魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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ついにやっとこさ四十話達成です。
話数だけならどうことないのですが、やはり一話一話が一万字以上となると結構時間かかるのだなーと思い知ります。


第四十話:味覚がぶっとんだ人間は意外に多い

「ああそうそう。あなたたち『えど』出身者の話で〝彼ら〟のことを思い出したよ」

 

 クロノの言葉に新八は「彼ら?」と首を傾げた。執務官は疑問に答えるように言葉を続ける。

 

「君たちの世界は〝彼ら〟から聞いた世界観と合致するところが多い。たぶん、君たちの世界の住人だと思う。今ここに連れてこさせるよ」

 

 するとクロノは茶髪の女性に顔を向ける。

 

「エイミィ。『九兵衛』と『東城』をブリッジまで連れてきてくれないか?」

((え゛ッ!?))

 

 二名の人物名を聞いた新八と土方は驚くと同時に頬を引き攣らせた。

 エイミィと呼ばれた茶髪の女性は「はーい」と軽く返事をしてブリッジを出ていく。

 むろん驚いているのは新八たちだけではない。

 

「えッ!? 九兵衛と東城って言わなかったか!? 今!」

 

 と銀時が驚けば、

 

「ええ。そうですよ」

 

 とリンディは頷き、あッ、と手を叩く。

 

「もしかして彼らは銀時さんたちのお知り合いでしたか?」

「あァ、そうだ。まー、腐れ縁つう方が正しいかもな」

 

 銀時はぶっきらぼうに答え、神楽は素直に喜びを表す。

 

「ついに九ちゃん登場ネ!!」

「前に言っていた、新八さんたちの探していたお仲間さんたちですよね!」

 

 なのはは嬉しそうに新八に顔を向け、続くようにアリサも笑みを浮かべる。

 

「これであんたらの探し人コンプリートじゃない」

「良かったですね!」

 

 とすずかかもまた笑顔。

 だが、一方の土方と新八の顔は笑顔ではまったくない。

 

(おい、どうすんだ眼鏡。あの眼帯、絶対あの銀髪の命狙ったままだぞ? ぜってェーめんどくせェ展開になるぞ)

(もうこうなったらなるようになれです。僕たちは黙って銀さんの行く末見守りましょう)

 

 たぶん九兵衛は銀時が自分の恋敵であると絶賛勘違い中なので、銀時の姿を見たら暴走するのは明らか。

 同じく勘違い中の近藤は土方の背中で絶賛気絶中。なので、お妙ラブコンビが揃って銀時に急襲と言うカオス空間になることはないだろう。まあ、気絶する前の近藤は銀時が恋敵という勘違いは忘却の彼方だったが。

 

「ではでは、銀時さんたちのお知り合いが来るまでの間、茶菓子とお茶を頂きましょう」

 

 そう言ってリンディは二杯目の抹茶に砂糖をたっぷり入れまくる。

 糖分王自称する銀時がリンディの行動を見て何のリアクションも起こさないことに、不思議に思った新八。

 

「あれ? 銀さんリンディさんみたく抹茶に砂糖入れないんですか?」

「えッ!? 銀時さんも抹茶に砂糖を!?」

 

 なのははまさかの第二の甘党(異常)の存在にビックリ。

 

「あいつは甘党中毒者とでも思っとけばいい」

 

 と土方が言う。

 新八の問いを受けて銀時は眉間に皺を寄せる。

 

「あん? わびさびの茶道の席で、江戸の男たる俺が抹茶にあんな無粋モン入れるワケねェだろ」

「「ええええええええええええええええッ!?」」

「銀ちゃんどうしたアルか!?」

 

 新八、山崎、神楽は驚愕。まさか銀髪から茶道やわびさびを重んじようとする言葉が出るとは思わなかったようだ。

 土方も「お前、頭でも打ったか?」と言って不可解極まりないという表情。

 

「あら? 私の飲み方に何か問題がありましたか?」

 

 リンディは意外そうな顔をし、銀時は真面目な顔で。

 

「問題大ありよ。あんたの茶道には足りねェもんがある」

「では、その必要な物とは?」

 

 リンディも真剣な表情で問い返すと、銀時は手を上げた。

 

「すんませーん! 抹茶アイスくださァーい!!」

 

 すると木皿に乗った抹茶アイスが登場。

 それを見たリンディは生唾を飲み込む。

 

「こ、これが……」

「そう。これが茶道に不可欠の必需品――抹茶アイス!!」

 

 カッと目を見開く銀時に、

 

「んなわけねぇだろォォーッ!!」

 

 新八のツッコミが炸裂。

 

「どうだ。これぞ和の心」

 

 銀時はしたり顔で抹茶アイスが乗った皿を手に持って見せつけた。

 

「なんで横文字の食いモンが和の心なんじゃボケェーッ!!」

 

 新八は尚ツッコミいれるが、リンディは両手を床に付けて愕然。

 

「た、たしかに……抹茶は飲み物という概念に囚われ、固形物として出す考えは浮かばなかった……」

「リンディさんんんんんんッ!?」

 

 まさかのリンディのリアクションに新八はビックリ。

 

「だがしかし、抹茶にだって究極の和の姿が存在する」

 

 そう言って銀時はまた手を上げる。

 

「すんませーん! ハチミツと生クリームくださーい!」

 

 銀時の前にハチミツの入った容器とクリームの入った袋が置かれた。

 

「そしてこれこそが茶道における抹茶の最終進化」

 

 銀時は抹茶に角砂糖とハチミツをドバドバ入れる。

 

「ぎゃあああああああああああッ!!」

 

 それを見た新八は絶叫。そして小学生組は顔真っ青。

 抹茶の上に生クリームをとぐろ状に巻いてデコレーション。

 

「はい完成」

 

 と銀時は告げた。

 

「いや、最早もう別の飲みモンじゃねェか!!」

 

 新八は抹茶(?)を指さす。

 

「これもう甘味と言う名の劇物だよ!! 和もヘッタクレもねェよ!!」

「ほれ、飲んでみな」

 

 銀時に勧められたリンディ。彼女は恐る恐るもう抹茶とすら呼べない代物を啜る。

 それを見てなのは、すずか、アリサの小学生組は虫歯を恐れてか口元を抑えていた。

 

「はぁ~……」

 

 抹茶(?)を飲んだリンディは恍惚とした表情で吐息を漏らし、心底満足そうな顔で言う。

 

「これは素晴らしいですね銀時さん。今度からはお客様にこれをお勧めしましょう」

「か、母さんの病気がまた悪い方に進行してしまった……」

 

 クロノは頭痛を覚えるように頭を抱える。

 

「たく、世の中にあんなふざけた味覚を持つ奴が二人も現れるとはな」

 

 そう言ったのは土方。彼は抹茶にマヨネーズをとぐろ状にかけてデコレーションしている。

 

「いや、あんたも大概だから!!」

 

 新八は久々のマヨラー土方を見てツッコム。

 

「ほれ土方スペシャル抹茶バージョン。ぐいっといきな」

 

 土方がリンディに差し出したモノ。それは器にマヨネーズが入った抹茶――というかマヨネーズの姿しか見えない飲み物とすら呼んでいいか分からんナニカだった。

 土方スペシャル抹茶バージョンを見てまた口を抑える魔法少女三人組。

 リンディは無言で土方スペシャルをじ~っと見つめる。

 

「…………」

 

 やがてリンディは右手を動かし、マヨネーズの塊が入った器を隣のクロノにささっと移す。そして笑顔で告げた。

 

「さぁ、クロノ。折角の土方さんのお品、味わってください」

「え゛ッ!?」

 

 まさかの母親から生贄にされると思ってなかった息子は顔面蒼白。母親の顔をもう一度みれば、ニコニコ顔で自分を見ている。

 クロノは改めて土方スペシャル抹茶バージョンに視線を移す。頬は引き攣り、冷や汗をだらだら流すが、勇気を振り絞ってか手に取り、口に運んだ。

 

「ッ!!」

 

 クロノは目をカッと見開き――口を抑えてトイレに直行。

 

(君はよく頑張ったよ……)

 

 新八は優し気な笑みをトイレのクロノに送るのだった。

 

「みなさーん! 九兵衛さんと東城さんを連れてきましたよー!!」

 

 するとエイミィが手を振りながらブリッジにやって来る。

 

「あ、九兵衛さん!! 東城さん!!」

 

 と新八は喜びの声を上げた。

 エイミィの後ろから確認できる眼帯姿の黒髪ポニーテイルと長髪の糸目。

 神楽もまた喜びを露わにしだす。

 

「九ちゃん! 久しぶりアル!!」

 

 対して九兵衛は手を振りながら安堵の微笑みを浮かべてやって来る。

 

「やぁ、新八くんに神楽ちゃん! ずっと君たちのことが気がかりで仕方なかったよ。だが、こうして無事に会えたのは何よりだ」

「まったくですよ! 九兵衛さんは何か変わったことはあったんですか?」

 

 文句を言いつつも嬉しそうな声を出す新八。

 

「いやいや、大した出来事はなかったよ」

 

 そう言う九兵衛は死覇装(しはくしょう)を着ていた――ようはブリーチの死神になっていた。

 

「いや、なにがあったァァァァァァァァッ!?」

 

 まさかの九兵衛の恰好に新八シャウト。ツッコミ眼鏡はすぐさま問いただす。

 

「九兵衛さん!? 何があったんですかあんた!? その恰好はなんですか!?」

「おや新八殿。どうされました? 若の恰好におかしなところが?」

 

 不思議そうに言うのは柳生家四天王筆頭――東城歩。ちなみに彼の恰好は普段通りの和服だ。

 新八は九兵衛を指さしながら指摘しまくる。

 

「いや、首から下までおかしなところだらけでしょうが!! なんで全身ブリーチになってんですかあんたんとこの若は!!」

「ああ、これかい」

 

 九兵衛は自分の着ている黒い装束に目を向け、説明する。

 

「実は瞬間移動先のソウルソサエティでウェコムンドを制覇した暁に貰った――」

「おィィィィィッ!? 僕たちが知らない間にこの人なんかもの凄い偉業を成し遂げちゃってんですけどォ!?」

「ああ、これはおみやげの袖白雪(そでのしらゆき)だ」

 

 そう言って九兵衛は美しい白い刀を新八に渡す。そして眼鏡は更にビックリ。

 

「ちょっとォォォッ!? あんたどこのルキアさん!? 絶対おみやげに貰えるもんじゃないでしょそれェー!!」

 

 とはいえ新八は一応受け取る。

 

「ちなみに私は若とは別の場所に飛ばされてしまって」

 

 すると今度は東城が語りだす。

 

「じゃあ東城さんは一体どこに?」

 

 新八は首を傾げ、東城は人差し指を立てて言う。

 

「時を走る電車に――」

「いや、お前も中の人ネタかいィィィィィィッ!!」

 

 またしても他作品世界に飛んだ柳生に新八シャウト。

 

「私は青い亀さんと一緒に時間を遡りながら若を懸命に探しました」

 

 真剣みのある顔で言う東城の回想には、あらゆる時代のソープとロフトが思い起こされる。

 

「あんたただソープとロフト巡りしただけじゃねェか!! つうか古い時代にソープとロフトがあんの!?」

 

 まさかの柳生コンビの意外な登場に新八は怒涛のツッコミを炸裂させまくる。

 やがて東城は懐からある物を取り出す。

 

「あ、これおみやげです」

 

 そう言って東城が差し出したのはライダーパス。そして新八はまた戸惑いながら驚く。

 

「ちょっとォォォ!? ホントにこれ貰っていいの!? あっちの人たち困らないの!?」

 

 新八は困惑するが結局は一応受け取る。

 

「でも九ちゃんが元気でなによりアル!!」

 

 神楽は再会の喜びのあまり九兵衛に抱き着く。

 

「神楽ちゃん……」

 

 九兵衛も嬉しそうに神楽の抱擁を受け入れる。もしこれが男だった場合はそのまま背負い投げコースだが。

 

「良かったね神楽ちゃん。お友達に再会できて」

 

 仲睦まじい九兵衛と神楽の様子を見て、なのはは自分の事のように笑顔を浮かべていた。

 神楽の抱擁を受けていた九兵衛は、なのはを見て不思議そうな顔になる。

 

「おや? 君は?」

「わたし、高町なのはです。神楽ちゃんや新八さんや真選組の方たちのお友達で、今まで一緒にジュエルシードを集めていました」

 

 と言って、なのはは頭を下げて挨拶。

 九兵衛は「そうか」と言って神楽をやんわり離す。そしてなのはに習って、丁寧に頭を下げた。

 

「僕は柳生家次期当主――柳生九兵衛だ。神楽ちゃんや新八くんたちが世話になったようだな。彼女たちの友として、感謝する」

「そ、そんな! わ、わたしの方こそ助けてもらってばかりで!!」

 

 なのはは恭しく頭を下げる九兵衛に戸惑う。するとなのはの後ろからひょっことアリサとすずかが出てくる。

 

「あたしはアリサ・バニングスよ! なのはの親友で、一応神楽たちの仲間! 覚えておいて!」

「私は月村すずかです。神楽ちゃんたちとはいつも仲良くさせてもらってます」

「あ、アリサちゃん……すずかちゃん……」

 

 ちょっと強引に自己紹介する二人に苦笑してしまうなのは。

 現れた二人に九兵衛は少しの間面を喰らってしまったようだが、すぐに満足げな笑みを浮かべる。

 

「そうか、よろしく頼む。どうやら神楽ちゃんと新八くんは異世界に来ても、友を作ってしまうようだな」

「あの……」

 

 なのはがおずおずと話しかけ、九兵衛は「ん?」と反応。やがて小さな少女は言う。

 

「九兵衛さんともお友達になってもいいですか?」

 

 なのはの提案に目をパチクリさせる九兵衛は苦笑する。

 

「君と友になるには、僕は少々歳を取り過ぎてると思うが……」

「歳なんて関係ありません」

 

 なのはは首を横に振り、アリサが続く。

 

「そうそう。それを言ったら、なのはなんてあんな変なおじさんとまで仲良くなってんのよ?」

 

 アリサに親指で指された近藤は気絶しているのでリアクションなし。だが、あんまりの言い草に山崎は頬を引き攣らせていた。

 アリサに続いてすずかも言う。

 

「そうです。神楽ちゃんや新八さんとお友達になれたなら、そのお友達の九兵衛さんとも仲良くなれるって、私たちは思ってるんです」

 

 三人の言葉を聞いて九兵衛は「フッ……」と笑みを零す。

 

「どうやら……新八くんと神楽ちゃんは異世界でも変わった友を作ってしまうようだな」

 

 かつて対立し、友となった九兵衛だから分かるのだろう。奇縁に恵まれる新八や神楽たちが一風変わった人間とすぐに繋がりを持ってしまう事に。

 例えそれが年端のいかない少女であろうと。

 

「今後ともよろしく頼む」

 

 九兵衛はそう言ってなのはたちに手を出し、なのはたち三人は笑顔で。

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 眼帯の少女となのはたちは順々に手を繋いでいく。

 

「さすが若! 異世界でもあのようなかわいらしい少女たちと縁を結ぶとは!! この東城歩感動です!!」

 

 東城は涙を流し、カメラを構えて撮影中。もちろん対象は九兵衛。

 そして九兵衛は柳生四天王に人差し指を向ける。

 

「あの変なロンゲとは絶対に友達になるな」

「ッ!?」

 

 と東城はショックを受けた表情。

 九兵衛の苦労をなんとなく察したなのはたちは苦笑する。

 すると……。

 

「おー、九兵衛。久々に会ったら随分様変わりしたじゃねェか」

 

 気だるげな銀髪が声を掛けてきた。

 一瞬にして九兵衛の目元に影がかかる。そのまま眼帯のつけてない視線が銀髪の男を捉えた瞬間、

 

「銀時ィィィィィィィッ!!」

 

 凄まじい雄たけびを上げた。

 

「「「「「えッ?」」」」」

 

 いきなりの咆哮に唖然とする銀時や事情を知らないなのは、アリサ、すずか、ユーノ。

 

「天誅ゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 叫ぶやいなや抜刀した九兵衛。握手していたなのはたちの手を引き離し、そのまま銀時に向かって刀を振り下ろす。

 

「のわァァァァッ!!」

 

 だが銀時は寸前の処で振り下ろされた刃を回避。

 

「「きゅ、九兵衛さん!?」」

 

 驚くなのはとリンディ。

 突如刀で斬りかかって来る九兵衛に小学生の少女だけでなくアースラの艦長も驚いたようだ。

 

「おのれ逃すかァー!!」

 

 だが周りの反応など意に返さず、九兵衛は銀時に向かって刀を振り続ける。

 

「ちょっとまってちょっとまってちょっとまってェェェェ!!」

 

 銀時は必死に斬撃を避けながら慌ててワケを聞く。

 

「俺九ちゃんを怒らせるようなことしましたァー!?」

「うるさい黙れ!!」

 

 九兵衛はまったく聞く耳もたず刀を振り下げ一閃――だが、銀時は寸前の処で刃を真剣白鳥。

 受け止められた刀を持つ手に九兵衛は力を入れながら銀時を射殺さんばかりに睨み付ける。

 

「胸に手を当ててようく考えてみろ!!」

「いや、無理だから!! おたくの刀のせいで胸に手を当てる暇ないから!!」

 

 銀時は刃を抑える腕に力を込め、九兵衛は柄を握る手に力を込める。

 力が拮抗し、両者膠着状態。

 だが、やがて九兵衛はクワっと噛み付かんばかりの表情で声を出す。

 

「お妙ちゃんのことだッ!!」

「はッ? どゆこと?」

 

 と銀時は眉を顰める。

 

「貴様がお妙ちゃんと逢引し、既に深い仲にまで発展しているのはもう調べがついている!!」

「いや、知らねェよ!! なんで俺があのまな板女と乳繰り合わなきゃいけねェんだよ!!」

 

 そこで新八が「ちょっと銀さん!!」とたしなめる。

 

「子供もいるんだからそういう発言は控えてください!! つうか姉上がここにいたらあんたぶっ飛ばされますよ!!」

「ちょっと! いきなり襲ってきたけど、九兵衛ってあんたらの仲間じゃないの!?」

 

 当然のアリサの疑問に対し、土方は呆れ顔で答えた。

 

「込み入った事情があるんだよ」

 

 銀時に刀を離させる為に、九兵衛は彼の腹に蹴りを入れようとする。

 

「命おしさにしらっばくれるつもりか!!」

  

 九兵衛の蹴りを銀時は咄嗟に後ろに飛んで避けながら弁明。

 

「だから知らねェつってんだろ!! 命おしいってんなら、あんなダークマター製造機のゴリラ女と夫婦になる方が命の危機だわ!!」

「やはり夫婦になったのだな!!」

「なんで『夫婦』の部分だけしか耳に聞こえてねェーんだテメェは!!」

 

 などと言い合いをしながら九兵衛はまた銀時を切り裂こうと攻撃開始。

 必死に避け続ける銀時。ちなみに彼が避けるだけの理由は、いつも持ち歩いている木刀――洞爺湖(とうやこ)が爆散してしまった為なのであしからず。

 

「あなたたちはなにをやっているんだ!? ここはアースラ艦内だぞ!!」

 

 やがてトイレから戻ったクロノが大慌てで怒鳴り声を出す。刀を人に向かって振りまくる九兵衛をいきなり見たのだから当然の反応だ。

 その様子を見ていた土方は新八に顔を向ける。

 

「そろそろ止めるぞ眼鏡。いくらなんでも収集つかなくなりそうだ」

「めんどくさがって放置していた僕たちにも多少は責任ありますしね」

 

 と新八も頷きながら立ち上がった時だった。

 

「万事屋ァァァァァァァァァッ!!」

 

 突然の叫び声。全員の視線が声の主に向く。

 そこには、いつの間にか気絶状態から覚醒状態へとなっているゴリラ。

 

「こ、近藤さん!?」

 

 新八は驚きの声を上げた。

 目を覚ました近藤は山崎の背からすぐさま離れ、

 

「万事屋ァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 凄まじい形相で叫び、銀時に向かってダッシュ。その様子を見た土方は汗を流し、慌てた声を出す。

 

「マズイ!! 近藤さん、さっきの柳生の話を聞いてお妙の件を思い出しやがった!!」

「ちょっと待ってください近藤さん!! まずは僕たちの話を聞いてくださいッ!!」

 

 銀時を襲いに行こうとしているであろう近藤を制止させようと、新八は慌てて手を出す。が、ゴリラはまったく聞く耳持たないようで。

 

「そこで待っていろ万事屋ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「な、なにッ!? なんなのッ!?」

 

 銀時は九兵衛の斬撃を避けながら慌て、すぐに近藤の様子を見て察する。

 

「えッ!? まさかお前も妙な勘違いしてんの!?」

 

 お妙信者(かなり手強い)にダブルで襲われたらさすがの銀時も身がもたないと思ったのだろう。すぐに必死な顔で訴える。

 

「こっち来んなゴリラッ!! テメェの大好きなメスゴリラと俺はなんの関係も――!!」

「時の庭園に案内しろォォォォォォッ!!」

 

 と叫ぶ近藤は銀時の肩を掴む。

 

「「「いや、そっちィィィィィィィッ!?」」」

 

 銀時、新八、土方はまさかの要求にシャウト。だが近藤は構わず必死な形相で訴える。

 

「聞け万事屋ッ!! お前がフェイトちゃんを説得し、プレシア殿の所へ俺たちを案内すれば事態は一気に好転するかもしれないんだ!!」

 

 気絶から覚醒して記憶が混濁しているのか、それともただ単にバカなのか。場の空気などお構いなしに必死に頼み込む近藤だが、いかんせん銀時にその願いは無理と言うもの。

 近藤が何も分かってないと察して銀時は青筋浮かべる。

 

「無理なんだよバカゴリラ!! そもそも俺は時の庭園に――!」

「フェイトちゃんの手前俺たちに味方できないと言うのは分かる!! だがこれはどうしても必要なことなんだ!! お前が最後の希望なんだぞ万事屋ァァァァァッ!!」

 

 だが近藤はまったく聞く耳持たない。

 

「だから話聞けェェェェェェェッ!!」

 

 銀時のシャウトがアースラ艦内に響き渡った。

 

 

 つうわけで、クロノのバインドというアシストのお陰で荒ぶるゴリラと眼帯の動きを抑制。なんとか二人を一旦落ち着かせられた。

 リンディの提案で、場所をアースラの食堂へと移すことになった。理由としては時間的に夕食の時間だから。話をするついでに食事を済ませようと言うことである。

 ちなみに妙のことを思い出した近藤。食堂に移動する間、九兵衛と一緒に銀時を今にもぶっ殺さんと言わんばかりの血走った目で睨んでいたのは言うまでもない。

 食堂に到着した後、土方、新八、山崎という比較的常識人三人が誤解を解く為の説明をした。

 

「なるほどな。お妙ちゃんは猫を隠していたのか。そして僕に告げ口した少女の悪ふざけが真相であると」

 

 腕を組むは九兵衛は納得した様子。対して、新八は「まぁ、そういうことです」と相槌を打つ。

 

「ガァーハッハッハッハッハッ!! そんな真相だったとは!! まったくお妙さんも人騒がせなお人だ!!」

 

 と豪快に笑う近藤。

 近藤の言葉を聞いて九兵衛は「まったくだな」と言い、やれやれと首を横に振りながら笑みを浮かべる。

 

「いや、むしろあんたらのせいで騒ぎが大きくなったと言っても過言じゃないですけどね……」

 

 新八はあっけらかんとした態度の近藤と九兵衛にジト目向ける。

 九兵衛と近藤の志村妙に対する愛というか執着に近い想い。それを大まかではあるが新八から聞いたなのはは苦笑していた。

 

「なんて言うか……九兵衛さんは……新八さんのお姉さんのお妙さんって人が大切? ……なんですね」

「なのは。アレは俗に言う同性愛者って奴よ。しかもかなり拗らせた」

 

 アリサは腕を組んで呆れた表情をしながら言う。

 

「どうせいあいしゃ? アリサちゃん、難しい言葉知ってるね」

 

 聞きなれない単語になのは、更にはすずかも首を傾げる。

 アリサの言葉を聞いていた新八と土方は微妙な表情で視線を逸らす。なにせ否定できる部分がほとんどないから。

 すると骨付きチキンにかぶり付いていた沖田が関心したような声をだす。

 

「ムシャムシャ。おぉ~、バーニング。同族だけに良くわかってるじゃねェか」

「バーニング言うな!」

 

 噛みつかんばかりに目を吊り上げるアリサだったが、やがて怪訝な表情になる。

 

「って言うか、同族ってどういう意味よ?」

 

 沖田はあっけらかんとした表情ですずかを指さす。

 

「だっておめぇはすずかに友達以上の感情を抱いているんだろ?」

「あッ?」

「えッ!?」

 

 アリサは青筋浮かべ、すずきは驚きの表情。

 

「ほ、本当なのアリサちゃん!?」

 

 疑う事を知らないすずかが声をかける中、沖田は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「そうだぜ。アリサはおめぇの貞操を今か今かと狙って――」

 

 ブチッ!! とアリサから何かがキレる音。

 

「うがァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 さすがに我慢の限界だったらしい。アリサは椅子の上に立って沖田に掴みかかり、胸倉を鷲掴んで彼の頭をぐわんぐわん揺らす。

 するとなのはが慌ててアリサを抑え付ける。

 

「あ、アリサちゃん落ち着て!!」

 

 沖田の冗談を天然のすずかがつい真に受けちゃった展開。それを理解しているなのはは肉食獣の如く猛り狂うアリサをなんとか宥めようと努めるのだが、怒れる金髪少女は止まらない。

 

「もぉ許さん!! これ以上すずかに変な入り知恵する前に燃や゛す!!」

「怒ってるってことはやっぱり本音でェ~――」

 

 頭をシェイクされる沖田は懲りない。

 

「燃やす燃やす燃やす燃やす燃やす燃やすぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「あ、アリサちゃん!! 本当に今のアリサちゃんバーニングちゃんになってるから!!」

 

 我を失った友にさすがのなのはも汗を流す。

 今のアリサを表すなら憤怒爆裂(バーニング)とでも言えばいいだろうか。普段弄られ過ぎたせいで怒りの許容範囲を超えてしまったらしい。

 そんな沖田とアリサのじゃれ合い(?)を頬杖を付きながら気だるげな視線で見ていた銀時。彼は土方へと視線を向ける。

 

「な~んか、おたくの総悟くん。知らねェ間にうちの神楽以外の遊び相手を見つけたようだな」

「声も似てるしな」

 

 とクールに返す土方。

 

「土方さん。そういう発言は控えて下さい」

 

 新八はやんわりツッコミ入れ、銀時は視線を東城と九兵衛に向ける。

 

「つうかさ~、お前らいつ時空管理局の連中のお世話になったの? なんか、話聞いてたらお前らほぼ別次元に飛ばされてた感じなんだけど?」

「そ、そう言えば……!」

 

 最もな疑問を聞いてハッと気づく新八。

 なにせ柳生組の登場のインパクトが強すぎた上に、銀時を恋敵だと勘違いしたままで暴走。お陰で二人がどのようにして時空航行艦アースラに乗車したのか聞けずじまいだなのだ。

 

「そこんとこどうなんでィ、エセ死神」

 

 アリサに首をぶんぶん振られながら、ジト目を向ける沖田。

 いまだにブリーチスタイルの九兵衛は腕を組む。

 

「ならば、まず僕がどうやってウェコムンドを制覇したのか話そう」

「ならば、私はあらやる時間のソープ店の感想を話しましょう」

 

 時を走る電車に乗っていたとのたまっていた東城も腕を組む。

 

「いや、そこら辺はいいんで。『時空管理局のお世話になった時』の話をお願いします」

 

 新八が冷めた視線でバッサリ切り捨てた。だってすんごく長くなりそうな上に別の物語になりそうなのだから。

 二人に代わって、クロノが腕を組んで説明を始める。

 

「突如として『ミッドチルダ』――つまりミッドチルダ式魔法の発祥の地である世界に妙な方法で出現して注目を集めた彼ら二人を時空管理局がすぐに保護。それで、そのまま『地球』出身と言う彼らから得た証言で第97管理外世界『地球』、その付近の次元の海に向かう予定だったアースラに乗艦させて送り届けることになった、と言うのが大まかな経緯(いきさつ)だ」

「「「なるほど」」」

 

 山崎と新八と近藤は納得して相槌を打ち、銀時や土方や沖田もだいたいの事情を分かったらしく特に何か言う様子はない。

 しかし神楽だけ気になった点があったらしく、九兵衛と東城に顔を向ける。

 

「お前らどんな感じにみっとなんちゃらにやって来たアルか?」

 

 すると九兵衛が「そうだな……」と言って腕を組んで説明を始める。

 

「僕は現世とソウルソサエティをつなぐ――」

「分かりました!! 九兵衛さんたちの事情はじゅーぶん! 僕たちは分かりましたから!!」

 

 新八は右手を出して強引に発言を阻止。これ以上語らせたら、作品の垣根の領域がぶれぶれになるにもほどがあるからだ。

 すると東城が眉をひそめて言葉を発する。

 

「しかし、私は若と違いでんらい――」

「だからもう分かったって言ってんだろうが!! あんたらの発言はぶっちゃけ世界観ぶち壊しかねェんだよ!!」

 

 新八の必死な形相と言葉で東城は押し黙る。すると土方が腕を組んで九兵衛たちに顔を向けた。

 

「まァ、お前らの事情は大体分かった。となると問題は……」

 

 土方が次にチラリと向けた視線の先は銀時とアルフ。

 銀時に真剣な眼差しを向ける近藤が話を切り出す。

 

「万事屋よ、俺たちを時の庭園に案内してくれんか?」

「だからできねェよバカゴリラ。俺が魔法使えると思ってんのか?」

 

 銀時が青筋を浮かべて返すと、今度はクロノが質問しだす。

 

「なら、座標は知らないか? 時の庭園に転移する時にフェイト・テスタロッサが呟いてたはずだ」

「あんな長ったらしい暗号なんざ覚えてるワケねェだろ」

 

 銀時は頭をぼりぼり掻いて、めんどくさそうに返す。

 

「俺だって一回案内されたけど、フェイトはぶつぶつ言っててほとんど何言ってんだか聞こえなかったしな」

「なら、彼女はどうだ?」

 

 と言ってクロノが視線を向けたのはアルフ。

 

「フェイト・テスタロッサの使い魔の彼女なら時の庭園の座標も把握しているんじゃないか?」

 

 直接アルフに質問するのではなく銀時に問いかけたのは、意気消沈している使い魔を一応は気遣ってのことだろう。

 問いかけられた銀時は「そんなの知らねェよ」とめんどさそうに返す。すると、今まで一言も言葉を話さず、口を閉ざしていたアルフが視線を逸らしながら口を開く。

 

「……あたしも……座標は、知らない。時の庭園に……行くのも帰るのもフェイトと……」

 

 そこまで言ってアルフは口を閉ざし、歯を強く噛み締め、膝の上に乗せた拳を強く震わせた。

 

 アルフの言葉を聞いてクロノは追及せずに「そうか」と短く答える。

 執務官であるクロノなら、相手が嘘を付いていないか判断する為にもっと問いただすかと新八は思っていた。が、そうする様子はない。さすがにアルフの悲壮な態度と雰囲気を察して無神経な追及は酷だと思ったようだ。

 

 頬杖を付いた銀時は視線を逸らし、アルフに代わるように話し出す。

 

「……分かったろ?  時の庭園の座標ってのを知ってるフェイトは俺とアルフの前から『居なくなっちまった』」

 

 銀時の『居なくなった』と言う言葉にピクッと反応を示すアルフ。彼女はより悲痛な表情を作るが、特に何か言う様子はない。

 

「だからおめェらを時の庭園に案内するのは無理なんだよ」

 

 そう銀時がキッパリ言った後、彼は机上でパスタの上に『あるモノ』を振りかけていた。

 

「……銀時さん、それはなんですか?」

 

 小首を傾げるリンディは、銀時が『作り出したモノ』を見る。対して、銀時は平然とした顔で答えた。

 

「ん? 宇治銀時パスタパージョンだ」

「ま~、中々おいそうですね」

 

 銀時が作り出した――パスタにタラコの如く小豆ぶっかけた、みるからにおぞましい料理。それを見ているリンディは両手を合わせ、目を輝かせている。

 一方、小学生三人組は宇治銀時パスタパージョンを見てまた気分を害していた。

 リンディは小豆ぶっかけパスタを指さす。

 

「それ、お味見してもよろしいですか?」

「おう、いいぞ」

 

 銀時の了解を得て、リンディはフォークで小豆が乗った湯でパスタの麺を口に運ぶ。

 

「ん~♪ 麺のしょっぱさと小豆の甘さが絶妙なハーモニーを生み出しますね~」

 

 リンディは頬に手を当て、百点満点の笑顔でゲテモノ甘味料理を褒める。

 

「おォ、そうだろそうだろ?」

 

 対して、銀時は普段あまり見せない嬉しそうな顔。

 そんな様子を見ていた新八は半眼状態。

 

「もうあの二人は結婚しちゃえばいいんじゃないかな?」

「冗談でもそんな恐ろしいこと言うのは止めてくれ……」

 

 クロノが泣きそうになりがら顔面蒼白にするので、新八も「ごめん」と親身になって謝る。

 

「これは家のメニューに加えてもいいかもしれませんね♪」

 

 笑顔のリンディの言葉を聞いて、クロノは泣きながら銀時を指さす。

 

「誰かあの男を止めてくれ。でないと家の食卓が崩壊する」

 

 するとアリサがクロノの肩に手を置く。

 

「強く生きなさい。胃と共に」

 

 テーブルに顔面を突っ伏すクロノであった。

 

「たくしょうがねェ。俺がお前の食卓に希望の光を与えてやるよ」

 

 土方がそう言って差し出したのは、

 

「ほれ、土方スペシャルパスタバージョン」

 

 パスタが見えなくなるくらいとぐろを巻いたマヨネーズの塊だ。

 土方は作り出した黄色の塊をリンディの前に差し出す。そして笑顔のリンディは流れ作業のように息子に皿を渡す。クロノの顔から血の気が引く。

 

「土方さん。絶望の闇を与えてどうすんですか」

 

 新八はさり気にツッコム。

 

「そう言えばさ――」

 

 そこで言葉を発したのはオペレーターのエイミィ・リミエッタ。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんのデバイスって、どこで手に入れたの? レイジングハートみたいにユーノくんが持っていたワケじゃないんでしょ?」

 

 カレーを口に頬張りながら疑問を問いかけるエイミィ。

 オペレーターの問いにアリサは頷く。

 

「はい。あたしたちを誘拐した誘拐犯が持っていたデバイスだってフレイアは言ってますけどね」

「うわー、それはまた怪しさ満点な……そもそもエンシェントデバイスなんて私聞いたことすらないんだよねー」

 

 半眼になるエイミィに同意するように、リンディも真剣な顔で顎に指を当てる。

 

「確かに、それは私も疑問でした。アリサさんとすずかさんの持つフレイアとホワイト。その二機はエンシェントデバイスだと聞きましたが、エンシェントと言う型のデバイスは私も一度も耳にしたことがありません」

 

 そう言うリンディの前には小豆を乗せたパスタ。

 

(既に宇治銀時パスタバージョンが量産されている……)

 

 新八はリンディの話より彼女の前のゲテモノ料理に意識が集中していた。いつのまに作ったのだろうか?

 スプーンを指で弄びながらエイミィは怪訝な表情で言う。

 

「私も一応管理局のデータベースを調べてみたけど、エンシェントデバイスなんて種類のデバイスの存在は一切出てこなかったよ」

「つまり現状の判断としては、元は犯罪者の持ち物だったフレイアとホワイト……」

 

 リンディはチラリとデバイス二機を見れば、エイミィはカレーをスプーンですくいながら語りだす。

 

「その正体は管理局にも報告されていない未知のデバイスであるか……もしくはデバイスである二機が嘘を言っているか」

 

 そこまで言ってスプーンを口に運んだエイミィは、カレーを飲み込んでから話を続けた。

 

「……ぶっちゃけ、検査した時もUnknownな部分、つまり未知の機能やシステムがちらほらあったし、技術班の人たちは一回解体して調べたいって言ってたね」

《ちょちょちょちょ!?》

 

 とフレイアは慌てだす。

 

《ホントそう言う止めてくださいよ!! 解体とか洒落になってませんからね!?》

 

 羽を生やしたフレイアは、いつの間にか怒りが収まったのか席に戻っているアリサの後ろに隠れる。

 

《私も解体だけは断固拒否します》

 

 ホワイトも強い声音で拒絶を示す。

 二機の様子を見てエイミィは笑いを零す。

 

「アハハハ、やっぱり人間みたいに感情豊かなデバイスだよねー。ホントに誰が作ったんだろ?」

 

 お気楽に言うアースラオペレーター。

 ちなみだが、フレイアたちデバイスをいつ検査したかと言えば、なのはたちからデバイス三機の情報を聞いてすぐ後だ。

 話を聞いていたアリサが、意地の悪い笑みを浮かべだす。

 

「あんた一回解体してもらって、そのお調子者の性格直してもらえば?」

 

 ギョッとするフレイア。

 

《あ、アリサさん!? ホント勘弁してください!! 私たちにとって解体は人間で言うところの解剖と同意儀なんですから、マジでご容赦を!!》

 

 本気で怯えた様子のフレイアを見てアリサはため息をつきながらやれやれと言った顔をした後、リンディに言う。

 

「こう言うワケだから、解体はやめてあげてください」

「私からもお願いします」

 

 すずかも真摯に頭を下げてお願いする。するとエイミィはあっけらかんとした態度で返す。

 

「大丈夫大丈夫。念の為に身体検査をしてリンカーコアにも体にも異常はないって出たから。今は二人のデバイスという形で現状維持になるよ」

 

 エイミィの言葉を聞いて安堵のため息を漏らすフレイア。

 

「そう言えば、レイジングハートはどうなんですか?」

 

 なのはの問いにリンディが答える。

 

「なのはさんのレイジングハートは私たちで言うところのインテリジェントデバイスです。念の為にフレイアやホワイト同様に検査をしてみましたが、特に問題はありません」

 

 リンディの言葉を聞いて安堵するなのは。するとエイミィが首を傾げる。

 

「でも、三機のデバイスの製作者は同じだって聞きましたけど、なんで一緒の型のデバイスにしなかったんでしょうか?」

 

 エイミィの問いかけにリンディも分らないと言いたげな顔。

 

「それは神のみぞならぬ――製作者のみぞ知る、としか言えませんね」

「だがしかし、僕としてはそんな正体不明のデバイスを彼女たちに使わせ続けるのには賛成できない」

 

 そう言うのはまたトイレに直行していつの間にか席に戻っているクロノ。その頬が心なしかやつれているのは気のせいではないだろう。

 フレイアは不満そうな声を漏らす。

 

《なんですかまっくろくろすけさん。まだそんなこと言うなら、土方さんのゲテモノスペシャルのおかわり食べさせますよ?》

「誰の料理がゲテモノスペシャルだ?」

 

 フレイアの言葉に土方は青筋浮かべた。

 マヨネーズの塊を思い出して気分を悪そうにさせるクロノだが、引き下がらない。

 

「と、ともかく! 出自も能力も不明な点が多いデバイスを幼い彼女たちに使わせ続けて本当に良いと、あなたたちは思っているのか?」

 

 そうクロノが問いかけたのは、平均年齢が高い組。

 まず最初に新八が口を開く。

 

「まァ、言われてみればそうですけど……」

「確かにな。俺も引っかかってた部分はある」

 

 と土方も同意しだす。

 

「ぶっちゃけ俺も怪しいなァー、とは薄々……」

 

 最後に山崎が頬を掻きながらやんわり言う。

 三者三葉、自信なさげに言う。が、なんにせよ彼らも冷静な思考の部分では『怪しいデバイス』という考えを持っていたようだ。

 そんな場の様子にフレイアは少しばかし不安そうな声を出し始めた。

 

《あ、あれあれ? なんか私たちの立ち位置、危ない感じですか?》

 

 ホワイトも感情の読み取れない冷静な声で。

 

《フレイア。どうやら私たちはかなり疑われ始めているようです。まぁ、ユーノさん以外にとやかく言われなかった事の方がおかしかったのもしれませんが》

 

 ユーノや土方以外は深く物事を考えない、単純、好意的な相手はすぐに信じるなどなど。詐欺師などに騙されそうな面々ばかりだったので色々言われずに済んでいたのだろう。

 とはいえ、ちゃんと今まで一緒に戦ってきた仲間なのだから今更とやかく言う必要性がなくなっていたのも大きい。

 

 だが、二機とは初対面のクロノは違う。あげく彼は管理局員であり執務官で、疑うのが仕事。しかも結構頑固な性格。謎のデバイスの存在をこのままよしとすることはできないであろう。

 

「じゃあ、とりあえず解体しちゃえば?」

 

 頬杖ついて言う銀時の言葉にフレイアがギョッとする。

 

《ちょっと銀時さん!? あなたこの件にほぼなんの関りもないんですからそう言う無責任なこと言うの止めてください!!》

 

 さすがのお調子者のフレイアも今回ばかりは自身の安全を守るために必死のようだ。

 腕を組んでクロノが言う。

 

「解体はともかく、さすがにこのまま彼女たちの元に置かずこちらで預かるというのが妥当な判断だと僕は思う」

「あー、確かにそれが最善の処置かもしれないね」

《ちょっとエイミィさんんんん!?》

 

 フレイアはシャウト。

 

《あなたさっき現状維持で良いって言いませんでした!? あなたの手はドリルですか!》

 

 デバイスに指摘されたエイミィは軽い感じに返す。

 

「いや~、私はさ。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんのような魔力資質が高い子の能力を十二分に発揮できるデバイスを取り上げて、戦力ダウンさせたくないなぁ~って内心思うところもあってさ」

 

 アハハハ、と笑うエイミィ。対して、クロノがオペレーターをたしなめた。

 

「こらエイミィ! 彼女たちは管理局員でもない一般人なんだぞ!! 勝手に戦力にカウントするのは言語道断だ!!」

 

 ごめん、とエイミィは両手を合わせてクロノに謝る。

 リンディも苦笑しながら言う。

 

「正直、私としてもなのはさん達の存在は戦力として惜しいところではありますが――」

「かあさ……艦長!」

 

 クロノは自身の上官の言葉に声を上げてしまう。するとリンディは真剣みのある顔で。

 

「うちの執務官の意見もありますし、やはりここはこちらでアリサさんとすずかさんのデバイスをお預かりするという形になるでしょうね」

 

 リンディの言葉を受けてアリサの肩にしがみつきながらフレイアは声を荒げる。

 

《ちょっとちょっとちょっと!! また蒸し返しますか!? そんでもってまた言わせますか!? だーかーらー、折角見つけた(マスター)と離れ離れになるとかホントに嫌なんですってば!!》

 

 相棒の必死な訴えを聞いたアリサは、頬を少し掻いて心なしか嬉しそうな表情。

 

「あのリンディさん。このままフレイアをあたしのデバイスってことにできませんか?」

《アリサさん!》

 

 フレイアが嬉しそうに声を上げると、

 

「私からもお願いします! ホワイトは良い子です! 折角出会えて仲良くなれたのに、離れ離れになんかなりたくありません!」

 

 すずかはホワイトを抱きしめながら懇願する。

 

《すずか様……》

 

 ホワイトも心なしか嬉しそうな声を漏らす。

 

「私からもお願いします! 四人とも仲良しなんです! 無理に離れ離れにしないであげてください!!」

 

 そして最後に頭を下げて頼み込むなのは。親友二人の姿を見て我慢できなくなったのだろう。

 すると神楽まで声を上げだす。

 

「そうアル! アリサとフレイア、すずかとホワイトは二人で一人の魔法少女!! 仮面ライダーWならぬ魔法少女だぶ――!!」

「うん。神楽ちゃんは黙ろうか」

 

 とりあえずボケるチャイナに新八は冷たい一言。

 するとフレイアも声を上げる。

 

《そうです! 私とアリサさんは二人で一人の魔法少女! 魔法少女Wです!!》

「おめェも乗っかるな!!」

 

 強引にボケ重ねるデバイスにツッコミ入れる新八。

 後ろでなんか言ってる連中に構わず、「お願いします!!」と頭を下げるなのはたち。

 

「困りましたねぇ……」

 

 健気な少女たちの姿を見てリンディは頬を掻くが、クロノは譲らない。

 

「君たちには悪いがその要求には答えられない。レイジングハートのようなインテリジェントデバイスですらない君たちにどんな機能が備わっているか分からない以上は」

「頑固だねぇ……」

 

 と銀時が言い、エイミィは苦笑する。

 

「クロノくん、かわいい女の子のお願いに答えてあげないと、モテないよ?」

「エイミィ……」

 

 と呆れ顔のクロノ。

 

《そう言うワケで、私たちはこのままアリサさんたちと一緒と言うことで》

 

 そしてフレイアが絞める。

 

「なにが、と言うワケだ!! 強引に話を終わらすな!!」

 

 バッと立ち上がり怒鳴るクロノはすぐさま椅子に座りなおして言う。

 

「取り上げられるのが嫌ならなら誰が製作者なのか、それを教えてくれ。製作者として信用に足る人物ならこちらだって考えを改める」

 

 それに対しフレイアはユーノにも言った返答を返す。

 

《だから私たちに製作者のデータはないと――》

《――アトリス・エドワード》

「ッ!?」

 

 突如出た名前に驚きの表情を作るクロノ。

 謎の名前を言ったのは人間ではない。

 

「……レイジングハート?」

 

 いきなり見知らぬ人物の名を言った自身のデバイスに目を向けるなのは。

 構わずレイジングハートは言葉を続ける。

 

《彼女たち……そして私を製作したのはアトリス・エドワード。アルハザードに到達したと言われる技術者です》

 


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