魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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この回、もう時期とハズレも良いところなのですが、一応は本編に繋がっているので、載せる事にしました。


こち亀連載終了&40周年特別企画
第三十話:何事も長く続けられる人間は凄い


 海鳴市。

 平和なこの町で、今一つの大事件が起ころうとしていた――。

 

「あ~あ……。ほんとどうしようかなァ……〝この眉〟……」

 

 その始まりは、まだ日が出たばかりの早朝の公園。そのベンチに一人で座るフリーターから始まったのだ……。

 

 ベンチに座る男はケータイに映った自分の顔――主に眉の部分を見て顔を顰める。そこにはまるで、ブリッジの掛かった『M』のような形を描いたぶっとい眉毛が生えていた。

 

「やっぱ、いくら短期でまとまった金欲しいからって『治験』はちょっとやり過ぎたかなぁ……」

 

 男の眉毛は元々、こんな見たら一瞬で記憶に残りそうなほど濃いものではなかった。彼はある理由からまとまった金欲しさに、塗薬タイプの毛生え薬ならぬ『毛伸び薬』の治験を受けたのである。

 

「まさか剃ってもまだこのままってワケじゃないよな……」

 

 自分は前にちょっとおしゃれに気を遣う感覚で眉を剃り過ぎてしまった。なので、治験の時に眉毛に薬を塗って試したのだが、効果は御覧のあり様。効き過ぎというが、予想外な方向に眉の毛は数日の内に変貌を遂げてしまった。

 治験を担当した職員の一人からは「塗った時に現れる効果はそれほど長くないので、伸びきってから剃れば問題ありません」と言われた。が、さすがにここまで予想斜め上の効果を発揮されては不安もぬぐい切れない。

 

「つうか俺もバカだよなぁ……。帰ったらすぐ剃ればよかったのに」

 

 治験の為に数日の間は実験用の施設に宿泊していた。周りは薬の効果でこうなったと理解してくれる人間だけだったので、あまりに気にしていなかった。

 家に帰ってすぐに寝て、いつもよりかなり早く朝起きて散歩している時にやっと自分の痴態に気づいた。なにせ、すれ違う犬の散歩のおじいちゃんが苦笑いしているのだから。

 さすがに恥ずくね? と思ってちょっと公園に寄って自分の眉を今一度チェック。かなり頬が引きつるビジュアルであるとあらためて実感した。

 治験時での閉鎖空間、並びに周りの人間がそれを受け入れてくれたせいで、完全に感覚が麻痺していたようである。

 

「まぁ、被害が眉だけで済んだんだし……良しとするか……」

 

 ため息を吐きながら男はケータイをポケットにしまう。

 薬の効果の結果は予想外とはいえ、詐欺のレベルではなかっし、ちゃんと高いアルバイト代も貰えた。

 毛なんて剃ればいいのだから文句を言う気はない。不幸中の幸いなのは、近所の人に見られたと言っても老人一人だけだ。

 

 ――フフッ……。これでゲームがやっと買える……。

 

 だからこそ、男は剃ればいい眉より、今の自分が溜めている金額を思い起こして笑みを浮かべてしまう。このまま今やっているバイトの貯蓄を考えれば、余裕で目的の物も買えそうだ。

 その時、ふっとある事を思い出し、ポケットに手を入れた。

 

「コレ……臨時収入とかになるかなぁ……」

 

 ポケットから手を出し、掌に載せた『青い宝石のような石』を見つめる。石と言うにはあまりに形が整っており、宝石のような輝きを放つ石。

 コレはもしかしたら値打ちがあるかもしれない、と思った男。後でネットオークション、もしくは質屋に入れたらそれなりの値打ちを叩き出すかもしれないと淡い期待を抱いていた。

 男は青い石をぎゅっと握りしめながら発売されればすぐに買う事のできるゲームのことを思い浮かべる。

 

 ――金も纏まったし、早く新作の『バイハザ』やりたいなぁ……。

 

 男は元来のホラーゲーム好きであり、今度発売のバイハザにはかなり満足いくものだった。

 ただ、今度の新作のバイハザはゾンビ物好きの男としては、ゾンビ要素がない点にちょっと不満を覚えてはいる。まあ、バイハザは昨今ゾンビゲーみたいにゾンビオンリーが魅力ではないと理解はしているつもりではいるが。

 男は「よいしょ……」と言って立ち上がる。

 

 ――帰って眉剃って、最近買ったばかりのゾンビゲーでもしようっと。

 

 と男が思った矢先。

 青く眩い光が、眉毛をMのような形にした男を包み込んだ。

 

 

 

「――本当にジュエルシードが発動したの?」

 

 と、海鳴公園で話すのは新八。彼は困惑気味の顔をユーノとなのはに向ける。

 

「なんかいつもみたいに怪物の影も形も見えないよ?」

「でも、私もユーノくんもちゃんと発動したジュエルシードの気配のようなモノは察知したんです」

 

 制服姿のなのはが眉間に皺を寄せながら困ったように言葉を返す。

 

「あたしも感じたわよ」

「私もジュエルシードの気配を察知しました」

 

 と、制服姿のアリサとすずかもジュエルシードが発動していると断言。

 

 今、この海鳴公園にやって来ているのはなのは、アリサ、すずか、ユーノ、新八、神楽、土方、沖田、近藤――つまりなのは組全員(山崎抜き)だ。もちろん目的は今なのはが言った通り、発動したであろうジュエルシード封印の為。

 山崎だけなぜいないかというと、翠屋でのバイトが結構様になっちゃったから。そして今日も朝のシフトイン。

 

 フェレット姿のユーノは険しい表情。前足を使って器用に腕を組み、小首を傾げる。

 

「人間……もしくは動植物に触れて発動したとしても、ここまで何も起こらないはずはないんですけど……」

「まァ、変わったことと言えば……」

 

 タバコを口に咥えた土方は空を見上げ、目を細める。

 

「この曇り空くれェか……」

 

 発動したジュエルシードにより天候が操作されたのかは定かではないが、朝晴れていた空はすっかりおどろおどろしい曇り空へと変化してしまっている。それこそ、まるで世界が一変してしまったような不気味さへ感じるほどの曇天だ。

 土方は上げた首を下ろし、タバコを指に挟んで口から離す。

 

「とりあえず、ジュエルシードからのリアクションがねェ以上は俺たちもお手上げだ」

 

 制服姿の小学生三人組に、チラリと視線を向ける土方。

 

「とりあえず、お前らは学校に行け。ジュエルシードの探索は俺たちに任せておきな」

 

 そう、なのはたちが制服姿の理由は平日であり学校があるから。ただ、ジュエルシードの発動を早朝で確認できた為に今こうして急いで公園へとやって来た次第だ。

 なのはは不安そうに土方に言葉をかける。

 

「でも、土方さんたちは念話が……」

「ユーノを残しとけば、なんかあってもすぐにおめェらに念話で連絡できる」

「あッ、確かに……」

 

 とすずかは納得。

 フェレット姿のユーノはなのはたちと一緒に学校に行く必要が別にないので、このまま探索班に回せば問題ない。

 

「ジュエルシード集めも良いが、おめェらにとっちゃ勉学もきちんとした仕事だ」

 

 大人としてとても良識的なことを言う土方の言葉を聞いたなのは、アリサ、すずか。三人は彼の言う通り学校に行った方が良いのでは? と思ってか、お互いの顔を見る。

 土方は沖田に顔を向けた。

 

「おい、総悟。おめェはもう少しここに残ってユーノと一緒にジュエルシード探しを続けろ。万一ジュエルシード製のバケモンに遭遇しても、おめェならユーノと一緒に切り抜けることくらいはできんだろ?」

「えェー……」

 

 と沖田は露骨に不満げな声を漏らして口を尖らせる。

 

「なら土方さんがウィンナーモドキとジュエルシード探してくださいよ。言いだっしぺなんだし」

「誰がウィンナーモドキですかッ!!」

 

 ユーノは怒鳴り、土方は「副長命令だ。文句言うな」と言って鋭い眼光を沖田に向けた。

 

「俺とチャイナはボディーガードとしてすずかたちを学校に送らなきゃいけねェんだよ」

「えェー……」

 

 と、次に不満声を漏らすのは神楽。

 

「なんで私がニコマヨと一緒に登下校しないといけないアルか?」

「なんだニコマヨって!? ニコ動みたいに言うんじゃねェよ!! 後お前は学校に登校しねェだろうが!!」

「そうだそうだ。探索も送り迎えも土方一人でやればいいんでさァ」

 

 と野次を飛ばすのは沖田。

 

「おめェらは文句しか返せねェのか!! ぶった切ってやろうか!」

 

 土方は青筋浮かべながら竹刀袋に入れてある刀を取り出そうとするが、すぐにすずかとなのはが「お、落ち着てください」と苦笑しながらなだめる。

 小学生二人に制止を受けた大人土方は「ああッ!! くそッ!!」と頭を掻きむしった。

 さっきから文句しか言わない沖田と神楽を睨む鬼の副長。

 

「とにかく言う事聞けッ! 話も状況も一向に進まねェんだよッ!」

「「ええー……」」

 

 沖田と神楽は揃って口を尖らすが、とりあえず何か反論はしないようである。

 

「あの、土方さん」

 

 とここで新八が進言。

 

「僕と近藤さんも沖田さんと一緒に探索した方がいいんじゃないでしょうか? 二人より四人の方が安全でしょうし」

「いや、この辺一帯に発動したジュエルシードがあるとは限らねェ。いつ何かしらの被害があってもおかしくねェなら、できるだけ探索域は広げておくべきだ」

 

 首を振って説明する土方の言葉に、新八は「なるほど」と納得して頷く。

 土方は制服の懐に手を入れてまさぐり、トランシーバーを取り出す。それはボディーガードとしてバニングス家から支給された物だ。

 土方は新八にトランシーバーを手渡す。

 

「お前はコレを持ってけ。何かあったらすぐに俺に連絡しろ」

「分かりました」

 

 と新八は頷いてトランシーバーを懐に入れた。

 まだ学校に行くか迷っている様子のなのはたち少女三人に近寄る土方。

 

「お前らは心配せずに寺子屋……いや学校だったか? とにかく行って勉強してこい。発動したジュエルシード見つけたら、ちゃんと呼んでやるから」

 

 一番このグループの中でしっかりしている土方からの説得。なのはたちも渋々といった具合だが、ちゃんと学校に行こうと歩を進める。

 そして土方は神楽に顔を向けて「ほれ、おめェも行くぞ」と言って顎を使って促す。

 

「しゃうがないアルな……」

 

 神楽は不満声を漏らしながらも土方の後に付いて行く。やがて真選組副長の視線は部下に向く。

 

「おめェもちゃんとユーノと探索しろよ?」

「へいへ~い」

 

 沖田も不満げな返事をするが、ユーノと一緒に土方たちとは別の方向に歩き出す。

 そんな様子を見ていた新八は微笑みを浮かべる。

 

「土方さん……最初は否定派だったのに、今ではすっかりこのグループの司令塔ですね」

 

 新八の言葉を受けて近藤は腕を組みながら「フッ……」と笑みを零す。

 

「あいつはただ中途半端が嫌いで、責任感が強いだけなのさ」

「うちのリーダーとは大違いですよホント……」

 

 未だに再会すらできていない万事屋のリーダーの顔を思い浮かべて、新八は苦笑した。

 

 

 場所は海鳴市にあるパチンコ屋。

 パチンコ台の前に座る銀髪天然パーマの男が一人。彼はハンドルに手を回しながら銀の玉を転がす。

 ジャラジャラと台から音が鳴っていると、突如として軽快なBGMと共にパンパカパーンとパチンコ台から音楽が鳴り、映像がフィーバーする。

 

「おッ、スッゲ。これで三回目じゃん」

 

 と嬉しそうに声を漏らすのは、万事屋のダメリーダーこと坂田銀時。

 彼の後ろで、フェイトとアルフが銀の玉が入ったプラスチックケースを持っていた。

 銀時は後ろにいる二人に目を向ける。

 

「おっし、アルフ。次の箱をもって――」

「なにをやってんだテメェはぁぁぁぁッ!!」

 

 ドカァッ!! とアルフは銀時の脳天にパチンコ玉が大量に入った箱の底を叩きつけ、銀髪は「ゴフォッ!!」と悲鳴を漏らす。

 ぶつけた衝撃で箱からパチンコ玉が飛び散るが、床に転がる銀の玉など気にせずにアルフは拳をボキボキ鳴らす。

 

「おいコラァッ……! ジュエルシード探しがなんでいつの間にかパチンコフィーバーになってんだ?」

「ままままま待てってッ!」

 

 銀時は頭を抑えながら右手を出して弁明開始。

 

「もしかしたらジュエルシードがパチンコの景品にあるかもしれないじゃん? だから銀さんこうやってパチンコの玉を必死に転がしてんのよ?」

「『必死』じゃなくて『楽しい』の間違いだろうがッ!! つうかあるワケないだろッ!!」

「バカヤローッ!! 楽しだけじゃねェんだよパチンコは! 生きるか死ぬかの真剣の勝負ッ!! だって負けたらお金なくなっちゃうから!!」

「んなこと知るかッ!!」

 

 とアルフは銀時に怒鳴り、「ああッ!! もうッ!!」と言って頭掻きむしる。

 

「発動したジュエルシードが見つからないもんだから、『俺に良い考えがある』とか言ったこの銀時(バカ)の言う事なんて聞くんじゃなかったよッ!!」

 

 銀時は「しょうがねェだろ……」と言ってダルそうに地面に落ちた玉を拾う。

 

「発動したジュエルシードの姿の影も形もなかったんだ。だからこうやって別の切り口を考えたんじゃねェか」

「それがなんでコレッ!?」

 

 アルフはわけわからんといった顔でパチンコ台をビシッと指さし、銀時はキリッとした顔で告げる。

 

「――今日は新台入れ替えだから」

「よしフェイト。とっととジュエルシード見つけに行くよ」

 

 アルフはダメな大人の言葉など無視して我が主に顔を向けると、

 

「あッ……当たった」

 

 リリカルなのはのヒロインの一人は、パチンコのノズルを回してパチンコフィーバー。

 

「フェイトォォォォォォッ!?」

 

 まさかの主の行動にアルフはシャウトし、すぐさまフェイトに詰め寄る。

 

「なにやってんのフェイト!? こんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

 フェイトは「アルフ……」と言って真剣な表情を使い魔に顔を向けると、少し興奮した顔で。

 

「これ結構楽しい……」

「フェイトォォォォォォォォォォォッ!! 戻ってきてぇぇぇぇぇッ!!」

 

 本来のキャラをプールの時のようにどこぞに置き去ってしまった主の姿に、アルフは涙を流しながら天に向かって叫ぶ。

 地面に転がる銀の玉を拾う銀時はアルフに顔を向けた。

 

「あッ、玉取るの手伝ってくんない?」

「勝手に拾ってろ!!」

 

 アルフに怒鳴られた銀時は「たく……」と文句を漏らしながら玉の回収を再開。そうしていると、彼の目の前には一人の男の足が。

 目の前に歩いている人間がいることに気付いた銀時は、

 

「あ、すんません。すぐに拾いますんで」

 

 あまりの反省の色がまったく見えない謝罪をしながら玉拾いを続行。対して、目の前の男は一言。

 

「らさぁ~る……」

 

 

「新八君」

 

 と声を掛けるのは新八の横を歩く近藤。彼は不思議そうに新八に顔を向けた。

 

「このまま進むと翠屋に付いてしまうが、本当にこのまま進んでしまっていいのか?」

 

 新八は「えェ、大丈夫です」と頷いて説明する。

 

「もしジュエルシードの怪物が翠屋方面に現れた場合、なのはちゃんが魔法少女であることを高町家の人たちに知られてしまう可能性が出てきてしまいます。ですから、そうならないように僕たちが先に行って様子を見れば、もしジュエルシードの怪物が現れても色々と魔法の秘密を守る為のフォローができるんです」

「なるほど」

 

 と腕を組む近藤は納得して頷く。

 そしてしばらく歩けばもう喫茶翠屋の手前まで来ていた。するとバタン!! と突如として翠屋の扉が開き、中から逃げるように慌てて出てくる人物が一人。

 近藤が「ん?」と声を漏らし、新八が出て来た人物に声を掛ける。

 

「山崎さん、どうしたんですか? そんなに青い顔して」

 

 まだこの時間は翠屋でレジ打ちをしているであろう山崎。彼は声を掛けられてハッと新八と近藤の二人に気づいて、泡を食ったように駆け寄る。

 

「ふふふふふふ二人共ッ!! へんたい――じゃなくて大変な事態が!!」

「ど、どうしたのだ山崎!? そんな古典的な慌て方をして!」

 

 近藤は尋常じゃないくらい冷静さを欠いた山崎を見て汗を流し、新八はハッと気づく。

 

「もしかしてジュエルシードの怪物が現れたんですか!」

 

 まさか自分の予想がこんなに早く当たると思ってなかった新八は少し慌てる。対して、山崎は青い顔をしながら後ろを指さす。

 

「そ、それは分からないけど! と、とにかくアレを見てッ!!」

「「アレ?」」

 

 と、新八と近藤は訝し気に目を細めて、山崎の後ろへと目を向けた。

 喫茶翠屋の扉から出てくる人間が一人。その人物は幽鬼のようにゆったりとした――まるで体に力の入ってないような足取りで不気味に道まで出てくる。

 背格好から見て女性――しかも喫茶翠屋の従業員の制服である黒いエプロンを着用。彼女はゆっくりと、三人に顔を向けた。

 

「「なッ!?」」

 

 女性の顔を見て新八と近藤は驚愕の表情を浮かべる。

 翠屋から出て来た女性は高町桃子。彼女の目はまるで生気を感じられないような白目を剥き、その眉は信じられない姿へと変貌していた。

 

「桃子さんの眉がァァァァァ!!」

「桃子殿の眉が繋がってるゥゥゥゥゥ!?」

 

 新八と近藤は目の前の光景に度肝抜かれる。

 Mのような文字にも見える、ぶっとい一本に繋がった眉。それを見た彼らは表情を青くさせていた。

 さすがのおバカ局長も目の前の光景にドン引き。

 

「ちょっとォォォォ!? 三児の母の眉がえれェ事態になっちゃってんだけど!? 山崎なんなのアレッ!? 今翠屋でこち亀感謝祭でも開いてるの!?」

「わ、分かりません!! 突然眉が繋がったお客さんに桃子さんが襲われて、助けに行った士郎さんも恭也さんもついでに美由紀さんも全員眉が繋がって別人のように凶暴になっちゃんです!!」

「美由紀殿の扱いざっくり過ぎない!? ついでで美由紀殿もあんな姿になっちゃったの!?」

「あ、アレはまさか『マユゾン』!」

 

 山崎の説明を聞いて新八はかつて見た、眉が繋がったゾンビのような姿の者たちの名を叫ぶ。

 

「新八くんマユゾンてなに!?」

 

 近藤は聞きなれない単語に汗を流し、新八はかつて歌舞伎町を襲ったウイルスの名を告げる。

 

「な、なんで別世界である海鳴市に『RYO-Ⅱ』が!! し、信じられない!!」

「RYO-Ⅱ!? やっぱりアレってRYO-Ⅱのせいなの!」

 

 新八の言葉を聞いた山崎はすぐに桃子たちを変貌させたモノの正体を理解したようで顔を青くさせる。

 話を聞いても一人だけ付いていけてないであろう近藤は困惑していた。

 

「マユゾンとかRYO-Ⅱってだからなんなの!? 俺全然分かんないんだけどッ!?」

「局長覚えてないんですか!? ほら、昔歌舞伎町に蔓延したウイルスの名前ですよ!!」

 

 山崎は記憶力の悪い上司に説明するが、

 

「それがウイルス名――マユゾンなのか!」

 

 勘違い回答する近藤。

 

「いや、違いますよ!! だから――!」

「うがァァァァァ!!」

 

 無論、感染者桃子が待ってるはずもない。説明中の山崎に後ろから襲い掛かかり、更には近藤と新八も襲おうとする。

 

「「「ぎゃあああああああああああッ!!」」」

 

 三人は悲鳴を上げた。

 山崎は尻もちをつきながらも、なんとか襲い掛かる桃子の攻撃を必死に回避。近藤と新八はすぐに逃げ出し、山崎も手と足をばたつかせながらがむしゃらに距離を離そうと走り出す。

 

「な、なんなんだアレはァァァァ!? まるで西洋の死霊ゾンビではないかッ!!」

 

 全力で走る近藤が後ろに目を向ければ、覚束ない足取りで歩く桃子。さらに翠屋から次々出てくる士郎や恭也や美由紀。その全員の眉が一本に繋がり、Mのような形へと変貌を遂げていた。

 

「だからRYO-Ⅱに感染した人は眉が繋がってダメなおっさんに成れ果ててしまうんですよッ!!」

 

 新八は近藤の横を並走しながら説明すると、記憶力のない真選組局長は「あッ! 思い出した!」と言ってやっと記憶を呼び覚ます。

 山崎は顔を青くさせながら声を上げる。

 

「そ、そもそもなんで俺たちの世界で猛威を振るったウイルス兵器が海鳴市にあるの!?」

「知りませんよそんなこと!! とにかく緊急事態です!! 土方さんに連絡しないと!!」

 

 新八は慌てて懐からトランシーバーを取り出す。土方が持っているトランシーバーのチャンネルに合わせる前に、呼び出し音が鳴りだす。

 もしかして、と思った新八がすぐにチャンネルを合わせれば、ザザっと言う音が漏れ始め、

 

『……おいッ!! 眼鏡無事か!?』

 

 聞こえてきたのは土方の焦り声。

 新八は走りながらトランシーバーを口に近づける。

 

「ひ、土方さん!! た、大変なんです!! マユゾンが!! マユゾンが海鳴市に現れたんです!!」

『マユゾン!? なんだそれッ!?』

 

 RYO-Ⅱ感染者のマユゾン呼びをまったく知らないであろう土方は怪訝な声を漏らし、新八は慌てて説明。

 

「RYO-Ⅱです!!  RYO-Ⅱに感染した人たちを僕たちはそう呼んでるんです!!」

『別に感染者の呼び名なんて今はどうでもいい!! 近藤さんは無事かッ!?』

「は、はいッ!! 山崎さんとも合流して今は一緒に逃げてます!!」

『よし分かった!! ならならなのはたちが通う寺子屋まで来い!! 俺たちもそこにいる!!』

「わ、分かりましたッ!!」

 

 新八は頷いてトランシーバーを切ると、山崎が前の方を指さす。

 

「あッ! 駕籠屋(かごや)だッ!! 乗っけってもらおう!!」

 

 タクシーを見つけた山崎は更に走るスピード上げて新八と近藤の前を走る。が、悪い予感を覚えた新八はすぐに彼を止めようと手を伸ばす。

 

「待って山崎さん!!」

「すみません乗せてください!!」

 

 だが新八の制止は耳に届いてないようで、山崎はタクシーの窓に張り付いて運転手に訴えかける。

 

「お願いです!! 早くドアを開けてください!! 変な眉毛に追われているんです!!」

 

 山崎の声に反応したのか、運転手が顔を向ければ――彼の眉も繋がっていたのだ。

 

「ッ!?」

 

 山崎は目を見開いて驚愕し、マユゾンと化した運転手は山崎が張り付いている窓を突き破って襲い掛かる。

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

 山崎は悲鳴を上げて飛び退き、

 

「チェストォォォ!!」

 

 近藤は運転手の顔にキックを浴びせ、意識を奪う。そして運転手の服を掴んで強引にタクシーから引っ張り出す。

 

「仕方ない!! 緊急事態だ!! 運転手さんには悪いが、車を拝借してなのはちゃんたちの寺子屋まで向かうぞ!!」

「「は、はいッ!!」」

 

 破れた窓から手を差し込んでタクシーのドアを開ける。そのままなのはたちが通う小学校――私立聖祥大付属小学校まで向かう。

 そしてそのまま暫く近藤の運転でタクシーを飛ばしていた彼らは、海鳴市の惨状を目の当たりにした。

 

「あ、あちこちにマユゾンが……」

 

 後部座席に座る山崎は顔を青くさせて声を漏らし、どんどん感染して眉が繋がっていく人々を気の毒そうに見ていた。

 

「見えたぞ!! アレは間違いなくなのはちゃんたちが通う寺子屋の校舎だ!!」

 

 近藤が指さす方に新八と山崎も目を向ければ、確かに私立聖祥大の白い校舎が見え始めている。

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!! 『アレ』見てッ!!」

 

 助手席に座っていた新八はすぐに前方の光景を見て指を突き付け、近藤はタクシーを止めて声を上げる。

 

「なんと言う事だ!! 『アレ』では通れんぞ!!」

 

 校門は酷い惨状だった。なんとマユゾンの大群が聖祥大小学校の門に集まり、ごった煮状態。

 このままでは門を開けれず、校舎内には入れない。すぐに新八はトランシーバーを使って土方に連絡を入れる。

 

「ひ、土方さん大変です!! 校門前にマユゾンの大群が居て通れません!!」

『安心しな。ちょっと待ってろ』

「えッ……?」

 

 土方の冷静な言葉を聞いて新八は、何をするのだろう? とマユゾンの軍勢が集まる校門へと目をむける。するとしばらくして、門が開いてしまう。それを見た山崎は慌て出す。

 

「ちょッ!? 門が開い――!?」

 

 と山崎が言い切る前に、校門に集まったマユゾンの大群が桃色の光に飲み込まれた。そして光が収まれば、意識を失い倒れ伏した無傷のマユゾン軍団。

 

 そして門の先に立っているのは、トランシーバーを片手に持った土方と、白いバリアジャケット姿でレイジングハートを構えたなのは。そして後ろには神楽とバリアジャケット姿のアリサとすずか。

 タクシーに乗った新八たちを確認した土方はトランシーバーを顔に近づける。

 

『……よし。すぐに校門を通りな』

「「「………………」」」

 

 あらためて、なのはという魔法少女の力を実感したタクシーに乗った三人。あと、容赦なく一般人を蹴散らした少女に若干頬を引き攣らせていた。

 

 

 校門を占め、下駄箱まで避難した新八たち。

 

「眼鏡、近藤さん。よく無事だったな」

 

 土方の言葉に新八は真剣な顔で頷く。

 

「えェ。ホント運が良かったですよ」

「あァ、まったくだ。ここまで五体満足でいられた事は、不幸中の幸いであろう」

 

 近藤も神妙な表情で頷きながら腕を組む。

 

「あの……副長? ナチュラルに俺のことハブきませんでした?」

 

 山崎は頬を引き攣らせながら自分の顔を指さすが、土方はスルー。

 新八は困惑気味に真選組副長に声を掛ける。

 

「にしてもなんで海鳴市にマユゾンが?」

「マユゾンてなんですかッ!?」

 

 と聞き慣れない単語に驚くなのは。近藤は腕を組んで少女の疑問に答える。

 

「RYO-Ⅱ感染者の呼び名さ」

「りょうつう?」

 

 すずかが首を傾げると、土方がクールに説明した。

 

「簡単に説明すれば、俺たちの世界のウイルスだ」

「「ウイルス!?」」

 

 驚愕するなのはとすずかに対し、

 

「ふざけんじゃないわよッ!!」

 

 憤慨しだすアリサ。

 

「マユゾンだかRYO-Ⅱだか知らないけどなんであんたたちの世界の病原菌が私たちの世界にあんのよ!! おかしいでしょッ!!」

「僕たちだって分からないよ!!」

 

 と、新八は困惑顔で説明する。

 

「ただ分かっているのはRYO-Ⅱに感染したら眉が繋がって、ダメなおっさんになっちゃうってことだけ!!」

「おっさん!? アレ、ゾンビじゃないんですか!?」

「どこら辺がダメなんですか!? パッと見ただのゾンビですよ!」

 

 なのはとすずかはワケが分からないと困惑顔で驚き、再び近藤が説明しだす。

 

「一見するとただの眉が繋がったゾンビだが、その実感染すると、金にがめつく強欲で、仕事も怠けてばかり。しかも豪快に見えてなんかマニアックな趣味を持ち合わせた気持ち悪いおっさんになってしまうようなんだ」

「「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 なのはとすずかはマユゾンの正体を聞いて顔を青くさせながら悲鳴を上げたが、

 

「バッッッッカじゃない!! なんで感染したら眉が繋がってダメなおっさんになるの!? どんなウイルスよそれ!!」

 

 アリサだけ納得できないと言わんばかりに怒鳴る。

 

「それがRYO-Ⅱの力アル」

 

 と神楽は腕を組んで真剣に答えるが、アリサは頭抱える。

 

「マジでふざけんなぁぁぁぁ!! なんであたしたちの町が眉が繋がったダメなおっさん軍団に支配されなきゃならないのよ!? そもそもダメなおっさんになるウイルスとか非常識にもほどがあんでしょうが!!」

「お、落ち着ていアリサちゃん!!」

 

 頭をぶんぶん振って混乱している親友をなだめようとするなのは。すると、アリサはなのはの肩をガシっと掴む。

 

「なのは!! これはジュエルシードよ!! きっとコレはジュエルシードのせいに違いないわ!! って言うかジュエルシードのせいだと言って!!」

 

 アリサは目を血走らせ、親友の肩をぶんぶん揺する。

 

「封印すればきっと皆の眉毛は戻ってるはずよね!? オシャレ眉毛に戻るわよね!? そうよね!? そうだと言って!!」

「あわわわわッ!!」

 

 なのはは肩と頭を揺さぶられて三半規管がやられたのかぐるぐる目を回す。

 

「鮫島も学校の皆も元に戻るって言ってぇぇぇぇッ!!」

 

 アリサは必死に今の現実を否定したいのか、何度も目を回す親友に構わず問いかけた。

 

「お、落ち着いてアリサちゃん!! なのはちゃんが大変なことに!!」

 

 なんとかなのはを助けようとアリサを宥めるすずか。

 そんな哀れな姿をさらし続けるアリサに新八と山崎は同情を禁じえなかった。

 

「まァ、俺たちの世界のウイルスがこっちにやって来たってよりはジュエルシードのせいって方が合点がいくかもな」

 

 ここで自身の予測を口にする土方に対し、新八が疑問を投げかける。

 

「でも、おかしくありません? なんでここまでRYO-Ⅱと酷似した症状が現れているんですか? やっぱり原因はRYO-Ⅱなんじゃ――」

「ちがぁうッ!!」

 

 と、アリサが噛みつかんばかりに声を荒げる。

 

「アレはジュエルシード!! ジュエルシードなの!! でないと私はマジであんたらを恨むッ!!」

 

 目がマジのアリサの言葉に新八は汗を流して押し黙る。すると炎剣に姿を変えたフレイアが声を出す。

 

《まぁ、微弱ではありますが、あのマユゾンと化した人々一人一人に魔力を感知できたので、今回の騒動の原因は十中八九ジュエルシードでしょうね》

 

 すると神楽が近藤に顔を向けながら口を開く。

 

「まァ、毛が毛深い近藤(ゴリラ)がマユゾンにならない時点でRYO-Ⅱの可能性は限りなく低いネ」

「やっぱりそうなのね!! 絶対封印して皆をオシャレ眉毛に戻してみせるわッ!!」

 

 拳を握ってアリサは力強く宣言。眉が繋がった町の住人たちの姿によほどショックを受けているのか、気合が違う。

 とりあえず、疑問は色々残る所ではあるが、下手なことは言わないでおこうと思った新八。彼は別の話題を土方に振る。

 

「それにしても、よく寺子屋に籠城なんてできましたね。子供とはいえ、人が多く集まる場所には変わりないんだし」

「まァ、こっちはこっちで強力な魔法を撃てる魔導師(ガキ)が三人もいるしな」

 

 土方の説明によると、なのはとすずか、そして特にアリサの活躍により学校にいるほとんどの生徒や先生を捕まえたらしい。もちろん、魔法のお陰で傷つけずに。

 そして無力化した人間たちは現在体育館に集めて閉じ込めているようだ。

 

「ただ、ちょいとやっつけ仕事だったんでな。まだ学校にマユゾン共が残っている可能性は十分にあるから気を付けろよ」

 

 土方の忠告に対し、

 

「それでも籠城できる場所が手に入っただけでも御の字ですよ!」

 

 新八は嬉しそうに言うと山崎も同意する。

 

「新八君の言う通りですね。これでなんとか事件解決の為の策をじっくり練れますし」

「ならばまずは学園生活部を設立しよう!! そして24時間はしゃがなくては!!」

 

 と近藤が握り拳を作りながら言えば、神楽も乗っかりだす。

 

「なら定春も改名するアル!! 名前は定春からたろうまるに――!!」

「せんでィッ!!」

 

 土方は青筋浮かべて怒鳴る。

 

「そんもんは巡ヶ丘の連中にでも任せときゃいいんだよ!!」

「探索の為に別れた沖田さんとユーノくんは大丈夫でしょうか? 町はマユゾンだらけですし」

 

 軌道修正を兼ねて新八が心配そうに二人の名を口にした。すると、目をぐるぐる回すなのはを介抱しているすずかが答える。

 

「さっき、ユーノくんと念話できたので無事であることは確認が取れました。沖田さんも大丈夫みたいで、今二人はこっちに向かっているようです」

 

 土方は口に咥えたタバコに火を付けながら話す。

 

「まァ、魔法が使えるユーノにバカだが戦闘力だけはピカ一の沖田のペアだ。そうそう眉毛が繋がることもあるめェよ」

「なら、すぐにこの騒動の原因を魔法で探し当てて封印するわよ!!」

 

 アリサがすぐにスフィアを作ってジュエルシードの暴走体を探索しようとした時、

 

《あッ……それなら――》

 

 と、フレイアが声を漏らした瞬間だった――固く閉ざされた門がドカァーンッ!! と破壊され、鉄柵が吹き飛ぶ。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突如の轟音に驚いた一同は反射的に校門の方に目を向け、フレイアは呑気な声で告げる。

 

《――魔力反応から考えてたぶん『アレ』がジェルシードの異相体ですよ、きっと》

 

 校門には成人男性二人分の身長はありそうなほどデカい影がいた。

 ジーパンを履いている以外は上半身が裸。丸太のように太い左手の先は完全に変質して、指先が鋭く太い四本の爪が生えた姿に。

 そして頭皮どころか全身の毛がもろに剥げて髪どころか体毛が一本も生えていない。なのに、なぜか眉にはしっかりMのような形をしたぶっとい眉毛が生えている。

 ぶっちゃけ、眉以外が完全無欠のタイ〇ントさんだった。

 

《敢えて名付けるなら『マユラント』さんですね》

 

 と呑気なこと言うフレイア。対照的に、新八、近藤、山崎は凄まじい威圧感出しながらこちらに歩いて来るマユラントを見て顔を青くさせながら頬を引き攣らせる。

 

「マジかよ……」

 

 土方はポタリとタバコを口から落とすのだった。

 

 


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