魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

44 / 79
第四十一話:技術者

《――アトリス・エドワード。彼女たち……そして私を製作した人間であり、アルハザードに到達したと言われる技術者です》

 

 レイジングハートの言葉を聞いて管理局側の人間だけでなくユーノもまた驚愕の表情となる。

 

「う、うそ……。レイジングハートを作った人が……」

「アトリスって……」

 

 エイミィもまた信じられないと言う表情で人物の性を呟く。

 

「それは本当なのかレイジングハート!?」

 

 クロノは立ち上がりながら机をバン! と叩き食い気味に質問するのでなのはは「ひゃッ!」とビックリする。

 

「おいおいどうした?」

 

 銀時は怪訝な表情を作る。そして人物名を聞いてもまったく状況が理解できないであろう新八は質問する。

 

「その『あとりす』さんて、有名な方なんですか?」

「そりゃもう!」とエイミィ。「なにせ、教科書に載るほどの人だもん!」

「えぇ。アトリス・エドワードは古代ベルカ時代にいた技術者の一人で、魔法世界の歴史に名を残す偉業を成し遂げた人物ですから」

 

 とリンディが続けざまに答える。

 

「そいつ、なにをやらかしたんだ?」と銀時。

「犯罪を犯したみたいに言うな」

 

 失礼な事を言うな、と言いたげにクロノが銀時を睨む。

 ユーノが口を開く。

 

「アトリス・エドワードはデバイス技術を考案し、開発した人間として歴史に名を残した偉人なんです」

「それもしかしてメッチャすごくない!?」

 

 魔法世界に詳しくない新八でもユーノの『デバイスを考案した人』と言う言葉を聞いてアトリスと言う人物がいかに技術者として名声を得たか窺い知ることができたようだ。

 新八はリンディに聞く。

 

「つまり、『デバイスの生みの親』ってことですよね!?」

「なるほど。そりゃぁすげぇ」と沖田。

「つまりレイジングハートのパピーと言うことアルか!?」

 

 神楽の言葉を聞いて東城が待ったをかける。

 

「神楽殿、その解釈は少し違いますな。言うなればクインシーの王であるユーハバッハ的なポジショ――」

「だからブリーチはもういいんだよ!!」

 

 土方はツッコム。

 新八の言葉を聞いて江戸の人間たちもアトリスと言う人物がいかに歴史的に凄い人間であったか理解し始めたようだ。

 

「ふ~ん。んで、そいつってやっぱ死んでんの?」

 

 銀時は鼻を穿りながら聞く。

 

「銀さん、さすがに今も生きてたら偉人じゃなくて化物になっちゃうよ」

 

 エイミィは苦笑を浮かべ、ユーノが説明をする。

 

「まぁただ、何時死んだか分からないので諸説あるんですけど、『アルハザードに到達した』って言う伝記が残ってるからそれがそのまま現在の教科書に説明として載ってる、ってところなんです」

「とは言え、そんな伝記を信じる人間はほとんどいないだろう」クロノは腕を組んで不満そうな顔で。「そもそも彼の若い時の記録しか残ってない上におとぎ話に出てくるような場所に行ったなんて伝記が残っているせいで、神話が混じったようなふざけた歴史が出来上がったしまったのは甚だ疑問だよ」

 

 ユーノとクロノの説明を聞いて新八以外の江戸の人間たちは「へー……」と曖昧な返事をし、なのはたち海鳴市出身の少女たちはあまり理解できないと言った顔だ。

 リンディが苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、銀時さんたちやなのはさんたちは古代ベルカがいかに古い時代か分かりませんし、魔法の世界にもほとんど関りがなかったのでピンとはきませんよね」

 

 リンディの言葉を聞いていたであろうクロノが腕を組みながら説明を始める。

 

「まだ魔法技術が発展途上で、魔法を行使するための武器や道具がまちまちだった時代。アトリス・エドワードによって考案された『デバイス』と言う魔法の道具はまさに革新的だった……」

 

 続けてエイミィが。

 

「なにせ、その頃は魔法の使用するために術式の演算やら何やらを本人がほとんど負担しなきゃいけなかったから魔法を使う人は今よりかなり少なかったし、使うにしても相当大変だったらしいよ」

 

 そしてまたクロノが説明をする。

 

「魔法使用の処理を高速で行い瞬時に高度な魔法を扱えるデバイスを作ったアトリスと言う人物は古代ベルカだけでなく、ミットチルダにもその技術を提供し発展させたと言う。だからこそミットチルダでも知らない人はいないと言われるほどの偉人として今も語り継がれているんだ」

 

 説明を聞いた銀時の反応は、

 

「へー……そうすっか……」

 

 かなり淡白なもので、銀髪の様子を見たクロノは不服そうに青筋を浮かべる。

 その様子を見てエイミィとリンディはまた苦笑を浮かべる。

 説明を聞いたアリサはフレイアを見る。

 

「あんたって、その性格の割に随分と凄い人間の作品だったのね」

《ええ……まぁ……》

 

 いつもならちょっと褒めれば調子ぶっこくデバイスの煮え切らない返事に首を傾げるアリサ。

 だがアリサの言葉を聞いてクロノは待ったをかけた。

 

「だがレイジングハートの言葉は丸々信用できるものじゃない。アトリスがデバイスを生み出してから既に数百年以上は経過している。今あるデバイスのほとんどは彼の技術を学び、発展させた技術者たちが生み出していったものだ。彼が『作った』デバイスを使用している人間なんている方が珍しいくらいだ」

「じゃあ、レイジングハートさんはデタラメを言ったってことですか?」

 

 新八の質問にエイミィはう~ん、と難しそうに顎に指を当てる。

 

「たしかにクロノくんの言った通り、彼が手掛けたデバイスを使用しているかいないかレベルだけど、彼が作ったって証明されているデバイスはちらほら見つかってはいるんだよね」

 

 エイミィの説明をリンディが補足する。

 

「まぁ、それはもっぱらオークションに出品されるか大手の博物館の展示物となってしまうのがほとんどですから」

 

 それを聞いて銀時は察したように呟く。

 

「ようはただの骨董品てことか」

「莫大な値段がつく、と言う言葉がつきますがね」

 

 リンディの言葉を聞いて銀時の耳がピクリと動く。そしてクロノが語る。

 

「技術的なレベルはもう当時のデバイスより今のデバイスの方が圧倒的に勝っているが、彼の名声を考えればアトリス製作と証明されたデバイスの歴史的価値は計り知れない」

「それこそ、大富豪でもないと手が出ないような値段が付けられる物ばっかりですからね」

 

 とエイミィが補足する。

 二人の説明を聞いて銀時の耳がまたぴくぴくと動く。

 クロノは首を横に振る。

 

「だからこそ、レイジングハートの言った『アトリス・エドワード』に作られたと言う話を簡単に信じるわけにはいかない」

 

 エイミィはスプーンを咥えながら喋る。

 

「まぁ、デバイスの製造記録データに彼のサインでも入っていればそれ一発で証明できるんだけどねぇ」

「エイミィ、行儀が悪いぞ」とクロノはエイミィをたしなめる。「まぁ、そうだな。もしその話が『本当なら』、サインの一つでも見せて欲しいものだ」

 

 少し皮肉交じりに言いながらコーヒーを飲むクロノ。

 

《これでよろしいですか》

 

 レイジングハートは上空に立体的な映像を投影すると、そこには何か文字が浮かべあがっている。それをエイミィは指を指して驚きながら言う。

 

「あ、ミットチルダの原語で『アトリス・エドワード作』って書いてある!」

「ブゥゥーッ!?」

 

 クロノはもろに口からコーヒーを目の前に相席していたユーノの顔めがけてぶっかける。

 レイジングハートから投影された文字を見てリンディは真剣な表情で。

 

「エイミィ、すぐに検証を」

「了解!」

 

 エイミィは何もないところからタッチパネルのような物を空中に出現させ、早打ちし出す。

 するとレイジングハートが音声を出す。

 

《ほら、フレイアとホワイトもアトリス様のサインを見せないさい。もうあなた方だってこの方法が最善であると分かっているはずです》

《わ、分かりました……》

《事ここに至っては仕方ありませんね……》

 

 渋々と言った具合に二機も空中にミットチルダの文字で書かれた単語を投影する。

 

「二機のサインの検証も」

 

 リンディの言葉に無言で頷くエイミィ。返事をしない当たり、かなり集中力を使っているらしい。

 しばしの間沈黙が続き時間が過ぎる。やがてエイミィがふぅー、と息を吐きながらタッチパネルの操作を止める。

 

「管理局のデータベースにあった、アトリス・エドワードのサインと三機のサインの検証の照らし合わせ、完了です」

「結果は?」

 

 クロノは緊張した面持ちで聞き、エイミィは答える。

 

「検証結果は99%合致。アトリス・エドワード本人のサインであり、三機はアトリス本人が手掛けたデバイスとして間違いないみたい」

「し、信じられない……」

 

 クロノはエイミィの言葉に愕然とする。

 

「サインは本物……っと言うことは……」

 

 なのはは自然とアリサとすずかに視線が向く。

 

「つまり、あんたとはこれからも一緒ってことかしら?」

 

 アリサは皮肉気味に笑みを浮かべる。

 

「良かったねホワイト!」

 

 すずかは嬉しそうに愛機を両手で抱きしめる。

 

「い、いや待て!! ことはそう単純じゃない!!」

 

 だがここでクロノ慌てたようにが待ったを掛ける。

 

「く、クロノくん落ち着て!」

 

 エイミィが動揺するクロノをなだめ、気を落ち着かせながら執務官は説明を続ける。

 

「出自が分かったのはいい。だが、製作者がアトリスだと証明された以上、今度は別の問題が浮上する」

「つまり、フレイアやホワイト、更にはレイジングハートを狙う連中が現れるってこと?」

 

 お嬢様であるアリサは偉人が手掛けた作品の問題点にすぐに気づいたようで、クロノは頷く。

 

「ああ。この事実が公に公表されれば、君たちのデバイスを狙う人物はごまんといるだろう」

 

 だがクロノ言葉にすずかは待ったをかける。

 

「でも、大丈夫じゃないかな? 逆に国宝みたいな凄い価値の芸術作品なんかは盗んだとしてもすぐにお金に変えちゃった時点で足がついちゃうリスクが高いですし。まず盗んでやろうって人は出てこないと思います」

「私たちの世界の『モナ・リザ』なんかが良い例だよね」

 

 なのはが相槌を打つ。

 いくら高額な品だが数の少ない物品である以上、無事盗み出せたとしても現金に変換する作業だって困難を極めると彼女たちは考えたのだろう。

 

「その歳の割には賢い回答じゃねぇか。だが、悪事を働く連中ってのは一般人が思っているようも狡猾だ」

 

 関心した声で言う土方の言葉にクロノが相槌を打つ。

 

「あぁ。それに公で取引できなくても裏の世界には闇市場(ブラックマーケット)だって存在する。狡猾な犯罪者に狙われる危険性は限りなく高い。個人で持つにはあまりにもリスクが高いデバイスであることは疑いようがない」

 

 きっぱり言うクロノの話を聞いてすずかとアリサは自身の相棒に顔を向ける。

 

「もしかして、ホワイト。私たちの安全を守るために製作者さんの事は噓をついてまで黙っていたの?」

「あたしたちが危険にならないように……」

《ええ》とホワイト。《私とフレイアの製作者がアトリス・エドワード様であることを口外するのはデメリットしかない》

《だからこそ、必死こいて誤魔化していたと言うのにィーッ!!》

 

 フレイアは羽で頭(?)を抱える。

 なんだかんだ言っても主のことを第一に考えていた二機に目を潤ませるアリサとすずか。

 だがアリサはすぐに眉間に皺を寄せる。

 

「――って、あんたがそれを主であるあたしにくらい言ってくれても良かったんじゃないの! そうすれば、あたしだって一緒になって秘密を守るために頭使ったわよ!」

 

 もっともな意見にフレイアはバツが悪そうにする。

 

《だ、だって……もしそんなこと話したらアリサさん……怖がって私を捨てちゃうんじゃないかって……》

「たく、あんたは……。あたしを認めるとか言って、全然あたしのこと分かってないじゃない。相棒が聞いて呆れるわ」

《す、すみません……》

 

 人工物でありながら涙声で言うフレイアにアリサはきっぱり言う。

 

「あんたを相棒にするなら、それくらいのリスクくらいどうってことないわ! このアリサ・バニングスを安く見ないで頂戴!」

《ア”リ”ザザン!!》

 

 涙声で喋る炎を象ったネックレスを見て新八はシュールだなぁ、とつい思った。

 すずかも続く。

 

「そうだよホワイト。他の人はどう思うか分からないけど、それくらじゃ私はホワイトを手放そうだなんて思わないよ」

 

 優しい声音で言うすずかにホワイトは感動の声を漏らす。

 

(マスター)に対する配慮をしたつもりでしたが、どうやら思慮が足りなかったのは私のようです。申し訳ありませんすずか様》

 

 と言った具合に二組の魔法少女とその相棒の絆がなんだかんだで高まっている光景に空気を読んでか何も言わなかったクロノだが。

 

「感傷中のところすまないが、まだこちらの話は終わってない」

 

 このまま話を負わせる季など毛頭ないようである。

 

「エンシェントデバイスだっけ?」とエイミィが首を傾げる。「アトリスが死ぬまで公表すらしなかった型ってことは……アトリスが密かに作った隠しデバイスってことだよね!」

「いや、そんな隠しアイテムみたいな……」

 

 興奮気味に言うオペレーターに新八は微妙な表情を作る。

 クロノは腕を組んで真剣な面持ちで告げる。

 

「なのはのレイジングハートはともかく、エンシェントデバイスと言うのが事実なら、二機は下手したら重要文化財認定だって受けるかもしれない」

 

 最後にリンディが真面目な顔で。

 

「そうなれば、結局はアリサさんとすずかさんの手を離れ、管理局が保管した後、大手の博物館に厳重な警護の元、展示されると言うことになりますね」

「結局離れ離れじゃないですか!!」

 

 新八が声を上げ、リンディは更に説明を補足する。

 

「それどころか、なのはさんのレイジングハートもこちらお預かりすると言う形になるかもしれません。なのはさん個人の安全を考えるなら」

 

 難しそうな表情を作るリンディの言葉に対してなのはは「そ、そんな!!」と言って焦る。

 それを聞いて新八は慌てだす。

 

「ちょっとォーッ!? レイジングハートさん、なんでアトリスさんのサインなんて見せちゃうんですか!? 状況がおもっくそ悪化してますよ!」

 

 一体なに考えているの!? とつい思った新八はレイジングハートに顔を向ける。

 色々長い話をした割にまた元の問題にぶち当たってしまう。いや、下手したら余計に状況が悪くなっていっている。このままで魔法少女三人娘がただの小学生三人娘に逆戻りだ。

 無論フレイアも黙っていない。

 

《そうですよレイジングハートさん!! なにやらかしてくれやがるんですか!? あなたの提案に従った私がバカでした!!》

 

 思いっきり手の平を返すフレイアの言葉にレイジングハートはまったく無反応。それとフレイアと違いホワイトは無言を続けている。

 フレイアはこの世の終わりのように声を出す。

 

《ああ~!! 私はこのまま管理局に連れていかれて金庫にぶちこまれたのち、そのまま博物館の狭いっ苦しいケースの中に展示されて一生さらし者にされながら生きていくんですねェーッ!! まるでトイ〇トー〇ー2のように!!》

「いや、生き物じゃないでしょあんた……」

 

 新八はおいおいとわざとらしく泣くフレイアをジト目で見る。

 するとあっけらかんとした表情で銀時が口を開く。

 

「でもよ、用はこわ~い悪党の連中に知られなきゃいいんだろ? そうすれば何も問題はねぇじゃねぇか」

「いやいや!」と新八は右手を振る。「フレイアさんたち国宝級の品なんですよ!? そんなの国民全員が知ることになっちゃうでしょ!!」

 

 新八の言葉にクロノが当然とばかりに頷く。

 

「あぁ。それどころかアトリスが秘密裏に製作した新型デバイスと言うことが証明されれば、それは歴史的大発見でありニュースにも――」

「だから、それ言わなきゃいいんじゃん」

 

 平然とした顔で言う銀時の言葉にポカーンとした表情になるクロノと新八。

 沖田が掌にポンと拳を乗せる。

 

「なるほどぉ。つまり、今の話を知っているのは『ここにいる俺たちだけ』だから、俺たちが黙っていれば問題はねぇってわけですね、旦那」

「そうだよ沖田くん」

 

 と頷く銀時。するとリンディが手を合わせて言う。

 

「あぁ、なるほど。確かにこのことを知っているのは『私たちだけ』のようですからね」

 

 リンディが周りに目を向けると、運よく他の局員は周りにいない。居たとしても食堂で料理を作る人間だけだろうが、こっちの話が聞こえる距離ではない。

 話しの流れを理解してかクロノはありえないとばかりに捲し立てる。

 

「母さんあなた正気ですか!? こんな歴史的大発見を上に報告もせず、僕たちだけの心の内に留めておけと!」

「よく分かっているじゃないですかクロノ」

 

 形式上の呼び方すら忘れて慌てるクロノにリンディはニコリと笑顔で答え、説明する。

 

「いいじゃないですか。教科書にすら載ることなかった事実を知ることができ、あまつさへそれを知るのはこの数少ない面々だけ。スリリングで魅力的ではありませんか」

「か、母さん……」

 

 クロノは呆然自失と言ったところだろう。まさか母親であり直々の上司から堂々とした規律違反の申し出に呆れを通り越して絶句している。

 だがすぐにリンディは舌をペロッと出す。

 

「と言うのは冗談で、ちゃんと私が信頼できる方に報告はするつもりです。無論、持ち主並びにその所在はトップシークレットと言う形にして」

「ハァ…………」

 

 クロノはガックリと項垂れながら席に座り直す。

 

「艦長さんよ」銀時が言う。「そう言う仕草はお歳を考え――」

 

 バビュンバビュン!! と銀時の頭髪を二発の閃光が掠める。そして笑顔を崩さないリンディに冷や汗流す銀髪天然パーマ。

 リンディの話を聞いていたなのは、アリサ、すずかは順々に言葉を発し始める。

 

「じゃ、じゃあ……もしかして……」

「フレイアと……」

「ホワイトは……」

 

 少女たちの疑問にリンディは笑顔で。

 

「もちろんあなた方のデバイスのままです」

「「「やったァーッ!!」」」

 

 親友三人は嬉しさのあまり手を合わせてキャッキャと喜ぶ。

 喜ぶなのはたちを見てからリンディはクロノに目を向ける。

 

「どうしましたか? クロノ執務官」

「いや、まぁ……。艦長と言うか母親におちゃくれた気がして、ドッと疲れたが出ただけです……」

「もうちょっと思考は柔軟に働かせるべきですよ。あんまり物事をストレートに考えすぎるのはあなたの悪い癖ですから」

「まぁ、もろもろの手続きはともかく彼女たちが公表したくない、手放したくないと言われたこちらも手の出しようがありません。なによりかなり珍しい例ですが、デバイスそのものが嫌々言ってますし……」

 

 クロノはチラリとアリサの周りを喜びを表すように元気に飛び回るフレイアを見る。そして再びリンディへと視線を戻す。

 

「とは言え管理局員として、なにより一人の魔導師としてあのような貴重なデバイスの存在を世間の公表しないのは心が痛みますが」

 

 残念そうに告げるクロノの言葉にリンディは頷く。

 

「確かにこのような歴史の一ページに書かれる重大な事実を公表しないと言う点。なによりも歴史的に貴重なデバイスを彼女たちに任せると言う点でも正しい判断ではないかもしれませんね」

 

 ですが、とリンディは言葉を続ける。

 

「あんなに純粋で優しい――未来ある少女たちに後々まで残るようなシコリを残す結果になると分かっていても、あなたは公表するべきだと考えますか? クロノ・ハラオウン」

 

 その言葉に俯くクロノ。

 役職名を除いてのフルネームで呼ぶと言う事は『クロノ・ハラオウン』個人としてどう思うか? と聞いているのだろう。

 

「ハァー……」クロノはひとしきり深いため息吐き、キッパリ告げる。「僕はただ〝一人の管理局員〟として彼女たちがデバイスをちゃんと管理できるようにサポートするだけです」

「ウフフフ……」

 

 リンディは息子の答えに口元から笑みを零し、レイジングハートへと視線を移す。

 

「レイジングハート。あなたは〝こうなること〟を見越してアトリスの名前を私たちに見せたのですか?」

 

 それは疑問ではなく、再確認と言うニュアンスが含まれているであろう言葉。

 レイジングハートは答える。

 

《えぇ。少々賭けに近いモノでしたがあなた方のお人柄を考慮した結果、フレイアとホワイトがアリサ様とすずか様の愛機のままでいられる最善の手だと計算した上での判断です》

「しかし、アトリスの名前を出せばあなたもなのはさんと離れ離れなる可能性もあったでしょうに。自分に損な賭けをしましたね」

 

 リンディの言葉を聞いてフレイアは意外そうに声を漏らす。

 

《レイジングハートさん……あなた……》

(マスター)はご友人が悲しめば自身も同様に悲しむ方。なら、私が取る行動は主のご友人を悲しませないよう、彼女たちの手にあなたたちを残すこと。そう、判断しただけです》

 

 まさかの犬猿の仲と思っていた姉妹機であるデバイスからのアシスト。ホワイトもまた嬉しそうな声で。

 

《レイジングハートさん。あなたも案外姉妹思いなデバイスですね》

《ホワイト、食玩のお菓子。もともとは同じ製作者によって生まれた姉妹機。(マスター)の為と言う建前はありますが、あなた方も大切な主と居られ続ける結果には私も満足しています》

《ってちょっとォォォォォォッ!?》

 

 そこで声を上げるのはフレイア。アリサの愛機は食って掛かる。

 

《なんかレイジングハートさん満足げに言ってましたけど、今おもっくそ私のこと『食玩のお菓子』ってナチュナルに呼んでましたよね!? おまけ!? おまけ扱いですか私は!》

《食玩のラムネは黙ってください》

 

 レイハさんからの冷たい一言にフレイアは涙声。

 

《それ絶対いらない奴! 食べないで捨てるお菓子の代表格!! 私の存在はその程度ってことですかァーッ!》

 

 この流れからのぞんざいな扱いにあふれんばかりに声を出すデバイス。

 するとリンディが笑みを零す。

 

「デバイスであるあなたに対してこういう発言は少しおかしいかもしれませんが、意外に食えない方なんですね」

《いえいえ。あなたほどでは》

 

 と言うレイジングハートにリンディも「あらあら」と笑顔で返す。

 

《無視!? 挙句の果ては無視!》とフレイアはギョッとする。《私のツッコミ一切無視しての腹に一物抱えてる者同士の会話に移行! 今回のレイハさんはいつにもまして酷い!!》

《姉に対してなんですかその愛称は。失礼ですよ、食玩の箱》とレイハさん。

《ついにはゴミにされたァーッ!!》

 

 さすがの言い草においおい泣くフレイアをアリサも珍しく慰める。

 そんな光景を見て新八はよっぽど、普段から怒らせてるんだろうなぁ……、つい思った。

 

「あのさ、すずかちゃん」

 

 突如、銀時がすずかに話しかける。すずかは親友たちと喜びを分かち合うのを中断して「なんですか?」と目を向け、銀時は一つの頼み事する。

 

「ちょっと悪いんだけど、ホワイトだっけか? 君のデバイス。ちょっと見せてくんない?」

「え、えぇ。いいですよ」

 

 少々戸惑いながらもすずかは素直にホワイトを銀時に手渡す。

 

「あんがと」銀時は雪の結晶を模ったデバイスをまじまじと眺める。「へぇ~、こんな土産のキーホルダーみてぇなのが歴史的価値のあるもんねぇ。信じられねぇな」

 

 銀時の様子を見て新八はどこか嫌な予感を覚える。あ、こいつなんかやらかすな、的な。

 

「あんがとよ。見せてくれて」

 

 そう言って銀時はホワイトの持っていた右手を懐に入れる。

 

「まてまてまてまて!!」新八がそこですかさず待ったを掛ける。「あんた何ナチュナルに人の物ネコババしようとしてんだ!!」

「えッ? 誰が?」

 

 どこどこ? と言った具合に銀時が辺りを見回す。

 

「いや、おめぇだよ!!」と新八は銀時を指さす。「この犯罪者予備軍!!」

「おいおい、人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」

「じゃあ、懐から手を見せろよ!! 寒くもねぇくせに頑なに右手を懐に突っ込んでじゃねぇか!!」

「ほい」

 

 銀時はグーになった右手を懐から出す。

 

「手を開け!! パーにしてみろ!!」

 

 新八は指を出してビシっと指摘。すると銀時は右手に握った物を左手に移した後、右手を開く。

 

「ほれ」

「なにが『ほれ』だ!! ふてぶてしいにもほどがあるわ!! この金の亡者が!!」

「誰が金の亡者だコノヤロー!!」と銀時は逆切れ気味に起こる。「俺は億万長者になってヤキニク寿司芸者すき焼きなんてこれっぽっちも思ってねぇんだよ!!」

「欲望駄々漏れじゃねぇか!! 体からにじみ出るくらい駄々もれてんぞおい!!  つうかどこのアメリカ人だおめェは!!」

 

 銀時と新八のやり取りをみていた沖田はジト目を向ける。

 

「すげぇ近くにいましたねェ。こわ~い犯罪者が」

「まったくアル!!」すると今度は神楽が声を上げる。「金金金!! 人として恥ずかしくないアルか銀ちゃんは!!」

《痛い!! 神楽さん力強すぎです!!》とフレイアは悲鳴上げる。

 

 神楽はいつの間にかフレイアを握っていた。しかも力強く。

 

「恥ずかしいのはあんただ!!」

 

 アリサが怒鳴り声上げる。

 

「分かったネ。じゃあ半分こにして、半億万長者で我慢するアル」

 

 そう言ってフレイアを半分に折ろうとする神楽。もちろんフレイアは悲鳴上げる。

 

《いだだだだだだだだだだだだ!! 折れる折れる折れるぅーッ!!》

「やめんかァァァァッ!!」

 

 アリサは神楽の脳天にトレイを叩きつける。

 

「わかった。わかりました。じゃあ、すずか。俺のこの洞爺湖と交換でどうだ?」

 

 銀時はすずかに柄だけとなった木刀を渡す。

 

「ただゴミ渡しただけじゃねェか!!」とツッコム新八。「釣り合うワケねェだろ!!」

「いりません」

 

 すずかは無論拒否してホワイトを奪い返す。

 

「いい加減にしないと、デバイスの代わりに手錠をプレゼントするぞ?」

 

 クロノが半眼で腕を組みながら告げる。

 

「今なら牢屋もセットでついてきますよ」

 

 とリンディはニコニコ顔。

 さすがに悪ノリが過ぎたと思ったのか、アルフの隣に座り直す銀時は口を尖らせる。

 

「ちょ~っとふざけただけじゃねぇか。真に受けんな」

「いや、あんた結構マジだったでしょ?」

 

 新八はジト目で銀時を見る。

 

「しっかし」土方が腕を組んで言う。「話を整理すると。フレイアとホワイトを俺たちの世界の死刑囚が持っていたのが、余計に奇妙だな」

 

 土方が言う死刑囚とは、目的は分からないがなのはたちを誘拐した夕観(ゆうかん)意嘆(いたん)である。

 

「そう言えば、フレイアたちには犯罪者の手に渡った経緯の記憶はないのですか?」

 

 リンディの問いにホワイトが答える。

 

《えぇ。私たちエンシェントデバイスは適合者が近くで感知できるまで、機能をスリープモードに移行しますので》

 

 続けてフレイアが説明する。

 

《なによりアトリス様の手を離れた後の記憶なんてほとんどないに等しいですね。ちなみにこれは嘘じゃないですからね?》

 

 

 一方、話を聞いていた沖田が目を細め、思案し始める。

 

 ――そう言えば、誘拐野郎がこのデバイス共を使おうとする素振りがあったな……。

 

 首が切られ、体だけが倉庫に残された夕観意嘆。だが煙幕と共に首のない体は消え、残ったは緑のドロドロした液体だけ。

 

 ――待てよ、そういやァあのくノ一と化けモンを取り逃がした時も化けモンが寝転がっていた場所に緑のドロドロがあったよな?

 

 後頭部を切り裂いて出て来た妙な化け物。穏健派攘夷志士を偽っていた過激派攘夷志士の後藤仁と言う男にそっくりな姿で突如現れた。

 夕観意嘆と後藤仁。その両者の体は共に『緑のドロッとした液体』へと変貌を遂げていた。

 実際に工程を見たワケではないが、もしかするとあの緑のドロドロが奴らの体の馴れの果てではないのだろうか?

 

 ――おいおい、まさか……。

 

 そこまで考えた沖田はまるで点と点が線で結ばれるような憶測を考え付く。

 

 ――俺があった誘拐野郎も後藤の姿した化け物も、もちろんあのくノ一もグルで、この世界で何かしようとしているってことか?

 

 そこまで考えたところで、沖田は口を開く。

 

「ちょっと話があるんですが、いいですかい?」

 

 沖田の言葉に全員の視線が彼に集まる。

 

 

「なるほど。確かに憶測としては筋が通っている」

 

 沖田がした説明を聞いてクロノは腕を組んで思案する。リンディも顎に指を当てて思案する。

 

「人の姿に化けられる知能を持った怪物か、もしくは見たままの通り、人の体を乗っ取る怪物なのか……」

「しっかし、改めて聞くとB級SF映画っぽい気味の悪い怪物ね。まるでエイリアンみたい」

 

 顔をしかめるアリサの言葉を聞いて新八が思いついたように人差しを指を立てる。

 

「あッ! もしかして僕たちの世界の『えいりあん』なのかも! だって、人に寄生するえいりあんと昔戦ったことあるじゃないですか!」

 

 銀時たち万事屋の面々は神楽の父である『えいりあんばすたー』の宇宙坊主が追っていたえりあんが人の寄生するタイプであり、そのえいりあんとターミナルで激戦を繰り広げたことがある。

 だが神楽が新八の意見を否定する。

 

「でも基本的にえいりあんは虫とか動物みたいなもんだから基本的に考える脳みそはないって言ってパピーが言ってたネ」

「そっか……」と新八は予想が外れて残念そうになる。「じゃあ、なのはちゃんたちの世界の生き物なのかな?」

 

 それを聞いてなのははすぐに否定する。

 

「そ、そんな怖い生き物私たちの世界にはいません!!」

 

 顔を青ざめさせるなのはを横目で見ている銀時が口を開く。

 

「じゃあ単純に魔法の世界の化けモンなんじゃねぇの?」

 

 クロノが首を横に振る。

 

「いや、管理局も人の体を乗っ取る上に人間並みの知恵を持った生物は確認はできていない」

「じゃあ、僕たちが出会ったあの怪物って一体全体なんなんでしょうね?」

 

 首を傾げる新八の問いに答えられる者はこの場にいない。

 

「正体はなんにせよ」とリンディが口を開く。「土方さんやなのはさんたちの事を姿を隠して観察している以上、魔法をまったく知らない人たちではないようですね」

「フレイアとホワイトをデバイスとして使おうとしていたってのも、魔法を知っている裏付けにもなりますね」

 

 エイミィが言葉を続け、クロノが険しい顔で言う。

 

「しかも、話を聞く限りでは法を順守する連中でもなさそうだな」

 

 エイミィがチラリと土方たちを見る。

 

「土方さんたちの世界の住人が、人の体を乗っ取る怪物を使ってなのはちゃんの世界で何かしようとしている、ってことですかね?」

 

 土方が腕を組みながらなのはをチラリと見る。

 

「もしくはなのはの世界の連中かもな」

 

 だがアリサが半眼ですぐに否定する。

 

「なのはも言ってたけど、私たちの世界にそんな化け物もいなければ、現役の忍者だっていないわよ」

 

 次に沖田がフレイアとホワイトを見る。

 

「だけど俺たちの世界にデバイスなんて物はねぇんだぜ。それなのに誘拐野郎が持っていたのはそのデバイス共だ」

 

 ホワイトはある仮説を立てる。

 

《数多の次元世界を流れ渡り、土方様たちの世界に行きつき、犯罪者の手に渡ってしまったと言うことではないでしょうか?》

「そんでそのままこっちの世界に悪事をしにやって来た、ってか?」土方が呆れた声を出す。「さすがに偶然やら運命やらで片づけるにしても無理があるだろ」

「結局、わっかんないことだらけアルな」

 

 神楽は背もたれに体を預けながら脱力し、クロノはため息を吐く。

 

「今分かっているのは、警戒するべき相手が姿を隠し暗躍している、と言うことか」

「見つけ次第、捕縛し事情聴取も視野に入れるべきですね」

 

 リンディの言葉を聞いた銀時は隣にいるオレンジ髪の狼女に顔を向ける。

 

「どうやら、俺らの知らねェところで随分とややこしい事態に発展してるみたいだな」

 

 だが、銀時の言葉にまるで反応しないアルフ。彼女は俯き、狼の耳も尻尾もピクリとも動かない。

 そんなアルフの皿の前にある骨付き肉に目を向けるが、齧った後は一切見受けられない。

 

「食う元気もなけりゃあ、喋る元気もねぇか」

 

 テーブルに肘を乗せた銀時は顎を掌に顎を乗せる。

 その時だった――。

 

 

『艦長!! 大変です!!』

 

 リンディの横に空中に浮かんだウィンドウが出現する。

 ウィンドウに映った局員から慌てた声を聞きリンディもアースラ艦長としての表情を作る。

 

「どうしました?」

『フェイト・テスタロッサからの映像通信が!!』

「「「「「「「「ッ!!」」」」」」」」

 

 その言葉にいち早く反応し狼の耳を立てたのはアルフ。続いてリンディだけでなくその場にいた全員の表情が変化する。

 沖田と土方は視線を鋭くさせる。ユーノとアリサとすずと新八と神楽と山崎は何を思ってか戸惑い半分、険しさ半分と言った顔。近藤は腕を組んで沈黙。まだフェイトと言う少女と接点すらない柳生の二人は静観している。

 特にいち早く通信の『フェイト』と言う言葉に反応したアルフは、

 

「フェイト……」

 

 主の名前を呟いて苦しそうな顔で瞳を潤ませ、銀時はそんな俯く彼女を横目で見ている。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのははまだ彼女のやったことが信じられない、そして彼女自身を心配しているといった表情を作っていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。