魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第二十八話:最低の変態と最高のヒーロー

「仮面ライダーパァァァンツ!!」

 

 と、現れた変態はどこかにめっちゃ怒られそうな決めポーズで名乗り、それを見た新八の顔は青ざめていた。

 

「ちょっとォォォォッ!? あいつ色んな意味でヤバいんですけどォ!? 主に東〇方面で!!」

「おいそこの変態ィ!! ただの変態下着ドロのクセしてヒーローの代名詞の一つを名乗ってんじゃねェー!!」

 

 顔に青筋浮かべた土方が怒鳴る。

 

 すると、仮面ライダーパンツ――もとい変質者はさも当然のように。

 

「なにを言う。俺のこの通り名は、全て俺を現していると言っても過言ではないのだぞ」

「過言だろ!! お前のどこにライダー要素があんの!?」

 

 指を突きつける土方に対し、変質者は自分の仮面(パンツ)を指さす。

 

「俺はこの通り仮面を被っている。そして、自転車で逃走するのだ。名が体を現わしているではないか」

「バイクじゃねェのかよ!!」

 

 と土方はツッコム。

 

「ATの普通自動車免許しか持っておらんのだから仕方あるまい」

「しかもATかよ!! せめてMT取れよ!!」

「いや、そこはどうでもいいでしょ!!」

 

 新八は妙なところにツッコミ入れる土方にツッコミし、アリサはジト目を変質者に向ける。

 

「つうか犯罪者のくせに律儀に交通法は守るのね」

「自転車しか乗れないのにライダー名乗るとかどういう了見だコラァ!!」

 

 神楽が怒鳴り声を上げるが、変質者はどこ吹く風。

 

「ふん。貴様らがいくらほざこうと俺は自身の異名を変えるつもりなどない!!」

 

 変質者はそう言ってまたポーズ取り始める。

 

「俺の名は……仮面ライダー――」

 

 ドン!! と何者かのパンチが変質者の顔面にクリーンヒットする。

 

「――悪いが、こっちは貴様の茶番に付き合ってる暇はない」

 

 殴ったのは恭也。その顔はいかついもの。

 さすがに武道の上級者である恭也のパンチではひとたまりもないと、その場の誰もが思った。

 

「フフフ……」

 

 だがしかし、変質者から聞こえてきたのは苦悶の声でなく、不敵な笑い声。

 変態は余裕の笑みを浮かべる(見えないが)。

 

「決めポーズの途中に攻撃とは、無粋な男だ」

「なに!?」

 

 恭也はまったくのノーダメージの変質者に驚く。

 恭也の拳が変質者の顔面から離れるが、敵の顔はまったく無傷だった。

 

「魔法が使えない者への攻撃は避けているが……」

 

 カッと変質者が目を見開く。

 

「貴様は別だ!! イケメン男子よ!!」

 

 変質者は手からブラジャーを取り出す。すると、ふらふら風にゆれるだけのブラジャーの紐は変質者が手に持った瞬間、ピンとまっすぐに伸びて固まる。

 変質者はブラジャーを上へと振りかぶり、

 

「喰らえ!! ブラスラッシュ!!」

 

 剣のように振り下ろす。

 

「くッ!?」

 

 攻撃を受けた恭也は腕を盾代わりにしながら数歩後ろに後退した。

 さすがは武道の達人の申し子か、本能的に危険を察知したであろう。だが、かわし切れなかったようで、恭也の腕は少し切られ、血が滴っている。

 恭也が怪我をしたと言う事実に、美由紀は驚愕の表情をして心配そうに声をかける。

 

「恭ちゃん!!」

「今援護します!」

 

 ノエルは危険を察知しモップで援護しようとするが、

 

「心配するな! 少し切っただけだ!」

 

 恭也は腕を出し、加勢に来ようとするノエルや美由紀を制止させた。

 高町長男は目の前の変態を憎々しげに睨みつける。

 

「くッ……まさか本当に下着で攻撃してくるとは……。どこまで拘りを持った変態なんだ……!」

 

 どうやら彼は変質者の持っているブラジャーを、ブラジャーに模した特殊な武器と判断したようだ。

 一方の変質者は、女性を庇う恭也の姿に憎々しげな声を漏らす。

 

「女性を危険な目に遭わせないその紳士な態度もまた、俺にとっては忌々しいことこの上ない。だがしかし……」

 

 すると、変質者はチラリと後ろの方に視線を向ける。そこにはモップを構えた美由紀とノエル。突如踵を返し、素早い動きで二人に向かって行く変態。

 

「――ッ!? 二人共!! 危ない!!」

 

 恭也が声を出すが、変質者は目に止まらなぬスピードで二人の間をすり抜ける。やがて、二人の後ろに立った変質者は振り向きざまに言う。

 

「俺の標的は『コレ』なんでな」

 

 その手には、紺色の競泳水着と白のビキニ(トップとアンダー)が握られていた。その持ち主とはもちろん美由紀とノエル。

 もちろん、水着を着てない二人の恰好は言わずもがな。

 二人は自分に起こったことがわからず呆然としていたが、美由紀とノエルは体を眺めてすぐに理解し、

 

「きゃあああああああああああああああッ!!」

「くッ!!」

 

 美由紀は悲鳴を上げ、ノエルはすぐさまは両手で自分の体(主に大事な部分)を覆い隠す。ちなみに、ノエルは射殺さんばかりに変質者を睨んでいる。

 

 変質者は「フッ……」と満足げに笑みを零す。

 

「今日は美人が多いようだ。これならば、予想以上の収穫が望めるな」

 

 しげしげと、自分が獲得した獲物(みずぎ)を眺める変態。

 それを見ていた土方は呆れた表情から、すぐにドン引き顔。

 

「おィィッ!? なんだあいつ!? なんでブラジャーで人斬れるんだよ!」

「つうかあの人、ふんどし仮面よりも性質悪いですよ!!」

 

 新八は変態を指さしながら、昔遭遇した下着泥棒を思い出し、「ふんどし仮面て誰!?」とアリサは出てきた謎の人物名に驚く。

 

「お姉ちゃん!! お兄ちゃん!!」

 

 なのはは純粋に自分の姉と兄を心配し、すずかも「ノエル!!」と月村家のメイドを心配しだす。

 

 意外に手練れな変質者に、各々が戸惑いを隠せず、慌てだす。

 

「間違いない! アレは次元犯罪者――『仮面ライダーパンツ』だ!」

「知っているかユーノ!」

 

 ユーノの言葉に土方はどっかで聞いたことあるようなセリフを言う。

 

「(あの人だれなのユーノくん!)」

 

 なのはは小声で質問をする。

 

「(魔力を感じてようやく確信したよ。あいつは僕たちの世界の犯罪者だ!)」

 

 ユーノも魔法関係者以外に聞こえないように小声で話し出す。

 なぜ念話使わないの? という疑問を持っている方もいるだろうが、念話を使えない人たちもいるので。

 

「(僕たちの世界でもある意味有名な犯罪者なんだけど、女性の下着を盗み、盗んだ下着をなぜか『モテない男子』とか言う人たちに配る、かなり異色の次元犯罪者なんだ!)」

「(なにそれ!? あの人『ふんどし仮面』の親戚か何か!?)」

 

 まぁ、新八の意見も無理はないだろう。

 なにせ、随分昔に一度捕まえる為に戦ったふんどし仮面と名乗る下着泥棒がいた。しかも、今ユーノが言ったことと同じ行為を江戸で行っていた人物。違う世界同士で、似通った風体と目的を持った人物が存在しているのだから、正直驚くのも無理からぬこと。

 

「(だからその聞くからに変態臭い『ふんどし仮面』って誰よ!?)」

 

 とアリサも小声で会話に参加。

 

「(私たちの住んでる江戸にいた、ふんどしを顔に被った下着ドロボーネ)」

 

 小声の神楽がアリサの疑問に答え、説明を聞いた金髪少女はドン引き。

 

「(そ、それはそれで酷い泥棒ね……)」

「まー、俺らの前にいるアイツが顔に被ってんのはパンツだけどな」

 

 小声じゃない沖田は特にいらん付けたしをする。

 

「ふんどしだろうとパンツだろうと、どうでもいい」

 

 すると小声ではない土方がたばこに火を付け、一歩前に出た。変質者の視線が真選組副長に向く。

 鬼の副長はたばこを吹かし、口を開く。

 

「まさか、初めて出会った〝大人の魔導師〟が、テメェみてェな変態だとはな」

「貴様、まさか魔導師か?」

 

 変質者は土方の言葉を聞いて険しい表情を作る。

 

「いや、ちげぇよ……俺は、侍だ」

 

 不敵に笑う土方。

 

「あの、すずかちゃん。土方さんの言ってる『まどうし』とか『さむらい』って、なんのことかな?」

 

 と月村家メイドのファリンは聞きなれない単語に不思議そうな表情をし、すずかは「さ、さぁ……」と冷や汗を流しながら誤魔化す。

 ファリンとすずかの会話で、新八は思い出したかのようにユーノに催促する。

 

「(ゆ、ユーノくん! いくらなんでも魔法のことバレちゃうって! 結界結界!)」

「(ッ! は、はい! ――って、待ってください!! このまま結界なんてしたら、なのはの家族の前で僕たちが突然姿を消したことになりますから、いくらなんでも不自然ですよ!!)」

「(たしかに!!)」

 

 などと新八とユーノがあたふたしている間に、

 

「ふん。侍だと? 知らんな。どこの馬の骨だか知らんが、イケメンである貴様もまた俺の敵であることに変わりはない」

 

 と、変質者は吐き捨て、手から何枚ものパンツを手裏剣のように取り出す。

 

「俺の邪魔をするなら排除するのみ」

 

 対し、土方は不敵な笑みを崩さない。

 

「やってみな。変態が相手なのはちと残念だが、折角だ。俺ら侍が魔導師とやらにどこまで通用するか、いい腕試しにならァ」

「ちょっと待って土方さァァァァん!! 戦うのちょっと待ってェェェェェ!!」

 

 突如大声を出す新八に、土方は不服そうな顔を振り向ける。

 

「おい、なんだよ? 折角これからって時に、出鼻挫きやがって」

「いやリリカル的なアレ! 結界的なアレ! 一般人避難!!」

 

 新八のぼかしつつ必死な訴えを聞いて、土方は「あッ」と声を漏らす。

 ようやく気付いた土方は、ケガを抑える恭也や、水着がなくなって体を手で隠す女性たちを見た後、

 

「おい、変態」

 

 変態下着ドロに顔を向けた。

 

「なんだ?」

「一般人避難させるから、ちょっと待ってくんない?」

「……うむ。よかろう」

 

 敵は臨戦態勢のまま土方の提案に応じる。

 

(あッ、いいんだ……)

(犯罪者なのに、魔法秘匿に協力してくれるんだ……)

 

 と、新八とユーノは思った。

 とにもかくにも、慌てて結界を張る為の準備を開始する新八たち。

 

「きょ、恭也さん!! ここは一旦更衣室に避難しましょう!!」

「し、しかし!!」

 

 恭也は渋るが、新八は捲し立てつつ恭也の両肩を抱いて立たせ、誘導する。

 

「土方さんや沖田さんがあの変態を牽制しつつ引き付けてくれてますから!! 信じて一旦女性陣を避難させましょう!! それにケガの治療を!」

 

 あなたたちも誘導を手伝ってください!! と、ちょっと強引ではあるが、鬼気迫る雰囲気で係員に言葉を飛ばす新八。

 係員も慌てて、女性陣の避難誘導を始め、

 

「お、お姉ちゃん!! と、とにかく更衣室に!!」

「ノエルも!!」

 

 色々察したであろうなのはとすずかも、姉やメイドにタオル掛けて、新八の誘導の手伝いを後押し。

 さきほどまで違和感や疑問を感じていたであろうメイドのファリンも、アリサと一緒に避難の手伝い。

 やがて、変態の近くに残ったのは土方、沖田、神楽、ユーノだけ。(ちなみに、チャイナだけ避難誘導されなかった)

 

 そして、土方と変態下着ドロが睨み合ってる中、しばし時間が経てば、

 

【ゆ、ユーノくん! 結界をお願い! 今ならお姉ちゃんたちから少し離れてるから、結界で姿が見えなくなっても問題ないよ!】

 

 なのはからの念話がユーノに届く。

 

「よし!!」

 

 ユーノはすぐに魔法非関係者を排除する封鎖結界を発動させる。やがて、ドーム状の光の壁がプール施設一帯に展開された。

 変態が結界に視線を向ける中、

 

「待たせたな、変態ヤロー」

 

 鋭い視線の土方の言葉。

 

「かまわん。私も紛いなりにも魔導師。魔法を秘匿させるフィールドの方が、都合が良いのは理解しているからな」

 

 と変態が話している途中で、

 

「土方さーーーーーん!!」

 

 声を上げる新八を筆頭に、なのは、アリサ、すずかなどが更衣室から戻って来た。

 

「どうやら、あいつらが魔法関係者か。ならば……」

 

 ついに魔法で戦うための舞台が整ったところで、下着ドロの魔導師は再び攻撃を開始しようと予備動作を始めた、

 すると、ユーノが声を上げる。

 

「土方さん気をつけて!! そいつは自分の手に入れた下着に魔力を纏わせて武器にするそうです!! 魔導師としてはかなり練度が高いという噂が!!」

「なんかすっごい才能の無駄使いしてますよねあの人!!」

 

 戻って来た新八は、息を乱しつつドン引き。

 ますます人としても魔導師としても誤った道に突き進んでる変質者魔導師に、土方は吐き捨てる。

 

「けッ。そんなくだらねぇ技、俺の刀で――」

「土方さん」

 

 と、ここで沖田が声をかけた。

 

「俺らの刀、公共施設に持ってけないんでアリサん家ですぜ」

「あッ……」

 

 土方を含め、江戸組はジュエルシード探索ではなく、遊びにいくだけのつもりだったので、刀や木刀は持ってきてないことに、鬼の副長は今気づく。

 変態はパンツを構える。

 

「さー、イケメンよ、舞台は整った。覚悟はよいか!」

「ちょちょッ! ちょっと待って!! 今はタイミングが――!!」

 

 慌てて右手を前に出す土方。だが無論、敵が待ったなど聞き入れるはずもなし。

 

「問答無用!! パンツブーメラン!!」

 

 変質者はパンツをブーメランというか、手裏剣のように投げつける。

 

「アレ全然攻撃に見えないんですけど!?」

 

 新八の言う通り、パンツが武器になる姿はシュール極まりない。

 

「でも魔力を纏ったあの……下着は危険です!! 絶対に当たらないでください!!」

 

 さすがにパンツという単語を言うのは恥ずかしいらしく、ユーノは顔を赤くさせながら言葉を選ぶ。

 

「うォォォォォッ!!」

 

 土方は体をエビぞりにして、すんでんのところで躱す。

 普段から凶刃の中で戦っている猛者だけはあり、さすがの反射神経。パンツはそのまま飛んで後ろの壁に深く突き刺さる。

 

「おいおい、ちゃんと急所に当てろよ変質者」

 

 と、外野から煽る沖田。

 

「てめェ総悟!! あとでぶっ殺すからな!!」

 

 土方が部下を睨む。

 

「ふん、とんだ口だけ男のようだな」

 

 と変質者は吐き捨て、

 

「実力差がはっきりした以上、このまま戦う必要もあるまい」

 

 魔法関係者以外誰もいなくなった施設内を見渡す。

 

「予定外の結界ではあったが、更衣室の下着を盗むには打って付け。それに――」

 

 そこまで言って、変態はパンツをシャキンと構える。

 

「盗むだけ盗んだ後に、結界を張ってる者を仕留めれば、また女共から水着をはぎ取れる。今回は実にいい収穫になりそうだ」

「下着だろうが水着だろうが見境なしかあんたは!!」

 

 と、新八はツッコム。

 

「ふん、水着も下着もさして変わらん」

「なんであんたそこまで下着盗むのに拘るのよ!! そんなに女性の下着が欲しいなら盗まず買えばいいでしょ!!」

「アリサちゃん、その意見はちょっと……」

 

 すずかは親友のズレた言葉に微妙な顔。

 

「ふん。子供よのう」

 

 アリサの言葉を聞いて変質者は失笑し、言う。

 

「女性が身に着けているからこそ、『彼ら』には価値があるのだ」

 

 アリサは眉をひそめる。

 

「『彼ら』って……ユーノが言ってた『モテない男子』とか言う連中?」

「その通り!!」

 

 変質者は目をカッと見開き、熱く語りだす。

 

「『モテない男子』! チェリーボーイ、童貞、ムッツリ! 女性に縁がなく、その身に宿したリビドーを溜め込んだ男たちの為に、俺は日夜下着を集めているのだ!!」

 

 変質者は水着を強く握りしめ、拳を作る。

 

「そして彼らにとって女性――特に美女、美少女の温もりを宿した下着はまさに宝!! 明日の糧となる!!」

 

 やがて変態は、さきほどまで女性が着用していた水着を天高く掲げた。

 

「俺の手にある水着もまた彼らの猛るリビドーを解消する!! つまりオカズにな――!!」

 

 ズバァァァァン!! と桃色の閃光が変質者を飲み込んだ。

 桃色の閃光の発射元に全員の視線が向く。

 

「これでいいよね? ユーノくん」

 

 と、笑顔で言うのは、レイジングハート構えたバリアジャケット姿のなのは。

 

「う、うん……」

 

 ユーノは冷や汗流しながら引きつった表情で頷く。

 よ、容赦ねェー……。とその場にいるほとんどの者が思い、あんな強力な一撃を躊躇せず当てる少女に戦慄を覚える。

 

「あッ……アレ」

 

 神楽が指をさす先には、ヒラヒラと舞いながら落ちる美由紀とノエルの水着。どうやら、変質者がなのはの魔砲攻撃によって手放し、そのまま宙を舞ってしまったらしい。

 すると、突如として手が伸び、落ちてくる水着を掴む。その掴んだ人物とは、なのはの魔法が直撃した変質者だ。

 

「フハハハッ! その程度の攻撃で、俺を止められると思ったのか!!」

 

 変質者は女性の水着を天高く掲げながら高笑い。

 

「俺にはこのブラジャー型バリアジャケットがある!! その程度の攻撃ではビクともせんぞ!!」

 

 煙が張れ、変質者の全身が姿を現す。見れば確かにブラジャーは無傷だが、それ以外の素肌からは焼けたような煙が立ち上っている。

 

「いや、おもっくそダメージ受けてますが!!」

 

 と新八はツッコミ入れた。

 

「その装備どう考えても胸部以外守れてないでしょ!! 足なんかふらふらじゃねェか!!」

 

 生まれたての小鹿のように足を笑わせる満身創痍の変質者を見て、ツッコミしながら呆れ顔の新八。

 

「なのはの砲撃で胸部が無傷な辺り……あそこだけ魔法の防御を集中させてたのかな……?」

 

 ユーノの容赦のない指摘。どうやら敵はただのバカのようである。

 

「な、ななな中々、やややややるではないか、しょしょしょ少女よ……!」

 

 と変質者は腕を組んで不敵な笑みを浮かべるが、声はおもっくそ震えまくり、目は涙目。今頃になって激痛を感じ始めてきたのだろう。

 新八は白い目を変態に向ける。

 

「完全に追い詰められてるのに、なんで上から目線なんですかあの人?」

 

 痛みを振り払い、変質者は鬼気迫る表情で宣言する。

 

「モテない男たちの自由と平和を守る! 仮面ライダーとして俺は諦めるワケにはいかんのだ!!」

「黙れッ!!」

 

 即座に怒鳴る土方。

 

「ホント黙ってお前ッ!! 初代ライダーが初っ端からライダーキックしてくる勢いでお前は失礼だから!!」

 

 土方のツッコミを無視し、変質者は指をビシッと、なのは、アリサ、すずかの三人に向けた。

 

「俺をここまで追い詰めた褒美に君たちを好敵手と認め、君たちのパンツ&水着も頂くことを宣言しよう!!」

「死んでも願い下げよこの変態!!」

 

 アリサは自分の体と水着を抱きしめ、嫌悪感マックスの表情で罵声浴びせる。

 すると、アリサの肩からひょっこと顔(?)を出したのは、赤い羽を生やした炎を模ったデバイス。

 

《まずいですねアリサさん。敵は中々にタフな上、肝の据わった方のようです。一筋縄ではいきませんよ》

 

 久々に喋ったアリサのデバイスであるフレイアは、自身の主に助言する。

 

《こちらは水着を脱いですっぽんぽんになって対抗するんです!! そうなれば敵は盗む下着がなくなり、攻撃の隙が生まれるはずです!! さらには変態的な意味でも有利に立てます!!》

「なるほど! 逆転の発想ね!! わかったわ!!」

 

 フレイアの言葉を聞いてアリサは早速――自身のデバイスを水の中に押し付ける。

 

《ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッ!!》

 

 フレイアは苦しみもがき、アリサは光が消えた瞳で暴れる相棒を水に押し込み続けた。

 新八はとりあえず後ろでデバイスを溺死させようとする少女は放っておいて、変質者に声をかける。

 

「あんたに勝ち目はない! おとなしく降参するんだ!!」

「降参? 笑わせる!! 例えどんなに傷つこうとも、『モテない男たち』の性欲解消の平和と自由のために俺は戦う!!」

 

 変質者はまったく聞く耳持たない。

 そして、変態は「ゆくぞッ!!」と気合の一声で空高く飛び上がった。

 

「ライダー――」

 

 変態は空中で一回転し、

 

「パンツキィィィィックッ!!」

 

 右足で蹴りを放ちながらパンツをまき散らす。

 

「あんな最低なライダーキック見たくなかったんですけど僕!」

 

 新八がツッコミをしたその時、変質者の前に桃色の閃光が放たれた。

 

「えッ?」

 

 変態が声を漏らす頃には、彼は魔力の本流に飲み込まれた。光が通り過ぎれば、空中で制止する男の体からは、煙が立ち上り、そのまま地面にぼとりと落ちる。

 

 そして追撃と言わんばかりに、桃色閃光のみならず、巨大な炎の玉と巨大な氷の塊が一斉に変質者に放たれた。

 

 ズガガガガガッ!! ドカン!! ドカン!! ズドォーン!!

 

 凄まじい轟音と共に、あっと言う間に爆発の煙で敵の姿が見えなくなる。

 そして攻撃の発射元へと視線を向ければ、バリアジャケットを展開し、デバイスを構える三人の少女――なのは、すずか、アリサ。

 

「「「………………」」」

 

 無言で魔法の武器を構えたままの少女たちを見て、新八と土方は頬を引きつらせる。

 

「……まァ、これで今度こそいっけんらくちゃ――」

 

 そう言って土方が一服吸おうとした時、突如として変質者がいた場所から眩い光の柱が立ち昇った。

 

「こ、これって……!?」

 

 眩い光と突風に、なのはだけでなく、他の面々も腕で目を覆いながら、なんとか飛ばされないようにする。

 

「まさか、この反応は!!」

 

 突如の出来事に戸惑いを見せる彼らの中で、一匹のフェレットだけはその原因に心当たりがあるらしい。

 光と風が収まり、一つの影が姿を現す。

 

「パァァァァァァァンツゥゥゥゥゥ!!」

 

 まるでハ〇クのように筋肉を大増量させた変質者が雄たけびを上げた。

 

「な、なにあれェェェェッ!?」

 

 まさかの第二形態に、新八は驚きを隠せず口をあんぐりとさせ、ユーノはすぐに察したような声で。

 

「やっぱり!! あの次元犯罪者は――〝ジュエルシード〟を使ったんだ!!」

「嘘ォ!?」

「マジでか!」

 

 新八と神楽の驚きの声。

 まさかのジュエルシード登場に、ユーノの話を聞いていた他の面々(沖田以外)も驚き顔。

 ユーノは変態した変質者に前足を向ける。

 

「ほら見て! 彼の股の中心にジュエルシードが!! きっと拾って隠し持っていたジュエルシードが彼の執念に反応して、発動してしまったんだ!!」

 

 ユーノの言う通り変質者の海パンの中心は青い光を放っていた。

 

「なんつうとこにしまい込んでだ!! こち亀の海パン刑事かあんたは!!」

 

 ツッコミ入れる新八をよそに、変態した変態はある一単語を叫びまくり始める。

 

「パンツパンツパンツパンツパンツブラジャーパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 さすがの土方も引く。

 

「おィィィィィッ!? ジュエルシードの影響か知らねェけど、理性失ってパンツと言う一単語しか発せられなくなってんぞ!?」

「なにその輪をかけて酷い理性の失い方!? 言葉発せなくなる方がまだいいよ!!」

 

 嘆く新八とは逆に沖田は冷静に語る。

 

「やべェですぜ土方さん。最早あいつは仮面ライダーでもねェ、ただパンツを追い求めるだけの悲しき怪人に成り下がっちまったようでさァ」

「なにそれどんな怪人!? こっちまで悲しくなってくるわ!! つうかアレを仮面ライダーとしてカウントするのぜってぇダメだからな!!」

 

 神楽は腕を組んで思案顔。

 

「でもあいつ、ポロっとブラジャーって単語言ってたアル。きっとパンツだけでなく、ブラジャーに対する思いも残っているようアルな……」

「別にどうでもいいよそんなの!! 冷静に分析してないでアレなんとかする方法を考えないと!!」

 

 と、新八が慌てていると、

 

「パンツッ!!」

 

 巨漢になった変質者は巨大なパンツを一枚取り出し、まるで大剣のように両腕で握り、構えた。やがて、凄まじいスピードでなのはに向かって巨大パンツを振りかぶりながら突進してくる。

 

「マズイ!! なのは! 防ぐんだ!!」

 

 ユーノの言葉を聞いてなのは咄嗟に障壁を展開。

 

「パンツゥッ!!」

 

 変質者の巨大パンツがなのはに振り下ろされる。

 

「きゃあッ!!」

 

 凄まじい攻撃力だったらしく、障壁にはヒビが入り、なのはは数十センチも後ろに後退させられた。

 

「マズイぞ!! 紛いなりにも魔導師に寄生したせいで、能力が格段に上昇している!!」

 

 ユーノが焦りの声を出す中、

 

「パンツッ!!」

 

 変態はアリサとすずかに向かって巨大パンツを手裏剣のように投げつける。

 二人はとっさにシールドを展開するが、

 

「「きゃッ!!」」

 

 弾いたはいいが、同時にシールドも壊されてしまった。さすがに二人の魔力障壁は、なのは以上の防御力を持っていないらしい。

 

「つ、強い!」

 

 すずかは冷や汗を流し、手に持つ槍に変形しているホワイトを握り絞める。

 

「なにこれ!? あたしたちこんなくっだらない攻撃に押されてるの!? 屈辱以外の何ものでもないんだけど!!」

 

 一方、アリサは真っ当な怒りと困惑の声。

 

 江戸組は魔法を使えないので観戦していたが、さすがになのはたちの分が悪いと判断したのか、新八は土方に切迫した声で言う。

 

「ど、どうしましょう土方さん!! 僕らも加勢した方が――!!」

「俺たちは武器も持たねェ生身だぞ! 今行ってもただの足手まといにしかならねェよ!」

 

 土方は「くそ、刀があれば!」と愚痴る。だがない物をねだっても仕方ない。

 

 すると、突然のことだった――バン! バン! バン! と、何発もの電気を帯びた黄色い閃光弾が、変質者に襲い掛かった。

 

「パンツッ!?」

 

 巨漢変質者は咄嗟に腕でガード。

 

「い、今のって……」

 

 閃光弾を見たなのは。今の攻撃を行った人物をすぐに予想する。

 そして、その予想が正解だと言わんばかりに、マントを羽織った黒い金髪の少女が、ふわりとなのはの前に背を向けながら降り立つ。

 なのははその姿を見て、思わず少女の名前を呼ぼうとする。

 

「フェイトちゃ――!」

 

 後ろを振り向いたフェイトを見てなのは絶句。なにせ、少女は口一杯にフランクフルトを頬張っていたのだから。

 

「…………ふぇ、フェイトちゃ――」

 

 なのはは唖然とするものの、なんとか声をかけようと、

 

「あふぁなにじゅふぇふしーふどはわふぁふぁせふぁい」

「フェイトちゃァァァァァん!?」

 

 なんとかコミュニケーション取ろうとしたなのはだが、相手が何言ってるかまったくわからずビックリすることしかできない。

 

「あふぁふぁはじゃふぁしふぁふぃふぇ」

 

 フェイトはフランクフルト咥えながら相棒を握り絞める。

 

「いや、なに言ってるか全然わからない!! 分からないよフェイトちゃん!!」

 

 首を横にぶんぶん振るなのは。その時、なんか彼女の恰好がところどころおかしいことに気づいた。

 

「フェイトちゃん!? その両手の袋なに!? 絶対邪魔そうだよねそれ!」

 

 手に下げたビニール袋を指摘されたフェイトは訝し気な視線をなのはに向け、袋を抱きかかえて隠す。

 

「いや、取ったりしないよ!? 私そんな酷いことしないよ! って言うかフェイトちゃん今回キャラが全然違うよね!?」

 

 ひでぇ勘繰りに、なのはは普段しない怒涛のツッコミを連発。

 まさか今までクールで冷徹な態度を取りながら、憂いを帯びた瞳でジュエルシード集めしていた少女が一変――食べ物が入った袋を両手目いっぱいにぶら下げて、口にはフランクフルト咥えてきたもんだから、なのはの頭は混乱しっぱなしだ。

 

 アリサは半眼でなのはとフェイトのやり取りを見る。

 

「……あの子、絶対出店楽しんでたわよね? 絶対プール満喫してたわよね?」

「フェイトちゃん、よっぽどプールが楽しかったんだね」

 

 と、すずかは笑顔で天然発言。

 

「ちょっとォォォォォォッ!! なにこのグダグダ感!? 敵目の前にして君たちなにやってんの!」

 

 シャウトした新八のツッコミを聞いて、ハッとした魔法少女たちの視線がジュエルシードで変態した変質者に向く。

 

「パンツゥゥゥゥゥッ!!」

 

 今まで放置されていたことに怒ったのかは知らないが、変質者は新たな巨大パンツを二枚出現させ、両手に持ち、雄たけびを上げ、やたらめったら巨大パンツを振り回し始める。

 

「ちょッ!? こェェェよ!! 僕生まれて初めて女性のパンツを怖いと思ったんですけど!?」

 

 戦々恐々の新八は叫び、不安そうな顔をユーノに向けた。

 

「フェイトちゃんが参戦したのはいいけど、状況はまったく好転してる気がしないんだけど……。ど、どうしよう? ユーノくん」

「ど、どうしようと言われましても……。あの次元犯罪者、どうやらジュエルシードの影響で理性はないようですけど、防御力や攻撃力やスピードが信じられないくらい強化されているようで。僕も正直、まだ魔法経験の薄いなのはたちで勝てるかどうか……」

 

 困ったような顔のユーノの解説を聞いて、新八が分かった事は、とりあえずピンチということだ。

 だが、すぐにユーノは冷静な分析を口にしだす。

 

「僕としては、あの黒い魔導師の子に頑張ってもらうしかないかと。ジュエルシードを奪われるのは致し方ありませんが、被害を最小限に抑える方が最善だと思います」

「たしかに、それもそうだね」

 

 頷いた新八はなのはに大声で助言を送る。

 

「なのはちゃァーん!! 今回はいつもの争奪戦は忘れてフェイトちゃんとその変態をやっつけることに全力を注いでェー!!」

 

 なのはは「はい!」と頷くと、フェイトに顔を向けた。

 

「フェイトちゃん! 今回はいつものジュエルシード争奪はなしにして、一緒にあの人をなんとかしよう!」

「わふいけふぉ、わふぁしふぁあなふぁにきょうふぉふしふきふぁ――」

「フェイトちゃん!! 口に入れた物一旦なくして!! でないと何言ってるか全然分からないの!!」

「ちょとぉーッ!! いつまでコントやってんの!! こっちはこの変態の相手してるってのに!!」

 

 いつの間にか変質者と交戦していたアリサの叫び。ちなみにすずかもアリサとタッグを組んで戦っている最中。

 

「ご、ごめん! とにかくフェイトちゃん!! わたしたちと協力して!!」

 

 さすがに申し訳ないと言う気持ちが大きくなったなのはは、捲し立てるように黒衣の魔導師に協力を申し入れる。

 フェイトはごくんと口に入れたフランクフルト飲み込み、真剣な表情で、

 

「そんなことをする必要はない」

 

 首を横に振って提案を拒否し、なのはは困惑する。

 

「どうして!?」

「なぜなら――」

 

 フェイトが答えを言おうとした直後、何者かが空中で体を前転させながら現れた。

 謎の人物は、右手を天高く掲げると、太陽のように体を輝かせる。

 

「パンツッ!?」

 

 あまりの眩しさに変質者は驚きの声を上げ、

 

「あ、あれはッ!!」

 

 突如として姿を現した黒い影を見て、驚愕の表情となる新八。

 

「俺は太陽の子――」

 

 現れた人物は右手を握りながら引き、左手の指を伸ばしてクロスさせ、

 

「仮面ライダーブラァッ――!!」

 

 左手を左上に引き抜くと右手を切り落とし、すかさず右手を右上に返し、

 

「ア゛ール――!!」

 

 右手を右上から左下へとRを描くように振り下ろし、両手をXを描くようにグルリ曲げて握り拳を構える。

 

「エ゛ッグス!!」

 

 と、文章にしきれないキレッキレのポーズで現れたのは――仮面ライダーBlackRXだったのだ。

 

「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」

 

 新八の叫び声が温室プールに木霊した。

 


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