公園で土方、新八、山崎の登場でめちゃくちゃややこしい状況になったが、一旦落ち着いたところ。で、夜も遅いのでそれぞれがなのは、アリサ、すずかの家で一晩明かした後に、また集まって改めて話し合おう、ということになった。
ちなみに、なのはたちを助けていない他三名(新八、山崎、土方)も沖田と神楽の知り合いということで、泊まるのをOKしてもらった。
なのは宅&その様子
「ケーキのおかわりいいアルか?」
と空皿出す神楽は一言。
「もちろんホールで」
「神楽ちゃん! いくらなんでも図々し過ぎだよ!」
新八はチャイナ娘をたしなめ、頭を下げる。
「すみません桃子さん。神楽ちゃん、めっちゃ食べもんで」
神楽ともっとお話したいと言うなのはの意向もあり、神楽と新八の万事屋組はなのはの家で一晩を明かすことになった。
そして今現在。
いつもの神楽の遠慮ない口と胃袋、それに対して良識ある新八が謝っているところ。
高町家の母である桃子は顔色を悪くするどころか、にこやかな笑顔を作る。
「別に構わないわよ。神楽ちゃんいくらでも食べてくれるから、むしろ新しいケーキを色々試せて嬉しいわ~♪」
桃子はニコニコしながらホールのケーキを次々持ってくる。彼女も彼女で抜け目ない性格らしい。それを呆然と眺める桃子を抜いた高町家の面々。
「あの子、フードファイターかなにかか?」
高町家長男の恭也は唖然とし、末っ子のなのはも驚きの声を漏らす。
「か、神楽ちゃん……凄い……。夕飯だって、あんなに食べたのに……」
あの小さな体のどこにケーキやらごはんが詰まっているんだ? と驚嘆する二人。
「私、お母さんにケーキの試食何度も引き受けた時、体重増えたっけ……」
一方の高町家長女の美由紀は、桃子が持ってくるケーキを見て明後日の方向に顔を向けている。そんな彼女の瞳の端には、涙の粒が溜まっていた。
「いやぁ、今日は桃子の試作ケーキを食べる日だったんだけど、神楽ちゃんがいてくれて良かったよ」
と言って高町家の父、士郎は遠い場所に目を向ける。
「…………いや、本当に」
「ア、アハハハハ……」
新八は、そんな高町家の長女と父の姿を見て、乾いた笑いを浮かべる。
士郎の最後の言葉の辺りで、彼の笑顔の裏に高町家の父としての苦労が新八には垣間見えた気がした。(主に腹膨らませた士郎が、次々やって来るケーキ悪戦苦闘する姿が)
*
アリサ宅&その様子
「うっし、サド丸一号、サド丸二号、サド丸三号。山崎のケツに噛み付いてこい!」
沖田の命令に従って、三匹の犬たちが山崎に噛み付こうと駆け出し、
「「「ワンッ!!」」」
「ぎゃあああああああああッ!!」
山崎は必死に逃げ惑う。
「大型犬三匹に襲われるとか、シャレになんないですよ沖田隊長ォー!!」
「ちょっとあんたなに人んちの犬勝手に手懐けてんのよ!?」
どうやってか知らないが、自分の家の犬を簡単に操る沖田の手腕にビックリするアリサ。
「ハッハッハッハッ!」
定春は、アリサが飼っている多くの犬の中の一匹であるゴールデンレトリバーの前でお座りし、一時も目を離さず、息遣いを荒くさせている。
「ん? 定春、ダイヤのことじ~っと見て何してるのかしら?」
アリサが訝し気に定春を見る。ちなみに、定春が熱い視線を送っている犬はダイヤという名前だ。
すると、沖田がアリサに質問する。
「あの犬メスか?」
「ええ、そうよ」
と頷くアリサ。沖田は顎に手を当てる。
「じゃあ、発情期だな」
「へ~そうなの……って、ええええええええええええッ!?」
アリサはえらい推理を聞いて仰天し、沖田に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと! それホント!? あんな大きい定春と交尾したらうちのダイヤ死んじゃうわよ!?」
「あいつが短小であることを信じるしかねェだろ」
「レディの前で下の話すんな!!」
アリサは顔を真っ赤にしながら沖田ローキックくらわそうとするが、沖田は簡単に避ける。
「アリサ様、沖田様。お食事の準備が整いました」
すると執事の鮫島が現れ、それにいち早く反応する沖田。
「へ~い。おめェんちブルジョワだから、めっちゃ豪華な料理なんだろ?」
「いや、たぶんあんたが思っているほど毎日豪勢な料理食べてないけど?」
とアリサは半眼で答える。
「とにかくゴチになるぜ、バーニング」
「誰がバーニングよ! 誰が!! だからバニングスだって何度も言ってるでしょ!!」
うがぁ! とアリサは怒髪天さながらに怒りながら、沖田の後を追っていく。
ちなみに沖田は、アリサの名前を呼ぶたびに『バーニング』と苗字を(ワザと)間違えて呼んでいる。怒っている時の彼女は確かにバーニングと言っても過言ではないが、バーニングではなく、バニングスなのであしからず。
「………………」
あと、早速執事である鮫島にも忘れられてしまった地味な山崎くんは、沖田のけしかけてきた犬たちに、頭やら尻やらをかじられ、血と涙を流して地面に倒れ伏している。
これが、バニングス家に厄介になっている真選組二人と一匹の様子だ。
定春が神楽のいる高町家ではなくバニングス家に来た理由はというと、デカい定春を高町家に置くことが難しいから。なので、犬をたくさん飼えるほど敷地面積が広いアリサのところに置くことになった。
ちなみに沖田の泊まる理由はアリサに「私の家に泊まれば?」と言われたからである。山崎は沖田がめんどう起こさないための監視役。
定春と離れることに神楽は中々納得せず、悲しんでいた。が、飯食って悲しみはどっかいったようである。
最後に余った鬼の副長たる土方はというと……。
すずか宅&様子
「もぐもぐ…………」
マヨネーズ飯食う土方に、すずかが話しかけようとすると、
「あの…………」
本人が意識してない怖い目がすずかに向く。
「ん?」
「ぁ……な、なんでもないです……」
すずかは何度か食べている土方に会話を試みるのだが、目が怖くて中々喋るまで発展しない。
食事中、終始気まずい雰囲気が続くのだった。
ん? 誰か忘れてないのか? いや、忘れてはいない。
最後にあの
「………………」
〝牢屋〟の中で体育座りしながら床にごろんと寝転んでいた。その顔にはどことなく、影が掛かっている。
近藤は知らないが、他の面々はあたたかーい部屋で、うまーい飯を食べ、楽しい思いをしている最中。
一方の近藤は、つめたーい床で寝て、うまくなーい飯を食べて、悲しい思いしていた。
銀時みたく、死んだ魚のような目でじ~っと何もない灰色の壁を見つめる近藤。
――ウンコ付いてたのに、運がまったく付かなかったんだけど……。
ただでさへ、ウンコでメンタルにダメージ受けているのに、更に捕まって牢屋に入れられ、メンタルポイントが0近くなりそうだ。
――なんでこんな目に? 俺が何したの? って言うかなんでこんな牢屋に幽閉されなきゃならないの? 俺一切悪いことした覚えないよ? …………なんで? ……なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?
すると、なにかスイッチが入ったように近藤は動き出し、
「出してくださァァァァァァいッ!!」
牢屋の鉄格子に張り付いて叫び声を上げ、訴え続ける。
「これはッ! これはなにかの間違いなんですッ! 俺なにも悪いことやってないんです!! だから出してッ!! お願いだからァ!!」
「うるさい静かにしろ!!」
巡回にやってきた監視員の警防が鉄格子に当たり、ガン! と音が鳴る。だが、近藤は怯まず自分の無実を主張。
「いや、だから俺何も悪いことやってないんだって!!」
「お前は銃刀法違反の罪で捕まっていると何度も言っているだろう」
呆れた調子で言う監視員。
「罰金を払う金がないなら、一年以上自由の身になれないと思った方がいいぞ」
「だから俺警察の人間なんだって! 真選組の局長なんだって! って言うか『じゅうとうほういはん』ってなに!? 新しい法律!?」
近藤は涙目になって鼻水垂らしながら弁解するが、まったく聞く耳もたれなかった。
取調べ室でも、何度も自分が警察の人間であり定春にウンコ頭にかけられたからだと近藤は説明した。
ウンコの件はなんとか理解しては貰えたのだが、今度は持っていた刀のことで取調べを受けた。それについて、自分は真選組所属だから刀の携帯を許されている、と何度も弁解したのだが、取り調べていた警察の方にはまったく理解されなかった。
おかげで銃刀法違反というわけのわからん罪状を突きつけられた上、近藤の発言から頭のおかしい人物であると判断されてしまう。そのため、これから行われる裁判の内容によっては、精神病棟へ移される可能性もあると言われる始末。
「うぅ……なんでこんなことになってしまったんだ……」
近藤は床に両膝を付け、ずずっと鼻をすすり、鉄格子に額を付けてうな垂れる。だが、すぐさま立ち上がり自身を奮起させた。
「いや、こんなとこで立ち止まっている暇はない! きっとトシたちも俺のことを心配しているはずだ!! きっとこの危機を脱してみせる!!」
「だからうるさい!!」
ちなみにそのトシたちは今、ぬくい布団で就寝中。
*
バニングス邸――アリサの部屋。
「ふぅ~……。疲れた」
シャワーをして心も体もさっぱりしたアリサは、首にタオル巻きながら布団の上に仰向けに寝転がる。窓を開けて網戸にしたことで、心地よい風が火照った体を心地よく冷やす。
まぶた薄っすらと開け、今日のことを思い出す。
――ほんとう……今日は忘れられないことばっかだったわね……。
公園でやたら騒ぐ変人たちを見て、その後にやたらデカイ白い犬と触れ合い、帰る途中で誘拐されて、やたら強い男に助けられた。その間、かなりの割合でやたらツッコミとかもしてたと思う。
本当に思い出すと、良いか悪いかはともかく、やたら印象深いことが今日は色々あった。
――ま、明日からいつもどおりね……。
また、なのはとすずかと一緒に学校に行き、下校では一緒に雑談しながら帰り、放課後や休日は友達や家族と過ごす楽しい時間が待っているだろう。
近い未来の想像をしながら、アリサはまどろみへと落ちていく。
《…………ん!》
「ん…………」
耳元で誰かが何かを囁いている。
《…………さん!》
(ん…………だれ?)
段々と深い眠りから目覚め、徐々にアリサの瞼が開く。
《……リサさん!》
「んん……」
ぼんやりとだが、目が覚めたアリサ。
右から聞こえてくる声の主を確認するために、アリサは首を横に曲げる。そして目に映ったモノは、
《起きてください! アリサさん!》
燃え上がる炎を
――あ、夢か……。
アリサはそう思ってまた目を閉じる。すると、すぅと息を吸い込むような音の次に、
《起きてくださァァァァァァァァいッ!!》
「ウギャァァァァァァッ!!」
アリサの耳に大音量の声が直接入り、これには堪らず悲鳴を上げながら飛び起きる。
「もう……なんなのよぉ~……。耳がつんぼになったらどうするの……」
脳が揺れるような錯覚を覚えながら、耳を抑えて涙目になるアリサ。そして自分に大音量を直接叩き込んであろうと、犯人に目を向ける。
《やっと起きてくれましたか。どうも始めまして》
炎に羽が付いた『よくわからんモノ』が体(?)を折り曲げて、ペコリと丁寧にお辞儀した。
「………………」
アリサはそのまま無言で歩き出し、網戸を開ける。
《あれ、どうしたんですか?》
疑問を感じる『よくわからんモノ』は頭に?を出して首(?)を傾げる。
アリサはすかさず『よくわからんモノ』の羽を掴み、腕を振りかぶる。
《え?》
と謎のモノは呆けた声を出す。
「うぉりゃぁぁぁぁああああああああッ!!」
アリサはメジャーリーガーさながらの投球フォームで、よくわからんモノを夜空にスパーキング!!
《あ~~~~れ~~~~~!!》
そのままキラーンと夜空の一つ星となって、よくわからんモノは消えていった。
運動したことで出た額の汗を袖で拭くアリサ。
「ふぅ……これで安心して――」
《――寝られると思った大間違いですよ~? アリサさん》
ぬぅ、と自分の背後に回っていた変な物体を見てアリサは、
「で、出たぁぁぁぁぁぁッ!?」
絶叫して慌てて後ろに飛び退く。すると変なモノは羽を腰(?)に当てる。
《もう、人のことオバケみたいに扱わないでください。失礼しちゃいますねェ》
「あんたのどこが〝人〟なのよ!!」
アリサはビシッと謎の物体を指さし、
《あ、それもそうですね》
謎の物体は、こりゃ一本取られました、と言って器用に頭(?)を掻く。
「って、っていうかなんのなのあんた!? な、なんであんたみたな変なモノがあたしの部屋に!?」
怯えるアリサに対して、謎の物体は軽快に飛びながら、
《あ~、自己紹介がまだでしたね。では、お教えしましょう!》
謎の物体はくりると一回転して、自己紹介を始める。
《私はエンシェント・フレイアと申します! 気軽にフレイアちゃんと呼んでください!》
「あ、こちらこそ。あたしはアリサ・バニングスともう――って違うわよ! 別にあんたの名前なんてどうでもいいのよ!!」
《むむッ! フレイアちゃんの名前を蔑ろにしないでいただけますか? 泣いちゃいますよ? 目はないですけど》
ノリツッコミするアリサの言葉を聞いて、ちょっと落ち込んでしまうフレイアちゃん。
構わずアリサは声を上げる。
「あたしが知りたいのは、あんたが一体何者かってことよ!!」
《あ~、それもそうですね。アリサさんは、思いっきり私たちの世界とは住む世界の違う人間ですから。ええっとですね――》
とフレイアがアリサに説明しようとした時、バンバンバン! とドアの叩く音と、執事の鮫島の声が聞こえてきた。
「アリサお嬢様いかがなさいましたか? さきほどから大きな声を出していましたが」
「うッ……」
鮫島がやって来たことでアリサは言葉を詰まらせ、フレイアはスッと黙る。
だが、咄嗟にアリサは機転を利かせた。
「ちょッ、ちょっと足の小指タンスにぶつけっちゃったの!! 痛くてつい叫び声をあげちゃっただけだから気にしないで!」
「そうでございましたか」
鮫島は安心した声を出す。
「とは言え、足の小指は大丈夫ですか? 爪などが傷ついているかもしれませんし、念のために私が見ておいた方が――」
「だ、大丈夫大丈夫! 痛いかっただけで、特に怪我とかないから!」
「そうですか。安心しました。もしなにかあればお申し付けください。すぐに駆けつけますので」
「あ、ありがとう鮫島!」
アリサは乾いた笑いを浮かべながら、鮫島が部屋から離れるのを待つ。
そして鮫島が居なくなったであろうことをドアの隙間を開けて確認し、緊張の糸が切れたアリサはドサっとベットの上に座る。
「まったく、なんであたしがあんたの為に、あんな下手な誤魔化ししなきゃならないよ。って言うか、鮫島に処分させても良かったかも……」
ため息をつくアリサに、フレイアは嬉しそうに話す。
《いやいや、中々ナイスな機転ですよ! 小指ぶつけて大声出すとかあるあるですからね! それと、私のことは時期が来るまで誰にも話さず持って置いた方がお得ですよォ?》
「……それはなんでよ?」
アリサがジト目を向けて問うと、フレイアはまた説明しだす。
《さきほども説明しようとしましたけど、それはですね~――》
「お~い、頭大丈夫かァ? なんか変な声あげたらしいな」
ノックもせず、失礼なこと言いながらいきなりアリサの部屋に入ってきたのは沖田。
一方のアリサは『なにか』を布団に慌てて被せたような格好になっていた。
「なにやってんだ、お前?」
ジト目を自分に向けてくる沖田の言葉に、アリサはブチっと青筋を立てる。
「乙女の部屋にノックもなしに入ってくるなー!」
アリサは近くにあった分厚い本を、沖田の顔面向けて投げた。
「ジミーガード」
沖田に盾にされた山崎の額に、本のカドが直撃して「ブヘッ!?」とジミーは悲鳴を上げる。が、アリサは構わず部屋のドアに近づく。
「ただ足の小指ぶつけただけなの! あとノック! 気をつけなさいよね!」
バタン! とアリサはドアを無理やり閉める。
「なんでェい。折角来てやったのに。あ~あ、無駄足だったな」
沖田は不満そうな声を漏らしながら自分が寝ていた部屋に戻って行った。
「沖田隊長ォ、今の扱い酷いですよォ~……!」
山崎も額を抑えながら沖田の後を付いて行った。
二人が去って行くのをドアを少し開けて確認したアリサは、再びベットに座って息を吐く。
「はぁ~……心臓に悪い……」
《いや~、今のは危なかったですね》
布団から出たフレイアは、あっけらかんとした声で言い、アリサはジト目をフレイアに向ける。
「って言うか、全部あんたが原因なんだけどね」
《まぁまぁ。それでは、これから早速フレイアちゃんの秘密を教えちゃいましょう!》
「はいはい」
うんざりしているアリサはおざなりな返事をする。
《まず、アリサさんは魔法と言うモノをご存知ですか?》
「それって――」
『ウェヒヒヒヒ。夢と希望もあるんだよ』
「――って言うあれ?」
《それだと私、『僕と契約して魔法少女になってよ』的なポジションになってしまいます》
「それとも――」
『ほぇぇぇぇ!!』
「――って言う人がカード集めたりするアレ?」
《いや、カードでキャプターなアレだと私のポジション、エセ関西キャラになっちゃいますしねェ》
「てな感じで例えを出してみたけど、あんたはもしかして魔法少女で言うところの、パートーキャラみたいな奴だって言いたいの?」
腕を組んで訝し気な視線を向けてくるアリサに、フレイアは関心して羽をぱちぱちと叩いて鳴らす。
《おォ! ほぼ正解ですね! アリサさん賢いですね~!》
アリサはジトーっとした目を向ける。
「って言うことは――」
《はい! とどのつまり私は魔法少女モノで言うところの変身アイテムとパートナーを兼任するハイブリットな存在なのですよ!》
自慢げに、えっへんと胸(?)を張るフレイアの答えに、アリサは頭抑える。
「あぁ……やっぱり。まぁ、土産のキーホルダーみたいなのが飛んだり喋ったりしてる時点で、あたしの中では魔法かなにかだってイメージはあったけど……」
《最初は魔法の存在から否定していくものなんですが、アリサさん順応力と想像力が高いですねぇ》
「いや、さすがにあんたみたいなぐにゃぐにゃ動いて、感情むき出しで喋るモノをロボットとは到底思えないわよ」
《せめてかわいらしい動きと言ってください》
「それで? あんたは結局あたしになんの用なの?」
《あれぇ? ナチュナルにスルーですか? フレイヤちゃん泣いちゃいますよ?》
羽を使ってしくしくと器用に泣くポーズを取るフレイアに、アリサはジト目向ける。
「そういうのはいいから。つまり、なにが言いたいの?」
《察しの良いアリサさんなら、ここまでくればあなたがこの後、どうなるかなんて目に見えているじゃないですかァ~?》
ワザとらしく聞いてくるので、アリサは疲れを感じてため息を吐く。
「分かってるけど、あたしはそれに対してあんまりノリ気になんてなれないの」
《なに言ってるんですか! 魔法少女ですよ、魔法少女!! 女の子なら誰だって一度は夢見るアレですよ!!》
「いや、別に女子全般が魔法少女に夢見るワケじゃないし。そもそも、あんたみたいな得体の知れないベラベラ喋るアイテム、誰が進んで使うのよ?」
《アリサさん》
羽で指差してくるフレイアに対して、アリサは腕を掴んで嫌悪する。
「いやよ! どんな不幸があたしの身に降りかかる分かったもんじゃないわ!」
《大丈夫ですよ! 別に取って食おうってワケじゃないですから! お試しでいいので、いっちょババーン! と変身しちゃいましょうよ~!》
「なんか詐欺みたいで胡散臭い。って言うか、それならのあたしじゃなくてもいいんじゃないの?」
《そんなぁ、私は伊達や酔狂でアリサさんのパートナーになろうなんて言ってないんですよ? 私にも私になりの理由があってアリサさんを選んだんですからぁ》
「その理由って?」
《私はちょっと特殊なデバイスですから、相性の合う人間じゃないと満足に使うことすらできないんですよ》
「でばいす? ……つまり、その相性の合う人間が、私だってこと?」
聞きなれない単語に首を傾げるアリサ。彼女の質問に、フレイアは首(?)を縦に振る。
《そうですそうです! 私の見立てでは、アリサさんと私は相性バッチリ! っということで、私と共に魔法少女の道を――!》
「それじゃ、お休み」
フレイアの言葉をばっさり遮り、アリサはそのまま布団に潜ってしまう。
《ちょっとアリサさ~ん!》
フレイアはアリサの周りをびゅんびゅん飛び回る。だが、アリサはまったく反応せず布団に潜ったまま話す。
「あたしは今のところ、魔法少女とかになる気はないから」
《えぇ!? あなたの歳ならバリバリ魔法少女目指すもんでしょ!》
「別にあたしは、目指してないし憧れてないわよ」
《じゃあ、魔導師で! 魔導師でいいので! っていうか、私たち世界では魔法使う人を魔導師と呼びます!》
「結局それだと魔法少女も魔導師も似たようなもんでしょうが! とにかく今はなりたいって思わないの!」
とアリサは語気を強めて言う。
《そんなぁ……私、アリサさん以外に行く宛てなんてないのに……》
へなへなとフレイアは力なく床に落ちる。器用にも、羽で床に手をついている格好になっており、声も先程みたいに元気が感じられなくなっていた。
「…………まぁ、ここにいてもいいわよ」
小さな声で言ったアリサの言葉にフレイアは、
《え……?》
顔(?)を上げると、アリサは布団から顔を出してちらりと目を覗かせる。
「あんた行くとこないんでしょ? だったら少しの間くらいは、私の部屋に住んでもいいわよ。まぁ、仮にも私のパートナー名乗るなら、私と私の周りの人に迷惑かけないって約束してよね」
《アリサさん……》
フレイアは感動したような声で言う。
《――やっぱ、魔法少女になりたかったんですね!!》
アリサはフレイアの羽持って窓から捨てようとする。
《あ゙あ゙ぁ゙ーッ!!》
デバイスは暴れる虫のように体を動かしながら謝る。
《ごめんなさいごめんなさい!! 反省しますから! だから! だから虫みたいに窓から捨てないで!!》
フレイアは地面に両翼を付いて《ハァ、ハァ、ハァ!》と息を荒くする。
「あんた、懲りないわね……」
呆れ顔のアリサにフレイアは彼女の周りを飛び回りながら告げる。
《とりあえず、今のところは我慢します。アリサさんが私のパートナーになってくれるよう、アプローチしていきますので。アリサさんだって、私を使いたいと思う時が来ると思いますから》
「そんなことがないことを祈るのわ」
アリサは呆れてため息を吐き、やれやれと困ったような顔を作る。
「そう言えば」と言って、フッとアリサはあることに気づく。
「あんたが魔法のアイテムってこと以外の情報、私聞いてないんだけど? 他にも私に教えることとかないの?」
《ま~、まだ教えなきゃいけないことは色々あるんですが……ふわぁ~。もう眠いので、明日の朝にしましょう》
「へッ?」
アリサはあくびを聞いて間の抜けた声を出し、フレイアは布団を自分の体に掛ける。
《それでは、お休みなさ~い。…………くぅ》
「………………」
ゴゴゴゴゴと擬音が出るくらいの凄みを出し、怒髪天と言えるほど髪を逆立たせ、周りには本当に炎が燃えているんじゃないか思えるくらい、アリサは怒りの炎を燃やしていた。
マイペースなフレイアがこの後どうなったかは、さだかではない。
《このエンシェント・ホワイト。すずか様のため、誠心誠意パートナーとして頑張らせてもらいます》
目の前で土下座のようなポーズでお辞儀するデバイスに、すずかも同じように土下座してお辞儀する。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
すずかの元に、あるデバイスがやって来たのだが、アリサと違ってすずかは魔法少女になることをすぐに承諾するのだった。