魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第三十九話:時空管理局

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ。事情を聞かせてもらおう」

 

 なのはより少し年上だと思われる、黒いローブに似たバリアジェケットを装着した魔導師の少年。

 少年の姿を見てアルフは苦虫を噛み潰したよう顔になる。

 

「なッ!? 管理局!」

「ッ!」

 

 フェイトもまた思わぬ邪魔者の登場に険しい表情。

 クロノを見て土方は新八に耳打ちする。

 

「(おいメガネ。あのガキが来んのはコンビナートみてェなとこじゃなかったか?)」

「(はい。映画だとそうでしたけど、でもアニメ版だと木のジュエルシードの時に二人の決闘を止める為に出てくるはずです)」

「(いや、そういうことは前も持って教えろよ!! 全然なんの対応の準備もしてねェぞこっちは!!)」

 

 土方は少し焦り顔。管理局が現れたらこちらが動きやすいように話しを纏めるつもりだったのだが、まったくなんの案も浮かんではいない。

 ひそひそと話している土方と新八に気づいたクロノは二人に鋭い視線を向ける。

 

「そこ。何をこそこそ話している」

「い、いえ何も!」

 

 両手を振って誤魔化す新八だが、クロノはますます懐疑的な目を向ける。

 

(ちょっとォーッ!! なんかめっちゃ疑われてません!?)

 

 新八は冷や汗をだらだら流し、土方は冷静に分析。

 

(たぶんあいつ、俺たちが魔法使えないのに魔法関連の事件に関わってるから、警戒してんだろ)

 

 ちなみに二人はテレパシーに近いアイコンタクトで話していると思っていただければありがたい。

 なのはとフェイトに交互に顔を向けるクロノ。

 

「さて、そこの白い魔導師の君と黒い魔導師の君は何もしないように。こちらも手荒な真似をするつもりはない」

 

 抵抗するなよ? 的な意味が篭っているであろう言葉に、身を硬くするなのはとフェイト。

 

 クロノの言葉を聴いた土方は、なのは組の面々にアイコンタクトで「なにもするなよ?」とメッセージを送る。

 実のところ交渉の内容はともかく、管理局(クロノ・ハラオウン)が出た際の行動は既に全員で話し合って決めていた。

 とどのつまり『なにもしない』である。

 

(まァ、あの金髪が何かした場合はガキ共には庇ってもいいとは言ったが……はてさて)

 

 そう考えながら土方は顎を撫でた。

 なのは、アリサ、すずか、神楽など、年齢層が低い少女たちにはフェイトがクロノに攻撃された場合、多少庇っても問題ないとは伝えてある。

 年端もいかない彼女たちなら、警察組織である管理局の命令に逆らっても見逃される可能性が大きいことは既に把握済みだ。(ただし神楽には、やり過ぎるな、無抵抗に徹しろと釘を徹底的に指してある)

 

(問題は……)

 

 フェイト、アルフ、銀時たちの方へ、土方はチラリと視線を向ける。

 もういつ管理局員に攻撃してもおかしくないはずだが、特に銀時なんかは。

 

「あぁ、はいはい。なにもしません」「これでいいかい?」「…………」

 

 銀時、アルフ、フェイトは両手を挙げて無抵抗ポーズ。

 それを見た土方と新八は、

 

((ええええええええええええええええええええッ!?))

 

 まさかの予想斜め上の光景に度肝抜かれていた。てっきり魔力弾撃って逃走するんだとばかり思っていたのに、まさかの両手万歳である。

 

(ちょっと待てェェェェェッ!? あいつら何してんの!? このままじゃアースラ連行コース&尋問受けてアウト確定だぞ!)

 

 と土方は内心動揺。

 

(銀さんか!? 銀さんの入れ知恵か!)

 

 新八は銀髪を睨む。まさかフェイトとアルフに無抵抗でいろと指示したのは銀時では? とすぐに思い至った。

 遅れて土方も銀時を睨む。

 

(間違いねェあの銀髪! フェイトたちに何か吹き込みやがった! まさか管理局を言いくるめられるとでも思ってるんじゃねェだろうな!)

(口先から生まれたあの人だって無理でしょいくらなんでも!!)

 

 新八は銀時の口がすんごいうまいことは周知だが、今回は不利過ぎる。

 いくら口からでまかせ言って目的を隠しても、管理局に「ジュエルシード渡してね?」なんて言われたら、フェイトとアルフ的にはアウトのはずだ。二人はいったいどんな説得受けてあの天然パーマを信じたというのだろうか。

 

「いや、別に手を上げる必要はないんだが……」

 

 クロノは三人の行動に微妙な顔をし、銀時はあっけらかんとした顔で手を下ろし始める。

 

「えッ? ああ、そうなの? なんだよ、手ェ上げて損したじゃねェか」

 

 アルフとフェイトも銀時に釣られて手を下に降ろす。

 クロノは銀時の不満そうな態度に呆れる。

 

「いや、別に手を上げろとこっちは言ってないんだが……まぁ、いいか。とにかく、アースラに来てもらうよ」

 

 なんかメンドーな奴に出会ったな、と言いたげな顔で三人に近づくクロノ。

 銀時は一歩前に出て言う。

 

「そんじゃま、そのアスランとかいう所に案内してもらおうじゃねェか」

「アースラだ」

 

 と訂正するクロノ。

 銀時に続いてアルフも前に出るのだが、なぜかフェイトだけ一歩も動こうとしない。

 俯き、目元を髪で隠した金髪の少女。

 

(フェイトちゃん?)

 

 その姿をなのはは不思議そうに見る。

 

「えッ……」

 

 やがて、なのははすぐに気づいた。フェイトが背中に回した右手、その手の平で魔力弾を構成していることに。

 だが、そんなフェイトの行動に気づかないほど、執務官は甘くなかった。

 

「黒い魔導師……一体なにをしているんだ?」

 

 少し声音を強くさせたクロノの言葉に、肩をビクリと震わせるフェイト。

 前に出た二人は後ろを振り向き、金髪の少女の様子がおかしいことに気づく。

 

「フェイト?」

 

 心配そうにフェイトを見るアルフ。

 

「…………?」

 

 怪訝そうな表情の銀時。

 口を結んでいたフェイトはボソリと呟いた。

 

「アルフ、銀時……ごめん……」

「お前……!」

 

 銀時はすぐに異変を察したようだ。

 

「動くなッ!!」

 

 そして黒衣の少女が何かしようとしていることに気づいたクロノも、すぐさまデバイスを向けてフェイトに魔法をかけようとする。

 だが、一歩フェイトの行動の方が早かった。

 フェイトは右手を前に突き出すと魔力弾をクロノに向けて撃つ。

 

「くッ!?」

 

 素早く反応したクロノは防御魔法で弾を防ぐが、弾は爆発し爆煙が上がる。

 

「うおッ!?」

「フェイトッ!?」

 

 銀時は顔を腕で覆い、アルフは思わず声を出す。

 

「不意打ちか!! だが――!」

 

 クロノすぐさまフェイトに向かって拘束魔法――バインドを仕掛けた。爆煙で姿は見えずとも彼女の位置は把握していたようだ。

 だが次の瞬間、バキンとフェイトに掛けたバインドが砕け散る音。

 

「なにッ!? バカな!」

 

 ベタな驚き方をしてしまったクロノ。だが、彼のようなリアクションになるのも仕方ない。なにせ彼のバインド技術は魔導師としては一級品のはず。彼自身、それに自信を持っているはずだ。

 管理局執務官として得意のバインドで何度も犯罪者を捕まえてきたはずだろう。そんな得意のバインドが仕掛けた直後に破壊されたとなれば、いくらなんでも驚くなと言う方が酷な話だ。

 

 煙の向こうの影がまっすぐ自身に向かって来るのがクロノの目に映る。彼を攻撃するつもりなのだろう。

 

「ならッ!!」

 

 クロノは水色の魔力弾を複数打ち込むが、彼女は手に持った『モノ』で自分に当たるであろう弾を全て防ぐ。『モノ』に当たった魔力弾は、そのままガラスが砕けるように霧散してしまう。

 

「ッ!?」

 

 捕縛どころか攻撃も一瞬で無効化されてしまったことに、クロノは最早驚きを隠す暇さへない。いくらなんでも未知の経験過ぎて、どう対処していいか判断が鈍ってしまっているようだ。

 数瞬の動揺による隙が敵の接近を許し、武器が自分に向かって振り下ろされる。

 

「くッ!」

 

 クロノは咄嗟に手に持った杖――『S2U』で攻撃を防ぐ。

 襲い掛かる〝剣撃〟をなんとか杖で防いだクロノ。だが、刃を防いだ部分にヒビが入ったかと思えば、杖はそのまま真っ二つにされてしまう。

 

「なんだとッ!?」

 

 もう驚いてばかりで防戦一方なクロノだが、まだ諦めてはいなかった。

 

「まだだ!」

 

 クロノは魔法陣を展開して防御したのち、魔力弾を超至近距離で当てる準備を開始。

 だが、敵が振り下ろした『刀の峰』はクロノの防御魔法を瓦解させ、そのまま彼の肩に叩き付けられる。

 

「ぐッ!」

 

 クロノは鈍い痛みを感じて膝を付く。

 峰打ちをされたクロノはバリアジャケットの肩部分の異変に気づいた。

 

「これはッ!?」

 

 なんとバリアジャケットが壊れかけていたのだ――たかだか刀の峰打ち程度の攻撃で。そんなありえない光景に目を奪われている隙に、自分の腹に黒い斧の切っ先が向けられていることに気づく。

 冷徹な声でフェイトが呟く。

 

「サンダースマッシャー……」

「ぐわァァァァァッ!!」

 

 クロノの体を電気を帯びた金色の光が貫き、彼は苦悶の声を上げながら鉄の柵まで吹き飛ばされる。そのままクロノのバリアジャケットは瓦解。

 クロノの服装は、彼が普段着ているであろう制服姿に変化。

 

「くぅぅ……!!」

 

 クロノは腹を抑え、苦痛による痛みで起き上がれないでいる。

 

「ふぇい、と……?」

 

 今の一部始終を呆然と見ていたアルフ。

 管理局の執務官――凄腕魔導師をあっさり倒してしまったことに驚きを隠せないようだ。だが、なにより少女の手に握られている『ソレ』の存在が、彼女の動揺を大きくさせているはずだ。

 

「フェイト、ちゃん……?」

 

 なのはは今のフェイトの姿を見て目を見開いていた。

 容赦のない戦い方だけではない。

 左手にバルディッシュ、右手に『刀』を持った異様な立ち姿。それは少女に驚きと戸惑いの心を抱かせるには、十分だった。

 

「ふぇ、フェイトちゃん……それ……」

 

 フェイトの持つ刀を震える指で差すなのは。

 すると声に反応してか、フェイトが振り向いた時、

 

「ッ――!?」

 

 なのはは思わず息を呑んだ。

 

 彼女の瞳からは『何も』感じられない。

 喜びにしろ、悲しみにしろ、憂いにしろ、何も感じ取れない。

 今までなら、フェイトの綺麗な赤い瞳からは無機質でありながらも、どこか悲しそうな感情が垣間見えた。だが、今の彼女の瞳からは何の感情も見えてこないのだ。

 まるでロボットみたいな――そう、無機質という言葉しか見当たらない。それを見て、冷や汗だか脂汗だか分からないものがドッと肌から出るのを、なのはは感じる。

 

「くッ……!」

 

 なんとか立ち上がろうとするクロノに気づいたフェイト。彼女は右手の刀を今度は峰から刃に裏返し、クロノの前にゆっくり向かっていく。

 

『止めてください!!』

 

 突如として立体モニターのようなモノが現れると、そこには緑色の髪をした女性の必死な表情が写っていた。

 

「うわッ! 空にテレビが出てきたネ!!」

 

 神楽と同様に多くの人間の視線が現れたモニターに寄せられる。が、フェイトの意識をまったく逸らすことができなかった。

 クロノの前まで来た少女は刀を振り上げる。

 

『お願い!! 待って!!』

 

 モニターの女性は懸命にフェイトを止めようと声を上げるが、まったく止まる気配が見受けられない。

 

「フェイトちゃん!! やめて!!」

 

 まさか目の前の少年の命を奪おうとしているのでは? と思ったなのはは、必死な声でフェイトを止めようとした。

 

「おいよせ!!」

「フェイトちゃんダメだ!!」

 

 土方と新八は声を荒げ、慌てて駆け寄ろうとした。

 他の者もさすがにフェイトが何をしようとしているのかに気づき、慌てて駆け出す者もいたが、もう遅い。

 

 黒衣の魔導師は手に持った刀を振り下ろす――風を切る鋭い音が周りにいた者の耳に届く。

 刀の刃は――少年の鼻先から数センチ先で止まっていた。

 

「おいおい、なにやってんだテメェ……」

 

 フェイトの凶刃を止めていたのは、銀時。彼女の腕を掴み、強い力で振り下ろそうとする手を止めている。

 フェイトは自身の腕を掴んでいる人物へと、ゆっくりと顔を向けた。

 

「お前、こんな物騒なモンどこで手に入れた? つうか、何があった?」

 

 さすがの銀時もフェイトの異様さに気づき、真剣な面持ちで声を掛ける。するとフェイトの瞳に徐々にだが、光のようなモノが宿っていく。

 

「ぎん……とき……」

 

 瞳を揺らす黒衣の魔導師。この短い期間、使い魔同様に自分を支えてくれた侍の名を呼ぶ。

 大丈夫だろうと感じ取ったのか、銀時はフェイトの腕をゆっくりと放す。するとフェイトは覚束ない足取りで後ろに後退し、顔を右に左へと向ける。

 そしてフェイトは手に持っている刀を見ると、苦しそうに頭を抑えだす。

 

「ッ……!?」

「フェイトッ!?」「フェイトちゃん!!」

 

 フェイトの異変に気付くアルフとなのはがいち早く駆けつけようとするのだが、

 

「こないで!!」

「「ッ!?」」

 

 はっきりとした拒絶の言葉が掛けられ、二人の足が止まってしまう。

 

「ふぇ、フェイト……」

 

 アルフに至っては信じられないといった顔でフェイトを見る。主からはっきりとした拒絶の言葉など今まで一度も受けたことないであろう彼女からしてみれば、当然の反応だ。

 ふらつき、まるで迷いを断ち切るかのようにフェイトは首をぶんぶんと左右に振る。やがて、銀時とアルフに顔を見せないように俯きながら、口を開く。

 

「……アルフ、銀時……。二人はもう私のところに来なくていい……」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフは瞳を揺らし、震える足で主に近づこうとする。

 

「ふぇ、フェイト……なに言って……」

 

 だがフェイトが顔を上げた瞬間、

 

「――ッ!?」

 

 アルフの足は止まってしまう。その瞳は、まるで信じられないモノを見たかのように大きく開いていた。

 自身のご主人様の優しさも、好意も――まったく感じられない冷たい表情に愕然している使い魔。

 

「私にはこの剣がある」

 

 アルフと銀時に見せつけるように剣を見せるフェイト。

 銀時は剣を見て、視線を鋭くさせる。

 

「これがあれば、どんな魔導師も私の敵じゃない」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフは怯えたように唇をわななかせた。

 

「……だ……だからなんだって言うんだいッ!!」

 

 涙を流す一歩手前、と言ったところか。震える声で必死に絞り出した使い魔の言葉に、フェイトは冷たい一言を返す。

 

「だから……使い魔もさむらいも、いらない……」

 

 アルフと銀時にそれぞれ目を向けるフェイト。

 

「――あなたたちの力はもう……必要ない」

 

 一陣の風が吹き抜け、アルフの髪をすくい上げる。

 主からの拒絶の言葉を受けた使い魔。目の前の現実が信じられないとばかりに目を見開き動揺を示す。だが、自然と震える手を前に伸ばして、足を一歩踏み出し、主に近づこうとする。

 

「ふぇい……」

 

 だが、名前を言い切る前にバシュッとアルフの足元に一発の金色の魔力弾が放たれ、使い魔の足を強引に止めた。

 

「ッ!」

 

 魔力弾の発射元――フェイトは手を伸ばし、掌に魔法陣を展開している。

 不安や動揺を顕著に表し、言葉すら発せない自身の使い魔へ、冷たく言い放つ。

 

「来ないでと言った」

 

 冷徹なまでの瞳と言葉を受けて、狼の使い魔は膝から崩れ落ち、地面に手を付けた。一言の言葉すら発せられずにいる。

 

「何言ってるのフェイトちゃん!?」

 

 その様子を見てなのはは悲痛な声を出すが、フェイトから返ってきたのは剣の切っ先だった。

 

「この剣があれば、君にも絶対に負けない。ジュエルシードは全て手に入れる」

「ッ……!?」

 

 なのははフェイトの気迫に息を飲み、レイジングハートを強く握り絞める。

 

「どうしちまったんだあのガキ……」

 

 まるでありえない物を見るような顔になっているのは土方だけではない。

 新八も神楽もアリサもすずかもユーノも、目の前の光景が信じられないとばかりに目を見開いている。

 

「銀時、アルフ……」

 

 フェイトは今まで自分の為に協力してきてくれた両者を一瞥し、

 

「――さようなら」

 

 背を向け、高速移動の魔法でその場を離脱し、上空へと飛翔していった。

 両手両膝をついて項垂れたまま、声すら出せずにいるアルフ。

 銀時はただただ、フェイトの後姿を見ることしかできなかった。

 

 

 

「――皆さん。お待ちしていました」

 

 笑顔で女性がお出迎えする。

 次元航行艦アースラ。その艦内で待っていた光景に万事屋、真選組(近藤は気絶中のために山崎おんぶ)、少年少女たちは絶句。

 

 SF感バリバリの船の廊下を通って扉を潜れば、純日本風の家具やら獅子脅しやら桜やらが姿を見せた。完全な和風テイストの物品がこれでもかと展開された広い空間。挙句の果てに差し出されたのは、和菓子の羊羹に飲み物はお茶。

 え? 日本文化齧った外人が作った部屋ですか? といった感じの部屋が、地球出身者たちの目に飛び込んでいた。

 

「ささ、どうぞ楽にしてください」

 

 柔和な笑顔でお出迎えするのは、緑色の髪を後ろで人括りに結んでいる女性。

 

「なにあれ? 絶対和風バカにしてるよね? 絶対わびさび愚弄してるよね?」

 

 新八に耳打ちする銀時。

 

「銀さん、寧ろリスペクトしてるから『コレ』だと思いますよ?」

 

 新八が真顔で返すと神楽が銀時に耳打ちする。

 

「なにアルかあのおでこの三角? スカウターアルか?」

「きっとアレで戦闘力ならぬ魔力を測るんだぜ。間違いねェ」

「聞こえてますよ?」

 

 と言う緑髪の女性は、柔和な笑みを崩さない。

 

 銀時たちの横では、山崎に肩を貸されながら歩いているクロノ。まだダメージが大きく残っているであろう彼は、茶髪の女性に渡された。クロノは山崎に「すまない」と軽く頭を下げてお礼を言う。

 それを横目で見ていた緑髪の女性は銀時たちの方に向き直る。

 

「それではまず、お礼を言わねばなりませんね」

 

 そこまで言って、緑髪の女性は両手を膝に置き、深々と頭を下げる。

 

「今回は執務官――クロノ・ハラオウンを窮地から救っていただき、ありがとうございました」

 

 それを見て新八は内心苦笑。

 

(なんか、日本人じゃない人の日本人以上のしっかりしたお辞儀を見るのって、シュールだなァ……)

(正直、前情報なかったら数十秒は思考停止してたな……)

 

 映画を見て心の準備ができていた土方でも、目の前の女性の和風かぶれには少し面食らっている。

 

「時空航行艦アースラの艦長を務めさせてもらってます――リンディ・ハラオウンです。以後、お見知りおきを」

 

 そう言ってリンディは顔を上げ、柔和な笑みを見せる。

 

「あァ、どうもこれはご丁寧に。万事屋の社長の坂田銀時で~す」

 

 と銀時は軽く右手を上げて丁寧じゃない挨拶を返す。そして銀髪に続いて万事屋の従業員二名もあいさつを始める。

 

「志村新八です」

「神楽アル。最近の抱負は卵かけご飯とふりかけご飯を腹いっぱい食べることです!」

「いや、君の抱負とか別に興味はないんだが? そもそも随分ハードルが低いな」

 

 とクロノは微妙そうな顔で反応。

 続いて真選組の面々が顔を見合わせた後にあいさつを始める。

 

「真選組一番隊隊長沖田総悟で~す。最近の抱負は土方を殺して真選組副長の座を手に入れることで~す」

「それはおめェが年がら年中抱いている野望だろうが」

 

 青筋浮かべてツッコム土方。一方クロノは、コイツ大丈夫か? と言いたげな視線を沖田に送る。

 あいさつ(?)を終えたはずの沖田は更に喋りだす。

 

「ちなみに最近の悩みは土方抹殺が成功した後、真選組を沖田帝国にするかソーゴ・ザ・エンパイアにするべきか考えて――」

「いやあの、君の悩みは聞いてないんだが?」

 

 クロノはより眉間に皺を寄せて微妙な表情。

 土方は沖田に「おめェはそろそろマジで黙れ」と言って鋭く睨み付けた。

 部下の暴走を止めた土方はため息を吐いた後、クロノとリンディに顔を向ける。

 

「……俺は真選組副長、土方十四郎だ。そんでこっちは山崎退」

 

 と言って土方が山崎を指させば、山崎は「どうも」と言って軽く会釈。次に土方は山崎が背負っている男を指さす。

 

「そんでこっちが俺ら真選組のボスである局長……近藤勲だ」

 

 白目剥いて絶賛情けない姿をさらしまくっている自分の上司。彼を指さしながら、土方は言い辛そうに説明を始める。

 

「ただちょっと……さっき木のバケモンにその……だな……」

「あぁ、説明しなくても大丈夫です。こっちはちゃんと映像であなたたちの戦闘の様子を見ていたから」

 

 クロノは右手を出してフォローを入れ、土方は「そうか……」と若干悲しそうな声を出す。

 まあ、余裕をぶっこいてあっさり敵の攻撃で気絶しちゃった上司の姿。それを説明されるのも見られるのも、部下としては悲しいし恥ずかしいのだろう。

 

 続いては海鳴市に住み、魔法少女となった三人の少女が名乗り始める。

 

「聖祥大付属小学校三年生の高町なのはです」

「同級生のアリサ・バニングスです」

「同じく同級生の月村すずかです」

 

 そして三人は両手を下腹部の前で合わせ、同時に仲良く綺麗にお辞儀をした。

 最後にフェレットがあいさつをする。

 

「ユーノ・スクライアです」

 

 一通り全員の軽いあいさつは終わり――ではなく、一人だけまだ言葉すら発してない者がいる。完全に意気消沈し、俯いて何か言う気配すらないアルフだ。

 

 アルフへとチラリと視線を向けるアースラ艦長。

 彼女の視線を追うように他の面々の視線も使い魔へと集まるが、フェイトから受けた仕打ちが相当ショックだったらしい。使い魔は周りの視線も言葉も気にしている暇すらないようだ。かと言って、今のアルフに声を掛ける者は誰一人としていない。たぶん、今の彼女の雰囲気から誰も言葉を掛けようとは思えないからだろう。

 

 リンディは視線をアルフから外し、銀時たちに顔を向けて笑顔を作り、右手を前に出す。

 

「ささ。長い話になりそうですし、茶菓子を食べながら皆さんの事情を聞いていきましょう」

 

 各々は顔を見合わせ少々戸惑いながらも赤い毛氈(もうせん)に腰をかけていく。

 

(な~んか、喰えなさそうな女)

 

 銀時はリンディ態度を見て思った。頭でっかちそうなクロノとかいう小僧よりも厄介そうだと。

 

 

 

「なるほど。それは大変でしたね」

 

 まずリンディが事情を聞いたのは、なのは組。

 

 あらましとしては、ユーノが発見したロストロギア――ジュエルシードがなんらかの事故でなのはの世界である第97管理外世界に飛び散ってしまった。それを現地で回収しようとするが力及ばず失敗。

 最後の手段として現地で魔力量の高い人間に協力を仰ごうと試み、魔力資質の高いなのはがデバイス――レイジングハートの(マスター)となる。

 本人の強い意志もあり一緒にジュエルシード回収へと乗り出す。

 さらにはなのは、アリサ、すずかのところで居候していた次元漂流者である新八、神楽、土方、近藤(途中参加)、沖田、山崎は『偶然』にもなのはが魔法を使用している現場に居合わせてしまった。そこから彼らもジュエルシード回収の助力を申し出、なのは側もそれを了承。そして何故か、デバイスをなのはよりも先に所持していたアリサとすずかも親友の為に手伝うと決めた。

 と、ここまでがなのは組のおおまかな経緯である。もちろん、映画で未来のこと知りましたなどという失言はしていない。(神楽が口滑らしそうになったが)

 

 話を聞き終えた銀時は「へェ~、俺の知らない間にそんなことあったんだなァ」と鼻ほじりながら納得していた。

 

「高町なのは。君は随分奇妙な出会いに縁があるようだな……」

 

 と呆れ顔のクロノ。

 なのはは「にゃハハハハ……」と苦笑いで答え、沖田は頬杖付きながら言う。

 

「世の中小説よりも希なりって言うしな」

 

 リンディは「フフ……」と笑みを零す。

 

「沖田さんの言うとおり、奇妙な出来事が重なって起きるなんてこともあるでしょう」

 

 笑みを浮かべるリンディは砂糖をたっぷり入れた抹茶を戸惑いもなくすする。

 

「わー……」

 

 それを見て新八は唖然とし、内心で銀髪と姿を重ねる。

 

(この人、確か銀さんみたいに甘党なんだよね……)

 

 まさかあのようなとんでも味覚の人物がもう一人現れたことに、さすがの新八も頬を引き攣らせた。

 

(って言うか、あれは茶道として成立させていいの?)

 

 と山崎は内心でツッコミ入れる。

 音も立てずに抹茶を飲んだリンディは、ユーノに顔を向けた。

 

「あなたがロストロギア――ジュエルシードを発掘したユーノ・スクライアさんですね?」

「はい」

 

 フェレットのユーノは首を縦に振る。

 ユーノの姿を見たリンディは少し首を傾げた。

 

「まだ変身魔法は解かないのですか? あなたの魔力はたぶんもう充分回復していると思いますが」

「…………あッ!! そ、それもそうですね……」

 

 リンディの言葉で気づいたように声を上げるユーノ。

 

「えッ? 本当の姿?」

 

 その場にいた銀時だけが呆けた声を出す。

 なのは組はユーノの正体をもう映画で事前に知っているので驚く素振りすらない。

 

 ユーノの体は光だす。やがてその姿は変化しだし、身長はなのはと同じくらい。服装は部族の衣装であろう見慣れない物となる。そして光が収まれば、髪が金髪の少年の姿へと変化した。

 

 一部始終を見ていた銀時はポカーンと間の抜けた顔になるが、ユーノは構わず笑顔で挨拶をする。

 

「銀時さんにこの姿を見せるのは初めてですよね? フェレットは仮の姿でこっちが本当の――」

「チ〇コが人間なったァァァッ!?」

 

 と叫ぶ銀時。

 

「ちょっとォォォオオオオオオッ!!」

 

 まさかのチ〇コ呼びにユーノはシャウト。そしてド直球で下ネタ叫んだ銀時の声を聞いて茶髪の女性はギョッとする。

 もちろんチン〇呼びされたユーノは銀時に抗議開始。

 

「いい加減にそういう呼び方するのやめてって何回言えば分かるんですか!」

「あァ、分かったぜ……チ〇コくん」

「殴りますよ! 本当にしまいには殴りますよ!」

 

 さすがの温厚なユーノも涙流しながらグーパン作る。なのははまぁまぁとなんとかユーノを落ち着けようと努めた。

 クロノは話を切り替えるためにワザとらしく「コホン!」と咳払い。

 

「しかし、ユーノ。強力なロストロギアを一人で回収しようだなんて、君は随分と無謀なことをするもんだな」

 

 ジト目でユーノを見るクロノ。執務官の言葉を聞いてスクライアの少年は顔を俯かせる。

 リンディもクロノの意見に同意を示す。

 

「クロノの言った通り、まだ年端もいかないあなたが単身一人で強力なロストロギアを封印するのはやはり危険な行動であることは否めません」

 

 説教に近い言葉に対し、身を縮めてしまうユーノ。二人の言葉は正論だと彼自身理解しているのだろう。だからこそ、言い返せないでいる。

 すると銀時がユーノの頭に手を置く。

 

「でもよォ、ユーノが動かなかったらなのはの町がジュエルシードの怪獣軍団に蹂躙されてんじゃねェの?」

「ぐッ……!」

 

 押し黙るクロノ。

 確かにユーノがいなかったら、遅れてきた管理局が来る頃にはなのはの町どころか国さへ壊滅的な打撃を受けていたかもしれない。現地で優秀な魔導師を発見し、被害を最小限に押しとどめいたのは事実なのだから、反論の言葉が出ないのだろう。

 リンディは銀時の言葉に頷く。

 

「確かに、私たち管理局側の対応があまりにも遅かったのも事実です。それを考慮すれば、ユーノさんの行動は一魔導師として尊く、立派な行動であったと言うべきでしょう」

「かあさ……艦長!」

 

 何か言いたそうにするクロノをリンディは手で制す。

 

「我々が早く到着していればユーノさんに無謀な事をさせる事態にはならなかったのは、認めなくてはなりません」

 

 そしてリンディはユーノに向かって深々とお辞儀をする。

 

「ユーノさんになのはさん。それに協力者の皆さん。我々管理局が来るまでの間ロストロギアの暴走を防いで頂き、誠に感謝にします。と同時に、アースラ艦長、並びに管理局の代表として、迅速な対応が取れなかった我々の不手際に深く謝罪します」

 

 そんなリンディの様子を見て焦るユーノ。

 

「そ、そんな!! そこまで言われるようなことは!!」

「あ、頭を上げてください!」

 

 なのはもリンディの真摯な対応に狼狽してしまう。

 後ろにいるクロノはまだ納得がいかなそうな顔をするが、艦長に倣って頭を下げ始めた。

 二人の様子を見ていた新八は土方に耳打ちする。

 

「(なんか、随分あっさり自分たちの不手際を認めましたね。映画だと管理局側の意見が正しいって感じだったのに)」

「(ああ。まァ、あいつら……特にリンディはお役所仕事をしている人間。しかも上に立つ奴だ。ちゃーんと言い訳もあらかじめ考えていたんだろうな。でなきゃ、あんなすらすらした謝罪文句出てこねェよ)」

 

 お役所仕事をし、更には上に立つ土方にも思うところはあるようだ。彼のような役職の人物だからこそ、リンディのような立場の人間の苦労がなんとなく分かるのだろう。

 リンディはゆっくりと顔を上げ息を吐いた後に、銀時とアルフに顔を向ける。

 

「では、お次はお二方についてお話を聞かせてもらいないでしょうか? あの黒い魔導師の少女とどういう関係で、一体なにがあって離別したのかを」

 

 銀時はめんどくさそうにポリポリと頭を掻き、アルフは俯いて何も喋らないままだった。

 

 

 

 銀時から事情を聞いたリンディ。彼女は顎に指を当てて話をまとめ始めた。

 

「――つまり次元漂流者である銀時さんはフェイトさんのお母さん……プレシア・テスタロッサさんから衣食住の提供、更には依頼料を受け取ると言う契約の元、フェイトさんのジュエルシード集めに協力していたワケですか……」

 

 ちなみにアルフはフェイトの使い魔なので、主のために働いていたという理由で片付いている。

 話を聞き終えたクロノは顎に指を当て、視線を横にずらしながら思案顔になった。

 

「プレシア・テスタロッサ……この数年で姿を消した大魔導師の名だな……」

「あッ、私も知ってる。なんか急に居なくなっちゃったんだよね」

 

 と茶髪の局員も相槌を打つ。

 二人の話を聞いていたなのは組のうち、新八と土方となのはは小声で話しだす。

 

「(やっぱり……プレシアさんは事故でアリシアちゃんを失って、責任まで負わされたんでしょうか?)」

 

 新八の問いに土方はクールに答える。

 

「(さァな。だが、いくら俺たちが介入していると言っても二十年くらいだったか? ――そんな昔の出来事が変わるなんてことねェだろ)」

「(それだと、やっぱりプレシアさんはアリシアちゃんを生き選らせる為に……)」

 

 なのははそこまで言って悲しそうな表情になった。

 

 娘を失って狂ってしまったプレシアはフェイトを使ってジュエルシードを集めさせている。その彼女が、正体不明の刀をフェイトに渡してあんことをさせたのでは? となのはは考えており、心苦しさを感じているのかもしれない。

 

 新八もなのはと同じような考えであり、やはりフェイトの突然の行動の原因はプレシア。母の凶行が起因となって今の事態に陥っているのではないかと考えた。

 たぶん、なのは組の他の面々の考えも似たり寄ったりといったところだろう。

 

 映画の内容など全く知らない銀時は頬杖を付きながら片眉を上げる。

 

「なに? プレシアの奴ってそんなに有名人なの?」

「まぁ、我々の世界で大魔導師という称号はそうそう得られる物ではありませんから」

 

 とリンディは答え、銀時は「へ~、なるほど」と興味なさげに呟く。するとクロノが腕を組んで問いかける。

 

「それで、あなたはプレシア・テスタロッサがジュエルシードを使って何をするのか何か聞いてないのか?」

「聞いたけど、教えてくんなかった」

 

 銀時はあっけらかんと答え、クロノは少し呆れた眼差しを向けた。

 

「それでもあなたは彼女の依頼を受けたのか?」

「ああ。どんな依頼も受けるのが万事屋のもっとうだからな。依頼料によるが」

 

 そう答えた銀時に、クロノは頭痛を覚えたように頭を抑える。

 

「呆れた人だ……。そんなことだと、元の世界ではどうせ犯罪紛いの仕事も知らずに平気で受けたんじゃないのか?」

 

 はいその通りです、と内心で答えるのは部下である新八。昔なんかはテロリスト一味に仕立て上げられそうになったことだってある。

 銀時は真顔で返す。

 

「俺は依頼人のデリケートな部分に触れないようにしてんの」

(うそつけ! あんたの辞書にデリケートなんてモノはねェだろ!)

 

 新八は内心ツッコミ入れた。

 やがて銀時は視線を流す。

 

「まぁ、ただ……なにかしらの研究のためだとかは聞いたな」

「プレシア・テスタロッサ……研究……」

 

 クロノは銀時の証言から心当たりがあるのか顎に指を当て思案しだす。

 

「でもよかったのですか? 銀時さん」

 

 リンディの問いかけに「なにが?」と片眉を上げる銀時。

 リンディは質問を重ねる。

 

「我々が管理局という立場を差し引いても、依頼人の情報をこうも簡単に喋るのは、あなたの仕事上のルールというか、ポリシィのようなモノに反するのでは?」

「なんか分らんが、どうにも〝俺たち〟はお払い箱みてェだからな。もう依頼もくそもねェだろ」

 

 銀時の言葉にピクリと肩を震わせるアルフは、より表情を落ち込ませる。

 使い魔の様子を横目で見ていたリンディは更に問いかけた。

 

「フェイトさんがあなたたちを置いて行った理由は分かりませんか?」

 

 銀時は首を左右に振る。

 

「さァな。『管理局が出てきたらおとなしく言うことを聞く』ってフェイトの提案を受けたらこの有様だ。正直、俺もアルフもあのガキが何を思ってあんなことしたのか、頭ん中混乱中だ」

 

 クロノは「全然混乱している人間には見えないんだが……」と呟く。

 

「銀時さん! フェイトちゃんがその提案をしたんですか!?」

 

 なのはが食い気味に質問する。

 

「ん? あぁ……。何か妙案でも思いつと思ったんだがなー……」

 

 銀時は掌に顎を乗せて不服そうな声を漏らし、なのはは俯いて不可解と言いたげな表情になった。

 

「フェイトちゃん……どうして……」

 

 銀時の話を聞いてなのは組の面々も互いに顔を見合わせながら小声で話す。

 

「(つまりあのガキ、管理局が現れた時点でこいつら切り離すつもりだったのか?)」

 

 と怪訝そうに言う土方に新八は困惑した顔で。

 

「(でもどうして……。銀さんはともかく、アルフさんまで置いていくなんて……)」

「(なんか、嫌な予感がするわ……)」

 

 と呟くアリサは眉間に皺を寄せる。

 「では次に」と言ったリンディは、銀時だけでなく新八や土方にも視線を向けた。

 

「『えど』出身の方々の事情をお聞きしましょう。主にどのような世界なのかを交えて」

 

 リンディの言葉を聞いて江戸出身の面々はそれぞれ顔を見合わせた。そしてまず口を開くのは、江戸組で一番良識と常識を身に着けている新八。

 

「まず僕たちの世界は……」

 

 

 

「『あまんと』と言う、宇宙人の襲来で……文化が飛躍的に発展した世界……」

 

 新八から話を聞いたクロノはなんとも微妙で間の抜けた表情をしている。リンディも言葉が出ないのか口を手で隠して目を白黒させるばかり。

 どうやら色々な次元を拝見してきたであろうさすがの執務官と艦長も、彼らの異色な世界観には面食らったようだ。

 話を聞き終わったリンディは作り笑顔で。

 

「ず、随分ユニークな世界なんですね……」

「あの、無理に褒めなくていいですから……」

 

 新八はさすがにいたたまれなくなったのかフォローする。

 

「っで、その赤い服の子は『宇宙最強』の『やと』と言う種族だと……」

 

 クロノは頬を引き攣らせながら震える手で神楽を指さす。

 神楽は胸を張って自慢げに威張る。

 

「えっへん。褒めたたえるヨロシ」

 

 顔を顰めたクロノは頭を抑えながらリンディに顔を向ける。

 

「母さん……僕らおちょくられているんじゃないか?」

「ま、まぁまぁクロノ。次元世界は広いんですから」

 

 さすがのリンディも彼らの話を百パーセント信じ切れてはいないらしい。

 すると銀時がクロノの言ったある一単語に反応する。

 

「えッ? 母さん? あんたらもしかして……」

 

 親子であろう二人を交互に見比べる銀時に、リンディは笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ。私とクロノは親子なんです」

「まぁ、とっくにハラオウンと名乗っていましたしね」

 

 と新八が付け足す。

 

「へェ~、あんたらが親子ねェ……」

 

 と銀時は驚きの声を漏らしながら二人を交互に見た後、クロノを指さす。

 

「そっちのまっくろくろすけの髪は緑じゃねェんだな」

「あなた、人の名前覚える努力とかしないだろ?」

 

 クロノは青筋浮かべながら銀時を睨む。

 執務官の態度など気にしない銀時は、次にリンディをまじまじと見る。

 

「ふ~ん。にしても子持ちとは思えねェな、見た感じ」

(つうか、この世界の母親は大体見た目と年齢が見合ってない人ばかりですよ)

 

 と新八は内心で呟く。主に桃子とかプレシアが良い例だ。

 銀時の言葉を聞いてリンディは嬉しそうな声を漏らす。

 

「まぁ~、そんなに若く見えます? よく言われ――」

「もしかして学生時代にハメ外してついでに股のハメも外しちゃ――」

 

 バシュ! と光る弾が銀時の頬を掠めた。

 

「ないか言いまして?」

 

 人差し指を向けるリンディ提督の柔和な笑みから、おっそろしい何かが見えた銀時。

 頬に熱いモノを感じる銀髪は冷や汗を流しながら、

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 


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