魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第十五話:臨機応変

 土方の言葉で、新八と神楽が〝リリカルなのはのストーリー〟に関わらないと、決まりそうになった時。

 土方がリビングの扉を開ければ、そこには気まずそうな顔をした、なのはが立っていたのだ。

 

「………………」

 

 絶句する土方と、

 

「………………」

 

 超戸惑っているツインテールの少女。

 

 とてもじゃないが、声らしい声が出せない土方。

 それもそのはず。たぶんだが、リリカルなのはだとか、物語に関わらないだとか、さっきの話を聞いてしまったであろう少女は、目の前で露骨に目を背けている。

 

 とても言葉にならない状況に、土方は『やっちまったァ!!』と言う顔で口をあんぐりさせている。それは新八と山崎も同じで、事態の深刻さを理解しており、土方同様にマヌケな顔を披露していた。

 確定されていたであろう未来の結末を、修正できないレベルでぶっ壊す、なんて事をさっそくやらかしたのだから、こんな顔をしても仕方ないだろう。

 

 だが、ここで普段厄介ごとを即座に解決してきた、真選組副長の頭が回転する。

 

 ――いや、待て!? まだ誤魔化せるんじゃねェか? ほらアレ。実は俺たちは、〝なのはを主役にしたアニメ製作の話をしていました〟と言えば、乗り切りれるんじゃねェか? そうだ。コイツは年齢が二桁もいってねェガキ。むしろ自分たちがアニメ世界の住人だなんて、信じねェはずだ!

 

 いやそれだと、例え誤魔化しを信じたとしても、ユーノを見つけた時にすぐにバレるだとか、なのはが年齢に反してかなり大人びているだとか、そう言うことはまったく頭に入ってこなかった土方。焦りすぎて、誤魔化そうとすることにしか頭が働いていない。

 

 膳は急げ。土方はすぐに、なのはに嘘の説明をしようとしだす。

 

「お、おいなの――」

「ご、ごめんなさい!」

 

 突然謝りだしたなのはに、土方だけでなく他の面々の顔も「えッ? なんで謝るの?」と言ったモノになる。

 

「わ、わたし! 別に盗み聞きするつもりじゃなかったんです!」

 

 声を上げた後、なのはは視線をあちこちに逸らしながら喋る。

 

「帰ってきた時に……お母さんに皆が映画を見ているって言われて、なんの映画見ているんだろう? って気になって、つい覗いたら……その……」

 

 どうやらなのはは、土方たちの話を聞くどころか、映画すら見ていたようだ。

 

「ま、まさかわたしたちの……映画……だなんて、お……思いもしなくて……!」

 

 なんとか言葉を絞り出すように、目に涙を溜めながら必死に説明するなのは。衝撃の事実をなんの心の準備もなく目にしてしまったのだから、さすがに心の整理が追いつかず、ついていけないのだろう。

 

「な、なのはちゃん――」

 

 新八が声をかけようとするが。

 

「み、皆さんが!」

 

 なのはは言葉を遮って捲し立てる。

 

「悪いわけじゃないです! むしろ、わたしたちの為に動こうとしてくれて……わたし、みんな、優しい人たちだと思いました!」

 

 心を整理しきれないまま、なんとか話そうとしているなのは。そのくせ、新八たちのフォローまでしようとしている。

 他の面々も、この場に相応しい言葉が出ないようで、ほとんど喋りだそうとする者がいない。

 

 ついにはなのはは俯き、スカートをぎゅっと握る。

 

「わたし……わたし! 別に気にしてませんから! ちゃんと、わたしの心の中に、しまって! 置きますから! だから……!!」

 

 そこまで言って、なのはは勢いに任せて180度Uターンして、

 

「大丈夫ですからぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら家を飛び出した。

 

 ――ぜ、全然大丈夫じゃねェェェェェェェッ!!

 

 土方は心の中でシャウトし、頭の中で捲し立てる。

 

 ――説得力皆無じゃねェか! おもっくそ精神不安定になってるじゃねェか! 一番最悪なパターンじゃねェかァァァッ!!

 

 まさかの〝物語の主人公に物語の大筋を知られる〟なんて言う、タブー中のタブー。

 はっきし言って、あなたの人生は誰かに作られた物語(アニメ)だったんです、なんて知って平然としているワケがない。たとえ十代に満たない少女と言えど、ショックなはずだ。

 しかも、歳の割に妙に悟ってるとこがあるなのはだと、余計に精神的なダメージは大きいかもしれない。

 

 ぶっちゃけ、自分がなのはの立場なら、一人になりたいと思う。

 

「……ひ、土方さん!」

 

 新八が土方に詰め寄る。

 

「こ、コレどうするんですか!? コレ、間違いなく最悪なパターンですよね!? つうかなんで僕ら、リビングで映画見るなんて軽率な事してたんですか!?」

 

 寄って来た新八が、土方の両肩に手を置き、体を揺する。彼も相当焦っているようで、その顔には一切の余裕はない。しかも、今更ながらな正当なツッコミだ。

 

「お、落ち着け! ま、まずは冷静になれ!」

 

 そう言って、土方は口に咥えたタバコの火を手の甲で消す。

 

「いや、あんたが落ち着こうよ!」

 

 新八はツッコム。例えどんな状況でもツッコミをする。それが新八クオリティ。

 

「私、なのはの元に行くアル!」

 

 出て行こうとする神楽。彼女の後ろの襟を沖田が掴む。

 

「待ちな」

「なにするアルか!?」

 

 睨む神楽。が、沖田はまったく怯まず訊く。

 

「今行って、おめェはなに言うつもりだ?」

 

 目を細める沖田の前で、神楽は「う~ん……」と考えて口を開く。

 

「とりあえず、『魔法使えるようになったら私にも教えてね!』と予約するつもりアル」

「前々から思ってたが、お前バカだろ?」

 

 こんな時でもマイペースな神楽に対して、沖田は呆れた表情を浮かべてから、土方に顔を向ける。

 

「土方さん、正直な話マズイですぜこれは。下手したらなのはの奴、魔法の世界に関わらないなんて事もありますぜ?」

 

 沖田の言葉に、土方はドッと冷や汗を流す。

 

 そりゃそうだ。これから自分が危険な戦いに巻き込まれ、更には一人の少女の理不尽な運命を目の辺りにしなければならない。

 成り行きや進んできた道で見てしまった光景だからこそ、足を止めずに進んで行けると言うもの。が、あらかじめ何が起こるのか分かっているとなれば、それを避けようという考えだって、浮かんでくる。

 

 そのことを、沖田はすぐに予測したのだろう。

 

「ぼ、僕が行って来ます!」

 

 新八の言葉を聞いた土方が、目を細める。

 

「で? お前はなんて言うつもりだ? 〝これから魔法少女頑張ってね〟、なんて言うつもりじゃねェだろうな?」

「そ、それは……」

 

 新八は口ごもってしまう。どうやら勢いだけで、特に言葉などは用意してなかったようだ。

 

「まー、起こっちまった事は仕方ねェでさァ」

 

 と言って、沖田が土方の肩に手を置く。

 

「ここはフォローの達人。フォロ方さんの出番ですぜ?」

「誰がフォロ方さんだ!」

 

 ツッコム土方。やがて、新しいタバコに火をつけ一服し、焦りを吐き出す為に、ふぅ、と煙を吐く。

 

「今の俺たちが、なのはに何か言葉をかけてやるよりも、あいつ自身の心の整理が済んでからの方がいい。焦って問題を解決しようとしても、余計に空回りするだけだ」

 

 さすがはフォローの達人と言ったところか。例え焦っていてもクールに頭を働かせる。それが土方十四郎クオリティ。

 

「副長、上手くまとめましたけど……」

 

 山崎は汗を流しながら言う。

 

「ただ単に、外出たなのはちゃん追いかけても、土地勘のない俺たちじゃ迷子になるってわかってるからじゃ……」

「山崎、後でタイキックな?」

 

 と土方。

 

「ええッ!?」

 

 いらんこと言ったせいで山崎は涙目になるのだった。

 

 

 ――どうすればいいの?

 

 公園で、なのははそのことばかり考えていた。

 

 ブランコに座り、ギィギィとブランコのチェーンを軋ませながら、下を向いて悩むなのは。

 

 故意ではないといえ、見てしまった――未来、しかも確定的であろう予想図を。アニメと言う一つのジャンルを介して、過去の出来事を学ぶように、なのはは未来の映像を見てしまったのだ。

 

 最初、ただの冗談かと思った。新八たちが作った、おふざけビデオか何かの類だと。だが、そもそも彼らにそんなモノを作る技術も場所も金も時間もないことは、小さいなのはでもすぐに分かる。

 では、アレはなんなのか? 映像が終わった後に始まった、彼らの論争。それから導き出される結論は、至ってシンプル――すべて彼らの言ってた通り。

 

 自分たちの世界はアニメの世界であり、アレは未来で起こる出来事――。

 

 自分――高町なのはがフェイトと言う少女といくつもの宝石を巡って、あんな派手な戦いをし、危険な目に遭い、最後には少女の悲しい結末の立会い人となり、そして最後は友情を育む。

 

 大衆を楽しませる為の一つの作品としての事件、とも言える出来事。そして、その主要人物として自分がこれから対面する。

 正直、頭は混乱し、気持ちはちぐはぐで、上手く整理できない。

 

 ――わたし、どうすればいいの?

 

 さきほど見てしまった未来の映像を忘れたまま過ごすことなど、自分には到底できるはずがない。それはなのはだけでなく、ほとんどの人間がそうだろう。

 ならばただ単に、自分は未来どおりの行動をし、言葉を発していけばいいのかもしれない。

 

 だがそれでは、ただ教えられた事を忠実に実行するだけの――そう、糸で吊るされた人形みたいではないのか? そう考えると凄く悲しい気持ちになる。

 

 映像を見て後悔した気持ちさへある。

 だからと言って、新八たちを恨む気持ちは微塵も無い。あれは勝手に覗き見してしまった自分が悪い、そうなのはの中では結論が出ていた。

 

 誰が悪いわけでも、不幸な出来事が起こったワケでもない。

 自分の中でどう決着をつけるのか、それが問題なのだ。

 

「はぁ……」

 

 なんとか胸につっかえたモノを吐き出すように、ため息を吐く。心のもやを晴らすように、空を見上げる。太陽が眩しいだけだった。

 

「あぁ~もぉ~! どうすればいいのぉ~!?」

 

 しまいには頭をワシャワシャと掻き乱す。納得のいく答えがまったくみつからなく、頭がパンクしそうである。

 

「なのは、あんたなにやってんの?」

「えッ?」

 

 少し驚き、自分の名前を言った人物の方に顔を向けると、すずかを連れたアリサが立っていた。

 アリサは肩眉を上げて、怪訝そうな表情になる。

 

「あんた公園で、なに自分の頭クセ毛だらけにしてんのよ?」

「いや、これはそのぉ……」

 

 ボサボサ頭になったなのはは、気恥ずかしそうに顔を逸らしてしまう。

 

 

 

「ふぅ~ん」

 

 アリサは首を上にあげて、空を見上げる。

 

「自分が未来で起こる出来事を知ったら、どうするか……」

 

 なのはの話をあらかた聞いたアリサとすずかは、彼女同様にブランコに座っている。

 

 やって来たアリサとすずかに、なのはは今自分が悩んでいる事を『マンガの主人公の話』と言う前提で話した。

 仲の良い親友二人は、自分の話にちゃんと耳を傾けてくれている。

 

 空を見上げていたアリサは、顔を下ろし、ジト目でなのはを見る。

 

「って言うか、なのは。学校の帰りに『今日、定春を散歩させてみたいから神楽に頼んで』って言ったのに……」

「あッ……」

 

 アリサとの約束を忘れていたことに、なのはは声を漏らす。まぁ、親友との約束を忘れるくらい、衝撃的なモノを見てしまったので仕方ないが。

 

「あんた、そんな良くわからない事でずっと悩んでたの? あたしの頼み、忘れるくらい」

 

 アリサはうらめしそうな眼差しを向けてくる。

 

「ご、ごめんアリサちゃん……」

 

 なのはは申し訳なさそうに頭を下げ、アリサは怪訝そうな表情。

 

「そもそもあんたの悩んでいることって、アニメだって言ったけど、本当は占いとかじゃないの? 悪い結果が出たとか?」

「えッ……?」

 

 と声を漏らし、なのはは顔を背け、曖昧に答える。

 

「ま、まぁ……そんな、感じ、かな?」

 

 嘘を上手く付けないなのはとしては、精一杯の誤魔化しをしたつもりだ。

 さすがに本当のことには気付かなくても、自分のことについて悩んでいるのではないか? とは勘付かれたようだ。

 

 まぁ、本当は違うのだが、バカ正直に『わたしたちの世界はアニメで、これから起こる未来を知って困ってるの』なんて言っても信じてくれないし、下手したら頭おかしいと思われることだろう。

 ここは敢えて、アリサの推理どおりに話を進めた方が良い、と思ったなのはは、占いという体で話を進める。

 

「なんて言うか……詳細に自分の未来が分かったら、アリサちゃんはどうする? しかもとても大きな事件に巻き込まれるって、分かったら」

「んー……」

 

 さすがは自慢の親友の一人だ。バカバカしいと言わず、ちゃんと考えてくれる。

 なのははそんな優しいアリサの悩む姿を見て、嬉しそうに頬を緩ませる。するとアリサは、あっけらかんとした顔で。

 

「まぁ、別に深く悩む必要はないんじゃないかしら」

「えッ?」

 

 なのはは、アリサの言葉にキョトンとした顔。

 アリサは人差し指を立てる。

 

「だって、未来が分かったからと言って、その通り事が起こるとは限らないじゃない」

「でッ、でももし……! 百パーセント起こる未来だったら……」

 

 なのはも、あのアニメによる未来が絶対に起こると信じているワケではないが、敢えてこの言い回しで、アリサがどんな答えを出すのか知りたかった。

 それにより、自分の答えも決まる気がするから……。

 

「いやいや、さすがにそれは言い過ぎでしょ」

 

 とアリサは右手を振って、言う。

 

「だって、〝未来が分からない自分だから起こる未来〟なんでしょ? その未来に関わる人が先の未来を分かったら、その通りの未来になるとは限らないんじゃないの?」

「あ……確かに……」

 

 なのははアリサの言うことに思わず納得してしまう。たしかに、未来なんてのは別に先が決まっているワケではない。

 行動一つで、いくらでも可能性は生まれてくるのだから――。

 

 すずかもアリサに続く。

 

「わたしも、アリサちゃんほどじゃないけど……悪い未来なら、良い未来にするように頑張って、良い未来ならその通りにする、でも良いと思う。でも、知った未来よりももっと良い未来にしよう、って考えで良いと思うんだ。だって、どういう事をすれば、その未来になるのか分かるなら、悪い事が起こらないように動ける、ってことだよね?」

 

 すずかは安心させるようにニコやかな笑みを浮かべ、アリサが首を縦に振って同意する。

 

「すずかの言うとおり、もっと単純に考えなさい。別に絶対起こる事だったとしても、全部が全部その通りってワケじゃないんだから」

 

 アリサがやれやれと首を振る。

 つい自分の中に抱え込んで、すぐに深く悩んでしまうなのはの性格を理解しているだろう。とは言え、ちゃんと親友に相談するというのは、それなりの成長と言えるが。

 

「うん。……うん、確かにそうだよね」

 

 なのはは憑き物が落ちたような顔で、かみ締めるように深く何度も頷く。親友二人の言葉で、今の悩みに対する自分なりの答えが、段々決まってきたからだ。

 

「とりあえず、悪い未来ならもっと良い未来になるように頑張りなさい!」

 

 アリサはバンッ! となのはの背中を叩き、

 

「うわッ!」

 

 後ろから押されたなのはは、前に飛び出す。

 アリサから喝を入れられたなのはは、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「アリサちゃん……」

「ま、気持ち切り替えなさい。ようは、あんた次第ってことでしょ?」

 

 アリサは頑張れと言うようにウィンク。

 親友の励ましを受けたなのはの顔は、ぱぁーっと明るくなり、「うん!」と力強く頷いた。

 

「わたし、家に戻るね! しなくちゃいけない事があるから!」

 

 そう言って、なのはは走って自分の家に戻る。その顔に悩みは見られない。

 

「あッ、帰るならちゃんと神楽に、定春を貸してくれるように頼んでおくのよぉ~!」

 

 ちゃんと目的を忘れないアリサお嬢様。

 

「わかったーッ!」

 

 なのはは、親友に手を振りながら走って行った。

 その姿を満足げな表情で見守る、アリサとすずか。

 

「にしても……なのはって、あんなに占いで悩むタイプだったかしら?」

 

 顎に手を当てるアリサ。すずかは口に人差し指を当てながら、上を向く。

 

「ん~……もしかしてなのはちゃん。今日は悪い運勢で、その通りのことが起こってばっかだったから、落ち込んでたのかな?」

 

 まさかなのはの悩みが、『アニメで見た未来』に悩んでいたなどと、アリサもすずかも思いもしないだろう。

 すると、アリサのポケットにいた『デバイスのフレイア』が、ヒョコッと出てきて言う。

 

《いやいや。もしかしたら、本当はここがアニメの世界だから、悩んでいたとかかもしれませんよ~?》

「いや、さすがにそれはないでしょ」

 

 アハハハハと笑いあうアリサとすずかであった。

 

 

 

 そして当のなのはは今更になって、ある事を思い出した。

 

 ――あ……わたしの世界が、アニメだってこと、忘れてた……。

 

 未来の出来事に向き合うことはできたが、自分の世界がアニメの世界なのかどうか。その悩みをまだ解決できなかった事を思い出す。

 

 しかし、自分ひとりで悩まず、それも含めて新八たちと相談していこうと、思ったなのはであった。

 

 

「どうするんですか土方さん!?」

 

 新八の必死な訴えに、何も喋らず、ただ黙って腕を組む土方。タバコを口に咥えている彼の顔は、汗の粒がいくつも流れていた。

 新八は不安そうに問い詰める。

 

「なのはちゃんの心の整理がつくまで待とう、って言うのはいいですけど……。なのはちゃん、いつまで経っても考えを整理しきれないんじゃ、ないですか?」

 

 新八の言うとおり、なのははリリカルなのは主人公で、歳の割にしっかりした女の子。と言っても、結局のところは、まだまだ成長途中の子供であることに間違いない。

 あんな誰もが経験した事がないであろう事実を、目の辺りにした――と言う現状に、小さな女の子がどう向き合うのか、心配しない方が無理な話だ。

 

「やっぱり、原因の僕たちが、なのはちゃんに言葉をかけてあげるべきですよ」

 

 今もなのはが苦しむように悩んでいるかもしれない、と考えると居ても立ってもいられない新八は訴える。

 

「僕の軽率な行動で、なのはちゃんを傷つけてしまったと思うんです。だから、なのはちゃんを気持ちを少しでも軽くするための言葉が、必要なんじゃないでしょうか」

「う、うむ。そうだな」

 

 やっと相槌を打つ土方に、新八は強い眼差しを向ける。

 

「で、僕は考えたんですけど、ここは〝土方さん〟が適任じゃないかと思います」

「ッ!?」

 

 え? なに言ってんのコイツ? と言う視線を、土方は眼鏡に向けるが、すぐにクールフェイス。

 

「……そ、そうか? まァ、別にいいけどよ」

 

 しょうがねぇな、と言う顔を土方は作るが、裏の顔はと言うと……。

 

 ――なにが『で』、だ! お前が原因なんだから、お前が尻拭いするんじゃねェのかよ!?

 

 めちゃくちゃ困って、焦っていた。

 

 そりゃ、そうだ。あんな小さい少女の今後の考え方を左右するであろう言葉を、考える大役、それを押し付けらそうになっているのだから。はっきり言って、やりたくない。

 

 だが、土方の変化に気付いてくれない新八は、

 

「僕はなのはちゃんの為にかける言葉が、見つかりません。もしかしたら、余計に彼女を傷つけてしまうと思うんです。だから、僕としてはフォローの達人たる土方さんが、適任だと思います。きっと〝土方さんなら〟、なのはちゃんを元気付けられる言葉を持っていると思いますから!」

 

 期待の眼差しで訴えかける。

 

「あ、俺も土方さんがイイと思いま~す」

 

 と手を上げて軽い口調で賛同の意を示すのは、沖田。

 

「お、おう。まー、任せときな」

 

 と余裕綽々の顔を作る土方。だが裏の顔は、

 

 ――総悟ォォォォッ! なんでそういう時だけ俺押すの!? 嫌がらせも大概にしろよお前! つうか、俺だって『アニメで自分の未来を知って悩んでるガキ』にかけてやれる言葉なんて、持ち合わせてねェよ!!

 

 沖田を恨んで歯噛みする。

 

 しかし、新八にあんだけ関わるなだとか、心整理させとけとか、なんか色々偉そうなこと言ってきた身分としては、断りづらくてしょうがない。

 なんか、『この人ならきっと良いセリフを言ってくれる』的な空気になってるし。

 

 新八は拳を握り絞める。

 

「きっと土方さんなら、なのはちゃんを元気付けられる言葉を持っていると思いますから! ちょっと調子に乗ってた僕に、あれだけ偉そうなことを上から目線で言ってくれた土方さんを信用してます!」

 

 きらきらした瞳で見つめる新八に、真選組副長は心の中でツッコミ入れる。

 

 ――いや、お前どっちかと言うと、全然俺の言葉に納得してなくね!? なんか俺が嫌味で偉そうな奴としか伝わんねェよ! なに? そんなに俺の言葉、気にくわなかったの?

 

 正直、ここまで自分持ち上げられると悪い気もしなくないが、どう考えてもめんどうなことこの上ない。

 

「フッ……」

 

 土方は不敵な笑み浮かべる。

 

「まァ、任せときな。あのガキの心の重荷を、少しでも軽くできるかは、わからねェけどな」

 

 ようわからん自分のカッコつけに、心の土方は、

 

 ――なにが『フッ』、だ! なんで俺は無駄にカッコつけてんの!? 心の重荷ってなに!? 俺はバカなの!?

 

 自身の考えとはまったく反対のことを言う表の自分に、ツッコミまくる。

 

 しかしだ。ここで出来ないとかなんとか言って、断ろうものなら……。

 

『うっわ……土方さんてただ単に、上から目線の説教しかできない、口だけの人だったんですね。見損ないました』

 

 新八の軽蔑の眼差し。

 

『お前、今度からマヨラーじゃなくてニコラーだナ』

 

 神楽からのよくわからんあだ名。

 

『土方……フッ』

 

 鼻で笑う沖田!

 

 ――言えねェェ!! 断れねェェェ!! つうか最後の沖田は自分の想像だけど、すげェムカつく!!

 

 土方のプライドは後に退くことを許さない。

 

 周りの雰囲気に押されて『この人にやってもらおう』と言う、期待とか押し付けが入り混じった空気と言うものが、いかに性質が悪いのか分かった。

 

 すると、玄関の開く音が聞こえ、山崎がドアを少し開けてチェックする。

 

「あ、副長! なのはちゃん帰ってきましたよ!」

 

 ――なにィ!? もう帰って来やがった!?

 

 土方はいっそう汗を流す。もっと外で頭を悩ませてるものと思っていたが、予想より早く帰ってきやがった。

 新八が期待した眼差しで、土方に声をかける。

 

「土方さん。お願いします!」

「お前のフォローの力、フォー力の見せ所アル!」

 

 と神楽も便乗。

 

「いや、フォー力ってなんだよ!? フォースみたいに言うんじゃねェ!」

 

 ツッコミ入れる土方。

 

 そして走ってきたなのはは、土方たちの元までやって来た。膝に手を付き、ハァハァと息を乱しながら汗を流している。

 そんななのはに、ゆっくり近づいて行く土方は「ん、んん」とぐぐもった声を漏らす。

 とにかく、なにかしらの言葉を出せねば、と声をかけようとした時、

 

「おい、なの――」

「――あの、皆さんッ!!」

 

 なのはは土方の言葉を覆い隠すほど、大きな声を出す。そしてそのまま言葉を続ける。

 

「わたし、公園でじっくり考えました! でも、まだまだ分からないことや理解できないことも、納得できないこともありますけど、これだけは言いに来ました!」

「えッ? そ、そうか」

 

 土方は思わず相槌を打ってしまう。土方だけでなく、他の面々も意外そうな顔で話を聞いている。

 なのはは強い意志を感じさせる眼差しで、言葉を出す。

 

「ちゃんとこれから起こる事に向かい合おうって! フェイトちゃんとか! ジュエルシードとか! プレシアさんとか! 色々あるけど、全部ちゃんと向き合っていこうって! もっと素敵な未来にしようって!! 未来のわたしでもない――ここにいる〝わたしが〟、正しいと思えることをしようって!!」

 

 どうやら彼女は誰でもない〝自分の考え〟で、動いていきたいと伝えているらしい。

 なのはの力強い意思が宿った言葉に、

 

「なのはちゃん……」「なのは……」

 

 新八と神楽は感銘を受けてか、目を潤ませている。

 なのはは言葉をさらに続ける。

 

「わたし、まだ自分の世界がアニメなのかもしれないとか、これから起こる事件にどうすればいいのか、分からないことばかりですけど、頑張って答えを見つけていこうと思ってます!!」

 

 そして、なのはは勢いよく頭を下げる。

 

「できれば、事情を知ってる皆さんにも、少しだけでもいいので、手伝って欲しいと思ってます!! 迷惑だと思いますけど!!」

 

 おねがいします!! と、最後に精一杯のお願いをするなのは。

 

 やはり自分一人で答えを見つけるのも、事件を良い方向に持っていくのも、限界があると感じたからだろう。

 そして、力不足な自分の力を補って欲しいと、頼み込む彼女の気持ちを、新八たちはちゃんと汲み取っているようで。

 

「もちろんだよなのはちゃん!」

 

 と新八は握り拳を作る。

 

「僕たちのせいでなのはちゃんを苦しめちゃったんだから、僕たちにだって、なのはちゃんを手伝う義務があるよ!」

「私たちにどーんと任せるネ!」

 

 と神楽は胸を叩く。

 

「なんか面白そうだし、手伝うぜ。あのDVババアを俺が折檻すればいいんだろ?」

 

 沖田は黒い笑み浮かべる。

 

「沖田隊長! ホントそういうのは自重してください!」

 

 山崎はツッコム。

 

 四人の言葉を聞いて、笑顔になるなのは。ベクトルが違う沖田は、たぶん無視していると思うが。

 

「みなさん、ありがとうございます!!」

 

 そしてもう一度、なのはは笑顔で頭を下げる。

 ちなみに、思いっきり蚊帳の外にいる土方は、

 

「…………えッ? なにこの空気?」

 

 呆然としながら、自分の言ったこと丸々無駄になったこの状況に、突っ立っているしかなかった。

 

 

 翌日。

 時空の海では、ある時空間船が飛んでいた。

 

 あらゆる色が混ざり、混沌とした光を放つ、とてもじゃないが人の目には悪いであろう時空の海を渡る為の船。

 その船を運転している副操縦士は、船長である操縦士に話しかけた。

 

「船長。あの『ジュエルシード』ってやっぱ……『ロストロギア』なんですよね?」

「ああ、そうだ。古代遺跡の調査を生業とする連中から預かった、重要な品だ。操縦ミスって落とすなよ?」

 

 船長はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。

 

「まぁ、落としたら落としたで、船長に責任なんでいいんすけど」

 

 さり気なく酷いこと言う相棒に「おい」と船長はツッコム。

 

「ですが、マジな話大丈夫なすかこの船? だってロストロギアですよ? 『次元犯罪者』の恰好の標的じゃないですか?」

 

 副操縦士の言うとおり、多くの異世界で犯罪を起こす次元犯罪者。

 色々種類はいるが、魔法世界でもランクの高い次元犯罪者ともなれば、次元の海から海へと渡り、事件を起こす。中にはロストロギアのような、強力な力を狙う者だっている。

 

 そんな連中が欲しがりそうな物を積んでいる船の運転をしていて、ビビるなと言う方が無理な話だ。

 

「そうビクビクするな。『管理局』以外で、この輸送船の経路も積んでいる物も知っている奴はいねぇはずだ。それに万が一犯罪者が来ようものなら、管理局お抱えの優秀な魔導師たちの餌食になるだけだ」

 

 ガハハハハハッ! と船長は豪胆な笑い声を上げる。

 彼の言った管理局とは言わば、あらゆる次元世界の秩序を守る、いわゆる魔法世界の警察のようなものだ。

 その優秀な魔導師たちが、この船には多く搭乗している。

 

「まぁ、そりゃそうっすよね」

 

 船長に合わせるように、乾いた笑いを浮かべる副操縦士。彼も、自分の考えがどうせ杞憂で終わる、と思ったようだ。

 

 だが、事態はすぐに急変する――。

 

 次元の海を渡る一筋の光。それは意思を持つように曲がり、まるで流星のように輸送船の船体に激突したのだ。

 ズドォーン! と言う凄まじい音と共に、船体が激しく揺れだす。

 

「な、なんだ!?」

 

 と船長が驚きの声を上げる。

 副操縦士も驚きの表情になり、船内は警報が鳴り、赤いランプが点灯し始めた。

 

 

 場所は変わって、船内通路。

 

 管理局から派遣された魔導師たちは、杖から魔力で構成された光弾を射撃し、応戦する。だが、標的はまったくと言っていいほどダメージを受けていなかった。

 

 魔力弾によってできる粉塵の中を歩きながら、敵は手を前にかざす。

 すると、敵の背後から現れた『ナニカ』が、口から魔力で出来た黒い光線を放つ。それは縦横無尽に通路を、焼き、抉り、貫通させ、破壊していく。

 

「ぐわぁッ!?」

 

 怪獣のように暴れまわるレーザーの攻撃に巻き込まれ、次々とやられていく管理局の魔導師たち。傷つき、倒れ伏していく魔導師たちを足蹴に、歩いて行く犯罪者。

 

 顔も体もまったく見せないとばかりに、肉体を覆った灰色のローブをなびかせ、目深に被ったフードから見せる眼光は、赤く光っている。

 長い袖から垣間見える――まるで悪魔のように先が尖った手を振る。そうすれば、背後で口から破壊の光線を出している、巨大な蛇のような黒いモノが、魔導師も船の内部も次々壊していく。

 

「フッ……。まぁ、局の〝ゆうしゅうな〟魔導師と言っても、この程度か」

 

 犯罪者は床に倒れ伏す魔導師たちを一瞥し、鼻で笑った後、そのまま破壊を続けながら歩く。そして倉庫の扉を壊し、目的の物が入ったケースの前まで、やって来た。

 

 カチャリ、とケースの蓋を開ければ、そこには青色に怪しく光輝く宝石が入っていた。

 数えれば、全部で二十一個。一つ一つ、丁寧にシリアルナンバーが刻んである。

 

「ほぉ、これがジュエルシードか……」

 

 赤い瞳を細め、ジュエルシードを見つめる犯罪者は、

 

「ん?」

 

 あることに気付く。壊した船の横穴から、小型船が、自分が乗っている輸送船から離れていく姿だ。

 

「どうやら、ロストロギアよりも、命を選んだみたいだな」

 

 途中から、管理局員が邪魔しに来なくなったところを考えると、船が爆発すると見越して、ほとんどの搭乗者たちは脱出したようだ。

 ズドンッ! バゴンッ! と大きな破壊音がする度に、大きく揺れる船。

 

「――どうやら、潮時だな」

 

 襲撃者はそう言った後、手にしていたジュエルシードをすべて、船の空いた穴から、次元の海に投げ出した。

 

「これで、ジュエルシードは船の爆発の衝撃で、地球に行く。後は、〝ひな鳥〟が育つのを待つだけだな」

 

 次元の海でも、光を放ち続けるジュエルシードを見ながら、心底おかしそうに笑い声を漏らして、犯罪者は船から脱出した。

 

 しばらくして輸送船は爆発し、ジュエルシードは爆破の影響で飛ばされてしまう。

 

 

 その夜、海鳴市にはいくつもの流れ星が降る。その数、全部で21――。

 

 


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