魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第二十七話:プールには危険がいっぱい

 海鳴市にある温水プール施設。

 

 今ここには高町家、月村家、バニングス家の仲良しご家族+ふきでものゴロツキ組(万事屋&真選組)が遊びに来ていた。

 

「なんか銀魂組の扱い酷くない!?」

 

 いつものようにふきでもの眼鏡のツッコミはさておき。

 

「なんか今回の地の文いつにもまして辛辣極まりないんですけど!?」

 

 と眼鏡が連続ツッコミ。

 

 今回はジュエルシードなど普段抱えている問題などは忘れ、パーッと楽しく遊ぶ日なのである。むろん温水プールという場所は、夏だろうが冬だろうが関係なく水で遊べるレジャー施設。

 

 ちなみに、今はあたたかい時期であり、休日だ。そのため老若男女問わず客は多い。

 当然、その中で目を引くは女性たちの水着&露出された素肌であろう。下心ありありの男でなくとも、ついついその水着姿(主に胸や尻)に視線がいきがちになるもの。

 そして多くの女性たちがいる中でも、ひと際キラめく女性の一団が一つ。

 

「うわ~、人がいっぱいだねアリサちゃん!」

 

 白を中心とした、フリルの付いたセパレードのなのは。

 

「まぁ、休日なんだし、こんなもんじゃないの?」

 

 オレンジを中心とした、トップスとボトムズにフリルが付いたセパレードのアリサ。

 

「ここ、温泉もあるらしいよ」

 

 白を中心とし紫の装飾がほどこされたワンピース型の水着のすずか。

 

「ほぉ、それは興味がありますね」

 

 目が興味津々と言った様子の女性は、月村家のメイド長であるノエル・K・エーアリヒカイト。彼女の水着は白を基調としたビキニであり、その大きな胸の谷間が垣間見える。

 

「すずかちゃんたち! さっそくボールや浮き輪の準備をしますね!」

 

 そう言いながらバッグの中から空気の抜けたゴムボールに息を入れるのは、ノエルと同じく月村家メイドのファリン・K・エーアリヒカイト。水着は紺のスク水姿だ。

 

「へ~、ここって、飛び込み台もあるんだね」

 

 と、周りを見渡す高町美由紀は競泳水着を着ている。

 

「あ、お姉ちゃん。その水着って新しいヤツだよね?」

 

 とすずかは横にいる姉に問いかければ、

 

「ええそうよ」

 

 頷く、月村家長女の月村忍。彼女はワンピース型の露出部分を多めにした水着を着用している。

 胸の谷間の露出がちらほらと男どもの視線を引き寄せ、同時に恭也の『にらみつける』も引き付ける。ちなみにこの月村忍は、高町恭也と恋仲なのだそうだ。

 この情報を教えられた時、新八がかなり苦い顔をしていたのは特に知らなくてもいいことであろう。

 

「いやぁ~、僕たちまで誘ってもらっちゃって悪いですね」

 

 と、新八は若干鼻の下伸ばし気味。

 

「ぺッ! これだから童貞色情眼鏡は……」

 

 と神楽は唾吐き捨てながらジト目を向ける。彼女はチャイナ服を模して作られた赤いフィットネス水着を着用。

 ちなみに新八を含めた男性陣は地味目のトランクス型やサーフパンツなどを着て、パーカー羽織ってるだけなので、特に記載することもないだろう。

 

「ホント今回の地の文による差別酷くない!? 水着回だからって男性陣ぞんざいにし過ぎにもほどがあんでしょうが!!」

 

 ツッコミを入れる新八を見て、なのはは「だ、誰に向かって怒鳴ってるんだろう、新八さん……」と困惑していた。

 

「いやァ~‼ こうやって美女たちの水着姿を拝めるとは、眼福とはまさにこのことですなァー!!」

 

 と恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフをデカい声で言うのは、真選組局長である近藤勲。

 

「おやおや、これはまた世辞の上手いゴリラさんですね」

 

 ノエルメイド長は微笑みながら結構ひでぇこと言う。

 「ところで」と言って、ノエルは目をパチクリさせて近藤の下半身に視線を向ける。

 

「あなたの『それ』は水着……なのですか?」

「ええ。自慢の一張羅です」

 

 赤いふんどし一丁で、惜しみもなく筋肉と素肌曝しまくっているゴリラ顔の偉丈夫は、サムズアップ。

 

「じゃ、ねェェェだろォォォォォッ!!」

 

 ドカァ!! と新八の渾身の蹴りが、近藤の背中にヒット。

 ふんどしゴリラはプールにドボンし、プールに入っていた客たちはぎょっとする。

 

「あんたなに自慢げに決め顔作ってんですか!? そんな恰好アウトに決まってんでしょうが!!」

 

 と、新八が顔に青筋浮かべながら怒鳴れば、

 

「まちな眼鏡」

 

 新八の肩に手を置く沖田総悟。彼はしたり顔で。

 

「今回、近藤さんは公共施設と言うこともあって、ちゃーんとPTOを弁えて来てるんだぜ」

「アレのどこが!? つうかTPOです!」

 

 当然の返しをする新八に対し、TPOを間違えた沖田は真剣な声で言う。

 

「普段の近藤さんであれば、ギャグと称して全裸で登場のところをふんどしで登場してんだぜ?」

「どうよすげェだろ? みたな顔されても困るんですけどッ!」

「近藤さんも成長してんだ、褒めてやんな」

「褒める基準がおかしい!!」

「近藤さんもそれなりに進歩してんだぜ」

「いや、だから! ふんどし認める理由なりませんから!! そもそもTPOのスタートラインにすら立ててないんですよ近藤(あの人)は!!」

 

 さすがに丸めこまれず、しっかりツッコミ入れる新八であった。

 

「確かに、新八くんの言うことも一理ある」

 

 プールに蹴飛ばされた近藤はいつの間にか立って、プールに下半身を沈めながら腕を腕を組む。

 

「俺とてこのような場で恥部を露出させるほど愚かではないさ。それに、俺は変態的な意味でふんどし一丁になったワケではない」

 

 水滴を垂らしながら真剣に語る近藤に、新八は半眼を向ける。

 

「じゃあ、ちゃんとした理由があるんですか?」

「いくら遊びに来たとは言え、俺たちは侍。刀を待たずとも、いついかなる時もその心構えを忘れてはいかん」

 

 ん? これはもしかして珍しくちゃんとした理由があるのでは? と、説明を聞いてつい思ってしまう新八。

 近藤は目を瞑り、語る。

 

「腰には一本の剣は差さっておらずとも、俺たちの股には一本の剣が宿っている」

「あの、いきなり下ネタぶっこんで来たんですけどこの人……」

 

 あ、こりゃダメだな。いつものパターン入った。と、新八は既に呆れ顔。

 新八のリアクションなど無視して近藤は語り続ける。

 

「俺たち侍は刀をひけらかす様に、むやみやたらに引き抜いたりはせん。それと同じように、股にぶら下がったこの一本の刀もまた、無暗に抜刀などできるはずもない」

「あの、真剣な顔で堂々と下ネタ長々と語るの止めてくれません?」

 

 だが、新八のツッコミをまったく聞き入れない近藤。

 

「俺たち侍が鞘から刀を抜くのは敵を前にした時。そして、水着男子の刀が抜けるのはいつか? 無論、水着女子(てき)を前にした時を置いて他にいない」

「おィィィィィッ!? 公共施設でなにとんでもないことほざてんだこのゴリラ!!」

「ゆるゆるの海パン(さや)ではすぐに抜刀してしまう。なればこそ、俺たち水着男子(さむらい)にとってこのキツキツのふんどしこそが、立派な鞘であることは明白」

「明白なのはあんたの下心ですけど!? つうかあんた侍でもなんでもないただの変態エロ男子だよ!!」

 

 ならばッ!! と、カッと目を見開く近藤。

 

「このふんどしできっちり帯刀している俺こそ、限りなく今日一番の水着男子(さむらい)と!!」

 

 そう言いながら、プールから上がる近藤の(ちん〇)は、モロ丸出しの抜刀状態だった。ちなみに近藤のふんどしは流れるプールに流されている。

 

「限りなく今日一番の変態はあんただァァァァァッ!!」

 

 新八の渾身のツッコミと時を同じくして、大量の女性の黄色い悲鳴が公共施設を覆った。

 

 

「あん? なんか、向こうやけに騒がしくね? ショーでもやってんのか?」

 

 そう言って人一人乗れる巨大浮き輪にだらりと体を預けているのは、銀髪天然パーマの男――坂田銀時。彼は簡素な青いトランクス型の水着を着ている。

 

「もしかして、ジュエルシード!」

 

 そう言って表情を引き締めるのは、黒色のセパレードを着たフェイト。その首には紐を通した刀のペンダントがぶら下げられている。

 彼女は手に持ったゴムボールを目の前の相手にポーンとパス。

 

『ご来場のお客様へ。ただいま、流れるプール付近で変質者が出没しました。係員が対応中ですので、くれぐれも流れるプール付近には近づかないようお願いします』

 

 とプール施設内に係員の放送が流れ、多くの客の顔が天井へと向けられていた。

 

「やっぱこういう人の多いところだと、変な奴の一人や二人現れるもんだねぇ」

 

 そう言って、パスされたゴムボールを受け取るのはアルフ。今は犬耳は露出させてないが、オレンジと白を混ぜた色のビキニを着て、普段より肌の露出を多めにさせている。

 使い魔は受け取ったゴムボールをフェイトにパス。

 

「でも、ここにジュエルシードがあるのは確か」

 

 厳しい表情を作るフェイトは、ウォータスライダーの列に並ぶ。

 

「ジュエルシードはまだ発動してないけど、二人共気を緩めちゃダメだよ」

 

 ウォータースライダーの滑る順番きたフェイトは、アルフに抱かれながら一緒に滑る準備をする。そして勢いよく水が流れるレーンを滑り、ゴールのプールにバシャーン!! と突撃。

 滑り終わったフェイトは顔を左右に振って髪や顔についた水を振り払い、後ろにいる二人に真剣な顔を向ける。

 

「私たちに、楽しんでる暇はないから」

((うん、めっちゃ楽しそうだね))

 

 と、内心ツッコミ入れる銀時とアルフであった。

 

 

 ――と言うワケで、ジュエルシード反応があったので、フェイト組もまたこの海鳴市温水プール施設に来ているのである。

 

「悪魔で私たちはジェルシードが目的。だから、この施設を回るのも発動していないジュエルシードを見つけるため」

 

 そう言いながら歩くフェイト。そんな少女を銀時は半眼で見る。

 

「お前、さっきのウォータースライダー十回くらい滑ってなかった?」

「でもこの人通りだと見つけ出すのは一苦労。だからこそ、視野を広くしないと」

 

 と言うフェイトの視線は上に向いていた。

 「お嬢ちゃん。今はバニラチョコがおすすめだよ」と店員におすすめ押されている少女に、銀時は半眼を向ける。

 

「うん、今お前の視線めっちゃ狭いよね? ソフトクリームに一点集中だよね?」

「銀時、いくら甘いものが好きだからって、バニラチョコにうつつを抜かしてちゃダメだよ?」

 

 と、フェイトはうるうる、キラキラとした視線を銀時に向け、その視線を受けている対象はたじろく。

 

「いや、お前がいちばんバニラとチョコにうつつ抜かしてるよね? 心囚われてるよね?」

 

 おいおい、とアルフは呆れ顔。

 

「このかき氷ってヤツにドッグフードトッピングとかないのかい?」

 

 アルフはアルフで真剣な顔でかき氷選んでいた。

 

「ねェよんなもん!!」

 

 と銀時はツッコンだ。

 

 つうわけでベンチで一旦休憩を取るフェイト一行。

 

「くゥゥゥ……!! このかき氷って一気に食べると頭になんかこう……キーン!! とくるねェ……」

 

 イチゴかき氷食べた狼の使い魔は、頭を抑えるというかき氷あるあるする。

 フェイトはと言うと。

 

「ペロペロペロペロ――」

 

 バニラチョコソフトクリームを舐めている。

 

「たく、随分ベタなリアクションやりやがるなテメェも」

 

 と呆れ顔の銀時が食べているのは、バニラチョコストロベリーの三段重ねアイス。

 

「ペロペロペロペロペロペロ――」

 

 とフェイトはソフトクリーム舐める。

 

「つうか、あんた結構贅沢なヤツ頼んだねェ。金はあたしらのだってのに」

 

 とアルフが言えば、

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「うるせェ。保護者の特権ってやつだよ」

 

 と銀時が軽口を返す。

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「…………なんか言えよ」

 

 さすがに突如喋らなくなった少女に不気味さすら覚えた銀時は声をかけるのだが。

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

 

 一向に金髪魔導師が舌を休ませる気配がない。

 銀時は頬を引きつらせて汗を流す。

 

「……いや、あのさ、フェイトちゃん? そろそろそのペロペロ止めない? お前花京院でもないしさ。そうやってっと、大きなお友達のいいネタに――」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「おィィィ!! おまえさすがに返事しろよ!! 微笑ましいの取り越して不気味だろうが!! さっきまで『口だけは』ジュエルシード優先してたのが噓みたいに何も喋らなくなってんじゃねェか!!」

 

 そう言った後にフェイトの肩に銀時は手を置こうとしたが、

 バシッ!

 と彼の手は少女の手によってはじかれてしまった。さすがの銀時も呆然とする。

 そしてフェイトは、

 

「――クリームが垂れる」

 

 冷たい瞳でソフトクリームを銀時から遠ざける。

 

「…………いや、どこにクール要素発揮してんのお前!?」

 

 と、銀時は思わず声を上げ、すかさずツッコム。

 

「キャラが迷走してるってもんじゃねェぞおい!! さすがに戻ろう!! いつものジュエルシード一筋のフェイトちゃんに戻ろう? な?」

「たこ焼き、ホットドック、フランクフルト、バニラ、チョコ、ストロベリー、かき氷、クレープ――」

「怖ええええええええええええッ!! 今日のフェイトこえェェェェェェェッ!?」

 

 顔に影を落とし、ぶつぶつ今日出展されているフードを呪文のように唱えるフェイト。対して、顔を真っ青にする銀時。

 

「まー、普段こんな風に食べて遊ぶなんてしなかった子だからね」

 

 アルフが苦笑しながら言えば、銀時はガバっと顔を向ける。

 

「いやなに、『しょうがないか』的な顔してんの!? お前これぜってェヤベェよ!! 抑圧された感情爆発してるってレベルじゃねェぞこれ!! ジュエルシードなんざ忘却の彼方に吹っ飛んでるぞおい!!」

「まー、いいじゃないか。今日くらいハメを外したってさ」

 

 アルフはあっけらかんとした声で言う。

 

「いや、『これ』お前のご主人様だろ? 少しは危機感持った方がよくね?」

 

 すると、パンパンとフェイトが銀時の肩を叩き、「ん?」と銀時が反応を示して振り返れば、

 

「銀時、次はアレを――」

 

 フェイトが指さす方には、フランクフルトなどジャンクフードを販売している店。

 瞳を輝かしながら自分を見つめてくる少女を見た銀時は、ため息を一つ。

 

「はァ~、しゃーねーなー……」

 

 銀時は頭をボリボリ掻きながら立ち上がる。

 

「コーラとから揚げもな」

 

 銀髪の返答を聞いて、フェイトは顔をパーッと輝かせて「うん」と笑顔で答える。

 

「あたしは骨付きフライドチキンねぇ~」

 

 呑気に間延びしたアルフの声を背に、フェイトと一緒に売店に歩いて行った銀時。

 

 

「アハハハ!」

 

 と、ゴムボールを持って走る子供たち。

 すると、ピピィーッと甲高い音が響く。

 

「君たち。滑ると危ないからプールサイドでは走らないように」

 

 笛を鳴らした恭也が子供たちに注意をし、子供たちも渋々ながら「はーい」と言う返事で了承する。

 今回、恭也や忍などの年長者組はプールの監視員としてココに来ているのだ。

 

「まったく、ちゃんとルールを守らないお子様が多いったらないわ」

 

 アリサは腕を組んで不満顔。

 なのはは「ニャハハハ……」と苦笑する。

 

「やっぱりみんなこういうとこにいると気が緩んじゃうよね」

 

 

 流れるプールで仰向けになって流れているフェイトは、

 

「……銀時……さいこうだね……」

 

 最高に緩み切った顔。

 

「うん、そうだね」

 

 とうきわに乗りながら生返事する銀時であった。

 

 

「気が緩んでじゃなくて、ハメを外し過ぎるって言うのよ、ああいうのは」

 

 まだ不満げなアリサ。

 

「でも、やっぱりああいうのは他のお客さんも危ないよね」

 

 すずかの視線の先には、走ったりじゃれてふざけたりする子供たちがちらほら。

 監視員に注意される子供の中には、

 

「別にいいじゃん。俺たちだって気をつけてるし」「そうそう。それにちょっと転んだって大したケガにならないって」「俺の親父も言ってたぜ。男は擦り傷作ってナンボってさ」

 

 などと反省もせず生意気な反論を返す始末。

 

「わたし……プールで転んだことあったけど、結構痛いすり傷できたことあるの」

 

 なのはが少し不安げに言えば、

 

「うん。実は、私も」

 

 と同意するすずか。

 二人は昔、プールで遊んで転んだ時にできた手痛い怪我を思い出し、身震いした。

 実のところ、プールサイドは滑り止めのためにザラザラしている床などがあり、転ぶとかなり痛い擦り傷できる場合がある。

 

「まったく。ああ言うやつらは転んだ時、どうなるかを少しは考えなさいっての」

 

 やれやれといった具合に、アリサが腕を組んで言った時だった。

 

「きゃあああああああああああああああああああッ!!」

 

 突如、少女の悲鳴が響き渡り、子供たちだけでなく多くの人の視線がそちらに向く。

 

「どうしました!!」

 

 そこに向かったのは監視員――ではなく、ただのお客の志村新八。そして倒れて白目向いているのは沖田総悟。さらに、悲鳴上げたであろう少女は神楽。

 

「一体何があったんですか!?」

 

 新八は切迫した顔で質問する。

 

「この人、さっきまでプールサイドを走っていたんですけど……水に滑って転んでしまって……」

 

 何故かいつもの口調ではなく標準語の神楽。

 新八は沖田の様子を見て、目を見開く。

 

「こ、これは!!」

 

 彼が驚くのも無理はない。なにせ、沖田の全身は真っ赤に染まっていたのだ。

 神楽は両手で目を覆い嘆く。

 

「ちょっと転んだと思ったら、地面のザラザラに全身やられてこんなズタズタの擦り傷まみれに!!」

「な、なんてことだ!! だからプールの地面のザラザラは危険だとあれほど言ったのに!!」

 

 と新八は言うが、ここの監視員の誰一人としてそんなことは言ってない。

 おいおい泣く神楽。

 

「地面のザラザラを舐めていたばっかりにこんな……!!」

 

 すると、倒れていた沖田がのっそりとした動作で起き上がる。

 

「次ハ……オ前ラダァァ……!!」

 

 血まみれの顔でゾンビのようなおぞましい声を出した沖田。ソレを見た子供たちは、

 

「「「「「「「うわああああああああああああああああああああああッ!!」」」」」」」

 

 と一目散に逃げる。ちなみに一部の大人たちも。

 自分たちの周りに人がほとんどいなくなった沖田は、

 

「あーあ、全身トマトジュースくせェ」

 

 自分の体についた液体に顔をしかめる。そして神楽がドヤ顔で。

 

「フッ、これぞプールの恐ろしさネ」

「――じゃ、ないわよこのバカタレ共!!」

 

 アリサがビートバンの側面を二人の脳天に叩きつけた。

 すると、頭を抑える沖田が不満げな目をアリサに向ける。

 

「いってーなー。ビートバンの側面は結構いてェんだぞ」

「あんたら一体なにやってんの!? 一体全体今の茶番はなに!」

 

 怒髪天のアリサに神楽はしたり顔で答える。

 

「これぞ銀ちゃん直伝、『プールの恐ろしさ――ざらざら編』アル」

「バカじゃない!!」

 

 ばっさり言い切るアリサに、沖田は不満そうな声を出す。

 

「おいおい。プールのマナー守らせるために一芝居うったってのに、その言い草はねェだろ」

「一番のマナー違反はあんたらじゃボケェ!!」

 

 アリサは強めのツッコミ。だが、反省の色なしの神楽が語りだす。

 

「銀ちゃんいわく、プールの恐ろしさを知った者こそ、水辺で遊ぶ権利を得られるのだと――」

「プールサイドで血だるまになる恐怖を知る必要ある!? 最後に至ってはプール一切関係ないゾンビものになってんでしょうが!!」

 

 言葉を切ってツッコミ入れるアリサ。

 ちなみにプールの恐ろしさを知った大人と子供たちは、更衣室で楳図か〇おマンガみたいな恐怖に染まった表情を浮かべて震えていた。

 

 神楽は辺りを見渡した後、遊具を身に着け、

 

「まァ、これで水辺も広くなったし――」

「結果オーライってことで」

 

 遊具を身に着けた沖田が親指を立てる。

 

「結局目的はそれかァ!! あんたらのフリースペース手に入れるのが目的かァー!!」

 

 ビシッと二人を指で差すアリサ。

 三人のやり取りを遠目で見ていた恭也は新八に目を向ける。

 

「新八くん、俺は子供たちを恐怖に溺れさせろとは言ってないんだけど」

「あの二人に協力頼んだ時点で失敗ですよ」

「そうか……若いあの子たちの目線なら、良い注意喚起を思いついてくれると思ったんだが」

 

 少し残念そうに、恭也は腕を組む。

 

「一つ言っとくが、がっつりあの芝居に参加してたそこの眼鏡も共犯だからな?」

 

 と土方が傍観者決め込む眼鏡を睨む。そして煙草を吹かす真選組副長は興味なさげに。

 

「ま、とりあえずこれでいいだろ。ルール守らねェガキ共には良い薬だ」

「土方さん、ここ喫煙所じゃないですよ? ルール守ってください」

 

 高町家長男はルールを破る警察に注意入れるが、土方は言葉を無視して言う。

 

「ガキ共なんかより、もっと性質の悪りィ問題があるだろ」

「変質者……でしったけ?」

 

 と新八が言う。

 そう。今このプールでは女性の水着や着替えを盗むという不届きな変質者が出没しているらしい。中々捕まらず、施設側も手をやいているのだとか。

 

「ま、この真選組副長がいる以上、変質者なんぞ現れたらすぐにお縄頂戴だがな」

「あんたらの変質者(じょうし)もお縄頂戴されて事情聴取されてますけどね」

 

 新八の言うように、近藤(へんしつしゃ)は今現在、プールの運営サイドに事情聴取されている最中である。まぁ、水着が取れて恥部露出なので厳重注意で済むはずではあるが。

 

「しかしその変質者、相当な曲者のようなんだ。なんでも妙な技を使うらしい」

 

 顎に指を当てて思案顔の恭也に、新八が疑問符浮かべる。

 

「妙な技? アクロバティックな逃げ方でもするんですか?」

「なんでも奴を追っていた人たちの証言では、パンツを硬質化させて手裏剣のように相手に投げつけ、追ってなどから逃げるらしくてな」

「なにそれ!? どんな念能力者!?」

 

 まさかの常人離れした技を聞かされて新八は思わずビックリしてしまい、すぐに右手を横に振りだす。

 

「いやいやいや! パンツ硬質化って、なんですかその変質者!? どんな修行すればパンツを手裏剣にできるって言うんですか!! ハンター×ハ〇ターじゃあるまいし!!」

「いや、ハ〇ター×ハンターにだってそんな間抜けな能力使う奴いねェからな?」

 

 と土方はさり気にツッコム。

 

「しかも逃走する時、なぜか何人かの男性警官の懐にパンツを仕込ませているらしくてな」

 

 恭也の補足を聞いて土方は眉を顰めた。

 

「はッ? それしてそいつになんのメリットがあるんだよ?」

 

 土方は変質者の謎の行動にあっけに取られ、恭也は首を横に振る。

 

「俺にも分かりません」

 

 だが、話を聞いていた新八はちょっとばかし「ん?」となりながら、デジャヴ的なものを感じていた。

 あれ? 似たような話を聞いたことがあるような……? 的な既視感を。

 すると、ポンポンと新八の足元を誰かが叩く。

 

「ん?」

 

 下に目を向けると、足元のユーノが自身の足を前足で叩き、なにか言いたげな顔をしていた。

 ちなみに今まで一切描写されていなかったが、高町家のペット扱いであるユーノもまた、この温水プールに連れてこられていたのである。

 新八はしゃがみ込み、ユーノの声が周りに聞こえないように小声で話す。

 

「(どうしたの? ユーノくん。っていうか、僕は君のことすっかり忘れてたよ)」

「(いや、別にそれはいいですけど……。それよりも、恭也さんが話していた下着泥棒に僕、心当たりがあります)」

「(えッ!? ユーノくん変質者に知り合いが!)」

 

 驚く新八に対して、違います!! と即否定したユーノは説明する。

 

「(そうじゃなくて、さきほどの話に似た事件を起こす犯罪者が、僕たちの世界でも結構話題になっているんですよ)」

「(えッ? それってまさか……)」

 

 ユーノの話を聞いて、ある可能性を考える新八。

 その時だった――。

 

「きゃああああああああああああああああああッ!!」

「待てぇーッ!!」

 

 女性の悲鳴と複数人の男性の大声に、なのはたちなど多くの客の視線が声のあった方へと向く。

 目を向ければ、

 

「そこの君、止まりなさい!!」

 

 プールサイドでも構わず走る男性監視員と――忍者のように身軽に走る、『海パン一丁に女性用の下着を仮面のように被った』一目瞭然の変態が追いかけっこをしていた。

 追いかける係員が恭也の姿を見て声を出す。

 

「恭也くん!! そこの男が更衣室から女性用の下着を盗んだ!! 捕まえてくれ!!」

「なに!! 噂の変質者か!!」

 

 恭也は係員の声を聞くと素早い動作で変態の前に回り込む。さすがは武道の嗜みがあると言ったところか。

 

「待て変質者!! 悪いがこれ以上の好き勝手を許すワケにはいかんぞ!!」

 

 制止の声を出す恭也だけでなく、モップなどの武器を所持した月村家メイドのノエルや高町美由紀も、すぐに変質者を取り囲む。

 

「うわー……こりゃ想像以上に酷い変質者だね……」

 

 美由紀は呆れ顔でドン引きの表情になる。

 そりゃそうであろう。なにせ変質者の恰好はまごうことなき変態のそれ。

 顔に被った女性用の下着で顔面を隠し、足を通す部分で目を見えるようにしている。さらには防具なのかどうか分らんが、胸の部分は女性用のブラを装着。

 女性の下着を惜しげもなく装備している姿はまさにザ・変態。

 さらによく見れば、海パンはブーメランでより変態度を悪化させていた。

 

「フフフ。どうやら今回は、中々の手練れが揃っているようだな」

 

 人数的不利にもまったく臆さず、変質者は腕を組んで余裕の声を出す。

 変質者を見た新八は頬を引き攣らせる。

 

「あの……土方さん……僕、あんな感じの変態を昔みたことがあるんですけど……」

「あァ、俺もだ……」

 

 二人の脳裏にチラリとよぎる、昔戦った下着泥棒の姿。

 

「皆さん、気をつけてください。恰好はホントに吐き気を催しますが、身のこなしはどうやら只者ではないようです」

 

 正直、視線を合わせたくないと言った様子のノエルが忠告。

 真剣な眼差しで変質者を睨みつける恭也は声を上げる。

 

「なんなんだお前は!!」

「いや、見て通りの変態でしょ」

 

 と新八。

 

「俺か? フッ、聞かれたのならば答えねばなるまい」

 

 変態は腕を組んで余裕綽々の態度を取り、対して土方は呆れる。

 

「なにあいつ? なんで変態のくせにカッコつけてんの?」

 

 すると変態は腰に左の拳を添え、腕を天に向かって斜めに伸ばす。

 

「俺の名は――」

 

 そのまま伸ばした腕を円を描くように右に持っていき、その手をすかさず腰に添えると、今度は腰に添えていた左手を斜め左上に伸ばす。

 

「仮面ライダーパァァァンツ!!」

 

 バァーン!! と、効果音でも出そうな勢いで変態が名乗った。

 

「「語呂わるッ!?」」

 

 と、土方と新八が同時に言うのだった。

 




この話はハーメルン版に載せるか悩んだんですが、ぶっちゃけまァ書いちゃったし載せちゃってもいいかなぁと思って載せました。

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