魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第四十三話:真実

『――プレシア・テスタロッサ。〝最初〟に俺たちに依頼した女だ。いや、元依頼主って言うべきだろうな』

 

 パラサイトが頭を鷲づかみながらプレシア・テスタロッサの生首を見せ付けることで、ブリッジ全体が凍りつく。

 なのはとすずかは口元を抑えて顔を青くし、ユーノとアリサと神楽と新八と真選組の四人も驚愕の表情を浮かべている。事件に詳しくない東城と九兵衛ですら表情は険しい。

 なにより一番衝撃を受けているのはアルフだろう。

 

「……じゃあ、俺が最初にあったプレシアは……」

 

 やがて口を開くのは銀時。驚きの顔を浮かべながらもゆっくりと話し出す。

 

「やっぱり最初からテメェらが化けた姿ってことか? なるほどな。そりゃそうだ。あの無駄に良い子ちゃんなフェイトの母親が、あそこまでヤベェ感じがするワケねェからな」

 

 今の言葉にフェイトは一瞬ピクリと反応したように見えたが、それは細やかな変化であった。なにより、ブリッジにいる他の面々の視線は銀時とトランスに向いており気づかない。

  

『う~ん……簡単に答えを言っちゃうのは面白くないし~……折角だから~……』

 

 とトランスは頬に人差し指を当てて少し悩んだ後、目を開いて口元を少し吊り上げる。

 

『今まで会ったプレシアは私か、それとも本物か。どっちだと思う?』

 

 暇潰しと言わんばかりに出した問題。対して銀時は少し視線を逸らした後、ニヤリと口元を吊り上げて「そんなの簡単だ」と言う。薄褐色の少女に真剣な表情でビシッと指を突き付ける。

 

「最初の冷徹ババアが偽モン。そして再会した変態ババアが本物であることにワンチャン掛けようじゃねェか」

『えッ? マジで?』

 

 トランスは意外と言わんばかりの声を出し、新八はジト目で汗を流しながらツッコミ入れる。

 

「あの……銀さん。あなたとあの子がなんの話してるか分かりませんけど、あんたプレシアさんにとんでもない風評被害与えようとしてません? つうかあんたプレシアさんを普段どんな風に見てるんですか?」

 

 話を遮るようにリンディが口を開く。

 

「銀時さんの言う本物か偽物かの問題は置いといて、別の質問をします。あなたたちがプレシア・テスタロッサを殺害したのですか?」

 

 リンディに続いてクロノも眼光を鋭くする。

 

「契約すら終えてないうちに依頼人を殺害して、よくもまぁぬけぬけと傭兵と名乗れるものだな」

『おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。なァ?』

 

 パラサイトの言葉にトランスは頷く。

 

『ええそうね。だって〝私たち〟が[[rb:殺 > や]]ったワケじゃないもの』

「お前達以外に該当する人物を僕は思いつかないのだが?」

 

 鋭い眼光のクロノの問いにパラサイトは自分の頭をつんつん指す。

 

『その足りないオツムでよ~く考えてみろ? この女を殺しそうな奴が一人いるだろ? そんで俺達の依頼主が変わった。もう答えは出ているんじゃねェか?』

 

 リンディはパッとアルフに目を向ける。

 リンディの視線に気づいた新八は、アルフを疑ったのだろうと察する。だが、その視線がアルフからすぐに逸れたところを考えて、リンディはありえないと判断したのだろう。

 確かにアルフがプレシアのことをよく思ってはいないのは銀時の話からしても間違いないだろうが、犯人でないことはその態度から見ても明らかなのだから。

 

 やがて、リンディの視線は画面の隅で視線を逸らす金髪の少女へと向く。彼女の推測を予想した新八は全身に鳥肌が立ち、嫌な脂汗が流れるのを感じ始める。

 アースラ艦長は少し息を吐き出し、汗を流しながら決意を固めたように口を開く。

 

「――フェイトさん……ですか?」

『う~ん……』

 

 パラサイトは顎に手を当ててワザとらしく思案顔を作り、やがてニヤリと笑みを浮かべる。

 

『正解』

 

 その言葉を聞いてアルフは全身の毛が逆立つかの如く目を見開きギリィと歯を軋ませた後、

 

「ふざけるなァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 溢れんばかりに叫び、そして血走った目をパラサイトへと向ける。

 

「口から出まかせ言うなァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 新八やなのはやアリサやすずかなどが威圧されるほど怒りが籠った叫び。

 肩を上下させるほど息を荒くさせるアルフ。手すりを掴み、呼吸が整わないままに捲くし立てるように怒鳴る。

 

「フェイトがそんなことするワケないだろッ!! プレシアは酷い母親だッ!! でもフェイトはそれでも母親の笑顔がみたいって理由だけで頑張ってきたんだよッ!! そんな子が母親を手にかけるはずないだろッ!!」

 

 アルフの怒鳴り声に威圧され、トランスの発言に反応できなかった新八。やがて、ハッと我に返ってからモニターに向かって声を上げる。

 

「そッ、そうだ!! 悪ふざけにしてもほどがある!!」

「適当な事言ってフェイトに罪を着せようたってそうは問屋がおろさないネ!!」

 

 続いて怒鳴ったのは神楽。

 

「もうちょっとまともな冗談言ったらどうなのよ!!」

 

 更にアリサも憤慨を如実に示す。

 そして心根が優しいなのはですら怒声こそ出さないものの、クリミナルの面々に少なからず鋭い視線を向けていた。明らかに怒りの感情が垣間見れるほどに。やはりクリミナルと言う連中の言い分は我慢ならないのだろう。

 

『あらら。俺の言葉は全否定か』

 

 パラサイトは各々の言葉を聞いてやれやれと首を横に振る。

 

「当たり前だッ!!」

 

 アルフは牙を見せ、凄まじい威圧感を放つ形相で睨む。

 アルフの怒りを代弁するように新八が感情のままに声を張り上げる。

 

「あんたらはフェイトちゃんを知らないからそんなことが言えるんだろ!! その子は平気で人を――ましてや母親を殺すような子じゃない!!」

『あん? おいおい、なんだそりゃ』

 

 パラサイトは訝し気に肩眉を上げた後、目を細める。

 

『ただ単に〝ジュエルシード取り合ってるだけの関係〟の奴らが随分知ったような口だなァ』

「ッ! そ、それは……!」

 

 感情のままに自身の意見をぶつけてしまった新八はハッとし、押し黙ってしまう。

 映画を見てフェイトの人となりを知っている、などと暴露するワケにもいかない。ましてこのアースラのブリッジで。

 

 痛いところを突かれ、言葉を出てこなくなってしまう新八。無論それは映画で彼女の事を知っている者たち全員に言えることだろう。

 〝本当の意味〟でフェイトを知っている者はジュエルシードを取り合っているメンバーにはいないのかもしれない、と新八は頭の隅で考えてしまっていた。

 フェイトとぶつかり合い、多少なりとも彼女のをことを知っているのだと言う考えも頭を過ったが、それでは反論には弱いとも考えてしまっている。

 

 だが、新八と違いフェイトと言う少女をちゃんと知ってる人物が今このブリッジには二人いる。

 そのうちの一人である使い魔は新八たちを一瞥した後、

 

「こいつらと違ってあたしはフェイトのことをガキの時から知ってる!! あんたらなんかよりも遥かにだ!!」

 

 睨みを利かせ、力強い言葉と共に吠える。するとパラサイトはうんうんと頷く。

 

『よくまぁ、〝今の状況〟でそこまで言えるもんだ。まぁ、それほど言うなら……』

 

 そこまで言ってから、パラサイトは露骨にフェイトに目を向けた。

 

『――お前の〝ご主人様〟に直接言ってもらいますか』

「ッ!!」

 

 対し、アルフは息が止まったような表情を浮かべている。

 アルフもきっと、今の〝異質な状況〟にすぐ気付いたのだろう。新八自身、そもそもずっと考えないようにしていた。そこに触れることを恐れていた。

 表情を変化させないままずっと黙って静観しつづけているフェイト、と言う状況に――。

 

『それじゃあ、我らが依頼人様に俺らの冤罪を晴らしてもらいましょうか』

 

 一歩パラサイトが後ろに下がると、変わるようにフェイトが前に出てくる。

 

『そんじゃ、よろしく』

 

 小さな少女の肩に手を置くパラサイト。俯く彼女は一瞬肩を震わせたが、顔を上げた時はまるで感情が感じられないような無機質な瞳と表情を見せる。

 

「フェイト……ちゃん……」

 

 なのはは声を震わせる。これから少女が言わんとしているしていることを予想してか、不安が見て取れる表情で瞳を振るわせていた。

 そしてまた、フェイトを『心優しい少女』として知っている者たち全員が、彼女の口から発せられる言葉に緊張と不安を覚えていることだろう。

 

『……私が』

 

 フェイトが口を開く。

 

『――母さんを〝殺した〟』

 

 言った――。

 あのフェイトの口から〝母を殺した〟と言う言葉が発せられたのだ。

 その情報がフェイトの使い魔の耳まで届けば、

 

「ぁぁ……」

 

 限界まで目を見開き、口から声が漏れ出す。

 

「あああああああああああああああああッ!!」

 

 顔を横にぶんぶん振って使い魔は叫ぶ。今の言葉を否定するように、変わってしまったと思った主を認めたくないように。

 そして画面に映ったフェイトにキッ! と鋭い視線を向ける。

 

「どうせそいつはフェイトの偽者なんだろ!! お前らの仲間の女みたいに他人に変身できる奴が化けてるだけなんだろッ!! フェイトを悪人しようとしてるだけなんだろッ!!」

 

 アルフの言葉にパラサイトは顎を指で摘まんでまたうんうん、と頷く。

 

『確かに使い魔さんの意見も一理ある』

『私が一度証拠みたいなモノ見せちゃったしねェ』

 

 トランスは苦笑しながら言う。

 だがもう、ブリッジにいる面々は薄々感づいているし、気づいているだろう。

 目の前の連中が、こう言いながらもこちらの希望も予想も裏切る物を見せてくると。そのワザとらしい言い回しからすぐに察することができるのだ。

 その時、クロノがハッと顔を上げて、状況と裏腹に冷静な声音でアルフに話しかける。

 

「アルフ。そもそも君は使い魔だ。ならあのフェイト・テスタロッサが本物であるかどうかなんてすぐに――」

『分かるワケないだろ』

 

 言葉を遮ったのはパラサイト。アルフを見下ろす目で、ハッキリと告げる。

 

『だってそこの狼――ご主人様との〝リンク〟が今はないはずだからな』

「ッ!?」

 

 パラサイトの言葉を聞いて驚くクロノ。彼はすぐさまアルフに顔を向ければ、彼女は涙を流しながら歯噛みして拳を強く握り込んでいる。その痛ましい姿が既に、答えを物語っているようなものだった。

 パラサイトの言葉を聞いた銀時は険しい表情でクロノに顔を向ける。

 

「おい。その『リンク』ってのがねェと何かあるのか?」

『――消えるんだよ』

 

 クロノの代わりに答えた言わんばかりに、パラサイトが告げる。その表情はニヤリと笑みを浮かべ、残酷な事実を突きつけた。

 

『リンクが切れたっつうことは魔力は供給されない。つまり魔力で存在を保ってる使い魔の消滅を意味するってことだ』

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 まさかの情報に、なのは、アリサ、すずか、神楽、新八、山崎、近藤は心底ショックを受けて目と口を見開く。土方と沖田ですら、少なからず動揺を見せていた。

 そして柳生家の二人も驚きこそしているが、持っている情報と交流を少なすぎて、どう反応すればいいか分からない様子。ただ成り行きを静観していているようだ。

 使い魔の存在に詳しいリンディとクロノとユーノは視線を既にアルフからモニターへと向けている。

 パラサイトはジロリとアルフに目を向ける。

 

『しっかし、そこの狼の強情だよなぁ。俺らもいつリンクが切れたのかまで知らねェが、自分が一番分かっているだろうに』

 

 そこまで言ってパラサイトはニヤリと厭味ったらしく口元を吊り上げる。

 

『――主に切り捨てられって事実をよォ』

 

 アルフはよりギリィと歯を強く軋ませ、拳を血が出るくらいに握りしめている。

 魔法にあまり詳しくなかった新八を含めたなのは組の面々は、パラサイトの言葉で更に気づいただろう。

 (フェイト)が、使い魔(アルフ)の存在を維持する為の魔力を供給するという行為を自ら止めていると言う事実に――。

 

「……一つ聞きかせろ」

 

 誰もが衝撃的な情報に口を閉ざしている時、ブリッジ内で声を発したのは銀時。声のトーンが低くなっているであろう彼は、質問を投げかけた。

 

「さっきよ、アルフが聞いてたがそこにいんのは本当に『フェイト本人』なのか」

『あんた……何が聞きたいんだ?』

 

 パラサイトは目を細め、銀時は再度聞く。

 

「そいつがフェイトかって俺は聞いてんだよ。こっちもなァ、フェイトご本人に言いてェことがあるが、そいつが本物って分からねェと話しが始まんねェんだよ」

『おいおい……疑り深いねェ』

 

 鼻で笑い肩をすくめるパラサイトに対して、銀時は軽口を返す。

 

「ハガレンにでてきそうな奴お披露目しといて偽モン疑わねェ道理はねェだろ」

『まァ……そりゃそうだ』

 

 パラサイトは流し目でジロリと睨むのは、フェイトの隣に立つ白髪の少女。対して、トランスは掌を合わせて舌を出す。

 パラサイトは軽く舌打ちしたの後、フェイトの頭を上からポンポンと叩く。

 

『だがそう指摘されると俺らは、コイツが本物であるかどうかなんて証明しようがねェからな。もうご本人様に証明してもらう他ないだろう、な』

 

 『な』と強めに語尾を強調してから、前かがみになったパラサイト。人外はフェイトと同じ目線となり、少女の顔を近づけ耳打ちをしだす。

 やがてフェイトは一度目を瞑って深く息を吸って吐いた後、暗いながらも決意に満ちたの表情を作り上げる。

 

「ッ!? ……フェ……イト……?」

 

 すると、アルフはハッと驚いた表情を浮かべていた。

 戸惑いとも困惑とも取れる表情で瞳を揺らしながら画面に映る主である少女を見つめるアルフ。

 その変化に、なのは組もアースラ組も気づかない中、使い魔の呟きを聞き洩らさなかったであろう銀時。その顔はアルフへと向ていた。

 

 フェイトは深く息を吸って吐いた後、

 

『……銀時、アルフ…………』

 

 名を呼ばれた銀時はすぐにアルフの顔を見るのを止めて、フェイトの顔が映る画面へと向き直る。

 少しの間。新八は一体どんな言葉で本人として証明するのか? という緊張で深く唾をのみ込む。

 やがて――。

 

『銀時が私に食べさせたパフェには普通は食べない食材が乗っていた。それは?』

「ドックフード」

 

 ビシッと人差し指を突き付け、ちょっと決め顔で答える銀時。そしてフェイトは暗い表情で。

 

『ファイナルアンサー?』

「ファイナルアンサー」

『正解』

「くっそ! 本物じゃねェか!」

 

 銀時は悔しそうに腕を振るのだった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 そしてアースラのオペレーター室の空気は変な感じとなり、シーンと静まり返る。

 

「……いや――」

 

 開口一番に口を開いたのはもちろんツッコミ眼鏡。

 

「なんで真面目な雰囲気でクイズゥゥ!? ノリおかしくない!? さっきまでシリアスは!? つうかあんたフェイトちゃんになんてもん食わせんだおい!!」

「え゛ッ? お前らドッグフードデザートにしてんの?」

 

 パラサイトは少し驚いた表情を見せる。

 

「ちょっとォォォ!? (あっち)も素で引いてんじゃん!!」

 

 新八のツッコミを聞いたパラサイトはすぐに画面へと顔を戻し、わざとらしく咳払い。

 

「ん、んん! まァ……これで本物だと証明できただろう」

「ゥゥッ…………!!」

 

 するとアルフは俯いて歯を食いしばり、血がでんほどの勢いで強く拳を握りしめる。

 使い魔の必死な態度だけで、偽物ではないと答えは出たようなモノだろう。

 

 新八は内心、このままシリアス戻るんだ……、と呟く。

 後ろの方で様子を見ていた沖田はポツリと呟く。

 

「マジで犬の餌、年端もいかないガキに食わしたんだな」

「なんと可哀そうに……」

 

 近藤はほろりと涙を流し、そんな二人の言葉を隣で聞いていた土方は言う。

 

「犬の餌の部分に同情してんじゃねェよ。あいつが本物のフェイトだって事に悲壮感覚えろよ。いや、さっきの流れから悲壮感が大分薄れてるけども」

 

 フェイトは暗い表情のまま、口を開く。

 

『もしこの話で不十分なら。アルフと私だけが知っている話がある。……アルフと私が初めて任務に言った時、怪我をした時の話を――』

「いやだ……!!」

 

 そこでアルフはたまらず声を出し、フェイトの言葉をバッサリと切る。

 

「もう……いいから……!!」

 

 どう否定しても画面向こう側の人物がフェイト本人であると言う事実に対してか、頭と狼の耳を抑えつける。

 フェイトはそんなアルフの姿を見ても、

 

『ダメ。……ちゃんと聞いて』

 

 冷たい口調で言い放つ。

 パラサイトはフェイトの肩をぽんぽんと叩きながらニヤリと口元を吊り上げる。

 

『ホント、往生際の悪い使い魔さんだよなァ』

 

 アルフは涙を堪えながら頭と狼の耳を抑え続ける。

 

『これ以上聞くのは嫌か? なら話は打ち切ってそろそろおいとまでしましょうかねェ?』

『待って。話はまだ終わってない』

 

 フェイトは頑なに過去の思い出話を続けようとする。

 アルフは頭をぶんぶんと振るが、フェイトは構わず使い魔を見つめながら口を開く。

 

『……ねェ、アルフ。覚えてる? 私とあなたが始めて母さんに頼まれたお使いに行った時のこと』

「……ッ!!」

 

 アルフは唇を噛み必死に頭の耳を抑えだす。

 アルフの小さな抵抗もむなしく、フェイトはぽつりぽつりと語る。

 

『私も……アルフも……魔法を使っての初めて実戦だったから……目的の物を手に入れるのは大変だったよね……』

「もう……いいんだって……!!」

 

 アルフは唇を震わせ、歯を強くかみ締めて声を上げる。

 もしこのまま主の言葉を聞き続ければ、アルフは認めなければいけなくなるのだろう。

 フェイトが自分を捨てたこと、母親を殺したこと――非常とも思える現実全てを……。

 

『それで私が……ちょっと小さな傷を負っちゃったこと……覚えてる?』

「やめてくれ……!」

 

 アルフは涙を流し、前髪を掻きあがるように両手で頭を抑える。

  

『その時私が怪我をしちゃったよね……』

 

 そうしてフェイトが背を向け、上着の裾に手を掛ける。

 

『これがその時――』

 

 そのまま上着を脱ぎ去ろうとする動作を、トランスがフェイトの右腕をガシっと掴んで止める。

 腕を掴む相手に顔を向けるフェイト。そしてトランスはニッコリ笑みを浮かべて。

 

『そこまでしなくていいから。そもそも見せても使い魔ちゃんくらいしか分かんないし、思い出話で充分だから』

『う、うん……』

 

 不可解と言わんばかりの声でフェイトは頷く。対して、パラサイトが腕を組んで真顔でボソリと『別に大した事ないと思うけどな。上半身裸くらい』と呟いている。

 クリミナルたちの反応に新八たちは若干不可解そうな表情でお互いの顔を見合ったり片眉を上げたりしている間に、話はすぐさま進む。

 フェイトはまた体を半回転させて正面へと向き直る。

 

『……今の話は〝アルフ以外〟誰も知らないこと。フェイト・テスタロッサである、証明』

 

 フェイトの言葉を聞いたアルフは嗚咽を漏らし、頭と髪を掴む指に力が入っている。

 もう使い魔の態度だけで答えは出たようなモノだろう。

 アルフの悲痛な姿を見ていた銀時が映像に鋭い視線を向ける。

 

「……よ~く分かった。そこにいんのは確かにフェイトなんだろうな」

『だから最初からそう言ってんだろ』

 

 呆れたようにパラサイトはため息吐き、銀時は鋭い視線をフェイトへと向ける。

 

「……フェイト。テメェは〝本当〟にアルフを捨てたのか?」

「…………」

 

 だがフェイトは銀時の問いに答えない。更に銀髪の侍は問いかける。

 

「このままコイツにテメェの魔力ってのが補充されなきゃアルフは消えちまうんだぞ? それはつまりコイツが死ぬってことだ。おめェは本当にそれで構わねェのか?」

「私は――」 

 

 フェイトが答えようとした時、パラサイトが『はッ? おまえ何言ってんの?』と言いながら眉間に皺を寄せ、喋り出す。

 

『使い魔ってのは魔導師が必要な時だけ呼び出す、言わば一時的なお手伝い。つまり役に立つ道具だ。持ち主が道具をどうしようがなんら問題――』

「ちょっと黙ってくんない、お前」

 

 銀時の声は静かだった。だが、パラサイトは思わず後ろに体を逸らしだす。

 

 それは、銀時の眼光がまるで――鬼や龍を連想させるほどに凄まじかったからだ。

 

 ブリッジにいるオペレーターたちはもまた銀時の威圧感を感じ取ってか、汗を流している者もちらほらいる。

 もちろんそれは江戸組には伝わっている。銀時がかなり圧を放っているのが……。

 

「俺はおめェに聞いてねェって。フェイトに聞いてんの」

 

 声は尚も静か。口調もそれほど荒くない。だが銀時の雰囲気から威圧感を感じてか、なのは、すずか、アリサ、クロノ、リンディは無意識に汗を流している。

 フェイトは銀時の視線を見てか、たじろき一瞬瞳を揺らすが、すぐに冷たい眼差しに戻す。

 

『…………もう、今の私にアルフは必要ない』

「ッ!?」

 

 フェイトの『必要ない』という言葉が発せられた瞬間、アルフは肘から崩れ落ち顔を両手で覆いながら涙を流している。そして見えない彼女の顔からは嗚咽声が漏れている。

 

 なのはは「アルフさんッ!?」と声を上げてアルフに駆け寄り、彼女に続くようにアリサとすずかも狼の使い魔の元に心配そうに駆け寄っている。

 新八はフェイトの発言を聞いて殴られたような衝撃を受けながら信じられないとばかりに少女を見るが、アルフの主は冷たい瞳を向けるだけ。

 

「もしアルフが心配なら銀時が主にでもなんでもなればいい。首輪か何かでも付けて」

 

 フェイトの言葉でついにアルフは床に額を擦り付けて嗚咽を漏らしながらただただ涙を流す。

 もうこの中の誰よりも痛感している。主の口から告げられた『必要ない』と言う言葉――それはアルフにとってフェイトに捨てられたというなによりの事実になってしまったのだろう……。

 アルフのあんまりにも痛ましい姿を見たなのはは、いたたまれないようで涙目になりながらフェイトに訴える。

 

「フェイトちゃん! どうして……なんで……こんな……!!」

 

 上手く言葉にできないのか、なのはは思った言葉をただ口に出すしかないようだ。

 

「………………」

 

 だがフェイトはなのはには目もくれず、ただ黙って銀時を見ている。

 銀時は涙を溢して崩れ落ちるアルフに視線を向けていたが、フェイトの視線を感じ取ってかまた映像に視線を戻す。

 銀時は少し不思議そうに眉間に皺を寄せている。それはフェイトの視線の先が顔よりもっと下に向いているからだ。

 銀時はハッと顔を上げ、思わず右ポケットに手を入れて何かを確かめ始める。

 その一連の流れに気付かなかった新八は、

 

「ちょっと待てッ!!」

 

 怒声を上げて人差し指を突き付ける。

 

「もしかしてあんたらがフェイトちゃんを脅してこんなことを――!!」

『俺らにこいつを脅せるモンがあると?』

 

 相手の切り返しに新八が言葉を詰まらせれば、パラサイトは画面に映ったプレシアの生首を掴んで説明する。

 

『母親はこの通り死んで、使い魔と銀髪も管理局の庇護下。身内以外でこいつにここまで言うこと聞かせられるモンがあると? まぁ、使い魔に至っては切り捨てられたの確定したしな』

 

 フェイトを脅せるモノなど彼らには一つもない。今の新八たちが持っている判断材料だけでは、そのような推論しか立てられないのだから。

 

『ましてや殺すとか言って脅すなんて手がこんな上位の魔導師に通じないことは――』

 

 パラサイトはニヤリと笑みを浮かべてクロノとリンディを見る。

 

『おたくら管理局が一番分かってるよな?』

 

 眉間の皺を深くさせるクロノ。どうやら魔導師である彼らが一番わかっているようだ。

 

「魔導師風情とかのたまわっておきながら、随分気弱な発言だな」

 

 と銀時の言葉を受けて、トランスは視線を細める。

 

『あら? 私たちは上位の魔導師まで軽視するような発言をした覚えはないわよ?』

「けっ、口が回る奴だ」

 

 トランスの減らず口を聞いて銀時がより眉間に皺を寄せれば、すぐさまトランスは手をぱんぱんと叩く。

 

『はい、これにて論破完了。フェイトちゃんがお母さんを殺し、私たちの依頼主となったことが証明――』

「待ちなさい!」

 

 そこですかさずリンディが声を上げてからすぐに声を低くして。

 

「本当にその首は……〝プレシア・テスタロッサのご本人〟なのですか?」

 

 リンディの問いに新八はハッとした顔でキッと画面を睨み付ける。

 

「そ、そうだ! 結局お前たちはプレシアさんの死を偽装して、自分たちの本当の目的を隠しているだけじゃないのか!! フェイトちゃんを自分たちの仲間で、なにより犯罪者であると印象付けたいだけじゃないのか!!」

 

 新八の推測を聞いて一瞬だがフェイトの瞳が揺れたかのように見えたが、声を上げるのに必死な彼が気付くことはない。

 新八の言葉を聞いてか意気消沈していたアルフは若干だが狼の耳を立て始めている。

 新八の声に続くようにアリサが声を上げる。

 

「そ、そうよ! その頭はあんたらが作った偽物なんじゃないの!!」

 

 パラサイトは舌打ちしながら投げやりに「あァ、メンドクせェな」と呟いてから手に持っていた首を顔の前に持ってきて見つめてから、スッと口を開く。

 

『そんじゃあ、〝ここに来た局員〟の一人に渡しておくからおたくらの船で確かめれば』

「ッ!!」

 

 パラサイトの言葉を聞いたリンディが目を見開き汗を流せば、画面の向こうに映る管理局の敵は一度画面の外に出る。

 やがてすぐに戻って来れば、パラサイトはある一人の男の襟首を掴んで見せるつける。そこに映ったのはバリアジャケットと杖を持った男。服や体に外傷はないが、気絶していた。

 

「あれはもしかして管理局員の方ですか!?」

 

 新八が驚きの顔をリンディに向ければ、アースラ艦長は静かに「えェ……」と言って頷き、クロノは悔しそうな顔で拳をギュッと握る。

 映像を見て状況を察した土方が口を開く。

 

「どうやら、俺たちが知らない間に連中の場所を割り当てて実働部隊を送り付けていたようだな」

「しかし、(やっこ)さんのお仲間があっさり返り討ちにしたみたいですねェ」

 

 少し辛口な沖田の言葉を聞いてクロノはギリッと歯を強く噛み締め、パラサイトは冷めた眼差しで告げる。

 

『迅速な対応には恐れ入ったが、まァ~こいつらじゃあ役不足だったな』

 

 その言葉を聞いてクロノはすぐさま踵を返す。

 

「艦長。奴らの場所はもうわかっています。すぐに僕が――」

『来たら局員皆殺しだが、良いのか?』

「くッ!」

 

 クロノは振り向いて射殺さんばかりの視線を通信画面へと向けるが、パラサイトはどこ吹く風のまま言葉を続ける。

 

『とりあえず、話が終わるまで待てって。終れば局員どころかフェイトの犯罪の証拠も渡してやるから』

 

 嫌味ったらしく口元を吊り上げながら局員と生首を見せつけ、新八はより表情を険しくさせる。

 

「さっきの僕の話を聞いていなかったのか!」

『だから本物だって言ってんじゃん。ちゃんと渡してやるからよ。もちろん近くで見たら生首なのはすぐに分かるぜ』

 

 ワザとらしく嫌味たらしく喋れるパラサイトを見てリンディも表情を険しくさせるが、息を深く吐いて冷静な表情へと戻る。

 

「……なら、フェイトさんの動機を教えてくれませんか?」

『動機ィ?』

 

 パラサイトは首を傾げ、リンディは鋭い視線を向けながら続ける。

 

「フェイトさんのような幼い少女があなた方のような犯罪集団と手を組み、母を殺すその動機です」

 

 するとパラサイトはまた舌打ちして頭をぼりぼり掻きながら「しつけェなッ!」と愚痴を零してからすぐさま冷静な声で、

 

『……たく、逆転裁判にやってんじゃねェんだぞこっちは。んまァ、ちゃーんとご証明できるものは用意してあるけどな』

 

 すると忍者がまた何かしら持ってやって来る。

 両手に抱えたそれは一人の少女。フェイトやなのはより同じくらいの身長で、金髪を揺らしながらお姫様だっこされて運ばれる幼い少女。力がまったく入っていない腕をだらんと垂らしている。

 

「あ、あれは!!」

 

 忍者が持ってきたモノを見て新八は驚愕の表情を浮かべる。いや、それはアースラブリッジにいる者達全員だった。

 顔を上げた銀時は驚愕の表情で口を開く。

 

「フェイ、ト……?」

『ま、半分正解かな』

 

 トランスは口元に指を当て言う。

 パラサイトは女忍者が持ったフェイトにそっくりの少女に目を向ける。

 

『こいつはアリシア・テスタロッサ』

 

 そこまで言ったパラサイトはプレシアの生首を見せつけるように持ち上げた。

 

『そしてプレシア・テスタロッサの実の娘』

「フェイトさんの……姉妹ですか?」

 

 少々困惑しているリンディの問いにちっちとパラサイトは指を振る。

 

『いいんや。フェイトはプレシアの娘でもなければ、コイツの姉でも妹でもない』

 

 それを聞いてアリシアと言う少女とフェイトの関係性を知らないリンディとクロノとエイミィは困惑の表情を浮かべる。

 

『だってフェイトちゃんは――アリシア・テスタロッサちゃんのクローンなんだから』

「クローンだと!?」

 

 クロノは驚愕の表情を作る。執務官の反応を見てパラサイトはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

『その様子を見ると、管理局の〝優秀〟な局員さんたちはま~だ調査が全然できてないらしィな』

 

 そりゃそうだ。だって銀時とアルフからプレシア・テスタロッサの話を聞いてまだ一日すら経っていないのだから。

 

(こ、こんなことになるなんて……)

 

 まさかの展開に新八は汗を大量に流す。

 原作崩壊だとか未来の改変なんてレベルじゃない。

 連中――クリミナルの存在もそうだが、プレシアの死、アリシアの存在の露呈、次々と予想外の出来事が起こっている。もうリリカルなのはの予備知識なんてまったく意味をなさないくらいに。

 これはこの世界に来た自分たちのせいなのか? と新八は内心罪の意識にも似た感情すら覚えて始めてすらいた。

 

『そんじゃ、私たちが知ってること教えてあげる?』

 

 トランスがパラサイトに顔を向け、

 

『おッ、いいなそれ。捜査協力してあげますか』

 

 パラサイトはワザとらしく返す。

 

『私たちが知っているフェイトちゃん誕生の秘密と――』

『プレシア・テスタロッサの秘密をな』

 

 パラサイトがニヤリと笑みを浮かべ、やがてゆっくりと首を傾ける。

 

『おたくら、〝プロジェクトF.A.T.E〟ってご存知?』

「プロジェクトF.A.T.E?」

 

 クロノは聞き覚えのない単語に怪訝な表情を作る。するとトランスが答える。

 

『プレシア・テスタロッサが研究していた使い魔を超えた人造生命体を作る技術』

『素体の細胞を使って寸分違わぬ体を作り、記憶転写させたクローンによる死者を蘇生させる研究』

 

 次にパラサイトが説明を続ける。

 

『そしてその研究の成果がこのフェイトちゃんと言うワケ』

 

 トランスはそう言ってぽんぽんとフェイトの両肩を叩く。

 

「なッ…………!?」

 

 二人の言葉を聴いたクロノは顔を上げ驚愕の表情でフェイトを見る。

 

「そんなバカな話――」

 

 クロノがすぐさまクリミナルたちの言葉を否定しようとするが、パラサイトは淡々と告げる。

 

『じゃあ調べてみろ。証明する資料くらいは見つかるだろうしな』

 

 嘘は言ってない、と言わんばかりの眼光に押し黙ってしまうクロノ。

 銀時は「おいおい……」と言って冷や汗を流す。

 

「似たような話どっかで聞いたぞ。笑えねェ冗談だ」

 

 銀時が言っているのはスナックお登勢で働くからくり家政婦の『たま』のことだろう。

 

 たま――正式名称は芙蓉伊-零號試作型。

 林流山が、病弱で孤独だった娘・芙蓉のために造ったからくり家政婦のたま。彼女は死んでしまった芙蓉の記憶と人格のデータをインプットし、林流山が娘の新たな器としようとした。

 とどのつまり、死んだ娘を蘇らせようとしたのだ。

 その時、林流山の人格データを移したからくりによる事件が起こり、銀時たちもそれに関わっている。

 

 銀時の脳内にはたまに初めて出会った時や事件の思い出がフラッシュバックのように思い起こされていることだろう。

 再びパラサイトは話し出す。

 

『ちょ~っとした事故で死んだ娘を蘇らせる為にプレシアは娘の遺伝子からあらたな生命を生み出した』

『まァ、出来ちゃったのは娘でもなんでもないただ別人なんだけどね』

 

 トランスは興味なさげに告げ、パラサイトはプレシアの生首を宙に何度も投げながら弄ぶ。

 

『そんでプレシアはフェイトにその事実を隠したまま娘――アリシア・テスタロッサを蘇らせる別の方法を探す為の手伝いをさせていた』

『だけど最近知っちゃったのよね、フェイトちゃん。自分の出生の秘密に』

 

 ベラベラとフェイトとプレシアの秘密を暴露する二人の言葉を聞いて、映画を見ていた者たちは驚愕の表情でお互いの顔を見合わせる。

 なにせフェイトが自分の出生の秘密を、管理局が時の庭園に突入する展開の前に知ってしまうなど、思いもしなかったからだ。

 

 パラサイトは喉の奥からからからと笑い声を漏らす。

 

『そんで、自分の出生の秘密を知り、母が自分を娘としてではなくただの人形として扱っていた事実を知ってしまったフェイトちゃんは完全に絶望』

 

 トランスは眉をひそめる。

 

『嘘や虐待までして自分に言うこと聞かせてた母親でもなんでもない女をどう思うかなんて、もう言わなくても分かるわよね?』

 

 薄褐色の少女は首どころか体まで横に傾けて、長い白髪の髪を垂らしながらニヤリと笑みを浮かべた。

 横に立つパラサイトは手刀にした右手の指先を左の掌に当てる。

 

『そのままザクッ! 怒りに燃えた悲劇の少女はクソババアを自身のデバイスで刺し殺した』

『フェイトちゃん大勝利。めでたしめでたし』

 

 トランスは頬の横で両手を合わせ満面の笑みを作る。

 額を床に付けるアルフの拳は血がでるのではないかと思うくらい強く握られていることに新八は気付いた。どうやら画面の向こうでワザとらしい説明を聞くうちに怒りの感情が抑えきれなくっているだろう。

 

「だが、君たちの証言ではなんの証拠にも――」

 

 なおも反論しだすクロノに対し、

 

『本人がこうやって自白してるのに証拠もクソもないだろ』

 

 目を細めるてニヤリと笑みを浮かべるパラサイトの言葉。対して、ついに言葉が出なくなるクロノ。

 脅されているかどうかは決める材料がない以上、現時点ではフェイト自身が母を殺しているという発言に対して反論の余地がないのかもしれない。

 

『まァ、俺たちが言いたいことは以上だ。後は依頼主殿に任せるとしよう』

 

 パラサイトの言葉を皮切りに画面外から出て行くように歩き出すクリミナルのメンバー。

 

「待てッ!!」

 

 無論連中にまだまだ聞きたいことがあるクロノは引き留めようとするが、その言葉を聞くはずもない。

 そして残ったのはフェイト・テスタロッサただ一人。

 

「なァ、フェイト」

 

 まだ尚、銀時は冷静な口調で腕を組みながらフェイトへと問いかける。まるでなにも話せなくなったアルフの代わりのように。

 

「本当か? テメェが母親()ったってのは?」

 

 一応、話は耳に入っているのかアルフの拳はわなわなと震えている。そんな彼女の姿をなのはは悲し気な表情で見つめることしかできないようだ。

 

『嘘じゃない』

 

 優しかった少女の口から、

 

『私をどう思ってるか母さんに聞いたら……〝嫌い〟って言われた……。〝大嫌い〟って……』

 

 現実は残酷だと言わんばかりに、

 

『事実を知って……絶望し……私が母さんを殺した……』

 

 到底信じられないような言葉を口から吐き出し続ける。

 フェイトの冷たい言葉がブリッジに響く度に我慢できないとばかりに、アルフは右の拳をガンガンガン!! と床に叩きつけ始める。血が滲むのも構わず。

 そんな痛ましいアルフの姿を見て、誰一人として止めようとできるものがいない。いの一番に自傷行為を止めそうななのはたち小学生は使い魔の剣幕に尻込みしてしまっているようだ。

 下手に声すら掛けられないほどまでにアルフの感情の荒れは顕著となってしまている。

 

「フェイトさん……」

 

 そこで口を開いたのはリンディ。

 

「聞きたいのですが、母を殺し、その上でこれからいったい何をしようとしているんですか? 何故母の代わりに彼らのような者達と手を組むなどを」

『……〝アルハザード〟』

 

 あっさり告げられた答えに「えッ?」とリンディは声を漏らす。

 フェイトは淡々と言葉を続ける。

 

『母さんがジュエルシードで行こうとしてた場所。そこは過去を変えられ、失ったモノを取り戻せる』

 

 フェイトの言葉を聞いたリンディは険しい表情を作る。

 

「そこであなたは何を取り戻すと?」

『失った全てを』

 

 フェイトの言葉にクロノが眼光を鋭くさせながら口早に食って掛かる。

 

「そんなおとぎ話を信じようと言うのか? そんなあるかどうかも分からないモノの為にまだ君はまだ罪を重ねようと言うのか?」

『もう私には……〝何もない〟』

 

 フェイトの言葉にアルフの瞳が限界まで見開かれる。

 

『〝大切なモノ〟はもう……何も……』

 

 その言葉が発せられた瞬間、

 

「ぁぁ……」

 

 アルフの口から声が漏れ、

 

「――ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 空気を震わせ、喉が張り裂けんばかりに絶叫へと変化し、より強く床を拳で殴る。そんな使い魔の姿を銀時はただ黙って見ていた。

 そしてそのままフェイトは画面の外へと向かってしまう。

 

「フェイトちゃん!!」

 

 なのはは反射的に声を上げるが、その声がフェイトに届くことはない。フェイトが画面からいなくなれば、誰も映らなくなった映像が続き、木や草、その先にある道路の景色が映るのみである。

 フェイトの言葉を聞き終え、なのはと一緒にジュエルシード集めをしながら彼女をなんとか助けようとしていた模索していた面々たちはただ顔を逸らしたり、目を閉じて黙るほかなかった。

 クロノは表情を強張らせながらキーボードを操作するエイミィに近づき、声を掛ける。

 

「エイミィ。奴らがいる現地の様子は分からないか?」

「ダメ。通信や結界のお陰で座標まで分かってるけど、ジャマーのせいで場所の様子を確認できない」

「くッ……! これじゃ、奴らを捕まえることも送り出した局員たちを助けることもままらないな」

 

 人命を優先しているだけに後手にならざるおえない状況にクロノ、さらにリンディは険しい表情で解決案を模索している。

 なにも映らない映像が数分ほど続く。その間、パラサイトの声であろう音声がごく僅かに聞こえてきた。

 何も行動に移せないという状況が続く中、やがて一人の人物――トランスが顔が映り込む。

 

「……あッ、通信を切るのを忘れてたわね」

「ちょっと待ってください!」

 

 とリンディ。

 

「はいはい。無謀にも突っ込んで来た局員さんたちが気になるんでしょ?」

 

 興味なさげにトランスは喋りながら、視線をチラチラと横へと向けている。

 

「通信が切れたらそ~ね~……数十秒くらい待ってからならいつでも来ていいわよ?」

 

 トランスが言い終わると同時に画面は暗転し、通信映像は途絶える。

 そして緊迫した数十秒が経過した共に、クロノはオペレーターへと勢いよく声を掛ける。

 

「エイミィ! 現場の様子は!」

「結界やジャマーはなし! 気絶している局員十数名が放置されている!」

「わかった! 僕は武装隊を連れて直接現地に赴く! すぐにゲートを!」

 

 クロノの言葉を聞いてリンディは表情を引き締めながら告げる。

 

「クロノ執務官。分かっていると思いますが、現場にはどんな(トラップ)が用意されているか分かりません。焦らず慎重な判断を」

「はい!」

 

 クロノが強く返事すると同時に、ブリッジにあった転移用のゲートとなっている箇所が光り輝く。

 その時、ゲートに向かってすぐさまアルフは立ち上げり駆け出そうとする――。

 

「アルフさん!」

 

 気付き声を上げるなのはの言葉が過ぎるうちには、もう数瞬で涙を流すアルフが光輝くゲートに向かって突っ込もうとする場面だった。

 だが、すぐさま水色のリングがアルフの胴と両足を拘束する。バランスを崩し、勢いを殺せないアルフはそのまま滑るように床を転んでしまう。そして倒れた場所はささやかゲートの数歩手前。

 

「「「「「アルフ(さん)!!」」」」」

 

 勢いをよく倒れたアルフを見てなのは、すずか、アリサ、新八、神楽は反射的に声を上げる。

 使い魔がゲートを使って現場へ向かうであろうことをあらかじめよとしくしていたクロノはアルフへと杖を向け、近づく。そして鋭い眼差しのまま大きめの声で。

 

「君の気持ちも分からなくはないが、こちらとしては君の勝手な行動で現場を乱してほしくはない」

 

 クロノがアルフに向かって今の言葉を告げたのは、局員以外のブリッジにいる者たちにも聞かせる為だろう。

 執務官の言葉の意味を察したなのは、すずか、アリサ、新八はアルフの元へ心配そうに駆け寄りながらもフェイトのところへ向かおうとなどと言う行動には出ない。

 ただ神楽だけは感情のままにクロノへと絡む。

 

「おまえアルフになにするアルか! この黒チビ!」

「誰が黒チビだ!」

 

 怒鳴り返すクロノとは対照的にリンディは冷静な声で告げる。

 

「神楽さん、それに皆さん。あなたちは納得できないかもしれませんが、事件の早期解決の為にも魔法関連に詳しい私たちに任せて、無暗な行動はなるべく避けるようお願いします」

 

 リンディの言葉を聞いてもまだ不満げな神楽だったが新八の「神楽ちゃん、今は下手に動いちゃダメだよ」と言ってたしなめられ、渋々了承している様子。

 

「くぅ……!」

 

 アルフはただただ動けないことに苛立ち、涙を流し、歯噛みしているように見えた。そんな痛々しいアルフの姿を見てなのは、アリサ、すずかはかける言葉すら見つからないようで、ただ悲し気な表情を作るばかり。

 

 そもそも管理局の転送ゲートなど使わずに自分の転移魔法で移動すれば良いようにも思うが、魔力の総量がかなり限られている現状ではその方法も取れないのだろう。だからさきほどのような強引な手段を取る他なかったに違いない。そもそも転移魔法を使う前にクロノに止められていただろうが。

 

 すると一部始終を眺めていた銀時が、

 

「いや~、すんませんねウチのアルフが。ご迷惑かけて」

 

 右手を立てながら、ごめんごめんというポーズを取る銀時。そうやって動けないアルフの元へと歩みより、しゃがんで使い魔の体を持ち上げれば、まるで米俵のように右肩へと乗せる。

 銀時の言い草を聞いた新八は、

 

「ちょっと銀さん!! いくらあんたが人の気持ちガン無視する人間でも言い方ってもんがあんでしょう!! 迷惑だとか、アルフさんの気持ちもちょっとは考えてください!!」

 

 言葉に怒気を含ませて文句言うが、銀時は素知らぬ顔で訝し気に視線を送るクロノへと顔を向ける。

 

「そんじゃ、こいつの面倒は俺に任せておたくらはおたくらの仕事しな」

「……すまない」

 

 銀時に言動に若干の違和感をクロノは感じてか微妙な表情を浮かべているが、素直に頭を下げる。そしてそのままエイミィへと顔を向ける。

 

「エイミィ、残りの武装部隊の転送の準備は?」

「もうできてる。すぐにでも現場に迎えるから」

「よし、僕もすぐに現場に――」

 

 と言ってクロノがゲートへと顔を向けると光輝くゲートに前にはアルフを抱えた銀時が。

 

「…………」

 

 目の前の光景に一瞬の間茫然としているクロノへと銀時は左手を上げて軽く振る。

 

「――じゃ」

 

 そのまま銀時はアルフを担いだまま転送ゲートの中へと入るのだった。

 




*1年半近く投稿が停止してしまい、お待たせてして申し訳ございません。
活動報告やお知らせなどでも知らせ通り、リアル事情があまり良くなく創作活動にあまり着手できませんでした。
作り上げたストーリー全体を見直して大丈夫かどうかを何回も判断すると言う作業を繰り返していました。
兎にも角にもなんとか最新話を投稿出来たのは声を掛けてくれた読者の方々のお陰です。ありがとうございます。
『リリカルなのは×銀魂』に拘らず、なるべく創作にちょっとでも触れていければ良いなぁと思いながら今後も活動を続けていくつもりです。
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