魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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ハーメルンでの投稿を始めました。
今のところは最新話に追いつくまでは数日中に次の話を投稿していく予定です。
ハーメルン版のタイトルに『魔法少女』が付く理由ですが、pixiv版ではタイトルの文字数に制限がありますので、なるべくタイトルの文字を減らすと言う理由からです。


始まり編
第一話:行列に並ぶのは結構しんどい


 ――この広い空には、幾千の、幾万の人がいて……。

 

 海鳴市。異世界の者たちが集った場所。

 

 ――そして、それ以上にたくさんの出会いと、別れがあって……。

 

 港近くには、肩までかかった栗色の髪をなびかせる少女。

 

 ――これは、小さな事件と奇妙な出会いの話。

 

 海を見つめる少女の手には、赤い宝石が握られている。

 

 ――小学三年の春に出会った小さな、だけど大切な……わたし達の出会いのお話……。

 

 そして少女の隣に並び立つ、銀髪の侍が一人。

 

 

 侍の国――江戸。

 この国がそう呼ばれたのは今は昔。

 

 天からの来訪者たる宇宙人――『天人(あまんと)』。彼らによって半ば強引にこの国は、人とは異なる姿をした者たちが、往来を堂々と歩く国へと変わってしまっていた。

 天人が来るまでは、刀を腰に挿し大手を振っていた侍の姿も今は見る影もない。彼らは『廃刀令』により肩身の狭い思いをすることを強いられている。

 

 そんな侍の国に己が侍の道の元、自分の魂を貫き通す男が一人。

 

「たく、今回はシケた依頼だよな」

 

 男は頭を掻きながらぶつぶつ文句を言う。

 

「なんで俺が、アニメのDVD買いに行かされなきゃならねーんだよ。なんだよ、『万事屋殿。実は頼みごとがあるでゴザる! 拙者、今回は非情に困っておりまして、万事屋殿に頼みに来た次第! 実は魔法少女リリカルなのはのヒロインたるフェイトたんの限定フィギュアを買いたいでゴザるが、その時間と重なって劇場版魔法少女リリカルなのは限定版DVDの販売がありもうして! 拙者としては、両方ともどうしても手に入れたい所だが、無情にもこの体は一つのみ! そこで、万事屋殿には限定DVDを手に入れると言うミッションを行って欲しいのでゴザるッ!! もちろん謝礼は弾むゆえ!! よろしくお願いいたしたッ!!』とか……メンドクセー依頼しやがって。俺はあのマヨネーズニコチン野郎とは違う人種だってのによォ……」

 

 さきほど言った自分の魂を貫き通す男とは、このやる気の欠片がもない男――坂田銀時(さかたぎんとき)である。

 

 銀髪に、クリッとした天然パーマ。死んだ魚のような目、まぶたは気だるそうに半開き。いかにも不幸とかがよってきそうな顔つき。全体的にやる気や努力など、前向きな感情から掛け離れた感じのする人物。

 着ている服はいつも、黒い長ズボン、黒いTシャツの上から羽織った白い着物を半分だけはだけさせている。腰に挿した木刀の柄には『洞爺湖』と彫られた文字。

 

 こんなご時勢。仕事を選んでいられない彼は『万事屋』――いわゆるなんでも屋と言う稼業を営んでいる。ひょんなことから自分に付きまとっている愉快な従業員を二人と一匹抱え込みながら、こうやって日々の生活費とパチンコ台を稼いでいるのだ。

 

 ハァ~……、と銀時は、今回のターゲットたるDVDを忌々しげに見つめながら、ため息をつく。

 

「つーか、どんだけ並んでんだよ。どんだけみんな魔法少女好きなんだよ」

 

 銀時は大通りを歩きながらグチグチ文句を垂れつつ、このDVDを手に入れるまでのつらい記憶を思い出す。

 

 指定されたDVDショップに行ってみれば、信じられないほどの長蛇の列が出来ていた。もちろんこの列は『劇場版魔法少女リリカルなのは』の限定版DVDを買うための行列。

 

 前は、最新ゲーム機を買うためにあらゆる手を尽くしたものだ。列の最前列を取るために策を、と言うか姑息な手段を、だったが。とは言え、今回はDVDを買える順番だったので特になにもせずに、ただ淡々と自分の番が来るのを待っていた。

 だが、その待ち時間が長いこと長いこと……。

 

 正直足が棒になるとかそんなことより、こんなオタクどもが大好きな、しかも興味のないDVDを、地味に長時間立ちながら待たされるのが、すんごくつらかった――主に精神的に。

 時々、俺……なんでこんなことしてんだろ? と(うつ)になった銀時。

 

「まァ、なんとか依頼成功したんだし、結果オーライとするか」

 

 銀時はまたため息をついて、自分の家たる万事屋に向けて重い足取りで歩いていく。

 その時、

 

「おォッ! 銀の字ッ!」

 

 右耳から聞こえる突然の声。

 銀時は「ん?」と反応する。だが、彼にはこの声の主が誰だかすぐに察せる。なにせ、自分を『銀の字』など特定のあだ名で言う人物など、一人しかいない。

 銀の字と自分を呼んだ人物に、銀時は渋々顔を向ける。

 

「なんの用だよ、じーさん」

 

 銀時は、またメンドーなやつが来たなー、という気持ちを顔にありありと見せる。

 手を振りながら銀時に向かってくるのは、ゴーグルを掛け、黄色いツナギを着ている、白いヒゲをたくわえた老人――平賀源外(ひらがげんがい)だ。

 銀時に駆け寄った源外は、笑みを浮かべる。

 

「まあ、そんな嫌そうな顔をするな銀の字。実は、お前に見せたい物があってな」

「どうせロクな物じゃなさそうなんで、パスするわ」

 

 めんどくさいジジイをあしらい、さっさとわが家であり仕事の拠点でもある万事屋に向かおうとする銀時を、源外は手を掴んで引っ張る。

 

「待てーいッ! 今回マジで力作の傑作なんだぞッ!」

「ふざけんなッ! どうせお前の発明品なんてロクなもんじゃねーだろうがッ!! つうかなんだよ力作の傑作って! どっちかにしろよッ!! 力作の失敗作なのかッ!? 傑作の駄作なのかッ!?」

 

 必死に抵抗する銀時に、源外は声を張り上げる。

 

「結局どっちもダメじゃねぇかッ!! ホントの今回はスゲーんだってッ!! だからホイホイ付いてきていいんだよ」

「いーやーだッ!! つうかお前は青いツナギの、ウホッ!! イイ男、なんじゃないだろうなッ!? ジジイの皮被ったホモなんじゃないだろうなッ!?」

「いいのかい? そんなホイホイ付いてきちまって? ワシは侍だろうが銀髪だろうがほいほい実験しちまうジジイなんだぜ?」

「いや、テメェが連れてこうとしてんだろうが! つうか今すんごいマッドな発言しなかった!?」

 

 そのまま、嫌がる銀時を源外は自分の工場に連れていく。

 

 

 

 

「たく、マジ一体なんなんだよホント。俺はこれから依頼終わらせなきゃならねェってのに」

 

 頭を掻き、心底嫌そうにしながら後を付いていく銀時に、源外は「まァまァ。すぐ終わるから安心せい」と言う。

 もちろんこの後、誰得なBL的な展開などはありはしなかった。そもそも、ジジイに掘られるのも掘るのも真っ平ごめんこうむる。

 周りの機械(カラクリ)たちから漂う鉄や油の臭に銀時は顔をしかめ、隣を歩く源外は得意げな笑みを見せる。

 

「実はな、前から考えていた発明品をついに完成させたんじゃわいッ!!」

 

 訝しげに片眉を上げる銀時をよそに、源外は近くにあった布を剥ぎ取る。

 そして、布に隠れていた発明品とやらがその姿を現す。出て来たのは、胴体は円柱の巨大なガラス製の箱、箱の下は複雑そうな機械の台で、太い数種類のパイプがつながっている、謎の発明品。見た目的にはポッドと言った方がいいだろうか。そう言う感じの物が鎮座していた。

 

 銀時は発明品を見て、目をパチパチさせる。

 

「コレ、なに?」

 

 源外は含み笑みを浮かべる。

 

「ふふふ……これこそ、俺の大発明ッ! 『瞬間移動装置』じゃッ!」

 

 ババーン! と自分の発明品の名を告げ、源外はそのまま得意げに説明を始める。

 

「こいつはあのターミナルの原理を利用して作った、小さい単体を別の場所へ一瞬で移動させる物でな。これがあればどんな遠くの場所にも、一瞬で行きたい放題な代物よッ! どうだ? すごいだろ銀の字ッ!」

 

 源外の説明を聞いた銀時は、真顔で告げる。

 

「いや……瞬間移動装置って、スケダンとのコラボで出てきたよな?」

「えッ?」

 

 突然のカミングアウトに源外の表情が固まる。

 銀時は「いやだから」と言ってからもう一度告げる。

 

「その瞬間移動装置って発明品。スケダンとのコラボで、作ってなかったっけ? おたく」

「…………」

「…………」

 

 二人の間になんとも言えない沈黙が訪れ、え? なにこの空気? どうすんの? みたいな雰囲気に包まれる。

 だがやがて、

 

「ええいッ! とにかくこん中に入れッ!」

 

 源外はいきなり銀時に蹴りを浴びせながら、半ば強引に装置の中に入れようとする。

 

「ちょッ! おいッ! なにすんだテメーッ!」

 

 文句を言う銀時は強引に装置に入れられる。どことなくジジイがなにかを誤魔化そうとしているのは気のせいだろうか。

 とにもかくにも瞬間移動装置に銀時が入り(無理やり)、扉が閉まる。源外が近くにある操作盤を弄くりだす。

 

「そんじゃま、銀の字。ちょっくら瞬間移動してくれや」

「おィィィ!? なにお母さんが子供にお使い頼む的なノリでとんでもないこと言っちゃってんのクソジジイッ!! 出せェェェェェ!! 俺をこっから出しやがれェェェェェ!!」

 

 身の危険を感じ取った銀時は、自分を閉じ込めている透明な壁をガンガンで叩きだす。

 焦る銀時の姿を見て、源外は忠告する。

 

「あ、それ特性の強化ガラスだから、並みの攻撃じゃ壊れんぞ」

「意外に金かかってんなおい! つうか俺はこのまま分けのわかんねェとこに飛ばさられるの確定なのかッ!?」

 

 銀時は頭を抱えて焦りだす。

 なにせこの源外と言う男。確かに江戸随―の機械(からくり)技師と豪語するだけあって、作る物は感嘆の声を漏らすような発明品ばかりを次々と作ってきたのは事実。だが、そんな才能以上にこの爺さんは偏屈で、無駄な改造や意味不明な改造をもちょくちょくやったり、作ったはいいが何かしらの欠陥があったりなど、案外安心できなかったりするのだ。

 

 傑作っつうか、いつも出来んのは欠作(けっさく)じゃね? と時たま考えたりする銀時。

 

 今回だって、この瞬間移動装置が信用できる代物とは限らないことは、銀時もそれなりに予測している。

 そして案の定、ピーッ! ピーッ! という不快な音がけたたましく鳴り響く。

 

「ありゃ?」

 

 と、源外は肩眉を上げる。

 

「ちょッ!? なにこの不吉な音ッ!? 中も赤く点滅してんだけどッ!?」

 

 銀時は冷や汗を流し慌てる。

 なんらかの問題が発生したようで、けたたましく鳴る電信音とともにカプセルの内部が赤く点滅しだす。操作盤の前で首をかしげる源外をよそに、銀時の不安は余計に高まる。

 操作盤の画面に映る文字を見て、源外は表情を険しくさせる。

 

「むッ? おい銀の字ッ! どうやら装置は内部にある異物に反応しているらしい! お前何か妙な物持ってないか!」

「ハァ? 妙な物つたって、俺が持ってんのはポケットのチョコと、このDVD以外には――」

「それだ銀の字ッ!!」 

 

 銀時が先ほどやっとの思いで買ったDVDを懐から出すと、源外がDVDにビシッと指を向ける。

 

「装置はそのDVDに反応してやがるんだ!!」

「ええええええええええええええッ!?」

 

 まさかの原因に銀時は口をあんぐりと開けて驚く。

 

「なんで瞬間移動装置がDVDに反応するワケッ!? 意味不明にもほどがあんだろ!!」

 

 一体どう言う紆余曲折があって瞬間移動装置にDVDなんてありふれた物が反応するのか、銀時は理解に苦しむ。

 混乱する銀時に源外は指示を出す。

 

「とにかく、そいつを捨てろ銀の字!」

「じゃあこっから出せジジイッ!」

「あッ……すまん。安全のために、一度入ったら装置が一度停止するまで、扉は開かない設計だったわ」

 

 いやー参った参った、と言う風に頭を掻く源外に、

 

「ジジイィィィィィィィィッ!!」

 

 溢れんばかりの怒声を銀時は浴びせる。

 そうやってグダグダやっている間に、カプセルの内部が一気に光に包まれ、銀時は怒鳴り声を上げる。

 

「ジジイッ! このまま地獄に瞬間移動だったら末代までのろッ――!!」

 

 銀時の声は途中で消え、彼が居た場所に残ったのはアニメのDVDだけ。

 なんとも空虚になった光景をぼうぜんと見ていた源外は頭を掻きながらポツリと呟く。

 

「……マズイな、こりゃ。神楽たちにも伝えておいた方がいいかな?」

 

 

 場所は変わり、次元の海に浮かぶ城――時の庭園。

 

 太陽、雲、空など、なにもない次元の狭間に浮かぶ城。

 時の庭園にある『玉座の間』には、玉座に座った一人の女性と、彼女の前に緊張した面持ちで立っている金髪の少女が居た。

 胸元が見える際どい黒いドレスを着た黒髪の女性は、玉座に座りながら金髪の少女に指示を出している。白い質素な服の上に、黒いコートを羽織った少女は、なんども女性の言葉に返事をして頷く。

 

 話す女性と返事をする少女の間。そこがいきなり、眩いばかりの光が出現し、発光。

 

「「ッ!?」」

 

 突然の事態に驚いた二人は身構える。

 そして光が消えるとそこには、

 

「…………えッ?」

 

 銀髪に死んだ魚のような目をした侍――坂田銀時が呆けた顔であぐらをかいていた。




もし小説の書き方でご指摘や参考になるようなことがありましたら、気軽に教えてください。
上手く反映できるか分かりませんが、作品がより読み易くしたいと思っていますので。

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