魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今回は宇宙最強のハゲが登場します。


第十六話:エイリアンにだって知能くらいはある

 ――拝啓 神楽ちゃん。

 

 もう、神楽ちゃんが地球にやって来てから、何度目だったか分からない手紙を、送らせてもらいます。

 お父さんの頭は不景気ですが、仕事の景気は良いです。

 前もG級の危険種指定になっていた、リオレイヤだとかジンオウガとか言う連中をサクッと片付けてきました。

 

 最近は、神楽ちゃんが田舎臭い地球の空気に染まって、少し野生児化していないか心配になってます。

 ここんとこ、単身赴任のお父さん特有の、置いてきた家族が心配になってきた的なアレのストレスで、お父さんの毛根に多大なダメージが出てきました。

 ですが、ご心配なく。心配の原因は主に、あの腐れ天パ野郎と、思春期エロ眼鏡のせいなので、神楽ちゃんは気にしないでください。(一回あの二人はシメてやろうか考え中です)

 

 話は逸れましたが、神楽ちゃんは今も元気に地球で楽しく暮らしていますか? 

 色々な経験を得て、お母さんみたく慎ましくも芯の強い女性になることを、切に願っているしだいです。でも、お母さんの怖い部分まで似ないでください。お父さん、年甲斐もなくマジ泣きすると思います。

 神楽ちゃんが元気にやっていけるよう、お父さんもお仕事頑張って()るつもりです。

 

 ただ、最近はお父さんが狩り過ぎてしまったせいか、殲滅やら殺戮の依頼が減ってしまい、商売あがったりです。

 最近では、私と似た家業を営んでいる、M78星雲の光の使者と宇宙怪獣をどちらが殺すかで揉めました。

 

『ジュワッ!』

『そうですか。うちも娘の為に頑張ってるんですよ』

 

 とりあえずめんどうだったので、怪獣と一緒にシバキました。

 光の使者さんのビームが、お父さんの頭に当たって反射した時、とても悲しい気持ちになりました。

 そんなこんなで、仕事が減ってしまい暇になったお父さんは、近いうち地球に向かおうと思います。来週の週末には着く予定です。

 神楽ちゃんに久々に会えるのを、年甲斐もなくワクワクしています(笑)

 

 愛しのパパより――。

 

 P.S.

 一応大事な話もあるので、できれば予定は空けといてください。

 

 

 場所は江戸。

 歌舞伎町に店を構える『スナックお登勢』の扉を、誰かがバンバンと叩く。

 

「ん? 誰だい?」

 

 タバコを吹かすオーナーのお登勢は首を傾げ、

 

「準備中ノ看板ガ見エネェノカ? ペッ!」

 

 キャサリンがガラ悪く唾を吐く。

 夜が基本営業のスナックに、昼間からやって来る変わった客に訝し気な視線を送る二人。

 お登勢はタバコを吹かしながら、

 

「悪いけど、今は準備中だよ」

 

 帰るように促すが、

 

「俺は別に飲みに来たワケじゃない。少し聞きたいことがあるだけだ」

 

 相手はどうやら客ではないようで。聞いて「はァ……」と息を吐くお登勢は、キャサリンにチラリと視線を向ける。

 

「しょうがいね。ほらキャサリン、扉を開けてやりな」

「マッタク世話ノ焼ケルヤツネ」

 

 文句垂れながら引き戸を開けるキャサリン。

 

「ハイハイ。ドチラ様――」

 

 扉を開けたキャサリンの目に飛び込んできたは――。

 全てを飲み込まんと言わんばかりの(アギト)を開き、鋭い眼光に、水牛のような角を生やした、ドラゴンみたいな生物のでっかい頭――それが、スナックお登勢の入り口にあった。

 

「ウギャアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 とんでもない来客に、さすがに度肝抜かれたキャサリンは、驚きのあまり尻餅を付き、白目剥いて気絶してしまう。

 さすがのお登勢も、とんでもなく凶暴そうな生物の頭を見て目を見開き、掃除していた機械(カラクリ)家政婦のタマは、守るようにお登勢の前に出る。

 

「お登勢様。お下がりください」

 

 タマはモップを構える。

 

「お掃除モードのレベルをマックスに致します」

「あァ、悪い悪い。驚かせちまったか。そう言えば、あんたとは初対面だったな」

 

 声を出したのは、怪物の横をすり抜けて出てきた男。その姿を見て、お登勢の目が少し鋭くなる。

 

「あんた……」

 

 右手にゴツイ和傘を持ち、着ている服は砂漠の横断者のような装い。一切の肌を見せる部分がない灰色のマントを羽織り、マントの下もまた、膝まで隠すようにコートで体を覆っている。

 ブーツを鳴らしながら入って来た男は、

 

「――すまないが、神楽を知らないか? おみやげも持って来たんだがな」

 

 最強のえいりあんばすたーの星海坊主(うみぼうず)だった。

 

 

 スナックお登勢の前には、ドラゴンのような生き物の頭がそのまま無造作に置かれ、外では通行人が大騒ぎしている。

 

 酷い顔で気絶しているキャサリンを椅子に座らせた後、やって来た星海坊主は、お登勢に事情を話した。

 

「まァ、これでも飲みな」

 

 話しを一通り聞いたお登勢が、酒の入ったグラスを出す。

 

「なら、お言葉に甘えて」

 

 星海坊主はグイっと酒を飲み干す。

 

「ふぅ……。やはり一仕事あとの酒はいいもんだ」

 

 口を拭う海坊主を、お登勢はまじまじと見る。

 

「にしても、宇宙一の掃除屋ねェ。まァ、あの子からちょくちょく話には聞いてたけどさ」

 

 そう言ってお登勢は、未だに自分の店の前を塞いでいる怪物の頭を横目で見る。

 

「まァ、あながち嘘じゃなさそうだね。あんなもん土産にして来るんだから」

 

 お登勢は「子が子なら、親も親ってとこかねェ」と言って、ふぅとタバコの煙を吐く。

 星海坊主は二階の方に視線を向ける。

 

「それで婆さん。早速で申し訳ないんだが、神楽ちゃんがどこに行ったのか知らないか? 二階にある、腐れ天パの事務所に行ってみたが、どこにもいなくてな」

「さーね。いなくなっちまった銀時の野郎を探すために、出かけちまって一週間経つけど、それ以降音沙汰なしさ。どこで道草食ってんだか、てんで見当がつかないよ」

「あの腐れ天パ……! またしてもうちの娘になにかあった場合は、しょうちしねェぞ……!」

 

 ピシっとガラスのコップにヒビが入る。

 娘を溺愛している最強のエイリアンバスター星海坊主。彼の目は愛娘を心配するあまり、血走っていた。

 

「んで、あんたの娘は今ここに居ないわけだけど、このまま帰ってくるまで待つかい? まァ、いつ帰ってくるかは未定だけどね」

 

 お登勢はタバコを咥え、体に悪い煙を吸い込む。老婆の言葉に星海坊主は首を横に振る。

 

「いや。いくら最近仕事が減って時間が出来たと言っても、俺にはまだまだ抱えている案件があるんでな。神楽ちゃんに今会えない以上、ここに長居するつもりはない。今回地球に来たのも、半分は娘の顔を見るためでもあるが、もう半分は仕事の為なんでな」

「そうかい……」

 

 ふぅとお登勢は吸った煙を口から出す。

 「ああそれと」と言って、星海坊主は親指で化け物の頭を指す。

 

「あの土産は酒の礼に、あんたにやるよ」

「持って帰りな」

 

 ばっさりと断るお登勢。

 星海坊主はカウンターに立てかけて置いた傘を手に持ち、立ち上がる。

 

「とりあえず、俺はこのまま警察のとこまで行って来る。ああ、それと。頼みと言っちゃなんだが、もし神楽ちゃんが帰ってきた時の為に伝言――もとい忠告を頼まれてくれないか?」

「ん? ないだい?」

「ある、えいりあんについてなんだが――」

 

 

 場所は変わって真選組屯所

 

「――知能をもったえいりあん~?」

 

 と肩眉を上げて訝し気な表情を作るのは、幕府直轄組織――警察庁の長官、松平(まつだいら)片栗虎(かたくりこ)

 

 床が畳の一室で、海坊主と警察の超お偉いさんが、対面して座っていた。

 その様子を、他の隊士たちが、襖を少し開けて覗いている。

 

「あァ。最近見つかった新種らしい」

 

 と言って、首を縦に振る星海坊主。

 

「それで、その知能を持ったえいりあんてのが、ちょいと厄介なヤツでな」

 

 ちなみになぜ、彼が幕府の重鎮の一人である松平のとっつぁんと対面して話しているかと言えば、それだけこれから話すえいりあんが危険であり、重要な案件として扱われているからだ。

 星海坊主は説明を続ける。

 

「元々、えいりあんてのは俺たち天人(あまんと)と違い、知能は基本的に動物と同じレベルだと考えていい。だが、今言ったえいりあんは人間並みの知恵を持っている」

 

 おいおい、と松平は腕を組んで眉を寄せる。

 

「知能を持っているんなら、天人(あまんと)って扱いなるんじゃないのか?」

 

 彼の言うとおり、動物のように知恵を持たず本能のままに動き回る生物は基本的にえいりあんに分類されている。だが、知恵があれば天人(あまんと)と言っても差し支えないのではないだろうか。

 

「まァ、星々のお偉い方の連中も、集まった情報を元に吟味したんだが、その生物の特殊性や能力的な危険度。知恵がありながらも、持ち合わせた凶暴性を考慮した結果、第一級特殊危険型えいりあんて扱いになったそうだ」

「なるほど。そんで、地球にえいりあん狩りに来たあんたは、ついでに俺たち警察にも忠告をしに寄った、と」

 

 探りを入れながら、星海坊主に喋りかける松平。普段は横暴な上司である彼も、今は警察の重役としての凄みが垣間見える。

 星海坊主は頷く。

 

「まァ、そういうことだ。俺も地球にそのえいりあんが居ると言う情報を受けて、やって来たしだいだ」

「ふぅ~ん。なるほど、な」

「そう言えば、気になっていたんだが……」

 

 星海坊主は周りに目を向ける。

 

「あの人間みたいなゴリラの……〝こんどう〟、とか言う奴は居ないのか?」

「ん? あ~……」

 

 松平は顎に手を当て上へ顔を向けた後に言う。

 

「あいつは今、出張中だ」

 

 

「へくちッ!」

 

 檻の中に囚われている近藤はクシャミする。

 

 

「それでだ。その特殊型ってのは何種類いるんだ?」

 

 松平はサングラスの奥の眼光を鋭くする。

 

「確認されている種類は、今のところ二匹」

 

 星海坊主は指を二本立てる。

 

「うち一匹は、宿主に寄生。そのまま肉体を乗っ取ると言う能力を持っているのだが、その辺は寄生型えいりあんとそう変わらん。ただ、そいつが知恵を持っているのが問題でな」

「するってェと?」

 

 松平は肩眉を上げる。

 

「外見どころか、身近な者が会話をしたとしても、そいつが寄生されたと言うことをまったく気づかせない。相手の脳の部分に取り付いて、宿主の情報を根こそぎ盗み見るそうだ。更には寄生した生物の能力を飛躍的に上げ、肉体を変化させると言ったこともできる」

「なるほどなァ。そいつァ、確かに厄介だ」

 

 松平は顎を撫で、星海坊主は説明を続ける。

 

「俺もその特殊寄生型を三匹ほど駆除したことがあるんだが、取り付いた人間の脳を調べた。ありゃあ酷いもんだった。脳のてっぺんに張り付いた虫みてェな奴が、触手を根のように脳に張り巡らせていた。俺も色んな寄生型えいりあんを見てきたが、あんな外見に影響を及ぼさず、内部だけ侵食する奴は初めて見た」

「なるほどな。それで、もう一匹は?」

 

 松平と星海坊主が話す部屋の前の縁側を、歩く影が一つ。

 

「もう一匹は――」

 

 星海坊主の目が縁側に向いた時、突然障子をぶち破って、一人の真選組隊士が刀を抜刀しながら星海坊主に向かって斬りかかる。

 

「ッ――!」

 

 星海坊主の眼光が鋭さを増し、一瞬のうちに真選組隊士の胸に、ズドン! と拳が叩きつけられた。

 

「ッッッ!」

 

 真選組隊士は声すら上げることなく、そのまま壁まで吹っ飛ばされる。地面を一度もバウンドすることなく、吹き飛ばされた男の体は、そのまま真選組屯所の壁すら破壊してしまう。

 すると、

 

「な、なんだァァッ!?」

「松平様ァ!! 大丈夫ですかァ!!」

 

 ぞろぞろと覗き見ていた真選組隊士たちが部屋に入って来る。

 

「てめェらァー! なに盗み聞きしてやがんだァ!!」

 

 松平の怒鳴り声に一部の隊士たちはすくみ上がり、すぐさま隊士たちは平謝りしだす。

 他の隊士たちは、海坊主に壁まで吹っ飛ばされた隊士の様子を見に行っていた。

 

「お、おい! なんだコイツ!? 体から緑の血を流してんぞ!?」

 

 一人の隊士が声を上げる。

 

 砕けた壁の奥に座り込むようにして気絶しているであろう隊士は、人間では流さないであろう色の血を、体中からダラダラ流していた。

 その気味の悪い色の血を見て、顔を青ざめさせる隊士たちは口々に言う。

 

「天人じゃあるめェし」

「って言うか、コイツ最近配属されたばっかの隊士じゃねェか!」

 

 すると突然、緑色の血を流していた隊士の目が開き、ギロリとその視線を星海坊主に向けた。

 

「ギギャアアアアアアアアアッ!!」

 

 凄まじい奇声と共に壁が破壊され、砂煙と共に出てきたのは、人間の姿をしていながらも、人間とは到底言えない怪物だった。

 口元は口裂け女のように裂け、爪は鋭く長く1mくらいまで伸び、太い舌を蛇のように長く伸ばし、背中からは何本も触手を伸ばしながら蠢かせている。

 

「な、なんだこいつはァッ!?」

 

 隊士たちが変貌した仲間の一人を見て仰天する。

 

「グググ――ギギャァァァァァァッ!!」

 

 と怪物が叫び声を上げたと同時に、ズドンッ! と星海坊主の傘の切っ先が、怪物の頭を吹っ飛ばす。そして頭を失った胴体は、そのままバタリと倒れる。

 怪物の頭をトマトのように吹き飛ばした和傘は、真選組屯所の壊れた白い壁を、更に破壊していた。

 

「――と、ま。今のがそのもう一匹だ」

 

 星海坊主はゆっくりと歩きながら壁に刺さった傘まで歩いていく。

 

「通称――変態型えいりあん」

 

 星海坊主が歩きながら、特徴を説明する。

 

「体を自由自在に変えることが可能だ。ちなみに、知能はあるんだが、正体がバレると狂犬病の犬みたく暴れ出す」

「う、星海坊主さんは、コイツと戦ったことがあるんですか!?」

 

 隊士の一人がした質問に、星海坊主は返答する。

 

「まァ、駆除したと言っても二匹だけだがな。ちなみに俺が駆除したヤツらは、戌威族の星にいたんだが、俺が着く前に正体がバレたらしく、戌威族の連中を好きなだけ虐殺しやがった」

「しかしまた、随分厄介な奴らが地球にやって来たもんだ」

 

 松平はタバコを吹かしながら、変態型えいりあんを見つめる。

 

「まァ、俺たちえいりあんばすたーの世界じゃ、新種の危険生物が見つかるなんて事は、よくある話だ。だが、問題なのはそこじゃねェ」

 

 星海坊主の言葉に、松平は眉を怪訝そうに動かす。

 

「ん?」

「この話は悪魔で噂レベルで確証はない」

 

 星海坊主は傘を抜き、向き直る。

 

「なんでも、こいつらをどこぞのイカれた科学者が〝作った〟って話らしい」

 

 

 どこかの研究室であろう一室。

 

「………………」

 

 そこには、いくつも『えいりあん』が何らかの液体に漬かっている。それを見ているのは、白衣を羽織った男。

 

 この研究室では、生物の研究をしていると思われるが、他にも生物だけでは飽き足らず、武器やら、薬品やら、他にもありとあらゆる分野の研究材料や資料であろう物が、研究室内にはキレイに整頓されて置かれていた。

 

「なるほどなるほど。これは面白い結果が得られた」

 

 白衣を着た男は、嬉々とした様子で手に持った紙に、研究結果を書いていく。すると、男の近くを音もなく、ある人物が降り立つ。

 

「ん?」

 

 男はゆっくりと後ろを振り向く。

 

「……おや、小次郎さん。もうお帰りですか?」

 

 やって来た人物に、白衣の男は柔和な笑みを浮かべる。

 

 やって来たのは、顔の右半分を前髪で隠し、黒いスカーフで口を隠している人物。

 顔を大分隠していて分かりづらいが、よくよく見れば、顔は女性よりの中性的さがある。厚着からでもわかる胸の膨らから考えても、女性と判断できた。

 

 右肩に、カラスのようなふわふわした黒い羽の塊を付け、黒い忍者服の上には、手が隠れるくらい袖が長い、黒いコートを羽織っている。

 彼女の右手に付けている鉤爪(かぎづめ)は、一本一本、先が鋭利で、これで引っ掻かれれば、肉など簡単に抉れてしまうだろう事が、容易に想像できる。そして、そんな彼女の手には、何か丸い物が鷲づかみで握られていた。

 

「それで、『パラサイト』くんは、ちゃんと持ち帰って来ましたか?」

 

 と言って、白衣の男は笑みを浮かべる。

 

「………………」

 

 何も言わずに彼女は左手を上げて、手に持っているモノを見せつける。彼女が鷲づかんで持っていたモノは、人の頭。しかも、誘拐事件の一件で沖田と一戦交えた、意嘆の頭だ。

 

「どうやら、ちゃぁんと『パラサイト』くんを持ってきたようですねぇ」

 

 白衣の男は、頭だけになった意嘆に顔を近づける。

 

 意嘆の顔は口から血を出し、鼻から血を出し、白目を剥いている。その表情はお世辞にも、やすらかな死に顔とは言えない。

 すると、ギョロリと死体の目が少しだけ動く。そして口が開き、

 

「おい」

 

 と、言葉を発した。

 

「おや? 生きてましたか」

 

 白衣の男は、あっけらかんとした様子で小首を傾げるだけ。

 意嘆の顔は口をぱくぱくと動かす。

 

「当たり前だ。〝本体〟の俺は無事なんだからな」

 

 白衣の男は首を傾げる。

 

「お聞きしますが、首から下は?」

「〝俺がいる頭〟から離したんだ。ちゃんと溶けて、ただのゲルになってるだろ」

 

 不服そうに話す首だけの男に、白衣の男は顔を離して、顎に手を当てる。

 

「そうですか。なら、問題ありませんね」

「それよりも、新しい体だ。新しい、か ら だ」

 

 白衣の男は「あー、はいはい」と笑顔で答え、背を向けて何かを取りに向かう。

 白衣の男が離れると、頭だけで喋るとても不気味な男に、黒い女の視線が注がれる。

 

「なんだお前?」

 

 生首は女を睨む。

 

「てめェが俺をこんな姿にしたんだろうが。見せもんじゃねェんだぞ」

 

 そう言われて素直に従ったのか、すぐさま視線を前に戻す黒い女。すると、白衣の男がロープで体を縛り、口をガムテープで塞いだ男を連れてくる。

 

「そいつが俺の新しい体かァ?」

 

 と意嘆は口元を吊り上げる。

 

「んん!?」

 

 意識はあるようで、生首だけで喋る化け物を見て、驚愕で目を見開く縛られた男。

 意嘆の頭は男を値踏みしながら言う。

 

「ちなみに、そいつはどんな奴なんだ?」

 

 白衣の男は答える。

 

「最近捕まった攘夷志士のリーダーの後藤仁(ごとうじん)と言う方らしいです。剣の腕は中々らしいですよ。まぁ、あの桂小太郎と同じで穏健派だったらしく、それほど目立った動きはしてなかったようですが」

「まぁ、〝この誘拐犯〟よりはマシかァ」

 

 ため息を吐く意嘆。

 

「顔も良さげだしな。そんじゃ、まッ。始めますか」

 

 そう生首が言った後に、黒い女は首をゆっくり床に置く。すると、生首は目を瞑り、縛られた男は不思議そうに見る。

 

「んん?」

「よぉ~く見ていてください。面白いものが見られますよ?」

 

 白衣の男は本当に面白いと言った感じに口元を歪める。

 すると、肉が裂けるような生々しい音と共に、生首の後頭部が開いていき、中から触手が顔を出す。

 

「キシャーッ!!」

 

 血を撒き散らしながら、小さな脳みそにピラニアの顔を付けたような生き物が、人の頭から飛び出したのだ。

 

「んんんんんッ!?」

 

 仁と呼ばれた男は、恐怖に顔を青くさせる。

 肌色の気色の悪い生き物は、クモによく似た六つの足で地面に立ち、背中の触手をウネウネと蠢かせていた。そして、その魚のような瞳が、仁と呼ばれた攘夷浪士に向く。

 

「ッ……!」

 

 異形の生物に見つめられ、仁は息を詰まらせる。

 

「キシャァーッ!!」

 

 そのままクモよりも更に素早く動き、六つの足をカサカサ動かしながら男に向かって歩いていく。

 それを見た仁はとにかく逃げようと暴れ出す。

 

「んんんんんんんんッ!?」

「ほらほら、暴れないでください」

 

 白衣の男は仁の肩に両手を置く。

 

 自分に向かってまっすぐ向かってくる化け物を見て、仁は多量の汗を流し、なんとか逃げようとする。が、縛られている上に、抑え付けられてしまっているので、逃げることができない。

 

 男の首まで這い上がった異形は、そのまま首にカブリと噛み付いた。

 

「んんんんッ!? ――ん……」

 

 仁は、すぐに気を失ってしてしまう。怪物の牙から毒を注入された為に、意識が昏倒してしまったのだろう。

 

 そして怪物は、その鋭利な足の一本を使い、仁の後頭部をメスのように切り開き、血が流れるのも構わず、更にはそのまま頭蓋骨も自分が入れるだけのスペースを作る。そして、軟体動物ように隙間に滑り込むように入り、仁の頭の中に侵入。

 脳の中では、怪物が背中の触手で脳を包むように巻き付け、先っぽに脳を突き付けると、更に小さな触手が根を張る様に、宿主の脳と体を侵食していった。

 頭の外側では、ゆっくりと開いた後頭部は閉じていく。

 

 そしてしばらくすると、寄生された仁の体が動き出し、肩をガキ、ガキと鳴らしながら動き出す。

 

「ん、ん~……」

 

 目をゆっくりと開き、仁が動き始めたことを確認した白衣の男はロープを解く。

 仁は口に付いたガムテープを剥がす。

 

「ふゥ~。前のより、この体良いな」

 

 首をコキコキ鳴らしながら、体の調子を確かめるのは、仁と言われてた男ではない〝ナニカ〟。後頭部にあったはずの切り傷は塞がり、後すら見えない。

 

「それは良かった」

 

 白衣の男は笑顔でナニカを見る。

 

「では、パラサイトくん。早速新しい体が手に入ったところで、お聞きしたいのですが、あなたが『夕観意嘆の時』に渡しておいたデバイスたちはどうしましたか?」

「ん? あー……あれか」

 

 パラサイトと呼ばれた、人に寄生する怪物は、宿主の体を操りながら後頭部をポリポリと掻く。

 

「失くした」

「ん?」

 

 白衣の男は、ニヤリと口元を吊り上げ、下から覗き込むようにパラサイトの顔を見る。

 

「では、デバイスたちの被験体も探せないまま、君は現地人にやられたってことですか? 寄生した君を圧倒するほどの人物なら、実に興味深いですねぇ」

「うるせェな。こちらとらデバイスの実験体になりそうな奴らを、ちゃんと確保するとこまでいったんだぞ? わざわざその辺のバカなゴロツキ共掻き集めて、その上宿主の性格を再現しながら動くのは、骨だったんだからな」

 

 まさか、あんなバカな奴とは思わなかったけどな……、と頭を右手で抑えるパラサイトは、アンニュイナな眼差しを向ける。

 

「つうか、お前の自信作かなんか知んねェけどよー……。あんなぎゃーぎゃーうるさいデバイス共なんて、さっさと廃棄すりゃあ良かったんだよ。まったく、俺たちに協力する気ゼロだったんだからな。俺たちに関する記録抹消してなきゃ、下手したらこれからの計画に支障が出るかもしれなかったんだぞ?」

 

 パラサイトの恨めしそうな眼差しに、白衣の男は笑顔のまま両手を出して言う。

 

「まぁまぁ、そう言わなくてもいいじゃないですか。視野を広げれば、アレはあなたたちの〝姉妹〟ってことになるんですよ?」

 

 ワザとらしい白衣の男の言葉に対して、パラサイトは舌打ちをする。

 

「チッ……。まー、それはそれとして、俺は一応役目は果たしたぜ。どうせあのクソデバイス共のことだ。俺が殺された瞬間には、隙を見て逃げただろ。しかも、自分を使いこなせる人間がいれば、当然そいつらの家にご厄介になっているはずだ」

 

 近くにあった三脚椅子に反対向きで座り、大またを広げながら、腰掛に腕と顔を乗せるパラサイト。なんだかんだ、思惑通りに事が運んだことに対して、笑みを浮かべている。

 

 白衣の男は忍びに目を向ける。

 

「小次郎さん。もちろん、二機のデバイスが選んだ(ロード)は確認済みですか?」

 

 小次郎と呼ばれた黒い忍び装束の女は、首を縦に振り、白いボードを出す。

 

『アリサ・バニングス。月村すずか』

「なるほどなるほど」

 

 と首を白衣の男は首を縦に振る。

 

「では、他の任務があるまで、彼女たちの監視をお願いします」

 

 言われ頷く小次郎。それを見てから白衣の男はパラサイトに顔を向ける。

 

「新しい体を手に入れたパラサイトくんには、これかもバリバリ働いてもらいますよ」

「たく、少しは休ませろってんだ」

 

 パラサイトは、ジロリと小次郎に目を向ける。

 

「風魔はその点いいよなァ。ただ見張るだけの仕事とか、楽でしょうがねェだろ」

『できもしない奴が威張るな』

 

 反論する小次郎にパラサイトは睨みきかせる。

 

「あァん? 忍びとか、影でこそこそするしか脳のない奴がなに言ってやがる」

『カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ』

 

 白いボードに書かれた顔文字に、青筋立てるパラサイト。

 

「なんだコラ。その唾なんだ? うぜェんだよその顔文字!」

『人のまわしを使わなければ、満足に生きれない寄生虫が偉そうなこと言うな』

「くッ!」

 

 ボードの文字を見たパラサイトからブチっと何かが切れる。

 

「……いいぜ? 俺の力、心ゆくまで味合わせてやろうか?」

 

 爪をシャキンと鋭利に伸ばすパラサイト。宿主の肉体を変化させられるからこそできる芸当を見せつける。

 小次郎もボードをしまい、クナイを取り出して構え出す。

 

「また喧嘩してんのあんたたち。みっともないわよ?」

 

 一色触発の雰囲気を放っていた二人は、声をした方を向く。そこには色が抜け落ちたような長い白髪に、肌が黒色の少女が机の上に座っていた。

 パラサイトが声の主を見て口を開く。

 

「……『トランス』か。お前も小次郎と同じで神出鬼没な奴だ」

「あんたが鈍いだけでしょ。小次郎はとっくに私の気配に気付いてたわよ?」

 

 トランスと呼ばれる少女は机から飛び降り、パラサイトの言葉に呆れたような声で返す。着ている白いワンピースと、腰まである白い髪をなびかせながら、彼らに近づいていく。

 トランスの姿を見て、白衣の男は柔和な笑みを浮かべる。

 

「どうでしたか、様子は?」

「ダメね」

 

 肩を落とすトランス。

 

「あっさりあのハゲたおっさんにやられちゃったわ。興奮するとすぐに理性飛んじゃうし」

 

 説明を聞いて白衣の男は顎を撫でる。

 

「そうですか。やはり、トランスさん以外の変態型えいりあんは、うまく理性を保つことができないようですね」

「仕方ないわよ」

 

 トランスはやれやれと頭を振って言う。

 

「私と違って、元々が違う『えいりあん』なんですもの。原料が違う物で、まったく同じ物を作ろうってのが土台無理な話よ」

「『プレシアさん』の『クローン技術』があれば良かったんですが、仕方ないですね。クローン以外では、失敗作しか作れないと言うことが分かっただけも収穫です」

 

 トラスンの言葉を聞いて白衣の男はやれやれと肩を竦める。

 

「しっかし、あのえいりあんばすたーめちゃくちゃだぜ」

 

 と言って、パラサイトは顔をしかめる。

 

「戌威星で暴れさせてた奴らまで、あっさり倒しちまうんだからな」

 

 仲間の言葉にトランスは、

 

「あのハゲとは正直、真正面から()り合うのはおすすめしないわね」

 

 頭を掻きながら汗を流す。

 

「まぁ、星海坊主くんのことはいいでしょう。良いデータを取らせてもらいましたし」

 

 白衣の男はトランスとパラサイトの言葉を聞いても、怯えるどころかニヤリと口元を歪める。

 そしてパンと白衣の男は手を叩く。

 

「では、改めて指示を出します。小次郎さんはデバイス所持者の監視とデータ収集を」

 

 頷く小次郎を見て、次に白衣の男は残った二人に顔を向ける。

 

「パラサイトくんは、これからも海鳴市で私の指示通りの行動をお願いします。トラスンさんは研究所で待機を。私も近々海鳴市に行くと思うので」

「わかった」「おっけー」

 

 それぞれ指示された二名は同時に答える。

 

「心してくださいね。そろそろ空から〝アレ〟が降ってくる頃なんですから」

 

 白衣の男は、これから起こるであろう事件を考え、ニヤリと口を歪めた。

 

 

 時の庭園の正面玄関に位置するであろう、門の前には銀時、フェイト、アルフの三人が立っていた。

 

「それじゃ、行くよ銀時」

 

 フェイトに言われ、銀時は無気力に返事する。

 

「はいよ」

 

 彼らはこれから、プレシアが回収を命じたロストロギアが落ちた地球へと向かう直前だ。あらかたの荷物を用意し、後は地球に転移するだけである。

 フェイトが転移の準備をしている時、銀時はふとある疑問が浮かんだ。

 

「なー、フェイト」

「なに? 銀時」

 

 素直に返事するフェイトとは違い、

 

「いまフェイトは転移魔法の準備してんだから、無闇に邪魔するなっての」

 

 アルフは不満そうに注意するが、銀時は構わず尋ねる。

 

「あのよ、地球に着いた後の寝床とかどうすんだよ?」

「あんたの家、って言いたいところだけど――」

 

 と言って、アルフはチラリとフェイトに目を向けると、少女は口を開く。

 

「あまり私たちの任務を他の人間に知られたくないから、あらかじめ拠点になりそうな場所は確認してある」

 

 金髪の少女の言葉に銀時は「そうかい」と言ってボリボリ頭を掻く。

 まぁ、あのうるさい二人に、この金髪と犬耳女の説明をする手間が省けてラッキー、と考えておけばいいだろ、と考える銀時。

 

「それじゃ銀時、行くよ」

 

 フェイトの言葉を合図に彼女は詠唱を始める。そして三人は光に包まれ、地球へと降り立った。

 

 

「フェイト。これどこに置けばいい?」

 

 アルフの問いに対し、フェイトは指示を飛ばす。

 

「あ、それは私の部屋に置いといて」

 

 拠点であるマンションまでやって来たフェイトたちは手続きを済ませ、今は転移と一緒に持ってきた荷物を整理している最中だ。

 アルフは三つのダンボール箱を軽々と持ち上げ、フェイトの部屋へと持っていこうとする。

 

「つうかさぁ――」

 

 とそこで、アルフは足を止めて眉をピクピクと動かし、

 

「なんであんたが率先してテレビ見てくつろいでんだよ!!」

 

 いの一番にテレビの番組を見ながら、ソファーでくつろいでいるダメ人間(銀時)に対して、怒鳴り声を上げる。

 銀時はアルフの怒りなど気にせず、ボーっとテレビに視線を向けながら口を開く。

 

「ほら、よくあるだろ。旅行行って、ホテル着いた後、別に番組が変わってるワケでもないのに、部屋に着いてすぐにテレビを付けちゃうだろ? ついわくわくするだろ? その気持ちと同じだよ」

「いや、知らねぇよそんな気持ち!! 屁理屈はいいからあんたも手伝え!!」

 

 そうアルフが怒鳴った時だった。

 

「――!?」

 

 様子が急に変わる銀時。なぜだか急に喋らなくなり、チャンネルを次々と変えながら、やっているニュースをじっと見ている。

 

 

「……どうしたんだい、銀時?」

 

 少し不思議に思ったアルフは、銀時の顔を覗き込みながら話しかけるが、特に返事は返ってこない。

 いくつもの汗を流しながら、少々困惑した表情を作っていた銀時は、しばらくニュースなどを見ていたが、やがてゆっくりとアルフに顔を向ける。

 

「な、なァ……パソコンとか。ない?」

「パソコン? ……あー、ネットに繋ぐ、機械の名前だっけ?」

 

 腕を組んで顎を摘まむアルフに、銀時は「そうそう」と言う。

 アルフは視線を横に流しながら、思い出しながら答える。

 

「いやー、そう言うのは、ないと思うよ? 必要最低限の物しか持ってきてないしね」

「そ、そうか。じゃあ、この辺の地図とかある?」

「地図? あぁ、一応フェイトがバルディッシュに、この周辺の地図を記録させておいたはずだよ。あんた、もうどこかに出かけたいのかい? って言うか、この辺の人間なんだから、地図なんて別に必要ないだろ?」

「ちょっと、な……」

 

 そう言って立ち上がった銀時に、首を傾げるアルフ。なんだか普段と様子が違う彼に、眉を潜める。

 

 しばらくして、フェイトに図書館などの市民館の場所を案内させた銀時は、図書館にやって来て、パソコンやら地図やら本やら片っ端から調べ上げ、更には図書館にいるスタッフなどに、この辺の地域のことなどを、色々と質問していた。

 その様子を不思議そうに見るアルフとフェイト。

 

 そして、調べるだけ調べて戻ってきた銀時のとぼとぼとした足取りは、元気の欠片も感じられない。

 汗を多量に流す彼は、一言。

 

「ここ、どこ?」

 


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