猿の仲って感じだと思うんだけど?」

 

 親友の言葉に疑問に感じてすずかは苦笑。

 すると、高町家の大黒柱である父――高町士郎が一歩前に出る。

 

「沖田くん。神楽ちゃん。この度は本当にどうもありがとうございました。(うち)のなのはを救っていただいたご恩は忘れません。家族を代表してお礼を申し上げます」

 

 懇切丁寧に感謝の意を表し、頭を下げる士郎。それに続き、すずかの姉である月村(しのぶ)も頭を下げた。

 

「私も月村家を代表して、お礼申し上げます。(うち)の月村すずかを救っていただきありがとうございました」

「この鮫島も、バニングス家代表として深く感謝します。アリサお嬢様を救っていただき、ありがとうございます。神楽様と沖田様の勇敢な行いにこの鮫島、感銘を受けました」

 

 うやうやしくお礼を言ってくる三家の代表の言葉に、神楽は得意げに胸を張る。

 

「よきにはからうヨロシ。私はとーぜんのことをしたまでアル」

 

 一方の沖田は、

 

「……かゆ」

 

 頭をポリポリ掻きながら視線を逸らす。そこですかさず神楽が沖田の顔を覗き込むように近づいて来て、ニヤリと口元を歪める。

 

「なにアルか? なにアルか? お前もしかしてガラにもなく照れてるアルか? プププ。普段文句ばっか言われるようなことするからそうなるネ」

「死ね」

 

 沖田は神楽の脳天にチョップ(割と強く)喰らわす。

 

「あいたっ!!」

 

 神楽はあまりの痛みに頭を抑えて蹲るが、すかさず立ち上がって頭を抑えながら文句を言う。

 

「なにするネ!」

「うるせ。弄るのは俺の専売特許でィ」

 

 と沖田が返すと神楽は食ってかかる。

 

「つうかお前、最初は誘拐犯に協力してただろ! 寧ろ最初から助けようとしたのは私ネ! だからお礼を言われる筋合いはお前にはないんじゃァー!」

「何やぶからぼうに言ってんだ。あれは、俺が昔手配記録で見た死刑囚と同じ特徴のヤツだったから、探るために一時的に奴らの仲間になっただけの話だろうが」

「普段警察の仕事サボるクセに、なんでこういう時だけ仕事するアルか! この汚職警察!」

 

 またいつものように神楽と沖田が喧嘩始めようとした時、士郎が声をかけてきた。

 

「沖田くん、つかぬことをうかがうんだけど。君、何か武術でもやっているのかい?」

「ん?」

 

 沖田が後ろ振り向くと、少々興奮した様子の士郎。

 

「娘から聞いたよ。誘拐犯たちを目にも留まらぬ剣裁きで気絶させ、敵の銃弾を右へ左へとかわしたとか」

「ん……まーな」

 

 沖田はテキトーに返事する。

 普段から攘夷浪士相手に危険な戦いをしてきた沖田としては、それほどビックリされるほどの事とは思ってない。

 

「っで、良かったらなんだけど……」

 

 士郎は人柄の良い笑み浮かべつつ尋ねる。

 

「今度、私と模擬試合をしてくれても構わないかい? 私も武術を嗜んでいてね。娘の話を聞いて、久々に武人としての血が――」

「ちょっとあなた……」

 

 妻である高町桃子に諭され、士郎は慌てて頭を下げる。

 

「あッ、つい……すまいない、沖田くん。今の話は忘れてくれ」

 

 桃子はやれやれと首を横に振りながら、

 

「娘の恩人に試合を申し込んでどうするんですか、まったく……。そういうところは相変わらずね」

 

 呆れたようにため息をつく。そして士郎は桃子の言葉を聞いてうな垂れる。

 

「め、面目ない……」

 

 すると沖田が、

 

「別に試合してやっても構わねェぜ」

 

 申し出を受け入れるので、士郎は顔を上げて目を輝かせる。

 

「本当かい!?」

 

 沖田は「ただし」と言った後、眼光を鋭くし、黒いニヒルな笑みを浮かべる。

 

「――足腰粉砕しても構わねェよな?」

「た、立たなくるどころか、ふ、粉砕させちゃうの……!?」

 

 すずかは沖田の足破壊宣言に面食らうってしまう。

 ドS発言する沖田にアリサはジト目向ける。

 

「あんたねー、試合で骨砕くとかしゃれになってないわよ? あり得ない話じゃないんだから」

「誰も骨なんて言ってねェよ」

 

 沖田の言葉を聞いてアリサが「え?」と声を漏らし、きょとんした顔。そして、沖田はより黒い笑みを浮かべる。

 

「俺ァ文字通り、足を粉砕するつもりだ」

「あんた木刀で秘孔かナニか突けるの!?」

 

 アリサは士郎の足が粉々に吹き飛ぶ姿を想像して顔を真っ青にし、沖田は空を見上げながら語る。

 

「俺は土方さんを試合にカコつけて殺すため、色々模索してきたからな。この技術もその一つだ」

「あんたどんだけそのひじかたって人のこと嫌いなのよ……」

 

 アリサは呆れた眼差しを沖田に向ける。

 この男が殺したいくらい嫌う男――土方。一体どんな男なのかある意味会ってみたいと思うアリサであった。

 

「アハハハ。お手柔らかに頼むよ」

 

 士郎はほがらかに笑う。彼は沖田の言ったことを軽い冗談と受け取っているようだ。

 

 ――たぶんマジでやりかねないアルな。

 

 神楽は、士郎が沖田と模擬試合した後、五体満足で明日を迎えられるかちょっぴり心配した。

 

「あ、父さんの次は俺とも試合してくれないか。父さんほどではないにしろ、俺も剣の腕には自信があるんだ」

 

 士郎に続いて試合の申し込みをしたのは高町家の長男である高町恭也だ。

 呆れ顔の沖田は高町家の父と兄から、なのはに顔を向ける。

 

「物好きだね、おめーの家族は」

「ニャハハハ……」

 

 なのはは剣術バカの自分の両親の行動に対して苦笑いしかできない。すると思い出したように、自分の姉である高町美由紀に質問した。

 

「そう言えばお姉ちゃんも剣道やってるけど、沖田さんに試合、頼まないの?」

「あー、あたしは……」

 

 美由紀は頬をぽりぽりと掻く。

 

「銃持った誘拐犯を一人で一網打尽にするような相手に勝てる気がしなくて……」

「アハハ……」

 

 沖田との剣術の差を感じて落ち込む姉を見て、なのははまたしても苦い笑いしか出なかった。すると桃子がパンと両手を合わせ笑顔である提案をする。

 

「お礼と言ってはなんですけど、もし近い内にうちの主人と試合するのでしたら、その時にケーキをご馳走させてもらってもよろしいかしら? ほんのお礼として」

「マジでか!?」

 

 大食い少女の神楽の目が嬉々として輝きを放つ。

 

「うちは喫茶店を経営してるの! うちのお父さんとお母さんが作るケーキは絶品なんだよ!」

 

 なのはは我がことのように父と母の自慢をする。その目は神楽とは別の意味で輝いていた。

 説明を聞いて神楽はガッツポーズ。

 

「うっしゃー! ならとっとケーキ食いに行くネ!」

「行かねーよ」

 

 沖田は神楽の襟首を掴み、

 

「な、なにするアルか!?」

 

 ずるずる沖田に引きずられる神楽は動揺を示す。もちろん神楽は抵抗するが、沖田の手を振り払うことができない。

 沖田は神楽を引きずりながら言う。

 

「いくらなんでもこれ以上単独行動してらんねーよ。さすがに土方さんにどやされるからな」

「戻りたきゃ、お前だけ戻ればいいだろ! 私は自分の限界に挑戦するアル!!」

「フードファイトはまた今度にしな。俺たちにはもっと別の目的があんだろ」

「とかなんとか言って、ホントは私がケーキ食うの邪魔したいだけじゃないアルか!?」

 

 ぬるりと振り返った沖田の口元は釣りあがり、めちゃくちゃ腹黒そうな笑みを浮かべる。

 

「あ、バレた?」

「やっぱそうだったかこのサディストー!!」

 

 神楽は目を吊り上がらせてとにかくもがく。

 

「はーなーせー!! うがァァァァァっ!! 私にケーキ食わせろォォォォォっ!! 私はあのクソ天パのせいで普段から満足に甘い物食えないんだぞォォォォォッ!!」

「んじゃま、俺ら帰るんで。この辺で失礼しや~す」

 

 沖田は右手を軽くぶらぶら振って、腕と足をぶんぶん振りながら必死に抵抗する神楽を引きずる。場を後にしようと歩いて行く沖田と暴れる神楽の後を定春が付いて行く。

 

「あッ、ちょっと待ちなさい!」

 

 アリサは帰ろうする沖田と神楽(いまだに抵抗している)を引き止める。

 沖田が足を止めて振り返ると、アリサは腰に両手を当てて笑みを浮かべた。

 

「折角だから、ウチの車で家まで送ってあげるわ」

「ん? いいのか?」

 

 片眉を上げて聞く沖田にアリサはさも当然と言った態度で返す。

 

「助けた恩人に恩を返すのは、当然の礼儀ってもんでしょ? まあ、この程度じゃ恩を返したうちに入らないけどね」

 

 得意げに答えたアリサは言葉の最後にウィンクをすると、沖田は目をパチクリさせて言う。

 

「あ、目にゴミでも入った?」

「恩を仇で返すわよ?」

 

 額に青筋を立てるアリサ。

 

 

「お前んちの高そうな車に定春入るアルか?」

 

 神楽は横目でアリサを見る。

 

「………………」

 

 お座りした定春と用意した高級車のリムジンが同じ高さなことに、アリサは汗を流す。

 このヒグマ並みにデカイ白い犬では、たぶん無理やり押し込んだとしても入らないだろう。下手したらリムジンが中から不自然に膨張したような姿になりかねない。

 

「なら、ノエルに電話してワゴン車を持ってきてもらうわ」

 

 月村忍の提案で、月村家のメイド長をしているノエル・K・エーアリヒカイトが、定春を乗せるためのワゴン車を持ってくる。

 沖田と神楽となのはとすずかはバニングス家のリムジンに乗り、二台の車で公園まで行くことになった。ちなみに、なのはとすずかは、もう少し神楽と沖田とお話したいということで、少し時間は遅いながらも親の許しを得て一緒にリムジンに乗ることになったのである。

 

 

「ええええええっ!? 三十八回も誘拐されたのってウソなのぉ!?」

 

 運転中のリムジンの中でなのはの驚きの声が響く。

 アリサはさも当然のように「そりゃそうよ」と言う。

 

「どんだけうちの警備ザルかって話よ。まだ今回の合わせても誘拐されたのは二回程度」

 

 自分の発言が嘘であると申告すると、なのはは頬を引き攣らせる。

 

「いや、普通の人生で誘拐されるなんてそうそうないと思うけど……」

 

 なのははすぐにすずかに顔を向ける。

 

「いや、それよりも! じゃあ、すずかちゃんの三十六回誘拐されたのも……」

「ごめんなのはちゃん!」

 

 すずかは両手をついて頭を下げる。

 

「わたしもアレは、ただの悪ノリなの! 誘拐されたのは今回が初めてで……」

「酷いよアリサちゃんすずかちゃん! わたし信じてたのに!」

 

 なのはは二人に嘘つかれたことに対して涙目。まさか親友が嘘をついていたとは毛ほども考えていなかった。

 アリサは呆れ顔になる。

 

「なのは、あんた純粋過ぎるのよ。っていうか、あんな大げさな数字聞いたら普通は嘘だって思わないの?」

 

 すると、運転している鮫島が笑顔で説明する。

 

「まぁ、私ども大人がアリサ様とすずか様の日常を守れるよう努力してますゆえ、そう簡単には誘拐などさせませんよ」

 

 鮫島の言葉を聞いた沖田も頬杖を付きながら言う。

 

「ま、富豪のガキともなりゃ、誘拐=身代金なんて発想はバカでも出てくるわな。気をつけねェ方がおかしいぜ」

「じゃ、じゃぁ……鮫島さんがマリオのコスプレして助けにくるって話も……」

「当然ウソよ」

 

 なのはの疑問にアリサは腕を組んでキッパリ言う。

 

「まー、マリオをプレイしたのは本当だけどね。そもそも、一回ウソって説明したでしょ?」

「いや、だってお兄ちゃんとお父さんがコスプレして来たから、鮫島さんの話も実は本当かと思って……」

 

 なのはの言葉を聞いてアリサは「あぁ……」と声を漏らす。父と兄のコスプレ姿を見た時のなのはは、色んな意味で目が死んでいたのをアリサも覚えているようだ。

 ハッハッハッ、と鮫島は和やかに軽く笑う。

 

「この歳でもアリサ様を守る自信はありますが、さすがに仮装をするほどの元気はありませんよ」

 

 話を聞いて疲れを覚えたなのははガックリうな垂れ、アリサに目を向ける。

 

「そもそも、なんであんなウソを……」

 

 アリサは指を立てて視線を逸らしながら告げる。

 

「いや……それは……あれよ。怖がってたあんた励まそうとしたのよ」

「なのはちゃん」

 

 と言って、すずかが苦笑しながらフォローする。

 

「アリサちゃんは、突拍子もないことを言えば、少しはなのはちゃんの恐怖が和らぐと思ったんだよ」

 

 すずかの言葉を聞いてもなのはは少し疲れ顔。

 

「ただツッコミで疲れただけだと思うの。たしかに、だんだん怖くはなくなってたけど……」

 

 ちなみになのは父と兄がコスプレしていた理由はと言うと、

 

『俺と恭也は喫茶翠屋でこれから始まる、マリオ新作ゲームの宣伝のためにこのコスプレしているだけなんだ! 任○堂からのオファーを受けただけなんだって!! その目ヤメテ!!』

『服の試着をしていた時になのはが誘拐されたという連絡を受けて、着替えもせずに急いでやって来ただけなんだ!! だから兄をそんな目で見ないでくれ!!』

 

 という事だったらしい。

 

 

 

 

 そんなこんなで黒いリムジンとワゴン車は海鳴公園に到着する。

 

「あァ、ここだここ」

 

 沖田は車を降りて背筋伸ばす。

 

「送ってもらってサンキューな」

「ふわァ~」

 

 と神楽はあくびをして、車を降りながら後ろを見る。

 

「やっと付いたネ。とりあえず、もう夜アル。さっさと寝る準備するヨ、定春」

「ワン!」

 

 車から降りた定春も背筋を伸ばす。

 

「――って、ここただの公園じゃない!」

 

 アリサはツッコム。

 

「まさかここで寝るつもりなのあんたら!?」

「なに言ってんだ? ホームレスたちにとっちゃここも立派な寝床なんだぜ?」

 

 沖田の真剣な表情を見てアリサは察し、頬を引きつらせながら汗を流す。

 

「あ、あんたたち……も、もしかしてホームレスなの?」

「ちげーよ。俺はホームレスじゃねェ」

 

 沖田に同意するように神楽も腕を組んで頷く。

 

「あんな底辺の連中と一緒にすんじゃねーヨ」

「でも、ここで寝ようとしているのよね? 家がないってことよね?」

 

 半眼で見てくるアリサに、沖田は両肩に手を置き、真剣な眼差しを向ける。

 

「いいか? 俺たち人間にとっちゃ、地球が家みてーなものだ。つまり、地球の大地全てが俺たちの家――」

「つまりあんたたちは底辺の人間てことでいいのよね?」

 

 アリサはばっさり沖田たちをホームレス認定。

 すると沖田と神楽は、上と下が開いた四角いダンボールを電車ゴッコするみたいに腰まで履く。

 

「ああそうだ! 今の俺たちには満足に住む家なんてねェんでィ!」

「ダンボール戦士になった私たち舐めんじゃねェぞ!」

「開き直ってんじゃないわよ!」

 

 とアリサはツッコミ、なのはは心配そうに言う。

 

「神楽ちゃん、こんなとこで寝たら体を壊しちゃうよ! もしよかったら、家に泊まらない? たぶんお父さんもお母さんも大丈夫って言ってくれると思うし!」

「あの!」

 

 とすずかも手を上げて提案する。

 

「私の家も広いので、神楽ちゃんや沖田さんが泊まっても全然大丈夫です!」

 

 親友二人の提案を聞いて、しょうがないわね、とアリサはため息を吐く。

 

「あたしの家に泊まっていきなさい。あんたら泊まらせるくらい、どうってことないわ」

 

 必死に訴えるなのは。やんわり進言するすずか。少々上から目線のアリサ。三人の提案を聞いて、沖田と神楽は顔を見合わせる。

 

「イイのかよ?」

 

 と沖田は頭を掻きながら問う。

 

「俺たちみてーな得体の知れない奴ら家に入れて」

「悪い人間が、わざわざ危ない思いしてまであたしたちを助ける?」

 

 アリサはニヤリと口元を吊り上げ、してやったりという顔。

 

「まッ、あたしたちに恩返しさせてもいいんじゃない?」

「ホント、かわいげのねーガキだなおめーは」

 

 沖田は頭をボリボリ掻きながら不満げな表情になるが、神楽と定春は素直に喜びをあらわにする。

 

「じゃあ、私はお言葉に甘えさせてもらうネー!」

「ワン!」

 

 神楽は両手を上げて万歳し、定春は嬉しそうに尻尾を振る。するとまだ提案を承諾しない沖田に、神楽はニヤケ顔で言う。

 

「おいサディスト。お前はいいアルか? このままつめたーい地面で、さむーい夜を過ごすアルか?」

 

 神楽の煽りを受けて沖田は若干イラつきを見せるが、渋々と言った顔で、

 

「まー、マジで寝床のあてがねーからな。しゃーねーか」

 

 なのはたちの提案を受け入れる。

 

「決まりね」

 

 うんと頷くアリサは車に乗るように促す。

 

「それじゃ、誰が誰の家に泊まるのか、行きながら相談しましょ」

 

 その時だった。

 

「沖田さァァァァァァァァァんッ!!」「沖田隊長ォォォォォォォォッ!!」

 

 遠くの方で大声が聞こえ、

 

「ん?」「なに?」「どうしたの?」

 

 アリサ、すずか、なのはは同時に声の聞こえる方へと顔を向ける。

 そして、眼鏡を掛けた青年と、沖田と同じ黒い服を着た男が、走ってこちらまでやって来ていたのだ。

 

「探しましたよ沖田隊長! 今までどこ行ってたんですか!?」

「そうですよ!! 公園に戻ってみたら沖田さんも神楽ちゃんも土方さんもいなくなってるし!! 僕らこんな慣れない土地の中、三人を探すのほんと~に! 大変だったんですよ!!」

 

 真選組密偵であり、真選組一影の薄いことに定評のある山崎退(さがる)。と、万事屋の従業員の一人であり、眼鏡をかけた地味な青年、志村新八。

 久しぶりの登場をした二人は、凄まじい勢いで沖田と神楽に詰め寄る。

 

「お~山崎。お前、近藤さんはどうした?」

 

 沖田はあっけらかんとした声で質問すると、山崎が必死な形相で説明を始める。

 

「そ、そうなんです!! 実は近藤さんが――!!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 と、話しに割って入ったのはアリサ。彼女は沖田を見上げながら、やって来た新八と山崎に指を向ける。

 

「その人たち、あんたたちの知り合いなの?」

 

 アリサたちに気付いた山崎は不思議そうに沖田に質問する。

 

「あの……沖田隊長。その子たちは?」

「ん? あ~、こいつらは――」

 

 沖田がメンドーそうにしながら説明を始めようとした時、

 

「山崎ィィィィィィィィィッ!! 総悟ォォォォォォォォッ!!」

 

 突然また遠くの方から聞こえてくる大声。

 沖田の説明を遮るほどのデカイ声がする方に全員の視線が向く。

 

「やっと見つけたぞォォォォォオオオオオオオ!!」

 

 鬼の副長が、鬼のような形相で、ダッシュしながらやって来た。

 土方の恐ろしい形相を見た少女三人は、

 

「「「きゃあああああああああああああああああッ!?」」」

 

 顔を真っ青にして涙目になりながら悲鳴を上げる。

 

「あ、土方さ~ん」

 

 と沖田は呑気な声で手を上げる。

 

「そっちこそどこで油売ってたんすかァ?」

「ふ、副長ォ!?」

 

 山崎はやって来た副長(おに)を見てビビる。

 

「沖田隊長はともかく、なんで俺にまであの人怒ってんの!? そりゃ、近藤さん連れ戻せなかったけど!!」

「ん? 近藤さんに何かあったのか?」

 

 と沖田は、山崎の後ろに隠れながら不思議そう首を傾げる。

 

「お、沖田隊長ォ!! さり気なく俺を盾にしないでください!!」

 

 沖田に盾にされて青ざめる山崎。

 手が届くとこまで詰め寄ってきた土方は、そのまま山崎の両肩を掴み、必死な形相で訴える。

 

「た、大変なんだお前ら!! ここは江戸じゃない江戸なんだ!!」

(その前に大変なのは副長の顔なんですが!?)

 

 と、表情でも内心でも超ビビる山崎。必死に走って来た上になんか超慌ててる土方の顔は、はっきり言ってすんごい怖い。

 土方に肩を揺すられる山崎は、三半規管にダメージがいき始め、恐怖以外でも顔を青ざめさせる。

 

「いや、そうではなく! 昔とうきょうだったけど今は江戸、じゃなくて!!」

 

 土方は捲くし立てて気付いてないが、山崎は頭を前へ後ろへシェイクされ、顔色はどんどん悪くなっている。

 一方の土方は、普段はほとんど見せない慌てた表情をこれでもかと披露。

 

「ここは江戸ではないどこか……でもねー!! とにかくここは俺たちの知っている江戸どころか、俺たちの知っている世界ですらねーかもしれなくてだな――!!」

 

 それはそれとして山崎。最初は吐きそうな顔から、今ではこの世の終わりみたいな感じの顔に変化していく。

 

「ちょッ!?」

 

 新八が慌てて土方を止めようとする。

 

「土方さん落ち着いて!! 一体なにがあったんですか!? なに言いたいんだがさっぱり分かりません!! っていうか山崎さんの顔がヤバイです!! もう吐くの通り越して死にそうな顔になってます!!」

 

 新八が止めに入るが、土方はまったく大人しくならない。

 

「しゃーねー。俺が止めるか」

 

 山崎を盾にしていた沖田が、土方の首を絞める。

 

「って、なんで息の根止めようとしてんですかアンタは!!」

 

 久しぶりに新八のツッコミが炸裂し、マイペースな神楽はなのはに質問している。

 

「なのは、お前んとこってベットと布団、どっちで寝られるアルか?」

「一応どっちもあるけど……っていうか、アレ、止めなくていいの?」

 

 てんやわんやしている新八たちを見て、なのはは汗を流しながら戸惑い、

 

「あ、アリサちゃん……あの前の髪がV字の人、ちょっと怖い……」

 

 すずかは恐ろしい形相を見せ続けた土方に怯え、アリサの後ろに隠れる。

 

「………………」

 

 もうめちゃくちゃな状況を前に、アリサの体はふるふると震え、

 

「もぉー!! なんなのよこれぇぇぇぇぇッ!!」

 

 頭を抱えて叫ぶ。

 少女の絶叫が、夜空に消えていったのだった。

 


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