魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第七話:勢いでなんとかしようとすると取り返しのつかないことがおこる

「よしお前ら、とっととこん中入りな」

 

 いきなり理不尽なセリフを吐くのは、松平のとっつぁん。

 無論それに納得しないのは、

 

「いや、なんで!?」

 

 真選組局長の近藤勲。

 

 幕府お抱えの研究所内。そこの研究員たちが作った『瞬間移動装置』。その構造はいろいろな太い配線を複雑に繋げた巨大な円盤型の機械を基盤とし、その上に円柱型のガラスの箱を乗せた物となっている。どうやら、この円柱型のガラス箱に人や物を入れて瞬間移動させるのだろう。

 

 現在進行形で瞬間移動の実験体にされそうになっている土方、近藤、沖田は拳銃を構える松平に「入れ」と、ほぼ恐喝に似た形で強要されている。松平の後ろで事の成り行きをただ黙って見ている研究員たちは、引き攣った笑みを浮かべたまま。そしてそんな横暴なやり方に異を唱えるは、真選組でも比較的まともな思考の持ち主である土方だ。

 

「なんで俺たちが、実験のモルモットにされなきゃならねェんだよ!」

 

 松平は「あのな~」とヤーさんばりばりの威圧感を出しながら説明する。

 

「この瞬間移動装置が完成した暁には、尻尾巻いて逃げる犯罪者(ネズミ)どもをパパッと捕まえられる。んで、その最後の試験運用の実験に参加しろって言ってんのが、なんで分かんねェんだコラァ!」

「だからなんでその役目が俺たちなんだァッ!! そんなもん研究員の連中の役目だろうが!」

 

 真選組副長は、拳銃を構えサングラスを掛けたほぼヤクザと言っても過言ではないおっさんの言い分に反論。土方の言葉に対し、松平は呆れるように首を左右に振る。

 

「あのなァ、お前らのように腕っ節だけのおつむ空っぽの脳筋連中よりも、研究者(こいつら)のような頭皺だらけのがり勉連中の方が人材としては重要だってのが、多くの幹部連中の考え方なのよ」

「なにィ!?」

「とっつぁん。死刑囚を使うって手はなんですかいィ?」

 

 結構人徳に反していそうな沖田の発言に対して、松平は平然と返す。

 

「それだといろいろ、世論やらマスコミやら無駄に正義感ぶった群集の連中がうるさいから、あんま使いたくねーの」

「むしろ自分の部下実験材料にしてる方がいろいろ言われるだろ!!」

 

 ツッコム土方の意見など松平はまったく聞き入れない。

 

「まー、ゴキブリ並の生命力の持ち主であるお前たちのが適当であり、絶対生きて帰ってくるかもしれないって、おじさん信じてるから」

「そんな理由で納得できるかァ! つうか〝かもしれない〟ってなんだ!? 死ぬかもしれないってことか!?」

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

 すると突如として、沖田は握りこぶしを口元に当て、苦しそうにする。

 

「……とっつぁん。土方さんはゴキブリ並かもしれませんが……俺は不治の病抱えているんで、瞬間移動はちょっと……。ゲホッ……」

「なにワザとらしい咳して逃げようとしてんだてめーは!」

 

 と土方は怒鳴りつつツッコム。

 

「いつ不治の病になった!? 都合の悪い時に史実設定持ってくんじゃねェ!!」

「沖田、テメェ……」

 

 松平は沖田の仮病姿を見て目を細め、親指で後ろを指す。

 

「分かった、沖田。お前は止めろ」

「ワーイ」

「なんでだァァァァッ!?」

 

 納得いかない土方はシャウト。

 すぐにころっと元気になった沖田は、瞬間移動装置から離れて松平の隣に立つ。すると近藤も握りこぶしを口元に当て、咳をし始める。

 

「ゴホッ、ゴホッ……。とっつぁん……俺も――」

 

 バァン! と、松平は近藤の顔に向かって発砲。だが、弾丸は近藤の横を通り過ぎ、その先の壁に風穴を空けていた。

 近藤はゆっくりとした動作で顔を動かし、穴の空いた壁を見た後、再び松平に向き直る。そして、松平のとっつぁんは声にドスを利かせて、一言。

 

「おめェは行け」

「なんでェェェェッ!?」

 

 近藤はありえないとばかりに叫び、問い詰める。

 

「ちょッ、なんで!? なんで総悟はよくて俺はダメなの!?」

「バカは風ひかねーだろ」

 

 と松平はバッサリ切り捨てる。

 

「お前のようなS級のバカじゃ、予防接種しなくてもコレラにもインフルエンザにもかかんねーよ」

「えええええッ!? そんな殺生な!!」

「まーかかったとしても、お前ならかかったことに気付かねーかもな」

「いや、とっつぁん……。俺、インフルエンザにはかかったことあんだけど……」

「おい、装置起動させとけ。あいつらとっと送るぞ」

 

 松平は近藤の言葉を無視して研究員たちに命令。

 沖田は土方に向かって片手をぶらぶら振る。

 

「じゃあ、頑張ってくだせェ」

「総悟ォ!」

 

 土方は他人事のように振舞う沖田を睨み付ける。すると、近藤がある事に気付く。

 

「つうかとっつぁん。俺らどこに飛ばされるか聞いてないんだけど?」

「あん?」

 

 片眉を上げる松平は顎に手を当てる。

 

「……あ~、そうだな。とりあえず、居場所の分かってる過激派攘夷志士のアジトに送ってやるから、送ったついでにそいつら一網打尽にしてこい」

「いや、そんなことしたら俺らが一網打尽にされるからね!」

 

 ツッコム近藤。さすがに敵のど真ん中にたった二人だけで送り飛ばされたら、命がいくつあっても足りない。

 松平は腕を組んで告げる。

 

「じゃあ、譲歩してお前に合うようなマウンテンゴリラの檻にしてやるから、嫁さんでも探してこい」

「どんな譲歩!? つうか普通に人間、っていうか俺はお妙さんがイイ!」

「とにかくとっとと行って、とっとと帰ってこい!」

 

 と松平は近藤を蹴飛ばして装置の中に無理やり入れる。

 松平は研究所の者たちに顔を向ける。

 

「おーし、じゃーとっととこのゴリラ飛ばせ」

「ちょちょッ! ちょっと待て!」

 

 必死に声をかける近藤を無視して、研究員たちは警察のボスの命令を忠実に実行する。若干、近藤に憐みの視線を送りながら。

 装置の上部に付いた、転送するモノを入れるためのポット。中に出入りするためのドアが横にスライドして、密閉される。

 

「つうかトシは!? なんで俺一人だけ転送されることになってんの!?」

 

 分厚い強化ガラスに張り付いた近藤の言葉は、もう外の人間たちには聞こえない。が、彼の言う通り、なぜか近藤ひとりが転送される状況になってしまっていたのだ。

 いつの間にか装置から離れた土方も「まァ、頑張ってくれ」と声をかけるだけである。

 近藤は強化ガラスにへばりついて必死に止めるように懇願するが、彼の声はもう一切届かず、装置の起動準備は着々と進行していく。

 いよいよ転送準備が整い、近藤が転送されそうになった。その時、

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!」

 

 奥から眼鏡を掛けた青年――志村新八が声を上げ、必死に松平たちのとこまで走って来る。そして後ろから彼を追ってやって来る人物は山崎。

 

「あん? おめーは、確か万事屋んとこの眼鏡じゃねェか」

 

 松平はゼェ、ゼェと息を切らしながらやって来る新八を怪訝そうに見る。

 ここまでずっと走ってきたのか、松平のところまでやって来た新八は膝に手を付いたまま話す。

 

「ちょ、まッ……! ゼェ、ゼェ! ……そ、その……ヒュー、ヒュー! ぼ、ぼく……だち……ゴホ、ゴホッ!」

「とりあえず少し休め。なに言ってんだか分かんねーから」

 

 松平に言われたとおり、汗をダラダラ流しながらじっくりと息を整えていく新八。そんな彼の姿を、松平を含めた研究員たちや真選組の面々が見つめる。

 やっと喋れるまでに息が整ったのか、新八は息をすぅーと吸ってから吐き、深呼吸。やっと新八がまともに喋れるであろうと判断した松平は、改めて訊き直す。

 

「っで? 用件は?」

「僕たちに、その瞬間移動装置を貸してください!!」

 

 声を上げる新八の言葉を聞いて、松平は「あん?」眉間に皺を寄せる。

 

「なんのつもりだ、お前?」

 

 土方は怪訝そうに眉間に皺寄せて新八を見つめ、松平はジロリと鋭い眼光を新八から別の人物へと向ける。

 

「それよりも、この機械(カラクリ)のことについては、極秘のはずなんだがなァ……」

 

 新八の後ろで、いたたまれないようにおどおどしている山崎は、松平の視線に気付いて肩をビクッと震わせ、視線を泳がす。

 松平の言いたいことを理解した土方は額に青筋を立て、山崎に向かってダッシュする。

 

「山崎ィィィィ!! てめェはなに極秘情報簡単に漏らしてんだァーッ! 始末書で済むと思ってんのかァー!?」

「い、いや~その~……断れるに断れなかったというか、新八くんたちも困ってたみたいだし……警察らしく人助けみたいな? アハハハハ」

 

 土方に胸倉を捕まれてガン飛ばされている山崎は、視線を左右に泳がしながらぎこちない笑いで誤魔化そうとしている。だが、そんなものは鬼の副長に通じるはずもなく。

 

「笑って――」

 

 土方は思いっきり頭を仰け反らせ、

 

「済むと思ってんのかァァァァァッ!!」

 

 そのままハンマーを振り下ろすように頭を振って、ズゴォンッ!! と思いっきり山崎の額に頭突きを叩き付けた。

 

「ぎょえええええええええええええッ!?」

 

 山崎は凄まじい衝撃と痛みが脳に直撃し、悲鳴を上げ、額を抑えながら蹲る。

 土方は「反省しろ!」と怒鳴ってから、タバコに火をつける。

 

「とにかく緊急事態なんです! その装置を僕たちに使わせてください!!」

 

 土方が山崎に制裁している間に、新八は松平に交渉していた。銀時が瞬間移動装置の事故でどこかに飛ばされて困っている、という説明を織り交ぜて。

 だが、事情を聞いた松平は少し困ったように渋い顔をする。

 

「ま~、おじさんとしても、お妙ちゃんの弟くんの頼みは聞いてあげたいんだけどね~。さすがに幕府の持ち物を一般市民に使わせたら、いくらおじさんでもいろいろ文句言われちゃうわけで~……」

 

 スナックスマイルの常連どころか上客と言っていい松平は、キャバ嬢に甘い。それこそキャバ嬢のためには、大金をドブに捨てるかの如く豪勢な使い方をするほどの依存度。そして、お気に入りの店で働くお妙と弟である新八にもそれなりのはからいをするみたいだが、さすがにこのような貴重な装置を使わせるワケにはいかないようだ。

 

「そ、そこをなんとかお願いします!」

 

 新八は何度も必死に頼み込むが、やはり松平はなかなか首を縦に振らない。

 

「とっつぁん!! 俺からも頼む!!」

 

 すると横から、いつの間にか装置から出ていた近藤が、必死な形相で新八の援護に回る。凄まじい気迫を発する近藤を見て、松平は意外そうな表情。

 

「どうした近藤。お前がそんなに頼み込むとはァ」

「俺ただ、困っている一般市民であり、わが義弟である新八くんのために、何かしてあげたいだけだ!」

「誰が義弟だ!」

 

 新八はいつの間に自分を義弟認定している近藤にツッコム。

 近藤の言葉を聞いて腕を組む松平。いくら真選組局長の必死な頼み込みでも、彼の心を揺らすだけで、まだOKを出すには至らないようだ。

 

「いいんじゃないでしょうか?」

 

 続いて、彼らの会話に白衣を着た青年が割り込む。新八と近藤は不思議そうに割って入った青年を見る。

 近藤は松平に顔を向けて質問する。

 

「とっつぁん、彼は?」

「ん? あー、こいつァ――」

瞬間移動装置(コレ)の発案者である、安斉腎(あんざいじん)です。一応、研究主任もやらせてもらっています」

 

 人当たりが良い笑みを浮かべながら、ペコリと礼儀正しく一礼する。近藤と新八の二人も「どうも」と頭を下げる。

 挨拶が終わると、腎は松平に話しかける。

 

「彼らにこの装置を使わせても、私は構いませんよ」

「いいのか?」

 

 と、松平が片眉を上げながら訊くと、腎は人当たりの良い笑みを浮かべたまま説明する。

 

「まあ、私もこれを開発する目的が『犯罪者確保』というよりは『人々の役に立つ物』としてですし。一般市民救出という名目で使うなら、いくらか上層部の方々からの風当たりも強くはならないと思います。真選組の方々を救出隊として送るという理由なら、面目も保てるでしょう」

「なるほどな~……」

 

 松平は感心したように顎を右手で撫でる。すると、腎が新八に視線を向けた。

 

「ただ、新八(かれ)は連れていけませんね」

「そ、そんな!? どうして!?」

 

 新八は意味が分からないといった顔で悲痛な声を上げ、腎は笑顔のまま説明する。

 

「さすがに私たちは役職上、あなたを危険な場所に送るなんてことできませんよ。あなたの言った、坂田銀時さんを危険から救い出すために、武装警察である真選組(かれら)を送り出すならともかく、あなたを危険に放り込んでは本末転倒ですから」

「うッ……」

 

 新八は相手のもっともな意見になにも返せなくなったようだ。確かに、自分はただの一般市民。市民救助という名を打つなら、自分を連れて行くなど言語道断だ、と理解したのだろう。だが、理解しても納得ができないようで、悔しそうに俯いている。

 すると近藤が、新八の肩に手を置く。

 

「任せておけ新八くん。万事屋の野朗は、俺が必ず見つけ出してやる!!」

「近藤さん……」

 

 サムズアップする近藤に、新八は嬉しそうな顔を向ける。だが次の瞬間、近藤は怒りの表情で拳を握り締め、吠える。

 

「待っていろ万事屋ァァァァァッ!! 今すぐに()ってやるからなー!!」

 

 近藤の大声が研究所内に響く。

 

 近藤の勢いある態度に、彼の目的をなんとなく察したであろう新八は、呆れた表情で頬を引き攣らせる。それは土方も同じで、近藤が銀時を助けるとは真逆のことを考えていると予想してか、ため息を吐く。

 まぁ土方を含め真選組の面々は知らないのだが、今朝の新聞で言っていたストーカーの正体が、猫であろうとは思いもしないだろう。

 

 誤解を解こうとしてか、新八が近藤に声をかけようとする。

 

「……あ、あの。近藤さ――」

「新八ィィィィッ!!」

 

 新八の声を遮って、遠くから少女の声が響く。

 声に反応して、研究所の入り口に全員の視線が向けば、ドスン! ドスン! と思い足音を響かせながら、プロレスラーのようなマスクを付けた巨大な犬と、これまた同じようなマスクを付けた犬に乗った少女が、猛スピードでやって来る。

 ヒグマ並にデカイ大型犬が、突然現れて突進してきたので、研究所にいた人間たちは驚いて逃げ出してしまう。怪物か何か襲ってきたのだと勘違いしたようだ。

 すると、研究所内でけたたましい警報機が鳴り出し、赤い光が点滅しだす。

 

「……どうやら、彼らが装置を使う状況が、できてしまったようですね」

 

 腎はやれやれといった具合に方をすくめる。

 

 『瞬間移動装置』が置かれた実験場とは別の部屋や廊下にいた研究員たちは、警報装置によるけたたましい警笛を聞いて、すぐさま研究所内から脱出。変わりに、いくつもパトカーやら装甲車がやって来る。

 とにもかくにもこれで、誰かが研究所の装置を使ったとしても、誰にも止められずに使うことが可能な状況へとあいなった。

 

 猛スピードでやって来た犬は、新八の前で地面を滑るように急停止。そしてその勢いに乗じて、乗っていた少女が飛んでスタっと着地する。

 

「ぱっつぁん! 第一計画完了アル!」

「つうかその声チャイナ娘だろ!」

 

 チャイナ服を着てレスラーの覆面を被った少女を近藤は指差す。いくらバカな彼でも、丸わかりな口調と声と恰好ですぐに正体に気付いたようだ。

 

「あ~、なるほど」

 

 沖田は何かを察したように声を漏し、巨大犬を指差す。

 

「つまり、そこの化け物並に馬鹿でかいワンころ使って研究所の連中ビビらせて追い出した後、勝手に装置使う算段ってところだな?」

「おい、眼鏡」

 

 と土方が睨むと、新八は「うッ……」と気まずそうに顔を逸らす。どうやら彼は、神楽が来るまでの時間稼ぎだったらしい。

 

「あー、だからさっき、新八くんケータイで電話してたんだ」

 

 山崎は納得したように拳でポンと手のひらを叩く。どうらや、新八はケータイでこの研究所の場所を神楽に伝えていたようだ。

 

「意外と抜け目ない野朗だな……」

 

 呆れる土方。

 新八は言葉での交渉がダメだと分かっていたようで、最初からこんな強引な手段を計画していたのだろう。

 万事屋で一番の良心とは言っても、やはり新八も万事屋の一人ということか。彼もなんだかんだで、いつも強引でハチャメチャな銀時(おとこ)の影響を受けている一人なのだ。

 

「なに言ってるアルか!」

 

 と神楽がムスっと頬を含ませて腕を組む。

 

「もともとココを無人にして装置勝手に使おうって考えたのは私ネ。そこんとこを履き違えないで欲しいヨ」

 

 新八がすかさず神楽に抗議する。

 

「って、神楽ちゃん! 神楽ちゃんは『覆面被って研究員たちを人質にとった後、装置を使おう』ってほとんどテロリスト紛いな作戦だったでしょ! いくらなんでも内容がアレだから、僕が『化け物が襲ってきたと勘違いさせて、研究員追い出して装置勝手に使おう』って作戦に変更したんだよ!」

 

 話を聞いていた土方と沖田は、呆れたような目線を新八と神楽に向ける。

 

「どっちにしろロクな案じゃねーな」

「つーか、俺たちいるのによくそんな作戦思いつきましたねェ」

 

 警察組織である土方たちがその気になれば、新八たちを捕まえることは難しくない。その点を考慮すればかなりお粗末な作戦だ。

 新八は、真選組の面々に顔を向けて捲し立てる。

 

「近藤さんたちは『覆面を被った人間と合体した犬型エイリアンが研究所に攻めてきた』と言って誤魔化してください! 僕たちは外の警察の部隊が攻め込まない内に、この瞬間移動装置を使って銀さんを助けに行きます!!」

「これは私たちの問題アルからな。お前たちに迷惑かけられないアル」

 

 と腕を組んでキッパリ告げる神楽。土方はすかさずツッコミ入れる。

 

「いや、現在進行形で迷惑かけられてんだけど? ほぼ押しかけ強盗みてーなことしといて、図々しいにもほどがあんだろ」

 

 まぁそうは言うが、なんだかんで土方たちは本当に困った時は手助けしてくれるから、新八も神楽もこのように頼んでいるのだろう。腐れ縁もバカにはできなものだ。

 すると、近藤が前に出る。

 

「いや、新八くん! 俺も万事屋のとこに行くぞ! 俺もヤツを抹殺……じゃなくて助けに行くつもりだ!!」

「今抹殺って言いましたよね!? 銀さん助ける気欠片もありませんよね!? っていうか近藤さん! 今朝言ってた新聞のストーカーは銀さんじゃ――!」

 

 新八が喋っている途中で、神楽が彼の袖をぐいっと引っ張り、近藤たちに聞こえないように耳打ちする。一方の近藤は「ん? 何か言ったか新八くん?」と首を傾げていた。

 

「(新八、今は話べきじゃないネ)」

 

 神楽のまさかの提案に新八は「ちょッ!?」と驚き、小声で返す。

 

「(か、神楽ちゃん! このまま誤解を解かなかったら、近藤さん銀さんをどうするか分からないんだよ!)」

「(だからネ)」

「(えッ!?)」

「(あのゴリラは嫉妬心に駆られ、銀ちゃんをなんとしても見つけ出そうとするアル。そこ利用して銀ちゃんを見つけさせるネ。人数が多い方が、銀ちゃんを早く見つけだせるしナ)」

「(いや、そうかもしれないけど……)」

 

 下手したら、銀時を死体にしてきそうな今の近藤を使っても大丈夫なのかと、新八は心配になっているようだ。

 新八と神楽がコソコソ話しているので、周りの者たちは二人を怪訝そうな顔で見る。

 やっと内緒話が終わったのか、神楽はクルっと振り向く。

 

「っさ、とっと銀ちゃんのとこまで行くアル」

 

 そして神楽は「おいお前」と言って、腎に傘の切っ先を突き付ける。

 

「なんでしょうか?」

 

 神楽に脅迫されている腎は、あまり怖がっている様子を見せず、小首を傾げる。神楽は一枚のディスクを出す。

 

「このディスクには、銀ちゃんの送られた座標のデータがあるらしいネ。これ使って、私たちを銀ちゃんのとこに送るヨロシ」

「……仕方ないですね」

 

 神楽に脅迫されている腎。声では渋々という感じだが、さほど抵抗感を感じさせない様子。ディスクを受け取ると操作盤まで行き、カタカタと瞬間移動装置の操作を始める。

 さきほどは、一般市民を危険な場所に行かせられないとは言っていたが、本心ではなく立場状からの発言だったようだ。素直に言うことを聞いているのが、その表れだろう。

 

 しばらくして、装置が音を立てて起動し始める。

 近藤は気合を入れつつ声を荒げる

 

「よっしゃァーッ!! 待っていろ万事屋ッ!! 今すぐに殺すッ!!」

「おィィィィッ!? もう本心隠す気ないよこの人!!」

 

 新八はツッコミながら、近藤の後に続いて装置の中に入って行く。それを見ていた土方は「しゃあねェ……」と言って、後ろにいる部下二人に顔を向ける。

 

「おい、山崎、総悟。俺たちも行くぞ」

「ええええッ!?」

「え~~、めんどくさ」

 

 山崎は予想外とばかりに驚き、沖田に至ってはあからさまに嫌がる。

 

「近藤さんをこのまま行かせられねーだろ。俺たちがしっかり見張っとかねェと」

 

 対し、土方もあまりのり気ではないが、仕方ないといった顔。

 

「へいへ~い」

 

 沖田はテキトーな返事をし、

 

「なんでこんな事に……」

 

 山崎はうな垂れながらトボトボ歩く。

 そのまま二人は土方の後に続いて装置の中に入って行く。

 すると、

 

「待てッ! 僕たちも銀時のとこに行く! 僕は奴をこの手で斬りに行かなければならない!!」

「若行くところにこの私ありです!」

 

 どこからともなくいきなり現れた、九兵衛と東城まで強引に装置の中に入ってくる。もちろん新八はビックリ。

 

「ちょッ!? 九兵衛さんと東城さん!? 一体いつの間にココに来たんですか!?」

「私が説明します」

 

 と、東城が装置に入りながら事のあらましを話し出す。

 

「真選組の屯所から帰った若は、改めてお妙殿のとこに行くと、新八殿たちが血相を変えてどこかに向かって行き、お妙殿に話を訊くと『新八殿たちが銀時殿の所に向かったらしい』と聞いたので、若は憎き恋敵を成敗せんがため、ここまでやって来た次第です」

「九兵衛さん! 姉上の話聞いてないんですか!?」

 

 新八の問いに、九兵衛は不思議そうに首を傾げる。

 

「話? なんの事だ? 妙ちゃんから君たちの話を聞いてすぐに後を追いかけたから、他に何か聞いてはいないぞ」

「あァ! めんどくさい時に余計にメンドーなヤツが……!!」

 

 土方はどんどん状況が酷くなっていくことに対して、頭痛を覚えて右手で頭を抑える。

 すると今度は、神楽が九兵衛たちの勢いに便乗し、

 

「定春。私たちも行くアル」

「ワン!」

 

 鳴く定春とともに装置の中に入ってくる。

 そして定春は頭からではなく、なぜかバックで装置の中に入っていく。

 

「なんで後ろ向いて入ってくんの!?」

 

 装置に尻を向けながら入って来る定春の進行方向に立っていた近藤。毛で覆われた白い尻が彼に迫り、近藤は装置の端に追いやられ、どんどん後ろに後ずさる他なくなる。

 後退する近藤の疑問に、神楽が答える。

 

「定春は体が大きいから、出る時に前向きにならないと出るのが大変アル。なら、最初から前向いた状態で出れるようにした方がイイネ。バック駐車と同じ原理アル。メンドーなことは先にやるって奴ネ」

「いや、別の場所に転送されるんだから出口もヘッタクレもないんだけど!?」

 

 ついには装置の端に追い込まれた近藤は悲痛な声でツッコム。

 

「つうか一気に狭くなりやがった!」

 

 土方の言うとおり、それなりのスペースがあった装置の中も、一気に狭くなる。既に七人も人間が入っている上に、ヒグマ並の大型犬がプラスされれば仕方ない。

 そしてなんだかんだ言っている内に、ついに近藤の顔に、毛で覆われた定春の尻が押しつけられる。

 

「ギャァァァァァッ!! せまい! 苦しい! 暑苦しい!! そしてなんか臭い!!」

 

 近藤はガラスの壁と定春の尻に挟まれ、悲鳴を上げる。しかもちょうど顔を押し潰されているので、余計に苦しいはずだ。

 

「おい、明らかに定員オーバーじゃねーのかコレ!!」

 

 土方はこのぎゅうぎゅう詰めでちゃんと転送されるのか心配になる。

 

「おい、チャイナ! この犬どけろ! せめェだろうが!」

「ああん? オメェが出ればいいだろうが!」

 

 とメンチ切り合う沖田と神楽。

 

「神楽ちゃん! 定春出して! 苦しいィ!」

 

 定春の体に押し潰される新八も近藤と同じように悲鳴を上げる。

 

「ウゥ……」

 

 すると定春が顔を力ませ、声を唸らせる。

 

「えッ……?」

 

 飼い主の一人である新八はすぐに定春の様子を見てなんのサインであるか分かったようだ。

 

「ちょッ!? ま、まさか……! か、神楽ちゃん! ちょッ、コレ!」

 

 新八の顔はどんどん青くなり、神楽は定春に顔を向ける。

 

「あ、定春。〝ウンコ〟アルか? ダメアルヨ定春、こんなとこでしちゃ。メッ!」

「「「「「…………えッ? 」」」」」

 

 軽い感じで定春を優しく叱る神楽の言葉を聞いて、装置内にいた新八以外の全員(沖田を除く)の思考が一瞬停止。だがやがて、

 

「「「「「ええええええええええええええええええッ!?」」」」」

 

 悲鳴にも似た叫び声を沖田を除いた全員が上げる。

 いの一番に悲鳴を含ませた声を上げるのは、定春の尻に押し潰されている近藤。

 

「ちょっとォォォォォッ!? 俺一番危険な位置(ポジション)にいるんだけどォ! えッ!? なに!? 俺の顔に定春くんのウンコがァァァァッ!?」

 

 近藤は、自分の顔に出来立てウンコが直接ぶっかけられるなんて、考えただけでも想像絶する事態に悲鳴を上げる。彼はなんとか出ようともがくが、一切動くことができそうになかった。

 慌てる土方はあることに気付く。

 

「おいィ!? もう扉閉まってんぞ! 早くコイツ出さないと、近藤さんが大変な事に!!」

 

 慌てて山崎が強化ガラスを叩いて、腎に扉を開けるように伝えようとする。

 

「安斉さん!! この扉開けてください!!」

 

 だが山崎の声が聞こえないのか、外にいる腎はニコニコと手を振るだけだ。

 

「あの人こっちの状況が全然分かってないィィィ!!」

 

 山崎は悲鳴のように声を上げる。

 

『ザザ……あー、皆さん。聞こえますか?』

 

 すると突如として、装置の中からスピーカーを通したような声が響く。

 

『安斉です。ちょっとお伝えしたいことがありまして』

「あ、安斉さん!?」

 

 と新八は驚き、土方はツッコミ入れる。

 

「なんだよ! ちゃんと外と連絡が取れるんじゃねーか!!」

 

 スピーカー越しに腎が説明を始めた。

 

『もうすぐ転送が始まります。ただ、どうにも重量オーバーのようで、目的地にちゃんと到着できるか保障ができません』

「だったらとっと扉開けて装置を止めろォーッ!! それに他にも開けて欲しい理由があってだな――!!」

 

 土方が定春のことを説明する前に、腎が少し言い難そうに喋る。

 

『あー……それなんですが……もう転送を中断することができないようです』

「ああッ!?」

 

 土方はまさかの発言にキレ気味に驚きの声。それは他の面々も同じようで、どういうことだ? と言いたげな顔。沖田と神楽だけは、またメンチ切りあっているが。

 

「ど、どういうこと!?」

 

 近藤は顔を押し潰され、涙目になりながら説明を求める。そして腎が説明を開始する。

 

『どうやら、外にいた警察の部隊がもうすぐこの研究室に到着するようです。さきほど松平様が確認されました。今中断すると、転送すらできなくなりますし、仕方ありませんからこのまま転送を続行させてもらいます』

「「「えええええええええええええええええええッ!?」」」

 

 近藤、新八、山崎は揃って悲鳴に似た声を上げてしまう。

 このまま扉が開かないということは、定春の尻の穴から排泄物が出るのを待つのと同義。

 

「そ、そんなァァァァッ!!」

 

 と山崎は嘆き、近藤は必死に懇願。

 

「さ、定春くぅぅぅぅぅん!! このまま転送が終わるまで我慢してェェェェッ!!」

 

 定春も人の言葉が分かるほどそれなりに利口な犬ではあるが、やはりそこは動物。人間みたく生き物の摂理を我慢できるはずもなく。

 

「ゥ~~ン……!」

 

 と定春は力む。

 ブリ、ブリブリブリ!

 

「お゙お゙ッ!? お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」

 

 近藤はジタバタ暴れながら、肥溜めの波に飲み込まれていく。それを顔真っ青にしながら眺める土方、新八、山崎、東城。

 すると、定春の脱糞が合図かのように装置の中が光に包まれる。

 

 新八たちの転送をタバコを吸いながら眺める松平。彼はサングラスをしているから光は大丈夫であるが、隣にいる腎は腕で光を遮りながら、事の成り行きを見守っている。

 そして光が収まれば、装置の中にはウンコが残されているだけだった。

 

「……行っちまったよーだな」

 

 松平はタバコの煙を吐いて呟くと、腎が問いかける。

 

「っで、これからどうするんですか松平様? 本当のことを上層部の方々に報告しますか?」

 

 タバコを吐きながら松平は告げる。

 

「まー、今の状況なら事実を言わんでもいいだろう。部下の我がままに付きやってやるのが良い上司というもんだ。そうすればこっちの我がままにも、あいつらを付き合わせられるしな」

「なるほど」

 

 腎は感心したように言葉を漏らす。すると武装した警察の部隊が研究室内にやって来る。

 

「お怪我はありませんか松平様!」

「ん、まーな」

 

 松平がやって来た部隊の一人に当たり障り無く返事をすると、武装隊員は不思議そうに尋ねる。

 

「一体、何があったんですか? 逃げてきた研究員たちの話では、ここに怪物が襲ってきたとか……」

 

 松平は髪を掻きながら少し間逡巡した後、口を開く。

 

「覆面を被った人間と合体したエイリアンが襲ってきたんだよ」

「はっ?」

 

 

 銀時たちが住む江戸とは違う地球にある町――海鳴市。

 そこに済む小学三年生の高町なのは。少女は、栗色の髪をツインテールにして結ぶリボンをほどきながら、窓から見える夜空を眺めていた。

 すると、夜空に一つの光が零れ落ちるように降る。

 

「あ、流れ星だ。明日、なにか良いことあるかな?」

 

 と笑顔を作りながら、明日の学校に備えてなのはは就寝するのだった。




クリスマスも過ぎていよいよ年末本番ですね。
やっとぱっつぁんたちを海鳴市に送ることができました。
これでやっとなのはも話に絡めることができます。

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