魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第三十三話:突然の敵

 ジュエルシードは魔導師の少女二人の杖がぶつかり合った瞬間、暴走を開始――光と衝撃が周辺にいた者たちを襲う。

 光と衝撃が収まり、倒れていた銀時は頭を左右に振りながら立ち上がる。

 

「いてて……。なんだ、今のは?」

 

 フェイトとアルフはどうなったのか? と思い、周りを見渡せば立ち上がっている使い魔。そしてゆらゆらと炎のように光を放っているジュエルシードを睨むフェイトがいた。

 立ち上がりながら、銀時は体についた埃を叩き落とす。

 

「一番ダメージ受けてたろうに、タフなガキだ」

 

 フェイトは衝撃の震源地に一番近くいたにも関わらず、怪我らしい怪我は一つもない。これもバリアジャケットという魔法の防護服のお陰なのだろう。さすがは魔法の服、ただの小っ恥ずかしいコスプレ衣装ではないようだ。

 ただ手に持った愛機であるバルディッシュは相当なダメージらしく、先端部は亀裂がいくつも走っていて今にも壊れそうなほど。

 フェイトはバルディッシュを気遣うように優しげに微笑み、何か一言言った後にバルディッシュを待機モードにする。そして鋭い視線をジュエルシードに向けた。

 

 ――どうしたんだあいつ?

 

 めらめら怪しげな光を放つ不安定な状態なジュエルシード。それに対するフェイトの表情を見て、銀時は疑問と同時に一抹の不安を覚える。

 フェイトは一旦後ろに下がり、まるでクラウチングスタートするかのように姿勢を低くした。

 

 ――あいつ、まさか!

 

 銀時が止める間もなく、フェイトは一気にジュエルシードに向かってダッシュ。

 

「フェイトッ!?」

 

 アルフの声を聞き流しながら突進する勢いでジュエルシードに向かうフェイト。彼女は青い宝石を掴もうと手を伸ばす。

 後一歩――ジュエルシードを握ろうとした瞬間、

 

「ダメェェェッ!!」

 

 突如なのはがフェイトに飛びつき、抱き着く。

 ジュエルシードを手にするのを阻止されたフェイトは、突然の出来事に思考を停止。抱きつかれた勢いのまま尻餅をついてしまう。

 

「……ッ!? ……なにをする!」

 

 しばし呆然としていたフェイトだが、やがて強引になのはを引き剥がす。

 ジュエルシードを手にすることを邪魔されたと思ってか、なのはを睨みつけた。

 

「そんなに私がジュエルシードを手に入れるのを邪魔したいの?」

「違う!」

 

 なのはは首を横に振って必死に否定し、訴える。

 

「今、フェイトちゃん危ないことしようとしたよね!? あんなジュエルシードを杖もなしに封印するなんて危ないよ!!」

「君にどうこう言われる筋合いはない! 私にはどうしてもジュエルシードが必要だからするだけだ!」

 

 いつなになく強い感情を垣間見せるフェイト。ジュエルシード回収の障害になっているなのはを睨み続ける。

 

「それでも、私は目の前で傷つこうとしているフェイトちゃんをほっとけない!」

 

 なのはもまた、引き下がろうとはしない。気持ちを譲れないとばかりに決意の篭った瞳をフェイトへと向けた。

 

 睨み会う両者――。

 

 その時、ゴツンとフェイトの脳天に拳が振り下ろされる。

 

「ッ!? いったぁー……!!」

 

 フェイトはあまりの痛みに涙目になって蹲る。

 一体なにが? とビックリした顔で自身を殴った張本人を確認。そうすれば、少なからず怒りの表情を垣間見せる銀時が拳を握り締めていた。

 

「なにやってんだテメェ。そいつの言うとおりなら、おもっくそ危ねェ事しようとしたろ? あんな危ねェもん素手で持とうとか正気の沙汰じゃねェぞ。銀さんはお前をそんな子に育てた覚えはありません」

「うぅ……でも……」

 

 と口ごもるフェイトだったが、

 

「って言うか、私を育ててくれたのは母さん――」

「でももへちまもあるかボケ。心配するこっちの身にもなれってんだバカヤロー」

 

 フェイトのツッコミを無視して、鋭い視線を向ける銀時。

 

「銀時……」

 

 フェイトは目を潤ませながら銀時を見上げた。

 そしてさきほどフェイトを殴った手がまたその頭に向かって伸びてくる。

 また殴られる! と思ったであろうフェイトは瞬間的に目を瞑ってしまう。だが、銀時はゆっくりとフェイトの頭に掌を置く。

 恐る恐る目を開け、戸惑うフェイトに銀時は気だるげな眼差しで告げる。

 

「たく、ガキが擦り傷切り傷作って肝を冷やすのは親なんだぜ? おめェは痛いだけで済むかもしれねェが、母親は傷つくって帰ってくる娘見て同じように心傷つけるんだ。母ちゃんのためってんなら、自分から大事な体傷つけるようなマネはすんじゃねェ」

「ぎん、とき……」

 

 ぽんぽんとフェイトの頭を柔らかく叩く銀時。

 フェイトはまた目を潤ませて涙を出しそうになっているが、それは痛みとはまた別の理由からくるものだろう。

 黒衣の少女にとって、銀時の言葉は心に深く突き刺さるところがあったにはずだ。親を想う彼女ならなおのこと。

 

「フェイトォー!!」

 

 すると遠くの方からすぐさまアルフが人間体になって駆けつけてくる。そのまま心配そうな表情で駆け寄り、フェイトの肩を抱く。

 

「大丈夫かいフェイト!? あんた無茶だよ! 暴走したジュエルシードを素手触るようなことしたら怪我じゃ済まないかもしれなかったんだよ!!」

「アルフ……」

 

 自分を心配して怒ってくれた銀時、健気に身を案じてくれる使い魔。両者を交互に見るフェイトは、顔を少し下げて口を開く。

 

「……ごめん……二人共……」

 

 自分を思ってくれた人たちの事を考えてか、フェイトはさきほど危険を顧みずにしようとした無茶な行動を省みたようだ。

 すると銀時はフェイトの体をなのはの方に振り向かせる。

 

「反省したなら、なのはの奴に礼を言いな。コイツが体張っておめェが傷つかねェようにしてくれたんだからよ」

 

 フェイトの背中をポン叩く銀時。対して、なのはは両手をパタパタ振って戸惑う。

 

「わ、私はそんなお礼を言われるようなことしてません! だって、フェイトちゃんの邪魔をしちゃっただけなんですし……」

 

 言葉の尻目には少し弱々しく言うなのはに対して、フェイトは小さく頭を下げた。

 

「ありがとう……」

 

 声音は小さいがちゃんとお礼の言葉を口にするフェイトに、なのはは「う、うん」とぎこちなく頷く。

 なんかちょっと微妙な空気が出来てしまったが、銀時はマイペースな口調で口を開く。

 

「さァて……残る問題は……」

 

 銀時はジュエルシードへと目を向けた。フェイトとアルフ、そしてなのはもその目線を追って暴走状態であろうロストロギアを見る。

 フェイトの無茶な行動を防げたのはいいが、ジュエルシードを封印できなきゃ事態は好転しないままだ。

 

「なのはちゃーん!!」

「なのはーッ!!」

 

 するとジュエルシードの発した衝撃によって吹き飛ばされたであろう新八と神楽の声。二人は心配そうな表情をしながらこちらにやって来る。

 なのはの元までやって来た二人のうち、新八がいの一番に声をかけた。

 

「なのはちゃん! 大丈夫だった!?」

「はい。……でも、レイジングハートのダメージが大きくて」

 

 どうやらフェイトのバルディッシュ同様に、なのはのデバイスも相当なダメージを負ったようだ。

 残念そうに顔を俯かせるなのは。そんな彼女を元気付けるように神楽が声を掛ける。

 

「でも、なのはに怪我がなくて良かったネ! 不幸中の幸いって奴アル!」

「でも、フェイトちゃんのデバイスもダメらしくて、これじゃ誰もジュエルシードを封印することが……」

 

 新八が「大丈夫!」と力強く言う。

 

「きっとすずかちゃんとアリサちゃんもこっち向かってるはずだから、すぐにジュエルシードを封印してくれるはずだよ!」

 

 ハッと笑顔になるなのは。

 

「そっか! すずかちゃんとアリサちゃんも魔法が使えますもんね!!」

 

 新八はなんだかんだで冷静に周りの状況を把握しているようだ。

 なのはたちの会話を聞いていたアルフは舌打ちする。

 

「チッ……魔導師が多い向こうの方がやっぱり有利だね。今回のジュエルシードは大人しく諦めるしかなさそうだ」

「大丈夫アルフ。最後の最後で、私たちが全部のジュエルシードを手に入れればいい」

 

 決意に満ちたフェイトの言葉を聞いて、アルフはニヤリと笑って犬歯をのぞかせた。

 

「さっすがあたしのご主人様。その通り、最後の最後で勝つのはあたしたちさ!」

 

 好戦的な笑みを浮かべてアルフが握り拳を作った時、

 

「おいおいおいおいッ!!」

 

 場の空気とは一変して銀時が声を上げ始めた。

 

「なんか誰も言及しないどころか、地の文ですら語ってなかったんだけど……」

 

 銀時はビシッと新八と神楽に指を突き付ける。

 

「なんで新八たちはいつの間にかいつもどおりの格好になってんだ!? なんでそこら辺誰もツッコまねェんだよ!?」

「「あ、ホントだ……」」

 

 アルフとフェイトもそれに気づいて声を漏らすが、反応は薄かった。

 アルフとフェイトにしてみれば、ただ単にバリアジャケットみたく衣装チェンジしただけに過ぎないだろうから、反応が薄いのも仕方ない。

 だが、銀時にしみれば不思議に思わない方がおかしいレベル。さきほどの新八と神楽の格好は、完全に別キャラの寄せ集めみたいな変貌なのだから。

 

「あ、銀さん!!」

 

 新八は銀時の存在に気付いて声を上げると神楽も気づく。

 

「あ、久しぶりアルな銀ちゃん!! 今までどこほっつき歩いていたアルか!! 心配したから十発ぶん殴らせろ!!」

「そうですよ!! 僕たち心配したんですよ!! だから僕も二十発殴らせてください!!」

 

 神楽同様に新八も拳を握りしめる。

 

「殴らせねぇよ!!」

 

 と銀時は声を上げて拒否。

 

「神楽はともかく新八! お前そんなに暴力的だったっけ!? つうかお前らさっきのパチモンみてェな格好はどうしたんだよ!!」

「ああ、アレですか? あれは源外さんから貰った秘密兵器の『変身ベルト』で強化した姿だったんですけど……」

「さっきの衝撃でベルトが壊れて変身が解けてしまったネ」

 

 説明した新八と神楽は残念そうな表情。

 

「なんだそれ!? たかだかベルト一本であんなすげェ力手に入ったのか!? ベルトすげェ!!」

 

 またしても源外のとんでも発明品にビックリさせられる銀時であった。

 

「ま、今回ぽっきりの一発ネタだけどナ」

「神楽ちゃん、誰に向かって話してんの?」

 

 新八は神楽にジト目向ける。

 兎にも角にもただの発明品で出来たとんでもキャラだったことに銀時はホッとした。

 

「あー、ビックリした。俺が知らない間にキャラを変えてテコ入れして失敗したマンガみたく、謎進化遂げたかと思ったぜ」

 

 あんなパクリ丸出しのキャラのまま万事屋スタート、なんてことになったらどうしようかと本気で心配していた銀時。とりあえず思考を切り替える。

 

「……しっかし、こうやって面と向かって再会したはいいが、お前らと俺らって敵対関係っつうかなんつうか……」

 

 銀時はめんどくさそうにボリボリと頭を掻き、神楽は小首を傾げて質問。

 

「銀ちゃんはフェイトの味方するアルか?」

「なのはの味方してるお前らにはわりィがその通りだ」

 

 そう言って、銀時は横にいるフェイトの頭に手をポンと乗せる。

 

「こいつがジュエルシードを欲しいって言うなら、俺も最後までジュエルシード探しを手伝う。お前らはどうなんだ?」

 

 銀時の問いに対し、新八と神楽も譲る気はないと言わんばかりの決意に満ちた表情になりだす。

 

「僕らだって同じ気持ちです。なのはちゃんやユーノくんを助けたいんです!」

「私たちの決意だって鉄のように固いアル!!」

 

 二人の顔を見た銀時はため息を吐き、また頭をボリボリと掻く。

 

「そうかい。たく、とんだ感動の再会になったもんだぜ」

「そ、そそそそれよりも銀さん!!」

 

 すると新八が慌てた様子で銀時に声を掛け、銀時は片眉上げる。

 

「どうしたぱっつぁん? フェイトの恰好見て思春期特有の発情でもしてロリコンに目覚めたか?」

「なんだって!? この眼鏡、フェイトに色目使ってんのかい!」

 

 銀時の言葉を聞いたアルフはすぐさまフェイトの前に回り込む。主を庇い、新八に鋭い眼光を向ける。

 

「ちげェーよ!!」

 

 と新八は怒鳴る。

 

「あとアルフさんもその人の話真に受けないで!! 僕はロリコンじゃありません!!」

 

 妙な言いが掛かりに対して必死に弁明する新八は、捲し立てるように話を戻す。

 

「そうじゃなくて!! 僕たちは銀さんに話たいことがあって――!!」

 

 その時――銀時の後ろ、それも上の方角。上空から銀時へと真っ直ぐ向かう人影、その手に持った刀の刃が彼の肩に向かって迫っていた。

 斜め上から真っ直ぐに迫る凶刃が、新八の瞳に写りこんでいた。

 

[newpage]

 

[chapter:突然の敵]

 

 時間は、なのはとフェイトがぶつかりジュエルシードが光と衝撃波を発している頃まで遡る。

 ビル屋上では、やってきた衝撃波の余波を受けるパラサイトと忍者。二人は衝撃に吹き飛ばされてように手摺りに捕まり、目を腕でガードする。

 

「うおッ……!」

 

 襲って来た衝撃が収まり、パラサイトは汗を流しながらおもむろに口を開く。

 

「…………なるほど。暴走したジュエルシードってのは、中々凄いな……。それなりに距離は取っていたつもりだったんだが……」

 

 パラサイトは手摺りに右肘を預け、左手をだらりと垂らして腰を曲げた。半眼になりがら空中で光り輝くジュエルシードを見る。

 やがてゆっくりと首を曲げ、横で立っているくノ一に顔を向ける。

 

「……これからどうする?」

 

 声を掛けられたくノ一は、視線をチラリとパラサイトに向けた。白いボードすら使わず無言のまま。何かを考えているのか、それとも無視しているのか。

 ただ突っ立ったままのくノ一は、ジュエルシードの衝撃により吹き飛ばされたフェイトやなのはや銀時を見る。

 小次郎の態度を見て、パラサイトは眉間に皺を寄せて舌打ちした。

 

「チッ……だんまりかよ。喋れなくても、スケッチブック使って返答するくらいはしろよな……」

 

 苛立たし気にパラサイトが言葉を発すると、小次郎がサッと白いボードを取り出す。パラサイトは目を細めながらそこに書かれた文字を見る。

 

『スケッチブックではない。正しくはボードだマヌケ( ´,_ゝ`)プッ』

 

 白いボードに書かれた文字&顔文字を見たパラサイトは「くッ!」と青筋を浮かべて怒りを露にし、拳を握り絞める。

 

「なんでテメェは人様罵倒する時は文字限定でそんなにお喋りなんだァ!!」

 

 そのまま殴りかかろうとするパラサイトだが、グサッと額にクナイが刺さった。怪物が放った拳の先に小次郎はおらず、その背後数十センチ先に腕を組んで立っていた。

 まさに一瞬の出来事。反応できなかったパラサイトは我に返ると忌々しそうな表情で振り返る。

 

「憎たらしいくらいの早業だな」

『それほどでも(*´σー`)』

「褒めてねェよ」

 

 ボードで答える小次郎に対してパラサイトは舌打ちして額のクナイを抜く。

 

「つうかふざけんなよテメェ。俺の本体は(ここ)にあんだからな。下手に傷つけたらマジで洒落にならねェんだぞ」

 

 パラサイトは声にドス利かせ、親指で自身の頭を指さす。

 文句を言われた小次郎はまったく聞く耳をもっていなのか、下で起き上がり始める銀時たちに目を向ける。

 

『そんなことより、お前にはそろそろしてもらうことがあるそうだ』

「そんなこと!? 俺の命に関わることをそんなこと呼ばわり!? マジ仕舞いにはぶっとばすぞテメェ!!」

 

 あっさりスルーされたパラサイトは怒り心頭で怒鳴り散らすが、小次郎はどこ吹く風。

 くノ一の視線の先では、起き上がり、ジュエルシードに向かって走り出すフェイト。それをなのはが抱きついて引き止め、言い合いをしている光景が映っていた。

 小次郎は淡々とした態度でパラサイトにボードを見せる。

 

『博士曰く〝頃合い〟だそうだ』

 

 ボードの文字を見てパラサイトが流し目で銀時たちに目を向ける。

 

「ん? それはつまり、連中と戦えってことか? 観戦するんじゃなくて?」

『察しが悪いな。つまりは〝そう言うこと〟だ』

 

 白いボードの文字を見て、パラサイトはニヤリと口元を吊り上げ、ワザとらしい口調で話す。

 

「ほォ~? つまり、俺の〝好き〟にしていいんだな? 連中にちょっかい出しても博士からお咎めがないと?」

『むしろ、眼鏡の男以外の江戸出身の者たちは〝今の貴様の全力〟を出す気で戦わないと、逆に痛い目をみるとのことだ』

「なるほど……な」

 

 パラサイトは見下すように眼下で集まり始めている銀時たちに目をやる。

 

「まァ、俺は目的さへ果てせれば連中が強かろうが弱かろうがどうでもいいしな」

『貴様も最近、イライラを解消したいとボヤいていたではないか』

 

 白いボードの文字をチラリと見て、パラサイトは腰に差している鞘から刀を引き抜く。集まって何かごちゃごちゃ話している銀時や新八たちに、ジロリと目を向ける。

 

「見たとこ、魔導師のガキ共は魔法使えねェようだし、ちょっかい出すなら侍共か、もしくは今んとこ魔法が使える魔導師共か?」

『それは貴様の自由で構わん』

 

 パラサイトは鈍く光を放つ刀の刀身を見ながら、チラリと小次郎に目を向ける。

 

「お前らが思ってるより、連中が弱くて俺に殺されるかもしんねェぜ?」

『その時はその時だ。その程度の連中でしかいなかったと割り切ってくれて構わない、と博士からの伝言だ』

 

 パラサイトは「くくく……」とケタケタ喉から笑い声を漏らす。

 

「言うねェ、博士も。まァ、俺も溜まってきた鬱憤を晴らす絶好の機会だし、せいぜい……」

 

 そこまで言ってパラサイトは地面を強く蹴る。

 

「――暴れさせもらうぜ!」

 

 ジャンプし、柵を飛び越え、ビルの壁面を伝って地面へと走り出す。

 走っている途中で、大きく壁を蹴る――その先には銀時――そして彼の肩に向かって、鈍く光る刃が迫る。

 

『せいぜい頑張ることだ』

 

 そんな一瞬の出来事を眺めるくノ一のボードには、誰が見るワケでもないのにそんな一文が書かれていた。

 

 

 そして時間は現在へと戻る。

 新八の目にスローで映るのは、ゆっくりと目の前の天然パーマの肩に刀が振り下ろされ、バッサリと肉どころか骨まで切断されそうになる光景。

 

 銀時に迫る凶刃。完全なる不意打ち――。

 

 このままでは自分が声を掛ける暇すらなく、銀時は重傷を負う。

 だが――ガキィン! と刀と木刀のぶつかる音。

 新八の予想は一瞬で裏切られる。

 刃は柄に洞爺湖と掘られた木の棒によって、肩に届く前に防がれたのだ。

 

「おいマジかよッ!?」

 

 と驚く襲撃者。

 

「うおォら!」

 

 銀時は力任せに迫る刀を押しのけ、襲撃者を後ろの木まで吹き飛ばした。

 加えられた力に対して空中ではまったく抵抗できない襲撃者は、ドカァ! と鈍い音と共に木に激突。そのままズルズルと背中を木に擦り付けながら地面に尻を付ける。

 そして常人離れした襲撃者撃退の一連をやってのけた銀時の声は、

 

「……あっぶねェな。なにおまえ? 変質者?」

 

 気の抜けたものだった。

 

「ぎ、銀さん……!?」

 

 一瞬のうちに起きたことが急展開過ぎて、新八は状況の整理が追いつかず、呆然としている。

 今、一体なにが起こったのか?

 やっと再開できた銀時を説得しようと試みた。すると突如、現れた何者かの攻撃を銀時が一瞬のうちに防ぎ、あまつさへ彼はその襲撃者を返り討ちにして木に叩き付けた。

 文にすると簡単だが、目で捉えるのがやっとであった新八の脳は整理がまだ追いつかない。

 

「い、いったい……」

「なにが……」

 

 フェイトやアルフも状況を飲み込め切れず、呆然。

 

「え? ……え?」

 

 なのはに至っては何が起こったのかまったく理解できないと言った様子だ。

 

「……大丈夫アルか、銀ちゃん?」

 

 だが唯一この中で神楽一人だけが銀時の安否を確認する。

 さほど銀時を心配している感じではない神楽の言葉に、

 

「……ん。まァ、な」

 

 と、銀時はテキトーに答えた。

 さすがは夜兎(やと)といった所か。並外れた動体視力で一部始終をちゃんと把握できていたのだろう。まあとはいえ、彼女自身は難しく考えることが苦手なので、現在の状況を深く考えてはいないだろうが。

 

 ようやく我に返った新八は焦り声を出す。

 

「ぎ……銀さん!? 今一体なにが起こったんですか!? 僕上手く状況が飲み込めないんだけすけど!?」

「俺も同じだよコノヤロー。さすがにちょっとヒヤッとしたし」

 

 言うほど銀時に緊迫感は見られない。

 銀時は首を撫でながら襲撃者に目を向ければ、彼を襲った敵はゆっくりと立ち上がる。

 敵であろう相手に銀時は鋭い視線を向けた。

 

「……よくわからねェが……確かなのは、あのクソヤローが俺の肩を掻っ切ろうとしたってことだな」

「ッ!? だ、大丈夫なの銀時!?」

 

 やっと銀時の身に起こった危機を理解したフェイトは、慌てて彼の身の安否を心配する。

 

「心配すんな。別にどこも怪我してねぇから」

 

 銀時はフェイトを安心させるように手をぶらぶら振った。

 

「銀ちゃん、あの変なおっさんに何か恨まれるようなことしたアルか?」

 

 神楽の問いに対して、

 

「あん? 知らねぇよ。俺はこっちの人間にほとんど関わった覚えがないんだからな」

 

 心底ワケがわからないと首を振る銀時。

 その時、

 

「クハァーハッハッハッハッハッ!!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突然の笑い声に全員の視線が声の主へと注がれる。彼らの視線の先には、銀時に吹き飛ばされた襲撃者が立ち上がり、不気味に天高く笑い声を上げていた。

 

「えッ!? なに? いきなり笑い出してキモイんだけど!? コイツ頭大丈夫?」

 

 色々斜め上の相手の行動にさすがの銀時もドン引きして頬を引きつらせていた。

 他の面々も相手の異様な振る舞いに緊張、不安、嫌悪と言った感情を感じ始めている様子。

 襲撃者は首をゴキゴキ鳴らしだす。

 

「いやァ、驚いたぜ! まさかさっきの一撃防がれた挙句反撃くらうとはな! 聞いてたより中々強いじゃんあんた。赤毛のチャイナ女の体の方が良いとばっかり思ってたが、なかなかどうして……」

 

 そう言って襲撃者は刀の切っ先を銀時に向ける。

 

「テメェの体もちょっと欲しいと思ってきたじゃねェか」

「「ッ!?」」

 

 相手の言葉を聞いた銀時とさらに神楽までもが顔面蒼白にし、全身に鳥肌立てる。

 

「ちょっとちょっとなにあの人!?」

 

 と、銀時は神楽に耳打ちしだす。

 

「いきなり意味不明な登場したと思ったら、今度は男の体欲しいとか言い出したぞ!?」

「マジドン引きネ! キモい通り越してドキモいネ! さり気なく私の体狙ってる発言してたし、ロリコンな上にホモとか救いようがない変態アル。私の中で変質者ランキングがゴリラ越えそうな勢いアル」

 

 ひそひそ話しだす銀髪とチャイナ娘に対して変質者は青筋浮かべる。

 

「いや、全部聞こえてんだよ!! ひそひそ話してる体装っても全部丸聞こえだぞコラァ!!」

 

 怒鳴り散らす襲撃者に対して銀時と神楽は嫌そうな顔を作り、一歩引く。

 

「あの、すんません……話しかけないでもらいます? カッコ悪く登場した人」

「そうアルキモイアル、カッコ悪く登場した上に変態な人」

「カッコ悪く登場した人ってなんだァーッ!」

 

 襲撃者は青筋立ててキレた。

 

「カッコ悪くなったのはテメェのせいだろうが!! あと俺は変態でもねェー!!」

 

 襲撃者に指を突きつけられた銀時が右手を横に振る。

 

「いやいや、お前が俺に攻撃してこなきゃ、別にあんなダサい登場にならなかったからね? ダサい人」

 

 神楽も「そうアル」と同意。

 

「しかもあの発言が全てをお前のドキツイ性癖を物語ってるアル。全部お前の自業自得ネ。ダサく変態な人」

「いちいち変なあだ名で呼ぶんじゃねェ!! マジぶっ殺すぞテメェら!!」

 

 ダサい人は銀時と神楽の毒舌攻めに血管切れるんじゃないかと思うくらい怒鳴り散らす。

 すると新八が軌道修正も兼ねて、謎の襲撃者に怒り気味の質問を飛ばした。

 

「あんたは一体なんなんだ! なんでいきなり銀さんを襲ったんだ!」

「ほら、あれだよ」

 

 と言うのは銀時。彼は代わりに答えるように新八に耳打ちする。

 

「さっきあいつ理由言ったろ? あいつはどこにも需要のないヤンデレホモロリコン野朗だから俺を襲ってきたんだよ。それ以上でもそれ以下でもない変質者だ。あんま関わろうとすんな新八」

「テメェは黙ってろ!!」

 

 襲撃者は青筋立てて怒鳴ると、ふと何かに気づいたように真顔になってジッと新八を見つめ始めた。

 

「………………」

「な、なんですか!? 人のことそんなに見つめて!?」

 

 困惑する新八は眉間に皺を寄せ、自分を見つめる相手を見てハッと理由を悟る。

 

「ま、まさか!? 僕も銀さんと神楽ちゃん同様ターゲットに――!?」

「…………お前なに?」

 

 と襲撃者。

 

「…………へ?」

 

 新八は予想外の答えに呆けた声を出し、襲撃者は怪訝そうな表情で新八を指さす。

 

「つうか、お前誰? ……え? いつから居たの? 全然気付かなかったんだが? ……え? もしかして最初からいたのか? 存在を感じなかったぞ……」

「おィィィィィッ!?」

 

 と新八シャウト。

 

「なにそれ!? いきなり現れてその発言ってめちゃくちゃ酷くない!? すんごい傷ついたんだけど! 僕の存在感そんなに皆無ですか!?」

 

 まさか解答に新八は涙流しそうになる。すると銀時が不敵な笑みを浮かべて新八の肩に手を置く。

 

「ふッ。テメェが気付かねェも無理はねェ。なにせコイツは――!!」

 

 クワッと銀時は目を見開き、言い放つ。

 

「永遠のサイドマン!! 志村新八だからな!!」

「永遠のサイドマンってなんだァァァァァ!?」

 

 とサイドマンは張り裂けそうなほどの声でツッコム。

 

「なんだその称号!? 一度も聞いたことねェよ!!」

 

 ツッコム新八の空いている肩に今度は神楽が手を置く。彼女は真剣な表情で語りだす。

 

「永遠のサイドマンとはそのあまりにも中途半端な能力ため、前線にも出されず、かと言って存在感は必殺のミスディレクションの影響で薄過ぎてコーチからも作者からも忘れ去られ、声と尻で場とベンチを暖める存在となったものの名称――それが幻の補欠(サイドマン)!!」

「それようするにただ単に影薄くて使えないから忘れ去られてるだけだろうがァッ!!」

 

 無論、ツッコミがそんな称号を受け入れるはずもない。

 

「つうか僕ってそんなに使えない感じのキャラだったの!? って言うかそんなデタラメ敵が信じると――」

「その眼鏡にそんな特殊能力が……!」

 

 と襲撃者は汗を流し驚く。

 

「信じるんかィィィィィィッ!?」

 

 まさかの反応に逆に新八が驚き、ツッコミ開始。

 

「なに驚いてんの!? 今の虚しいキャラ説明のどこに驚く要素があったの!? つうかなに!? 僕ってこの作品だとそう言うポジションなの!? ただ応援しかできないクリリン的なポジションなの!?」

 

 銀時が「いや違うな」と手を振って否定する。

 

「クリリンは一応結婚しているけど、お前は彼女いない暦=年齢の童貞だから。言っちゃうと、ちょっと戦うシーンのあるヤムチャだな」

「そこまで言うことねェだろォ!! せめて成長途中のご飯君ポジって言ってくださいよ!! 僕、原作だと銀さんの弟子っぽい感じで活躍したりした事もあるんですよ!?」

 

 すると神楽が「いやいや」と右手を振って否定する。

 

「原作だとぱっつぁんはちょっと戦うシーンあるけど、見せ場らしい見せ場もなく敵と戦ってるポジアル」

「そんなことないでしょ神楽ちゃん!! 映画でも僕は結構活躍してたでしょ!!」

「あれはパラレルだからノーカン」

 

 と言う銀時。

 

「ひでェ!! この人数少ない僕の活躍バッサリ切捨てやがったよおい!!」

 

 新八は銀時の言葉にキレ気味に涙流す。

 なのはは三人の様子を呆然と見つめながら、フェイトに顔を向ける。

 

「あの、フェイトちゃん……。銀時さんて、フェイトちゃんといる時もあんな感じだったりするの?」

「うん、まぁ……」

 

 なのはの質問に対してフェイトは微妙な表情で首を縦に振る。トリオ漫才披露する銀時の姿に苦笑するしかないようだ。

 

「いい加減にしやがれテメェらッ!!」

 

 突然の怒声にその場にいた全員の視線が襲撃者に注がれる。目の前では青筋浮かべ、怒気全開の男が刀を持って怒りを露わにしていた。

 

「好き勝手ほざいた挙句人様のこと無視とはいい度胸じゃねェか!! あん? こちとら折角のいい気分がテメェらのバカ丸出しの会話のせいで台無しだクソったれ!!」

 

 襲撃者は苛立たしそうに地団駄踏む。その様子から察してかなり不機嫌そうだ。

 銀時は「けッ」と吐き捨てる。

 

「人様に不意打ちしてぶった切ろうとした変態野朗が何ほざいてやがる。寧ろ勝手なこと言ってんのはテメェだろうが」

「お前の目的は一体なんだ?」

 

 フェイトが鋭い視線を向けて問い掛けると、襲撃者は片眉を上げる。

 

「目的ィ? そんなモンお前らに話してどうなる? 俺がそもそも懇切丁寧に教える思ってんのかお前? 案外賢そうに見えてバカなんだなァ?」

 

 襲撃者は人差し指で頭をつんつんと指しながら、フェイトを小ばかにしたような視線と言葉を送り、高らかに言う。

 

「お前ら全員逃げるか殺されるかでもして、ジュエルシードおとなしく寄越せば問題ねェんだよ」

「ジュエルシードが目的か……!」

 

 フェイトは拳を強く握り込み、

 

「なら、あたしらの敵ってことで間違いないようだね」

 

 アルフの視線も鋭さを増し、拳を握りしめる。

 

「言動からしても、あんま良い奴って感じじゃなさそうだし、遠慮なくガブっていかせもらおうか」

 

 拳を掌にバシっと叩き付けるアルフに、襲撃者はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ただの犬風情が随分大口叩くなァ。使えないご主人様でも犬は忠を尽くすってか?」

「あぁん?」

 

 敵の言葉を聞いてアルフの声に怒気が含まれる。

 

「あたしだけのみならず、フェイトまでバカにしやがって……」

 

 アルフはわなわなと拳を震わせ、ポキポキと拳を鳴らしながら鋭い犬歯を口から覗かせた。

 

「――覚悟はできるんだろうね?」

 

 そう言って拳に魔力を込めながらゆっくり敵に向かって歩き出そうとするが、使い魔の進路を木刀が塞ぐ。

 

「……なんのマネだい? 銀時」

 

 鋭い視線を向けてくるアルフに対し、彼女の行動を遮った当の本人は飄々とした顔で答える。

 

「わりィがこの喧嘩は俺に譲れ。アレに最初喧嘩売られたのは俺だ。こういう事に関しては最後までシメねェと気が済まねェ性質でな」

 

 アルフはジッと銀時の瞳を覗き込むように見つめるが、やがてため息を吐いて一言。

 

「……フェイトの分もぶっ飛ばさないと承知しないよ」

「ついでにおめェの分も利子付けて叩きつけてやるから安心しろ」

 

 銀時はそう言って木刀を肩に掛けて敵に向かって歩いていく。そんな侍の背中に向けてアルフは「頼んだよ」と一言、それに対して銀時は「ああ」と短く答える。

 それを見ていたなのは慌てた様子で新八に顔を向ける。

 

「し、新八さん! 銀時さんは一人で大丈夫なんですか!?」

 

 危険な雰囲気を漂わせる敵に一人向かっていく銀時を心配する少女。それに対し神楽と新八は心配ないと言わんばかりに答える。

 

「サシの喧嘩に女やガキが横槍入れるのは無粋アル。下手に手を出したら私たちがぶっ飛ばされるネ」

「それに、あんな奴に銀さんが負けると思えないしね」

 

 そこまで言って新八はなのはに「だから安心して見守ろう」と微笑みかけた。

 

「「………………」」

 

 彼らの言葉を聞いてなのはは押し黙る。完全に納得はできないが、銀時をよく知る二人の意見を信じて銀髪の侍の戦いを見守ることにしたようだ。

 すると神楽があッ、と思い出したように声を漏らす。

 

「あの変態のせいで忘れてたけど、暴走したジュエルシードってあのままでいいアルか?」

「「「あっ……」」」

 

 神楽の言葉で一瞬にして場が氷付く。そして全員の視線が後ろで光り輝いて暴走しているであろう、ジュエルシードに自然と注がれる。

 

「もうあんたたち!! ジュエルシードほったらかして何くっちゃっべってるのよ!? フレイアから話を聞いたら、このまま暴走させてたら大変なことになっていたって言うじゃない!! なに考えてるのよ!」

 

 とプンスカ憤慨しているのはアリサ。続いてすずかが皆を安心させるように右手を振る。

 

「私たちがちゃんと封印したからもう大丈夫だよ~!!」

 

 それを見た銀時は柔和な笑みを浮かべサムズアップ。

 

「良くやった、コスプレ少女共」

「ど、どうも……」

 

 すずかは戸惑い気味に返事をし、

 

「誰がコスプレ少女だァー!! って言うかあんた誰よ!?」

 

 明らかに悪意ある呼び名に怒鳴るアリサだが、銀時の背格好を観察して「あッ!」と声を漏らす。

 

「もしかしてあんたが坂田銀時!? 新八から聞いた特徴に当てはまるところ多いし!! もしそうならあんたに話したいことが――!!」

「まったく大した連中でさァ、痛い服着たガキ共」

 

 だがアリサの言葉を遮るように突如現れたのは沖田。それを聞いたアリサは青筋浮かべる。

 

「誰が痛い服よッ!! なに!? そんなにあたしたちの格好って痛々しかった!? ちょっとショックなんだけど!! って、そんなことより、あたしたちにはあの銀髪男に話があるの忘れたの!!」

 

 ちなみにいつの間にか他の真選組の面々も集まっていた。

 アリサは再度大声で銀時に声を掛ける。

 

「ちょっとあんた聞きなさい!! あたしたちにはあんたに伝えなきゃならない話が――!!」

「あー、そういうのは後にしてくれ。今おめェの話聞く暇ねェから」

 

 そう言って銀時は右手を軽く振りながらアリサの話を遮ってしまう。

 アリサは何か言いたそうにするが、銀時が敵と対峙している状況を見て、さすがに邪魔をするのはマズイと思ったのか押し黙る。

 

「いいのか? 大事なら話なら待ってやってもいいぞ?」

 

 と言う襲撃者に対し、銀時は目を細めた。

 

「へェー、お優しいこった。どうせ、人様が話している間に後ろからグサリだろ?」

 

 銀時はウォーミングアップするように肩を回す。

 

「今の俺の優先順位は不意打ちと言うあいさつしてくれたおたくをぶっ飛ばすことだから安心しな」

 

 ニヤリと襲撃者は笑み浮かべる。

 

「そうかい。ならとっとと殺し合おうぜ」

 

 対峙する二人の間には一瞬の静寂が訪れる。

 ダッ! と先に駆け出したのは銀時。彼は声を上げて突っ込む。

 

「うォォォォォ――ッ!!」

「はッ! この刀で死なない程度に刻んで――!!」

 

 襲撃者は銀時を迎え撃とうと刀を振りかぶり――バキッ! と刀から嫌な音が聞こえて来た。

 

「………………」

 

 襲撃者はゆっくりと自身が持った刀の刀身を見えようと目の前に持ってきて確認。刀身はポッキリ半分に折れており、折れた先は無残にも地面に落ちていた。

 

「…………あれ? 先っちょ……が……あれ?」

 

 襲撃者は目をぱちくりさせ、刀身の上半分以上が消えた刀を見ながら間の抜けた声を出す。

 刀を両手に持って自分の刀の現状に唖然。

 

「……えッ? あれ? ……えッ!? ちょッ!? え”ッ!?」

「――ォォォォオオオオオッ!!」

 

 銀時は距離を詰め、右腕を引く。

 襲撃者は近づく銀時と自分の刀を交互に見ながら混乱中。

 

「これッ!? ちょッ、まッ! 先っちょ! これ先っちょ折れてる!」

「おりゃァァァッ!!」

 

 銀時の渾身の突きが敵の胸にズドンッ!! と突き刺さった。

 敵は何もできないまま体をくの字に曲げて後ろに吹っ飛ばされ、そのままさきほど叩き付けられた木にまたしても吹き飛ばされる。

 銀時の一撃の威力が凄まじいらしく、人一人がぶつかった木もくの字に傾き、襲撃者の背中は少しばかし木の幹にめり込んでいた。

 決着を付けた銀時は息を吐き、人差し指を指して一言。

 

「あッ、お前の持ってる刀、ヒビ入ってたから使わない方がいいぞ」

 

 その言葉を聞いたこの場の人間の何人かは「えェ……」と言う落胆したような、呆れたような声を漏らす。

 まさかの予想斜め上(悪い意味)での勝負の幕引きにテンション下がってしまった者も少なくないのだろう。

 新八がボソリと声を漏らす。

 

「まさか、銀さんが反撃した一撃で刀が折れるほどに脆くなっていたなんて……」

 

 銀時と違って新八は刀のヒビに気づかなかったが、彼の予想が正解だ。

 銀時の反撃した一撃があまりに強く、刀が耐え切れず刀身にヒビが入った。敵が刀を振って力を加えたところで、ポッキリ折れてしまったのだろう。

 刀身が限界であることに気付かない敵が負けたと言うなんともパッとしないオチ。

 これにて謎の襲撃者と戦いに決着……。

 

「くくく…………」

 

 と思いきや。

 

「まさかッ――!?」

 

 新八は木の幹から体を抜き出す男の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「ギャァーハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 背中を折って下を向いたまま敵は狂ったように笑い出す。

 

「さっきの一撃でも気絶しないなんて……」

 

 と驚く新八。

 

「しかも、あいつあんなボロボロの状態でなんで動けんだ……?」

 

 土方も驚いた顔で呟き、異様な立ち姿でゆらゆらと体を動かす敵を眺めていた。

 すると今度はミシミシと何かが軋む音がしたかと思うと、敵のぶつかった木の幹が前のめりになって折れ出し、大きな大木が敵の頭上に向かって倒れだした。

 

「危ないッ!!」

 

 なのはが叫んだと同時に、襲撃者を押し潰そうと倒れた大木――が、敵はそれを両腕を上げて受け止めてしまう。

 

「グギャハハハハハハハハッ!!」

 

 襲撃者は血を吐きながら高笑い。

 

「ブハッ! マジでやってくれたなクソヤローッ!! ブェハッ!! 俺の新品の体粗大ゴミにしやがって!! オェッ!!」

 

 口から多量の血を吹き出しながらも構わず大声で叫びまくる、最早人間とすら呼ぶのも戸惑うほどの怪物。

 

「おいおいマジかよ……。アレ、マジで人間?」

 

 さすがの銀時も面食らう。男は満身創痍で数百キロはありそうな木を持ち上げるのだ。

 

「もう任務だとかそんなもん知った事か……! 俺の全力で挽肉(ミンチ)にしてやるよォ!!」

 

 襲撃者がそう言った直後、彼が持ち上げる木の幹――それも握っている部分がミシミシと音を立て始める。

 

「『今』の俺の全力でこれからお前らぶっころ――!!」

 

 すると、突如上空から降ってきた二つの影、それらは怪物の持っていた大木に、ズドォーン!! と降り注ぐ。

 

「ぐおッ!?」

 

 凄まじい衝撃が木の幹に加わったことで、支えきれなくなったであろう怪物は大木の幹に押しつぶされ、下敷きにされてしまう。

 

 その光景を見ていた一同は、衝撃の突風に髪を揺らしながらポカーンと茫然自失。

 

 突如現れた影のうち、一人はすね毛の生えたおっさんの足がチラリと見える白いペンギン。

 そしてもう一人を見た銀時は呆れ声を漏らす。

 

「………………ヅラ……お前……なにしてんの……?」

 

 穏健派攘夷志士のリーダーであり、髪の長さくらい性格がウザイ男、

 

「ヅラじゃない……桂だ!」

 

 バカ(ヅラ)が現れたのだった。

 

「バカじゃないヅラだッ! あ、間違えた。桂だ!!」

 


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