魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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休みなのでお昼過ぎに投稿しました。


第十四話:リリカルなのはの歴史

『きっとまた、すぐに会えるもんね』

 

 フェイトと髪の結い留めを交換し、彼女が去って行った青い空を眺めるなのは。

 そして始まるエンディグと後日談的な描写の数々――が〝テレビ〟に映し出されている。

 

「――これが、僕たちが来てしまった世界の大まかな歴史です」

 

 真剣な顔の新八が、テレビの前に立って告げる。

 

 

 

 今土方たちが見ていたのは、新八が前に懐にしまったままになっていたDVD――題名は『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』。

 

 桃子にDVDを見たいと新八が頼んだところ、桃子は「リビングにDVDデッキがあるので、どうぞ見てください」と言ったので、お言葉に甘えて視聴を開始することにした。

 田村ゆ○りさんの歌をBGMにしながら、正座して見ていた山崎と土方。下を向く二人の目元は黒い影で覆われ、一言も喋らない。たぶん目の前の現実を頭で処理しきれてないだろう。

 ちなみに沖田はポテトチップボリボリ食べながら「ちっとパンチの足りねェ映画だな。スプラッタが欲しいところでィ」などと偏った感想を述べていた。

 

「くぅ~! やっぱ何度見て感動する映画ネ!」

 

 神楽は拳を握り絞めて感動している。ちなみにこの銀魂ヒロイン、映画を見ていた新八のことをオタクだロリコンだとバカにしていたのは記憶に新しい。

 

「あ~、なるほどな。これで『あの時』のおめェの奇行も納得がいったぜ」

 

 土方や山崎と違って、何故か冷静な沖田の言葉を聞いて、新八はなのはを初めて見た時の事を思い出す。

 

 

 それは海鳴市の公園で新八と山崎が神楽と沖田に合流し、更には暴走した土方を止めた後の事……。

 

「え? えッ? えッ!? ――君って、もしかして……な、な、な、なのはちゃん!?」

 

 なのはを見て驚愕の表情を浮かべる新八に、ツインテールの少女は戸惑う。

 

「そ、そうですけど……なんで私の名前を知って――」

「そ、そんなバカなァ!? いや、これはなにか間違いだッ!! 僕はアニメオタクみたいにアニメ少女を幻影で見るほど道は踏み外してないはずだァァァッ!!」

「ちょッ!? ど、どうしたんですか!?」

「ウソンダドンドコドーンッ!!」

「えええええええええッ!? なんで地面に頭打ち付けてるんですかァ!? し、死んじゃいますよォ!?」

「消えろォォォッ!! 幻影よ消えろォォォッ!! 僕はお通ちゃん一筋だァァァァッ!!」

 

 

 新八がなのはとの出会いを思い出した後、沖田は新八へと目を向ける。

 

「お前、あのツインテのガキに引かれてたよな」

「いや、その……」

 

 新八は頭をボリボリ掻きながら目を逸らす。

 

「あの時は……マジで自分がおかしくなったのではないかと、思いました……」

 

 顔を上げた山崎は頬を引き攣らせ、大量の汗を流しながら土方に顔を向ける。

 

「ふ、副長……お、俺……しょ、正直アニメの世界来たとか……も、もう頭がどうにかなりそうです……」

 

 土方も相当動揺しながら言葉を返す。

 

「お、落ち着け山崎。しょ、正直、俺も自分が正気でいるのか不安だ。……つうか、あのツインテールのガキ見て、思い出したぞ。なんか影薄いからあんま気にしてなかったけど思い出した。トッシーと一緒に葬り去った記憶に、なんかこんな感じのアニメを見た記憶が俺の中に確かにある」

 

 さり気なくリリカルなのはの主人公に酷いこと言う土方。ちなみに彼は、刀の呪いで重度のオタクであるトッシーに変貌し、暮らしていたことがあったりする。

 なんとか心を落ち着けようとタバコを箱から出して口に咥える。

 

「副長、タバコ逆さです」

 

 山崎のツッコミを受けてタバコを咥え直しながら、土方は新八に意見する。

 

「しかしよ、眼鏡。仮にここが未来の世界じゃなく、アニメの世界だって証拠はあんのか? ただ単に、あのガキがこのDVDのパッケージに映ってたガキと似ていたって方が、まだ信ぴょう性はあるんじゃねェか?」

 

 土方の言葉に新八は首を横に振る。

 

「いえ、それにしたって、この町の名前だったり、町並みだったり、このアニメに描写されているものと類似しているものが多すぎます。って言うか、なのはちゃんどころかアリサちゃんやすずかちゃんがいる時点でもうアニメの世界って言った方が信憑性ありますよ」

「だ、だがよ! アニメの世界だぞアニメの世界!」

 

 土方は新八の説明を受けても納得せず食ってかかる。

 

「あんな俺が仕事中にこっそり作ってた、パラパラマンガの進化系みたいなもんじゃねェか!」

「あんたなに仕事中に小学生みたいなことしてんですか!」

「と、とにかく! 何万枚って紙をただパラパラパラパラ流すだけの、そんなパラパラの世界に俺たちがどうやったらいけるっつうんだよ!!」

「いや、あんたアニメなんだと思ってるんですか!? 知識あるにしてもざっくり感半端ないわ!!」

 

 中々現実を受け止め切れないでいる土方を神楽はジト目で見つめる。

 

「まったく、これだから大人はダメアル」

「まったくだぜ」

 

 と沖田まで便乗する。

 

「土方さんは常識に囚われすぎて、脳みそかちこちに凝り固まってるから順応できないんでさァ。だからダメなんだよ土方は」

「今、タメ口言った!? 今ナチュナルにタメ口言ったよねお前!?」

 

 土方は青筋立たせて沖田を睨み付ける。

 

「とにかく!」

 

 と新八は声を上げて軌道修正する。

 

「僕としてはこの映画、もしくはテレビ版のリリカルなのはの通りの事がこれから起こっていくと予想しているんです!」

 

 「えッ?」と山崎がきょとんした顔で問う。

 

「新八くん、そのリリカルなのはってアニメって、テレビ版もあるの? って言うか、映画とテレビで放映されたモノって、そんなに違いがあるの?」

「はい。まァ、大まかな流れは同じですが、はやり細かいところで色々と違いがあるので。そして今は、手元にこの映画版のDVDしかないですが、安心してください」

 

 新八は眼鏡を人差し指でクイっと押し上げ、自信たっぷりの笑みを浮かべる。

 

「僕の頭の中にはテレビ版の知識もインプットされているので、もしテレビ版の展開になったとしても、ちゃんと対応できるでしょう」

「おお。ぱっつぁんの癖に珍しく頼りになるアルな」

 

 と神楽。

 

「珍しくは余計だよ」

 

 新八はやんわりツッコミ入れるが、その顔は自信に満ちたまま。すると沖田は呆れたような声で喋りだす。

 

「つうか、テレビ版だとか映画版だとか言うけどよ、それが分かったからってなんの意味があるってんだ?」

「なに言ってるんですか。これから展開を知っておくってことは、僕たちにとっては重要なことじゃないですか」

 

 新八の言葉を聞いて沖田は目を細める。

 

「おめェ、もしかしてこんな魔法(笑)みてェな戦いに参加しようとしてんじゃねェだろうな?」

「いや、あんた言い方もうちょっと自重してくれせん? 言い方に悪意こもり過ぎでしょ」

 

 新八はゴホンと咳払いしてから、力強く力説する。

 

「沖田さんの言う通りです! なのはちゃんやフェイトちゃんを助けるって目的を達成するために、この情報はとても有益なものになるんです!」

「そうアル! それくらい察せヨ税金泥棒!」

 

 勢いついでに悪口をさり気なく言う神楽。

 やる気まんまんの二人に対して、沖田はため息を吐きながらドライに返す。

 

「――って言うか、なんであのガキ共助けなきゃならねぇんでィ? んなめんどくせェこと、やる必要がどこにあるってんだ?」

「なッ!?」

 

 と驚く新八は反論する。

 

「沖田さんは映画を見てなにも感じなかったんですか!? この理不尽な話をなんとかしようと思わなかったんですか!?」

 

 続けて神楽が握り拳を作って憤慨。

 

「おめェはこんな悲しい話がこれから始まろうって時に、黙っておねんねアルか!? おめェの血は何色だコラァ!!」

 

 沖田がそんなことを言うとはとても思わなかった、と言わんばかりの勢いで二人は捲くし立てる。

 だが当の沖田は、別に自分におかしなことは言ってない、と言わんばかりに返す。

 

「そうか? 別に俺たちが関わる必要性があんまみられねェと思うぜ? 俺はこのままでも良いと思うけどな」

「なに薄情なこと言ってるんですか!」

 

 声を上げ、新八は捲し立てる。

 

「僕たちがこの世界に来たのは、もう運命と言っても過言ではないはずです!」

 

 そうアル! と神楽も続く。

 

「私たちがここに来たのは間違いなく意味があるはずネ! ソゲブ的な感じで!」

「さっきから黙って聞いてれば、随分勝手なこと言ってくれるな」

 

 不機嫌そうな声を出したのは土方。吹かしたタバコの煙をふぅ、とため息を吐くように口から出す。

 沖田に食ってかかっていた二人の視線が、土方へと向く。

 

「確かにそのバカの言うとおり、俺たちがこのりりなんとかとやらの話に介入する必要性は、皆無と言ってもいいだろう」

 

 土方の言葉に神楽は怒りの表情を見せる。

 

「マヨラーお前ェ!」

「もしかして……」

 

 と言って、新八が不服そうに訊く。

 

「土方さんは物語の道筋を変えるのが、ダメだって考えているんですか? 一つの作品として纏まった話を、僕たちが掻き乱すのは許せないとか」

 

 眉間に皺を寄せる新八の予想に対して、首を横に振る土方。

 

「そう言うワケじゃねェよ。別に未来の出来事とやらを変えたきゃお前らの好きにすりゃあいい」

「ならどうしてですか!?」

 

 返答を聞き、新八が食ってかかる。

 

「僕たちが動かなきゃ――!!」

「――なにも変わらねェってか?」

 

 土方の射抜くような声と眼光で新八、そして神楽は言葉を詰まらせる。

 

「じゃあ、逆に聞くがよ……お前達が関わって、なにか変わるのか?」

 

 冷めた声の土方の問いに、

 

「それは…………」

 

 と新八は言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせながらも答える。

 

「ぷ、プレシアさんに、フェイトちゃんを本当の娘だって気付かせるとか」

 

 神楽も続く。

 

「今ならプレシアがフェイトにするドメスティックバイオレンスだって止めることが――」

「できねェよ」

 

 土方はばっさり否定する。

 

「お前らがなにかした所で変わることなんてほとんどないだろうな」

 

 土方の言葉に新八と神楽はまたしても押し黙ってしまう。土方の言葉に気圧され、少しばかし勢いを失いながらも二人は反論するが、その意見さへ刀のようにばっさりと切り捨てられてしまった。

 だが、納得できない新八は改めて土方に反論しだす。

 

「どうしてそんな頭ごなし否定するんですか土方さん! やってみなきゃ分からないでしょうが!」

「なら、俺たちが関わったとして、プレシアってヤローの考えが変わるのか? フェイトってガキを、苦しみから助けることができるのか? 母親と別れさせないようにすることができるのか? とてもじゃねェが、一通り見てもあの狂っちまった母親の意思を、ポッと出の俺らが変えられるなんて到底思えねェな」

「「………………」」

 

 その説明に新八と神楽は反論することすらできず、下を向いて押し黙ってしまった。

 土方の言うように、アリシア・テスタロッサという、たった一人の愛娘のためにすべてを投げ打つような人物の考えを変えさせることが、いかに難しいか。想像し、理解したのだ。

 土方は言葉を続ける。

 

「魔法が使えねェ俺らじゃ、時空管理局って奴らが現れるまでプレシアってヤローの根城に行く手段はない。あの母親が死ぬ間際の短い時間にするような説得じゃ、イカれちまった奴の考えを直すなんて、そうそうできるもんじゃねェだろ」

「たしかに、そうですけど……」

 

 新八は視線を逸らす。

 土方の言うとおり、自分たちに魔法と言う特殊な力は勿論持ち合わせてなどいない。プレシアのところに行くどころか、海鳴市にやって来たフェイトのアパートに行くことするら困難だろう。まともに会うことができるのは時の庭園に乗り込む時くらいだ。

 そんな自分たちでは、時間をかけてプレシアにフェイトを娘として愛するよう説得するなど、土台無理な話だ。

 土方はタバコを吹かす。

 

「ま、フェイトってガキにプレシアのところに連れて行くよう要求するっ手もあるだろうが、俺たちみたいな会ったこともない連中をわざわざ大事な母親のところに案内するなんてマネは、しないだろうな」

「でも、必死に訴えかければフェイトちゃんだってわかってくれかも――!」

 

 新八の言葉を聞いた土方は視線を鋭くする。

 

「なら仮に、プレシアの元まで辿りつけたとして、次はどうする? 死んだ娘のことやら自分の病やら、フェイトですら知りえなかった情報を知っている俺たちをどう思うかなんざ、火を見るより明らかだ。俺ならそんな連中がいたら、信用するどころか警戒心丸出しにするな」

「「………………」」

 

 万事屋コンビは完全に息消沈し、言葉が出てこなかった。なんとか新八が反論の意を唱えても、真っ向から論破されてしまう。

 土方が思いつかないような妙案を新八も神楽も、思いつくことができない。

 土方は腰の刀に手を置く。

 

(これ)だけが取り得の俺たちには、せいぜいなのはの野朗の手伝いをしてやるくらいだろ」

「…………なら」

 

 と俯きながら新八は言葉を搾り出す。

 

「なんで土方さんは関わるなって言うんですか? なのはちゃんの手伝いくらいなら、僕たちにだってできるんですよね?」

 

 納得はいかないながらも納得せざる終えなかった新八は、もう反論はせず、土方の言葉の穴を突こうとする。

 

「お前がさっき言ったように、このリリカルなのはって作品は一つの物語として完成してる。俺から見てだが、俺たちが関わったところであれ以上のハッピーエンドは望めないだろ」

「た、確かにそうですけど……」

 

 口ごもる新八に、土方は更に問いかける。

 

「だが、俺たちが関わることで話の筋ってやつは確実に変わる。それが良い方向に進むとは限らねェだろ?」

 

 新八は「うッ……」と口ごもる。

 土方の言った言葉は、新八も頭の隅には置いておいた可能性だ。自分たちが関わることで未来は未確定なものへと向かっていくことになる。

 

「ようやく分かったか」

 

 土方は腕を組んで首を縦に振る。

 

「俺たちが関わることで、悪い結果を産み落とす可能性が出てきちまう。フェイトが母親の後を追ったり、なのはが酷い重症を負ったりな」

「でも、僕たちは――!」

「ああ。お前達が故意にそんな結末にさせないということは分かってる」

 

 と頷く土方は。真っ向から新八の言葉をねじ伏せる。

 

「だがな、物事ってのは、最善の結果を出そうとして、結局最悪の結果にしかならなかったなんて事はよくあることだ」

「ッ…………」

 

 新八は息を呑む。

 

「もし、自分が関わって最悪のケースになったとしても、その責任を取れるなら、好きにすればいい」

 

 目を細め、もの悲しそうに言う土方の言葉を聞いて、新八は改めて認識する。

 

 ――そうだ、土方さんは……。

 

 目の前の男は真選組副長――土方十四郎。

 彼は組織の上に立つ人間として、町の治安と平和を守るために色々な任についてきた。そのために、どうすれば被害を最小限に抑えられるのか、必死に頭を悩ませてきたのだろう。だが、その努力も虚しく、悪い結果を生み出してきたことも多々あったはずだ。悪い結果になった時、彼はその責任を真選組副長として何度も負ってきたに違いない。

 そしてそんな彼は、新八に問いかけている。

 

 『わざわざ、最高とは言えずともハッピーエンドになるであろう物語を、お前は自分の手で壊すのか? 悪い結果になった時、お前はその責と向き合えるのか?』と。

 

「僕は……」

 

 心が感じたままに、自分はどれだけ浅はかな考えで動こうとしていたのか? と自分に対し、後悔の念を強め始める。

 

「ま、何もせずに後悔することもあれば、何もせず後悔しないこともある、ってことを覚えておきな」

 

 土方はふぅ、と煙を吐いて、ぎりぎりまで吸ったタバコを携帯灰皿に入れて立ち上がる。

 

「まー、もうなのはたちと関わってる以上、なにかしらの変化は起こるだろうが、今ならまだ物語を破綻させることもねェだろうしな」

「……そう、ですね」

 

 新八は落ち込みながらも素直に頷く。最早彼は、土方の意見に反論する気持ちはほんとんどない。

 立ち上がった土方はポケットに手を入れ、リビングを出て行こうと背を向ける。

 

「映画やらアニメやら見て、登場したキャラに共感や同情をしたお前らの気持ちも分からんでもないが、結局画面の外に居ようが中に居ようが変わりはしねェってことだ」

「はい……」

 

 新八は小さく返事を返し、無力な自分に対して悔しいのか、拳を強く握る。

 土方はそんな青年の姿をチラリと見て、口を開く。

 

「とにかく、余計なことはせず、今の俺たちは万事屋の野郎と柳生の連中を探し、近藤さんを助け出す。そこら辺に頭使いな」

 

 土方は時計の時間が四時を指したところを確認した後に、リビングを出ようとドアノブに手をかける。

 

「ま、お前らも少しは感情で動く前に、頭で整理してから動くことを覚えるんだな」

 

 そう言って土方がドアを引くと――彼の目の前には〝少女〟が立っていた。厳密に言うと、閉まっていたドアの前にだが。

 私立聖祥大の初等部の制服を着た、栗色の髪を白いリボンでツインテールにした少女。彼女は顔を青ざめさせ、汗をダラダラ流し、視線を逸らしながら気まずそうな作り笑顔を作っている。

 

「あ、おっす〝なのは〟。今帰りアルか?」

 

 帰ってきた高町家の末っ子に、神楽は呑気に手を上げる。

 一方、なのはの登場に、土方、新八、山崎は『やっちまったァー!』みたいな顔で口をあんぐり開けて、汗を流している。

 

「あ~あ。物語、破綻させちまった」

 

 と沖田がボソリと言った。

 

 

 俺は前々からトイレに視線を感じていた。

 もちろんそれはただの気のせいであろうことは、俺自信が一番分かっているつもりだ。

 窓すらない家のトイレで視線を感じるのはおかしい――と言う疑問を俺はこの一ヶ月、トイレに入るたびに感じていた。

 その視線は天井の電球から感じるていたのだが、電球を見つめてもただただまぶしいだけ。

 そしてある日、母親が俺に言った。

 

「ちょっと啓太ァ? あんたまたトイレの電気付けっぱなしにしたでしょ? 前から電気はちゃんと消したか確認しときなさいよって、言ってたでしょ?」

「なら母さんが消せばいいじゃん」

 

 俺は文句言うが、

 

「自分で消しなさい!」

 

 母は怒鳴り声で叱るので、俺は嫌々トイレの電気を消しに行く。

 

「たく……」

 

 だが、トイレに入ってみると、電気は付いていなかったではないか。

 

「あれ? 付いてねェじゃん」

 

 骨折り損だな、と頭の中で文句を考えた時、尿意を感じた俺は小便をしようとトイレの電気のスイッチを入れる。

 

「あれ? 付かねェな?」

 

 何度もON、OFFを繰り返すが一向に付く気配がなく、電球でも切れたのかと、おもむろに天井に顔を向けると――〝電球が眼球へ〟と変わり、誰とも分からぬ瞳が俺を見つめていたのだ。

 

 

「――ッ!?」

 

 歯を磨いていた銀時は、歯ブラシで頬を内側からグリッと押し上げてしまう。

 横で映画を見ていたフェイトはとっくにおねむの時間のようで、銀時の膝を枕にすやすやと規則正しい吐息を立てている。

 

『出たな悪霊! 悪霊たいさァァァァん!!』

 

 グサッ! ブシュゥゥゥゥッ!! と映画の主人公が天井にあった目玉に指を突き刺し、血が大量に飛び散る。

 それを見たフェイトの使い魔である狼のアルフ(人間形態)がテレビの画面を消す。

 

「なんかこの映画……」

 

 アルフはジト目で映画のパッケージを見つめる。

 

「ホラー演出は結構いいけど、やたらグロテスクなとこが目立って、一週回ってギャグ映画になってるね……」

 

 アルフの言葉を聞いて銀時は腕を組む。

 

「ま、まァ……B級映画なんてこんなモンだろ。俺は全然怖くなったからね? 寧ろ怖くなくて、フェイトみたいに眠くなってきたくらいだしィ」

「あんた、口から歯磨き粉垂れてるよ」

 

 顔を青ざめさせながら、誰にも訊かれていないのに言い訳する銀時を、アルフは半眼で見る。

 ちなみに寝る前の暇つぶし的なあれで、銀時とフェイトとアルフはプレシアが持っていた映画のDVDを鑑賞していた。

 銀時としてはA級のアクション映画を見たいところではあったのだが、プレシアの持っていたDVDにB級のホラーがあり、フェイトが目を輝かせながら催促してくるので、仕方なく『ホラー・オブザ・デット』と言う退魔師の主人公が次々と悪霊をやっつける『まさにB級』な映画を見ることになった。

 

「まぁ、こんな映画見て怖がる奴の気がしれねェよ」

 

 まだ銀髪は説明を続ける。

 

「たしかにィ、演出は中々良かったよ。いや、別に怖いわけじゃねいからね? でもよ、主人公が退魔師で、しかも悪霊退散を力技でやっちまう時点でどうかと思うよ、うん。つうかさ俺としては――」

 

 アルフは「はいはい」とテキトーに相槌をうつ。

 

「あんたがホラー怖くないのは分かったから。とにかく、あんたも寝なよ?」

 

 狼の使い魔はジト目を銀時に向けながら、フェイトをお姫様抱っこする。そしてそのまま主を自室まで運んでいく。

 

「ま、まァ……夜も遅いしィ。寝るとしますか」

 

 怖くない怖くない、と連呼する銀時もアルフの後に続いて寝室まで向かっていく。

 

「そんじゃ、おやすみ」

 

 銀時はベットの布団を体に被せ、フェイトを隣に寝かせながら目を閉じる。それを見ていたアルフは、

 

「お前は自分の部屋で寝ろ!!」

 

 ダメなところ丸出しの大人を蹴りで部屋からたたき出す。

 銀時は「グヘッ!」と悲鳴を上げながら吹っ飛ばされても、すかさず立ち上がる。

 

「おいおい。ホラー映画見て怖がっているであろうお前らのために、気を利かせてる銀さんの優しさが分からないワケ? お前」

「怖がってんのあんただろ」

 

 アルフは情けない大人に対して青筋立て、そしてバタンとドアを閉める。

 しばらく立つと、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。ドアを引くと、銀時が立っている。

 目の前に立つ銀時に、アルフは怪訝な表情。

 

「なんだいあんた? まだなんか用があんのかい?」

 

 すると、銀時は真剣な眼差しでアルフに言う。

 

「なァ、お前――寝る前にトイレしたくない?」

「おやすみ」

 

 バタン! とドアを閉めるアルフであった。

 

 

「――たく、少しは付き合ってくれもいいじゃねェか。トイレ入ってる間、外でドラ○もんのBGM流してくれてもいいじゃねェか」

 

 ぶつぶつ文句を言いながら、銀時はトイレまで腕を組んで歩いていく。

 そしてトイレの前までやって来た銀時は『電球が眼球になった映画のシーン』を思い出す。

 

「い、いやいや。アレフィクションだから。普通あんなのないから」

 

 などと銀時は自分に言い聞かせるように自己完結しながら、恐る恐る電気を付け、電球を確認する。そして安堵した後に、ズボンを下ろして便器に腰を落とす。

 

「ふぅ……」

 

 銀時は溜まっていたモノを出したことで安堵し、おもむろに天井に顔を向ける。すると、天井裏を覗くための板が少しズレ、そこから覗く光る(まなこ)が二つ。

 

「………………」

 

 その時、銀時の目は白くなって彼の体は硬直していた。

 

 

 

 そして銀時がトイレに行ってから数時間後。

 

「ごめんねアルフ、起こしちゃって」

 

 フェイトは申し訳なさそうにする。

 

「まだ夜遅いのに」

「いいってフェイト。あたしもシたいと思ってたとこだし」

 

 小の方を催したフェイトがトイレに行こうとすると、主人の動きを敏感に察して目を覚ましたアルフ。そのまま彼女はフェイトに付いて行くと言い出し、二人でトイレまで行くことにした。ちなみに、アルフは狼形態のままフェイトのベットの横で寝るのが基本である。ただ、これから行くトイレは犬用ではないのでアルフは人型。

 トイレの前までやって来た二人。

 

「フェイトから先にシなよ。あたしはその後でいいから」

 

 アルフが手で促す。

 

「じゃぁ、お言葉に甘えて」

 

 フェイトがトイレの扉を開くと、二人は絶句した。

 

「………………」

 

 トイレの中には、ズボン下ろしたまま上を見上げ、白目ひん剥いて真っ白になっている銀時の姿が。

 

「……ぎ、銀時!?」

 

 まずフェイトが声を上げ、次にアルフも声を出す。

 

「ちょッ!? どうしたんだいあんた!?」

 

 少しの間、目の前の珍妙な光景に目を点にしていた二人だったが、すぐに我に返り銀時に詰め寄る。

 

「なにがあったの銀時!?」

 

 フェイトは銀髪の体を揺する。

 

「あー……こりゃ、ダメだ。完全に気絶してる」

 

 アルフは情けない姿で気絶している彼に対して呆れた表情になる。

 フェイトはなんとか銀時の目を覚まさせようと、彼の肩に手を掛けて揺らしていた。

 

「ねぇ、しっかりし――」

 

 その時、ふとフェイトの視線が便器に向いてしまった。そのお陰で、少女は言葉を中断させざるおえなくなる。

 そりゃそうだ。ズボンもパンツも下ろしている銀時の下半身のアレは、〝丸見え〟なのだから。

 突如、無言になったフェイトの顔はみるみる赤くなっていく。

 

「………………」

「――って、ぎゃああああああああッ!?」

 

 アルフは慌ててフェイトの目を手で覆う。

 

「フェイト、あんたナニ見てんだい!? いくらなんでもあんたに〝ソレ〟は刺激が強すぎるよッ!!」

 

 当のフェイトは、男のシンボル見たお陰で完全に我を失っているようで、抵抗するようなことはなかった。だが、フェイトの視線を遮ったと同時に、ついでにアルフも銀時のアレを見てしまう。

 

「ッ!? …………あんた、結構イイモン持ってんじゃん」

 

 顔を赤くさせながら、視線逸らすアルフであった。ただつい視線がチラチラ銀時の股間に向いてしまっていたのは、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 ズボンずり落として便器に座って気絶している男のナニを前に、二人の女子が硬直しているトイレ。シュール極まりない状況を一人の影が見つめていた。

 

 

 ちなみに翌日の朝。

 

「――えッ? なに?」

 

 と困惑する銀時。

 

「なんでお前ら俺に目線合わせないの? なんでさっきからフェイトは下向いてんの? なんでアルフはさっきから目を横に逸らしてんの? って言うか、なんでお前らさっきから顔赤いの?」

 

 朝食の時から一日中ずっと銀髪に目を合わせず、顔を赤くすることが多い魔導師と使い魔であった。


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